「キルロイ、体調は大丈夫か」
「はい。平気です。気分は……あまり良くないですけど」
「まあ、そうだろうな」
王都に近づいたある地点で、クリミア軍とデイン軍の兵士の死体が見つかった。結構な数の兵士が散乱している。鎧から見るにデイン軍の方が多いようだが。
「セネリオ、どう見る?」
「クリミア兵の鎧は近衛のもののようです。王族の誰かが移動中に、デインの攻撃を受けたと推察します」
「まさか……レニング卿?」
セネリオの返答に、ティアマトが焦りを見せる。
「落ち着けティアマト、武に優れるレニング卿は最前線で指揮を執っているはずだ。だとすればそれ以外の――むっ! キルロイ、セネリオ、後ろに下がれ」
前方から現れたのはデインの小隊だった。その中から、隊長らしき男が前に出て、誰何の声を上げる。
「何者だ、貴様ら! こんなところで何をしている!」
「怪しいものではありません。我々は――」
「武器を所持する一団か。全員、武装解除し我らに投降すればよし。抵抗するならば殲滅する!」
「おい、随分と一方的じゃないか!」
噛みついたのはアイクだ。それが隊長には気に喰わなかったらしい。
「おとなしく投降する気はなさそうだな。総員戦闘準備! この一団を殲滅する!」
「くっ、なんて乱暴な……」
「落ち着けティアマト。相手は随分と苛立っているようだ。探しものが見つかっていないのかもな」
「……探しもの? まさか!?」
「まずはこの状況を乗り切ってからだ」
剣を抜きながら、隣のアイクに視線を向ける。
「すまない。ちょっとカッとなった」
「それは別にいい。向こうさんもやる気だったしな。それよりもアイク、以前に話した土台のことを覚えているか?」
「基礎が大事という話か? なぜ今そんな話を?」
「団長は認めたがらないが、おまえは俺と団長が2人がかりで鍛えたんだ。基礎は十分にできている。あとは実戦で学ぶだけだ。軍と戦うのは初めてだろう? やつらは山賊や海賊なんかとは違うぞ。心してかかれ」
俺がそう言うと、アイクの剣を握る手に一層の力が入ったように見えた。
「セネリオとキルロイは後方から援護。護衛は俺がやる。ティアマトとアイクは前衛を頼む」
「分かった」
「あなたならあの程度、鎧袖一触だと思うけど?」
「年寄りが出しゃばって、若者の成長を阻害するわけにもいくまい。危なくなったら出るさ。無用だとは思うがな」
ティアマトはかつてクリミアの王宮騎士だった過去を持つ。この戦争でクリミアの援護をしたいと発言したのも、それが理由だろう。
「では始めよう」
決戦の火蓋が落ちる前、俺はチラリとティアマトに視線を送った。その意を汲み取ってくれたのか、ティアマトはコクンと頷く。
アイクは、腕は確かだが、まだまだ血気盛んな若者だからな。いざという時の補佐は必要だ。
もう少ししたら、将としての経験も積ませるか。
戦闘は問題なく終わった。負傷者もなく、完全勝利と言っていいだろう。
「2回だな」
「……何がだ?」
アイクはピンときていないようだ。
「おまえが死角から狙われた回数だ。ティアマトが上手く補佐してくれたがな」
「……気づかなかった。死角は作らないように動いていたつもりだったが」
「戦場では殺気が紛れやすいからな。それに流れ矢には殺気がないから、そこにも注意した方がいい」
「分かった」
アイクは素直に頷いた。
「では探しものを見つけようか。アイク、セネリオ、キルロイは向こうを。ティアマトはあっち、俺はこっちを探そう。何かあれば声を上げてくれ。何もなくても半刻後に集合だ」
かくして、何かも分からない捜索が始まった。大当たりはラモン王だが、果たして見つかったのは、気絶した碧髪の女性だった。
◇
「あ、おかえりっす。ミスラさん」
砦で俺を出迎えてくれたのはガトリーだった。身元不明の女性を保護した後、アイクたちを砦に帰還させ、俺は単身で王都メリオルへ向かった。
王都の情報がどうしても欲しかったからだ。
「ああ、ただいま。だが団長が歩哨を立てるなんて珍しいな。何かあったか?」
ガトリーが自主的に歩哨に立つなんてありえない。間違いなく団長の指示だろう。
「それが、聞いてくださいよ。アイクたちが連れてきたお嬢さん。なんとクリミアのお姫さまだったんすよ。そんで、デイン兵がやって来るかもしれないってんで俺が立たされてるんす」
ああ、なるほど。やはり彼女がそうだったか。
「道中でデイン兵とか見なかったっすか?」
「麓の方にデインの小隊がいた」
「マジっすか。団長に知らせてこないと!」
ガトリーが慌てて走り出そうとするが、肩に手をかけて制止した。
「慌てるな。ここに向かってきそうだったんでな。処理しておいた」
「……1小隊を1人でっすか。さすがっす」
「じゃあ俺は報告に行く。見張りを続けてくれ」
「了解っす」
ガトリーと別れて、作戦室に行く。
中には団長とティアマト、セネリオがいた。
「ただいま戻りました」
「ああ、早速ですまないが、報告を頼む」
団長に促され、俺は王都で得た情報を語った。
アシュナードは王城を制圧し、そのまま居座っていること。
ラモン国王及び王弟レニング卿は敗死。
一部のデイン兵がエリンシア姫の捜索に動いている。
「こんなところですね。もう少し時間をかけて調べたかったんですが、エリンシア姫と聞いて、あの女性が思い浮かんだもので、どうやら当たりだったようですね」
「ああ、事態は急を要するようだ」
「で、どうします? 傭兵団のことを考えるならデインに姫を差し出すのが一番でしょう。おそらくセネリオが進言したと思いますが、それにティアマトが反発したってところですか?」
「……まるで見てきたように言うものだな」
「つき合いも長いですからね」
セネリオは利で動き、ティアマトは情で動く。ぶつかり合うことの多い2人だが、それでバランスが取れているともいえる。
セネリオはいつも通り無表情、ティアマトはバツが悪そうに目を伏せていた。
「それで、団としての結論は?」
「エリンシア王女の護衛を引き受けた。ガリアまで送り届ける。すまんな、おまえ抜きで決めさせてもらった」
「構いませんよ。なら急いだ方が良いですね。第一陣は俺が蹴散らしてきましたが、帰ってこないとなると第二陣が送られてくるでしょう」
「そうだな。ティアマト、準備にはどれくらいかかる?」
「一刻いただければ」
「よし。セネリオ、アイクたちに伝えてくれ。ミスラは俺と来い。エリンシア王女を紹介する」
2人が慌ただしく動き出す。俺は団長と共に倉庫へと向かった。
「倉庫にエリンシア姫が?」
「ミストたちの手伝いをしている。どうやら庶民的な王女さまのようだ」
「公にはされてない王女ですからね。苦労も多かったでしょう」
倉庫の中ではミストとあの時に助けた女性、エリンシア王女が荷物の整理を行っていた。
「あっ、ミスラさんおかえり。お父さん、荷物は大体まとめ終わったよ」
「ああ。エリンシア姫。うちの参謀を紹介します」
「お初に御意を得まして光栄に存じます。グレイル傭兵団にて参謀を任されております、ミスラと申します。その尊き御心にお留めおき下されば、これに勝る喜びはありません」
膝をつき、
「あ、あの。おやめください。私がお頼みする立場なのですから、あの、そのように畏まる必要はありません」
「そうですか。ではそのように致します」
「え……あ、はい」
「エリンシアさま、気にしなくていいですよ。ミスラさんは時々おかしくなる人だから」
失敬だな。言質を取っただけだ。王族貴族は不敬であるという理由だけで処刑するやつもいるからな。
エリンシア王女の
それにしても、クリミアの再興か。
脳裏に
なるほど、そういう
そして、全員の準備が整った一刻後、グレイル傭兵団はガリア王国へ向けて出発した。
グレイルが団長でティアマトが副長。主人公は参謀です。
アイクが団長見習いでセネリオが参謀見習いですね。