FEデインから始まる転生物語   作:乾燥海藻類

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第09話 海賊戦

船長のナーシルによれば、ベグニオンまでは約2ヵ月の旅程であるらしい。天候に恵まれたこともあり、船は順調に南下を続けた。

密航者という小さなトラブルはあったが、アイクの温情により、そのサザという子は傭兵団で面倒をみることになった。

そして旅程を半分ほど過ぎた頃、船は大陸沿岸に沿って東へと進路を向けた。

 

これから通過する海域はフェニキス王国、そしてキルヴァス王国という、鳥翼族の勢力圏である。

両国とも人間の船に対して海賊行為を行い、【船を持たぬ海賊】として恐れられていた。

 

「そういうわけだ。もうしばらくしたら彼らの支配域に入る。襲撃を警戒しておいてくれ」

 

とナーシルが警句を発する。

 

「空を飛ぶラグズか。剣は届かない……よな」

「アイク坊ちゃんには厳しい相手だろうな。ま、オレさまの達人技の前では無力だろうけどな」

 

シノンがアイクを茶化しながら、弓の弦をビンと弾く。

 

「ヨファも頑張んねぇとな」

「う、うん。ボク、頑張るよ。シノンさん!」

 

ヨファは先の捕虜収容所の戦いで初陣を済ませたらしい。子供は知らないうちに大人になっていくものだな。

そんな話をしていたのがつい先日。鳥翼族の支配域を目前にして、やつらに補足された。

後方の上空では、黒い羽根をもつ鳥翼族、カラスの民がこちらを狙っていた。

やつらを尻目に対策を練っていたその時、船が大きく揺れた。

 

「くそっ、船底かどこか、岩に引っかかったようだ……動かない! すまない、みんな! なんとか切り抜けてくれ!」

 

ナーシルが対処のために駆け出す。

 

「全員武器を取って敵襲に備えろ! ミスラとミストは船倉へ行き、エリンシア姫と船員たちを護れ!」

「了解です。ミスト、行くぞ」

「う、うん」

 

ミストを連れて、エリンシア王女の待機する船倉へと急ぐ。そこでは崩れた荷物を片付けているエリンシア王女の姿があった。

 

「ミスラ様、ミストちゃん、何があったのですか?」

「海賊の襲撃を受けました。団長が対処しているので問題はありませんよ。私たちは万が一の護衛です」

「こう見えても結構戦えるんですよ!」

 

ミストがふんっと胸を張る。ミストもしっかりと団長の血を引いているようで、類まれな剣才があった。とはいえ、アイクのような攻撃的な剣ではなく、守りを主体とした剣術を教えている。それでも団長は戦場には出したくないらしく、後方で杖を振るうことが多い。それも重要な仕事だからな。

しばらくして、喧騒が治まった。

どうやら団長たちの守りを抜ける海賊はいなかったようだ。

 

「外を見てきます。ミスト、エリンシア王女を頼む」

「わかった」

 

甲板に出ると、黒い羽根が散乱していた。

 

「団長」

「ミスラか。海賊は追い払ったが、座礁から抜け出すにはしばらくかかりそうだ」

 

見ればナーシルが青い顔でうんうんと唸っている。事態は深刻のようだ。

……ん?

 

「アイク、どこへ行くつもりだ?」

「じっとしてるのも何だから、何か獲物を探してくる」

 

ああ、肉か。確かに食料はいくらあっても困らない。アイクらしいな。

 

「待てアイク! 勝手に動くな! そちら側には……ッ!?」

 

と、ナーシルがアイクを静止するが、少し遅かった。

森の中から屈強な男たち3人が姿を現す。ゴルドアの民だろう彼らに、アイクが事情を説明するが、彼らはまるで意に介さず、さっさと立ち去れと言うばかりだった。

自然とアイクの口調も強くなる。

 

「さっきから何度も言ってるだろう! 船が座礁して動けない。どうしようもないんだ!」

 

それでも彼らの反応は変わらない。船に戻れ、我々には関係ない。アイクがさらに突っかかるが、彼らの目は冷ややかだった。

 

「警告はした。立ち去らぬというのなら、武力を行使するのみ」

 

男たちの姿が竜へと変わる。アイクが腰の剣に手をかけ、一触即発の空気が流れる。彼らも威嚇するように喉を鳴らしている。戦端が開かれようとした、その時――

 

「やめないか! 一体なにをしている!」

「――ッ!? こ、これは王子」

 

王子……ゴルドアの王子か。外見は少年のようだが、見た目通りの年齢ではないのだろうな。

彼は理知的なラグズだった。さらにベオクにも友好的で、3人のゴルドア兵に命じて、すぐに座礁した船を押し出してくれた。

さらに無償で水や食料まで提供してくれると言った。何か裏があるのではないかと疑ってしまうほどの厚遇だ。

 

「しかし団長。アイクの口調、本格的に矯正した方がいいかもしれません。ベグニオンの皇帝や元老院を相手にやらかしたら、不敬罪で面倒なことになりますよ」

「ううむ。しかしアイクの率直な物言いは長所でもある。現にラグズの者たちはアイクに好感を抱いている」

「ラグズに好かれるってことは、貴族たちには嫌われるってことですよ」

「……そうだな。考えておく」

 

最後は団長が代表して王子に礼を述べた。

あと何故か船にデイン兵の少女がいた。何があった?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デイン兵の少女の名はジルというらしい。

団長が滞在を許可したのなら、俺に否やはない。

団長もデイン出身だからな。思うところがあるのかもしれない。

と思っていたらちょうど姿が見えた。少し話してみるか。

 

「お嬢さん。少しいいかな」

「え? あなたは……?」

「グレイル傭兵団のミスラだ。よろしく頼む」

「ミスラ殿。私はジルといいます。故あってしばらくお世話になります」

「そう固くならなくていい。団長が許可したのなら、一時的とはいえ、キミは俺たちの仲間だ」

「……は、はい」

 

どうも俺の態度に戸惑っているようだ。まあ今までデイン軍とは散々戦ってきたからな。居心地が良いとは言えないだろう。だがこの団に団長の命令を無視して彼女に危害を加えるようなやつはいない。と言ったところで安心はされないだろうがな。

 

「団長が言ったとは思うが、ベグニオンまでの安全は保障しよう。と言いたいが、どうやら穏やかには終わりそうもないがね」

 

視線を後方へと向ける。そこには付かず離れずの距離で飛翔するカラスの姿があった。

 

「鳥の半じゅ……いや、ラグズは敵で、獣のラグズは味方。ラグズ同士でも争うのですね」

「ラグズか。団長に釘を刺されたか?」

「いえ、アイク殿です。半獣という言葉を使ったら、船から叩き出すと言われました」

 

彼女から困惑の感情が伝わってくる。ま、デインの教育を受けて育ったのなら、当然の反応か。いや、むしろ疑問を持つだけ珍しいともいえる。

 

「半獣は人間を無差別に襲う敵。だから駆逐しなければならない。半獣は悪。半獣は敵。半獣は抹殺すべし。デインではそう教えられているらしいな」

「……はい。私はずっとそれが正しいことだと信じていました。ですが今は……少し揺らいでいます」

 

俺のように学ぶ前から下地があるわけでもないのに、思想教育に染まってないのは稀なタイプだ。

 

「ひとつの側面から見ても答えは出てこない。答えがほしいなら、もっと彼らと話し合ってみるべきだ。モゥディ、レテ、どちらも気の良いやつらだ。いきなり襲い掛かってくることはない。俺が保証しよう」

 

俺の保証に意味があるのかは分からないが、気休めにはなるだろう。

彼女はペコリとお辞儀して、船内へと消えて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

甲板に2人の人影が見えた。1人は気の良さそうな恰幅の良い中年男性。もう1人は蒼い甲冑を身にまとった碧髪の少女。先日の捕虜収容所で解放した民兵だ。義によって傭兵団に同行することになった。

 

「やあおふたりさん。うちの団には慣れたかな?」

「あ、こりゃミスラさん。何とかやっちょりますよ。この傭兵団は前にいたとこと違ってピリピリしとらんから落ち着きますわ」

 

チャップさんは気さくに返してくれたが、ネフェニーは無言でペコリとお辞儀するだけだった。寡黙な子だな。恥ずかしがり屋なのかもしれない。

 

「どうです、うちの傭兵団は? 軍の戦い方とは、かなり勝手が違うでしょう?」

「そうですなぁ。前は5人1組で戦っとたんです。槍を渡されるのはええんですが、弓も渡されましてな。しゃあけど、5人おって誰も使えんかったんですわ」

「そりゃあ笑い話にもなりませんね。クリミア軍も押されていて余裕がなかったんでしょう」

 

弓は技術が必要だからな。弩なら素人でもある程度使えるんだが。

 

「隊長さんはいつもピリピリしとりましたからなぁ。じゃけえ、わしらも緊張しっぱなしでしたわ。けどここの団長さんはいつも余裕が見えます。ああしてどっしり構えとってくれりゃあ、わしらも安心ですわ」

「ネフェニーはどうだい? 何か困ったこととかない?」

「……いえ。だいじょうぶ……です」

 

ネフェニーはむっつりとした表情のまま、そう答えた。チャップさんとは対照的だな。

 

「すんませんなぁミスラさん。ネフェニーはなまりを気にしとんじゃ。普通にしとりゃええっていつも言うとんじゃが……」

「チャップさん! 余計なこと言わんといて! あぅ……」

 

図星を突かれたのか、ネフェニーは赤くなって俯いてしまった。

 

「うちの団にはなまりに難癖をつけるようなやつはいないよ。そもそもエリンシア王女の護衛を引き受ける前は、田舎の方に拠点を置いてたからね。俺も小さい畑で野菜を育てたり、牛や馬の世話なんかもやってたんだ」

「……そうなん?」

「だから気にせず、みんなと仲良くしてくれると嬉しい。特にミストは同年代の友達をほしがっているからね。キミが話しかけてくれると喜ぶ」

「……わかった」

 

そんな俺たちのやりとりと、チャップさんは温かい目で見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあレテ、隣いいかい?」

「おまえか……別に嫌ではない」

「果物を持ってきたから一緒に食べよう。海の上ではビタミン……あー、新鮮な果物は貴重だからな。竜鱗族の王子に感謝だ」

 

籠の果実を取って皮をむこうとしたが、横手から現れたレテの手に奪われてしまった。レテは懐から取り出したナイフでスルスルと皮をむいていく。

 

「器用なものだな」

「このくらい、いつもやっている」

「船酔いは大丈夫か? 船は初めてだろう」

「問題ない。揺れる場所では戦い難かったが、それも大体分かった」

「そうか。レテは優れた戦士だな」

「……ふん」

 

素っ気ない態度だが、尻尾がわずかに揺れている。レテは感情が尻尾に現れやすいのだ。

 

「ジルは来たか?」

「ジル……誰だ?」

「デイン兵だ。赤い髪の」

「ああ、あいつか。よく分からないことを言っていたな」

「彼女は今、間違った地図を渡されて樹海を迷っているような状態なんだ。話し相手になってくれると助かる」

「……別にかまわん」

 

レテは鋭い一瞥を与えて、切り分けた果物を口に放り込んだ。

 

「そういえばおまえに言いたいことがあった」

「何かな?」

「おまえ、かなり強いだろ。なのに何故いつもヘラヘラしている? それが気に入らない」

 

ヘラヘラときたか。せめて飄々と、と言ってほしいものだが。

 

「そうだな。例えばモゥディがしかめっ面でいたら話しかけにくいだろう?」

「そんなことはない。モゥディが悩んでいるなら話を聞く。仲間だからな」

「レテはいいやつだな」

「……話を逸らすな!」

 

揶揄われたと思ったのか、レテは剣呑な輝きを双眸に浮かべた。

 

「ベオクは色々と面倒ってことさ。いわゆる処世術というやつだな」

「ベオクはよく分からんな」

「強い獣ほど簡単に牙は剥かない」

「……なるほど。それなら分かる。王が怒ることは滅多にない」

 

レテは懐かしさを含んだような笑みを浮かべた。ガリア王は相当慕われているようだ。

そんな時、外からバタバタと転げるような足音が聞こえてきた。

 

「あ、ミスラさんいた! 大変だよ! ベグニオンの人が来たの!」

 

ミストが慌てた様子でこちらに駆けて来る。その後ろにはエリンシア王女の姿があった。

ベグニオンが来た? ガリア王が知らせたとしても、わざわざ迎えに来るような殊勝な国とは思えないし……。

 

「しかも神使っていう偉い人もいるんだって」

「……そりゃまた」

 

神使……すなわちベグニオンの皇帝だ。皇帝が直々に? なんか面倒ごとの予感がするな。

 

「それでね。ベグニオンの船がカラスの海賊に襲われてて、お父さんたちが助けに行ったの。ミスラさんに船のことは任せるって」

「そうか。じゃあミストはエリンシア王女を連れて船倉へ行ってくれ。レテ、行こう」

「ああ」

 

俺はレテと一緒に甲板へ向かった。

 

 

 




支援会話のようなものでした。
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