仮面ライダー龍騎SPRITS   作:bassher

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ここは02年度放映された特撮番組『仮面ライダー龍騎』の二次小説です。『仮面ライダー龍騎』、並びそのスタッフ、また講談社マガジンZ連載『仮面ライダーSPIRIT』著者には、一切関係ありません。
公開は07年11月からとなります。


コア・ミラー 03-01-04

 

 

 

 

 

「真司くん、アナタに一言言いたい事があるの。」

 

 令子は歯磨きをしながら鏡台に向かって話し掛けた。

 

「ヤダ、待ち焦がれてる・・・そういうんじゃないのに・・・」

 

 令子はまた消えない皺が増えた事を嘆いた。

 

 OREジャーナル編集長桃井令子がいつぞやの城戸のように事務所に泊まり込むようになって彼此1週間が過ぎようとしている。今月はついに新聞の配達先をここに指定してしまった。城戸真司が休職して以来、なんとスポンサーのボンボン芝浦淳までもが連絡も無く休むようになった。たった二人となったOREジャーナルは不眠不休火の車のような忙しさになり、負い目もあった芝浦の父が自身の会社から2名出向として優秀な人間を用立ててくれた事で、辛うじて年末を乗り切った。そんなこんなで私生活を切り崩し、目の下のクマが取れない令子に、追い撃ちをかけるかのように平成15年が始まる。

 

「スッパ抜かれた、私の記事を、」

 

『大量失踪事件の謎がついに明らかに、

原因は妄想毒電波殺人ゲーム』

 

 一面右端半分に‘ライダー’という語句が縦書きされ、中折れを開くと、‘という妄想ゲーム’という見出しを書き立てたスポーツ新聞もある。

 

「どういう事、あの世界をゲームだなんて、」

 

 新聞の記事と、令子が今まで認識していたミラーワールドやライダーの実態は驚く程の誤差があった。

 ライダー、という単語がネット世界で拡がりはじめたのは、ミラーワールドに引きずり込まれ、令子のようにライダーという奇抜な装束を纏った集団、目撃者によってそれぞれ特徴が違う為複数である事が分かっている、集団がそれだけの数の人間を救済している事実に基づいている。救済された者が一応に、化け物に襲われ、鏡や光を反射するモノから対称で逆転した街の風景へ引きずり込まれ、そしてライダーという存在が突如現れて救出しているという一致した証言をしている。警察では、近頃の行方不明者の急増をにわかにライダーという存在に結び付ける事を、証言者の数が増加する毎に逆に避ける傾向にあり、その現実感の乏しい話はむしろネットなどで都市伝説と化して日夜話題に登っていた。

 だが警察の対応が変化せざる得ない事態が訪れる。警察組織に属する者が一名、突如消息を断ったのである。名前は須藤雅史。身内の問題となれば話は変わってくる。家宅捜索の結果、ライダーという語が、彼の自宅端末のデータから頻繁に読み取られ、なおかつ彼自身がその‘正義の味方’である証言も伺えた。須藤のデータから、関係者らしき人間が幾人か身柄を拘束され、尋問を受けた結果、

 

「あれは、ゲームですよ。」

 

 という証言を得るに至る。証言者は芝浦淳。なんと目と鼻の先にいる者が二名までもライダーだったという、令子にとって痛恨の事実であった。事実にあと半歩と迫っていながらかっ掠わられてしまったのである。令子は腹の底が煮立つ想いだった。

 

「こんなデタラメ記事なんかはどうでもいいのよ、問題は事実を知っている人間よ!」

 

 令子はなにがゲームで、なにが毒電波かなどという事は読み飛ばし、ライダーを名乗る者のリストへ目を移した。問題はこのライダーへ自分がアプローチする事である、そう直覚した。

 

「芝浦淳、手塚海之、この占い師、取材した事あるわ、秋山蓮、城戸真司・・・・・え、これ、まさか、北岡秀一!」

 

 令子は朝の7時だと言うのに、ハンドバックとノートブックを秒単位で用意し、事務所のドアノブを開けた。

 

「ナナ、おはよう、ちょっと行ってくる、」

 

 黒メガネから最近コンタクトに変えた島田奈々子はやや早出して、猪のように飛び出した令子とバッタリ出くわす。令子の顔をマジマジと眺めた島田は、下顎から唇が歪んでいき、歪みがクネりの動作となっていつまでも挙動が収まらなかった。

 

 

 

 白きマントを翻すライダー。基調カラーは白であるがナイトにやや似ている。ウェストは括れ、プレートアーマーは前部に膨らみがある。

 

「私は勝たなくちゃいけないんだ、どんな汚い手を使ってでも、」

 

 女声である。白鳥をイメージさせる優雅なフォルム、唯一の女性マスクド・ライダー10号ファム。その腰にはナイトのものよりやや刀身の細いサーベル、いやレイピアを帯びている。これがブランバイザー。

 

「勝つ?そうか、また止めねばならんな。邪な意志を。」

 

 ワインレッドの輝きが、天井から壁にかけてガラス張りで透けるドーム状の屋内にあって鮮やかに光沢をゆるがせている。ファムのバイザーを見てとったそのライダーは勝てる対手である事を確信した。マスクド・ライダー3号ライア。

 

『ソードベント』

 

 ファムの召還はナイトと全く違わない。柄頭を引いて鳥が翼を拡げるように、ナックルガードが左右に展開、カードをベルトのバックルから抜いて装填、掌で柄頭を押す。およそ4行程かかる。ファムは宙より身長程もある坤に双刃をつけた薙刀を現出させる。

 ウィングスラッシャー、パーマネント、AP2、

 

「召還が早いな。」

 

 といいつつ、カードを先に消耗してくれる有利を看破しているライア。

 

「誰かは知らないが、まずはおまえの命からだ、」

 

 間合いは10メートルを越えている。長くても2メートルを越えないスラッシャーを横かぶりに振るファム。

 

 伸びる、

 

「ほう、」

 

 伸びるウィングスラッシャー、なんとその全長を2メートルから10数メートルまで伸ばし、一気にライアの喉元にその刃を届かせる。

 盾で弾くライア、バイザーの盾ではスラッシャーのAPを殺す事は本来できない。だが腰の捻り、腕のバネ、体全身で吸収して姿勢を崩さないライア。

 

「小賢しい」

 

 苛立つように間断なくスラッシャーを伸ばして打つファム。

 

「中々便利な道具だ。」

 

『コピーベント』

 

 盾で弾きつつも小器用にカード装填をするライア。途端中空に現れるファムと全く同じ得物。

 

「なに、」

 

 自身と同じ得物を現出され一瞬怯むファムに、容赦なくスラッシャーを伸ばすライア、

 反対の刃で弾くファム、

 

「双刃は返しで防御もできる。過ぎた程便利な道具だ。」

 

 AP2対AP2、弾くと同時に二つのスラッシャーが消失。

 

『スイングベント』

 

 その現象が経験的に読めているライア、既にエビルウィップを召還、

 

「くそ」

 

『ガードベント』

 

 ウィングシールド、パーマネント、GP2、鳥が翼を広げたようなVの字型の盾。

 

「やはり召還が早い、」

 

 ライアの言う通り、遅れを取りながらライアとほぼ同じタイミングで守りを固めるファム。

 

「負ける訳にいかない!」

 

 盾を構えつつバイザーを抜くファム。

 

「いや、負けだ。どんな願いがあるのか知らんが、どうせおまえの脳の中の物語だ。」

 

 スィングが伸びる、伸びた先はファムのレイピア、ブランバイザーがファムの手から奪われる。それは即ちファムの装備が盾以外無くなり、以後武具の召還すら叶わない状況に追い込まれた事を意味する。

 

「返せ!」

 

「チェックだ。おまえの願いは正直知らん。命に関ろうが、名誉に関ろうが、それはおまえが置かれた抗うべきでない運命だ。おまえ一人が特別にその抗うべきでないものから解放されるなど、慢心だと思わないか。」

 

 盾を構え続けるファムを嘲笑するライア、その肩に一輪の羽根が舞い落ちる。

 

「ん」

 

 その不自然な、そうミラーワールドに鳥が存在するなどあり得ないのだから、その羽根に一瞬目を奪われてしまうライア、再び前方に目線を移すと、一面白の世界が拡がっていた。

 

「撹乱か」

 

 次々と豪雪のように舞い下りる羽根、その密度は前方数センチの視界も取れない、ファムを見失う程にライアを撹乱した。

 

「返してもらう!」

 

 それは手刀、ブランバイザーを握るその手首目掛けて手刀が打ち込まれ、思わず落してしまうライア。

 

「盾か、」

 

 その羽根の幻覚は、ウィングシールドの特殊効果。バイザーを奪われながら、盾だけで状況を逆転に導くファム。

 

「貰った!」

 

 床から即座にバイザーを拾い上げライアの足へ切っ先を向けるファム。

 

「この程度で、」

 

 跳ね飛ぶライア、盲目の状態に陥りながらも、一点に立ち尽くす危険を推測しての回避。

 

『ファイナルベント』

 

 そして突破口を最大の技に賭けるライア。床面スレスレで飛行するライアの契約クリーチャーエビルダイバー、その風圧が気流を乱し、舞い降りる羽根を吹き飛ばしていく。

 

「はぁ」

 

 ライアがジャンプ一番飛び乗ると同時に一旦上方に舞い上がって宙返り、水平方向からファムに向かって突進。

 

『ファイナルベント』

 

 ファムはだがしかし慌てない。むしろファムにとってもそれは絶好の好機。何故ならファムのそれは、全ライダー中唯一の迎撃型ファイナルベントなのだから。

 ミスティースラッシュ、インスタント、AP5、

 

 クァァァァ

 

 ライアの背後、床を透けて舞い上がる翼、それはファムのクリーチャー。カモ科水鳥の総称、白いボディと力強い翼、愛敬のある黄色い嘴のそれは白鳥、ブランウィング。

 そのクリーチャー中でも1、2を争う圧倒的な膂力で左右の翼をライアとエビルダイバーに向けて羽ばたかせるブランウィング、

 

「体勢が保てんっっ」

 

 ライアとエビルダイバーは背後から圧倒する風量でバランスを崩し、自分からで無く、強風によって直線上の先にあるファムに向かっていく。それをウィングスラッシャーを構えて待ち構え切り裂く事で、その風力を攻撃力に還るファイナルベントだった。しかし、

 

『ホールドベント』

 

 バイオワインダー、ヨーヨーの円盤型の錘が軸回転しながらファムに飛ぶ、

 

「どこ、敵はどこ、」

 

 ファイナルベントのモーションをただちにキャンセルして、盾でヨーヨーを弾くファム。

盾とヨーヨーが相殺して消失。だがヨーヨーが放たれた先を見ても、対手の姿が無い。

 

「ベルデか・・・・」

 

 エビルダイバーと共に床に滑り転がって難を逃れるライア。

 

「ハハハハハハ、ハっハハハハハ」

 

 高笑いを上げながら光の錯覚のように現れる。全身を緑の光沢に包んだカメレオンを模したライダー。マスクド・ライダー2号ベルデ。

 

『コピーベント』

 

 左腿に巻かれたケースがある。そのケースからリールを引っ張り出すベルデ。左腕でリールの先のクリップを掴み、右手でカードを挟む。左腕を放すとリールは勢い良くケースに戻っていく。カードは巧い具合にケースに収納され、収納された瞬間カード召還の肉声が轟いた。

 即座にウィングスラッシャーを召還するベルデ。

 

「やっぱり君達ボクの敵じゃないね。」

 

 一方的な攻撃に成功して上機嫌になるベルデ。得物を手にファムに襲いかかる。

 

『ソードベント』

 

 ファムもまた3本目のウィングスラッシャーを装着。ベルデが振りかぶるよりも早く迎撃の体勢を取っている。

 

 交差する刃、

 

 消える二つの薙刀、

 

「私は負けるわけにはいかない!」

 

 ブランバイザーを抜いて切っ先が見えない程の速さで振り斬る。

 

「危ない子だなぁ、攻略してあげないぞ。」

 

 飛び退くベルデ。ベルデは他のライダーと違う特徴がある。即ちバイザーに攻撃能力が無いという点である。即ち抑止力が無いという事である。だがその代わり、

 

『クリアベント』

 

 ボディ透明化、インスンタト、文字通りベルデ全身を一定時間光学的に迷彩する。このカードの意味する所は、対手に対しての完全防御と完全奇襲である。そしてこのカードからコンボする攻撃技をはね返せる者はおよそいない。誰も目視できない対手を捉える事はできない。ほぼ完全なハメ技を持つライダーなのである。

 

「敵は二人、」

 

『ガードベント』

 

 ファム2度目のウィングシールド。それは防御の為ではない。

 

「なんだこの羽根は、」

 

 ベルデも同じく羽根の異変に気づく。そしてやはり同じく見渡す限り圧倒量の羽毛に気づく。もはや数センチ先の視界すら取れず、ファムを完全に見失った。

 

「今度は必ず、」

 

 ファムのそれが捨てゼリフであった。

 

「実力が勝ったのではない。そのデッキの性能のおかげだという事を忘れるな。」

 

 ようやく起き上がったライアがそう叫んだ。

 

「ふん、女だな。負けんのが怖いんだ。」

 

 姿を現出させるベルデだった。

 

「助ける義理など無いだろ。」

 

 訝しむライアの片手にはエビルウィップが握られている。

 

「ヤダなぁ、ボクはね、ライダー全員に降り懸かる危機を教えてあげようとしただけさ。さっきの彼女も実は誘いたかったんだけどね。」

 

「危機?」

 

「そう、ある二人のおバカさんがね、このミラーワールドを破壊しようとしているんだ。だから、全ライダーの危機さ。」

 

「まさかコア・ミラーの事じゃないだろうな。」

 

「ソいう事、今でもクリーチャーを産み出し続けているアレを破壊しようとしてる二人のライダーがいる。これは全ライダーにとって切実な問題だと思うがね。クリーチャーかいなくなれば、このゲームが楽しめなくなる。みんなも絶対イヤなはずだ。だからさ、このベルデ様が大同盟を組んで、その謀を防ごうって言うのさ。」

 

 ライアはベルデの言動を肯定などしなかったが、否定もしなかった。ライダーは契約クリーチャーにエサを与え続けなければならない。もし与えるエサが尽きてしまえば、己が命で賄う他無くなる。コア・ミラーの破壊はエサの生産がストップするという事であり、それでもエサを与え続けるしかないライダーはクリーチャーが尽きるまで減らし続けるしかない。破壊しようとする2人のライダーは、その事が分かっているのだろうか。さらに言えば当然減らす者は2人より1人になる方が良いという考えが起る。ライダー同士の戦いは死活問題に直結して激化するだろう。単純にクリーチャーを減らせば、外の人間の被害が減る、そのような事だけを考えているとすればそれはバカ者だ。

 

「おまえに同調する者はいるのか。」

 

 とだけライアは言った。

 

「少なくとも3人とはパイプを持っている。おもしろいと思うんだけどな。このパーティ。」

 

 やや反応鈍くライアは答える。

 

「バカバカしい。どうせその2人のライダーを倒したいだけだろ。私は、どちらにも加担しない。ライダーバトルを止めさせる事が、このオレの願いだからな。」

 

 ベルデに背中を向けるライアだった。

 

「なんだこいつ、気取っちゃってさ。バカバカしいのはアンタの方さ。食らうかい。ボクの、カード。」

 

 ファイナルベントのカードを振りかざすベルデ。

 

 ムチが飛ぶ、ベルデの手から弾かれるカード、

 

「5枚めだろ、それ。」

 

 なんと背中を向いたままエビルウィップを放ったライア。

 

「・・・・キサマ、どうしてトドメを刺そうとしない!おまえ見かけ倒しだろ!人殺しもロクにできないんだ!チャンチャラオカシイね!それじゃボクには絶対勝てないさ!」

 

 ライアは無言で立ち去るのみで、ベルデの悲鳴に近い叫びが聞こえていたかどうかはその様子からは伺えなかった。

 

 

 

「まさか警察に抑留されるとは思いませんでした。これからは考えないといけませんね。東條くん。」

 

 香川英行は、警視庁前に立ち、迎えの東條悟が運転する車に乗り込もうとしている。

 

「ハイ先生。」

 

 なぜか執拗に薄目で前方を見据える東條は素直に応えた。素直に応えつつ、バックミラーを見ながら、香川に新聞を手渡す。

 

「妄想毒電波ね、デッキより思念波が出ていて、ライダー達はミラーワールドという共通した仮想空間を目で見て、耳で感じて、大立ち回りしている、あまりにもリアルに近い印象を受けデッキに現実感を依存し、リアルと虚構の壁を失調してしまったライダー達は、しばしば人をクリーチャーと認識して事故を起してしまう。ライダーは大量殺人を犯し、山に埋め、海に捨てている。それもまたゲームに組まれている段取りだから、彼らはプレーしている錯覚しかない。その犯行が露呈しないのは全てデッキによる思念波が周囲の人間もその影響を受け、殺人自体が見逃される為、ライダーは殺人をした意識も無く、死体遺棄した場所も完全に覚えていない。気がつけばいつのまにか行方不明になっている。全ては、現実を区別できなくなる程に虚構の世界を脳内に構築する事ができるデッキの思念波のせい、それが真相ですか。ワンクリックで買い物するかのような感覚で、人の命をやり取りしてしまう。」

 

「先生が警察に言った事じゃないですか。」

 

「そう、その通り。だからバカげているのですよ。その程度の、ハッタリ、が社会で通用して流布されるのですからね。脳科学はそんな甘いものじゃない。デッキの思念波によって、脳に直接虚構を見せる、そんな事ができる訳がない。仮にできたとしてもミラーワールドという共通した認識を与えるなぞ不可能です。脳ほど主観的な生き物は無いのですから。脳同士が互いに共通した認識を持つ情報は、目と耳から得た情報以外あり得ない。脳を錯覚させるのもまた、目と耳から得た情報以外あり得ないのです。」

 

「でもその為にいろいろと誤魔化したじゃないですか。専門家の前で。サイコローグを操作するのは苦労しました。」

 

「ええ、クリーチャーを見せました。デッキを多少改良し、彼らを欺く為の思念波周りの理論構築で2日も無駄に時間を費やしました。ですが、人はしばしば低度の甘い認識であっても、そう願望する限り、それを事実としたがる傾向にあるようです。彼らを観察していてつくづくそう思いました。科学者は現実を認識するよりも、従来の認識法則に依存し権威化し保守に回る者が圧倒的なのだと。クリーチャーを見せても、私が最初に刷り込んだ錯覚という認識を打破できなかった。くだらないヤツらです。」

 

「先生もその専門家の一人として呼ばれたんじゃないですか。」

 

「芝浦もヤケになってライダーの名前を明かしても、私の名前を告げなかったのは幸いでした。」

 

「彼はミラーワールドに、」

 

「ええ、去年の段階で警察からうまくデッキを受け取って逃げおおせたようです。ミラーワールド以外居場所を失ったライダー達は、戦いを過激化してくれるでしょう。元の生活を回復する願いが加わりましたからね。神崎士郎にしてみれば思惑通りでしょう。他の者も、そろそろミラーワールドへ避難している頃じゃないですかねえ。」

 

 

 

 渋谷と代官山の間、二つの渦の間に奇妙な真空地帯が出来あがるように閑静な住宅街があり、その一種異様な力によって構成された静けさの中北岡弁護士事務所がある。

 

「まだ居たの!」

 

 令子がゴローに導かれて屋内に入り目に入ったのは、堂々と前掛けをしながら朝食を取る北岡秀一の姿だった。

 

「やあ、ボクは現実が許す最大限自分の好きなように動く男ですよ。警察も自宅に舞い戻っているとはまだ思わないでしょうからね。まだイケます。」

 

「そんなの時間の問題でしょ!」

 

「心配してくれているのだ、光栄です。」

 

 前掛けを取り去り、口を拭う北岡。

 

「で、ボクになにを聞きに来たのです?」

 

「決まってるでしょ」

 

「ボクの気持ちは、」

 

「ミラーワールドの真実よ!」

 

「新聞に出てたでしょ。」

 

「他人の新聞読む事がジャーナリストにとってどれだけ屈辱かアンタみたいな腰抜けにはわかんないでしょ!」

 

「情報は情報なのになぁ。じゃあ少なくともジャーナリストとしての仕事をしてくださいよ。」

 

 令子は眉間に皺を寄せたが、一瞬北岡から視線を外して、息を整えた。

 

「じゃあ、お伺いします。ミラーワールドとはいったいなんなのですか。」

 

「ボクも城戸真司も、確かにマスクド・ライダーですよ。」

 

 数段階すっとばして令子の聞きたい答えを出してしまった北岡だった。あまりにあっさとりと述べられた事実に唖然とする令子。

 

「・・・・・・、私の見た事は事実だったのね。」

 

 北岡は立ち上がり、全身を写す鏡台の前へ。既に手にはデッキを持っている。

 

「事実とは、自分が見たものの事を言うのか、社会が認定した事を言うのか。自分も社会も同じ妄想を見せられていたとしたら、それはもはや妄想でなく、事実なんでしょうかね・・・・、見せましょう事実を。変身!」

 

 鏡の前にデッキを翳す、ベルトが召還され北岡の腰に実体化する。デッキをバックルにはめ込むと、緑のスーツが体に貼り着くように装着される。マスクド・ライダー7号ゾルダ。

 

「それがアナタの姿・・・」

 

「これから私は、しばらくミラーワールドに籠ります。どうやらミラーワールドでは食べなくても生きていけるらしい。何日か、何年かもしれないが、中で難を逃れます。」

 

「貴方だったら、新聞に記事が載る前にそうできたでしょうに。」

 

「ええ、でも貴方が来るのを待っていましたから。」

 

「え」

 

 再び唖然とする令子、失笑する北岡。

 

「貴方も女ですね。特別扱いされるとやはり喜ぶ。」

 

「揶揄わないで」

 

「いや本音ですよ。マスコミとしての貴方とあのSOHOを利用しようとも思っていたが、それとこれとはまた別ですからね。」

 

 ゾルダの仮面からはその表情が読めない。

 

「待って、城戸君は、城戸君はどうして、」

 

「香川英行と神崎士郎、メモしてください。」

 

「え」

 

「私が分かる事はそれだけです。そして、貴方が真実に近づいてくれる事を祈っていますよ。願いを叶えたとしても、犯罪者になったらたまらないですからね。」

 

「待って、まだ、」

 

 令子が制止するにも関らず、ただ2本指を振ってゾルダは鏡の中に突入した。令子は追いすがって鏡に手を付くが、ただ硬い、冷たい感触が皮膚を伝わるだけだった。

 

 

 

 

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