日本VS日本   作:もちうさ

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久しぶりなので初投稿です。
以前投稿した分は削除しましたのでご了承ください。

2026/08.27 追記:活動報告をあげさせていただきました。





第6話『The Matching Mirror(鏡合わせの国家)

 

 

『なっ…!?こ、こ、これはっ!?』

『な、何故…あの戦艦がこの世界にっ!?』

 

 

 イージス艦『あおば』の聴取室で川瀬が見せたタブレットに映し出された画像。

 

 それを見た大型フリゲート『マサシゲ・トモチカ』のクルーたちは皆、驚愕の表情と共に目をひん剥く。

 

 そこに映し出されていたのは、海に浮かぶ"とある戦艦"を真横から捉えた白黒の画像だった。

 

 大柄な艦体を思わせる長い全長を持つ躯体。

 

 天を貫かんとばかりに聳え立つ艦橋と、上へと突き出して悠々と黒煙を吐く煙突。

 

 その根元にハリネズミの如く設置された高角砲や機銃の群れ。

 

 そして、何よりも特徴的な3連装主砲。

 

 その雄々しい姿を見た艦長のカツノリ大佐や副長、砲術/ミサイル長や航海長らは身震いが止まらなくなり、身体中から汗が吹き立つ。

 

 それを尻目に川瀬は淡々と説明を始める。

 

 

『この艦は大日本帝国時代、国家機密で建造された、旧帝国海軍聯合艦隊総旗艦にして、世界最大・最強と謳われた大和型戦艦だ。基準排水量64,000t、満載排水量68,200t、全長263m、最大幅38.9m。兵装は45口径46cm3連装砲と60口径15.5cm3連装砲、40口径12.7cm連装高角砲、25mmと13mmの各種機銃と水上戦闘機用のカタパルトを装備している。集中防御方式を採用していて、重要防御区画(バイタルパート)は弦側で最大410m、甲板でも230mの圧力鋼板で護られている』

 

 

 川瀬が見せた大和の画像は1941年に高知県の宿毛湾で公試中のものを撮影したものだ。

 

 川瀬は説明しながら彼等の様子を見ると、雷に打たれたかのような衝撃を受け、空いた口が塞がらなくなっていた。

 

 と、その中から副長が艦長に問いかけた。

 

 

『艦長……こ、この船は……』

『ああ…間違いない。未だに我が王国海軍最大最強と云われ、王国の平和と外交に寄与した超戦艦………………『シュンゾウ・トモチカ級戦艦』だ…』

 

 

 副長の問いに応えたカツノリが発した言葉に部下らは、そうだとばかりに小さく頷く。

 

 彼等が見た大和型戦艦は、かつて神聖日本王国が当時、第2次世界大戦に参戦せずに中立を保持するための外交政策の一環で建造された超戦艦「シュンゾウ・トモチカ級戦艦」そのものだったのだ。

 

 姿形はもちろん、搭載されている兵装も数値も瓜二つであり、違うところがあるとすれば、それぞれが辿り着いた末路である。

 

 沖縄防衛で任務のために向かう道中、米軍艦載機の雷撃や空爆を受け、鹿児島の坊ノ岬で沈んだ1番艦大和。

 

 フィリピン中部のシブヤン海で米軍機による"嬲り殺し"に遭い、あえなく沈んだ2番艦武蔵。

 

 建造途中で空母に改装され、未完成の状態で潮岬沖を航行中にアメリカの潜水艦による雷撃で沈んだ3番艦信濃。

 

 だが、『シュンゾウ・トモチカ級』はネームシップも2番艦で当時、海軍提督だった『イワオ・アドミラル・タカハシ』から採られた『イワオ・アドミラル・タカハシ』も、あくまで国家の安全保障と外交の一環で建造されただけで戦闘には参加していないので、終戦から長い間、母港でその勇姿を多くの人々に見せてきた。

 

 

「やはり、神聖日本王国も建造していたんだな。名前からして当時の指導者、国王から採ったと思うが、どうだ?」

『あぁ…ネームシップは貴殿の言うとおり、当時の国王陛下であられた『シュンゾウ・トモチカ』陛下、2番艦が当時の海軍提督だった『イワオ・アドミラル・タカハシ』閣下から採られている』

 

 

 カツノリから聞いた川瀬は大和型の画像を一目して、ふぅ…と溜息を吐く。

 それに何かに勘づいたカツノリはこう訊いた。

 

 

『シュンゾウ…いや、そのヤマト型は、もうこの日本には無いのか?』

「あぁ…3隻とも米軍機や潜水艦による雷撃や空爆で沈んだ。1番艦の大和に限っては就役したのが戦争真っ只中の1941年だってのに、当時の軍部と海軍は撃沈を恐れてロクに実戦に出さずに後生大事に抱え込んでいた。その間に大艦巨砲主義が終わり、航空主兵の時代へと移り変わっていたと言うのにな。ま、謂わば大和は新時代に取り残された迷子の子どもさ。…だが、大和の名は日本人に受け継がれ、今では知らない人はいない艦として愛されている」

 

 

 江田島の国防海軍士官学校時代、大和ミュージアムを訪れたことのある川瀬は1人の日本人として、大和には思い入れがあり、当時の乗組員からも話を聞いたこともある。

 

 同時にカツノリも30〜40年前に記念艦として係留されていたシュンゾウ・トモチカ級に心を奪われ、その後海軍への道を志している。

 

 大和型とシュンゾウ・トモチカ級。

 名は違えど、誇りと流れている血は確かなものであり、川瀬とカツノリはそれを噛み締める。

 

 と、それを邪魔するかのように航海長がフンと鼻を鳴らして、高圧的な態度でこう言う。

 

 

『ヤマトにムサシだと…なんとひ弱で巫山戯た名だ…我等の艦は最高神たる初代国王の血脈を受け継ぐ陛下と腹心たる海軍提督閣下の聡明な名を頂戴したのに対し、貴様らのその野蛮な名は、この雄々しい艦の名には似つかわしく無い。貴様はさっき沈んだとのたまったが、沈んだ理由はその貧弱な名にあるんじゃないのか?』

 

 

 当時の日本国と並行世界の神聖日本王国を取り巻く情勢や事情を置き去りにし、生き残った王国艦と沈んだ大和の違いは名前にあると言う航海長に、川瀬は冷徹な眼差しを向けた。

 

 

「ようやく静かになったと思ったら、またさっきの発作が起きたのか?お互いの国の事情を置き去りにしたばかりか、相手国に対する敬意すらも感じられないとは。ま、最初から期待はしていなかったが。…やはり、貴君らは一度、医者に診てもらった方がいいんじゃないのか?我が国の医者が信用できないのなら、自分の国で診てもらえばいい。…まあ、帰れたらの話だがな」

『…な、な、何だと貴様ぁぁ!!!』

『…やめろ!!!』

 

 

 川瀬の煽りに怒りの沸点が突破した航海長は席から立ち上がり、川瀬へ拳を振り下ろそうとした刹那、カツノリの一喝が部屋に轟いた。

 

 

『相手はかつて、シュンゾウ・トモチカ級に相当する艦を運用してた国の軍人なのだぞ。我が王国の為に、これ以上揉め事は起こすんじゃない』

『はっ……これは、失礼しました…』

 

 

 カツノリの喝を入れられた航海長は、渋々と席についた。

 カツノリは溜息を吐き、長年のムネオ派による専断政治と王国至上主義や差別的/排他的思想による現場の歪みを憂う。

 

 そこへ副長が川瀬へ訊く。

 

 

『貴様、貴様らが運用していた兵器は他にどんなものがあるのだ?』

「…ああ、他にもあるぞ。先ずはこれだ」

 

 

 川瀬はタブレットに別の兵器の画像を表示し、将校らへ見せる。

 

 

「伊400型潜水艦だ。世界唯一の潜水空母で特殊攻撃機"晴嵐"を3機運用できた。そして、零式艦上戦闘機…通称"零戦"は連合国の度肝を抜く戦闘能力を持っていた。戦車は95式軽戦車"ハ号"に97式中戦車"チハ"。重戦車はBMWの心臓を持つ95式重戦車に……あぁ、"オイ車"なんて言うバケモノも作ってたな。おたくらの艦長から潜水空母を持っていたと言っているから、伊400の王国版もあったんじゃないのか?」

 

 

 伊400型潜水艦。零式艦上戦闘機。95式軽戦車。97式中戦車。95式重戦車。

 

 更にオイ車と呼ばれる超重戦車の存在は将校らを驚かせるのには充分だった。

 

 

『何故だ…何故、我が王国がかつて運用していた兵器が、この世界にあるのだ…』

『我等は最高神たる初代国王の血脈を受け継ぐ国王の下に居る崇高な民族の筈……それが、何故…貴様らのような根無し草の民族に作れてしまったのだ…』

『なんだ、このオイ車とか言う戦車は……まさに地上を行く戦艦そのものではないか…』

 

 

 将校らにはかつての日本の兵器はかつて王国が運用していた潜水空母『ユウジロウ・ハタ級特務潜水艦』、P-10"アルファ"戦闘機、RT-110軽戦車、RT-150中戦車、RT-200重戦車そのものだったからだ。

 

 特に『ユウジロウ・ハタ級特務潜水艦』はさきほどのシュンゾウ・トモチカ級戦艦と共に当時の王国の外交を下支えした武勲艦として、今も母港で係留されている。

 

 そして、戦争に参加していないので、オイ車や重戦車マウスのような超重戦車は持っていなければ計画されたこともない。

 

 

「当時の日本はアメリカとの講和を望んでいたが、FDRによって無下にされ、ハルノートを突きつけられ、日本は開戦を決意した。真珠湾攻撃からミッドウェー海戦まで優勢を保っていたが、ミッドウェー海戦で負けてからは連合国に押されて、東京や横浜、大阪など都市部に爆弾の雨が降り、広島と長崎で核兵器が炸裂した。そして戦艦ミズーリで調印するまでの間、我々の先祖は国の誇りををかけて必死に戦い抜いたんだ。今見せた兵器たちもその人々の知恵とプライドが込められている」

 

 

 それに比べたら神聖日本王国はそういう戦災に巻き込まれず平和を謳歌できたのだから、もっと時の政権に感謝しろと川瀬は付け加えた。

 

 そして、川瀬から日本国の過去を聞いた将校らは、まさか並行世界の日本国が同盟国はあるとは言え、世界、取り分けアメリカに喧嘩を売って、正面から殴り合いをしていたことに身震いする。

 

 そして話は日本は戦争に負け、神聖日本王国は戦争を回避して、終戦した後の冷戦に移るが、川瀬が一番切り込みたかったのはここからである。

 

 

「そして、我が国は敗戦し、王国は終戦を迎え、冷戦に移るが、俺が一番訊きたいのはここからだ。我が国はアメリカに爆弾の雨を降らされ、終いには核兵器までぶち込まれた。そうして国土を完膚なきまでにやられたことで、我々はあるものを学んだ。………………それは賢さだ」

 

 

 川瀬は聴取室の椅子越しから壁を見やる。

 

 そこに飾られてあったのは、額に入れられた日本とアメリカ双方の軍人や軍艦が並んで航行する写真。

 そして、NATO参加国の海軍艦艇らがアメリカの空母を中心に輪形陣を組んで航行する写真。

 

 それは全て、戦後すぐに結ばれた日米同盟とアメリカの推薦でアジア諸国で初の仲間入りを果たしたNATOの連携力を伺わせるものであった。

 

 

「強い奴の仲間に入れば、争いに巻き込まれることはない。そしてより大きなグループに入れば、お互いを守り合える。こうして戦後の我が国はアメリカやヨーロッパと付き合ってきたんだ。それも全て、70〜80年前に血を流し合ったことで得た知恵そのものなんだよ」

『…爆弾と核兵器まで落とされて仲間に入る馬鹿がいるか!何故貴様らはそうしてまで国土を蹂躙したアメリカ(殺人鬼)を赦したんだ!』

「言っとくけどな、我が国も当時の帝国海軍がアメリカ西海岸とオーストラリアのダーウィンを空爆した過去がある。やってることは一緒じゃないか。それに核兵器なら我が国と第三帝国(ナチス・ドイツ)も研究してたからな。ま、ドイツの方は嘘っぱちだったが」

『何っ…並行世界の日本がアメリカを空爆……核兵器を研究してただと…』

『我が王国ではそのような研究の記録は無い…ポリ窒素爆弾や報復殲滅兵器を持てたのはここ20〜30年の話だ…』

『と言うことは、日本はアメリカを空爆できる技術がある…だが、貴様らはそれをしようとしない…』

「言っただろ、アメリカとは既に同盟を交わし、NATOにも加盟している。それに現に世界は今、如何に国家間で争わずに事を収めようか、という方向にシフトしている。そんな渦中に異世界からあんたらが土足で踏み入ってきたんだ」

『土足で踏み入るとは貴様、少しは言葉を選んだらどうだ!』

 

 

 川瀬が語る日本国の過去は、過去の世界大戦に巻き込まれずに平和を保ち、温室で育った王国将校たちにとっては衝撃の連続であった。

 

 

『それがこの国の強みか…アメリカを憎悪し、偏った外交で繋ぎ止めてきた王国とは格が違うのだな…』

 

 

 不意に出てきた艦長カツノリの言葉に副長が反論する。

 

 

『艦長!何を言ってるんですか!我が王国はいつか…いつかアメリカを滅ぼし、世界に平和と安寧をもたらす為に、今日まで王家による統治で生き永らえてきたんです!強い奴の仲間に入れば安全だというのは弱者の戯言であり妄言です!そんな狡猾な行為なぞ、神聖なる我が王国には不釣り合いです!』

 

 

 そんな副長の言葉にカツノリは──

 

 

『諸君らはまだ分からないのか。日本は過去の過ちを正し、アメリカを中心とした連合国との恨みを乗り越えて世界の平和を守る一翼を担っているということは今の説明を聞けば充分に理解できるものだろう?』

 

 

 カツノリ大佐の言葉に副長や航海長、砲術/ミサイル長、作戦専任将校らは反論はできなかった。

 

 過去の大戦でアメリカと血みどろの戦いをし、負けを認めたあとにアメリカの仲間に入り、その後更に大きなグループに入った日本国の底力は王国将校らを黙らせるのには充分だった。

 

 

 

「…で、おたくら神聖日本王国は何故、そこまでしてアメリカを怨む?この世界と我が国を怨む?艦長殿からは王国は中立を保ち、参戦してないんだろ?」

 

 

 そんな静寂を破るが如く問いかけられた川瀬に、艦長のカツノリ大佐はポツリとこう呟く。

 

 

『我が王国も以前まではアメリカとは距離を保ちつつも、外交を続けてきた。全ては……陛下…現陛下の父で先代であられたムネオ・トモチカ陛下から始まったのだ…』

 

 

 カツノリのこの呟きに副長や航海長、砲術/ミサイル長が慌てる。

 

 

『艦長!この話は──』

『隠し通しても、どうせ何処かでボロが出る。ムネオ派の連中に聞かれるよりかはマシだ』

『ですが艦長──』

『君たちは目の前の青年を過小評価し過ぎだ。ムネオ派との利権と既得権益で腐っている我が海軍よりかは遥かにマシだ』

 

 

 艦長の言葉に部下は黙り、それを見た艦長は話し出す。

 

 

『我が王国はヨーロッパやロシアとの外交を中心に世界と付き合ってきた。アメリカとは付かず離れずの距離で付き合い、極東で唯一光り輝く希望として君臨してきた。貴君の言う通り、我が王国は貴君の国と同じデザインと寸法、スペックの兵器を開発し配備していた時期がある。名前違いの双子とも言える物をな。時の陛下の尽力で戦争に巻き込まれず、戦後はその傷を癒すべく復興を支援した』

 

『風向きが変わったのは、やはりムネオ陛下が王位を継いだ後だ。陛下が継いだ頃は冷戦の激戦期で、陛下も王国の守りをより強くしたいという信念から国力と軍事力を増大させた。更に陛下には独自の思想があり"世界に平和と安寧を齎せられるのは王国だけだ"という信念があり、それの実現のために当時のソ連へと近づいた』

「親交のあったヨーロッパ諸国じゃ駄目だったのか?」

『当時の陛下にはヨーロッパの兵器では強さを見せつけられない、と思ったのだろう…所謂、威圧感…見た目で敵兵を屈服させられる"分かりやすい強さ"が無い、と感じられたのだろう。しかし、我が王国に残る艦隊決戦至上主義と大鑑巨砲主義の思想からか、陛下は強さを求めるがあまり、ソ連製の軍艦を更に重武装化させよと海軍へ命じられた。貴君の駆逐艦と戦った我が艦もその一環で排水量と武装が強化されている』

「ああ…どいつもこいつも戦艦みたくデカかった。…だが、その実態はただの動く的だった」

『そうだ。ただ艦をデカくし、武装を積み込んで、戦艦の真似事をしても、戦艦にはなれない。レーダーが最新でもシステムが独立していれば、戦闘を有利に進めることはできない。結局、物量でものを言わせる戦術海軍と言う鎖には縛られたままだったのだ』

 

 

 そして、今も軍務卿ハラダや軍部の意向で増援の艦が送られ続けている。

 

 カツノリが語った神聖日本王国の過去。

 そして、今の状況を作り出したといっても過言では無い、かつての国王、ムネオ・トモチカ。

 

 川瀬はAIレコーダーで録音しながらも、カツノリの言葉に耳を傾き続ける。

 

 

『現陛下が何故、この世界と貴君の国に憎悪を抱いたかは分からない。だが、これだけは言える。現陛下も政府と軍の高官も皆、ムネオ陛下の一種の呪いにかけられたままだとな…今も我が王国は亡きムネオ陛下に突き動かされているのだ…』

 

 

 ここまで話したカツノリの表情は、まるで憑き物が取れたかのような表情をしていた。

 

 だが、それに作戦専任将校が反論する。

 

 

『お言葉ですが艦長。艦長はムネオ陛下を恨んでおられるのでしょうか?陛下がおられたからこそ、我が王国は世界屈指の海軍力を持てたと思うのですが』

『別に恨んではおらん。だがな、陛下が突き進めた外交と海軍政策が、今の結果を作り出したのは事実だ』

「時の政権でアメリカを憎み怨み、偏屈な外交でよく今まで生きてこられたな。アメリカとは従来通り付き合っておけば、こんなことにはならなかっただろうに」

『なっ…!貴様っ……我が王国と蛮族殺人鬼国家を一緒にするな!!アメリカは偉そうな面をして世界各地で介入し情勢を引っ掻き回し、平民どもを墓場へ葬っているではないか!!』

『存在自体がイレギュラーなのだ!アメリカはやがて世界を滅ぼす災厄だ!存在そのものが大罪なのだ!!』

『最高神たる初代国王より連綿と受け継がれてきた我が王国はアメリカとは別格の存在なのだ!!』

 

 

 川瀬の口から出てきたアメリカという言葉に王国将校らは過敏に反応。

 だが、川瀬のメスはそんな将校らへも斬り込んでいく。

 

 

「だが、貴君らの世界のアメリカがそうならば、神聖なんちゃら王国がやっていることも一緒なんじゃないのか?異世界の国がこの世界に土足で踏み入って、軍艦を撃沈させ、更には洋上プラットフォームまで建造している。しかも弾道ミサイルのおまけ付きで、俺たちが止めなければこの世界の何億…何十億人もの人々が消し飛ばされる。そうやって不必要に介入し平民の命を脅かしている行為こそ、アメリカと一緒だと思うんだが?」

 

 

 その川瀬の言葉は王国将校らの短すぎる怒りの導火線に火が点くのには充分なものだった。

 瞬間湯沸かし器の如く怒りが最高潮に達した航海長が席から立ち上がり、川瀬へ右手の人差し指を向けて烈火の如く吠え出した。

 

 

『き…貴様、いい加減にしろ!!最高神たる初代国王が建国された聖なる王国を侮辱しやがって、貴様は何様のつもりだ!!さっきから聞いてりゃ艦長を唆して我等を踏み躙ることばかり言いやがって!!』

『並行世界なぞあるから国王陛下は機嫌を損ねられたのだ!!貴様らはイレギュラーだ!存在する意味も意義も無いその辺の小石だ!』

『貴様らさえいなければ、この世界を鏖殺できたのだ!!イレギュラーめ、邪魔しやがって!!貴様らは王国に蔓延る癌そのものだ!!』

 

 

 航海長をきっかけに副長も、砲術/ミサイル長も、並行世界と自分たちの世界に存在するアメリカへ対するヘイトをぶちまけ、唾を飛ばしながらバリトンヴォイスで吠えたてる。

 温室で"我が王国こそ至高"という教育を受けてきた将校らにとっては祖国に対する侮辱発言には耐え難いもの。

 謂わば王国将校らのハートは王家や国に対する忠誠心で平衡を保っており、侮辱されたり揶揄されると簡単に割れてしまうのだ。

 

 更に日本さえなければこの世界を鏖殺できたと言うが、当然ながらこの世界にもアメリカも存在するので、果たして日本抜きで世界を滅ぼせるのかは甚だ疑問が残る。

 

 更に補足すると、砲術/ミサイル長が言った王国に蔓延る癌というのは川瀬ら日本国やこの世界ではなく、神聖日本王国の唯一の主流派かつ超強硬派閥で政府から陸海防空軍、各兵器廠に上流/特権階級らと利権と既得権益を独占しているムネオ派のことだと言うのは知る由もなく、何なら自分たちもムネオ派の一員なのも皮肉めいている。

 

 そんな彼らへ川瀬は冷徹に事実を突きつける。

 

 

「アメリカ人の先祖は17世紀に渡った英国人なのは知らないのか?貴君らの国とも密接な関係だと思うんだが」

 

 

 その川瀬の一言に将校らは嘘のように黙り、まるでUWAでも見たかのような表情で川瀬を見つめた。

 

 

『何っ…貴様、何故…何故我が王国が英国と友好関係を保っているのを知っている?』

「貴君らが着てる金糸の軍服に付いてるワッペンだ。恐らくは国章か王家の紋章だとは思うんだが、そこに書かれてあるリースやシールド、ランパンテ・ライオンは英国の王家が使用してるものとほぼ一致する」

 

 

 そう言って川瀬はタブレットに英国王家の紋章を表示し、彼らへ見せる。

 

 

「見ろ。見事にピッタリだ。贋作なのかと思うくらいにな」

『『『………………』』』

 

 

 川瀬に突きつけられた事実は将校らにとってはぐうの音も出ないものだった。

 

 

「英国という由緒正しき王家を持つ国と付き合いながら、専制主義の連中とも連んできたとは。果たして神聖日本王国は西側なのか東側なのかどっちなんだ?…それとも何だ?第3世界とも言う気か?」

『…黙れ!貴様のような尉官風情に我が王国の外交を語る資格は無い!』

『将官でも佐官でもない木っ端の底辺が!偉そうな口ききやがって!』

 

 

 副長や作戦専任将校の口からムネオ派の教育を受けた成果のF言葉が次々と飛び出してくる。

 川瀬の言葉に簡単に乗り、次々と埃が出てしまう有様にカツノリは最早溜息を吐くことしか出来ることは無かった。

 

 神聖日本王国とそれを牛耳る国王以下の強硬派に踊らされた将校らの怒鳴り声は最早物哀しく、自分たちが負けた現実をものの見事に置き忘れ去り、国の威光に縋りつくことしか彼らの脳は計算できないのだ。

 

 それも全てムネオ派による王国至上主義と覇権主義、アメリカを害悪だとする教育の賜物、辿り着いた末路である。

 

 川瀬は将校らと艦長の表情と壁掛け時計を見やり、聴取を終わらせることにした。

 

 

「これで聴取は以上だ」

『…これで終わりなのか?』

「そうだ。後でお偉いさんに怒られるのはあんたらだが、有意義な時間を過ごさせてもらった」

『やっと蛮族のゴミ溜めから出られるのだな…』

「あぁその通りさ。癇癪起こして侵略させたあんたらの王様に感謝したいくらいだよ。本当はおしゃべりを楽しみたいところだが、あんたらの政府のおかげで此方は仕事が立て込んでいるのでね。早く帰ってもらいたい」

『……帰るぞ。立て』

『はっ……』

「さっさとその重いケツを椅子から引っ剥がせ」

『航海長、早く立て』

『…も、申し訳ございません…』

 

 

 将校らは艦長の言葉と川瀬に煽られながら椅子から重く立ち上がり、重い足取りで聴取室からゾロゾロと出ていく。

 その姿は正に生気を喪ったゾンビそのものだ。

 川瀬はそのうち最後に部屋を出ようとした艦長のカツノリへ声をかける。

 

 

「あんたも苦労人だな」

『フッ…今に始まったことじゃない。王国の強硬派に有る事無い事吹き込まれたじゃじゃ馬を飼い慣らすのは骨が折れたがな。それを見るに、貴君は仲間には恵まれている気がする。…改めて訊かせてもらうが、階級はなんだ?』

「大尉だ。あんたは?」

『大佐だ。貴君を見たら、海軍に入隊した頃のまだケツが青かった自分を思い出す』

「そりゃどうも。だが今の俺は艦長代理としてこの艦を預かっている。教本や教育が良ければケツが青かろうが指揮はできる」

『あぁ…この艦の艦長代理を任せた艦長と、軍の戦闘教本と教育の優秀さが伺える。…俺もそんな海軍兵になりたくて入隊したってのに…どうやら生まれる国を間違えたようだな』

「そんなことはない。あんたのような国と国民を思う高官や軍人は他にもいるはずだ。少なくともあのような将校の上司としては、あんたは似つかわしくない」

『……ありがとう。では、次は俺が貴君のような軍人になる番だな。なに、自分自身はもう泥に塗れた使い古しの中古品だが、彼等の手綱を使いこなしてみせるさ』

 

 

 カツノリは自信ありげに言うと、川瀬へ王国海軍式の敬礼をする。

 それを見た川瀬も国防海軍式の敬礼をし、カツノリを見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「時の国王の代であんな化け物を仕立てたのか…いやはや、この国が民主主義で助かったよ」

「まあな。将校らは相変わらずだったが、艦長はまともな部類だった。敵対国にも話の通じる連中はいるってことだ」

 

 

 大型フリゲート『マサシゲ・トモチカ』のクルーらの聴取を終わらせて1時間後。

 波をかきながら行くイージス艦『あおば』の艦橋では川瀬と田中が聴取での出来事を話し合っていた。

 

 

「分かったのは連中どもは艦隊規模でしか行動ができない戦術海軍であること。選民思想を持ち、アメリカを滅ぼすことを国是としていること。そして、あの特殊なステルス技術はSpektr-G1という光学的なものだ」

「おや、敵艦が消えるマジックの種明かしまでしてくれたのか?アメリカを滅ぼすとは、随分と穏やかじゃないな」

「ロクに腹芸の一つも出来ない連中だ。自慢げに話してたさ」

 

 

 川瀬にとっては少し煽ると簡単に埃が出てくる将校らは格好の情報屋だった。

 更に彼等の素顔も明らかにとなり、王国や国王への忠誠心を嵩に川瀬らを下に見るような姿勢と暴言や差別発言、罵詈雑言でしか反応できない姿はまさに王国の本質と限界を物語るものだった。

 

 子供ならまだしも、加齢臭を漂わす年齢の将校がどれだけ怒鳴っても微塵も可愛げはないのだが。

 

 

「また奴さんを迎えた時用にガラガラ置いといた方がいいんじゃないのか?」

「なら、次はお前が相手しろ。ガラガラ持ってあやしてやれ」

「勘弁してくれ。連中のママ役なんてまっぴらごめんだ」

 

 

 2人は艦橋で駄弁りながら、イージス艦『あおば』を次なる戦地へと向かわせた。

 

 

 

***

 

 

 

『艦長、方位220、距離50kmに重航空巡洋艦「アドミラル・グロリア」を旗艦とする1個艦隊が展開しております。内火艇も燃料がそろそろ切れそうです。旗艦に合流して燃料の供給し、敵艦へ一矢報い──』

『いや、そのまま王国が指定したタイムワープゾーンへ向かえ。そのまま帰国する』

『艦長っ!?』

『貴君らを生きて帰すのも艦長の使命だ。それとも、特攻して無駄死にするか?』

『………りょ、了解しました』

 

 

 その頃、イージス艦『あおば』での聴取を終え、内火艇に乗り込んでいた艦長のカツノリ大佐以下の要員らはカツノリの指示で王国が指定したタイムワープゾーンへ向かっていた。

 

 未だに重航空巡洋艦を旗艦とする艦隊と合流して敵艦へ一矢報いてやろうと言う部下を大人しくさせ、内火艇は日本国がある世界と王国がある世界との境界線──王国が設置した空間軸を移動できるタイムワープゾーンへと到達し、そのまま空間軸を移動。祖国たる神聖日本王国へと帰国した。

 

 そこからカツノリの行動は早かった。

 

 カツノリは部下を率いて東京湾基地は海軍総司令部の下部組織、艦隊総司令部へと出頭。

 目的は並行世界で戦闘をした相手、国防海軍のイージス艦の戦闘能力並びに敵対している日本国の情報を報告するためである。

 

 ムネタカ国王が並行世界という存在に癇癪を起こして海軍を派兵して以来、これまで計8隻の水上戦闘艦と原子力潜水艦を派遣しているが、有効打は得られていない。

 あるとするならば、洋上プラットフォーム建設のための海軍工兵隊の護衛を務めたフミタカ・イシイ大佐が率いる1個分隊が緒戦でイージス艦『あおば』の僚艦『よこすか』を生贄にしただけ。

 それ以降は王国海軍はたった1隻のイージス艦相手に苦戦し、苦渋を舐めさせられ、ハラダが虎の子として差し向けた海軍特殊部隊『海軍強襲連隊』も、神の盾と国防海軍の練度には敵わなかった。

 

 更に日本国に関する情報は一切なく、どのような政治で国を治め、軍事力を備え、どんな国と同盟を組み、どんな過去を歩んできたのかという情報や、自分たちが敵対している軍艦がタダの軍艦ではなく、イージスシステムという防空システムを搭載した駆逐艦だと言う情報さえ、全くと言っていいほど不足していた。

 

 何ならHQや海軍総司令部から提出された最初の報告書には敵艦には優れた対空戦闘能力があると記されていたが、それを知っているのはごく一部の幹部だけで、他の幹部や士官らは知る由も無かった。

 

 それを知っているのはカツノリら、大型フリゲート『マサシゲ・トモチカ』のクルーのみであり、これ以上悪戯に日本国を刺激し過ぎると、王国は痛い目に遭うという警告も目的の一つ。

 

 因みに出頭先が何故、下部組織の艦隊総司令部なのかと言うと、海軍総司令部はムネオ派の温床な上、下手をすれば国王のムネタカや軍務卿のハラダに露呈し、命さえ危うくなるから。

 どちらかと言えば現場寄りの艦隊総司令部なら、ムネオ派に踊らされている人間はごく僅かなので、話を聞いてくれるだろうという期待もあった。

 

 カツノリは緊張した面持ちで部下を率い、艦隊総司令部へと入る。

 

 

「大型フリゲート『マサシゲ・トモチカ』の艦長、カツノリ大佐だ。総司令官にお会いしたい」

「…司令を呼んできますので、向こうの応接室でお待ちください」

 

 

 受付でそう案内され、応接間で待つこと10分。

 ドアの方からコンコンコンコンとノックする音が聞こえたので、カツノリはどうぞと言うと、扉が開き、王国海軍ならではの金糸の軍服を着込んだ1人の将官が入って来た。

 階級章を見るに少将のようだ。

 

 

「カツノリ大佐か。総司令官のユウジ海軍少将だ」

「…こ、これは海軍少将…!お会いできて光栄であります。そして、御無礼を働き申し訳ございません」

「気にすることはない。私に急用でもあったんだろう?楽にしたまえ」

 

 

 司令官のくしゃっとした柔和な表情にカツノリは緊張の糸がほぐれる。

 そしてテーブルを挟んでソファに座ると司令官は緊張の面持ちで本題へ入る。

 

 

「それで大佐。私に話とは?」

「はい。今回出頭へ馳せ参じたのは、並行世界の日本のことです」

「…並行世界の日本か。確か貴君らも出撃していたな」

「ええ、私たちも並行世界の日本へ派兵され、日本の海軍と戦闘しました。結果は我が艦の負けです。彼等の保有するイージス艦……イージス駆逐艦の戦闘能力は我々の想像を遥かに凌駕するものでした」

 

 

 それを聞いた司令官は驚きと諦めを織り交ぜたような表情を見せる。

 

 

「…やはり彼等の艦はイージス艦だったか。それに大佐らは負けたと?どう負けたのか具体的に教えてくれ」

「はい。彼等はECMで我が艦のレーダーを麻痺させ、艦の主砲で我が艦の主砲の150mm連装レールガンの砲身を叩き、ミサイルでカシュタンを破壊。更に主砲の砲撃で主砲と副砲全てを損壊させました」

「…まるでスナイパーだな。他は?」

「ミサイルと主砲でカシュタンを破壊。損壊した箇所の電気系統がショートし、全ての戦闘システムがエラー、我が艦は戦闘不可になりました」

「…撃沈させられてはいないんだな?」

「はい。その後敵艦へ一時捕虜として連行され、聴取を応じた艦長代理よりイージス艦の説明がありました」

「…艦長代理?」

「ええ、階級は大尉と言っておりました。なんでも艦長は緒戦で負傷し離脱したと」

 

 

 王国が誇る大型フリゲート、それもスラヴァ級をベースに一回り大型化させ超重武装を施した化け物を仕留めたイージス艦の手綱を握っていたのが大佐階級ではなく、まさかの大尉だったという事実に司令官は上を仰ぐ。

 

 

「なんと言うことだ…あのシステムの塊とも言えるイージス艦を大尉が…」

「かなり若い風貌でした。年齢は恐らく20代半ばあたりかと。ですが、彼からは若さだけではなく、数々の実戦や訓練を潜り抜けてきた只者ではない雰囲気を纏っておりました」

「ただの若い海兵ではなく、数々の死線を潜ってきたと…そのような士官は今の我が海軍なら確実に蚊帳の外にされるな…」

「階級主義の我が海軍なら確実に居場所を奪われるでしょうな」

「……すまないな。話が脱線した。彼等の艦の性能について教えてくれ」

 

 

 話を戻し、カツノリは川瀬が指揮するイージス駆逐艦『あおば』の性能を一語一句漏らすことなく伝えた。

 

 索敵距離325km、100〜200個の目標を同時探知・追尾し危険度が高いとコンピューターが判断した10〜20の目標を同時対処可能なイージスシステムと神の盾と呼ばれるAN/SPY-1D(V)多機能レーダー。

 更にイージスシステムは対空のみならず対水上戦と対潜戦も対応し、全てのレーダーと火器管制は中央指揮所で一元管理されていることなど。

 

 カツノリから話されるイージス艦の事実を司令官は神妙な面持ちで聞いていく。

 

 

「ふむ…聞いた限りだと、この世界のアメリカが保有している駆逐艦や巡洋艦と性能は一致するな」

「ええ、ロシア式の独立性の高い火器管制システムを採用してる我が海軍では、どれだけ逆立ちしても敵わないでしょう。更に並行世界の日本はアメリカと同盟を組み、更にNATOにも加盟していると説明がありました。これはつまり、どう言うことがわかりますか?」

「もし陛下や軍務卿の意向で第07艦隊を送り込むと、NATO軍が集団的自衛権を行使し、艦隊を潰しにかかると言うことだな?」

 

 

 並行世界の日本がアメリカのみならず北大西洋条約機構にも加盟していた事実。

 王宮や軍総司令部、海軍総司令部が思う並行世界の日本は東アジアの端っこにあるちっぽけな島国で、王国にとっては少し本気を出すと恐れずにあらずという認識で通ってしまっている。

 

 だが、日本はそのバックにアメリカと世界最大の軍事機構を抱え込んでいた。

 これは王国の対日本/並行世界侵略作戦に於いては大きな痛手である。

 

 

「今のところ並行世界の日本遠洋でアメリカやNATO軍の艦艇の姿は確認できておりませんが…既に洋上プラットフォームも建設が完了し、弾道ミサイルも搬入されております。既に各国の偵察衛星には丸見えかと」

「はぁ…ムネオ派が相手を舐めてかかった結果だな。海や空から敵が来なくても、上からは丸見えだということを彼等はすっかり忘れてしまっている…」

 

 

 司令官は今日何度目なのかわからないくらいの溜息を吐いた。

 

 

「…ああ、マサシゲは今どうなってる?」

「機関部が故障したことにより航行不能の為、並行世界の日本遠洋に停船させてます。その後、海軍総司令部より曳航船を派遣させると連絡がありました」

「…その曳航船だが、我々から派遣させてくれないか?」

「艦隊総司令部からですか?」

「あぁ。恐らくだが、総司令部はマサシゲを回収したのち、敵艦に負けた事実を隠蔽するつもりだ。そして推測ではあるのだが、乗艦していた大佐らに対しても"休暇"を薦めるだろう」

 

 

 司令官の口から出てきた"休暇"と言う言葉にカツノリはハッとした表情になった。

 見ると周りの副長や砲術/ミサイル長、航海長に作戦専任将校も身体を強張らせている。

 

 

「休暇とは……事実上の除隊、戦力外通告でありますね?」

「そうだ。"たかが並行世界の蛮族相手に負け、世界に栄えある海軍に泥を塗った"と言ってな。特に海軍総司令部はムネオ派が多く、王宮とも繋がっている。彼等がそう考えるのも無理はない。事実、諸君らのことなど紙の上の数字としか見てないのが今の陛下とハラダ閣下、そして軍部の考えだ」

 

 

 生きて帰っては来られたが上に切り捨てられるか否かの狭間にいたとは…

 政府とムネオ派め、我々を一体何だと思っているんだ。

 

 陛下のため、国のために命をかけて出撃した現場の兵士を国は蜥蜴の尻尾切り要員としか思っていない事実にカツノリらは身震いさせる。

 

 王宮や軍部は都合のいい情報にしか目も暮れず、逆に負けた事実や自分たちが敵に対して劣っている事実には蓋をし、負傷したり殉職した兵士をただの紙の上の数字としか見ていない。

 独裁国家が辿る典型的な末路へと今、まさに王国が直走っていると言う事実にカツノリは頭を抱える。

 

 司令官はテーブルの上に置かれたガラスコップを持ち、水を口へと含む。

 そして呼吸を整えて、王宮から漏れ出ているであろう噂と内情を話し始める。

 

 

「…噂ではあるのだが、軍務卿のハラダ閣下は腑が煮え繰り返る心情でいるようだ。毎回提出される報告書に頭を抱え、目を血走らせながら陛下の指示を仰いでるらしい。…その最中に諸君らが帰ってきたから此方は心臓が止まりそうになったよ」

「やはり陛下は艦隊を、第07艦隊を出せと?」

「ああ、既に艦隊総司令部は政府はもちろん軍総司令部、海軍総司令部から第07艦隊を出せとせっつかれている。だが、ハラダ閣下は切り札として残しておきたいらしいがな」

「第07は陛下直属の艦隊でしたよね?所属は艦隊総司令部ですが、指揮権限は陛下にあります。司令官に権限はあるのでしょうか?」

「あると言えばあるし、無いと言えばない。この辺りはもう陛下が動かす艦隊として有名事実化してしまっている」

 

 

 やはりハラダは政府や軍部から漏れ出している第07艦隊派遣に対してはトランプのジョーカー、所謂切り札として温存しておきたい考えのようだ。

 

 未だに敵艦や敵国日本国を舐めている姿勢もあるが、たった1隻の敵艦の為に50隻以上の大艦隊で攻め込むのは愚の骨頂。

 マッチの火を消防車のホースで消すくらい不経済なことなのだ。

 

 だが、これが洋上プラットフォームの火力支援なら話は変わる。

 当初のムネタカの作戦では第07艦隊は洋上プラットフォームの護衛とデータ取りが主任務だったが、もしムネタカかハラダが我慢できずに艦隊を派遣させると、プラットフォームの弾道ミサイルに加えて艦隊からのミサイルも並行世界へミサイルの雨として降り注ぎ、たちまち火焔と血に染まってしまう。

 

 

「だから諸君らが生きて帰国し艦隊総司令部へ出頭してくれたのが奇跡なのだよ。総司令部へ出頭しようものなら憲兵に首根っこを掴まれて軍事裁判へ突き出されるだけだからな。ここなら王宮や総司令部から艦隊を出せとせっつかれるだけだから安心だ」

「勿体なきお言葉に感謝致します」

 

 

 そして次にカツノリが語ったのは並行世界の日本が辿った過去についてだった。

 彼は川瀬から聞いた説明の記憶を頼りに司令官へ説明する。

 

 

「大和型戦艦…長門型戦艦…金剛型戦艦…翔鶴型空母…伊400…どれもこれも、かつて王国が運用していた軍艦と瓜二つだな」

「ええ、聴取に応じた日本海軍の士官からは大和型は1番と2番艦を空爆や雷撃で失い、3番艦は空母へ改装中に雷撃にあって撃沈されたそうです」

「シュンゾウ・トモチカ級に相当する戦艦を2隻…いや3隻作ろうとしていたとは。その全てを敵国だったアメリカへ矛先を向けていたのか。とんだ韋駄天っぷりだな」

「ええ、最初の真珠湾攻撃から半年は優勢を保っていましたが、ミッドウェー海戦で主導権を失ってからは連合軍に国土を焦土化され、最終的にアメリカに核兵器を投射されたそうです」

「…核の炎も浴びたのか?…信じられないな…」

 

 

 更にカツノリは川瀬から満州国を失い、日ソ中立条約を破り侵攻してきたソ連軍を追い返した占守島の戦いについて、戦後、日本はアメリカの同盟国となり東西冷戦の最前線としてソ連と対立し、ソ連が瓦解した後、NATOへ加盟し今に至ることなどを司令官へ話した。

 

 司令官はカツノリから語られた日本の事実に対して、ただ黙ることしか出来ることはなかった。

 

 

「…我が王国に恐れ慄き、敵艦が一隻で彷徨いてる哀れな蛮族国家と罵っている連中が哀れでならん。彼等は我が王国に恐れ慄いているのではなく、敢えて一隻で作戦に従事させ、爪を研いでいる賢明さを持っているかもしれん。王国と違い、過去の大戦で大国や連合軍相手に勇猛果敢に戦い抜いた過去があるのなら、下手をすれば、その遺伝子を我々が再び呼び覚ましてしまうのかもしれない…」

 

 

 ただの蛮族だと思っていた日本人が実は底知れぬ戦闘能力を持つ民族だった事実は覆ることはできない。

 これ以上話すと場の空気がより重たくなってしまうので、カツノリは話題を変えた。

 

 

「司令官、今後はどうなると思われますか?」

「今は陛下の意向で軍務卿閣下により、重航空巡洋艦『アドミラル・グロリア』を旗艦とする1個艦隊が派兵され、フミタカ大佐の分隊も展開中だ。そのうち動きそうなのは…」

「艦隊の方でしょうか?」

「そうかもしれん。フミタカ大佐は今の状況を注視しているだろう…敵が無防備に腹を見せぬ以上、食い破るマネはしない筈だ」

 

 

 緒戦でイージス艦『あおば』の僚艦『よこすか』を撃沈させた重原子力巡洋艦の艦長で分隊指揮官であるフミタカは緒戦以降、沈黙を守っている。

 無駄に部下を危険に晒さないと言う意味では彼は優勝な士官なのだが、その実態は敵を敵だと認めず、ただの駆除すべき害獣程度でしか認識してないと言う危険な認識を持っていた。

 

 

「あくまで私見でありますが、フミタカは危険な男です。確かに腕はありますが敵兵に対する尊敬の念はありません。その証拠に既に敵艦1隻を沈めております。我が海軍に於いて、あのハイエナのような男は海軍にとっての足枷になってしまわないのでしょうか?」

「確かに大佐は士官候補生の頃は成績も優秀だった。部下に恵まれ、的確な指揮とダメージコントロールにより中には心酔してる下士官らもいる。だが、その実態は危険な認識を持つ一角獣だ。その一角獣が我が海軍へ牙を剥く危険も加味せねばならんというカツノリ大佐の意見は的を射ていると思うぞ」

「勿体なきお言葉に感謝いたします」

 

 

 その後、司令官とカツノリは本音を覗かせつつ話を続け、10分が経った頃…

 

 コンコンコンコン…

 ガチャ…

 

 

「失礼いたします。司令官、そろそろ会議の時間です」

「おっ、そうだったか。大佐、すまないがそろそろ時間だ」

「ええ、貴重なお時間を頂き、ありがとうございました」

「礼を言うのは此方の方だ。並行世界の日本についていい情報を聞くことが出来た。…そうだ。諸君らは所属は東京湾基地だったな?…別に匿うという訳ではないのだが、しばらく諸君らを此処に預けたいんだ。丁度別室が空いていてな、しばらく此処で生活させてもらう。…少佐、彼等を案内してあげてくれ」

「ハッ!では皆様、こちらへ」

 

 

 司令官へ会議の時間を知らせに来た少佐がカツノリらを別室へと案内する。

 その後ろ姿を見送った司令官はポケットからスマホを取り出しとある場所へ電話をかけた。

 

 

「…私だ。海軍総司令部から曳航船は出たか?……分かった。では、今のうちに此処から曳航船を出してくれ。報告書には味方艦艇の残骸回収として書いてくれればいい。頼んだぞ」

 

 

 要件を伝えた後、スマホをポケットに収め、司令官は会議室へと向かった。

 

 

 

 

 







ご無沙汰してます、筆者です。
第5話の投稿から随分とお待たせしてしまい、すみませんでした汗
なにぶん仕事が忙しいもので…

因みに今回の投稿分を含め、今後の投稿は以前投稿した分を削除しながらストーリーの方を刷新していこうと考えておりますのでよろしくお願いします。




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