俺はストーカーじゃない。
もう一度言うぞ。俺はストーカーじゃない。俺はあの女をつけ回していた訳じゃなく、好奇心から観察していただけなんだ。
え、それじゃやっぱりストーカー? ウルサイ、全然違う。お前だって、自分の兄貴と同じ顔の女が現れたら、気になって観察す――あ、いや、悪い。あいつと同じ顔の女って……気持ち悪いな。
いや、気持ち悪いぞ絶対。お前はあいつに似てないからいいけどさ、いや現実を見ろって。だから、カッコ悪いとは言ってないってば。あ、おいやめろ、胸ぐらをつかむな!
――話がそれた。この馬鹿力め。
だからさ、そもそもはあの女が悪いんだ。俺と……兄貴とおんなじ顔しやがって。
もともと、この城には俺の方が先に来ていたんだ。後から来たのがあいつ。なのに、何で俺の方が逃げ隠れしなきゃならないんだ?
……ああ、そうさ。俺はあいつから隠れていたんだ。だって……あいつは俺の、母親だからな。
はっ、やっぱり気づくよな、普通。特に、俺や兄貴を知ってるやつらなら。お前がそうだったみたいに。
気づかれたくなかった。あいつには特に。だって言えるか? 二十年後、あんたはもう死んでいて、俺たち兄弟は孤児院で育ちました、なんてさ。あんな、兄貴みたいに能天気なやつに、言えるわけ、ないだろ!
悪い、興奮した。とにかくさ、知られたくなかったわけ。だから、隠れていた。オーケー?
つけ回した理由? ……ていうか、つけ回してないっての。観察してただけ。はぁ。理由なんざ特にない。ただ気になっただけだ。悪いか?
よし、納得したならこの話はこれで終わりだ。終わりったら終わり。ほらもう帰れよ。俺? また書庫にでも隠れてるよ。あそこは面白いからな、異界の話とか、ほかじゃ滅多にお目にかかれない、まさに宝の山。……お前みたいな筋肉には、あの価値はわからないだろうけど。
は、父親の名前? ジャファル、だけど。え、なに、ニ……あいつが? 召喚? ……ふうん。
いや、そりゃ興味なくはないけど。だからなんだって話。だって、召喚されなかったら本人はいないわけだろ? ……いや、顔くらい覚えてるよ。うっすらと、だけど。んでさ、召喚されてたら、やっぱり俺は会えない。さっきも言ったろ、二十年後にはあんたは死んでます、だなんて言えない。
嘘でもつけってか? やだね。俺がそれを言ったときの、お前らお人好しの顔が目に浮かぶからな。同情? 憐憫? なんにせよ、そんな顔されるなんてごめんだ。
ふん、俺が素直じゃないことなんて、前から知ってたろ。今さら。
ほら、今度こそ話は終わりだ。行った行った。もう二度と来んなよ。……だから来んなって言ってるだろ!
……嘘はついてない。そうだ、嘘じゃ、ない。
あいつと顔を会わせたところで、何を話せって言うんだ。話すことなんて、なにもない。兄貴ならきっといろいろ話せるんだろうけど、あいにく俺は兄貴じゃない。話すことがないなら、わざわざ会う必要も、ない。
ああ、ただ、ひとことだけ――約束は破るなってだけ、言ってやろうか。迎えに来るから待ってろって言ったのに、ちっとも帰ってこなかったからな、あいつ。兄貴が寂しがって困ったっけ。
なあ兄貴、早くここへ来いよ。面白いぜ。兄貴ならきっと、ここを好きになる。それでさ、二人であいつに文句を言ってやろう。もし親父もここに来たら、二人で困らせてやろう。
……兄貴なら、言えるかもしれないしな。俺が言えなかった言葉。あいつに、かけてやってくれよ。
俺たちは、不幸じゃなかったってさ。