ボクんちの英雄(超低速更新中)   作:haldon

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始まりはここから(前編)

「ようこそ、伝説の召喚師さん。わたしは……」

 

「アンナさん、ですよね?」

 

 その人は、こちらが名乗る前に名前を呼ぶ。

 アンナの目の前にいるのはフードを被った青年。顔はどちらかと言えば整っている、背は男性としては標準的。まあ総じて平凡な姿だが、平凡でないとすれば、彼が伝説の召喚士と呼ばれる存在であるはず、ということだろうか。

 

「どうして私の名前を?」

 

「たくさん見てきましたから」

 

 青年はにこにこと笑っている。

 

「見たって、何を?」

 

「アンナさんを」

 

 にこにこにこ。青年の笑顔は変わらない。アンナは理解するのを諦めた。

 

「やっぱり伝説の人だけあって、言うことが変わってるわ……」

 

「あ、ボクのことはエクラと呼んでください。本名じゃないですけど」

 

「……」

 

 

 

 

 こうして、この風変わりな青年エクラの物語は始まったのである……

 

 

 

 

 

エクラ:伝説の召喚士。ふわふわしてて捉えどころがない(アンナ評)。

 

アンナ:特務機関の隊長。お金のからむ事以外は常識人。

 

アルフォンス:アスク王国の王子。普通の頑張り屋さん。ゆえに苦労人。

 

シャロン:アスク王国の王女。元気ましましの頑張り屋さん。周りを振り回す系。

 

 

 

 

 

 

 

「えーと、オーブをこうして、こうして……」

 

「何を始めるつもりかね、エクラくん」

 

「召喚の儀式を試してみようかと思って 」

 

「試すって……私は数に入っていないのかね」

 

「だって、ヴィオールさんのときはオーブ使ってませんし」

 

 覗き込んできた銀色の彼を見上げて、エクラは言った。貴族的にね、が口癖の銀色は、召喚士たるエクラが初めて召喚した異界の英雄。弓使いの貴族ヴィオールである。

 どういう理屈かはわからないが、エクラの持つ神器ブレイザブリクの引き金を引くと、異界より英雄が現れる。オーブなる魔法の石には英雄の能力を引き出す力があるらしく、召喚の際に使用することで、現れる英雄の強さを増すことができるのだ。現に、オーブを使わず何となくで召喚したヴィオールの能力ランクは、星二つしかない。

 ちなみに、英雄の能力ランクはじめ様々なステータスが見える魔法の名簿は、ないと困るといって、アンナに売り付けられた。5000Gだった。

 

「属性は四つあるらしいし、四回かな」

 

「白属性なら私がいるが――」

 

「まとめて、どーん!」

 

 ヴィオールが何か言おうとしていたが、気にせずエクラは神器を遺跡にかざす。と、それに応えてオーブがまばゆい光を放った。光が消えるとそこには、四つの人影が。

 

「ここはどこですの!?」

 

「えと、あの、あたし……」

 

「へえ、もしかしてボクらは異界に呼ばれたのかい?」

 

「ここがどこであろうとも、修行ができるなら私は構いません!」

 

「ええと、クラリーネ、ニノ、ソワレ、それからフィルだね。ボクはエクラ、よろしく」

 

 気品溢れるクラリーネ、あどけなさを残すニノ、短髪の麗人ソワレに、凜とした佇まいのフィル。タイプこそ違えど、四人ともなかなかの美少女である。

 きょろきょろとどこか落ち着かない少女たちとは対照的に、こっちの胡散臭い貴族は満足げな笑顔を浮かべて彼女たちを眺めていた。

 

「まるで花園だねぇ。ああ困ったな」

 

 嘆息するヴィオール。と、エクラがなにか言うより早く、白銀のきらめきがはしる。鋭い槍の切っ先を突きつけてにっこりと笑みを浮かべるのはソワレ。

 

「なにが「困った」んだい?」

 

「や、やあソワレくん。こんなところで会うとは奇遇だねぇ」

 

「本当に。なんだ、セルジュはいないのかい? 仕方ないな、ボクが君の世話をしてあげよう」

 

「いや、それは遠慮する……」

 

「遠慮は要らないよ。ボクと君の仲じゃないか」

 

 にこにこにこ。あくまでもにこやかなソワレなのに、冷や汗で後ずさるヴィオール。これが力関係というやつか。エクラは納得して深く頷いた。

 

 

 

 

「ソワレって、そこらの殿方より格好よくありませんこと? わたくしの目指す姿とは違いますけれど、素敵ですわ」

 

「そうだね。あたしもあんな風になりたいなぁ」

 

「はい! とても強そうで……一度手合わせをしてみたいです!」

 

 残された乙女たちはマイペース。

 

 

 

 

 

 

 

「さぁてお茶が入ったよ、クラリーネ嬢。お口に合うといいのだが」

 

「……ふぅん。まあ、悪くはありませんわね。腐っても貴族を名乗るだけのことはあるということですのね」

 

「腐ってもって……ああいや、お誉めの言葉、恐縮だよ」

 

 なんだかんだ言って、関係性は良好。そんなボクんちの英雄たちは、平和に親睦を深めている。

 

「うーん……良い香りはわかるけど、味は苦くてあたしは苦手かも」

 

「あ、ニノさんわたしとおんなじです! お砂糖入れますか? 飲みやすくなりますよ!」

 

「あ、ほんとだ! これならおいしいよ」

 

「シャロン、ボクにも砂糖を取ってくれるかい?」

 

「はい、ソワレさん!」

 

 人懐こいシャロン王女は、もうすでに完全に溶け込んで。まるで昔からの友人同士のようだ。どこか影を持つ少女ニノも、お日さまのようなこの王女の前では屈託のない笑顔を見せてくれるから、エクラとしても嬉しいばかりである。

 

「ほわれはん、ほわれはん! ほおあほもういひど、へあわへひていはだけまふか!?」

 

「ちょっとフィル! 口にものを入れたまま喋らないでいただけますこと! はしたないですわ」

 

「むぐむぐ……ごくん。ごめんなさい、つい興奮して……」

 

 クラリーネとフィルは同じ異界の出身だからか、他よりも遠慮のない間柄だ。もっとも、そもそも二人とも人見知りするタチではないのだけれど。特にフィルは、ここに来てからというもの、いつ見ても誰かと手合わせしている。異界の強者と戦えるのが嬉しくて仕方ないようだ。

 そんな前のめりな彼女に、やはり強さに対して前のめり気味なソワレはにこやかに答えて。

 

「ああ、もちろん! フィル、それはボクからお願いしたいくらいだよ。キミはとても強いから、手合わせは良い訓練になる」

 

「そんな! ソワレさんこそお強いです。私なんかまだまだ……」

 

「ねえねえみんなー! とある筋から手に入れた高級焼き菓子なんだけど、ちょっと味見してみない?」

 

 遅れてきたアンナが、手にした焼き菓子の缶を掲げてみせた。いかにも上品な装飾がしてあって、何人かの英雄たちの目を釘付けにする。英雄、と言ったって人間だ。特に少女たちには、それはたぶん、値千金の価値を持つ。

 真っ先に手を上げたのは、シャロンだ。

 

「あ、アンナさん! ぜひわたし食べてみたいです!」

 

「私にも一ついただけるかね」

 

「わたくしもいただきますわ」

 

「私も! ぜひ!」

 

「あ、えと……」

 

 次々と上がる声に、かき消されそうなおどおどが一つ。ん、とエクラが声をかけるより先に、動いた赤色。

 

「アンナ、ボクにはそれ二つもらえるかな」

 

「おー? ソワレったら、見かけによらず甘い物好き?」

 

「まあ甘いものは好きだけれど、そうじゃなくて」

 

 焼き菓子を二個受け取ったソワレは、まだ声を上げられずにいるニノの方を見て、にこりと微笑んだ。たぶん、彼女の意図がわからなかったのだろう、ニノはきょとんとそれを見返している。

 

「はい、これはニノの分だ」

 

「え? あ、ありがとうソワレさん!」

 

「うん。キミの世界じゃどうだか知らないけれど、ここでは遠慮なんかしなくていいよ。ボクらは仲間で、友達なんだから」

 

「ソワレさん……」

 

 ニノは頬を少し赤く染めて、へにゃりと相好を崩した。まだまだ遠慮がちな彼女だが、馴染むのもそう遠くないだろう。

 一連のやり取りを見つめていたエクラに気がついたのか、ソワレがこちらを見てまた微笑んだ。

 

 

 

 

「――ねえどうしようアル。ボク、なんだかソワレがアルより王子さまに見えるんだけど」

 

「……言わないでくれ。それ、僕も思った」

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、ここが英雄戦の扉だ。本当に行くのかい?」

 

 重厚な扉に手をかけ、アルフォンスが言う。エクラはためらうことなく頷いた。

 

「うん。異界の英雄たちの幻影……ぜひ一度、戦ってみたい」

 

「腕がなりますね! わくわくします!」

 

 全力で同意してくれるのはフィルだ。まあ、強者との戦いとなれば、この子が出てこないわけがない。

 英雄戦の扉――そこで待つのは、異界の英雄たちの幻影だ。かつてそれぞれの異界で力を奮った彼らが、その力そのままに待ち受けている。もし召喚士が彼らと戦って勝つことができれば、その英雄を召喚できるのだというのだ。

 

「さて、準備をしようか」

 

「誰を連れていくんだい?」

 

「フィル、ソワレ、ニノ、クラリーネ。四人に来てもらおうかと」

 

「わ、私は!?」

 

 予め決めておいたメンバーの名を告げれば、呼ばれなかった彼から異論が上がる。想定内。

 

「ヴィオールは留守番。まだ弱いし」

 

「そんな!」

 

 無慈悲な宣言にヴィオールはショックを受けたようで、芝居がかった大袈裟な身振りでよろけてみせた。そーゆーところが胡散臭いんだってば……とは思っても言わない。嫌いじゃないし。

 

「四人でバランスいいもん。前衛のソワレとフィルは抜けないし、回復のクラリーネ抜きたくないし。後衛がニノとヴィオールなら、ボクはニノを取る!」

 

「あの、えと、なんかごめんなさい……」

 

「いや、ニノくんが謝ることではないよ……」

 

 いちおう理由もあるのだ、と付け足してみると、なぜかニノがヴィオールに謝るハメになってしまった。

 

「ヴィオールさん! お留守番なら、私と訓練に行きませんか!」

 

 同じく留守番のシャロンは前向きだ。さっそくヴィオールの袖を引っ張って、練兵場へと今にも走り出しそうな。そしてそれに呼応するフィル。

 

「あ、シャロンどの! それなら、帰ったら手合わせしましょう、手合わせ!」

 

「はい、喜んで!」

 

 そんな彼女たちを横目で見るのはクラリーネだ。

 

「まあ、フィルもシャロンも元気ですわね。わたくしたちは優雅にお茶でも頂きましょう」

 

 そうニノに話しかけ、ニノもいいねと頷いている――のを、ヴィオールは引っ張られながらも羨ましそうに見るのだが。

 

「わ、私もそっちがいいかなー……」

 

「まあ! ヴィオールったら、レディの誘いを断るだなんて、殿方にあるまじき行為ですわよ!」

 

 クラリーネに怒られてしまった。味方はいないのか、と大袈裟に肩を落とす彼の様子は、失礼ながら大変面白い。

 ソワレがくすりと笑って、彼の肩を叩いた。

 

「そうだよヴィオール。せっかくのお誘い、断るなんてもったいない。それに、キミが強くなってくれるとボクも嬉しいな。また以前のように、肩を並べて戦いたいよ」

 

 ヴィオールの顔に、みるみるうちに生気が宿る。どうやら喜びが湧き上がっているようだ、わかりやすい。犬だったら尻尾をぶんぶん振っているんじゃないか。

 

「ソワレくん……! ああ任せておきたまえ! 私はあっという間に強くなって、君の背中を守れる男になってみせるさ!」

 

 

 

 

「単純だなぁ……」

 

「ですわね……」

 

 まあ、それが彼の良いところでもあるのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 英雄戦で、仲間になったのはドニ。覚醒の異界の、槍使い。つまり、ソワレやヴィオールとは同郷ということだ。

 

「ふえ!? ここはいったいどこだべさ?」

 

 彼からしたら、突然見知らぬ場所に転移したことになるのだろう。戸惑いも無理はない。

 

「やあドニ! 久しぶりだね」

 

「ソワレさんにヴィオールさん! ええと、ここは異界だべな?」

 

「ようこそドニ。ボクはエクラ、よろしくね」

 

 覚醒の異界の英雄たちは、異界というものに馴染みがあるらしい。そういえばソワレもヴィオールもすぐに理解し、受け入れてくれたのだったっけ。

 ドニのランクを確認したヴィオールが、ちょっとうれしそうに呟いた。

 

「ほう、ドニくんは星二つか。私と同じだね」

 

「エクラ! ドニは将来有望だよ、ボクが保証する」

 

 たぶん、初期ランクの低いドニを庇ってのセリフなのだろうが、隣の貴族に流れ弾が飛んでいる。にこにこしているソワレもドニも気がついていないようだが、ヴィオールの微妙な顔を見たエクラは、思わず吹き出しそうになってしまった。

 

「ソワレどのが保証するんですか! それは強そうです!」

 

「そんなに強そうには見えませんけれど……ていうか、なぜ鍋なんか被っていらっしゃいますの?」

 

「ちっちっち、おらの鍋をバカにしちゃなんねぇだよ、お嬢さん。戦士にとっちゃ頭を守るのは大切なことだべさ」

 

 まあ、初対面なら彼の頭が気になるのも当然だ。そこにあるのは兜ではなく鍋。紛れもなく、料理に使うあの鍋なのだから。

 ドニの言うことは尤もでも、さすがに見た目がアレなもので。形式を重んじるクラリーネなどは顔をしかめている。

 

「それは一理ありますけれど、でも鍋はいただけませんわ。よろしければ、わたくしが素敵な兜を見繕って差し上げますけれど」

 

「うんにゃ、そう言ってもらえるのはありがたいけんど、これには思い入れもあるべ」

 

 騎士でも傭兵でもない一介の村人だった彼が、戦いに赴く際になけなしのもので身を守った。それがこの鍋。奪われては敵わぬと抑えながら、ドニは首を横に振る。

 

「クラリーネ、ドニにとっての鍋は、ボクらにとっての馬と同じようなもの、相棒さ。取り上げては酷というものだよ」

 

「ソワレがそう言うのなら、仕方ありませんけれど……」

 

「ねえねえ、あたしもお鍋被った方がいいかなぁ? 頭を守るのは大事なんだよね?」

 

 突然変なことを言い出したのはニノだ。いやまあ、言ってることはそんなに変でもないのだが。いや変か。案の定、クラリーネが憤慨する。

 

「ニノ! あなたは何を聞いていましたの!?」

 

 えー、でも、なんて言いながらタジタジのニノ。しかし、こればっかりはエクラも、クラリーネの味方をしたい。同じことを思ったのか、ヴィオールも口を挟んだ。

 

「ニノくん、後衛の我々があまり重装備ではいけないよ。君にはこの私が、素敵なリボンでもプレゼントしようではないか」

 

 ニノはびっくりしたのか目を丸くしてヴィオールを見、それから言葉を選ぶようにおそるおそると。

 

「えーと、でも、あたしなんかがお洒落しても意味ないんじゃないかなぁ?」

 

 ちょっと困ったようにそう言うのは、遠慮というわけでもなく、本気でそう思っているらしい。自分には価値がないと思い込んでいるのだ。こんなに素直でいい子なのに、そんな馬鹿な教育を施したのはどこのどいつだコノヤロウ! エクラは内心ぷんすかである。

 と、不意にドニが手を叩いた。

 

「おお、あんたみたいなめんこい人がお洒落したら、きっと天使様みたいになるべ!」

 

「て、天使!?」

 

 思わぬ言葉に、ニノが素っ頓狂な声を上げる。

 

「天使様に応援されたら百人力だべな。うーむ、そっちのお嬢さんは女神様みてえに綺麗だし、おら困っちまうべさ」

 

「あら、鍋はダサいですけれど、見る目はあるみたいですわね」

 

「あのあの! ドニどの、もしよろしければ、後で手合わせなど一戦お願いできますか!」

 

「はあ、それは構わねぇけんど……おら、剣姫様のお眼鏡に叶うかわかんねえべよ?」

 

「け、剣姫!? 剣姫と仰いましたか!?」

 

「? だって、剣の達人で美人だったら、剣姫だべ? あ、もしかしてそう呼ばれるの嫌いだったべか。それは済まないべ」

 

「あ、いや、そうじゃないですけど、あの、ありがとうございます……」

 

「???」

 

 どう返したらいいか分からずに口をパクパクさせるニノ。満更でもなさそうなクラリーネ。顔を真赤にして俯くフィル。自分のやらかしたことが分かってないようで、きょとんとするドニ。

 

 

 

 

「……ねえヴィオール、もしかしてドニって女たらし?」

 

「自覚はないようだけどね。ああ、げに恐ろしきは天然というやつだよ……」

 

 

 

 

 

――この城における英雄たちの力関係が、決まりつつあるようだった。

 

 

 

ヴィオール:最初の仲間。星二つのいじられ役。大丈夫、エクラのお気に入りだよ。

 

クラリーネ:プライドが高く毒舌だがいい子。星三つ。

 

ニノ:控えめないい子。みんなの妹分。一種の清涼剤。星三つ。

 

フィル:修行バカ。猪突猛進。シャロンと気が合う。星三つ。

 

ソワレ:イケメン王子(♀)。フィル程ではないが修行バカ。星三つ。

 

ドニ:いろいろとハイスペックな天然。鍋は相棒。星二つの有望株。

 

 




ドニとニノを組ませたら、可愛さが限界突破したんですが。

 
 FEH配信当時に執筆したものです。仕様や実装キャラなどはその頃に準拠しております。

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