FEデインから始まる転生物語   作:乾燥海藻類

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第15話 忠義の臣

オルリベス大橋での戦いはクリミア軍が快勝した。だというのに、セネリオは浮かない表情だ。まあ一歩間違えばエリンシア王女の命が失われていたのだ。気持ちは分かるが、あれを予測しろというのは無理な話だろう。

大将が単身で本陣に奇襲とか、普通はやらない。

 

しかし朗報もあった。クリミアの遺臣のひとり、ルキノ殿が駆けつけてきたのだ。彼女が言うには、この先のデルプレー城にはさらに多くの遺臣が集っているらしい。

彼らと合流すべく、一軍はデルプレー城へと進軍した。

そこで待っていたのは、エリンシア王女に突きつけられる過酷な現実だった。

デルプレー城は、デイン軍によって包囲されていたのだ。

 

「ジョフレが囮となっています! どうか姫とご一行は、このまま進路を南西へ」

 

何とか包囲が固まる前に脱出して状況を知らせてくれたクリミアの遺臣、フェール伯ユリシーズの進言に、エリンシア王女は顔を青くした。

 

「敵に気取られてしまったようですね。仕方ありません、進路を変更しましょう。別の隠れ家へご案内します」

 

ルキノ殿の非情な言葉に、エリンシア王女は動揺した。仲間を見捨てたくないのだろう。だがルキノ殿やフェール伯は、クリミアの忠臣たちは姫のためならば喜んで命を捨てるでしょう、とエリンシア王女を諭す。

それでも見捨てることはできないと取り乱すエリンシア王女を宥めながら、ルキノ殿は彼女の肩を抱いて、アイクの方へ視線を移した。

 

「アイク将軍、時間がありません。進路を南西へ……」

「断る」

 

アイクはルキノ殿の要請を一刀両断した。

意見の分かれた2人は口論となったが、エリンシア王女の心情を慮ったアイクの言葉に、ルキノ殿が折れる形で決着した。

 

「ですがアイク。この雨で空の戦力は使えません。戦力の低下は免れないでしょう」

「俺がその分、働けばいい」

 

何とも漢らしい、アイクらしい言葉に、セネリオは小さく嘆息した。だがその口元には笑みが浮かんでいたように見える。

俺は前回と同じく、後方での待機だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デルプレー城を包囲するデイン軍の将、リヒトル将軍は歴戦の武人であったが、アイクたちと城の騎士たちと挟撃を受ける形となって敗北した。

城の騎士を束ねていたジョフレ将軍はルキノ殿の弟で、エリンシア王女とは幼い頃からの付き合いであるらしい。

それ故か、彼女に絶対の忠誠を誓っており、彼女の信頼できる部下と言えるだろう。

 

またクリミア軍の勇戦により、ガリア王国もようやく重い腰を上げたとの報告も入ってきた。

鍛え抜かれた獣牙族の戦士たちが、クリミア南端に拡がる険しいマレハウト山岳地帯を踏破し、こちらに向かっているらしい。

俺たちは彼らと合流すべく軍を進めた。

 

無論、そこではデイン軍が待ち構えていた。魔法武器ボルトアクスを巧みに操るデインの将軍は強敵であったが、タニス将軍率いるベグニオン聖天馬騎士団によって討たれた。

ガリア王率いる獣牙族の部隊と、さらにリュシオン王子の要請によって援軍に来たフェニキス王も合流し、クリミア軍は一気に戦力を増した。

 

「カイネギス様、お久しぶりでございます」

「まずは祝辞から述べさせてもらおうか。凱旋おめでとう。エリンシア姫」

 

エリンシア王女とガリア王が再会の挨拶を交わす。

とそこで、何やら慌てた様子のフェニキス王が早急に話し合いたいことがあるとやってきた。

天幕の中に集められた主要メンバーを見渡しながら、フェニキス王が口を開く。

 

「まずはリュシオン、おまえに謝罪したい。リアーネが攫われた。持っていたメダリオンごとな」

「なんですって!?」

「部下の話では、漆黒の鎧を着た大柄の男だったらしい。おそらくはデインの、漆黒の騎士と呼ばれる男だろう」

 

フェニキス王は苦虫を嚙み潰したような顔で零した。

それに反論したのはセネリオだった。

 

「ありえません。漆黒の騎士はオルリベス大橋で斃れたんです」

 

セネリオの視線がこちらを向く。俺は無言で首肯した。だが今思えば、あの時感じた違和感は、肉を斬った感触がなかったことだった。それに、剣にも血はついていなかった。本当に漆黒の騎士は死んだのか?

 

「……サギの姫を奪ってすぐにオルリベス大橋に現れたのでしょう」

 

そう答えたのはタウロニオ将軍だった。

 

「俺はリアーネを奪われて、すぐに飛んできたんだぞ。俺が飛ぶよりも速く漆黒の騎士は移動したというのか?」

「漆黒の騎士は神出鬼没。独自の転移術を持っていると、専らの噂でした」

「……それなら、辻褄は合うが……」

 

フェニキス王は唸るように押し黙った。

呆然とするリュシオン王子、そして団長を見ながら、次に言葉を発したのはガリア王だった。

 

「デイン王アシュナード、奴は20年も昔、国王となる前からメダリオンの邪神を解放する企みをもっておったのだ。しかし、それはグレイルとエルナによって阻まれた」

「邪神というのは、一体どういう存在なんだ? 解放されると、どうなるんだ?」

 

アイクがガリア王に疑問を投げかける。それは皆の代弁だった。

 

「800年前のような天変地異が起きるかもしれん。その時は、テリウス以外の大陸が全て海の底へと沈んだ」

 

そんなものはおとぎ話だとばかり思っていたが、生き証人がいるらしい。ゴルドアの王、デギンハンザーは、女神と他の英雄2人とともに邪神と戦ったとガリア王は語った。

 

続けてフェニキス王が口にした、デギンハンザーの忠告。

『戦火を不用意に広げるな』、『エルランのメダリオンがあるかぎり、大陸全土を巻き込むような戦乱を起こしてはならぬ』とのことから、セネリオはアシュナードの狙いを導き出す。

 

――邪神の解放

 

それが正鵠を得ているのか否か。どちらにせよ、アシュナードは討たねばならない。

決戦の時は近い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都メリオルを目指して進発した俺たちの前に立ちはだかるのは、2つの防衛拠点、ピネル城とナドゥス城だった。

位置的に近いこの2つの城は、どちらかに攻めかかれば、残された城からの援軍により挟撃される恐れもある。

 

そこで、主力の集まるピネル城を本隊が攻め、ナドゥス城はフェニキス軍、キルヴァス軍、ガリア軍のラグズ軍がけん制を行うことになった。

 

「時間稼ぎが目的だが、落とせるようなら落としておくぜ」

 

そう言って、フェニキス王は悠々と飛び立って行った。

本隊もまた、ピネル城を攻めるべく準備を進めていく。

アイクも随分とテキパキと指示を飛ばせるようになっていた。

 

「ようアイク。エリンシア王女の参戦を許可したんだってな」

「……まずかったか?」

 

アイクはそう言ったが、本心からまずいと思っているわけではあるまい。

女だからとか、王女だからとか、そういうことは考えない。本人が戦いたいというのなら、その意思を尊重する。それがアイクの考え方であり、信念なのだろう。

 

「いや、本人がそうしたいというのなら構わんさ」

「あんたならそう言うと思った。俺が守ればいいだけだ。それに護衛の騎士もいるしな」

 

ルキノ殿、ジョフレ将軍、フェール伯、あの3人の忠義に疑いようはないだろう。

 

「あんたはまた後方待機のようだな」

「セネリオにそう言われたからな」

 

俺はそう言って肩をすくめた。まあ俺を支持したデイン兵のほとんどはネヴァサに置いてきたからな。戦力としては微々たるものだ。

 

「だがアシュナードは譲ってもらうぞ。やつだけは俺の手で討たねばならん。俺がデインの王になるために、そして、クリミアとデインが友好国になるためにもな」

「……あんたは凄いな。俺には、王なんて想像もできん。将軍ってだけでも手一杯だからな」

「だが最近はそつなくこなしているようじゃないか。何事も慣れだよ」

「セネリオやティアマトがいるおかげだ。やっぱり親父かあんたがやった方が……」

 

おっとやぶ蛇だったか。話題を変えよう。

 

「アイク、以前にベグニオンで言ってたよな。貴族の家に生まれたから貴族。奴隷の両親から生まれたから奴隷。人の価値が生まれた瞬間に決められているなんて間違っている。そんなわけの分からん決め事がまかり通るこの国が理解できない、と」

「……ああ、言った」

「それを変えようとしたのが、アシュナードだ。力ある者は出身や身分に関係なく取り立て、王宮の騎士にだってなれる。そういう制度を作った」

「あんたは、アシュナードが正しいと言いたいのか!?」

 

アイクは目をカッと見開き、声を荒げた。

 

「そうは言っていない。だが、その制度に希望を見い出した者もいるはずだ」

「……サザが、そう言っていた。アシュナードは、自分たちにとっては悪くない王だった、と」

「アイク、制度や規則を変えるのは簡単ではない。だから、本気で変えたいと思ったのなら、それを作る側になるのが手っ取り早いんだ。村の規則を変えたいなら村長、町なら町長、領地なら領主、そして国なら……」

「……国王か」

 

アイクは納得したように、言葉を絞り出した。

 

「その道は、おまえにも用意されているぞ、アイク。俺が見たところ、エリンシア王女はおまえのことを憎からず思っているようだ。エリンシア王女と結婚して王配となり、クリミアを復興・改革するってのも悪くないと思うぞ」

「……俺が? エリンシアと? ……考えたこともなかった」

 

無骨で鈍感なアイクらしい返事だった。下心や出世欲のある男なら、多少なりとも頭をよぎったはずだが、アイクは想像すらしなかったらしいな。

 

「というかおまえ、エリンシア王女を呼び捨てにしたな」

「ああ。そう呼んで欲しいと言われてな。人前では、姫と呼ぶようにしているが」

 

こいつ……そこまで言われても気づかんのか? 団長も女より剣ってタイプだったが、ここまでじゃなかったぞ。

ガトリーを見習え……いや、あいつもあいつで問題だが。

 

てっきりエリンシア王女はシーダ枠だと思っていたんだが、もしかしたらニーナ枠かもしれん。シーダも故国奪還をマルスに依頼したんだが、1章だけで終わっちゃったからな。そうなると、ハーディン枠はジョフレ将軍か? ハーディンも最初はイケメンの忠義(あつ)き人だったからな。他国人だったからジョフレ将軍とはちょっと立ち位置が違うけど。

 

こうなってくると、アイクにとってのシーダが分からん。ワユとは良い感じに見えるが、お互いに異性というよりは好敵手(ライバル)って感じの認識っぽいし。

とりあえず、意識くらいはさせておくか。

 

「その気があるなら応援するぞ。強敵はジョフレ将軍だな」

「……勘弁してくれ」

 

アイクは何とも言えない表情で、ため息を零した。

 

 

 




アイクほど鈍感なのも珍しいと思う。
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