王宮へ向かうためにゲバル城を出立した翌日、道中で1頭のペガサスが飛んできた。
「ガリアでペガサスは珍しいな。一応聞くが、ガリア兵か?」
「ガリアにベオクの兵はいない! バカにするな!」
レテが牙を剥いて噛みついてきた。別にバカにしたわけではないんだが。
「コっちにムかってくる。イやなにおいはしない」
モゥディの言うような嫌なにおいは分からんが、敵意は感じないな。
「あれは……」
「知り合いか? アイク」
「ああ。以前、海賊退治の時に助けたやつだ」
「ほう。アイクも隅に置けないな」
「……そんなんじゃない」
天馬に乗った桃色の髪の少女がこちらに降りてくる。
「アイクさん! マーシャです! 約束通り、ご恩返しにきました。仲間に入れてください!」
「仲間に? だがあんたはベグニオンの天馬騎士団にいたと……」
「辞めてきちゃいました!」
転職先も決まってないのに辞めちゃったのか。というかペガサスは返さなくてもいいのか?
「だから、この傭兵団に入れてもらえませんか? お願いします!」
「……親父、構わないか?」
「ああ、天馬騎士が加わるのはありがたい。マーシャといったか、団長のグレイルだ。これからよろしく頼む」
「はい! よろしくお願いしますグレイル団長!」
こうして天馬騎士マーシャが傭兵団に加入した。空からの視点が手に入るのはありがたい。
それから5日ほどかけて、俺たちはガリアの王城に辿り着いた。
◇
王城に到着した俺たちは、ガリア国王カイネギスに謁見した。団長とガリア王は旧友の間柄で、互いに再会を喜び合っていた。
その場で今後のことを話し合ったのだが、結論から言えば、ガリアの助力を得ることは叶わなかった。
ガリアもまだ反ベオク感情が強く、反対する重臣が多いらしい。そこでカイネギス王は、ベグニオンを後ろ盾にすべきだと言った。
確かに宗主国であるベグニオンの国力はこの大陸で突出している。だがベグニオン……正確には元老院は信用できない。
デインに居た頃、嫌というほど彼らの悪評が耳に入ってきたのを覚えている。
だが20年以上も前のことだ。今はマシになっている可能性もある。
グレイル傭兵団の受けた任務、ガリアまでの護衛は無事達成された。そこで依頼は更新され、新たにベグニオンまでの護衛を受けることになった。
こうなったらもう、毒を食らわば皿まで、だな。
ガリアからベグニオンの間は、険しい山脈によって隔たれている。そこで俺たちは海路でベグニオンへ向かうことに決めた。だがガリアには港がないため、船を調達するべく、クリミアの港を目指すことになった。その際に、モゥディとレテ、そしてガリアの戦士、ライが同行してくれるようだ。
その道中でライが提案したのは、カントゥス城に囚われているクリミアの遺臣を救出しようというものだった。
この案に、エリンシア王女は諸手を上げて賛成した。
「だがデイン軍に港を抑えられてもマズい。俺たちの行動が読まれているとも思えないが、時間は無駄にしたくない」
「し、しかしミスラ様。私は――」
「ああ、落ち着いてくださいエリンシア王女。別に反対とは言っていません。団長、単独で動く許可を下さい。先行して港に行き、船の手配をしておきます」
俺の提案に団長はしばし黙考するも、すぐに答えを出した。
「……おまえなら大丈夫か。では頼む」
「了解、では行ってきます」
「ならオレも行こう。船の手配は、オレがいないとちょっと面倒でね」
「そうなのか? ではよろしく頼む」
「あいあい、じゃあしばらくは2人旅だな」
こうして、俺とライは先行して港を目指すことになった。
「なぁ、ミスラさんよ」
「なんだ?」
短い付き合いだが、ライはなかなか話好きのようだ。ベオクに対しても嫌悪感を持っていないように思える。
「あんたもラグズに対して偏見がないよな。ラグズの友人でもいたのか?」
「いや、今まではいなかったな。だが今は2人いる。モゥディとレテがな」
「ふはっ、モゥディはともかく、レテは間違いなくあんたを友人だとは思ってねーよ」
「そりゃ残念だ。レテは美人だからな。お近づきになりたいと思ってたんだが」
「くくっ、アイクも面白いヤツだが、あんたも負けずと面白いな」
そんな他愛もない話を挟みながら、俺たちはクリミア最西の港町、トハに到着した。
「……しかしまあ、めちゃくちゃ怪しそうな風体だな」
「言うなよ。こうでもしなけりゃオレは町には入れねぇからな」
「すまんな。クリミア王がもっとガリアとの友好関係を大々的に広めていればよかったんだが」
「あんたが謝ることでもねーだろ」
ライは気にした様子もなく、フードを目深にかぶったまま町へと入って行った。ライはそのまま一直線に港へ向かうと、そこにいた浅黒い肌の男に歩み寄った。
「ナーシル!」
「ライか。随分と早い到着だな」
ライは懐かしげに
「あなたが私のお客さんかな?」
「グレイル傭兵団のミスラです」
「ああ、おおよそのことは聞いているよ。出立の日取りはいつがいい?」
「本隊が着いたら、すぐに船を出せるようにしておいてほしい」
「随分と急ぐんだね。こんな西の果てまでデイン軍が来るとは思えないけど? それに私の船は、ベグニオン帝国の正式な行商許可を受けている。心配は無用だよ」
「そんなものがデイン軍に通用するとは思えない。あいつらはあなたが思うよりずっと横暴ですよ」
「……ふむ」
納得したのか否か、ナーシルは黙り込んだ。
「分かった。人数は変わらず、かい?」
「いや、何人か増えるかもしれない。食料は多めにお願いします」
「了解だ。すぐに手配しよう」
ナーシルがテキパキと船員たちに指示を出す。
「ミスラさん、悪いがオレはここまでだ」
「一緒に来てくれないのか?」
「ああ、デインのやつらがガリアに入り込んだのが気になる。エリンシア姫だけが目的とは思えない。やつら、本気でガリアに侵攻するつもりかもしれない。王と協議したい」
「そうか、道中ありがとな。助かったよ」
そう言って、右手を差し出す。ガリアに握手という作法はなかったのか、ライは一瞬呆けたものの、すぐに俺の手を握り返してくれた。
船の手配を終え、ライを見送ってから2日後、団長たちがトハに到着した。
「お待ちしていました団長。新顔が増えたようですね」
「ああ、紹介しようか」
「それは後で。まずは出港しましょう」
「随分と急ぐな。何かあったか?」
団長が眉根を寄せる。
「根拠はありません。胸騒ぎがする、としか」
「……そうか。どの船だ?」
「あちらの、先頭の船です」
「わかった。船長を紹介してくれ。アイク! すぐに港を出る。全員をまとめておけ!」
団長がアイクに指示を飛ばす。その後は団長をナーシルに紹介し、すぐさま港を出た。
ベグニオン帝国へと向けて、長い船旅が始まったのだ。
ツイハーク(の出番)は犠牲になったのだ……。
無理矢理組み込めないこともなかったのですが、これから大きな活躍があるわけでもないので、自然な流れを優先しました。