ボクんちの英雄(超低速更新中)   作:haldon

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親子の形――3

 召喚の遺跡に満ちていた緑と赤の光が消え、現れたのは、二人――大きいのと小さいの。

 大きいのは、良く言えばワイルドな、悪く言えばまるで野盗かなにかのような、そんな風貌の青年だ。重厚な鎧に、身の丈ほどもある大きな斧。獣のように挑戦的な青い瞳。

 小さいのは、大きいのとは似ても似つかない可憐な少女である。海のような深い青の髪に、対比するような赤の法衣。大人しそうな見かけとは裏腹に、強い光を宿す青い瞳。

 

「二人とも、ようこそアスク王国へ」

 

 エクラの歓迎の言葉に、二人は戸惑ったような反応を返す。まあ無理もない。

 

「ここは……どこだ? お前、誰?」

 

「私……ええと、確かさっきまで執務室に……」

 

 もはや召喚された英雄たちのお決まりのやり取りである。エクラは苦笑を浮かべた。

 

「ボクはエクラ。よろしくね、ええと……ヘクトルと、リリーナ?」

 

 そう言って笑顔満面に握手を求めれば、大概の英雄は二通りの反応を示す。すなわち、戸惑いながらも応じてくれるか、警戒心むき出しに拒否をするか。今も、青年ヘクトルは警戒の表情で、エクラの顔と手を交互に見ていた。のだが……

 

「ヘク……トル?」

 

 少女はそのどちらでもなかった。強ばった顔で、信じられないとでも言うように、青年をじっと見ていた。気づいた青年が「なんだよ」と手を伸ばせば、少女は顔を赤くして後退る。

 

「リリーナ、あの、これはね」

 

 とにかくまず説明だ、とエクラが口を開くと、それを契機にしてか、リリーナはばっと駆け出した。そのまま遺跡の外へ出ていってしまう。

 

「リリーナっ!?」

 

 慌てて後を追うエクラの横に、ヘクトルが並んだ。重そうな鎧を着ているわりにはなかなか身軽だ……とか分析している場合ではない。

 

「よくわかんねぇけど、あの女捕まえりゃいいんだろ? 手伝ってやるよ」

 

 ああ申し出はありがたい。ありがたいのだけれど……

 

「たぶん逆効果なので。ここで待っていてください」

 

「は?」

 

 エクラには、リリーナが逃げ出した理由の見当がついていた。まず間違いなくヘクトルのせいだ。だったら、ヘクトルが探しに行ったところで、出てくるわけがない。

 彼の怖い顔に怯みつつも何とかそれだけ伝えると、彼の眉間にはますますシワが寄った。ますます荒くれにしか見えない。

 

「なんでだよ」

 

 理由か。理由なぁ……。言ってもいいのだけど、詳しく話せば長くなるし、かといって端的に言って伝わるとも思えない。

 しばし悩んだあげく、エクラは端的なほうを取ることにした。すなわち。

 

「あれ、あなたの未来の娘です」

 

「……は?」

 

 眉間のシワが、どこかに消えた。

 

 

 

 

「……というわけで、あれは俺の娘らしい」

 

 オスティア候ヘクトルは、途方に暮れたように吐き出した。苦笑を浮かべながら相槌を打つのはエリウッド。

 

「母親似のかわいい子じゃないか。君に似なくてよかったね」

 

「おめーなぁ……」

 

 なんとかリリーナを見つけて宥めて説明して。丁度そこを通りかかったエリウッド父子に助けを求め。現在、ヘクトルはエリウッドと、リリーナはロイと、お喋りの最中である。慣れ親しんだ友人の存在に、二人とも、だいぶ落ち着きを取り戻していた。

 

「ところで、リリーナの側に小さいお前がいるように見えるんだが」

 

「うん、あれはロイ。僕の息子だってさ」

 

「やけに馴れ馴れしくねぇ?」

 

 確かに、再会の場面からしてあの二人抱き合っていたし。今もかなり距離が近い。友達以上恋人未満ってとこか。

 

「幼馴染みだって言うしね。仲が良くてなによりだよ」

 

「リリーナはやらんぞ」

 

 きょとん、とエクラはエリウッドと二人、目を丸くする。ヘクトルの物言いは、まるで……

 

「父親みたい」

 

「いや、みたいじゃなくてその通りなんだけど」

 

 エリウッドと顔を見合わせて笑うと、ヘクトルは顔を真っ赤にした。照れているらしい。そんな顔をすると荒々しい雰囲気も和らいで、なんだか少し、かわいく見えた。

 と、そこへロイが近寄ってくる。片方の手はリリーナと繋がれていて、それを見たヘクトルは、不機嫌そうに顔をしかめた。

 

「ヘクトルさま、初めまして。僕はフェレ候エリウッドの息子、ロイと言います。僕の時代では、大変お世話になっています」

 

 ヘクトルは、顔をしかめたままロイを見、そしたエリウッドを見る。うん、言いたいことはわかるよ。

 

「ロイって礼儀正しい、いい子だよね」

 

「エリウッドそっくりで気持ちわりぃ」

 

 ヘクトルにこっそり耳打ちすると、そんな返事。頭を下げていたロイが、顔を上げて不思議そうにヘクトルを見やった。

 

「あの、それから……」

 

 そう言ってロイは、手の先にいるリリーナを少し引っ張ってヘクトルの前に引き出す。

 リリーナは何かに耐えるように顔を赤くして、しかししっかりと、ヘクトルを見つめていた。指が白くなるほどに強く、ロイの手を握っているのは、そうでもしないと逃げ出してしまうから、なのかもしれない。

 

「この子はリリ……」

 

「ロイ」

 

 紹介しかけたロイを遮るように、リリーナがその手を引く。彼女の表情になにかを感じたのか、ロイは一つうなずくと、後をその少女に託した。

 

「おと……ヘクトルさま。私はリリーナと言います。先程は逃げ出してしまって、大変失礼いたしました」

 

「お、おう」

 

「私の父の名はヘクトル。未来の……あなたです」

 

「そ、そうか」

 

 本当のことを言えば、ヘクトルは既に知っていた事実ではあるのだが。リリーナの雰囲気は、そんな突っ込みを入れられるほど柔らかくなかった。

 しばしの沈黙。先に動いたのはヘクトルだった。頭をがしがしと掻きながら、話しかけたのは赤髪の少年の方。

 

「ロイ。リリーナってのは、普段からこんな堅苦しいのか?」

 

「い、いえ」

 

 ロイが横に首を振ると、ヘクトルは「だろうなぁ」と呟きながらしゃがみ込んだ。リリーナと目線を合わせるように。

 

「俺の娘なら、もうちょっとお転婆でもおかしくないよな。なぁ、何を遠慮してる? 『俺』とお前は、仲の悪い親子だったのか?」

 

「そ、そんなこと!」

 

 思わず、といった風に、ぶんぶんと首を横に振るリリーナ。それを見たヘクトルは、にぃと笑った。まるで、いたずらな少年のように。リリーナの動きが、止まる。その隙を逃さず、ヘクトルが動いた。ロイの手から少女をもぎ取り、高く高く抱えあげたのだ。

 

「きゃ、な、何を!?」

 

「安心しろ、落としゃしねぇよ! それとも、『俺』はこんなことしなかったか?」

 

 がははははと豪快な笑い声を上げながら、ヘクトルはくるくると回る。手の中のリリーナも、くるくると回る。

 始めは驚いたように目を見開いていたリリーナだったが、やがてふにゃりと相好を崩した。笑いながら、しかしその目には透明な雫が光っていた。

 

 

 そっとリリーナを地面に下ろしたヘクトルは、そこで初めて彼女の涙に気づいたようだった。

 

「あ、わ、わりぃ。怖かったか?」

 

 ふるふると、首は横に。それは、恐怖から来る涙ではなくて。

 ヘクトルを小突こうとしたエリウッドを止めたロイが、そっと少女の傍らに寄り添う。

 

「おと……ヘクトル、さま」

 

「いいんだぞ、お父様って呼んでも」

 

 ヘクトルの優しい言葉に、リリーナの頬が赤く染まる。

 

「おとう……さま」

 

「なんだ」

 

 少しだけぶっきらぼうな返事は、照れ隠しかもしれない。

 

「同じ、です。あなたは私のお父様と……同じ、です」

 

「……どーゆー意味だよ」

 

 ふにゃりと、またリリーナは柔らかく笑う。

 

「私が小さい頃、お父様はよく、こうやって私をくるくる回して遊んで下さいました。がはははと、豪快に笑いながら」

 

「……そうか」

 

「あなたは、私の知っているお父様よりずっとお若いけれど、でも……やっぱりお父様はお父様なんですね」

 

 笑いながら泣くリリーナの肩に、ロイが手を回す――と、ヘクトルがそれを振り払った。そして、奪い取るように自らが、少女の肩を抱く。ぎゅうと、力をこめて。

 

「……『俺』は、お前にずいぶんと淋しい思いをさせてるみたいだな」

 

「そんな! ……そんな」

 

「すまねぇ。俺はお前の本当の父親じゃあないが……せめて、ここにいる間は俺に甘えてこい。『俺』の代わりに、目一杯甘やかしてやるから、さ」

 

「……お父様」

 

 少女も、応えるように彼の背に手を回す。ぎゅうと、心の隙間を埋めるように。

 

 

「今だけ……でも」

 

 二人を見ていたロイが、そっと呟いた。寂しげに、微笑みながら。

 

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