約半年ぶりの本編更新です。
皆さん、お待たせしてすみませんでしたorz
その頃、並行世界にある神聖日本王国ではーー
首都の東京特別市は王家の一等地に建てられた荘厳な王宮。
そこの王様の執務室にいるのは第151代目の現国王、セイジ・トモチカだ。
セイジ「自分が王位を継承してから2年……神聖なる自由の連中たちにより王国が不安定になった時もあったが、今のところ王国は平和を保ててるな……」
セイジは執務室の窓から見える景色を眺めながら、小さく呟く。
自身の兄にして先代であったムネタカが失脚したことで、当時皇太子だった自分に王位継承のターンが回ってきたセイジ。
穏健でかつ中道右派な彼が王国の舵取りを担うようになってから、王国は物騒な出来事や目立った騒乱などは起きておらず、王族も市民も皆、平穏な日々を過ごしている。
元々温和で柔和な性格とオーラ、雰囲気を併せ持つセイジは王族だけでなく、市民たちからも厚く親しまれてきたことも、王国が今の平和を維持できている何よりの証拠だ。
何せ自分の先代にはとんだ荒くれ坊主が王位に就いていたのだから。
ーーそう。自身の兄であるムネタカだ。
セイジはムネタカの直接の弟として、王宮で生を授かった。
父であり当時の国王だったムネオからはお前は唯一の息子であり、次世代の国王候補なのだから、そのための足掛かりとして高校卒業と同時に皇太子になれ、とも言われた。
そうして言われるがままに自身が皇太子になったのと同じタイミングでムネタカがムネオの跡を継いで第150代目国王へと就任。
戴冠式で頭に王冠を載せた彼の姿を見た瞬間ーー
心がザワついた。
この心のザワつきは一体何だろう……?
よく見たら顔つきも自分と似ているところがある。
仕草もところどころ似ている。
もしやあの彼がーーひょっとすると自分の本当の兄なのではないか。
……と思ったものの、既にムネオによる政策で極秘扱いされていたために、結局解らず仕舞いだった。
そしてその後、ヤケを起こしたムネタカにより並行世界の日本国を滅ぼすために漆黒の艦隊を差し向けてボロ負けに終わったあと、離宮で久しく会った母から遂に、その真相を知ることになる。
実はあなたには実の兄がいるの。
それが今の王様であるムネタカよ、と。
母によると、ムネタカは自分の長男として生まれてからムネオによる指示で極秘で英才教育を受けさせていたのだ。
全ては自分の王位を引き継がせるために。
初代から続いてきた血脈を濃く受け継いでいるムネタカへ、政治のイロハを叩き込んでいたのだ。
そして弟であるセイジが生まれた時もムネタカとは別に育てろ、奴に俺の愛すべき息子に逢わせるな、と口を挟んできた。
当然母であり妃であった彼女も反論した。
ムネタカもセイジも、私にとってはかけがえのない大事な息子。
長男であるムネタカに王位を継がせたいというあなたの意思は尊重できるけど、共に育てた方がこの王国の為でもあり、今後この王国がどうなっても兄弟で協力し合って乗り越えられるんじゃないかしら、と。
だがムネオは、んなもん知るかとばかりにシラを切り、生まれたばかりのセイジとの間に壁を築いた。
自分にはお前は俺の唯一の息子であり、そんなお前に俺の王位を継がせたいなんて言いつつ、その裏ではその自分を貶めるどころか、会ったことのない兄に王位を継がせようとしていたという事実。
聞いた瞬間、心が燻った。
幼い頃にかけてくれたあの言葉はウソ、ということになり、知らず知らずのうちに兄弟の間に深い溝と確執を生んだ父に対し、怒りよりも疑問が泉の如く湧き出てきた。
一体何のために俺を皇太子に即位させたんだ? あのおっさんは……
だが、それを知ろうとする前に既にムネオは天国へ旅立っている。
兄弟の確執を生んだ理由と、ムネオ派という王国の多数派にして超強硬派閥を生んだ理由を無事に墓石まで持って行ったのだ。
ま、なんだかんだ言って父がいなければ自分は生まれなかったのだから、そこは感謝してるし、色々な面で興味深い、面白い人だったからな……
そうして紆余曲折ありつつも、こうして無事に王位を継承し、今日も仕事が出来ている。
セイジは窓から見える中庭を眺めつつ、脳裏に残る記憶を回想してると……
コンコンコンコン……
「王様? 王様? 入室しても宜しいですか? 」
執務室の外からドアをノックする音と共に、聞き馴染みのある声が聞こえてきた。
セイジは当然この声の持ち主を知っているため、入室許可を与える。
セイジ「ナカサワか。宜しい、入って参れ。」
セイジは即答で入室許可を与える。
そしてガチャと遠慮げに入ってきたのは……
自身の最側近である、シュント・ナカサワだった。
ムネオの代から国王の側で補佐を務め、数々いる補佐たちを纏める最側近という重い責務を持つナカサワ。
彼もまた、ムネオに声をかけられ最側近への道を歩み始めた御仁なのだ。
そして、ナカサワがセイジの執務室へと入ってきた理由を話す。
ナカサワ「王様。以前、王様ご自身が直接建造を命じられた次世代艦艇の件でお伝えしたいことがございまして………」
セイジ「あぁ、あの話か。それが、どうかしたのか?」
ナカサワ「えぇ、それが……多少の設計変更がなされる旨をお伝えに参りました。」
セイジ「…設計変更?」
ナカサワ「はい。なんでも、今の技術や新たな技術を組み合わせば、今の想定よりももっと少ない排水量で建造が可能…とのことでして…」
ナカサワが報告したのは、自分の目の前にいる国王セイジが軍務補佐や王国軍を介さず、直接建造を命じた次世代艦艇についてだ。
王国の技術力にモノを言わせ、弩級の艦砲射撃が可能なレールガンや超電磁レールキャノンを装備した軍艦が主流の海軍を改革すべく新たに計画した次世代艦艇。
どうやら既存の技術と新技術の組み合わせで当初想定していた排水量ーー次世代打撃巡洋艦なら基準排水量15900トンで満載排水量18000トン、次世代打撃駆逐艦なら基準排水量13070トンで満載排水量16000トンを予定していたのだが、どうやらそれよりも遥かに少ない排水量で建造が可能になったと言う。
その報告にセイジは目を丸くして驚きの言葉を溢す。
セイジ「なんと…確か16000〜18000トンを想定していたが、それよりも少ない排水量で建造できるとはな…」
ナカサワ「左様でございます。それで、その少ない排水量でございますが、打撃巡洋艦が基準排水量13750トンの満載排水量15500トン、打撃駆逐艦が基準排水量12650トンで満載排水量が13730トンになる予定だそうです。全長や全幅、吃水に変更は無く3次元多機能レーダーによる多目標識別能力も変更は無いとのことです。」
現実世界や並行世界の日本国からすればまだ大きいとは思うが、これでも大分地に足のついた排水量である。
大体近いところで言うと、日本国国防海軍の「おおなみ級イージス駆逐艦」や「やまと級イージス巡洋艦」、アメリカだとDDG(X)やズムウォルト級駆逐艦の他、東側でかつ2カ国の仮想敵国ではあるが中国人民解放軍海軍の南昌級駆逐艦(NATOコードネーム"レンハイ級巡洋艦")とタメを張れる規模になるということだ。
セイジ「ふむ…これは驚きだ。既存の技術と新しい技術を合わせれば、更に排水量を下げて機動性が増すとはな…そういえば、陸海空軍で共通で使用する早期警戒衛星の打ち上げはどうだ?」
ナカサワ「ははっ、早期警戒衛星につきましても搭載したロケットの早期の発射、そして軌道上での展開が可能であると思われます。ムネオ派や神聖なる自由に反対されないよう『人工衛星』だと説明しておりますが…」
セイジ「彼等は過去の栄華に執着して、こういう新しい取り組みには断固として完全否定してるからな。しかし、今やどの国も戦略的な目標を立てている中、未だに前時代じみた軍を運営してるのは我が王国だけなのだ。皇太子に即位した頃から全然前に進まない王国に対して歯痒く思ってきたからな…」
セイジは皇太子に即位した直後から、未だ前時代じみた戦術や運営に拘ってきた軍に対し、何とも言えない歯痒い思いを募らせてきた。
我が王国は軍事における技術は目を見張るものがあるのにも関わらず、それを活かそうともせず、未だに陸海空の統合運用はおろか、連携すらままならないまま自分たちの強さに胡座をかき続けている。
どうにかならないものかと毎日毎日溜息を吐いていたある日、漆黒の艦隊を差し向けたり色々とやっ散らかした先代のムネタカが失脚。
そしてその空いた王位に収まったセイジはようやく自分のやりたいことが出来ると言わんばかりに王国軍の改革に着手。
その中で彼が目が止まったのは、漆黒の艦隊や大型潜水巡洋艦、そして神聖なる艦隊を壊滅せしめたイージス艦を保有する日本国国防海軍やステルス戦闘機を保有する国防空軍であった。
ナカサワや大型フリゲート「マサシゲ・トモチカ」元艦長、そしてムネオ派であり神聖なる自由のメンバーであった神聖なる艦隊の艦隊司令官だった「コウタ・ミサキ」からの報告を聞いた彼が気づいたことがある。
それは彼等は他のイージス艦や味方艦同士、そして空軍や陸軍といった軍の垣根を超えた連携やデータ共有をしている……つまりは軍同士が『ネットワーク』で繋がっていることだ。
軌道上の早期警戒衛星をはじめ、イージス艦の3次元多機能レーダー、空軍のAWACSをはじめとする早期警戒機や陸軍のXバンドレーダーとも緊密に連携することで、例えば王国海軍の不埒な艦艇が日本国沖合の洋上でミサイルを発射したとしても、それをすぐに早期警戒衛星や付近を航行中のイージス艦のレーダーが捕捉し、それを他のイージス艦をはじめとした海軍艦艇や空軍機、陸軍のXバンドレーダーなどとデータリンクし情報を共有。
そして対空ミサイルを発射して迎撃するが、もし撃ち漏らしたとしても既にデータ共有済みの他のイージス艦やXバンドレーダーにより、陸軍の中距離防空システム「NASAMS 3」や短距離防空システム「PAC3-MSE」が対空ミサイルを発射し迎撃するという何重にも構えた防空対策を講じているのだ。
一応神聖日本王国でも軌道上に気象衛星やGPSをはじめ、軍の警戒衛生や航法衛星、そして偵察衛星といった衛星は運用してあるがーー
そのどれもが連携を前提とした運用にはなっておらず、陸海空で足並みが揃えていないのだ。
その理由というのが、神聖日本王国の最大主流派にして超強硬派閥である「ムネオ派」とクーデター組織「神聖なる自由」が統合運用化させた軍隊を否定しているからである。
彼等の言い分は軍を統合運用化させてもたかが焼け石に水。我が軍隊は古くから続く戦術軍なのだからそれを更に拡大発展させるべき。その為なら陸軍は陸軍の、海軍は海軍の、そして空軍は空軍の仕事だけすればよく、海軍ならば今時のBMDーーミサイル防空に徹した水上戦闘艦ではなく、偉大で強大なる王国に相応しい大型艦艇ーー大口径レールガンやレールキャノンによるどデカい艦砲射撃をブチかませる軍艦を大量に建造し、大規模艦隊をいくつも配備させるべきだ、とのこと。
大規模艦隊をいくつも編成配備し、超視程の高性能レーダーで索敵し敵を発見次第レールガンや超電磁レールキャノンといった艦砲射撃による先制攻撃を加えれば十分事足り、更にミサイルもあれば正に鬼に金棒。
そして陸軍も聖なる王国の土地さえ守ればいい、空軍も空戦だけすればよく、敵国からのミサイルは天空より御見守り頂いている初代国王とその神々によって叩き落としてくれる。
それにそもそも神聖日本王国は軍事力がかなり強大な国としても有名であり、そんな聖なる王国に戦争を吹っかける愚かな蛮国など無いであろう、とも主張している。
もちろんムネオ派や神聖なる自由の一部はセイジのような取り組みをすべきではないかと主張する人々がいるも、その少数の声は掻き消され、今も形を潜め続けている。
自分たちの仕事さえ出来ればいいという彼等の思想は王国軍のシステムにも一種の問題を抱えている遠因でもあり、陸海空軍で硬直した縦割り行政がなされていることも見逃せない。
これではもし何かの有事になった場合、陸海空で緊密な連携など取れるのか、と訝しんだセイジにより今は『現代的な』軍の再建、再編成の真っ最中なのである。
中でもセイジが肝入りで進めているのが……
セイジ「特に空軍の強化は王国にとっては喫緊の課題だ。先進国とも言われるほどの高い経済規模からすると、今の空軍はあまりにも貧弱だからな。」
ナカサワ「やはり空軍でございますか……」
そう。神聖日本王国軍の中では1番規模が小さい王国空軍の強化だ。
海軍国家と名高い神聖日本王国はこれまでの伝統である海軍文化に拘り囚われ続けたせいで、世界の数ある先進国の中では最も遅い1980年代にようやく創設された。
ちょうどムネオの先代である国王が『このままじゃいかん』と危機感を募らせ、当時の海軍航空連隊の中から選りすぐりのパイロットと海軍幹部を異動させる形で空軍を組織。
当時は国王という絶対的な権力と権威を欲するあまりに王宮の水面下では幾つかの派閥がゴタゴタの足の引っ張りあいをしていた不安定な時代だったが、空軍創設には何の影響もなく、無事に成功。
その中にはムネオの異母兄弟で末っ子の『マサル・オオタワラ』という、王族出身の戦闘機パイロットも含まれていた。
王族出身という異例の身分ながらも優れた空戦機動を得意としていた彼は、新たに創設された空軍の教官兼アグレッサーとして海軍出身パイロットや新米パイロット達に数々のマニューバやドッグファイトのイロハを叩き込んだ。
コブラ、クラビット、ハイGターン、エンテロール、90度ターン、etc……
パイロットらは皆教官の教えに従い、数機のみ導入されたSu-27やMIG-29でそれらを骨身に叩き込み、空軍パイロットへの道を歩み始めた。
まずは量より質を優先させた少数精鋭の組織として、この王国の領空を守ろう。
それが当時の国王と教官マサルの方針であった。
当時は国王がムネオでは無ければ、伝統ある海軍を優先し空軍を全否定する超強硬派閥のムネオ派もいなかったため、全てが滞りなく進んでいた。
と言うか、マサル自身が海軍出身だけあってかなりの影響力を持っており、その後ムネオに代が代わっても、彼を排除することは叶わなかった。
現在は高齢のために空軍を退役しているものの空を眺めない日はなく、セイジやナカサワに空軍創設期のパイロットの子孫らからは今も慕われている。
ちなみにムネオ派の中心人物の1人である財務補佐もマサルを慕うと共に空軍の強化にも賛同しており、王国のソラを守るためならば予算はいくらでも出すと言っている。
セイジ「この王国に空軍を産んだくれたのも、育ててくださったのも、全部時の国王とマサルさんのお陰だからな。その彼等の努力を余は無駄にしたくないのだ。」
ナカサワ「左様でございますね。財務補佐も空軍なら予算を出すとも言ってますし。」
セイジ「あぁ……新型の早期警戒衛星は軌道上へ打ち上げるのを優先させるが、空軍の新型戦闘機や輸送機、早期警戒管制機の開発も進めなければ。それができたら陸軍向けの防空システムに……あぁぁ、あと周辺国との安全保障条約の締結も考えねば…」
ナカサワ「戦闘機を含めた新型機の開発は……既に空軍産業厰へ開発を指示されていましたね…?」
セイジ「そうだな。てっきりムネオ派や神聖なる自由の連中に邪魔されると思っていたが……上手くいってよかった。」
現在、神聖日本王国空軍の主力戦闘機は第4世代のKFA-6と改修型の第4.5世代機の戦闘爆撃機KFA-7、そして第5世代のKFA-10の3種類。
だがその数はKFA-6が50機にKFA-7が25機、KFA-10に至っては20機にも満たない数でしか運用されていない。
3種類も戦闘機を配備していても、その数90機弱というのは余りにも少なすぎる。
参考までに並行世界の日本国が保有している戦闘機はF-35はA〜C型含めて110機、F-15Jは近代型改修のJSIを含めて200機、そしてF-2でも94機保有しており、その数実に404機。
これだけ見れば、如何に王国が戦闘機という乗り物を冷遇しているのかが見て取れる。
そしてその90機弱保有している中の大半が海軍の航空連隊や空母航空戦闘団所属なのだから、空軍が所有している数はもっと減ってしまう。
セイジはその少なすぎる空軍機の穴を埋めるために、新型機を開発配備せよと、王国空軍廃棄産業廠へと命じたのだ。
そして、セイジの改革のメスは空軍だけに止まらず……
セイジ「……あとは更なるミサイル防空のために手を入れなければな。ナカサワ、其方はコレを知ってるか?」
ナカサワへ写真付きの資料を見せるセイジ。
ナカサワが目を通すその資料に書かれてあったのは…
ナカサワ「イージス…アショア、でございますか?」
セイジ「ああ、既にアメリカやヨーロッパ諸国で配備されてる高性能レーダーによる地上配備システムだ。自分はこれを東京湾基地に置きたいと考えている。」
ナカサワ「イージス…イージスと言うと…並行世界の日本国の艦艇も確かイージス艦と言う類の艦だったような気がしますが…」
セイジ「流石ナカサワ。あの艦長や司令官からの報告を覚えていたのか。正にそれだ。イージスアショアとはそれを地上に配備したもののことなんだ。それでミサイル防空能力も格段に上がる。そして、そのミサイル防衛の為に新たに『防空軍』を新設したいとも考えている。陸海空…その3軍のミサイル防空をそこへ委ねることによって、手の空いた友軍は更に戦力を拡充できるし、動きやすくもなるだろう。」
ナカサワ「統合ミサイル防空戦略…ということでございますね?」
セイジ「…そういうことだな。購入はアメリカからになるから、彼の国を何故か仮想敵国と考えているムネオ派の反対の声に抑えられるとは思うが…できるだけやってみたいと思う。」
セイジ「あとは…武力制圧隊であるが名称を変えようと思っている。」
ナカサワ「武力制圧隊を? 一体何の名前に…?」
セイジ「ああ、その名はズバリ『海兵隊』だ。今の武力制圧隊だと、一体何の部隊なのか分からない市民たちも多いだろう?」
ナカサワ「なるほど…こうして軍の再建や再編成ができているのも、ムネオ派や神聖なる自由が影響力を下げている今だからこそ。今が絶好の機会でございます故、これから仕事が忙しくなりますね、王様。」
セイジ「あぁ。だが、依然として王国の最大勢力は彼等であることに変わりはなく、神聖なる自由と共にいつ動き出すかわからない。」
セイジは現代に合った軍の再建を推し進める傍ら、王国そのものの政治システムにもメスを入れようとしていた。
セイジ「今王国は絶対君主制による絶対王政が続いているが……これはハッキリ言って諸刃の剣だ。今は平和を保てているが、今後誰が国王になるかで行く末が決まってしまう。下手をすれば絶対王政を利用して独裁を敷いたり、軍事行動に打って出て戦争をおっ始めたり。それで毎回毎日巻き込まれるのは、何も知らない無辜の民たちや前線へ向かわざるを得ない兵士たちなのだ。そんな王国では誰も得をしないし幸せにもなれない。ナカサワもそう思うだろう?」
ナカサワ「左様でございますね……確かにあの時……ムネタカ様が漆黒の艦隊を派遣した後、ほぼ全員が殉職したと聞いた時は流石にこたえました……」
ナカサワは執務室の天井を虚な表情で見つめながら、感想を漏らす。
絶対的な権力を持つ国王のたった一つの指示であの大規模艦隊を出撃させられるという最強で最恐の政治制度。絶対君主制。
一見すれば何の無駄もないスッキリした制度に見えるが、逆の視点から見ると、国王の『行ってこい』という軽い一言だけで軍隊や艦隊を送り込めるということは、時に大量の兵士を殺してしまうという恐ろしさをも併せ持っているのだ。
そんな軽い一言で大切な兵士たちを死なせてしまうなんて……
そして作戦が失敗に終わっても、一度死んだ兵士たちは2度と戻ってこないのだ。
漆黒の艦隊が壊滅しほぼ全員の戦死が確認された刹那、ナカサワはその恐ろしさに気付き、国王の指示一つで死地へと向かわせてしまう今のシステムを変えたいと密かに思っていたのだ。
ナカサワ「……もう、潮時なのかもしれませんね。絶対君主制というシステムにも限界が来たのです。建国以来、その制度で王国を維持できたことでも奇跡ですから、この際共和政へと変革するのもいいかもしれません……」
いや、まさに今がそのやり時だ。
これからもずっと、平和と安寧を保ち続けるためにも。
国王以下の政府高官や王族、市民関係なく皆が幸せな日々を過ごすために。
セイジとナカサワはこの王国を生まれ変わらせるために、この後も執務室で仕事を続けた。
***
その頃…
王国の内陸部は19世紀から20世紀初頭にかけて開発された街『軽井沢』では……
大企業の社長や会長の邸宅をはじめ、国内外のVIPや各国の王族や貴族の別荘に豪邸が立ち並ぶ閑静なお屋敷街が有名な軽井沢は夏のシーズンになると暑さを逃れたいと多くの観光客で賑わい、冬になってもウィンタースポーツを楽しむ観光客で人が途切れることはない。
その中でも一層目立つ一軒の豪勢な邸宅が一際他ならぬオーラを放っていた。
神聖日本王国のトモチカ王家が所有する王家専用の別荘兼邸宅である。
元々は18〜19世紀ごろに王家が夏のバカンスの為に建てたもので、今も王族が茹だるような暑さから逃れるべく泊まりにやってくる。
今は王家傍系の家族が管理しており、今日も邸宅のラウンジでソーサーの上に置かれたコーヒーカップを片手に外を眺めていた。
トモチカ王家の王族であり、邸宅の主人である『カズユキ・トモチカ』だ。
カズユキ「んん……今日もコーヒーの豆が決まっているな……やはりサイフォンにして正解だったか……」
昔懐かしきサイフォンで引き立てられたコーヒー豆の風味や旨味。
それがラウンジ中に広がり外の景色と相まって、幸せな気持ちにさせてくれる。
カズユキはそれをゆっくりと、深く味わう。
すると……
彼の側へ1人の男が近づき「お待たせ致しました」という言葉と共に目の前のテーブルに香ばしい香りの二枚重ねになったパンケーキが乗った皿が置かれた。
「カズユキ様。パンケーキが焼けました。」
カズユキ「…あぁ、トミノリ。ありがとう。……済まないな、急に食べたいと駄々を捏ねてしまって……」
焼きたてのパンケーキを持ってきたのは、普段からカズユキの家族の身の回りの世話をしている「トミノリ・フクオカ」だ。
トミノリは王家某系の出身であり、カズユキとは実は親戚の関係。
正確に言うと、カズユキの母の妹が産んだ3人の子供たちの末っ子。
年齢的にはおおよそ10歳ほど離れており、上の子供が2人とも女の子と言う環境で育った彼にとってカズユキは兄のような存在。
ちなみにお菓子作りが得意で、今のパンケーキの他にもザッハトルテにスフレパンケーキ、そしてクリスマスになるとブッシュドノエルも振る舞ってきた。
トミノリだが、カズユキも甘いものには目が無いスイーツ男子なのである。
トミノリ「…ありがとうございます。ですが、この前私に振る舞ってくれたフレンチトースト。あれも美味でございましたよ。」
カズユキ「あはは、あの時は本当に喜んでくれたからな。作った甲斐があったよ。」
カズユキは笑顔を見せながらメープルシロップの瓶の蓋を開けて、バターが溶け出したパンケーキの表面へと掛けていく。
メープルとバターの香り、そしてパンケーキの生地の焼きたての香り。
それらが相乗した香りは正に幸せそのものので、ラウンジの空気を忽ち幸せな香りで満ちていく。
カズユキ「このパンケーキの幸せな香りのように……この王国も、平和な日々が続いているな…」
トミノリ「左様でございます。そして、セイジ様が王位を継承してからは内乱や軍の派遣もありませんから。市民からの支持も厚いようですし。」
カズユキ「国王セイジがこの王国を新たな時代へ引っ張ってくれている。これは自分としても歓迎したいし、ずっと続いてきた柵を取っ払ってくれることにも是非期待したいものだ。」
カズユキはそう言いつつナイフで切り分けたパンケーキをフォークで差し、口へと運ぶ。
口の中へ運んだパンケーキはバターが溶けた生地とメープルシロップが合わさって彼の心を幸せにしつつ、芳醇な香りが鼻から抜けていく。
カズユキ「生憎自分は王位継承順位はおろか、継承すらできない身であるから、自分がこういう王国を作りたいと思ってもできないのだ。もし従兄弟や傍系の出なら多少は違うだろうが、それを彼がやってくれていることに感謝したいし、これからもずっと同じ王家であるセイジを支えていきたいと思う。」
カズユキ・トモチカはナイフとフォークを置き、ふと回想する。
彼は一応王家の人間ではあるが父親が元々民間人。
そのため王位を継承するのは事実上不可能なのだ。
それもその筈、神聖日本王国の憲法である『神聖日本王国憲章』の第1条『王家と王位継承』の第5条には『王位を継承できるのは両親ともに王家や傍系、またはその従兄弟である場合のみである』と書かれてあるからだ。
彼の側近であるトミノリも同じ処遇であるため、王位の継承はもちろん王宮に足を踏み入れることも許されない。
だが、そんな2人もセイジが行っている数々の改革に期待を膨らませ、彼ならきっとこの王国を新たな時代へと導いてくれるに違いないと信じている。
しかし……
そんな2人にも"とある懸念"があった。
それが……
カズユキ「……だがな…王国は未だにムネオ派が幅を利かせている上に、神聖なる自由という組織も王国の実権を奪おうと底で蠢いている。この王国を更に前へ進めていく為には、その彼等との対話は欠かせなくなるだろう……」
トミノリ「そうですね…」
……やはり、2人が懸念していたのは、未だに王国の主流派として幅を利かせているムネオ派とそこから派生したクーデター組織『神聖なる自由』であった。
なにぶん先代のムネタカはムネオの長男であり、ムネオ派の所属であった。
そんな彼が漆黒の艦隊を派遣させ壊滅させた責任と、王国を混乱させた責任で失脚したことはムネオ派も神聖なる自由も見逃しておらず、必ずや雪辱を晴らすとばかりに王国の実権を奪い返そうと王国の底で蠢き、冷酷な手段で打って出るだろう……
そんなことが不意に脳裏を過った2人はセイジに対する期待と、また連中たちが余計なことをしないのかという不安でいっぱいになっていた……
***
その頃ーー
王国はとある某所。
一部の王家の面々が過ごしている離宮のラウンジでは……
タツヤ「ムネノリ様、おはようございます。」
ムネノリ「タツヤか。今朝の目覚めは久しぶりに心地よかったぞ。しばらく胸糞悪い日々が続いていたからな。」
離宮のラウンジでソファに座りながら、ワインの入った特注ライングラスを揺らしているのは『ムネノリ・トモチカ』。そう、ムネオ派から派生したクーデター組織『神聖なる自由』の紛れもないトップであり、ムネオと妃の間で生まれた三男坊だ。
そして、そのムネノリへ声をかけたのが彼が中高生の頃から共に過ごしてきた世話係の『タツヤ・トモチカ』。
神聖なる自由の中心メンバーであり、ムネオ派の中心人物たるハラダとは若い頃からの腐れ縁の関係である。
タツヤ「ははっ、私も久しぶりの心地よい目覚めを味わうことができました。何文、以前の戦闘で大型潜水巡洋艦と神聖なる艦隊が日本国の艦艇と戦闘を行うも、全て艦艇が海の藻屑と相成り、セイジへの聖罰をも警備兵の横槍を前に失敗に終わったことが響きましたからな……」
ムネノリ「……ったく、全く胸糞悪いわ!! あの警備兵どもめ……奴等の邪魔がなければ……あと少しで奴に引導を渡せるところだったのだぞ……思い出すだけでも吐き気がするわ!!」
ムネノリはあの時の様子を思い出して怒りを顕にする。
確かに作戦は計画通り行っていた。奴をぶっ殺すための任務を与えた聖罰執行人をセイジの警護をすると見せかけて接近し、銃口だって突きつけられた。
だが……
とある1人の警備兵に見破られ、セイジを殺す作戦を阻止されてしまった。
結果、作戦は失敗し、その執行人は駆けつけた王国特殊警察により身柄が引き渡された。(詳しくは第2章を参照。)
あの日から随分と経っているものの、あの日の悔恨と恨みは日に日に倍増していった。
タツヤ「左様でございます。もちろん私と致しましても、ムネノリ様のお父上でありますムネオ様が願われていた、偉大で強大な聖なる神聖日本王国への歩を進めてまいりたいと思っております。その為にはどんな手段を講じてでも奴を王位から追放しムネノリ様を代々受け継がれてきた神々しい王座へ座らせること……それが私タツヤの使命であり責務でもあるのです。」
タツヤの言葉にムネノリはニンマリと薄気味悪い笑みを浮かべた。
ムネノリ「フッ……やはりお前も、俺はあの王座にこそ似つかわしい男だと思っていたのだな。」
タツヤ「誠でございます。そして、ムネオ派の中心人物であるハラダと神聖なる自由のトップでありますムネノリ様が私と共にタッグを組み、この王国を本来あるべき姿へと取り戻して、世界の王に君臨にするに相応しい王国へと導いて行くのです。」
2人がセイジをやっかんでいる理由ーー
それはやはり、セイジによってムネオ派と神聖なる自由が身動きが取りづらくなっていることだ。
ムネタカが失脚して以降、セイジが王位を継承し、王国の舵取りを担っていること自体に胸糞悪さを感じていたのだ。
決定的だったのは時代遅れの金食い虫として漆黒の艦隊を廃止し、王国軍を再編させようとしているのを知った時。
揺るぎない王国の威厳と尊厳を表すと共に、国王の絶対的な権威をも表す聖なる艦隊を無下に葬った彼に対し、ムネオ派やムネノリらはセイジを "血も涙もない悪魔" や "聖なる王国に泥を塗った不埒な重犯罪者" との汚名を付けるどころか彼という人間に対しても復讐の念を込めるようになった。
ムネノリ「……あぁ。父上も既に他界され、兄上も離宮へ左遷された今の危機とした状況の中……お二人の願いを叶え、仇を討てるのはこの我ムネノリだけなのだ。」
タツヤ「以前の戦闘で我が建造を命じた大型潜水巡洋艦と編成した神聖なる艦隊を蛮国たる日本国に沈められたことも……あれは正に想定外でしたな……」
ムネノリ「そうだな……あれは流石の我も驚いてしまった…たかが小さき蛮国の癖に……我等の艦隊を血に染めやがって……」
タツヤ「ですが、我々には強力な仲間がいます。その彼等と手を組めば……再びあの神々しい王位を奪還できるのも夢ではありませんぞ。」
ムネノリ「フッ……やはり神は我を見捨てていなかったのだな。神々の御光に導かれるようにそのまま活動を活発にし勢力を広げ、ムネオ派と共にセイジやナカサワを排除すること、それが我が神聖なる自由の使命だ!!」
ムネノリはワインの入った特注のワイングラスを揺らしながら大声で宣言すると、
タツヤ「……この聖なる神聖日本王国に泥を塗り愚弄した者共を全員地獄へ堕としてやりましょうぞ!!」
タツヤもラウンジに響くくらいの大声でムネノリに対する忠誠を誓う。
セイジめ……今に見てろ……
貴様が如何にこの王国を侮辱し泥を塗っているのかを……
如何に聖なる王国を貶めているのかを、我等が教え込んでやる……
貴様の王位は我等が奪い取り、その首を刈り取ってやる。
それが貴様に相応しい末路だ……
2人は王国を貶めている "暴君セイジ" に対する復讐と反撃の念を新たにしていた……
ご無沙汰しております、筆者もちうさです。
今回は約半年ぶりに第3章の本編を投稿させていただきました。
第3章開始からもう1年……
毎日毎日、仕事してゲームして仕事してゲームしてたら本当にあっという間ですね。
時間の流れが早いです……
第3章はこれまでと違い、作風や書き方に大分変化があるとは思いますが、その変化も込みで楽しんでいただけたら幸いです。