Phantom~tale of the phantom 作:akiras
生暖かくもどこか涼しい風が、空気を伝い頬を流れる。それと同時に、現代の若者風に適当に整えられた黒髪が、流れに逆らわず静かに揺れた。意識は未だ覚醒と沈黙の狭間を行き交いし、ただ自然と感じる貧しい草の感触のみが、地面に無造作に横たわる青年が、感じ取れる全てだった。
僅かに漏れる言葉にならない呻きは、風と共に音を運んで痕跡を残さない。周囲には、羽虫が羽ばたく音さえ聞こえない。そんな、幻想的ながらも、どこか言葉にできない寂しさを醸し出す場に、青年は一人寝転がっていた。
それは何時からだったのか。数分前か、それとも数時間前か。若しくは数日前からなのか。いずれにしても、その疑問に答えるものはいる筈もなく。又、その疑問を投げる者も今は存在しなかった。
そんな状態が、それからいつまで続いただろうか。不意に、上からヒューっと静かな空気を裂くような音と共に、何かが寝転がる青年の横にスッと降り立ってきた。それと同時に、反射的に深く暗い眠りから完全に意識を取り戻す青年。
重たげに閉じられた瞼がゆっくりと開いていき、十分な時間をかけて両の眼が完全に開かれた。そうして青年の目に映り込む、銀色の髪を風に揺らし、見た目から見て取れる年齢にしては、力の籠った少女の瞳。
しかしそれは、決して険しさの籠った瞳のそれではなく、ただ心から心配している人間が持つ瞳の光だった。そうして、無意識に、というより本能的に体にこもっていた力を完全に脱力させる青年。
そしてその勢いで、大きく深呼吸をして首を左右に振ると、次から次へと湧き上がる疑問をとりあえず自制し、初対面の相手にかけるべき言葉を頭の中で考えると、ゆっくりと言葉を口に出した。
「・・・え~と」
しかし、その言葉は直ぐに止んでしまう。恥ずかしいことながら、今の青年には考えた内容を口に出す程の余裕が存在していなかった。それも当然。
彼以外知る由もないことなのだが、今の状況を不可解に思うには十分な理由が、彼にはあったのだから。故に、そうして口を閉ざしてしまった青年を見て、何か深刻な問題でも抱えているのかと深く考えてしまったのか、青年の前に立つ少女は急にオロオロと落着きなく慌てだし、口を開いた。
「あ、あ、あの・・・だ、大丈夫ですか?ど、どこか悪いとか?」
「・・・え?あ、ああ。そうじゃないんだ。ただ・・・なんて説明していいのかな?ちょっと、今の自分の状態にというか、状況に対して驚いているというか」
少女が慌てる様が自分以上だったからか、とりあえず落ち着きを少しは取り戻した様子の青年。先程のように、言葉を口ごもる様子はなかった。だが、やはり言葉から感じてくる困惑の感情は、少しも衰える様子はなかった。
そんな感じの青年を見て、どんどん深刻な表情を深めていく少女。そしてその様子を見て、余計に心配させてしまったかと罪悪感を抱く青年。どちらからともなく、バツが悪そうにそっと視線をそらしそっぽを向く二人。
端から見れば、さぞや可笑しい光景に見えることだろう。しかし、本人たちはどこまでも本気だった。お互い、名前も素性も知らない者同士だというのに、相手の様子を見て勝手に判断して口籠る様は、どこか失笑を誘うようでもあった。
やがて、そんなおかしな空気に耐え切れなくなったのか、少女のほうが落ち着きを取り戻して再び青年に視線を移す。そして、青年の様子、というより全体を見てそれまでの疑問が一気に氷解したかのように、小さくだが納得したかのような声を上げた。
それを聞いて、青年の方も視線を少女の方に改めて向けなおす。だが、少女とは逆に特に納得したかのような様子は見受けられない。
その代わりに、今度は青年の方が訝しげな表情を浮かべて首を傾げた。視線の先には、二振りの刀。
そんな不釣り合いの道具が、目の前の少女の腰と背中に背負われていた。日頃の習慣からか、無意識に警戒心が募りかける。しかしそんな警戒心を晴らすかのように、少女のほうが明るい表情を浮かべて声をあげた。
「すいません。あなた、外来人の方だったんですね」
「・・・・・・はい?」
「ああ、っていきなり言ってもわからないか。え~っとですね・・・」
訝しげな表情を浮かべる青年の表情を見て、再び閉口する少女。しかし完全に口を閉じたわけではなく、小さくぶつぶつと言葉を、独り言を吐いていた。正直、かなり危ない人間に見えるが、危険度だけで言うなら自分はそれ以上のためか、青年は口には出さなかった。
故に、青年はただ、少女がしっかりとした言葉を吐くまで黙っていることにする。やがて、少女の方も考えが纏まったのか、ゴホンと大きな咳払いをしつつ、笑顔を浮かべて再び青年に話しかけた。
「詳しく説明すると長くなってしまうので、詳しい話は私の住処に案内してからしますね。なので、今は簡単にここがどこかということだけ説明させてもらいます」
「・・・ああ、うん」
少女の言葉に、状況が理解できていない青年は、諦めたように返事を返した。それを聞いた少女の方は安心したようにため息を一つ漏らすと、ニッコリ笑った。そして、
「ここは幻想郷。外の世界で忘れ去られた・・・幻想となった存在が迷い込む、所謂隠れ里です」
青年の理解を超えた未だ嘗てない事柄が、脳髄に非物理的な衝撃を伴って直撃した。
「幻想・・・郷・・・?」
少女の言った言葉の一部を口に出し、青年は呆然としていた意識を更に深めた。正直な話、理解が及ばない次元の話であった。一瞬、からかわれているのかと勘繰ってしまうが、それも少女の表情を見れば嘘ではないと理解してしまう。
それ程、吐き出された言葉には真がこもっていた。普通の人間であってもそれは理解できることで、青年は特別な立場の人間であるが故に、それは深く実感できることだった。
「驚かれるのも無理はないと思いますが、とりあえず自己紹介くらいはさせてください。未だ、お互いの名前さえ知らない状況ですから。私は魂魄妖夢。半人半霊の身で、ここ、冥界の・・・白玉楼の庭師をしています」
「は、半人?半霊?えっと・・・え?」
「あっ、半分人間で半分幽霊ってことです。ですが、それほど驚くことでもないと思いますけど・・・あなたの持つ気配も、私の主と似たような感じがしますし」
「・・・・・・」
勝手に話し続ける妖夢と名乗った少女だったが、生憎と青年の耳にその言葉は殆ど入ってこなかった。青年は今、二重の意味で混乱していたからだ。一つは幻想郷という言葉と、どうやら今現在青年が場所が冥界だということ。
そして二つ目は、半人半霊というのと、どうやら彼自身も妖夢と似たような存在だということだった。それでも、後者の方には、それほど驚いたわけではない。
というのも、青年は元々そのような存在として扱われていたからだ。妖夢と名乗った少女が、一体どのような存在なのかは深くは知らない。それでも、腰と背中に刀を背負っているのと、気配から察することができる風格から、それなりの実力者だということが窺える。
故に、自身の気配が感じ取れて、妖夢と似ているというのは納得できた。彼自身、彼女の存在に対して大凡似たような空気を感じていたからだ。だからこそ、本当に驚くべきは一つ目の方。流石に、今いる場所が冥界というのは、素直に納得できるものではなかった。
しかし、それに対して何か言うには、生憎と余裕が足りなかった。それでも、少しばかり時間をかける事で、次第に持ち前の冷静さを取り戻し、ゆっくりと大きく深呼吸を一つ。
それから、今すべき事の考えを即座に何通りか頭の中で反芻し、判断を決めた。この場は、特に反論することなく妖夢の話を聞いておくべきだと。幸い、彼女自身の住処で説明してくれるとのことだし、とりわけ急がなければいけないわけでもない。
それというのも、本の少し前に思い出した事だが、青年は既に■ ■ ■身なのだから。それを考えれば、自身が冥界にいるのも変な話ではない筈なのだが、それでも今の状態を彼自身の異常なほどに鋭い勘が異常だと告げている。
だからこそ、これからどうするべきなのか。それをハッキリとしなければならなかった。
「詳しい話はしてくれるんだろ?」
「ええ。これからどうするにせよ、ここの説明とかはしておかなければならないでしょうから」
「感謝するよ」
青年はそう言うと、苦笑を浮かべて小さく頭を下げた。妖夢の方も、そんな彼の態度を見て小さく笑みを浮かべると、ふと忘れていた大事なことを思い出した。
「そう言えば、あなたの名前は何て言うんですか?私は名乗りましたけど、あなたの名前は聞いていなかったので」
「ああ、そういえばそうだったな。俺は・・・」
と、そこで不自然に口を閉じる青年。その表情には、何か苦いものでも噛み締めたかのような、何処か痛みを覚えたかのような感情が浮かんでいた。そんな彼の様子に、妖夢は何かまずいことでも聞いてしまったのだろうかと、サッと顔色を悪くして同じく黙った。
すると、彼女の表情を見て青年の方も余計な気を遣わせてしまったかと、再び苦笑を浮かべながら気軽に謝り今度こそ自身の名前を短く告げる。
「僕は・・・俺の名前は吾妻玲二」
「吾妻さんですか?」
「玲二でいいよ。周囲からも、そう呼ばれてたから」
青年、玲二がそう言うと、妖夢の方も苗字で呼ぶのではなく、名前の後にさん付けをして改めて玲二の名前を呼んだ。すると、一瞬だけ彼の表情に、何処か懐かしいものでも思い出すかのような懐古の念を浮かべた。
だが、それも一瞬のこと。すぐにそんな表情を消すと、小さな笑みを浮かべて宜しくと短い挨拶を交わすと共に、握手を求めるように右手を差し出した。妖夢の方も、それをみると玲二に倣い同じく改めて挨拶を交わし、差し出された右手をとった。
こうして、一人の亡霊と、一人の少女は邂逅を遂げた。嘗て、不幸な出来事から人生を狂わされた一人の青年。彼はこの幻想郷でどんな物語を紡ぐのか、そしてどんな出会いを遂げるのか。それは今はまだ、誰も知らない。
みなさん、はじめまして。
そして、拙い文章で申し訳ありません。
久しぶりにphantomをみて、つい衝動的に書いてしまいました。
こんなつたない文章におつきあい頂ける方がいましたら、これからもよろしくお願いします。
たまに、本編とは関係なく、作者の思うphantom作品への感想というか考察みたいなものが紛れるかもしれませんが、それにもおつきあいいただけると幸いですm(_ _)m
キャラ設定等の望みの声もあれば、作っていきたいと思います。罵倒でもなんでもカモンですので、気軽に声をかけていただけると嬉しいです。