FEデインから始まる転生物語   作:乾燥海藻類

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第14話 漆黒の強襲

城内の反応は大きく分かれたようだ。要するにアシュナードにつくか、俺につくか、ってことだ。

俺には実績がないし、そもそもデインの王子と証明するものがない。20年も経てば顔つきだって変わる。

一応髪色と瞳の色は父親譲りだが、デイン国民を見渡せば同色の人間は大勢いる。

今まで散々デイン軍と戦い続けてきたくせに、今さら何言ってるんだってやつもいると思う。

 

それでも信じてくれる者はいた。正確には俺と一緒にいた団長を信じたってことだけど。元【四駿】のタウロニオ将軍は、団長と同僚で友人だったのだ。

そういえばいたような気もする。あの頃は団長以外の人間とはほとんど接触がなかったからなぁ。

彼はアシュナードの暴政を認められずに、四駿を降ろされたらしい。

 

まあそんなわけで、王城を守るにしてはただでさえ少ない兵力がさらに少なくなった。タウロニオ将軍について投降する者、敗北を察して戦場を離脱する者もいた。

城内がここまで混乱したのは、アシュナードが不在だったからだろう。王城に王がいないってどういうことだよ。

副将のカサタイ将軍も、アシュナードから見放されたことを悟り降伏した。

 

大将を任されたイナ将軍は、このままでは戦えないと判断したのか、混乱に乗じて脱出している。何か『切り札』を用意しているらしかったが、それはカサタイ将軍にも知らされていなかったようだ。

 

「まさか、無血開城とはな」

 

アイクが呆然と呟く。これは俺も予想外だった。徹底抗戦を唱える人間はいると思ったのだ。

だが理由を知って納得した。

軍人は死ぬことも仕事に含まれているし、死を恐れぬ兵もいるだろう。だがそういった者たちでさえ、死には意味を求める。何のために戦って、何のために死ぬのか。

国王であるアシュナードが王都にいないのだ。兵たちは戦う意味が見い出せなかったのだろう。

 

「親父がデイン出身だというのにも、驚いた」

 

タウロニオ将軍と旧交を温めている様子を見れば、さすがのアイクも察したか。

 

「ついでに言えば、エルナさんもデイン人だ。だがおまえとミストはガリアで生まれ、クリミアで育った。血だけで言うならおまえもデイン人だが、実感はないだろ?」

「……そうだな」

「団長もクリミアにいた時間の方が長いとはいえ、祖国に剣を向けるのは色々と思うところがあったんだろうな」

「それはあんたもだろう。ところで、どっちの名で呼べばいいんだ?」

 

俺が王子だと分かっても、アイクの態度は変わらなかった。まあ相手の立場でコロコロ態度を変えるようなやつじゃないとは分かっていたが。

 

「好きに呼べばいい」

「ミトラス、が本当の名前なんだろ? じゃあそっちで呼ぶさ。最初のうちは、言い間違えることもあるかもしれんが」

「ふっ、まあそれもいいさ。では改めてよろしく頼む」

「ああ」

 

俺は苦笑しながら、アイクと握手を交わした。

タウロニオ将軍、そしてカサタイ将軍からは有用な情報が次々と上がってきた。国王アシュナードは(きた)るべきガリアとの決戦に備え、クリミア王都メリオルにいるということ。

王都メリオルには、精鋭部隊を含む約半数のデイン王国軍が無傷で健在だということ。

特にアシュナードが自ら鍛えた精鋭部隊は彼に絶対の忠誠を誓っており、決して裏切ることはないらしい。

 

そんな中、ベグニオンから援軍が訪れた。

軍を率いているのは、ベグニオンの誇る英雄ゼルギウス将軍。

 

「ご無沙汰しております、わが師よ。そして、ミトラス王子」

 

10余年ぶりに再会するゼルの姿は、あの頃と全く変わっていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「中央ではまるで反応がなかったからな。嫌われたのかと思っていたぞ」

 

ゼルが帝国中央軍の総司令官であることはすぐに分かった。会いに行ったが留守だったり、手紙を書いても返事がなかったりと、忙しい総司令官といえども返事を書くくらいの時間はとれるだろうにと落胆していた。

 

「申し訳ありません。本音を言えば、お二方に会うことを恐れておりました」

 

ゼルは存外に落ち着いた声で答えた。

 

「そういえば昔……印付きをどう思うかと訊いたことがあったな。あれはおまえ自身のことだったのか」

「はい。ですがそれは杞憂だったようです。お二方の態度が変わることはありませんでした」

 

印付き……つまりベオクとラグズの混血のことだが、彼らは一定の年齢から成長が緩やかになる。だから同じ場所に留まり続けると間違いなく周囲にばれるらしい。

 

「まあ印付きだろうと何が変わるわけでもないだろうしな」

「そうだな。おまえはおまえだ」

 

団長も俺と同意見のようだ。

 

「だが中央軍の要でもあるおまえが、国元を離れても良いのか? 元老院が良からぬ動きをする可能性もあるだろう」

「問題ありません、師よ。現在元老院の副議長であるガドゥス公が行方不明となっており、彼らも動くに動けない状況になっています」

 

団長の視線がこちらを向く。いや、俺は何もやってませんよ。俺はね。

 

「ゼルの参陣は素直に嬉しい。だが問題がある」

「心得ております。ベグニオンの功績が大きすぎる、という点ですね」

 

そうなのだ。クリミアの奪還は、あくまでエリンシア王女の手で、クリミア軍の手で行わなければならない。

ただでさえ、死んだと思われていた王子の帰還でデイン国内の意見は二分することになった。

 

上層部はアシュナードを支持し、クリミアを完膚なきまでに叩き潰すという好戦派が多い。好戦派というよりは、すでにクリミアの地に領地を持ち、贅沢をしている貴族たちだろう。

正直なところ、俺としてはこういうやつらが戻って来ても、後々問題を起こしそうなので、そのまま敵でいてくれた方がありがたい。

 

「ならば我々は、王都奪還に動く残党軍を警戒して、留守を守ることにしましょう。補給も任せていただきたい」

「そうしてもらえるならありがたい」

 

補給線の確保は重要だからな。そこが安定していると安心して戦える。カサタイ将軍にもそのまま王都を守るように命じたので、勝手が分からないということもないだろう。

こうして王都はカサタイ将軍とゼルに任せて、俺たちはクリミアの王都を目指して出立した。

次なる戦場はデイン=クリミアの国境、オルリベス大橋。

 

そして大橋を目前にして、俺たちに新たな戦力が加わった。

クリミア軍の活躍を知ったガリアの上層部が、エリンシア王女の王都奪還を全面的に支援することを決定したのだ。

またガリア王は手柄がクリミアのものとなるように気遣ってもくれ、ガリアは支援に徹し、合流したのはライの率いる一部隊にとどめていた。

 

そこでライからもたらされた情報は、クリミア軍にとっては厳しい情報だった。

オルリベス大橋を守るのは、最強の【四駿】と名高い漆黒の騎士。

俺たちがクリミアの地を旅立って1年が経とうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大橋を挟んで、対岸にそれぞれの軍が展開している

一応、開戦前に投降を呼びかけてみたが、応じることはなかった。この先はアシュナードに忠誠を誓った将兵ばかりだろう。

 

「敵の大将である漆黒の騎士は出てきてないようですね。代わりに、見覚えのある将がいました」

「ほう。誰だ?」

「あなたは会っていないはずですよ。ベグニオン近海で海賊に扮して襲ってきた一団の将です」

 

セネリオがさして興味もなさそうに答えた。ああ、俺がミストと一緒にエリンシア王女の護衛に回っていた時か。

 

「討ち取れなかったのか?」

「海に飛び込んで逃げたんですよ」

 

なんとまあ。ベグニオンの近海とはいえ、陸地まで泳ぐのは大変だったろうに。そこからデインまで帰るのはさらに大変だっただろう。

なかなか根性のあるやつだな。

 

「確認するが、俺は待機でいいんだな」

「はい。主戦力は我々でなくてはならないので」

 

一応俺もエリンシア王女に雇われたグレイル傭兵団の一員なのだが、今ではデインの王子という肩書きの方が知れ渡ってしまったからな。

しかし今のセネリオは、少し危ういな。

 

「セネリオ、あまり気負うなよ」

「……どういうことですか?」

「大部隊には様々な問題が生じる。傭兵団のような、小回りの利く部隊の延長のような感覚で策を立てていると、思わぬ落とし穴にはまることもある」

「……心の隅に留めておきましょう」

 

気に障った様子も見せず、セネリオはいつも通りの無表情で去って行った。まあ、俺も偉そうに言えるほどの経験があるわけじゃないけどな。

ともあれ、戦闘は始まった。

 

戦闘はクリミア軍の優勢だった。激戦を乗り越えてきた傭兵団、そして天馬騎士団と竜騎士団、キルヴァス兵の飛行部隊も奮戦した。

クリミア軍の優勢が続く中、事件は起きた。

本陣の一画が弾けたのだ。

そこには漆黒の鎧をまとった騎士の姿があった。

 

漆黒の騎士の暴威は、凄まじいの一言に尽きた。たった1人で本陣に奇襲をかけ、一振りの剣をもって次々と兵たちを薙ぎ倒す。

その剣は兜ごと頭を叩き割り、鎧ごと身体を斬り飛ばした。

 

その歩みは一時も止まることはなく、悲鳴と怒号の中を悠々と闊歩する姿は、ある種の英雄のような神々しさすらあった。

そして、血に塗れた剣の切先が、こちらに向いた。

クリミアの象徴、エリンシア王女ではなく、この俺に。

 

「どうやらご指名のようだ」

「いけません王子! ここは私が!」

「控えよタウロニオ将軍。これからアシュナードを討とうとする私が、一騎打ちから逃げては笑いものになろう」

「……ハッ! すぎたことを申しました」

 

なるべく威厳を持って答えたつもりだが、やはり慣れんな。でもこういう言い方の方が、喜ぶんだよなぁ。

漆黒の騎士と向かい合う。無言のまま見つめ合ったが、向こうは動く気配がない。ならば、先手を取らせてもらう。

振り下ろされる一撃を、漆黒の騎士は微動だにせず受け止めた。

 

「――斬鉄でも傷ひとつなしか。ただの鎧ではないな」

「この鎧は女神の祝福を与えられしもの。よって、これに傷を負わせられるのもまた女神の祝福を与えられし武器のみ」

 

なんちゅうチートだ。そんなん太刀打ちできんぞ。鎧だけなら頭部や首狙いでなんとでもなるが……いや、鎧は構造上必ず隙間ができる。そこを狙えばいける……か?

 

「この剣を使われよ」

 

そう言って、漆黒の騎士は手にした剣を投げてよこした。そして、腰に差していたもう1本の剣を抜く。

 

「何のつもりだ」

「貴殿との戦いを楽しみにしていた。まともな武器で、全力を尽くしていただこう」

「ならば、ありがたく受け取ろう」

 

貰えるものは病気以外貰う主義だからな。しかしこの声、顔全てを覆う兜のせいでくぐもって聞こえるが……まさかな。

つか重っ! これ両手剣か。

 

「では仕切り直しだな」

「いざ、参る」

 

漆黒が駆ける。その速度は風の如く。重装兵の鈍重さなど、微塵も感じさせない速さだった。

その一撃を受けると同時に、全身に衝撃が走った。並みの武器ならへし折られていただろう、強烈な一撃。

 

受けに回ってはやられる。俺は二撃目の繋ぎのわずかな隙を狙って突きを放った。だが漆黒の騎士は強引に剣の軌道を変え、その突きを払いのけた。

その衝撃で体勢を崩した俺に、次の一撃が見舞われる。しかし俺は即座に剣を構え直し、その一撃を受け流した。

 

確かに、漆黒の騎士は強い。だが、強すぎはしない。

やはり漆黒の騎士は、あいつじゃない。多少剣技は似ているが、練度が低すぎる。あの頃から修練を欠かさず、修練の鬼のようなあの男が、この程度の強さのわけがない。

数合打ち合って、この剣の扱いにも慣れてきた。

決めさせてもらう!

 

ふたつの影が交差する。俺の剣が漆黒の騎士の腹部を切り裂いた。だが、手に残るのはわずかな違和感。

しかし、鎧を切り裂いた手ごたえはあった。

 

「……お見事。やはり、この状態ではかないませんか」

「負け惜しみか?」

「いえ、純粋な賛辞ですよ。最後に、アシュナード王の鎧もまた、女神に祝福されたもの。努々(ゆめゆめ)その剣を手放すことなかれ」

 

その言葉を最期に、漆黒の騎士は糸の切れたマリオネットのように崩れ去った。そして、地に落ちた漆黒の騎士は光の粒子となって消えた。

漆黒の騎士、敗れる。

この報は、デイン軍の士気を断ち切るのに十分な威力を秘めていた。

 

 

 




ようやく漆黒の騎士登場です。そして退場です。
あの時点でのアイクが勝てたことから、良くて8割、悪けりゃ6割程度の力しか出せないんじゃないかなぁと。
以下、システム的なスキル解説。

斬鉄
重装系に攻撃した時、(技)%で発動。守備力を0にしてダメージ計算を行う。
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