「皆さん、恋バナしましょう恋バナ!」
唐突なシャロンの提案に、そこにいた者たちの反応は真っ二つに分かれた。すなわち、きょとんと目を丸くした者と、は?と眉をひそめたものと。
「コイバナってなあに?」
「恋愛のお話のことね」
純すぎるニノが尋ねると、すっかりお姉さんが板についたセルジュが答える。ミネルヴァも応えて、ぐぎゃあと鳴いた。
「セルジュさん! セルジュさんは大人の恋愛とかしてそうです。お話ししてください!」
「うーん、私の話なんて面白くないと思うけれど……」
「セルジュには、想い人はいませんの?」
興味がなくもなかったらしく、クラリーネが口を挟む。
「想い人……夫ならいるわ」
どよっとざわめく一同。複数の視線が、セルジュと長い付き合いのソワレに向く。
「あ、ああ、いるね。ていうか、息子もいるよね」
「息子!?」
「あら、ソワレだって旦那様も娘もいるじゃない」
「娘!?」
どうにもざわめきが収まらない。二人とも子供がいるような年には見えないし、そもそも結婚しているというのが信じられない。特にソワレ。
「じゃ、じゃあ、二人とも子供を放ってお仕事してるの? 子供さん淋しがってない?」
真っ先に気を取り直したニノが心配顔で尋ねるのに、セルジュはその頭を優しく撫でた。気持ちよかったのか、ニノの頬がほんのりと赤く染まる。
「そうね……淋しがってるのかもしれないわ。でも、あの子反抗期で。構うと嫌がるのよ」
「でもね、それでも、頭を撫でてぎゅーってしてあげたら、喜ぶと思うんだ!」
だってあたしがそうだもん。ニノの呟きを、いったい何人が聞いただろう。少なくとも聞こえたらしいセルジュは微笑むと、こう答えた。
「そうね。今度会ったら、ぎゅーってしてあげようかしら」
ぶはっ。なぜかルーナが盛大に吹き出した。
「ぎゅーってされるジェローム……見たい!」
「ルーナどのはセルジュどのの息子さんと面識があるのですか?」
ルーナは暗夜の異界から来たはずで、覚醒の異界のセルジュたちとは、ここでの出会いが初対面のはず――フィルが首をかしげつつ問うと、同じ疑問を持った数名が同じように首を傾げた。
「え、あ、その、ま、まあね!」
無茶苦茶にどもっている。怪しいことこの上ない……が、隠し事は深追いしないのがここでのルールである。
「……でも、ここでなら言ってもいいんじゃありません? みんな異世界から来てるわけだし……」
こっそりとルーナに耳打ちするのはオリヴィエ。しかし、ルーナはぶんぶんぶんと首を横に振った。
「あ、あたしのことはいいのよ! それよりもクラリーネ! あんたの話が聞きたいわ!」
「へ!? な、なんでわたくしですの!?」
突然に話を振られたクラリーネは目を白黒。
「あんたいいところのお嬢様なんでしょ? 言い寄ってくるイケメンも多かったんじゃないの?」
「そ、それは……」
顔が真っ赤になったり青ざめたり、端から見ていると大層おもしろい。やがて彼女は大きく深呼吸すると、いつもの自信満々な表情に戻って言った。
「勘違いしないでいただきたいのは、貴族だからといって、それだけで素敵な殿方であるとは限らない、ということですわ」
「あー、そうねぇ。あのスッポンなんかいい例だわ」
同意のうなずきを返したのは数名だが、内心賛成した者はもっと多かったに違いない。
「その辺りは貴族も平民も変わりありませんわね」
「そういえば、ルトガーさんも平民ですもんね」
ぶふっ! 今度はクラリーネが盛大に吹き出した。せっかく整えた呼吸が、また無茶苦茶に乱れている。
「な、なんでそこでルトガーの名前が出てきますの!?」
「え、だってクラリーネ、ルトガーさんと仲良かったし……」
「あ、あれはただの護衛ですわ!」
えー、とウェンディは不服げに紅茶をすすった。あれはどう見ても仲良しでしたよねー、とフィルに確認すると、フィルもうなずく。同郷の者二人に認められてしまって、もはや後がないクラリーネ。
「クラリーネ姫、後ろめたく思うことなどないぞ。私の最愛の人も傭兵だったが、国民はそれを受け入れてくれた。愛は身分をも越える、尊いものだ」
「だ、だからっ! そういうのではありませんってば!」
空気を読んだのか読めなかったのか、シーマが生真面目に愛を説いた。もうこれがとどめということでいいだろう。
さすがに可哀想に思ったのか、好敵手(とも)のラケシスが苦笑を浮かべながらフォローに入った。
「シーマ王女、私はあなたのお話に興味があります。貴女のように高貴な方の心を射止めるなんて、どのような男性なのでしょう?」
「おう、よいぞ。サムソンのことなら、いくらでも話してやろう」
実は話したかったのか、シーマはどこかうきうきと語りだした。解放されたクラリーネが、目だけでラケシスに感謝を伝える。
「サムソンは、元々は我が父が雇った傭兵だった。しかし我がグラ王国は戦に敗れ、父も亡き人となった……本当ならそこで、奴の契約も切れていたはずだったのだ」
思いがけず始まったのは、さっきの空気とは一変して重たい話。場がしんと静まり返った。
「だが奴はなぜか国に留まり続けてな。やがてまた、国は戦争に巻き込まれた。しかし今度の戦は、勝てる見込みのない負け戦。私は王族の責務として最前線に出たが、正式に雇っている訳でもない奴に、戦場に出る理由などない……そのはずだった」
「そ、それで?」
問うたのは誰だっただろう。おそらく場にいた全員の総意だ。続きが、気になる。
「戦場には、奴の姿があった。私は言ったよ、お前のような者が、こんな滅び行く小国と共に死ぬことなどない、と。だが奴は応えた――」
ごくり。
「――惚れた女と共に死ぬというのも、面白かろうよ、と」
「きゃー!!」
ルーナやシャロン、アンナが身悶えする横で、オリヴィエは顔を真っ赤にして突っ伏し、ニノは目をきらきらさせ。クラリーネやラケシスは物語のようなその台詞にうっとりし、この手の話には疎いソワレやフィル、ウェンディですら感銘を受けた様子。
ただ一人、大人なセルジュだけが涼しい顔をしていた。
「素敵な方ですのね、サムソンさんは」
「ああ、私にはもったいないほどの男だよ」
死屍累々とする中に、二人のお茶をすする音だけが響く。
と、
「おーい、オリヴィエ?」
「あ、ヘンリーさん」
遠くで自分の名を呼ぶ声に、オリヴィエが復活した。
「あー、こんなところにいた」
「あ、アズ……ラズワルドさんも一緒だったんですね」
現れた二人に、オリヴィエの顔がほころぶ。二人は手にお菓子の入ったかごを持っていた。
「これ、差し入れ。美味しそうだったから、かあ……オリヴィエさんにもと思って。ほんとは僕も仲間に入れてほしいところだけど、邪魔しちゃ悪いしまた今度にするよ」
「うんー、偉いねラズワルド。仲間に入れてって言ったら、呪うところだったよー」
よしよしとヘンリーはラズワルドの頭をなでくりまわす。それをにこにこ見守るオリヴィエ。大層ほほえましい――呪いとかいう単語を聞かなかったことにすれば。
「あー、それけっこう高級なやつじゃない。やるわね、二人とも」
お菓子の価値に最初に気づいたのは、やはりと言うかなんと言うか、アンナだった。
「なあに、お目当ての子でもいるわけ?」
「やだなぁ、僕らはただ皆さんに喜んでもらいたくて……」
「ていうかー、僕はオリヴィエ以外に興味ないよー?」
ざわっ。ざわめく一同に、再び突っ伏すオリヴィエ。ヘンリーが楽しそうにオリヴィエの頭を撫でる。
「オリヴィエが喜んでくれるなら、僕はなーんでもするからね」
「へ、ヘンリーさん……恥ずかしいですぅ……」
「う、な、なんですかこの幸せオーラは……」
「だめだわ……眩しすぎて見てられない……」
ダメージを受けた者数名。
ゲーム内だと覚醒組がルーナ・ラズワルド・オーディンのことを認識してるのか怪しいですが……
この物語の中では正体バレてるってことにしてください。
その上で、3人の意向に従って、他のメンツには正体を隠してるという設定です。