仮面ライダー龍騎SPRITS   作:bassher

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ここは02年度放映された特撮番組『仮面ライダー龍騎』の二次小説です。『仮面ライダー龍騎』、並びそのスタッフ、また講談社マガジンZ連載『仮面ライダーSPIRIT』著者には、一切関係ありません。
公開は07年11月からとなります。


仮面ライダーシザース/殻の中 02-09-10

 

 

 

 

 

 

 須藤雅史は小竹署に務める刑事。射撃でオリンピック代表にまで上った事がある。選考に際して、ライバルの北岡秀一が体調不良を理由に辞退した事が幸いだったが、銅メダル寸前までいったのは紛れもない実力だった。

 

「頂点を極めたい」

 

 と次のオリンピックに向けて努力を惜しまないスドウであった。

 

「ぎゃぁぁっっっっ!」

 

 だが02年1月19日。浅倉威という凶悪犯を追って、悲劇に見舞われる。その直前、チンピラ相手にやや利き腕を痛めていたのが悪かった。痛みで照準が狂い、浅倉にあっさり懐に入られて、地面に叩きつけられ、鉄パイプで銃ごと利き腕を殴りつけられた。浅倉が何度も何度も打ち付けその腕だけに執着したのは、自分の頬に一線銃創を付けられたからに過ぎない。スドウはこうして凶悪犯を取り逃がした上、オリンピック選手としての生命を断たれた。それどころか上司は彼を第一線からハズそうとした。

 

「浅倉を捕える為ならなんでもする。情報をくれ。」

 

 彼はある骨董屋とパイプを持った。骨董屋はいわゆる情報屋でかなりのコネクションを持ち、警察でも掴めない浅倉の居場所をたちどころにスドウに教えた。

 

「いいか。ヤツを水場に近づけるな。それだけでいい。見つけて逮捕しようとするな。ヤツがいても気づかないフリをしろ。いいか、水と食い物をヤツに与えるな。今はそれだけでいい。」

 

 スドウは無断で町内の駐在を動員し、完全な包囲網を敷いた上、浅倉を飲まず食わずの状態で追い込んだ。そうしておいて十日め、フラフラで鉄パイプを握って抵抗する浅倉を15名の負傷者を作りながらも逮捕し、面目を躍如した。

 

「オレはいける、まだまだやれる!」

 

 こうして凶悪犯を捕まえたスドウだったが、代償は高くついた。骨董屋が代価として要求したのは拳銃と麻薬の横流しだった。スドウは応じる以外無かった。この骨董屋のリークのおかげで、検挙率が倍以上に上がったのだから。

 

「だがもうおまえとはつき合っていけない」

 

 スドウはだがしかし彼と縁を切る。その骨董屋を衝動で殺害してしまったのだ。後悔した。殺害そのものに対してではない。これまでの刑事としてのステイタスを失った事で、これからの自分の未来を按じて後悔した。

 

「絶望したか」

 

 その時彼と出会った。不思議な事に骨董屋に置かれた銅鏡に、僅かに反射して映る顔があった。彼が神崎士郎と言う名を持つ事すらスドウは知らないまま終わる事になる。

 

「見たのか」

 

「おまえが何をしたかは興味がない。欲しいのはおまえの今の人格だ。望みを言え」

 

「望みだと、」

 

「望みだ。今のおまえの願いを叶える力を与えよう」

 

 それが彼がマスクド・ライダー5号シザースとなるきっかけだった。

 彼がライダーの力で行ったのは、まず自分にとって都合の悪い人間、骨董屋との繋がりを知っている裏の仕事の人間、並び拳銃や麻薬の顧客全ての抹殺であった。自分が犯した刑事としてのタブーを一つ一つもみ消していったのだ。

 

「どうせ悪人、オレは、この力で悪人を制裁するだけだ」

 

 スドウの絶頂が再び始まる。

 

 

 

 そして今日という日が来る。

 

「いつのまにか裏通りを歩くようになった」

 

 などと考えながら、白山をフラつくスドウだった。この間はついに上司の不正を発見し、ただちに制裁した。鏡の世界を自由に行き来する彼には、どのようなセキュリティも、どのような密室も意味がない。鏡の世界から目的の人物と同じ場所に居て、気づかれずに監視する事ができる。なにかとスドウの独断先行を諌めていた上司は不倫をしていた。だから不道徳の罪で制裁した。

 

「この辺りのはずだが」

 

 スドウか探し求めているのは例の骨董屋の共犯者である。マンションの管理人で、部屋を一つ用立てて取引き場所として提供していたという。もちろん彼は正式な逮捕などするつもりはない。

 

「警察だ」

 

 事は簡単に済んだ。

 ミラーワールドに強引に引きずり込めば、あとは契約クリーチャーの滋養となる。死体も残らない完全殺人が成立する。

 

「刑事の癖にライダーを悪用するのか。」

 

「見たのか。いや、おまえもライダーという事だなつまり。」

 

 スドウが見たのは、なぜそこまで黒を纏うのか頭を疑う程の細身の男、秋山蓮だった。スドウは秋山蓮を既に記憶から消している。蓮もまたスドウの事など記憶に留めていない。

 

「抜け」

 

 スドウは得意顔で自身のライダー変身システム、黒いケース、カードデッキを取り出す。

 

「ライダーになる者に道徳もタブーもない。あるのは強さだけだ。確かにそうだ。」

 

 蓮もコートのポケットからカードデッキを取り出す。

 

 ・・・・・・・・・

 

 しかし二人の戦いは中断される事になる。突如鳴り響く信号音。それはクリーチャーが現実世界に近接した時発する音。

 

「優衣・・・・、13体と言ったところか。おい、ここは預けた、」

 

 と言ったのは蓮。コートを翻し、隣のマンションへと駆けていった。

 

「そうか、ヤツにはそんなに大事なものがあるのか。なるほど。しかしよく数の特定まで出来るものだ。」

 

 置き去りにされたスドウはしかし、ほくそ笑んでいた。

 

 

 

 涙滴型のバイク、ライドシューター、

 

『アドベント』

 

 龍めがけて体当たりするウマ顔の化け物が出現、化け物はよく見るとやや金属質のボディを持ち、黒と白の縞模様に覆われている。ミラーワールドのクリーチャー。

 

「適当にあしらってろ‘ゼブラスカル’」

 

 アドベントゼブラスカル、契約カード、AP4、インスタントとして用いた場合、1剣による攻撃 、2幻覚を見せる、3馬型に変形、ナイトを1分の間騎乗させる、を任意に選択できる。

 クリーチャーに襲われる3人の男女の前に停車する屋根付のバイク、涙滴の斜角状のつまり前面が軸になって上下に分割し、搭乗者が立ち上がる。

 それが蓮のこの世界での姿だった。

 ミラーワールドと呼ばれる世界も、クリーチャーと呼ばれるモンスターも、それはあまりに架空過ぎるテレビな存在であるからこそ肯定できる。しかし、このバイクより降り立った蓮は違う。蓮でありつつも異形であり、素顔なのか仮面なのかすら判別できない。いわゆる人というリアルと架空の中間にして接続する存在が、架空の恐怖をリアルに雪崩込ませる驚愕なのだ。

 マスクド・ライダー6号ナイト。

 全身がゼブラスカルと同じ縞模様の繊維で包まれ、胸、両肩、そして縦のスリットが入った頭部は金属質の装甲、全体的に西洋甲冑の風味がある。だがその中にあって奇妙に浮いたデザインのベルトが印象的だ。バックルにしては大きい真四角の位置には、先に蓮が出したカードデッキが装着されている。

 

「蓮!」

 

「優衣!」

 

「あ、あんた、人間なのか?いったいなんなんだあんた」

 

 肩を掴んで強引に振り向かせる男もクリーチャーに引きずり込まれた被害者の一人。その男に無感情に眺めるだけのナイト。

 

 殴りつける、

 

「っが」

 

 鼻血を出して地面に頭を打ち付けられる男。

 

「蓮!どうしてアナタはそうなのっ」

 

「加減はした」

 

 ナイトはベルトのバックルに収納されている同じくトランプ大のカードを取り出す。ナイトは左腰に差した剣、長さにして70~80センチ、刃の幅は3センチ程のサーベルに近い形状の中でも、握り拳全体を保護できるナックルガードがあるシンクレアにもっとも似ている。ナックルガードはやはり馬の顔を象っている。その剣を掴み、カード持った片手で、柄頭を引く。するとメカニカルにナックルガードが縦割れし、長方形のスペースが現れる。そこにカード収め、柄頭を掌で押すとナックルガードが元に戻る。

 

『ソードベント』

 

 それはミラーワールド全体より響く機械的な肉声だった。もしかしてミラーワールドの意志かもしれない。

 天空の一点がキラリと光る。光った一点よりなにかがナイト目掛けて降ってくる。それを見もしないでタイミング良く掴むナイト。よく見ればそれは3メートル程の、三角錐のランスと呼ばれる武器に似ている。

 スカルランサー、パーマネント、AP2。

 

 ェェェェェェェ!

 

 ナイトの突然の出現で警戒していた10数体のカモシカ型のクリーチャーが吠えた。

 

「蓮、」

 

「しょせんガゼール、クリーチャーの中では最弱だ。いくら数があったところで、今のオレには通用せん。」

 

 ガゼール、特にジャンプ力とスピードに秀で、ミラーワールドにおいて最大の繁殖数と種類を誇り、絶えず10匹以上の単位で行動する。

 

「だが、問題はあのドラグレッダー、」

 

 目前のガゼールを余所に上空を見上げるライダー。先程使役した人型の縞馬、ゼブラスカルアイアンが赤い龍、ドラグレッダーに噛付かれ墜落していく。

 ドラグレッダー、およそミラーワールドにおいて数匹いるかいないかという希少なクリーチャー。絶えず宙を舞い、その破壊力と強靭な生命力は、クリーチャー中最強に近い存在と呼ばれる。

 

 ェェェェェェェ

 

 そのライダーに隙を見出したガゼール軍団が一斉に襲いかかってきた。

 

 一閃一閃一閃、爆破爆破爆破、

 

 ナイトがガゼールの群れをランスを両手で抱え、一閃ずつ迎え撃ち、その一閃だけで破壊していく。一気に半数に数を減らしたガゼールは萎縮で再びナイトと距離を取る。そうクリーチャーは死ぬのではなく破壊される。

 

 グォォォォォ

 

 だがそのライダーの直上、ドラグレッダーが口を開けて迫っている、

 

 火焔、

 

「くそぉ」

 

 ドラグレッダーの大きく開いた口から炎の球が吐き出され、ナイトは咄嗟に腕で顔面を覆ったがしかし直撃を食らう。食らった衝撃でナイトの体が宙を浮く。

 

「蓮!」

 

 優衣と呼ばれた少女が絶叫した。ドラグレッダーの尾が宙を舞うナイトを掬い上げるように弾き、まるで塵が飛ぶように軽々とマンションの屋上へ消えていった。その衝撃は人間の五体をバラバラにしかねない。なまじ表情が見えないマスクの顔が、少女の悲壮感をなお掻き立てた。

 

 

 

 激突落下、

 

 そこは優衣がいるマンションから道を挟んで同じ外観をした違う号棟の屋上。激突した面に放射状の亀裂を作るナイト。

 

「くそ、肋をもっていかれたなこれは」

 

 マスクからなにがしかのホルモンが分泌されているから、痛みそのものは軽減される。しかし体がわずかな腰のひねりを拒絶している。

 

 そこへライドシューターが到着、

 

 空中を割って落下気味に屋上に降り立ち、半回転しながら急停車する涙滴型の屋根付きバイク。屋根が前部を軸に扇型に開いて座席からもう一人のライダーが立ち上がる。

 

「よう、ナイトか。さっきのヤツだよな。」

 

 ライダー同士が対峙した時、マスク内面のモニターから、敵の情報がある程度出るようになっている。厳密なパラメーターやカードの種類、契約クリーチャーの強さなどは出てみないと分からないが。

 

「シザース、おまえに要はない。」

 

 ナイトもまた眼前に立つ同類を認識した。

 マスクド・ライダー5号シザース、ラバー質のスーツに黄金色に光る上半身のアーマーとマスク。マスクはなにか甲殻類の頭部を連想させる。左腕前腕にはハサミ型の2枚の刃があり、内向きに刃が対峙して、挟む事で切断する構造になっている。

 これが、スドウが神崎士郎から貰ったマスクド・ライダーの姿。

 シザースは徐に左腕のハサミ型武器を閉じる。2つのくの字の刃は軸回転して、逆側の背中合わせだった部位が開く。開いてカードが入るスペースが露出する。これはナイトの剣と同じ召還機、シザースバイザー。カードをバックルから取り出し挿入、バイザーを元のハサミ型に戻す。

 

『ガードベント』

 

 シェルディフェンスⅡ、パーマネント、GP2、シザースの右肩全体を覆うショルダーアーマー。

 

「ライダー同士は戦うんだろ!」

 

 シザースはひざを付くナイトにショルダーチャージの構えで突撃した。

 

「それどころではない!」

 

 スカルランサーを杖にして立ち上がり、構えるナイト。

 

 薙ぐ、

 

 スカルランサーがシェルディフェンスに直撃、AP2とGP2、同時に消失。

 

「かかったぁ」

 

 GPを持つガードベントは攻撃力がない。その代わり敵のAPを持つ攻撃に対してその数値の範囲内を防御し、パーマネントならば消去する効果を持つ。その数値が受けたAPを下回るならばガードベントの方が消去される。この場合同じ数値同士であるが故両方とも消えた。シザースが狙っていたのはナイトの攻撃の要であるパーマネントの消去だったのである。

 

「くそ、」

 

 驚くナイトを尻目にシザースはバイザーで攻撃をかける。

 

 一太刀二太刀三太刀、

 

「踊れ」

 

 バイザーの連続攻撃を一方的に受けるナイト、屋上の角に追いやられ飛び降り防止の金網に背が着く。

 

「オレハシナナイ」

 

 まるでそれは本能の躍動だった。ナイトの腰にぶら下がった剣を咄嗟に抜く、下から袈裟斬り、火花飛ぶシザース。

 

「しぶとい、」

 

 後退りするシザース。

 

「これがライダー同士の戦いというのか神崎!」

 

『ガードベント』

 

 ナイトはバイザーを開いてカードを装填した。天空より光る点がナイトに向かって降りてくる。

 

「甘い」

 

『ストライクベント』

 

 だが同時にカード装填したシザースの方がはるかに早い。右腕に浮かび上がってくるまさに甲殻類の腕に生えるハサミ、

 シザースピンチ、パーマネント、AP1、その召還カウントはあらゆるカードの中でもっとも速い。

 そしてナイトのガードベントが装着される直前、

 

 弾く、

 

「くそ、」

 

 左肩で装着されるはずだったガードベントが定着する直前に弾き返される。シザースの攻撃が両腕に増え、再び猛攻にさらされるナイト。今度はバイザーを構えているが、敵の右を受け止めたとしても左のバイザーが攻撃してくる。弾き飛ばされるナイト。

 

「オレは頂点に立つんだ!」

 

 怯んだナイトに向かって、シザースピンチを伸ばして突き込んでくる。

 

「オレは克つ!」

 

 その突きを寸で左へ回避するナイト、右へ回避すればバイザーの餌食になる、この咄嗟のセンスはナイトの日頃の賜物。そしてなおセンス光るのは既にスカルバイザーを上段に両手で構えているところ。

 

 叩き落す、

 

「キサマ」

 

 その攻撃はシザースピンチを消す事はできないが、叩き落す事には成功する。意外な抵抗に思わず身を引くシザース。この時積極的に攻勢に出なかった事があるいはシザース最大の敗因だったのではないか。

 

『ガードベント』

 

 シザースは即座に防御の体勢に入ろうとする。

 

「お返しだ」

 

 徐に足許のシザースピッチを拾い上げるナイト。投げ付けた。

 

 弾かれるシェルディフェンス

 

「生意気な」

 

 狼狽えるシザース。

 動揺と見て取ったナイト。いままでシザースは2枚のガードベントを用いている。同じカードを2枚使われた事はライアの時もあったが、カードデッキは物理的に有限、デッキ構成としてもこれ以上同じカードは無い、つまり防御する手段は無いと踏んだナイト。

 

『ファイナルベント』

 

 騎走撃、AP5、ナイト最大の技、騎馬突撃。

 空中よりゼブラスカルが登場、ウマ型に変形して、ナイトを背中に乗せた。

 

「よしおまえは終わった」

 

 確かにシザースは‘おまえは’と言う。次なるカードを装填する。

 

『ガードベント』

 

 それはバイザーに覆い被さる形で装着されるシェルディフェンスⅢ。GP2。

 衝突するナイト、ガードベントが全ての衝撃を吸収し消去する。がファイナルベントのAPを全て吸収する。ガードベントの本質は、より数値が低いにも関らず、ファイナルベントなどの圧倒的なAPを打ち消す事にある。このガードベントを3枚持ち合わせた極端な防御型デッキがシザースである。

 

「ぐぉぉぉ」

 

 ガードベントに弾かれて馬上から跳ね飛ばされるナイト。

 

「おまえは終わりだ。既におまえの弱点は握っている。」

 

 シザースの背後、まるで水面から上がってくるように床のコンクリートを透過してくるカニ型のクリーチャー。そのクリーチャーに羽交い締めにされる少女。それは先程優衣と呼ばれた蓮と顔見知りの女だった。

 

「そのまま捕まえてろ、ボルキャンサー」

 

 アドベントボルキャンサー、契約カード、AP3、アドベントをカードとして用いた場合、おおよそインスタントとして扱われるが、このボルキャンサーはパーマネントとして半永久的に召還し操作する事ができる。

 

「優衣!」

 

「蓮!ごめん!」

 

 羽交い締めにされた優衣が苦痛に顔を歪めている。

 

「バイザーを捨てろ」

 

 上機嫌なシザース。

 

「・・・・・・」

 

 言われた通りにせざるえないナイト。

 

「やはりな、この女を確保しておいて良かったぜ。」

 

「優衣の命は保証するんだろうな。」

 

「ああ、オレは悪人以外殺した事がない。」

 

「そうか、オレは悪人という事だな。まあ、そうだろう。」

 

「当たり前だろ。ライダーになって好き放題やってるヤツが良いヤツな訳ないだろ、さあ制裁の時だ!」

 

『ファイナルベント』

 

 いつのまにかボルキャンサーと前後して立つシザース、跳躍するシザース、跳躍して宙で膝をかかえ体を丸くする、丸くなったシザースを両腕のハサミでレシーブ、シザースの体が高速で回転しながら放物を描く。

 シザースアタック、インスタント、AP4。

 シザース最強の技がナイトを的確に捉えていた。

 

 こんなものなのか、オレの最期は、

 

 ナイト=蓮は目を閉じた。

 

「チャンスをやろう、ナイト」

 

 それは聞き覚えのある声だった。目をあけて周囲を見回すと、そこは異様だった。宙で像が歪みながら静止しているシザース、静止して動かないボルキャンサー、同じく像が歪みながら優衣が蓮になにか叫んだまま静止している。

 その中でただ一人ナイトに語りかけてくる男がいる。コートを纏った美青年、神崎士郎という名前である事を蓮は知っていた。

 

「神崎、」

 

「時を止めた。ヤツはミラーワールドという安全な殻の中からタブーを切り刻んできた。だが、この世界のタブーまでも犯した。ペナルティとして対戦対手のおまえにチャンスを与える。拾えバイザーを。そしてキサマの願いの為に戦え。」

 

 ナイトはゆっくり、戸惑いながらもスカルバイザーを拾う。拾って見上げると既に神崎士郎の姿は無かった。時は再び動きだす。

 

「なにっっっ!」

 

 コンクリートにそのボディを打ち付けるシザース。的確に捉えていたはずのナイトはもはやその場にいない。

 

「どういう事だ」

 

 頭をふらつかせながら起き上がるシザース。

 

「嫌われたらしいな。おまえ。」

 

『ナスティベント』

 

 ライトニックブレイカー、インスタント、攻撃力も防御力もない。対象の視覚情報を撹乱し、立ち眩みの状態に陥れる。今回の対象はシザース。

 

「ぐぁぁぁぁぁぁ、眼が、眼がぁ」

 

 シザースはよろよろとバイザーを振りながらナイトの肩に手を置く。

 

「はぁ」

 

 ナイトはバイザーを抜いてシザースを斬りつける。なおライトニックブレイカーの影響下にあるシザースはふらつくばかりで反撃の体勢も整える事ができない。

 

 一撃ベルトへ、

 

 ナイトはスカルバイザーの刃を天に掲げ、フェンシングのそれのように全身のバネを駆使して突き入れる。

 

「デッキがぁ!」

 

 シザースの視界が晴れた時の光景は、宙を舞う数枚の自分のカードだった。そうナイトはシザースのベルトに刃を突き入れ、デッキを弾き上げた。宙を舞ったデッキは中身のカード全てをバラ蒔いた。

 

「おまえの終わりだ。」

 

 一閃、

 

 ナイトは宙に舞うカードの一枚を真っ二つにする。それはシザースのもっとも重要な、ボルキャンサーとの契約カード。

 

「きさまぁぁぁ」

 

 たちまち除装されるライダースーツ。スーツの全てが炭酸の泡のように細かく音を立てて形を失い蒸発していく。スドウの絶望に歪んだ顔が顕れる。

 

「もう顔も見る事はないだろう。」

 

 そう言ってナイトはスドウに背を見せた。

 

「なんだ、キサマ、その偉そうな・・・・」

 

 焦りの色を隠せないスドウの背後から影が差す。振り返るスドウの眼は恐怖に彩られた。

 

「なんだ、なんだ、オレはおまえの主人じゃ、」

 

 契約解除の約定によりおまえの命を頂く、

 

「オレは聞いてないぞぁぁぁ!」

 

 ボルキャンサーだった。契約の解除されたボルキャンサーは、スドウの背後に迫り、まず腹部をその爪で刺す。絶叫が上がったがもう遅い。溶解の泡を吐き出しながら、次々と肉片へ切り刻んでいくボルキャンサー。

 

「なに」

 

 絶叫の声を聞いて振り返るナイト。その胸に飛んでくる一つの物体、ナイトのプレートに鮮血がかかる。地面に転がったそれはスドウの醜く歪んだ首だった。その首がやはり蒸発するように泡の塊となって消え去ろうとする。泡の中から浮かび上がってくる黄金色の珠、スドウの魂だった。魂がスゥと動いてナイトのバックルへ吸い込まれていく。

 

「悪人を食わせていたヤツは自分が悪人だという事に気づかなかったという事か。」

 

 ギギギギギギギ

 

 餌を取られて半狂乱になって襲ってくるボルキャンサー。

 

「これが戦いなのか!」

 

 ナイトがバックルからカードを取り出す。それはナイトに残された最後のカード。

 

『トリックベント』

 

 シャドーイリュージョン、インスタント、

 一人のナイトが二人に分裂、二人のナイトが四人に分裂、次々分裂して16にナイトが増える。実体のある分身となって各自が独自の動きをして敵と戦う特殊な能力を持つ。

 

 ギギギギギキギギギギギギ!

 

 ボルキャンサーに群がる16のナイト全てがスカルバイザーを抜く。ボルキャンサーは両手のハサミを闇雲に振り回す。風船のように割れて消失していく数体のナイト達。さすがに分身だけあって脆い。

 

「オレは負けんっ!」

 

 だがいつのまにか囲まれるボルキャンサー、そして一斉にボルキャンサーの甲羅の隙間を縫って10数本のスカルバイザーが同時に差し込まれる。

 

 爆破、

 

 同時に巻き込まれ、風船のように割れて消失するナイト達。爆風の中ボルキャンサーの魂が浮かび、残ったのは胸の返り血が黒く変色したナイトただ一人。ゼブラスカルが空を割って現れ、光の珠を捕獲する様を眺めている。

 

「蓮!」

 

「帰るぞ優衣。」

 

 始終見ていた優衣は、ナイトに向かってツカツカと歩み寄る。

 

「どうして!どうして殺したの!貴方はそんな人じゃないと思っていたのにっ!」

 

 殺した?なるほど結果としてそうかもしれない。自身の命を脅かした者に対してこんな事を言える女が優衣である。それは命を真に慈しんでいるのか、ただ絶対視しているのか。

 

「ああ、ようやく一人減ってくれた。」

 

 そう言うナイトだった。

 

「なんてヒドイ人!」

 

「オレは、ライダーだ!」

 

「貴方とはもう口を聞いてあげない!」

 

 ナイトを突き飛ばしてミラーワールドから脱出していく優衣だった。

 

「そうとしか見えなかったのなら、それが事実だろう。」

 

 ナイトは一人立ち尽くしている。

 

 

 

 須藤雅史

 28歳。警察学校を卒業後、警視庁捜査一課所属といういわゆるキャリア組に属する優秀な刑事だった。広域捜査課設立の際、彼は中心人物としてその地位を約束されていたが、浅倉威を取り逃がした事でその責の全てを負わされ、出世コースから外れて小竹署へ転属となる。その小竹署勤務時念願の浅倉威逮捕を実現するも、部下でもない所轄警官を勝手に動員しまた負傷者を数名出した事が問題になり、功績は帳消しとなる。

 だが小竹署においての勤務態度は以後も真面目であり、検挙率も優秀、正義感に燃え、部下から末端の警官に至るまですこぶる評判の良い男だった。

 02年9月10日以降、一切の連絡が不通となり、行方不明として扱われる。

 その彼のミラーワールドにおける姿こそマスクド・ライダー5号シザース。

 契約カード

 ストライクベント

 ガードベント×3

 ファイナルベント

 という徹底的な防御型デッキである。契約カードの効果も含めて6枚中5枚が持続的効果を持つパーマネントであり、ライダー同士の戦いにおいて、場、即ちイニシアティブを制する能力が非常に高い。逆にパーマネントの傾向として攻撃力が低い事がストレートに反映されており、平均的に一段攻撃力が低く致命打に欠ける。敵の攻撃を再三防ぐ事ができても、敵ガードベントをいかにかいくぐるかに課題を残すデッキである。

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