五条の嫁   作:ただのコマチ

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どうも。
遅くなってしまい、本当にすみませんでした。
コロナってこんなに辛いんですね…




呪力操作とふたりの時間

 

あの日、私が悟さんのお嫁さんになってから2ヶ月が経った。

山が紅く染まる11月…私は夜蛾先生から新しい課題を課されていた。

「呪力操作…ですか?」

「ああ。悟から聞いている。まだ呪力操作ができないということだな?」

「はい」

悟さんが言うには、私の身体には呪力が平均よりちょっと多くあるらしい。『さすが御三家の血筋…いや、朱莉がすげえのか』って言って頭を撫でてくれたのがすごく嬉しかった。あの家じゃなくて私がすごいと言ってくれたのもあるけど……その、頭を撫でられるのが…よかったです…

…そしてもうひとつ。私の術式は呪力操作によって強くなるとのこと。

自分の呪力を燃やす…無駄な呪力を燃やしてしまう訳にはいかないので、しっかり操作して管理しなくてはならない。

「体術は傑に教わっていると聞いた。それなら体術は問題ないだろう。呪力操作は悟に教えてもらえばいい。励むように」

「…わかりました!」

 

……

 

「…というわけなので、お願いします!」

「いいぞ。かわいい朱莉()の頼みだし」

悟さんを見つけて呪力操作のことを話すとあっさり承諾してくれた。

……急にかわいいって言われると恥ずかしいんですが…悟さんすごいな…

「じゃあ…ちょっと待ってて」

 

 

「…というわけで、感情を一定に抑え込む訓練をするぞ」

「…これ…映画、ですか?」

「そそ。今から朱莉には、この呪骸…『ツカモト』といっしょに映画を見てもらいまーす」

…ツカモト…?

そう言われて悟さんが示す先を見ると、眠そうに細められた目とちょっとアンバランスだけどかわいい手足にぼくさーぐろーぶ?をつけたクマのぬいぐるみがいた。

「…か…かわいいっ!」

「これ夜蛾先生が作ったんだって」

思わず抱きしめてから、悟さんの一言で頭がストップする。あの…夜蛾先生が?このツカモトくんを?

……え?

呆けていた私は、ツカモトくんから放たれる鋭いパンチに気づけなかった。

「…ひぇ⁉︎」

パンチは割り込んだ悟さんの手で止められる。悟さんに助けてもらえなかったら、間違いなく顔に当たっていた………顔が熱くて悟さんの方を見れない。

「…この呪骸は、常に一定の呪力を注ぎ続けていないと攻撃してくる」

そう言って悟さんがツカモトくんの頭に手を置くと、たちまちツカモトくんはいびきをかき始める。

「朱莉には、ツカモトと長めの映画…だいたい3時間くらいは攻撃されずに観れるようになってほしいかな」

…3時間…映画ってそんなに長いんですね…!

映画……初めて見る映画が…ツカモトくんに殴られながら見ることになるなんて………

…あれ⁉︎もしかしてできるまで悟さんと離れ離れ!⁉︎?

そ、それは…すごく寂しい…

でも、悟さんもいっぱい用事があるだろうし…

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ツカモトを抱く朱莉はすごくかわいい。目をキラキラさせてぬいぐるみを抱きしめる姿は年相応……おいツカモトそこ替われ。

朱莉に訓練の内容を説明して、少し考える。

朱莉には早期に呪力操作ができるようになってほしい。朱莉の術式には前例も取説も一切ない。まともに使えない状態で使えば呪力が早期に尽きたり、最悪仲間の呪力まで燃やしてしまう可能性が高い。

『呪力を燃やす』という単純なことではある。ただ、扱いには慎重にならないといけない。

…朱莉の中のアレがどうなるかもまったく分からないしな。

 

そんなことも結構大事だが置いておこう。もっと重要なことがある。

朱莉と一緒に映画が見たい。

映画を集めていると、俺も観たくなってしまった。それに、もっと朱莉と一緒にいたいのである。

…こんなこと、前は絶対思わなかったけど。

朱莉はまだ呪力を完璧に認識してる訳じゃない。

一応傑の協力で呪霊が見えることはわかってるけど、呪力はなんとかちょっと使えるくらい。

そこで…俺は朱莉の講師という名目で朱莉と一緒にいられるのである。硝子が治せるとはいっても、朱莉の顔に傷をつける訳にもいかないしな。

そう思って朱莉の方を見ると…

チラチラとこちらに視線を向けながら迷うような、寂しそうな表情を浮かべていた。やべえ、六眼無くても手に取るように分かる…朱莉めっちゃ顔に出るんだな。

朱莉も寂しいと思ってくれているのだろうか…ただ訓練が不安なだけかもしれないけど、前者であれば嬉しいかぎりである。

「…俺も一緒に観てていい?」

「ほんとですか⁉︎」

そう言うと朱莉の顔が一気に明るくなる。

…おかしいな、朱莉に犬の耳と尻尾が付いて見える…

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

はじめに悟さんと観た映画は…いわゆる恋愛映画だった。

幼い頃からあの家の中にいた私には初めての連続だった。幼馴染のふたりが高校2年の夏休みを一緒に過ごす中での思い出、苦悩、変化…そして恋。

だんだんとあることを考えるようになった。

「(わ…私も、悟さんと……する、のかな………キス…)」

そう、悟さんとのキスである。

悟さんと話した時には『夫婦の色々とか、そういうのは朱莉がしたくなったらでいいよ』とは言ってもらった。私はまだ夫婦の色々とはどんなことをするのか分かってないところが多くある。

ただ…その、キスは…するんだと思う。

悟さんとするのがいつになるか分からないけど…

ちらと悟さんの方を見ると、

 

口元を隠し、頬を僅かに染めていた。

 

見たこともなかった悟さんの表情にドキリとした。

すぐに顔を逸らしても、悟さんのあの表情が目に焼き付いて離れてくれなかった。

幸い悟さんは見ていたことには気づかなかった。

…もっと、私が知らない悟さんを知りたくなった。

 

 

直後、ツカモトくんから鋭いアッパーが放たれた。

 

 

……

 

 

恋愛映画を見終わった後、悟さんが手に取ったのは…ホラー映画だった。

かなり有名なものの続編らしく、タイトルには3とあった。

悟さんは一度観たことがあったらしく、

『だいじょぶだいじょぶ、全然怖くなかったから!』

と言っていたので、多分大丈夫なはず。

 

 

『アァーーッ‼︎』

「きゃーーーーッ⁉︎」

めちゃくちゃ怖いじゃないですか⁉︎

私はガタガタと震えっぱなしだった。時々振るわれるツカモトくんの拳にも過剰に反応してしまう…

「…朱莉、だいじょぶそ?」

「……だいじょぶじゃないです…」

そう言って、私は悟さんに縋り付くことしかできなくなっていた。悟さんの腕は見た目よりも力強くて、触れていると少し落ち着くことができた。

悟さんの鼓動が直に伝わり、私の鼓動も伝わっていると感じる。怖がって速くなっている鼓動を聞かれるのは恥ずかしいけど、それより恐怖の方が嫌。

今もまだ悟さんに…

まだぁ⁉︎

「ッ‼︎」

慌てて悟さんの腕を離す。

思いっきり悟さんに引っ付いてしまった。

情けない悲鳴を上げてしまった。

自分の行いを思い出し赤面して離れようとするも、悟さんに抱き寄せられる。

「えっ、あっ…さとる、さ…その…」

「…怖いんでしょ?」

バランスを崩してしまう私を、悟さんは余裕が溢れた表情で見下ろす。

ドキドキと脈打つ心臓の音も、さっきまで怖がっていた映画の音も、この状況では聞こえなかった。

「…ぇ…ぁ……」

抱き寄せた時にズレたのだろうか。サングラスの隙間から、悟さんの透き通った眼が、六眼が覗く。

悟さんしか写せない目の奥も、悟さんに染まっていく思考も、奥底まで見透かされるような感覚に頬がまた熱くなる。

「…俺といるの……嫌?」

縋るような顔で、悟さんは私に問いかける。

そんなの…嫌じゃないに決まっている。

言葉で拒絶することもできるだろう。

悟さんの手を振り払うこともできるだろう。

…でも今は…

「…さとる…さん…」

「…朱莉…」

 

バシィンッ‼︎

 

「……」

「…今じゃねえだろ…」

荒ぶるツカモトくんの拳から守られて我に帰る。

今私何してた⁉︎

すっごく恥ずかしいことになってた⁉︎

ひとりで勝手に恥ずかしがって悶々としていた。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

その後、朱莉は呪力を操作できるようになるまで4、5回殴られそうになった。ま、全部俺が防いだけど。

「何度もすみません…」

「いいんだよ。俺がやりたくてやってんだし」

朱莉は俺が防ぐたびに申し訳なさそうな顔を浮かべていた。

そんな朱莉を見ていた俺としては早期に呪力操作を覚えてもらいたかった。そのためには六眼で呪力の流れを視るのが手っ取り早いのだが…アレがいる限り朱莉を六眼で視るのは危険でしかない。

朱莉に才能があって良かった。呪力を自覚したことがない中でこのスピードはかなり早い方だ。

 

…ただ……もうちょっと朱莉と映画を観ていたかった。朱莉の覚えが早いのはいいこと…でも、でもなぁ……なんか寂しいというかなんというか…

 

…いつか休みに朱莉と映画を観に行こう。

出かけられなくても家で観たい。次は訓練じゃなく、ただただゆっくりと…

 

できればホラー映画で。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「……」

呪力を練っていると、時たま声が聞こえてきた。

 

 

いいぞいいせんすだ

 

あの声はなんだったんだろう。

 

『…まだ聞こえぬか聞こえるのはいつになるか

 

…悟さんには聞こえていないみたいだったけど…

 

『……まあよい少し時間も危うくなって来てはいるがな

 

いつか…お話がしたい。

 

 

『… 我も、待っておこう

 

 

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