プラハ将軍を退けた俺たちは、本隊と合流すべく南下を始めた。その途中で、ガリア王が派遣したラグズの一団から、アイクたちがゲバル城にいるという報告を受けて、俺たちはそちらに向かった。
「親父ッ! 無事だったか!」
「アイク、エリンシア姫はどうした?」
「王城へ行ったよ。他国者が一斉に押し寄せるわけにはいかないと言われて、俺たちはここで待機している」
「……そうか」
ベオクとラグズの軋轢はまだまだ拭えそうにないか。
「ミスラ、あんたに教わったこと、役に立った」
「ん? ああ、ラグズの呼び方のことか?」
「そうだ。俺は何も知らなかった。彼らのことを……」
「だが今は知りたいと思っているのだろう? それは大事なことだ。彼らともっと話してみるといい」
「ああ、そうしようと思う」
「……ケッ! オレはあんな毛むくじゃらどもと仲良くしたいとは思わないがね」
と、シノンが悪態をつく。まあ半獣と呼ばなくなっただけマシか。
それからしばらく、俺たちはこの砦で待機することになった。
その間にクリミアから逃げてきた商人が訪れ、その一団と行動を共にする契約を結んだ。
そうして待たされる日々を送っている時、事件は起きた。
「ガリア領内だからと油断していたな」
「ええ、完全に囲まれてますね」
雨の日を狙ってくるとは、敵も本気のようだな。
「げ、幻影でなければ、デイン王国軍の一個小隊かな。か、囲まれてます」
キルロイが震える声で現状を報告する。
「ここまで来るってことは決死隊だろうね」
オスカーの言うように、敵の士気は高いだろう。指揮官を狙って撤退させるのは難しそうだ。
「セネリオ、策はあるか?」
「入り口を固め、僕とシノンで遠距離から敵を削ります。そして団長とミスラも遊撃で敵を削って下さい」
「団長を遊撃に使うのか。おまえも偉くなったモンだな」
「使えるものは使う。それが軍師です」
シノンが噛みつくが、策としては悪くない。というか、俺についての追求はなしか? 相変わらずシノンは俺に厳しいな。
「よし。では正面をアイクとガトリー……ガトリーはどこに行った?」
団長に問われてみんなが辺りを見渡すが、ガトリーの姿はない。だが、当の本人は何食わぬ顔でひょっこりと現れた。
「団長! 女の子を拾いました!」
「ガトリー! おまえまた……はぁ」
シノンが頭を抱えてため息を落とした。ガトリーが抱きかかえているのは空色の髪の少女だった。
団長が呆れたようにガトリーに問いかける。
「どこで拾ったんだ?」
「砦の隅っこで震えてたんす。たぶん雨に打たれて寒かったんじゃないかと」
「そうか。ミスト、介抱してやれ」
「わかった!」
「じゃあベッドまで運ぶっすよ」
詰まっていた空気が若干和らいだ気がした。
団長が改めて指示を出す。
戦いが、始まった。
◇
みんなよく戦っている。正面をアイク、ガトリー、オスカーの3人が抑え、裏口をティアマト、ボーレ、ワユが抑えている。
セネリオの魔法が兵の固まった場所を吹き飛ばし、シノンの精密射撃が指揮を執っているらしき兵を射抜いていく。
「ミスラ」
「団長。どうしたんですか」
「森の方から気配を感じる。伏兵かもしれん」
「ふむ。俺が見てきましょうか?」
「いや、俺が行く。ここを頼む」
「了解。あまり遅くならないでくださいよ」
「ああ、深追いはせんよ」
小さく微苦笑して、団長は森の中へ消えて行った。
みんなが奮戦している。状況は悪くないように思えた。
そして、決定的な瞬間が訪れた。
突然、天に轟くような咆哮が響き渡ったのだ。
「は、半獣だ!」
「ガリアの獣兵だ!」
「うわぁぁ、来るな! ば、化け物!」
デイン兵は混乱に陥った。戦いは、終わった。
みんなが安堵を抱く中、ラグズたちの中から2人がこちらに向かってきた。
「救援感謝する。親父……団長はいま席を外しているが、すぐに戻ってくると思う。団長に代わって礼を言う」
「ああ。礼をウけとろう。ガリアの戦士モゥディだ。コっちはレテ。オまえがアイク、か?」
巨漢のラグズが、顔に似合わず優しい目でアイクを見つめる。
「ああ。俺がアイクだ」
「ライは言った。アイクは悪くナいヨそ者だと。モゥディたちは、キっと仲良くナれるだろう」
「そうなれると嬉しい。よろしく頼――」
アイクが握手を交わそうと手を前に出そうとするが、もうひとりのラグズ、レテと紹介された少女がそれを遮った。
「モゥディ、軽々しく気を許すな。こいつらベオクは表と裏の顔、ふたつの顔を使い分けるようだからな」
「レテ!」
「……そう言われても仕方ないかもしれない。ベオクとラグズの歴史は、多少なりとも学んだ。最初から仲良くなれるとは思っていない。少しずつ歩み寄っていけたらと、思う」
アイクにしては良くできた返答だと思う。だがレテという少女には、アイクの気持ちは通じなかった。
「多少だと? ふん、それで知ったようなつもりになっているわけか。我らに隷属を強いたことを、我らは決して忘れない。王がなんとおっしゃろうとも、私はおまえたちを信用しない」
「レテ……」
モゥディが悲しい目でレテを見つめる。どうも対照的な2人だな。さながら穏健派と過激派といったところか。さて、この重くなった空気をどうするか……。
「で? そういう恨み言を聞かせるために来たんですか? ハハッ、半獣の考えそうなことだ」
そういえば空気の読めない……いや、読まないやつが1人いたか。
「貴様ッ! その呼び名を使う者は、我々ガリアの敵だ!」
「ハ、は、半獣!? テき……コいつ……敵!」
「自尊心だけは人間並み。そうでしょう? 毛だらけの醜い半じゅぶっ!」
室内に激突音が響いた。ラグズの2人だけでなく、アイクとミストも呆気にとられている。
「団員の非礼を詫びよう。この通り、謝罪する」
そう言って頭を下げる。セネリオも頭を下げている。具体的に言うと、俺に後頭部を掴まれて床とキスしているところだ。しかし抵抗がないな、気絶したか。
「ウ、む。モゥディ、許す。レテも、イいな?」
「……ああ」
「ミスラ、やりすぎだ。血が……」
床はセネリオの鼻血で紅く染まっていた。加減はしたから鼻は折れていないはずだ。派手に鼻血は出たが、見た目ほど重傷じゃない。血はインパクトがあるからな。興奮した2人を納得させるには必要なことだ。ラグズは血の気が多いと聞いたから通じるか不安ではあったが。
「ミスト、セネリオを頼む」
「う、うん。わかった」
ミストにセネリオを任せ、俺は再びラグズの二人に頭を下げる。
「申し訳ない。言い訳になるかもしれんが、あの子はまだ16でね」
「16!? ベオクは子供を戦場に狩りだすのか!?」
レテが驚いたように声を上げた。寿命の違うラグズは、ベオクとは時間の感覚が異なる。この場はそれを利用させてもらおう。レテも見た目は10代の少女に見えるが、実際は俺よりも年上だろう。
「レテ、ベオクにはベオクの事情がある。シかし、コどもならシかたない、な。あ、レテ、使命をワすれるな」
「ああ、分かっている。王が王宮に傭兵団を招かれた。我らは、おまえたちをガリア王宮に案内するために来たんだ」
ふむ。ようやく事態が進展したか。
団長も戻ってきたようだ。
さて、ガリア王が協力してくれるといいのだが。
◇
「セネリオ、具合はどうだ?」
「……もう大丈夫ですよ」
セネリオは不貞腐れたように顔を逸らした。鼻には包帯もなく、傷もない。我ながら絶妙な力加減だったな。
「ミスト、傭兵団が王宮に呼ばれた。キルロイの手伝いに行ってくれるか?」
「うん、わかった」
ミストがパタパタと駆けて行く。視線をセネリオに戻した。
「おまえにしちゃあ、随分と感情的だったな。そんなにラグズが嫌いか?」
「……見苦しいところを見せました」
上手くかわしたな。もう少し突っ込んでみるか。
「印付きの迫害はラグズの方が激しいらしいからな」
「――ッ!? いつから気づいて……」
「今さ」
「……カマかけですか。趣味の悪い」
いつもなら大抵のことは上手く受け流すセネリオだが、今回ばかりは虚を突かれたようだ。正確に言うなら迫害ではなく存在の否定らしいが、伝聞や書物の知識だから真実は分からん。ただ印付きはベオクとラグズ、どちらからも嫌悪されているのは間違いない。
「他のやつはどうか知らないが、アイクはそんなことでおまえを嫌いにはならないと思うぞ」
「……そんなの、分からないじゃないですか」
「アイクは子供の頃から知っている。そんなやつじゃあない」
「そんなの分からないじゃないですか! あなたに僕の何が分かるというんですか!」
「分からないよ。おまえが俺のことを分からないようにな。他人のことなんて分かりゃあしないさ。俺が言えることは、もっとアイクを信じてやれってことくらいだな」
悔しいが、セネリオにとっては俺もその他大勢の1人にすぎないだろうからな。
「…………」
「傭兵団が王宮に呼ばれた、ってのは聞いてたよな。出発までは寝てろ。どうせ私物なんて数冊の魔導書と多少の着替えくらいだろ」
そう言い残して、俺は救護室を後にした。
これで少しは態度が軟化してくれればいいんだが。ま、アイク次第かな。
漆黒の騎士は来てません。まあ利き腕を失ったことを知ってますからね。
原作の様子から見るに、主目的はグレイルとの一騎打ちで、メダリオンはついでのような気がするんですよね。