クリミアに来た俺は傭兵稼業を始めた。
というか身元を明らかにできない俺がやれる仕事なんて
商隊の護衛やら賊退治やらを数年続けて、俺の名も知れ渡ってきた頃、酒場で声をかけられた。
「あんたがミスラか? 凄腕の傭兵らしいな」
「凄腕かどうかは分からないが、ミスラは俺だ」
長剣を提げた男の身体は相当に鍛錬されていた。熟練の剣士だということが窺える。
「仕事を頼みたい」
「内容は?」
「賊退治だが、そいつらの雇った用心棒が凄腕でな。そいつの相手を頼みたい」
「その用心棒はどれくらいの強さなんだ?」
「とてつもなく強い剣士という噂だ」
曖昧だな。しかも噂かよ。このあたりの賊は粗方叩いたはずだが、あいつらはどれだけ叩いても出てくるからなぁ。治世の問題かもしれん。
今は懐にも余裕があるし、不確かな情報で仕事はしたくないな。
「前金で10000。成功報酬で20000。それで良ければ受けよう」
これなら引くだろ。と思ったが……。
「分かった。では前金を渡す。ついて来てくれ」
……面倒なことになったな。
とはいえ、今さら断ることもできん。俺は大人しく男について行った。
街から出て少し歩くと、そこには20人ほどの男たちがいた。
「あまり歓迎されていないようだな」
「本来なら俺たちだけで行う任務だからな。だが念には念を入れておきたい。相手が相手だからな。すぐに出立するぞ」
全員なかなかの手練れに見えるが、よほどその用心棒とやらを警戒しているらしい。ふむ、少し興味が湧いてきたな。
賊はある村を根城にしているらしい。だが、随分と遠いな。もうガリアに入ったんじゃないか?
ようやく見えてきたその村を目前にして、異変を感じた。この尋常ではない気配はなんだ!?
「おい、とまれ!」
「どうした?」
気づいてないのか? どんどん近づいてくる。確実に捕捉されている!
「なにか来るぞ! ヤバい気配だ!」
「……なんだと?」
男はまだ気づいていない。鈍感すぎるだろ!
「先頭のやつ! 警戒しろ! そこまで来てるぞ!」
「なんだと!? 傭兵ふぜいが偉そ――」
言葉はそこで切れた。
「総員戦闘準備!」
男がようやく指示を出す。だが遅い。また1人やられた。
「――チッ!」
前に出る。凄まじい速さだが、追えないことはない。背後からの一撃。だが相手は難なくそれを防いだ。
その時、相手の顔が見えた。
切り揃えた短髪。獰猛な口元。狂気に呑まれたような瞳。
変わり果てた姿ではあるが、間違いない。
「師よ! あなたなのですか!」
「があああぁぁぁっ!!」
力任せに振るわれた剣を受け止める。動揺していたため踏ん張りが効かず、俺は数メートルほど吹き飛ばされた。
あれが師か? いやあれは師だ。俺が見間違うはずがない。
師が賊の用心棒? ないな。俺が騙されていただけだろう。
依頼内容を偽られるのは、たまにあることだ。
依頼人は安く依頼を出したい。だから小細工をする。例えば山賊討伐でも、10人の場合と20人の場合では当然料金が異なる。
バレた場合でも、依頼を出した時点では10人だったと言い張る強者もいる。そういった嘘は横で繋がるもので、その依頼人は次回から苦労することになるだろう。
だが今回の依頼人は金払いが良かった。金ではない、他の理由がありそうだな。
気づけば森に静寂が訪れていた。
俺以外のやつらはやられたようだ。全員それなりの手練れのはずだが、師の前では3分も持たなかったようだ。
師の剣が迫ってくる。
「醜い剣技ですな、師よ。私が憧れた美技など欠片も見えない。今のあなたは、ただ力任せに剣を振るうだけの
「があああぁぁぁっ!!」
攻撃が苛烈さを増していく。本来の師であれば、俺は今頃なます切りにされているだろう。尤も、本来の師であればこんな乱撃など行わないので無意味な仮定ではあるが。ともかく技が荒い。こんな獣の剣では俺は殺せない。
それにしても、何が師を狂わせた? 魔法か? 魔法は分からないことが多いからな。
それとも別のなにか……なにか握っているな。禍々しい気配を感じる。もしや、あれか? ならば、あれを手放せられれば何かが変わるかもしれない。
だが……強い! 受け流しているはずなのに、腕が痺れてきた。理性を失ってなおこの強さか。さすがわが師。
「――あなたっ!?」
――ッ!? 誰だ、女性? 敵意がないから気づかなかった。師の奥方か? そういえば許嫁がいると聞いたことがある……マズい!
「下がれ! 師は狂気に囚われている! 師よ、あなたの敵はこっちだ! チィィ!」
師の剣が女性に向いた。見境を無くしているのか!?
女性も逃げようとはしていない。何を考えている!
くっ、届くか。
「間に合えぇぇっ!!」
雷鳴が轟く。
鮮血が舞った。
記憶持ち転生のメリットは子供の頃から効率的なトレーニングができる点だと思っています。
何が言いたいかというと、主人公は普通に強いです。