皆さん、大変お待たせしました。
今日から第3章スタートです。
第26話「国家安全保障会議」
某日、日本国は横須賀にある日本国国防海軍横須賀基地。
日本国国防海軍の司令部である海軍作戦本部が置かれ、多数のイージス艦の母港である他、アメリカ海軍太平洋艦隊に属する第7艦隊の母港でもある。
そこの第3ブリーフィングルームの前にいたのは川瀬海軍大尉と同期の薗田海軍大尉だ。
薗田「あ〜最近ヒマだなぁ…」
川瀬「緊張感のないアラート待機が延々と続いてるからな。今までは頻繁に任務に駆り出されてたが、平和になったらこれだ。海軍作戦本部も例の艦艇が現れなくなったから、これ以上の哨戒任務は必要ないと判断したのもあるしな。」
2人はブリーフィングルームの外にある廊下の反対側の自動販売機で飲み物を買って、壁に寄りかかり、飲みながら談笑していた。
以前まで国籍不明の艦艇ーー神聖日本王国の艦艇の監視のために川瀬たちは排他的経済水域内の哨戒任務につき、敵艦と会敵する度に戦闘を行ってきた。
その極めつきが神聖日本王国の超強硬派閥である「ムネオ派」やクーデター組織「神聖なる自由」のトップであるムネノリが建造を命じた大型潜水巡洋艦「トモノリ・トモチカ」と大型航空巡洋艦を旗艦とする「神聖なる艦隊」との戦闘であった。
ムネノリが企んでいた日本国首都の東京への砲撃を阻止し全艦撃沈せしめた後、その戦闘を最後に神聖日本王国の艦艇は姿を消し、排他的経済水域内の海は平和を取り戻していた。
尤も大型潜水巡洋艦と神聖なる艦隊が壊滅したことで一時的にムネオ派や神聖なる自由が権力を失い、国王であるセイジの影響力が強まったのが要因ではあるが。
だが、余りにも平和過ぎるため、今まで神聖日本王国海軍に対する哨戒任務に駆り出されていたイージス艦「けらま」やイージス戦略ミサイル駆逐艦「はるな」と第1水上打撃群は母港で停泊しっぱなしでクルー達は暇を持て余していた。
通常の防空任務や哨戒任務はそれ以外のイージス艦や空母打撃群が行っているも、平和過ぎる雰囲気での任務に一部の艦艇は甲板で魚を釣っているのでは、との噂まで囁かれている。
薗田「そういえば、久保田海軍大佐が久しぶりに家に帰ってそこで息子夫婦や姪っ子夫婦と会えたらしいな。」
川瀬「36ヶ月も洋上での任務生活が続いていたからな。あの子煩悩な大佐なら、きっと泣いて喜んだんだろうな。」
川瀬「以前の戦闘で戦闘不可になった「おおすみ」も大修理と大改修が終わって進水したし。また配置換えがされるのかもしれないしな。」
以前の神聖日本王国の艦艇との戦闘で大型巡洋艦「ムネチカ・トモチカ」による飽和攻撃で戦闘不可になり、ドックで大修理と大改修が行われてきたイージス艦「おおすみ」は進水し、今はテストが行われている。
川瀬「それに首相からお呼ばれされて国家安全保障会議にも参加したろ。」
薗田「あぁ、あの会議か。戦闘に参加した全員が出向いたんだよな。緊張してたからお前が何言ってたかはほとんど忘れたけど。」
川瀬「確かにあの時のお前、めちゃくちゃ緊張してたな。あの時見てた井上からも突っ込まれてたけど、あれは緊張し過ぎだろ。」
薗田「あがり症なんだから仕方ないだろ。お前はすごいよな。首相の前であんなに飄々と説明できて。首相といえば、この国の主だし国防軍の総司令官でもあるんだぞ、」
川瀬「あがり症とか言いながら『あがってしまいそうな』普段の任務は遂行するんだな。」
薗田「仕事は仕事だよ。」
2人が会話の中に出てきた「国家安全保障会議」という言葉ーー
…そう、つい昨日まで首相官邸直下の国家安全保障局で開かれた「国家安全保障会議」のことである。
そこに川瀬や薗田、井上や久保田らといった戦闘に参加した面々が呼ばれていたのだ。
大和田「え〜それでは、これより国家安全保障会議を開催する。開催に当たり、戦闘に参加した国防海軍の皆も参加してもらった。」
首相の大和田が進行する形で会議がスタート。
補佐官「それでは皆様、今お手元にあります書類をご覧ください。まず1ページ目が今回の国防海軍と国籍不明の大型潜水艦、少数の機動艦隊との交戦記録です。」
進行の補佐を務める首相補佐官の言葉を聞いた閣僚やクルーらは、一斉に書類に目を通す。
「今書類を見ても、全くもって信じられん…」
「まるで映画のワンシーンのようではないか… こんな架空の世界に出てくるような兵器と戦い、我が国は勝ったというのか…」
大和田「諸君、静粛に。では早速だが、戦闘に参加した貴君らから聞いていこう。」
大和田の声にクルー達は一斉に挙手。
その中から選ばれたのは…
大和田「…では、丁度私の真正面にいる彼に聞こう。」
大和田が指名したのは川瀬だった。
川瀬「日本国国防海軍横須賀基地所属の川瀬海軍大尉です。皆さんも既報の通り、今回我が海軍は国籍不明の艦艇や潜水艦、機動艦隊を制圧しこの我が国を防衛しました。」
川瀬「そして、前回の大規模艦隊と今回我々が会敵した敵艦艇にはいくつかの特徴がございます。まずはどの艦艇も今の世界には存在しない排水量であったこと。」
川瀬「…これは我が国を含む現代艦艇では存在せず、第2次世界大戦時の巡洋戦艦や戦艦クラス、現代に存在するとしてもロシア連邦海軍の重航空巡洋艦や重原子力ミサイル巡洋艦に似たものだと推測しております。」
川瀬「そして2つ目は巨大なレールガンを装備し、ミサイルと共に強力な水上打撃能力を持つことです。戦艦とアーセナルシップを掛け合わせたような艦艇は極めて稀有な存在です。尚、近接防空の面ではレーザー、恐らくパルスレーザーを使用しているものと考えております。」
川瀬「…そして、ここからが重要です。敵は自らを『神聖日本王国』だと名乗っておりました。信じてもらえないのは承知の上ですが、この我が国のある世界とは違う世界…即ち並行世界に我が国と同じ規模の国があり、これらの艦艇はそこへ属しているのではないかと…」
川瀬が書類を捲りながら説明していると、閣僚席から手が上がった。
竹内「…一つ質問していいですかな?」
閣僚席にいた竹内財務大臣が挙手し、川瀬へ聞く。
竹内「彼等は自らをそう名乗ったのですね? では、それはどの場面で言っていたのかを教えて頂ければと思います。」
川瀬「最初の戦闘で1隻の敵艦を撃破した後です。CICの通信管制にノイズの乗った通信が流れた際、自らを神聖日本王国だと名乗り、そこで味方のフリゲートのクルーを人質に捕ったと通告してきました。」
竹内「なるほど…」
大和田「汎用フリゲートの皆を人質に捕ったのは国防省の報告書類に書いてあった通りだ。」
竹内「神聖日本王国… まあ名前の通り国王が統治してると思うが… 相手は一体どんな国なんだ?」
大和田「そういえば、まだ諸君らには概要を説明してなかったな。まだ彼の国については機密情報局で精査中だ。国旗と王家の紋章、軍艦旗でなら見せられるがどうだ?」
補佐官「…ええ。神聖日本王国の国旗と軍艦旗を撮影したものはお待ちしたので、それを今から皆様へお見せします。」
補佐官がプロジェクターで国防海軍が撮影した画像を投射。
「なんだこの国旗は…」
「まるで何処かのヨーロッパの州か貴族の紋章ではないか…」
プロジェクターの画像を見た参加者たちからは驚きの声が漏れ始める。
神聖日本王国の国旗や紋章は日本国の日の丸とは全く違い、王冠を被ったライオンや馬が二本足で立つ間には何かのアルファベットが書かれている「ガーター」、その中には4つに分かれた図柄が描かれた盾である「エスカッシャン」があり、その上には兜である「ヘルメット」、その上には長い棒のように見えるが実際は輪っかである「リース」、そして王冠である「クラウン」が描かれている。
王家であるトモチカ王家の紋章も左右を後ろ足で立ち上がったライオンの間に三叉の槍と王冠が描かれてあった。
王国海軍の軍艦旗もネプチューンの三叉の槍を持ち、後ろ足で立ちながら向かい合うライオンが描かれている。
川瀬「…皆さんがご覧になられている通り、敵の艦艇には全てこの旗が掲げられておりました。」
崎山「…神聖日本王国… ということは、彼等も国の主な言語は日本語、ということで?」
続いて挙手した崎山外務大臣が川瀬へ聞く。
川瀬「ええ、全くその通りです。以前の大規模艦隊が現れる前に初めて敵艦のクルーと相対した際も彼等は日本語を話しておりました。」
川瀬「かなり高圧的な態度を取り、言葉の節々にも我々を馬鹿にしているようなところがありましたがね。」
崎山「では、何故その神聖日本王国… が、この我が国へ攻撃を仕掛けて来たのか… 荒唐無稽のような話ではあるが違う世界にも関わらず、どうやって来たのかを調べなければ…」
大和田「それについては問題ない。国防省と国家機密情報局で一応の調査結果を得た。まずは高藤統合参謀本部議長、説明を願います。」
大和田の言葉に日本国国防軍の統合参謀本部議長である「高藤樹」が説明を始める。
高藤「…はい。ではまず国防省での調査結果を報告させていただきます。まず敵艦艇について調査をしたところ、我が国やこの世界では見られない種類の艦艇でありました。あと、彼等の艦艇が現れた地点のソナーを調べましたところ、謎の反応が残っていたのです。付近の深海を航行中だった潜水艦からもソナーに謎の反応があったとの報告もありましたので恐らくは… 彼等は空間移動… テレポーテーションができるのではないかと…」
高藤の口からでた『テレポーテーション』という言葉に会場は騒めく。
高村「て、テレポーテーション? 何かのロボットアニメかSFものなのかね?」
高村内務大臣も彼からの突拍子もない報告に目を丸くする。
大和田「信じられないかもしれないが、彼等が別世界から来たとするならば、その技術があってもおかしくない。では高藤統参議長、説明の続きを。」
高藤「…はい。そして、どの敵艦艇も排水量は20000トンを超えていたこと。国防省での調査では35000トンの主力艦と24000トンのフリゲート、潜水艦に至っては満水排水量が500000トン、小型航空母艦も90000トンございました。」
高藤の口から出た、聞いたこともない排水量の桁に閣僚席から響めきが起きる。
高村「空母はともかく、どれもかつての戦艦大和並み、若しくは大きく超えている…」
竹内「バケモノの中のバケモノですな。」
大和田「諸君、静寂に。高藤統参議長、説明の続きを。」
高藤「はい。そして我が国防海軍と神聖日本王国との水上戦闘は早期警戒衛星や無人偵察機による高高度からの偵察で把握済みであり、戦闘に参加したイージス艦からのも合わせて偵察写真も撮影しております。では、お願いします。」
高藤の言葉でプロジェクターに写し出された神聖日本王国の海軍艦艇。
それを見るや否や、閣僚席からは先ほどのを超える響めきの声が聞こえてきた。
高村「なんだねこの戦艦大和のような軍艦は… これが我が国が対峙してる彼の国の軍艦なのか…」
竹内「空母もアメリカ海軍の原子力空母並みの規模はありそうですぞ。連中は一体、毎年いくら金を注ぎ込んでんだ?」
崎山「第2次世界大戦時の我が国で云う戦艦大和や武蔵、長門のような軍艦が彼等にとっては当たり前のものなんですね…」
偵察衛星や無人偵察機による高高度からの偵察写真、そして戦闘に参加した海軍艦艇から撮影、記録された写真。
そこには神聖なる自由のトップ、ムネノリが差し向けた大型潜水巡洋艦や神聖なる艦隊の姿があり。
艦隊の旗艦と思しき航空母艦は350mはあるであろう全長に飛行甲板の一部が左側の甲板へとせり出たアングルドデッキを採用した大柄な艦体が特徴で、艦橋の脇やスポンソンなど、所々にレールガンやミサイルランチャー、VLSがあるのが確認できる。
そして大型巡洋艦や大型フリゲートーーどれも戦艦や巡洋戦艦に見えるーーも艦首に左右並んで艦載された2基のレールガンやその真ん中に添えられた1基の巨大なレールガン、そして200セルは下らない数のVLSがあり、その姿や雰囲気から奇妙なことにロシア連邦海軍の艦艇に何処となくソックリであることが見て取れる。
そして大型潜水巡洋艦は日本国、いや、この世界の理解の範疇を完全に超えておりーー
まるで某有名戦闘機ゲームに登場した潜水艦よろしくトリマラン式の艦体をしており、左右のセイルに1基ずつのレールガンがあり、角のような艦首にももう1基。
それだけでも十分だと言うのに甲板の一部が大型のレールガンとしても使用可能だったり、こちらも200セルは下らない数のVLS、そして艦体や甲板にも無数のCIWSーーパルスレーザーを用いたTPLSーーがあったりと、バケモノと呼ぶには充分過ぎるくらいの重武装っぷりと規模を誇っている。
ついでに150代目国王だったムネタカが差し向けた漆黒の艦隊の写真も披露されたが、どれも竹内や高村、崎山といった政権閣僚の度肝を抜くものであった。
竹内「…これはおったまげましたな。初めて写真を見たが、これは完全に現代を生きる戦艦だ。」
高村「正に生きる化石、恐竜ですな。」
大和田「あぁ。…かつて我が国や世界が歩んだ時代を彼等は今も進んでいる、ということだな。」
高藤「ええ。あと、イージス艦の通信記録と戦闘記録を調べた所、発射したミサイルや砲弾は全て敵に迎撃されることなく命中。敵からのミサイルもイージスシステムにより、全弾迎撃に成功しております。また、敵側の通信を傍受した結果、明らかに此方に対する恩讐や対決姿勢… 主に「聖罰を処する」という言い回しをしていた他、我々の射撃精度の高さに恐れ慄いている様子もございました。」
高藤「…大規模艦隊が現れた際にありました例のタワーについても報告しますと、何らかのマイクロ波を検知し、また、敵艦との情報共有も出来るものかと推測しております。」
大和田「高藤統合参謀本部議長、報告をありがとう。…では、国家機密情報局からの報告は追って行うとして… では川瀬君、説明の続きを。」
川瀬「はい。そして前回、敵艦のクルーと相対した際、彼等は口々に「国王のご期待に添えるため、貴様らに聖なる裁きを与えに来た。」と言っておりました。つまり、神聖日本王国の国王が何らかの理由により日本国への恩讐を顕にし、艦艇を送ってきたのかと。」
神山「国王が日本国に恨みを持っている? …一体何の恨みを持っているというのだ?我々には全く落ち度がないんだが。」
神山運輸大臣は此方側からすれば、至極真っ当な意見を述べる。
川瀬「もしかしたら、例のタワーも国王の期待に添える為に設置されたのではないかと思います。」
高村「…タワーの建設目的は主に電波塔としての役割が大半。して、その国王のご期待とやらに応えるがためにそれを建てて… 連中は何がしたかったんだ?」
大和田「高藤統合参謀本部議長。すまないが、説明を願います。」
高藤「はっ。例のタワーについては先程述べました通り、マイクロ波を検知し艦艇との情報共有を可能にするものですが、そのタワーの頂上から空へと電流が流れていたのを偵察機で確認しました。」
補佐官「電流? 電波塔でなら、わざわざ電流を流す必要はありませんね。」
高藤「…はい。それで国防省での一往の調査結果では… この我が国を亡くす… 我が国の存在自体を抹消するためのものだと。」
高藤の荒唐無稽、支離滅裂とも受け取れる説明に会議室は一気に騒つく。
大和田「諸君。静粛に、静粛に!」
大和田が口を慎むよう言うも、会議内は騒々しくなるだけだった。
菅原「一向に静かになりませんな、首相。」
首相の女房役である菅原官邸長官が大和田へ話しかける。
大和田「…無理もない。まるで架空映画に出てくるようなことが現実に起きているのだ。今の話を聞く限り、神聖日本王国は我が国やこの世界を余裕で凌駕する科学技術力を持っている。そのような国に我が国はどうやって対抗すればいいのか…」
大和田は騒々しい会議内でも表肘を机の上に乗せ、知恵を絞る。
補佐官「皆さん、静粛に。静粛に。」
補佐官が静かになるよう声をかけて、ようやく会議内は静かになった。
大和田「では、次は今回の戦闘の説明を求む。」
川瀬「はい。その後の戦闘では例の巨大潜水艦と小数の機動艦隊との戦闘を行いました。」
川瀬「イージス艦「けらま」は単艦で敵艦と会敵し戦闘を実施。途中からイージス戦略ミサイル駆逐艦「はるな」や第1水上打撃群による援護もあり、敵巨大潜水艦と敵艦隊の全艦撃沈に成功。再び日本国を危機から救いました。」
高村「敵が東京を焼け野原にしようと画策してたのは本当ですか?」
川瀬「はい。事実です。」
大和田「川瀬君、説明をありがとう。」
大和田「…では、次は大規模艦隊や今回の潜水艦や機動艦隊との戦闘で戦果を上げた第1水上打撃群司令官、久保田海軍大佐へ説明を願おう。」
川瀬に続き、次に指名されたのはーー
久保田「…日本国国防海軍横須賀基地所属、第1水上打撃群司令官の久保田海軍大佐です。今回の大型潜水艦や機動艦隊との戦闘に参加した自分から説明をさせていただきます。」
第1章の漆黒の艦隊、そして第2章でムネノリ率いる神聖なる自由が差し向けた大型潜水巡洋艦と神聖なる艦隊を叩き潰した特殊作戦水上艦部隊「第1水上打撃群」の総司令官「久保田海軍大佐」だ。
久保田「我が第1水上打撃群は既に会敵し戦闘を行っていたイージス艦「けらま」や「はるな」への対空・水上攻撃支援として敵艦艇と戦闘。先程の川瀬君の説明にもありました通り、大型潜水艦と機動艦隊の撃破に成功しております。」
久保田「先程の川瀬君や統参議長の説明、この写真にもあります通り、今回の巨大潜水艦は3回も砲撃を行いました。まず1発目は東京、2発目は「おおなみ」へ。3発目は随伴艦の「よしろ」へと発砲しようとしましたが、我が第1水上打撃群は2発の迎撃に成功し、3発目発砲直前で敵の息の根を止めることにも成功しております。」
崎山「かつての戦艦大和を超えるこの巨大な主砲で我が国東京を焼け野原にしようとしてたのか… そう考えるだけでゾッとする…」
崎山は久保田の説明の内容に、ついブルっと身震いする。
大和田「今回の巨大潜水艦もだが、前回の大規模艦隊へ致命弾を与えたのは最新鋭のイージス艦「おおなみ」だったな。」
久保田「ええ。2回とも敵艦の巨大レールガンのコアに対し電磁レールガンでの艦砲射撃を実施しております。」
高村「2回ともですか? …2度も同じところを破壊されて壊滅している… まあ1度目は何か起きたのか理解しようがないのは分かるが、次も同じところを狙われるとは敵は考えなかったのか?」
神山「…だとすれば、敵は自分たちの軍事力に胡座をかいているか、紛れ当たりだと考えているかですな。」
たまたま隣の席同士であった高村内務大臣と神山運輸大臣はそれぞれ意見を述べる。
大和田「そうなると… 敵は今後、巨大主砲のコアを破壊されぬよう装甲を施すのかもしれんな… いや、それは無いか… この写真にもある通り、かなりのサイズの主砲だ。下手に装甲を施そうとすると今度は排熱の問題が付いて回る。」
菅原「戦艦大和はアメリカ海軍の戦闘機に11発の魚雷と7発以上の航空爆弾で沈んでいるが… 敵は一体何発のミサイルで沈んだのだ?」
大和田「…久保田海軍大佐、今回の敵巨大潜水艦と機動艦隊は何発のミサイルで撃破している?」
久保田「はい。今回の戦闘では我が第1水上打撃群は全ての所属艦合わせて250発、イージス艦「けらま」は108発、イージス戦略ミサイル駆逐艦「はるな」は120発発射しております。また、第1水上打撃群の「おおなみ」と「やまと」では電磁レールガンによる艦砲射撃も実施しております。」
高村「ミサイルと艦砲… 両方の刀で敵を叩き潰した、ということですな?」
大久保「はい。ミサイルの残弾がゼロにならないよう攻撃を行いましたが。あと敵艦を見ていた限りだと、敵は常時陣形を変えずに固まって行動していたように見え、母艦を護ると言った動きは一切見られませんでした。」
神山「…固まって行動していた、ですか?」
大久保「ええ。通常なら対空戦闘や対艦・対潜戦闘の際、陣形を変えるのが当たり前ではありますが。それに加えて敵側の防空能力にも甘さがあると言いましょうか…艦隊防空も個艦防空も劣っているように見え、いや、下手をすれば備わっていないのかもしれません。」
竹内「ミサイルを喰らったら、どんな軍艦も一瞬でパーになるくらい素人の我々でも知ってますぞ。敵側にはそれが無かったと?」
大久保「ええ、川瀬君もどうだ?」
川瀬「そうですね。確かにレールガンによる砲撃能力は我々にとっては脅威ではありました。しかし… ミサイル防衛に関して言うと、大して脅威ではないのかもしれません。艦砲射撃がメインでミサイルがサブ的存在。もしかしたら、彼等の軍艦は戦艦や巡洋戦艦の延長線上のようなもので、戦闘システムもそれぞれバラバラなのかもしれません。」
竹内「…んっ、ん? ば、バラバラとは?」
大和田「つまりイージスシステムやNATOの艦隊防空システムのように全てが纏まっているのではなく、艦砲は艦砲、ミサイルはミサイルとそれぞれレーダーやコンピュータがあり、操る人間も別々で配置されている。と言うことか?」
川瀬「はい。そう考えると彼等には… 神聖日本王国には大艦巨砲主義が生きてる可能性も否定できないと。」
ーー大艦巨砲主義。
21世紀になって久しく聞かない言葉に閣僚たちは驚きと共にまだそんな考えを引き摺ってきたのか、と呆れを通り越して感心してしまう者が数名いた。
竹内「大艦巨砲主義… 随分とアンティークなものが出てきましたな…」
高村「今は21世紀ですぞ。それを敵は大艦巨砲主義を以て我が国へ殴り込んできたと? それもミサイル1発すら迎撃できずに。全く、奴等はいつの時代を生きてるというのだ?」
久保田「しかし、当時と違い今はレールガンです。
たとえ古い思想とはいえ、大口径でかつ、極超音速で飛ぶレールガンの威力は大和の頃とはえらい違いです。それに敵は大小2種類の口径を備えていたので、いくら新開発の装甲を搭載した「おおなみ級」や「やまと級」であっても中破は免れず、下手をすれば大破していた恐れもあります。」
久保田「それに加え、敵側は3度目の正直として戦艦大和や武蔵、長門級の艦艇で艦隊を編成し我が国へ侵攻する恐れも…」
大和田「…あぁ、確かにそれは否めない。しかし、2度に渡る戦闘に限らせてもらうと、敵側はレールガンによる艦砲射撃ではなく、終始ミサイルによる攻撃を続けていたことになる。…高藤統参議長。理由は分かるか?」
高藤「はっ。理由は定かではありませんが、敵側は終始ミサイルによる攻撃を続けました。しかし、我が海軍艦艇が搭載するイージスシステムにより全弾迎撃しておりますが。理由は恐らくですが… 我が日本国を過小評価してたのではないかと…」
竹内「過小評価?」
高藤「ええ、恐らくですが神聖日本王国には日本国が我が王国に敵うわけがないという前提があったことから得意の艦砲射撃ではなくミサイルや戦闘機による攻撃をしたのではないかと…」
ーー
高藤統参議長の推測ーー実はそれが正解だがーーに閣僚たちから深いため息があちこちから聞こえてきた。
高村「…ふぅ。我が国がそこまで舐められていたとは。寧ろ返り討ちにできてせいせいしましたな。」
神山「それに今の言葉を聞く限りでは、敵艦はまるで動く的のようですな。我が国を下に見ていたから得意の艦砲射撃を使わずに下手なミサイル攻撃を仕掛けて迎撃され、逆に我が海軍のミサイル攻撃でアッサリと海の藻屑と化している。…敵側の海軍トップはよほどの阿呆かもしれん。」
高村「加えて敵はイージス艦のことや我が国の海軍戦略のことを教えると驚いていたと言いますからな。もしかしたら敵には戦略、というものがないかもしれん。」
大和田「その可能性もある。国防海軍の川瀬海軍大尉。君はどう思う?」
川瀬「ええ。自分も同感です。彼等の弱点とも言えるでしょう。あとは艦艇自体が大きいせいで機動性が劣っていることも弱点かもしれません。艦艇の排水量が増すとその分機動性は失われます。これは以前の大規模艦隊とも符合する点であり、機動性に勝る我が海軍が撃破できた要因ともいえます。そして、汎用フリゲートのクルーを救出へ向かった際、敵との間で銃撃戦が発生しましたが、それについては実際救出に向かった長瀬海軍少尉からの説明を聞いてください。」
川瀬の言葉で長瀬海軍少尉が説明を始めた。
長瀬「日本国国防海軍横須賀基地所属の長瀬海軍少尉です。今回の汎用フリゲートのクルーを実際に救出に向かった自分から説明させていただきます。」
長瀬「まず、我々のイージス艦「けらま」は敵艦からの通告を聞き、川瀬海軍大尉の指示で彼等が捕らわれている敵艦へと向かいました。」
長瀬「敵艦へ横付けする形で停泊し、我々は自動小銃を手に彼等の救出作戦を実施。敵もそれを察知し自動小銃… 恐らくはロシア製のもののようにも見えましたが、それで我々へ応戦。」
長瀬「…しかし、敵の射撃精度はかなり甘いことが分かりました。射撃精度が甘ければ、味方撃ちや流れ弾の危険性を孕みます。だが、敵はそんなことはお構いなしとばかりに銃弾を発砲。我々は3グループに分かれて敵を制圧し人質の全員救出に成功しております。」
長瀬の報告を聞いた閣僚陣は皆半ば呆れ果てたような表情をし、大和田の近くにいた高村は眉間に皺を寄せながら彼へ向けて一言。
高村「勝手に人の庭先に踏み込んでクルーを人質に捕った挙げ句の果てに東京への砲撃を企図していた… これはかなり厄介で危険な国ですぞ、首相。」
大和田「あぁ。だが、その潜水艦と機動艦隊が壊滅したあと、付近の海域に敵艦艇は確認できていない。小越海軍作戦本部部長、今の時点で排他的経済水域内に不審な艦艇は確認できているか?」
大和田は国防海軍のトップである小越海軍作戦本部部長に聞く。
小越「はっ。今の時点では周辺海域に展開しているイージス艦や空母打撃群、海底のソナー、潜水艦、哨戒機からは神聖日本王国の艦艇や航空機は確認できていない、とのことです。」
と、小越の報告を聞いた大和田は思い出したように、
大和田「…そうだ… 航空機で思い出したが、敵は今回も戦闘機でも攻撃を行おうとしてたんだったな… 高藤統参議長、何度もすまないが説明を。」
高藤「はっ、今回の戦闘でも機動艦隊の旗艦と思しき航空母艦より戦闘機の出撃を確認しております。その敵戦闘機は恐らく我が国の主力戦闘機、F-35と同じ第5世代のもの…写真を見る限りロシア連邦航空宇宙軍のSu-57に似たものと推測しております。」
高藤「イージス艦のレーダーには最大16機、1個中隊の反応がありましたが、全機撃墜に成功しております。」
大和田「前回の大規模艦隊に続き、海と空からの攻撃を防いだってことか。」
菅原「にしても、今回も前回と続き第1水上打撃群が活躍しておりますな。あのイージス艦「おおなみ」と「やまと」 …アメリカ海軍のDDG(X)をベースに開発した甲斐がありましたな。」
大和田「大統領のロナルドが海軍のDDG(X)を是非日本にもと国防長官や海軍長官と一緒に設計概要と図案を見せてくれたくらいだからな。彼等も最初大統領から聞いた時は止めようとしたらしいが、大統領の頑として譲らない姿勢に最終的に折れたらしい。当時我が国でも次世代艦艇の計画を練っていたところだったから、正に渡りに船といった感じで乗ったのだ。」
菅原「正に駆逐艦だけにってことですな。それくらい首相はロナルドと恋仲ですからな、ハッハッハッ。」
大和田「おいおい、それはやめてくれよ…」
官邸長官の菅原が大和田と仲のいいアメリカ合衆国大統領『ロナルド・ジョンソン』との仲良しっぷりをイジると会議内が笑いに包まれ、大和田は恥ずかしそうに照れ笑いする。
大和田とロナルドは公私共々仲が良く、趣味のクルマやミリタリー系の話になると秘書や側近の存在を忘れて延々と長話をするとか。
中でも日米安保が締結されて80年経った際の記念式典で2人は息を合わせてこれからの同盟関係を続けると誓ったくらいである。
その場に居合わせた日米関係者曰く『まるで結婚式のようだった』ようで、2人の仲の良さを物語るエピソードとして今でも首相官邸やホワイトハウスでは度々イジられている。
そんな中、「おおなみ級イージス駆逐艦」と姉妹艦の「やまと級イージス巡洋艦」はアメリカ海軍の次世代艦艇プログラム『DDG(X)』と設計を共有する形で建造。
外観こそ同じものの、それ以外は全て日本国独自で開発(という名の魔改造)がなされており、DDG(X)と比べて全長と全幅が増し、兵装としては前後64セルのVLSにファランクス 20mm CIWS BlockⅠBを25mm化したファランクス 25mm CIWS BlockA0、5インチ電磁レールガン、EMP防空保護システムなどなど…
そして進水した「おおなみ」と「やまと」を初めて目にしたアメリカ海軍の関係者は母国が設計した艦艇をいとも簡単に魔改造せしめた日本国と日本国国防海軍相手にぐうの音も出なかった、というのは国防省や海軍界隈では有名な話。
大和田「…では、今後の海軍としては、イージス艦や空母打撃群による通常の防空哨戒任務を行いつつ、いつ神聖日本王国の軍艦が現れても対処できるよう戦略イージス艦や第1水上打撃群… あぁ、あと空軍との連携も視野に入れよう。無人機を出してもらい、高高度の偵察飛行も行うとしよう。彼の国も今は平和だろうが、いつ情勢が変わるか分からない。」
補佐官「首相。空軍には既にC-2やC-130、C-17向けに『ラピッドドラゴン』も納入しております。有事の際には積極的に活用してみては?あとIAMDに関して、IBCSを海軍や空軍と連携されることに関しても…」
大和田「…あぁ、ラピッドドラゴンもいつでも使えるように準備をするよう空軍に伝えておこう。あと、IAMDのIBCSを海空軍と連携させるのは今からでも可能だ。」
首相補佐官から出た『ラピッドドラゴン』という言葉ーー
『ラピッドドラゴン』とは、C-2やC-130、C-17にC-5Mといった戦略輸送機に空対地巡航ミサイル『AGM-158B JASSM-ER』を積載できるパレットのことである。
これまでの巡航ミサイル発射プラットフォームであったB-52HやB-1B、B-2といった戦略爆撃機よりも多くのJASSM-ERを積載でき、投下手順も通常の空中投下で済むため特段何の訓練も、輸送機にも改造を施すこともなく、コストを抑えて運用可能な代物である。
何よりラピッドドラゴンを積載しても、どれがそれを積載しているのか敵には判別不可能であることから敵国の攻守のバランスを崩すことができ、輸送機が巡航ミサイルプラットフォームとして対地攻撃任務に充てられたら、他の戦闘機や爆撃機などをもっと重大な任務、最前線へ向かわせることも可能。
また、ラピッドドラゴンを投下後は輸送機としての任務にも戻れるため、一見シンプルに見えながらも実に効果的なシステムでもある。
主にアメリカ空軍がロッキード・マーティン社と共に開発し、実戦配備が済んだあとに日本国やNATO諸国といった同盟国にも納入、配備がなされた。
主にJASSM-ERを積載することに主眼が置かれてあるものの、それの対艦型であるLRASMも積載可能であることから対艦任務にも充てられる。
大和田「…では、今後はイージス艦や空母打撃群、無人機による防空哨戒任務や偵察任務を行いつつ、有事の際には第1水上打撃群や戦略イージス艦、空軍に陸軍とも連携して対処しよう。国防軍の警戒序列は5段階中のフェーズ3で留めておく。皆、これでよいな?」
閣僚たち「異議なし!」
大和田「国防軍の皆も、これでよいだろうか?」
高藤「異議なしです。皆はどうだ?」
軍人たち「異議なしです。」
大和田「…よし。では、これをもって国家安全保障会議を終了する。諸君、集まってくれてご苦労だった。」
……………………………
薗田「…って感じで会議は終わったんだよな。」
川瀬「あぁ。それで今は別の艦艇が通常の防空哨戒任務に就いていて、有事の際にアラート待機中である俺たちが出るってことさ。」
薗田「ま、今はとにかくこの平和が続くことを祈ることなんだよな。」
川瀬「理想は俺たちが暇を持て余すくらい平和なことだからな。どこの世界にも嬉々として戦争を吹っかけたい国なんてないだろ。」
川瀬と薗田は壁に寄りかかり飲み物を飲みながら、国家安全保障会議の様子を思い返していた。
皆さん、お久しぶりです。
今日から「日本VS日本」の第3章がいよいよスタートしました。
なお、今回の第3章より各話ごとの文字数を7000〜15000文字にまで増やし、国家紹介で紹介しきれていない兵器や人物についても後書きで書いていきますのでよろしくお願いします。