ボクんちの英雄(超低速更新中)   作:haldon

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妹姫の出会い(後編)

「皆さん、恋バナしましょう恋バナ!」

 

 唐突なシャロンの提案に、そこにいた者たちの反応は真っ二つに分かれた。すなわち、きょとんと目を丸くした者と、は?と眉をひそめたものと。

 

「コイバナってなあに?」

 

「恋愛のお話のことね」

 

 純すぎるニノが尋ねると、すっかりお姉さんが板についたセルジュが答える。ミネルヴァも応えて、ぐぎゃあと鳴いた。

 

「セルジュさん! セルジュさんは大人の恋愛とかしてそうです。お話ししてください!」

 

「うーん、私の話なんて面白くないと思うけれど……」

 

「セルジュには、想い人はいませんの?」

 

 興味がなくもなかったらしく、クラリーネが口を挟む。

 

「想い人……夫ならいるわ」

 

 どよっとざわめく一同。複数の視線が、セルジュと長い付き合いのソワレに向く。

 

「あ、ああ、いるね。ていうか、息子もいるよね」

 

「息子!?」

 

「あら、ソワレだって旦那様も娘もいるじゃない」

 

「娘!?」

 

 どうにもざわめきが収まらない。二人とも子供がいるような年には見えないし、そもそも結婚しているというのが信じられない。特にソワレ。

 

「じゃ、じゃあ、二人とも子供を放ってお仕事してるの? 子供さん淋しがってない?」

 

 真っ先に気を取り直したニノが心配顔で尋ねるのに、セルジュはその頭を優しく撫でた。気持ちよかったのか、ニノの頬がほんのりと赤く染まる。

 

「そうね……淋しがってるのかもしれないわ。でも、あの子反抗期で。構うと嫌がるのよ」

 

「でもね、それでも、頭を撫でてぎゅーってしてあげたら、喜ぶと思うんだ!」

 

 だってあたしがそうだもん。ニノの呟きを、いったい何人が聞いただろう。少なくとも聞こえたらしいセルジュは微笑むと、こう答えた。

 

「そうね。今度会ったら、ぎゅーってしてあげようかしら」

 

 ぶはっ。なぜかルーナが盛大に吹き出した。

 

「ぎゅーってされるジェローム……見たい!」

 

「ルーナどのはセルジュどのの息子さんと面識があるのですか?」

 

 ルーナは暗夜の異界から来たはずで、覚醒の異界のセルジュたちとは、ここでの出会いが初対面のはず――フィルが首をかしげつつ問うと、同じ疑問を持った数名が同じように首を傾げた。

 

「え、あ、その、ま、まあね!」

 

 無茶苦茶にどもっている。怪しいことこの上ない……が、隠し事は深追いしないのがここでのルールである。

 

「……でも、ここでなら言ってもいいんじゃありません? みんな異世界から来てるわけだし……」

 

 こっそりとルーナに耳打ちするのはオリヴィエ。しかし、ルーナはぶんぶんぶんと首を横に振った。

 

「あ、あたしのことはいいのよ! それよりもクラリーネ! あんたの話が聞きたいわ!」

 

「へ!? な、なんでわたくしですの!?」

 

 突然に話を振られたクラリーネは目を白黒。

 

「あんたいいところのお嬢様なんでしょ? 言い寄ってくるイケメンも多かったんじゃないの?」

 

「そ、それは……」

 

 顔が真っ赤になったり青ざめたり、端から見ていると大層おもしろい。やがて彼女は大きく深呼吸すると、いつもの自信満々な表情に戻って言った。

 

「勘違いしないでいただきたいのは、貴族だからといって、それだけで素敵な殿方であるとは限らない、ということですわ」

 

「あー、そうねぇ。あのスッポンなんかいい例だわ」

 

 同意のうなずきを返したのは数名だが、内心賛成した者はもっと多かったに違いない。

 

「その辺りは貴族も平民も変わりありませんわね」

 

「そういえば、ルトガーさんも平民ですもんね」

 

 ぶふっ! 今度はクラリーネが盛大に吹き出した。せっかく整えた呼吸が、また無茶苦茶に乱れている。

 

「な、なんでそこでルトガーの名前が出てきますの!?」

 

「え、だってクラリーネ、ルトガーさんと仲良かったし……」

 

「あ、あれはただの護衛ですわ!」

 

 えー、とウェンディは不服げに紅茶をすすった。あれはどう見ても仲良しでしたよねー、とフィルに確認すると、フィルもうなずく。同郷の者二人に認められてしまって、もはや後がないクラリーネ。

 

「クラリーネ姫、後ろめたく思うことなどないぞ。私の最愛の人も傭兵だったが、国民はそれを受け入れてくれた。愛は身分をも越える、尊いものだ」

 

「だ、だからっ! そういうのではありませんってば!」

 

 空気を読んだのか読めなかったのか、シーマが生真面目に愛を説いた。もうこれがとどめということでいいだろう。

 さすがに可哀想に思ったのか、好敵手(とも)のラケシスが苦笑を浮かべながらフォローに入った。

 

「シーマ王女、私はあなたのお話に興味があります。貴女のように高貴な方の心を射止めるなんて、どのような男性なのでしょう?」

 

「おう、よいぞ。サムソンのことなら、いくらでも話してやろう」

 

 実は話したかったのか、シーマはどこかうきうきと語りだした。解放されたクラリーネが、目だけでラケシスに感謝を伝える。

 

「サムソンは、元々は我が父が雇った傭兵だった。しかし我がグラ王国は戦に敗れ、父も亡き人となった……本当ならそこで、奴の契約も切れていたはずだったのだ」

 

 思いがけず始まったのは、さっきの空気とは一変して重たい話。場がしんと静まり返った。

 

「だが奴はなぜか国に留まり続けてな。やがてまた、国は戦争に巻き込まれた。しかし今度の戦は、勝てる見込みのない負け戦。私は王族の責務として最前線に出たが、正式に雇っている訳でもない奴に、戦場に出る理由などない……そのはずだった」

 

「そ、それで?」

 

 問うたのは誰だっただろう。おそらく場にいた全員の総意だ。続きが、気になる。

 

「戦場には、奴の姿があった。私は言ったよ、お前のような者が、こんな滅び行く小国と共に死ぬことなどない、と。だが奴は応えた――」

 

 ごくり。

 

「――惚れた女と共に死ぬというのも、面白かろうよ、と」

 

「きゃー!!」

 

 ルーナやシャロン、アンナが身悶えする横で、オリヴィエは顔を真っ赤にして突っ伏し、ニノは目をきらきらさせ。クラリーネやラケシスは物語のようなその台詞にうっとりし、この手の話には疎いソワレやフィル、ウェンディですら感銘を受けた様子。

 ただ一人、大人なセルジュだけが涼しい顔をしていた。

 

「素敵な方ですのね、サムソンさんは」

 

「ああ、私にはもったいないほどの男だよ」

 

 死屍累々とする中に、二人のお茶をすする音だけが響く。

 と、

 

「おーい、オリヴィエ?」

 

「あ、ヘンリーさん」

 

 遠くで自分の名を呼ぶ声に、オリヴィエが復活した。

 

「あー、こんなところにいた」

 

「あ、アズ……ラズワルドさんも一緒だったんですね」

 

 現れた二人に、オリヴィエの顔がほころぶ。二人は手にお菓子の入ったかごを持っていた。

 

「これ、差し入れ。美味しそうだったから、かあ……オリヴィエさんにもと思って。ほんとは僕も仲間に入れてほしいところだけど、邪魔しちゃ悪いしまた今度にするよ」

 

「うんー、偉いねラズワルド。仲間に入れてって言ったら、呪うところだったよー」

 

 よしよしとヘンリーはラズワルドの頭をなでくりまわす。それをにこにこ見守るオリヴィエ。大層ほほえましい――呪いとかいう単語を聞かなかったことにすれば。

 

「あー、それけっこう高級なやつじゃない。やるわね、二人とも」

 

 お菓子の価値に最初に気づいたのは、やはりと言うかなんと言うか、アンナだった。

 

「なあに、お目当ての子でもいるわけ?」

 

「やだなぁ、僕らはただ皆さんに喜んでもらいたくて……」

 

「ていうかー、僕はオリヴィエ以外に興味ないよー?」

 

 ざわっ。ざわめく一同に、再び突っ伏すオリヴィエ。ヘンリーが楽しそうにオリヴィエの頭を撫でる。

 

「オリヴィエが喜んでくれるなら、僕はなーんでもするからね」

 

「へ、ヘンリーさん……恥ずかしいですぅ……」

 

「う、な、なんですかこの幸せオーラは……」

 

「だめだわ……眩しすぎて見てられない……」

 

 ダメージを受けた者数名。

 




ゲーム内だと覚醒組がルーナ・ラズワルド・オーディンのことを認識してるのか怪しいですが……
この物語の中では正体バレてるってことにしてください。

その上で、3人の意向に従って、他のメンツには正体を隠してるという設定です。
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