日本VS日本   作:もちうさ

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第7話『F-35A(不可視の狙撃)』

 

 

 

 神聖日本王国の敵艦と工兵隊が現れてから2週間。

 

 今日も洋上や空へ睨みを効かせるイージス艦あおば。

 その艦長室では川瀬が本国の国防省及び、統合参謀本部や海軍作戦本部へ提出予定の報告書を書いていた。

 

【今日まで4隻の大型巡洋艦と2隻のミサイル巡洋艦を含む敵艦を多数撃破。敵が建造した洋上プラットフォームに動き無し。引き続き哨戒任務及び国防軍法、武力攻撃事態法に基づく交戦規定(ROE)に従い、制海戦闘を継続する】

 

 RIMPACの帰国中に神聖日本王国の軍艦と会敵したことで勃発した緒戦で艦長と副長の離脱、僚艦の『よこすか』の損失と国の防衛に多大な損害を負ったことを除けば、川瀬らは戦略海軍の連携を活かし、物量にものを言わせる王国に対し有利に戦いを進めていた。

 

 排他的経済水域内という他人の家の庭先に洋上プラットフォームを建造するという常軌を逸する行動に手を出した王国。

 更にあおばを無理矢理制圧すべく、海軍特殊部隊『海軍強襲連隊』まで差し向けるも川瀬らあおばの乗組員らは涼しい顔で返り討ちにしてのけた。

 

 だが、王宮や軍部は事実に蓋をし、報告を握り潰しては日本国と並行世界の破壊な躍起になっている。

 

 因みにその報告内容には写真に収めた敵艦や原潜も込まれている。

 キーロフ級やスラヴァ級を一回り大型化し超重武装を積み込んだ王国の執念とも言える怪物。

 タイフーン級原潜が小さく思えるほどの巨大な鯨。

 そして、世界を地獄の業火に染める洋上プラットフォーム。

 

 プラットフォームの破壊は最終作戦で行うため手を出してはいないが、艦隊決戦至上主義並びに大艦巨砲主義、戦術海軍を地で行く王国ならではの戦闘教義で産声を上げたそれらはアメリカが産み出した神の叡智──イージスシステムと王国の遥か先を行く戦略海軍の前に悉く打ち砕かれている。

 

 ──にもかかわらずだ。

 

 

「…全く、王国の高官には学習能力というものが無いのか?負け続けているのにも関わらず、物量で押し潰すことしか考えられない能無しが指揮棒を振ってりゃ、現場は混乱するに決まってるだろ」

 

 

 川瀬はデスクの上に置かれた敵艦や原潜の写真に溜息をつく。

 

 王国海軍の艦艇や原潜は確かにハッタリは効く。

 事実川瀬らも初見は我が目を疑うほどのスケールと威圧感を放っていた。

 キーロフ級やスラヴァ級、果てはタイフーン型をよくもあそこまで大きくしたものだと感心と狂気すら覚えた。

 

 そしてSpectr(スペクトル)-G1と呼ばれる光学迷彩で姿を消す戦術とその技術力も舌を巻いた。

 

 だが、いざ蓋を開けてみると中身はハッタリで覆い隠した鋼鉄のスクラップだった。

 

 レーダーは旧式。

 船体規模は時代錯誤も甚だしいと思えるほど無駄にデカく。

 艦の装甲に貼られた光学迷彩は姿は消せてもウェーキや陽炎、原子炉の熱で意味をなさず。

 武装は載せ過ぎ。

 動きはノロい。

 艦長ありきの操艦で、独立性の高い武器管制で各部署でいざこざが起き。

 挙げ句は戦術海軍の泥に嵌ったまま、物量で押し潰すことしか能がない有様。

 

 普通なら撃沈させ辛い潜水艦も無駄に大きくしたのが仇となり、無人機との連携でいとも簡単に沈められたことに、もう少し殴り合いがしたかったと思ったくらいだ。

 

 あのカツノリ大佐でさえ、艦を大きくし武装を積み込んでも意味はないと切り捨てているのに。

 あの国は──その大佐が言ったムネオとか言う王様はソ連とロシアの鉄屑を使って国を強くしたかったのか、自滅させたかったのか。

 

 国の貴重な財源でハッタリを効かせただけでは、連中どもが息巻いてる野望は到底実現し得ない。

 

 ──やはり、我が国はアメリカやヨーロッパとの共同戦線を張って大正解だったんだな。

 

 そう思案する川瀬は軍の偵察衛星が捉えた洋上プラットフォームの写真を見やった。

 ──そう。王国海軍の工兵隊による建築を除けば、これまで動きがなかった洋上プラットフォームに遂に弾道ミサイルが搬入されたのだ。

 

 搬入が確認されたのはICBM(大陸間弾道弾)30発とIRBM(中距離弾道弾)50発、そして極超音速ミサイル(3M22ツィルコン)20発。

 そのうちIRBMとツィルコンは洋上プラットフォームのVLSらしき筒に収められ、ICBMは発射サイロへ収められ、その周りを長距離防空用のS-400(SA-21 グラウラー)やS-300(SA-10 グランブル)、短距離防空のパーンツィリS-1やS-2、S-1MにSMで厳重な防空網を張っていた。

 

 正気の沙汰では無い。川瀬はそう思った。

 こちらには何の落ち度も無ければ、神聖日本王国という国さえも知らない。

 ましてや並行世界(パラレルワールド)なんて考えたこともない。

 

 そんな何処の馬の骨なのか分からない国に何故、自分たちの世界が滅ぼされなければならないのか。

 そして、王国は今回の侵略に如何程の軍事費を垂れ流しているのか──

 

 

《陛下の怒りを買った貴様ら蛮族どもへ裁きを下しにね》

 

 

 王国海軍と会敵した時の緒戦。川瀬らへ対してそう切り捨てた分隊の指揮官、フミタカ大佐の言葉がふと、川瀬の脳裏を過ぎる。

 

 

「…下らないな」

 

 

 まるで自分たちは神に選ばれし崇高な民族、貴様らは神に見放された可哀で愚かな蛮族。蛮族には生きる資格も無ければ命の価値も無いから、神の代行で裁きを下しに来てやったとも言わんばかりの言葉に川瀬は言葉一つ一つが放つ異臭に鼻が曲がりそうになる。

 

 ヤツは狂ってやがる。

 緒戦で意気揚々、余裕綽々だがどこか危険な臭いを放つフミタカ大佐の声色。

 そして彼の指揮に右向け右で従う海軍兵らとそれに合わせて動くキーロフ級ベースの化け物──重原子力巡洋艦からも狂気を感じた。

 

 そして僚艦のよこすかを撃沈させたヤツは正に快楽殺人犯と同じオーラを醸し出していた。

 

 

「…まあいい。こちらは仕事をするまでだ」

 

 

 そう考えることにした川瀬の視線の先に見えたのは、一隻の模型──日本国初のイージス駆逐艦である『こんごう』の模型だった。

 

 川瀬にとって『こんごう』は思い出のある艦だ。

 当時士官候補生だった川瀬はCIC所属のミサイル発射員や砲術士として乗艦し、腕を磨いていた。

 その後晴れてイージス艦『あたご』に転属となった彼は実戦デビュー。

 排他的経済水域のシーレーンやNATOの派遣戦力の一員として中東やアジア太平洋へと赴き、その腕を発揮してきた。

 

 そんな自分が今じゃイージス艦の艦長代理として艦と多数の乗組員の命を守ることになるとは、候補生の頃は想像すらしていなかった。

 

 因みに同期で副長代理の田中大尉も川瀬と同じく『こんごう』に乗艦し、艦橋で航海長の教育を受けている。

 

 そんな2人がバディを組んだのが正しく『あおば』だった。

 そして今は艦長代理と副長代理として、艦と乗組員、果ては日本国の防人として最前線に立っている。

 

 そういえば、横須賀の国防軍病院に担ぎ込まれた艦長と副長は元気になっただろうか。

 

 ふと川瀬は当時の緒戦で、鮮血で染まった作業服姿で部下に支えられながらもこの艦を預けた艦長の岩窪大佐が脳裏に浮かんだ。

 

 自分がここまで成長したのも、励ましてくれてきたのも実は艦長のおかげ。

 艦長がいたから自分はここまで来れたのだ。

 その恩返し代わりに作戦が終わったら病院にも顔を出して、見舞い品の一つや二つでも贈っておこうか。

 

 そう思案していた時… 

 

 コンコンコンコン…

 

 艦長室の扉の向こうからノックする音が聞こえてきた。

 

 

「…入れ」

 

 

 川瀬が許可をするとガチャと扉が開き、1人の下士官が入っていた。

 

 

『…艦長代理。今お時間いただいても大丈夫でしょうか?』

「…田口一等軍曹か。時間なら大丈夫だ。何か相談か?」

 

 

 川瀬を尋ねてきたのは田口一等軍曹だ。

 彼はイージス艦『よこすか』の乗組員で、緒戦でフミタカ・イシイ大佐が率いる1個分隊によるミサイル攻撃から生き残った下士官である。

 

 

『艦長代理…一つ、お伺いしてもよろしいでしょうか?』

「ああ」

『艦長代理は……敵を恨んでいますか?』

 

 

 田口の口から発せされた重たい一言。

 だが、彼ほどその言葉が似つかわしい状況を知っている人が少ないのも事実だった。

 

 

『敵は…キーロフ級もどきの敵艦はミサイルの飽和攻撃で戦闘不可に追いやり、我々が脱出してる合間に主砲とツィルコンを撃ち込みました。普通なら降伏を呼びかけ、救出や臨検をするのにも関わらず彼等は……』

 

 

 当時、CICにいた田口の脳裏には当時の惨状が蘇っていた。

 対艦ミサイルによる飽和攻撃、イージスシステムが捌ききれない量のミサイルを浴びせられた『よこすか』の艦内は正に地獄の様用だった。

 

 食い破られた艦首区画から滝のように流れ込む海水。

 敵ミサイルの着弾と対艦ミサイルの誘爆で引きちぎらられ、火を吹く艦体。

 そして血塗られた艦橋や艦内通路の壁や床。

 顔や作業服を鮮血で汚し、雨の雫のように鮮血を流す乗組員たちが上げていた地獄の大合唱。

 

 その中で無事だった田口は他の乗組員らから発せられた総員退艦命令を聞いて、我先にと海へ飛び込んだ。

 その合間も艦からは"死にたくなけりゃ早く逃げろ"という怒号が響き、怪我をした乗組員らを無事だった乗組員が抱え込んだ状態で海へと飛び込み、田口もそんな彼等を救命ボートへ上げつつ1分でも1秒でも早く艦から離れようとした。

 

 ボートにいた田口の視線の先にいたのは尚も鎌首をもたげようとしていた敵艦の姿が。

 そのターゲットは正しく自分たち──

 まだ殺し足りないのか。彼奴らは。

 

 だが、艦から脱出した田口らには、これ以上艦を守る力はなかった。

 

 そして、死神は鎌を振り下ろした。

 目の前でツィルコン極超音速ミサイルと350mmレールキャノンの砲撃を受けて木っ端微塵となり、『よこすか』は原型を留めることなく水底へと散って行った。

 

 彼は沈んでいく『よこすか』へ敬礼をしたのを覚えていた。

 

 その後、『あおば』へ引き上げられ、戦力の一員となった田口は当初は敵である自分たちを害獣のようにあしらい、まるで害獣駆除の如く命を刈り取った敵艦に対する可哀さ、怨恨の念を持っていた。

 

 なにも田口だけではない。

 沈められたよこすかの乗組員らは皆、心中では敵をぶちのめしてやるという雪辱の念を持つようになったのだ。

 

 だが、自分たちは誇りある国防軍人。

 恨みだけで戦うと碌なことにならないことは防衛大学校で耳にタコができるほど聞かされてきた。

 

 でも、艦長は…艦長代理はどう思っているのだろうか。

 自分たちよりは負った被害は少ないものの、艦の頭脳を司る艦長と副長を失ったのだ。

 

 もしかしたら艦長代理も副長代理も敵を恨んでいるのかもしれない──

 その確認のために田口は川瀬の元を尋ねていたのだ。

 

 

「敵を恨んでいるのか、か……一等軍曹。お前はどうなんだ?」

『自分は……自分は当初は敵を恨んでいました。でも、冷静になって考えてみたら、敵も国の命令で派兵されてきています。国や軍の上層部は軍を差し向けるだけで現場の痛みや辛さを知らない。かつての我が国もそうでした。…しかし、艦長代理や副長代理、そして大庭少尉らと共にこの艦で戦うようになって確信したんです。我々は私怨や憎しみで戦っているんじゃない。この国を守るためにいるんだ、と…』

 

 

 田口の覚悟を決めたような表情から発せられた言葉に川瀬はフッと軽く笑みを見せた。

 

 

「…その通りだ。私怨や恨みだけで動く軍隊ほど脆いものは無い。連中どもは我が国やこの世界への恨みだけで侵略してるが、その指示をしたのは国の上層部だ。…そして俺はあの時の聴取で確信したよ。王国の奴等は国の上層部に弄ばれた可哀な連中だとな」

 

 

 川瀬はスラヴァ級ベースの大型フリゲート『マサシゲ・トモチカ』のクルーを相手にした聴取、艦長のカツノリ大佐の独白から王国将校らは王国政府や主流派の掌の上で踊らされていることを確信していた。

 

 

「恨みは確かに力をくれる。だが、それに飲まれると理性のへったくれも無いただの畜生に成り下がってしまう。ならば考えを切り替えて、この国を守ろうと誓った一等軍曹の選択は何一つ間違っていないぞ」

 

 

 田口は川瀬の言葉から自分の考えを肯定してくれたことに目頭を僅かに熱くさせる。

 

 

「…実はな、よこすかの乗組員を対象にカウンセラーによる相談を考えていたんだが、大庭少尉から"彼等はもう乗り越えているので大丈夫ですよ"と聞いて辞めにしてたんだ」

『少尉が?』

「そうだ。ま、今の言葉を聞いてやっと腹落ちできたんだがな」

 

 

 川瀬はニヤッと笑う。

 それは仲間を思い、部下を支えていることの何よりの証明であった。

 

 上官である艦長代理に認められた田口は戦争に巻き込まれて以来、見せていなかった笑顔を見せ、艦長室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから2日後──

 

 

 

 

 

 

 『あおば』のCICには重苦しい空気が支配していた。

 

 その理由がレーダー員からの報告であった。

 

 

「ウインドウ2、通信途絶。最終受信データ確認。後方からの乱気流並びに機体接触による制御不能。墜落です」

 

 

 三沢基地から応援へ来ていたMQ-1Cグレイイーグル(コールサイン:ウインドウ2)が撃墜された。

 大型モニターに映し出されていたのはMQ-1Cのカメラ映像には海洋迷彩が目立つ敵艦載機Su-33Mの巨大なエアインテークと、嘲笑うが如く主翼を振って急上昇する機体を最期に、ザラついた砂嵐へと変わってしまった。

 

 

「…蛮族の無人機を落として、お祝いの最中というわけか」

 

 

 副長代理の田中はそう小さく吐き捨てる。

 

 

「…………愚かな連中だ。戦術長、詳しい墜落要因は分かるか?」

 

 

 艦長席に座る川瀬は感情を排した声で、戦術長へより詳しい要因を訊く。

 

 

「ウインドウ2のカメラ映像から敵機による危険接近、燃料噴射や後方乱気流かと」

「黒海での墜落事件と状況が酷似してるな」

「やることなすこと、とことんロシアに似てるな。…王国の奴等はロシアの犬なんじゃないのか?」

 

 

 ロシア・ウクライナ戦争に於いて、黒海の公海を飛んでいたMQ-9が異常接近してきたSu-27によって動力部を損傷させられ、墜落した事件。

 それと今回の墜落は完全に酷似している。

 

 

「…もう一度映像を見せてくれ」

「…了解」

 

 

 川瀬はもう一度ウインドウ2が散り際に遺した映像を再生させ、敵戦闘機を観察し始める。

 

 

「…こいつか。スホーイ機だが、アレスティングフックがあることから艦載機仕様のSu-33だな」

「主翼や機体に青い星が書いてあるな。奴等の識別マークなのかもしれない」

 

 

 川瀬は映像に映る、無人機に危険接近したSu-33Mから何かを感じ取った。

 日本側を挑発するような、蛮族どもの蝿を叩き落としてやったぞという王国の侮蔑と慢心が滲み出てくるようなものであった。

 

 

「通信士官、敵機の通信は傍受できたか」

「…安心してください。バッチリ捉えていますよ」

 

 

 川瀬は通信士官に敵機の通信を傍受したものを再生してもらう。

 

 

《ガガッ──こちらレイピア2。敵無人機を撃墜した。蛮族の無人機を落としたぞ》

《こちら主制御室(航空管制)。周辺空域に脅威なし。帰投せよ》

 

 

「奴等は分かっていない。無人機を落とせば、自らの位置を証明することをな」

「こりゃあ死亡フラグになるかもな。プラットフォームといい、無人機撃墜といい、王国さんは建てるのが上手いねぇ」

「艦載機ということは周辺に空母がいる証拠だ。レーダー員、レーダーに空母は映ってるか?」

「自艦より方位220。距離26nm(ノーティカルマイル)に敵空母と5隻の護衛艦艇を捉えています」

「つまり艦隊か」

 

 

 既に『あおば』の神の目は50km先にいる敵艦隊──アドミラル・クズネツォフ級重航空巡洋艦ベースの『アドミラル・グロリア級重航空巡洋艦』を旗艦とし、護衛の重原子力巡洋艦と大型フリゲートからなる5隻の艦隊を捕捉していた。

 

 本来なら対空戦闘で露払いとして敵機を落とし、敵艦隊へミサイルをぶち込むのだが、弾薬を温存したい川瀬は戦略海軍の良さを活かすことにした。

 

 

「戦術長、近くを飛行中の味方機はいるか?」

「──います。領海上空を第3航空団のF-35Aが1個小隊で哨戒飛行中です」

「直ちに味方機部隊へデータを転送しろ」

「了解」

 

 

 戦術長はデータを無人機を経由して領海上空にいた4機のF-35Aへ転送した。

 

 

 

 

 

 

 

 領海上空、高度35,000フィート。

 主翼の端から航跡雲(コントレイル)を発しながら雲海を切り裂く4機のステルス戦闘機『F-35A』。

 国防空軍は首都圏防空の要の一つである百里基地に司令部を置き、その隷下として日本国の東北方面の防空を担当する第3航空団第303飛行隊"グリフィス"に所属する4機は『あおば』から無人機を経由して転送されたデータを元に機首を向ける。

 

 4機のうち1番機と2番機の機体のウエポンベイに収められていたのは西側諸国の中距離AAMの標準的存在であるAIM-120D。

 TR-3改修を終えている2機にはそれぞれ6発、合計12発の火力を腹の中に抱え込んでいた。

 

 ウインドウ2が散り際に遺したラストシグナルと自機のEODASが同期。

 同時に情報がタッチスクリーンディスプレイ及びHMDSに表示され、Su-33Mの高度や速度がHMDSに描かれる。

 

 パイロットは操縦桿のミサイル発射ボタンに手を添え──

 

 

「グリフィス1、エンゲージ。FOX3」

「グリフィス2、エンゲージ。FOX3」

 

 

 アクティブレーダー誘導ミサイル発射のサイン──FOX3を告げた後、ウエポンベイの蓋が開き、1発ずつの槍が転がり落ちた。

 解き放たれたミサイルはロケットモーターに点火。マッハ4という超音速で敵機を刈り取るべく、飛翔を開始した。

 

 ミサイル発射の報はデータリンクを通じて川瀬らへも届けられた。

 

 

「第3航空団のミサイル発射を確認」

「洋上から空戦を高みの見物だ」

 

 

 ミサイルが突き進む先、180km先で飛行していたSu-33Mのパイロットは自機のRWR(レーダー警報受信機)がけたたましく悲鳴を上げ始めるまで、不可視の槍に気づくことはなかった。

 

 

『何っ、敵機…ミサイルか!?回避する──』

 

 

 操縦桿を傾けようとした刹那、AMRAAMはSu-33Mへ着弾。

 双発エンジンを吹き飛ばし、その誘爆で機体を木っ端微塵にし、パイロット諸共灰にした。

 

 

「敵フランカーのロストを確認。第3航空団からのデータ照合、整合率99.8%です」

「まず前菜は終わったか」

 

 

 メインディッシュたる敵艦隊の前菜としてSu-33Mを仕留めたことで、川瀬は次の行動を起こす。

 

 

「前菜の次はメインディッシュだ。戦術長、敵空母艦隊へ目標を固定しろ」

「了解。上空の味方機のCAS(近接航空支援)は引き続き要請しますか?」

「…そのつもりだ」

 

 

 CICのメインディスプレイには戦術データリンクのマップ上に赤く点滅する輝点──重航空巡洋艦『アドミラル・グロリア』を旗艦とする1個艦隊が浮かび上がっていた。

 

 川瀬は艦長席から立ち上がり、持っていたボールペンのノック部分で輝点を指差す。

 

 

「…ヤツはここか。田中、上空の無人機は?」

「出撃完了。いつでも攻撃に取り掛かれるぞ」

 

 

 上空では既に三沢や岩国からの増援──MQ-9BとV-247ヴィジラントからなる無人機部隊が眼下に広がる大海原へ睨みを利かせており、その無人機の機体や主翼のハードポイントには凶悪なプレゼント──Mk50短魚雷と新たな兵器、対艦精密誘導爆弾『クイックシンク』を抱えていた。

 

 

「無人機及び、偵察衛星からの画像が届きました。モニターに映します」

 

 

 敵艦隊を捉えていた無人機と偵察衛星のカメラが捉えた敵艦隊の様子が『あおば』に届き、モニターに映し出される。

 

 

「おお、何奴も此奴も図体がデカいな。デカい目標ほど仕留めやすいものはない」

「あぁ、ヤツらは肥え太った豚みたく動きがノロい。機関部に魚雷に当てて行き足を止め、クイックシンクでとどめを刺す」

「豚に真珠ならぬ、豚に魚雷か」

 

 

 田中の言葉を聞いた川瀬は艦長席から立ち上がり、その場に居合わせた乗組員らにこう訊いた。

 

 

「…この中で野菜が苦手なやつはいるか?」

 

 

 と、若手を中心に数人ほどが正直に手を挙げた。

 

 

「分かった。腹が減っているなら今から食わせてやる」

「肉ばっかり食べるのもいいけど、たまには野菜も食べろよ。川瀬(コイツ)のように賢くならないからな」

 

 

 そういうお前は昨日の食堂で皿に添えられてたパセリに苦い顔してただろうが。

 

 田中に対して心中そう突っ込む川瀬は艦長席へ座り、敵艦隊を仕留めることに神経を集中させ──

 

 

「…メインディッシュの時間だ。全無人機へ通達。攻撃を開始しろ。機関部を最優先に潰すんだ」

 

 

 川瀬の冷徹かつ冷静な下令により、上空で待機していたMQ-9BとV-247は『あおば』から転送された目標に向けて、Mk50を一斉に投下。

 

 敵艦隊破壊の序幕は静かに、だが力強く上がった。

 

 

 

***

 

 

 

『聞こえるか!こちら旗艦アドミラル・グロリア!レイピア2、応答せよ!』

『航空管制!友軍機の反応は拾ったか!』

『友軍機の反応、ありません!』

『クソッ、一体何が起きたんだ!』

 

 

 その頃、神聖日本王国海軍は1個艦隊を編成していた旗艦、重航空巡洋艦アドミラル・グロリアの艦橋は騒然としていた。

 

 航空管制は必死に応答を呼びかけるも、相手からの反応は無く。

 レーダー員と見張り員は画面や空と睨めっこ。

 作戦専任将校は赤い電話機を持ち。

 そして艦長は何の予兆もなくこの世から消え去った友軍パイロットにただ震えるだけ。

 

 無理もない。敵無人機の撃墜の旨の報告を聞いてから10分、ものの10分の間に友軍機のシグナルが消えたのだ。

 こちらのレーダーには友軍機の反応のみが映っていたため、一体何故撃墜されたのかが分からなかった。

 

 ──機体の故障か?

 ──バードストライクしたのか?

 

 だが、それならパイロットから報告があるはず。

 ならば理由は一つだけ。

 

 

「見張り員、付近を飛行中の敵機はいたか?」

「いえ、付近を飛行中の敵影は認められませんでした」

「…航空管制、艦載機の他にレーダーに反応はあったか?」

「はっ、艦載機の反応が消失する前、艦載機へ向かう飛翔体を捉えています」

「やはりな…」

 

 

 艦隊司令であり艦長──ノブタカ・イワイ海軍大佐は航空管制の報告を聞き、頭の中で描いていたシナリオのピースが合わさった。

 

 ──そう、彼は敵に落とされたと。

 

 

「副長、戦闘指揮所へレーダー出力をあげるよう命じろ」

「……やはり、敵に落とされたと言うことですね?」

「そうだ。そうでないと辻褄が合わん。戦闘機が急に空中分解することなどあり得ん。だが、問題は落とした相手だ」

「敵艦なのか敵機なのか、ですな?」

 

 

 レイピア2を落としたグリフィス隊は日本国の領海上空からミサイルを発射し、機体もレーダーに捕捉され辛いステルス戦闘機なので発見は困難。

 だからノブタカ大佐は敵艦による艦対空ミサイルによって排除されたと結論付けた。

 

 

「護衛の艦にレーダー出力を上げ、対空警戒を巌にするよう下令せよ」

「了解」

 

 

 だが、彼等は知らなかった。

 レイピア2の撃墜が、まだ艦隊壊滅の序章に過ぎなかったことを──

 

 

「こちら戦闘指揮所!艦隊に接近する魚雷を探知!方位180、距離30km!数15!」

「艦長より戦闘指揮所!対潜戦闘配置!護衛にも伝えろ!」

「了解!」

「航海長!両舷前進最大戦速!魚雷を振り切れ!」

「了解!両舷前進最大戦ぉぉく!」

「旗艦より全艦!デコイを放て!」

「「「「「了解!」」」」」

 

 

 血を求めんとばかりに襲いかかってきたMk50短魚雷は自身から音波を出して跳ね返りを捉えるアクティブ・モードで艦隊へ接近。

 それに対して艦隊はノブタカ大佐の下令で敵魚雷を振り切るべく艦隊配置を変更。大量のデコイも放った。

 そして機関出力を最大にまで上げたことでアドミラル・グロリアの煙突からは黒煙が上がり、護衛の重原子力巡洋艦は原子炉を更に唸らせて排熱を莫大に捨て、大型フリゲートも陽炎を空高く上げながら旗艦を守ろうとする。

 

 だが、魚雷の目標はあくまでも機関部。

 その行動がその後の自らの首を絞め、命を捨てる行動になることに彼等は知る由も無かった。

 

 

「敵魚雷、なおも接近中!距離10km!」

「デコイが効いてないのか!?」

「こうなれば仕方ない。戦闘指揮所、対潜ロケットで魚雷を迎撃せよ!」

「駄目です!対潜ロケットでは射程が短すぎます!」

「背に腹は変えられん!旋回し、射程距離ギリギリで仕留める!敵魚雷の方位は?」

「敵魚雷、方位変わらず!」

「分かった。航海長、面舵一杯!奴等の背後に回り込む!」

「了解、操舵手、面舵一杯!」

「面かぁぁじ一杯!急げェェェェェェ!」

 

 

 艦隊各艦の艦橋や戦闘指揮所では魚雷接近を知らせる警告ブザーが鳴り響く中、艦隊は旗艦の下令により艦隊を旋回。

 その後、艦隊各艦に装備されているRBU-12000対潜ロケット砲による迎撃で逃げることにした。

 

 

「敵艦隊旋回。魚雷到達まで、残り5分です」

「このタイミングで旋回?奴等、何を企んでいる…」

「…多分だが、魚雷を迎撃しようとしてるんじゃないか?」

「魚雷を?川瀬、本当か?」

「RBU-12000。対潜ロケット砲だ。魚雷をロケットで撃ち落とす…奴等がやりそうなことだ」

 

 

 艦長席に座る川瀬は精巧な笑みを浮かべる。

 

 

「いくら魚雷から逃れようが、所詮は図体のデカい的に過ぎない。魚雷をロケットで撃ち落とす戦術も、やり方としたら目を瞑って針に糸を通すようなものだ」

「対潜ロケット砲も射程の短さとジャミングの脆弱性で現代戦ではほとんど役に立たないしな。最新型は知らんが」

「そのようなアンティーク品しか、奴等の手札は無いということだ」

 

 

 メインディスプレイに映るアドミラル・グロリアを旗艦とする敵艦隊の輝点は大きく旋回。

 だが、Mk50もそれに合わせて目標を追尾。

 Mk50が拝命した愛称──バラクーダが狙う目標──敵艦隊の両舷スクリュー及び、機関部へ照準を定める。

 

 

『敵魚雷、なおも追尾中!』

『弾着まであと3分!』

『司令!戦闘指揮所及び、重原子力巡洋艦《アカネ・カミジョウ》より入電。対潜ロケット砲発砲準備完了とのことです!』

『よし、奴等を撹乱する。一時的に陣形を崩し、本艦と《アカネ・カミジョウ》以外は散開せよ!』

『了解!』

『艦長、対潜ロケット砲、発射準備完了です!』

『照準を合わせ次第、順次発射せよ!』

 

 

 艦隊司令の命令によりアドミラル・グロリアとアカネ・カミジョウ以外の重原子力巡洋艦1隻と大型フリゲート3隻は魚雷の囮となるために陣形を崩し、散開しようとする。

 

 その刹那──

 

 ドォォォォォォォン!!

 バッシャャャャャン!!

 

 

『うぐっ!!』

『──っつ!!』

『…ひ、被弾被弾!!』

『クッソ…食らった!!』

 

 

 MQ-9BとV-247から放たれた15発のMk50短魚雷は敵艦隊の撹乱にものともせず、1発たりとも外れることなく1隻の敵艦につき3発が機関部へ一斉に着弾。

 両舷のスクリューを吹き飛ばし、艦体尾部に大穴を開けて機関部へダメージを負わせた。

 水中で起きた着弾時の衝撃は鈍重な艦体を揺らし、海面へと押し上げられたものは白い荒波を立たせる。

 

 

『被弾被弾!敵魚雷、本艦機関部へ着弾しました!』

『各部署は被害を報告せよ!』

『艦長、こちら機関部。敵魚雷着弾により機関部にダメージ!速力10ktまで落ちました!』

『浸水により現在ダメージコントロール中!』

 

 

 Mk50の着弾を受けた艦隊各艦は慌ててダメージコントロールを行うも、3発も一斉に食らった衝撃とダメージは計り知れず、ダメコンが追いついていなかった。

 

 

『クッソ…駄目だ!この区域は閉鎖する!』

『総員退避!』

『溺れ死ぬぞ!急げ急げ!』

 

 

 機関部が魚雷の着弾と浸水により完全に沈黙。

 その上人の肩の高さまで海水が押し寄せてきたことから、各艦の機関室は順次閉鎖されていく。

 

 

『艦長、本艦の機関室から報告。被弾によりスクリュー及び機関室が閉鎖されました』

『艦長、艦隊の被害報告が纏まりました。本艦並びに護衛の重原子力巡洋艦と大型フリゲート全艦に同様の被害が出ているようです』

 

 

 アドミラル・グロリアを旗艦とする艦隊各艦は、旗艦を含め、護衛の重原子力巡洋艦《アカネ・カミジョウ》と《フミオ・ヨコタ》及び、大型フリゲート《イワオ・タグチ》と《サブロウ・エンジョウジ》、《ユウイチロウ・チバ》の全艦がスクリューと機関室に甚大な被害が起きていた。

 

 そのうち《ユウイチロウ・チバ》に限っては出撃1ヶ月前に『統一海軍造船所』で受けた改修の際の突貫工事のツケで機関室の閉鎖が間に合わず海水が押し寄せ、艦内を蝕み続けていた。

 

 

「魚雷全弾の着弾を確認」

「敵艦隊の停止を確認」

「無人機からの映像が届きました。モニターに映します」

 

 

 その頃、無人機と連携して敵艦隊の行く足を止めたイージス艦『あおば』は次なる攻撃へと取り掛かろうとしていた。

 

 

「豚どもが足を止めたな」

「次はクイックシンクか?」

「そうだ。戦術長、上空の友軍機へ攻撃を要請せよ」

「了解。…こちらAlpha(あおば)。友軍機部隊は空爆を開始せよ」

『こちらZuru(第3航空団)。これより空爆を開始する』

「了解。旗艦以外の護衛艦艇に攻撃を集中せよ。今データを送った」

『目標データ確認。攻撃に移行する』

「これよりECMを開始する。Zuru(第3航空団)及び、無人機全部隊は周波数を切り替えろ」

『「了解」』

 

 

 あおばから目標データを受け取った第3航空団第303飛行隊は制空装備の1番と2番機を後方へ置き、対地対艦装備を搭載した3番機と4番機が目標上空へと向かう。

 その2機のF-35AのウエポンベイにはAIM-120Dアムラームを2発ずつ、主翼のハードポイントには対艦精密誘導爆弾『クイックシンク』を6発に加えて護衛用のAIM-9Xサイドワインダーを2発搭載する所謂"ビーストモード"で作戦に臨んでいた。

 

 

「ECM開始まで5…4…3…2…1…今!」

 

 

 あおばから強烈な電磁波が飛び、王国艦のレーダーを無力化させた。

 

 

「艦長代理より友軍機部隊及び無人機全部隊へ。攻撃を開始せよ」

「了解、目標確認。クイックシンク投下」

『グリフィス3、エンゲージ!Bombs away!』

『グリフィス4、交戦。投下!』

 

 

 敵艦隊の上空へ差し掛かろうとしていたMQ-9BとV-247及び、2機のF-35Aはクイックシンクを投下。

 スタンドオフから放たれた誘導爆弾は敵艦隊へ破壊の業火を撒き散らすべく、重力に従って落ちていった。

 

 

 

***

 

 

 

『こちら旗艦アドミラル・グロリア!付近を航行中の友軍艦、応答せよ!』

『応答ありません!』

『艦長より防空管制!レーダー機能不全の原因は何だ?』

『こちら防空管制!恐らく敵艦による妨害電波かと思われます!』

『司令、艦隊各艦より入電。どの艦も対空レーダーや対空索敵レーダー、対艦警戒レーダー及び対艦射撃管制レーダーに反応無しとのことです』

 

 

 次々とあがってくる被害報告にノブタカ大佐は頭を抱える。

 機関をやられ行く足を失った次にレーダーを潰された艦隊は正に泣きっ面に蜂、踏んだり蹴ったりの状態に陥っていた。

 

 

『副長、我が艦はまだ沈まんな?』

『はっ、機関をやられ自律航行はできませんが、旧ソ連譲りの堅牢な船体構造により、機関室のみの閉鎖で間に合っています』

『他の艦はどうだ?』

『護衛の艦も同様です。そのうち大型フリゲート《ユウイチロウ・チバ》は浸水が進み、右舷に10度傾いているようです』

『ここで突貫工事のツケが回ってきたか…クソッ、これでは我が艦隊はただの浮かぶ的ではないか…』

『統一海軍造船所の連中どもは、ムネオ派からの私服を肥やすことしか能が無いようですな』

『付近を航行中の友軍艦に連絡も取れやしない…このままでは袋の鼠だ…』

『艦長、秘匿回線の通信機なら可能です』

『…そうか。では、試してみてくれ』

『了解』

 

 

 副長の案を受け入れたノブタカ大佐は作戦専任将校に秘匿回線を使用する通信機での救援を要請させた。

 

 だが、ノブタカ大佐の第6感は危険を知らせていた。

 

 その証拠にF-35や無人機から放たれたクイックシンクは艦隊を水底へ追いやるべくGPS誘導の下、確実に近づいていた。

 

 

『こちら防空管制!我が艦隊へ接近する飛翔体を確認!方位150、距離5km、数20!』

『こちら見張り!接近している飛翔体を視認!飛翔体は…………っつ!?ば、爆弾!?爆弾です!!』

『旗艦より全艦!対空戦闘用意!』

『こちら戦闘指揮所!妨害電波(ジャミング)によりレーダー使用不能!』

『レーダーに頼るな!目視による自由射撃で仕留めろ!』

『弾幕を張れ!!』

 

 

 だが、旗艦及び各艦の護衛の戦闘指揮所(GKP)が異変を察知した時はもう手遅れだった。

 

 

『総員、衝撃に備え!』

 

 

 高高度から滑空したクイックシンクはアドミラル・グロリアには目もくれず、随伴の護衛艦艇の真下へ正確無比に潜り込み起爆。

 水中爆縮を起こし、爆縮で起きたバブルパルスは排水量35,000トンと24,000トンの艦体を揺さぶり、竜骨をへし折るのには十分な威力だった。

 

 

『か、艦長!ず、随伴艦が…っ』

『何だ……何っ………』

 

 

 副長の言葉と指差した先を双眼鏡で覗いたノブタカ大佐が見た光景は余りにも衝撃的なものだった。

 

 

『か、艦が…真っ二つに…』

 

 

 まるで肉や野菜を包丁で半分に切ったかのように随伴の重原子力巡洋艦と大型フリゲートは竜骨をへし折られたことで艦体が破断。艦首と艦尾を空へ向けながら力無く沈んでいった。

 その様子を見たノブタカは恐怖と戦慄で身体を強張らせ、ガタガタと震えていた。

 

 

「敵艦隊、随伴艦の無力化を確認」

「メインディッシュは終わりだな。まだデカい豚(空母)が生きてるようだけど。前菜、メインと来たら当然デザートもあるよな?」

「あぁ。だがここで弾薬を使うのは勿体無い」

「艦長代理、第3航空団はまだ弾薬に余裕があるとのこと。引き続きCASを要請しましょうか?」

「いや、ここで奴等の意表を突く。田中、着いてこい」

「…俺?」

「田辺少尉。しばらくCIC(ここ)を離れる。指示は任せたぞ」

「了解」

 

 

 川瀬はこの場を元よこすか乗組員の田辺少尉に任せ、怪訝な顔をする田中と共にCICを離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『まだ連絡が取れないのか!』

『ダメです!秘匿回線の通信も非常電話も機能しません!』

『頼む!何処でもいいから助けをくれ!』

 

 

 旗艦アドミラル・グロリアの艦橋は混沌の渦中にいた。

 

 レイピア2の突然の通信途絶(撃墜)。

 Mk50の被弾による機関部の損壊。

 そして対艦精密誘導爆弾によって護衛艦艇が赤子の手を捻るように艦体を破断させられ、抵抗する間もなく沈んでいく様をまざまざと見せつけられたアドミラル・グロリアの艦長以外の乗組員らの精神は確実に追い詰められていた。

 

 そしてその成果は如実に現れ、恐怖が伝播し艦橋全体を渦巻いていた。

 

 作戦専任将校は泡を吹きながら、何処にも通じない赤い非常電話を握りしめては喚き散らし。

 航海長と副長、砲術/ミサイル長は次狙われるのは自分たちだとばかりに恐怖で大声を張り上げ。

 通信機を握りしめていた艦長は戦闘指揮所(GKP)や防空管制と揉める始末。

 

 随伴艦を失い、艦から脱出し救命ボートや臨検用の高速複合艇に乗り合わせていた将兵らのことなどまるで忘れているようだった。

 

 そんな彼等をスコープ越しに見ていたのは──

 

 

「まさか俺もパ(・)テ(・)ィ(・)シ(・)エ(・)になるとは思わなかったぞ」

「メインディッシュのデザート作りに俺1人では人手不足だろ」

 

 

 あおばの艦橋は左右のウイングのうち、左側にいた2人は海軍はSBU(特別警備隊)から借りたM107A1とゲパード GM6 Lynxを携え、スコープのレティクルの十字(クロスヘア)が黒煙の向こうにいる艦長と副長らと重なる。

 黒煙の向こうにいる重航空巡洋艦の艦橋では右往左往する艦長や副長、作戦専任将校や航海長、砲術/ミサイル長の姿が。

 

 田中はヘルメットのインカム越しにボソリと呟く。

 

 

「…あの左で電話機持って喚いてる奴、ひょっとして作戦専任将校か?少なくとも艦長じゃないだろ」

「…ん?あの赤い受話器持って喚いてるデブか?そうかもな。顔までは覚えてらんねぇが、金糸の制服のデザインからそうだろ」

「相変わらずゴテゴテしたデザインだなぁ、ちょっと荒らさせてもらうぜ。…にしても。まさか敵指揮官とそのお仲間を狙撃するとは思わなかったぞ」

「連中はまたミサイルや砲撃で沈めてくると思い込んでいる。まさか自分たちを狙撃してくるとは思わんだろ」

「俺たち2人揃って連続殺人犯の仲間入りだな」

「それが戦争だ。…俺がお山の大将と真隣の子分を狙う。お前はその取り巻きを始末しろ」

「無茶言うなよ。ゲパードは単発なんだぞ。まあ胸に入れば纏めて吹き飛ぶだろうがな」

「あのデブは俺の12.7mmでは貫通しないかもしれん。田中、お前の14.5mmで奴の脂肪を肉片にしろ」

「いや絶対に貫通するだろ」

 

 

 そんな2人を知る由もないアドミラル・グロリアの艦橋では尚も艦長や副長らが泡を吹いている。

 余りにも可哀な光景に田中に至っては「あいつら受話器握ったまま死ぬ気か?」と失笑する有様。

 

 

「風、東から3ノット。…行けるか?」

「誰にもの訊いてんだ。対空戦闘よりかはよっぽど簡単だわ」

 

 

 川瀬は艦長の頭部、田中は作戦専任将校の腹部へレティクルを合わせ──

 

 

「照準合わせ。引き金を合わせるぞ。………5、4、3、2、1…撃て」

 

 

 「撃て」と言う冷徹な指示の刹那、引き金が引かれた。

 M107A1とGM6 Lynxから放たれた12.7mm弾と14.5mm弾は亜音速で洋上を滑り、旗艦アドミラル・グロリアの艦橋にいた目標──艦長のノブタカ大佐と作戦専任将校へ飛翔。

 

 艦橋のガラスをいとも簡単に破り、ノブタカ大佐の頭部と作戦専任将校の腹部を貫通した。

 12.7mm弾を受けたノブタカ大佐の頭部は熟れたスイカの如く破裂。

 脳みそや肉片を撒き散らし、首から上が無い死体だけが残った。

 

 作戦専任将校も腹部に14.5mm弾を受け、肥やしていた肉片を周囲に撒き散らし、被弾した箇所を境に上下半身が引き裂かれた。

 

 

「…か、艦ちょ………っつ!?」

「ヒ、ヒィィィィィィ!!!」

 

 

 その物言わぬ屍を見た副長や航海長らは言葉を失い、悲鳴を上げる。

 中にはショックのあまり失禁する乗組員もいた。

 

 だが、地獄への釜はそんな彼等へも開けられ、副長が川瀬の12.7mm弾が、航海長と砲術/ミサイル長が田中の14.5mm弾により無力化。

 艦の指揮を司る幹部と戦力を一気に亡くしたアドミラル・グロリアの艦橋は恐怖と死臭を撒き散らす屍しか残らなくなったが、川瀬はここでとどめと言わんばかりにCICへ指示を出す。

 

 

「キャンプファイヤーの時間だ。目標敵空母VLS、ミサイル撃て」

 

 

 川瀬の冷徹な指示を受け、CICは戦術長と田辺少尉の指示の下、ミサイルを発射。

 固定された目標──アドミラル・グロリアのスポンソンに設置された3S14 UKSK VLS及び、S-300F(フォールト)艦隊防空ミサイルシステムのリボルバー式VLSへ照準が合わされ、あおばのMk41 VLSからトマホーク BlockⅣが発射。

 

 

「トマホーク飛翔中。到達まで残り30秒」

 

 

 CICによるトマホーク到達までのカウントダウンが進む。

 

 

「……恨むなら自分たちの国を恨め」

 

 

 弾着まで残り5秒を切り、川瀬がインカム越しに呟いた言葉の直後、トマホークは正確無比に目標へ着弾。

 UKSK VLSやS-300Fのリボルバー式VLSを破壊。内蔵されていた各種ミサイルを一斉に誘爆させ、火を纏った残骸がSu-33MやKa-29といった艦載機に飛び散ったことで飛行甲板は瞬く間に焔に包まれる。

 更に格納庫に備蓄されていた各種ミサイルや爆弾、燃料に引火したことで空を焦がさんとばかりに爆炎の花を咲かせた。

 重航空巡洋艦アドミラル・グロリアは火焔と黒煙に包まれながら友軍艦が散って行った水底(墓場)と沈んでいった。

 

 

「目標破壊。敵空母の撃沈を確認」

「わ〜お、期待以上に燃えてくれたな」

 

 

 インカムからCICの報告を聞いた田中はGM6 Lynxのスコープ越しに洋上で爆炎の花を咲かせた敵空母を見て呟く。

 

 

「マッチにしてはえらく豪華だな」

「ライターぶん投げるよりかはマシだろ?」

「1発数億円のマッチか。敵さんも大喜びだろうよ」

 

 

 M107A1からマガジンを外し、スコープのレンズキャップを閉めた川瀬はインカムで戦術長へ残弾を訊く。

 

 

「戦術長、ミサイルの在庫はあとどれぐらいだ?」

「スタンダードが通り20発、トマホークが25発、ESSMが10発、HVPが30発です。あと敵空母は壊滅状態です。生存者は恐らくいないかと」

 

 

 通信ノイズの向こうから戦術長の淀みのない声と共に報告を聞いた川瀬は

 

 

《…こちらイージス艦あおば。敵空母艦隊の壊滅を確認。敵旗艦の指揮機能及び、戦闘能力の完全喪失を確認した。生存者は恐らくいない模様。引き続き哨戒任務に移行する》

 

 

 インカム越しに本国の国防省及び、国防軍統合参謀本部と海軍作戦本部へ向けて打電した。

 

 

「さて、次の狩りに向かうぞ」

「了解、艦長代理どの」

 

 

 川瀬と田中はCICへと戻り、あおばを次なる狩りへと向かわせた。

 

 

 






サブタイトルにF-35と書いてるのに活躍が少なくてすみません…ww


◇今回登場した兵器解説

・Su-33M フランカーD

全長:Su-33と同等
翼幅:Su-33と同等
全高:Su-33と同等
翼面積:Su-33と同等
空虚重量:Su-33と同等
離陸重量:Su-33と同等

エンジン:AL-41F1Sターボファンエンジン
アビオニクス:イルビスE(レーダー)
OPES-27/OLS-35(IRST)

製造元: 国営海軍航空機製造公社
(英名: National Navy Aircraft Manufacturing Corporation 略:NNAMC)

概要:Su-33フランカーDをベースに王国海軍兵器廠傘下の航空機製造会社『国営海軍航空機製造公社』が開発した機体。
機体の設計には手を加えず、ターボファンエンジンとアビオニクスをSu-35Sとものを搭載させた改修形として開発された。


・アドミラル・グロリア級重航空巡洋艦

基準/満載排水量:アドミラル・クズネツォフ級と同等
全長:305m:上に同じ
水線長:281m:上に同じ
水線幅:38m:上に同じ
吃水:11m:上に同じ
飛行甲板:上に同じ
艦載機::Su-33/M・Ka-29・Ka-52D


概要:王国政府がアドミラル・クズネツォフ級を海軍兵器廠でライセンス生産させた軍艦。
旧ソ連やロシア由来の軍艦にしては珍しく艦体や排水量の拡大、光学迷彩の搭載はされていない珍しい軍艦でもある。


◇登場した用語解説

・統一海軍造船所

概要:王国海軍兵器廠傘下の艦艇造船所。
また、既存の艦の整備や改修も行うため、王国全土の複数箇所にドックを保有している。
政府や軍部、上流/特権階級を牛耳る強硬派『ムネオ派』ともな(・)ぁ(・)な(・)ぁ(・)の関係でもある。

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