公開は07年11月からとなります。
ドラグバイザーの額にあたる部位をスライドさせる、カードを抜く、装填、折り返す形でバイザーを戻す。
『ソードベント』
「城戸のようにいかんな」
紅いスーツ、スリットのある仮面に昆虫の複眼のような大きな目が二つ、左腕にはドラゴンの頭を模したガントレット状のバイザー。紛れも無くその姿はマスクド・ライダー8号龍騎である。が、声と仕草が違う。
対する敵はソノラブーマ。黄金色に輝くセミのようなクリーチャー。
ジリジリジリ・・・・・
「なんだ、」
剣を握りながらもその剣の重さを感じなくなる龍騎。足も地に着いた感覚を失い、体が内側に縮んでいくかのような錯覚に囚われる。3日程寝ていないような感覚。
「この音か。」
立ち尽くすソノラブーマの泣き声だけが脳の中で拡大し、立ちながらも睡魔に襲われる龍騎。
鎌が炸裂、火花散らして吹き飛ぶ龍騎、
「くそ」
ソノラブーマの両腕に生えた鎌に吹き飛ばされ、仰向けに倒れ込む龍騎。大の字になってまるで無防備。
ミーン・・・・・
と本来の声を出しながら近づき、鎌を大きく振りかぶる、
剣が鎌を斬る、
だがしかしドラグセイバーが、振り降ろされる鎌を絶妙なタイミングで切断、
「隙を作る事が難しいデッキだしかし。城戸はどうやってこのデッキであそこまで戦える、」
龍騎は眠っていなかった。最初の一撃でほぼ覚醒していたのである。狸寝入りで騙したのである。
さらに二撃、
もう一つの腕を切断され、さらに返す刀で脚の一本にダメージを負う、ソノラブーマは大地に転がる。
『ファイナルベント』
ややぎこちないカードイン、疾走しながら飛翔、ドラグレッダーが纏わりつき、龍騎がクリーチャーの直上に達した時一気に火焔を吐き掛ける、両足を揃え錐揉みしながら蹴撃する龍騎、
爆破、
爆破するソノラブーマ、浮かび上がるクリーチャーの命の珠、宙で蛇行しながらそれを口に入れたドラグレッダーは天高く飛翔し、見えなくなっていった。
「畳み掛ければ強い、だが、いざ劣勢になれば反撃の糸口が無いデッキだ。こんなデッキを城戸はよく使っていられる。」
戦い終わって仰向けに倒れる龍騎、デッキをベルトから外して装着が解除された時、あの執拗なまでに黒ずくめの秋山蓮の青ざめた顔が現れる。
「ミラーワールドで雨なぞ降る事があるまい。クリーチャーに襲われればそれまでだが。」
蓮はそのまま目を閉じた。
新宿区役所前にカプセルホテルがある。ミラーワールドでは、たった二人の客の貸し切りだ。その二人の内の一人である秋山蓮が、ヨロヨロと壁に手を付ながら帰ってきた。数十あるカプセルの中でただ一つ明かりの点いているのは319号、その中を覗き込む蓮。
「やはり、契約クリーチャーに命を与える事で契約者はここで生きていける。」
カプセルで寝ているのは城戸真司だった。城戸真司は、タイガとの戦いで、骨が折れ、内臓を傷つける程のダメージを負って生死の境を彷徨っていた。ミラーワールドから出る事が叶わないが故手当する事もできない。城戸真司はそのまま死に向かうしかなかったろう。だが蓮は諦めなかった。彼はある程度この世界で自分達が生き続けている理由を直感していた。ドラグレッダーにクリーチャーの魂を食わせ続ければ、契約者である城戸を回復させるのではないか、そんな愚にもつかない考えから彼は龍騎として十数体のクリーチャーを見つけては倒していった。もしかしてケガや病気に対してなんの効果も無いかもしれず、契約者でなく装着者が契約クリーチャーから滋養を得るかもしれない、そんな虚しい結果を得る確率の高い投機に蓮はこの数日間命を張った。
「借りは返した。ここまで回復すれば、後は寝ているだけでなんとかなるだろう。さすがに今は、オレの方が倒れそうだ。」
だが蓮の直感は当たった。クリーチャーを一体ドラグレッダーに食わせる毎に真司は回復していった。最初の数日寝ながらにして苦痛に顔を歪めていた真司が、苦痛が収まり、汗が引き、寝返りを打つようになり、あの小うるさい鼾もまた立てるようになった。
「オレは寝るからな。」
向かいの321号に倒れ込むように眠りについた蓮だった。
蓮が再び目を開けた時飛び込んできた光景は、金魚が並んで線を作る縞模様のパンツであった。
「汚い」
「お、蓮、やっと目ぇ醒ましたな。おまえホント不摂生だな。もう夜だぞ。」
「煩い」
血圧が上がらないまま、城戸真司の必要以上に煩い声に不快を覚える蓮。
「なんかスッゲーぐっすり眠ったなぁ。オロナミンCだよ!」
「元気ハツラツが抜けてるだろ。」
「オレさ、なんかスッゲー充実しててさ、体動かしたくてさ、さっき外でマラソンしてきてさ、こんなもんまで拾ってさぁ!」
と蓮の目の前で成人雑誌を見せ付ける真司。
「高校生かおまえは、」
あっさり手で払う蓮。だが顔面の毛細血管には多量の血液が流れているのが分かる。
「ハハハ、おまえも立派に男だよなぁ!でもさ、不思議なんだよな。何日も寝てたはずなんだけど、腹減らねえんだ。」
「バカか」
「おれバカじゃねえぞ、バカ言うなバカ」
「そんな事はここに閉じ込められて1日で気づけ。」
「おまえ気づいてたの?!」
「当たり前だ。」
「そうか、気づいてて当然だったんだ、あ、でも普通気づかねえって。おまえ頭いいんだよ。」
「キサマにとってこの世は天才で溢れているのだろうな。」
「なんだこいつ、逐一バカにしやがって、そうだ、おまえ、オレのデッキ知らねえか、見当たんねえんだよ。」
ポケットからデッキを一つ取り出す蓮。
「これか」
「お、お、お、おまえ、なに盗ってんだよ、」
蓮が放り投げ、真司が危うげに落しそうになりながらもキャッチ。
「当たり前だ。これから行動を共にしようとしているヤツの手の内は知っておかなければ危険だからな。使わせてもらった。」
「なんだよそれ!じゃあおまえのも使わせろよな、」
と言い終わる前に自身のデッキを放り投げる蓮。
「まあ、それもそうだ。」
再びベッドに倒れ込んだ蓮はしかし、薄ら笑みを浮かべていた。
「へへ、もら~い~」
などと下町のコンビニ横にいる小学生の風景のごとく、カードデッキを掲げながら外へ飛び出してしまった真司だった。
「この程度はあいつを使って楽をさせてもらおう。」
蓮は通路側に頭を向けながら横になった。ふと目をあけると、先程真司が拾ってきた雑誌が人の字で通路に落ちている。表紙は様々な活字が錯乱するように書き立てられている。
「待て、」
手に取る蓮。およそそれ系の雑誌を眺めているとは思えない無表情さでペラペラと捲る。もしかして死滅した用語でムッツリすけべなのかもしれない。
「やはりそうだ。これはミラーワールドの代物だ。」
いや、蓮はムッツリではなかった。蓮が雑誌に注目したのは、活字の方。決してグラビアのヌード女性ではない。決して。
「反転している。」
活字が反転しているのである。驚くべき事に、雑誌の中身もまた反転した活字によって彩られていた。起き上がって目つきが変わる蓮。
「清明院大学401号室。恵理はその研究グループにいたはず。本を中身までコピーできる世界だ。なにかあるかもしれん。ミラーワールドを研究した書類かレポートが。」
『フリーズベント』
『コンファインベント』
『リターンベント』
『コンファインベント』
「不愉快なヤツだなぁ。なんで思った通りやらせてくれないんだよ。」
ホワイトカラーにブルーの縞模様を全身に彩ったマスクド・ライダー12号タイガ。
「当たり前だ。戦いだ。命がけのな。ガキか。ボケが。」
リベットを所々打ちつけているメタリックボディ、マスクド・ライダー4号ガイ。
『ストライクベント』
タイガの方が先に動くも、
『ストライクベント』
しかし先に召還されたのはガイの得物。
メタルホーン、パーマネント、AP2。ナックルガードにやや反り返った角を突き出したガイの刺突武器。
ガイが先んじて突進、その突きを軽く引いた上斧型バイザー、デストバイザーで切っ先を逸らすタイガ。そして遅れ馳せながら上空より両腕に填まり込むタイガの得物。
デストクロー、パーマネント、AP3/GP3。前腕全体を包むアーマーの先に熊手のように5本ずつ鉤爪が伸びている。
「なに必死になってるの」
「ガキが」
メタルホーンを突く、肘を立てデストクローを盾に、衝突、消え去るのはメタルホーンのみ。
「さっき言ったよね、命がけって。」
対手に一切の武器が無くなった事で、あえてのんびりと近づくタイガ。
「おのれガキが。」
一気に飛び退くガイ。カードを抜くと同時に左肩メタルバイザーのフタをスライド-カードを投げ入れるように装填-フタを閉じる。3行程。
『ファイナルベント』
ヘビープレッシャー、インスタント、AP5+クリティカル、突撃型最終攻撃。
カード発動の肉声と共に、ガイの背後から現れるメタリック色のクリーチャー。メタルゲラス。地上においてゾウに次ぐ大きさを誇りながらも車並の速度で走るそれは2本脚立ちのサイ。やや前屈気味に突進し、跳躍するガイの両足がゲラスの肩に付きちょうど水平俯せで浮き上がった状態のガイをそのまま圧し出す形になる。このまま突進する事で対手を粉砕するファイナルベント。しかし、
「結局おたくも英雄じゃないって、事だよね」
しかし両腕の得物を並べてガードするタイガ。衝突、弾き飛ばされるのはガイ、不動のタイガの得物は消滅する。
「ただのストライクベントじゃないのか、ダメージすら見えん。」
だがガイが起き上がる前に、既にタイガは、斧の柄先を押す、連動して刃側の柄先が上方に押し出されカードインスペースが顕れる、カードをバックルから引き抜き、カードイン、再び柄先を握ってスライドさせ元に戻す、4行程を完了している。
『ファイナルベント』
クリスタルブレイク、インスタント、AP6。
龍騎にやったのとほぼ同じくデストワイルダーが突如ガイを横殴りに押し倒し、地面に引きずり疾走、疾走する先を待ち構えるタイガ、掬い上げるように放り投げられるガイ、仰向けのまま宙を舞って、落ちるのはタイガの頭上、背中からデストクローが刺さる。この対手の肉体を片腕で高く掲げるポーズがクリスタルブレイクの完成である。
「ずっと考えてたんだこのポーズ。脊椎をやると動物は死ななくても一生再起不能だからね。」
まるで棚から荷物を落すように地面にガイを放り投げるタイガ。仰向けで伏するガイから命の珠が飛び出るのを待っていたが、その機会は永久になかった。
「あいにくだが・・・・」
ガイの頭部のツノが折れている。それは、全ライダー中ガイだけに特有の能力、一回きりのファイナルベント無効化の発動した証である。起き上がるガイ。
「バカな」
人知を越えた化け物でも見るかのような恐怖を顕にするタイガ。
「私は、おまえのようなガキとは違う、死ぬわけにはいかんのだ。」
銃撃、
全ライダー中銃を使うものはただ一人しかいない。
「よっ」
マスクド・ライダー7号ゾルダ。
「おまえか。横取りでもする気か」ガイとは今なお共同戦線中である。
「ガイさん、それからそこのタイガさんにも、実はベルデ経由でいい話を持ってきたんですよ。」
「待て、そこのヤツともチームを組めと言うのか。冗談ではないぞ。こんなガキを。」
「今回はクリーチャーが対手じゃない。ボクらと同じ、ライダーです。」
ガイに触れる程近づいてくるゾルダ。そして小声でガイに語りかける。
「良かったですね。あのガキは、貴方が今アドベント以外手札が無い事を知らない。」
「横取りする命は、私でもあのガキでも、おまえ次第という事か。」
「さすが察しがいい。だから貴方とはいい仕事ができる。」
「ゴタクはいい。対手とは。」
「ナイトと、龍騎。コア・ミラーを破壊したがっているそうです。」
新宿歌舞伎町より、2台のライドシューターが青梅街道を西進。東大和付近で分岐して立川通りを南下、多摩川を渡ったところで、モノレール下を並走。
「なんだ、クリーチャーがクリーチャーを追いかけている。」
それは動物園入り口前。
「人間だ、あのローグが抱えてるの、人間だぜ蓮!」
コオロギの、鉄面を被った人型クリーチャーサイコローグが白い藁束のようなモノを二つ肩に担いで路上を跳ね駆けている。白い藁束の中には人間が入っているようで、顔だけが露出している。背後からは、4対の歩脚を忙しなく動かしながら追いかけてくる。少なくとも5メートルはある蜘蛛型のクリーチャーディスパイダー。
「道を塞げ、城戸」
「おうよ」
ライドシューターを横滑りで停車、2台で道幅いっぱい塞ぐナイトと龍騎。
『ソードベント』
『ソードベント』
ライドシューターが同時に開き、まずサイコローグに向かって飛び出したのは龍騎。それを確認し、ナイトはウィングランサーを投擲、ディスパイダーの前面アスファルトに突き刺さり、驚いて動きが止まる。さらにカードをもう一枚引くナイト。
『ファイナルベント』
飛翔斬、インスタント、AP5、
駆けるナイト、腕には既にもう一本のウィングランサーが握られている、そのナイトの背後から迫るのはダークウィング、背中に装着されマントと化す、マントを翻し跳躍するナイト、高度40メートル、ディスパイダー直上へ到達した時、頭から錐揉みしながら降下、錐揉みがマントを絡ませ、折り畳まれた傘のようになって突き刺さる、
爆破、
これこそがナイト最強の技飛翔斬。ディスパイダーをただ一撃で粉砕した。
「待てこの野郎、」
背後から切り裂く龍騎、
ドラグセイバーを受けて思わず肩の人間を落すサイコローグ、振り返って龍騎と対峙する。
「なんかこいつ、変なヤツだ」
龍騎は改めてサイコローグの全身を眺めた。クリーチャーは何十という数遭遇しているが、サイコローグのデザインはどこか他のクリーチャーとは違う違和感のある世界が混じっていた。下半身は怪物の皮膚らしきものが見える。上半身はその上から被せたような金属質の装甲、頭部はドリルで空けたような穴がいくつもある金属質の能面、なぜか背中から伸びて頭に接続するパイプがいままでのクリーチャーと違うなにかを連想させた。しかし龍騎にはそれが何か分からない。
穴から連射する弾、
「やべ」
『ガードベント』
サイコローグのその鉄仮面の穴より鉄の弾丸がいくつも発射される。慌てて剣で掃うも消失し、横走りにバイザーで顔面を覆いつつも盾を召還する龍騎。しかし弾丸の威力はバイザーごと腕を弾いて龍騎の顔面と胸元へ直撃。吹き飛ばされ転げ回ってそれでもガードベントを掴み体勢を立て直す龍騎。だがサイコローグは屈伸して跳躍、十数メートル跳躍し、モノレールの下側を蹴って反転、龍騎を直上から急降下で体当たりを敢行、
『ストライクベント』
だがしかし持ち前の速さで既にドラグクローを装着している龍騎、落下攻撃するサイコローグに向けてカウンターパンチ。
「おっしゃ」
顔面が歪みモノレールの柱に激突するサイコローグ。龍騎はガッツポーズをした後、トドメを刺そうとドラグクローを構えた。しかし、
襲うスラッシュダガー、
「なんじゃこりゃ」
突如横合いから全身トゲだらけのランスが龍騎を薙ぐ。弾き飛ばされる龍騎。
「おまえ、誰だ、」
アスファルトを横滑り、コンクリートの柱に激突しながらも龍騎は見た。奇妙な姿の者を。それは人型のクリーチャーではない。なぜならライダーと同じベルトをしている。しかしベルトのバックルは丸を基調としてデッキのそれではない。スーツは皮のようであり、マスクは昆虫のそれのよう。
「城戸!」
ダークバイザーを手にその謎の者に攻撃をかけるナイト。2、3度鍔迫り合いの挙げ句、謎の者は数歩下がる。
サイコローグ変形、
その間サイコローグは大胆に形状を変化させる。腹から肉体の容積を超えた2本の車輪を出して両腕両足で挟み、背中から横に伸びる軸が生える。それはハンドル。まるでオートバイのようになったサイコローグは、ナイトと謎の者との間に割って入る。割り込んだサイコローグに一跳躍で跨りハンドルを掴む謎の者。
「逃がすなよ蓮、」
「煩い、おまえがやってみろ、」
謎の者はスピンターンでナイトを近寄せず、一旦両ライダーを嘲笑したように見やった上、背中を見せて、サイコローグを走らせた。まんまと逃げられた龍騎とナイトは、唖然としながらも、残された人間の方へ。
「優衣ちゃん、」
それは繭のような殻だった。細い粘質の糸が折り重なって膜となり、人間を中に閉じ込めていた。問題は囚われていた人間、その顔は二人の共同生活者である神崎優衣であった。糸の粘り気と戦いながら、なんとか優衣を繭からひっぱり出す。だがもう一人の方も蓮にとっては驚きの人物であった。エラの張った顎、短く丁寧に刈り込んだ髪、厭味な金属フレームのメガネ。
「香川、おまえがミラーワールドに。」
それはあの去年の1月19日。恵理がミラークリーチャーに襲われた時に出会った香川英行。なんとなく一言一言気に食わなかった記憶が甦る。
「真司くん、会いたかった、会いたかった、」
安堵感が涙となって溢れる優衣。
「優衣ちゃんだ、ああ優衣ちゃんの感触と匂いだ。」
既に変身を解いた真司は優衣をヒシヒシと抱きしめた。その肌から優衣の体が弱り切っている事がはっきり分かる。
「アキヤマくんですね。貴方々がミラーワールドに閉じ込められていると聞いて、清明院に入ったらこの様です。もはや現実世界でも大学は封鎖され、クリーチャーの巣窟となっています。」
蓮もまた変身を解いて肩を添えて香川を立たせる。
「おまえとはそれほどの知り合いだとは思っていなかったが、」
酷く機械的に対応する蓮だった。
「蓮、とにかく、二人を一旦どこかへ」と言いかけた真司はある方向を見定めて口を開け呆然とした。「蓮!敵が!」
けたたましい轟音が蓮の背後で響いた。香川を乱暴に突き放し振り返る蓮の手には既にデッキが掴まれている。真司もまたその蓮と並んだ。
「倒し損ねたというのか。オレが。」
轟音の主は、先に蓮が討ち取ったはずのディスパイダーの残骸、まるで中心に磁場でもあるように引き寄せられ、元のディスパイダーへと再生していく。いやより巨大に7メートルを越えて強化されているようにも見える。
「どうすんだ、蓮、」
「何度でもやるまでだ。変身!」
再び同時に変身する龍騎とナイト。
『ファイナルベント』
そして再び飛翔斬を発動するナイト。直上よりディスパイダーを狙う。
糸を吐くスパイダー、
回転し、傘状となったナイトにディスパイダーは糸を吐きかける。自らの回転で糸が絡まってやや回転が鈍るナイト、ディスパイダーへ直撃しても糸によってその威力が半減され、貫通する事ができない。
「ダメか、」
蓮が諦めかけたその時、
『ファイナルベント』
「何度でもやるんだろ!」
それは龍騎のドラゴンライダーキック、ナイトと同じ方向、直上より急降下、その脚先は、傘となったナイトの脚と接着する。それはナイトを杭に、龍騎が槌になる合体技。
爆破、破片が炎で塵と化す、
四散するディスパイダー、四散したパーツ一つ一つが龍騎の炎に塗れ、粉微塵となる。光の珠が浮かぶ。それは今度こそ息の根を止めたという証だった。
「おまえ、やり過ぎだ。」
ややダメージが残るナイト、足取りが覚束ない。
「やり過ぎちゃったかな。」
龍騎が肩を貸そうとする。しかしナイトははねつける。
「いや、あれでいい。あれでな。それより」
なぜか蓮の声には笑みが漏れていた。
その二人に駆け寄っていく優衣。だが蓮は優衣を真司に任せ、香川の方へと歩み寄っていく。
「・・・・・・、二人がここに来たという事は、大方察しがついているという事ですか。」
香川が不安な足取りながら立ち上がり、ナイトを正面から見据えた。
「いや、聞かねばならん事が山ほどある。オレ達はおまえ達の研究がなにか役立つかもしれんと来てみただけだ。おまえなら分かるか。このミラーワールドの脱出方法を。」
「こちらの世界の清明院大学の中心に位置する、あるものを破壊すれば、この世界そのものを破壊し、脱出が叶うでしょう。」
「本当か。なんだそれは。」
香川英行は、なぜか口端を引き攣らせて笑った。
「コア・ミラー。」
夕刻。
「凄まじいな。あれがちょっとしたクリーチャーの産みの苦しみというヤツか。」
清明院大学地下駐車場。40台が収納可能な広いスペースの中心、3メートルある全身鏡が立っている。鏡台からは計ったように東西南北に白いケープが伸びており、ケープの先端にはそれぞれ巨大なディスパイダーが巣を張っている。
コア・ミラーから伸びるケープには不思議なものが数十枚ぶら下がって並んでいた。絵である。しかも子供の絵である。子供がクレヨンでカラフルな怪物、ゲームに出てくるような怪物の絵を歪に描かいていた。その絵は酷くこの世界にリアリティを欠乏させている、あるいは現実世界の根本もそういうものなのかもしれないが。コア・ミラーから絵の一枚に指向的に光を差すと、絵を透過して影が先に写し出される。ここからがリアティが動転するような現象だ。絵の像が立体になる。これが命を吹き込まれ自律意思を持って動き出す。今回の絵はイノシシ。イノシシの絵が数匹のボーダーとなって顕れ出でる。
「以前はドラグ系、ワイルダー系、ガルド系、そして他に失われたもう一種を加えた四獣が包囲してあのコア・ミラーを守護していたそうですがね。失われた種はその後、半身を失って今も一匹の蛇と化して彷徨っているそうです。ですが今は生まれ出でたクリーチャーがしばらく滞在して守護し、新たに生まれたクリーチャーが強ければそれにとって代わり、そうかと言えばああやって生まれた半数を犠牲にして逃れ、二度とここに戻ってこないクリーチャーもいる。以前はある程度知能を持った四獣によって時に滋養にされ、時に見逃されたようですが、今は無差別に異物として攻撃を受けます。ですから最近はむしろ生まれる数は極端に減るか、極端に強力なクリーチャーが生まれ出るようです。」
香川英行が言った通りの場面がたった今展開していた。生まれたボーダー数匹が巣の中に出現したことを察知するディスパイダー。自然界の成り行きとして当然争いが起こる。壮絶な乱闘が4匹のディスパイダーとボーダーの間に施行され、最後にディスパイダーが吐き掛ける糸がワイルドボーダーを捕らえそのまま体内へと飲み込み、グランドボーダーに歩脚を一旦突き刺されて‘活け絞め’の状態で駐車場の天井を通る配管に吊るす。だが同胞の犠牲の元、他の2匹のシールドボーダーはこの洗礼を免れて逃亡した。ここから生まれ出でるクリーチャーは、すべてが毎日毎日この産みの苦しみを執行していた。
「そんなことはどうでもいい。問題は、あの蜘蛛が手強いかどうかだ。」
今その秋山蓮と香川が立っているのは、地下駐車場の入り口。傾斜のかかったコンクリートでやや足首に負担を感じながら壁越しに立って中の様子を伺っている。香川が案内したそこが、ミラーワールドの中心であった。
「御覧なさい。ディスパイダーは今の戦いでややダメージを負いました。さらに夜に入って気温が低下し、休眠する状況に陥ります。朝になってコア・ミラーが光を受けるまで、彼らの活動は再開されません。チャンスは朝まででしょう。」
「しかしそこまでよく調べ上げたものだ。いや、そんなことより、あれを破壊しなければ優衣もおまえもこの世界から出られんのだぞ。よくそんな呑気に構えていられる。」
「私は生来の研究者でしてね。それに、あの401号室の中を見たからには、もう腹を据えるしかありません。」
香川と蓮が清明院大学に潜入したのは、コア・ミラーの偵察の為だけではない。優衣と香川が現実世界から引きずり込まれた401号室の鏡まで安全に退避させることができるか斥候していたのである。しかし残念ながら401号室の鏡はすべて割られ、優衣と香川もまた還れぬ人となってしまった。
「しかし、気づいていないようですね。あのクリーチャーの元、あの子供の絵のモチーフが、昔テレビで放映されていたテレビ番組のキャラだという事に。もっとも関東ローカル局で4話打ち切り、制作会社は倒産でほとんど人目に触れられる事がなかった作品なのですが。それからが傑作なのです、その番組名が・・・」
香川が視線をディスパイダーから蓮に移した時、蓮の視線は香川ではなく、香川の背後に向いていた。その目は敵意で満ち、既にデッキを片手にしている。
「もらった。」
チェーンが伸び、体をグルグル巻きに縛りつけられる香川。チェーンの先端には、糸車のような錘、いやヨーヨーが付いている。バイオワインダーで強引に引っ張り上げられる香川。
「敵は5人、」
蓮は額から汗が噴き出ている事に気づいた。香川も振り返る。そこには5つの影。全てがベルトにあのライダーデッキを装着している。
マスクド・ライダー2号ベルデ、マスクド・ライダー4号ガイ、マスクド・ライダー7号ゾルダ、マスクド・ライダー12号タイガ。
蓮と同等のデッキを持ち、同じく互いに一撃必殺できるファイナルベントを持つもの同士5人と対峙した蓮だった。
清明院大学正門前に、多摩センター行きのバス停がある。このバス停横に小さな弁当屋が営まれている。もちろん現実世界での話だ。この弁当屋が今の真司達の拠点となっている。蓮と香川が出払っている間、優衣と真司は二人きりである。二人はバス停のベンチに座って既に日の沈んだ空を眺めていた。
「ボク気づいたんだけど、この世界って割と星がキレイだよね。」
「ああ、そうだよな。きっと空気が汚れてないんだここは。」
「そっか、人が生活してないんだものね。この世界は。そっか、人が生活してないと空はこんなにキレイになれるんだ。」
優衣のショートカットの横顔を眺めて、真司はゾッとした。ゾッとするほど可愛い。その丸い耳筋から頬、顎先の触感まで分かっている真司ならばなおさらだ。
「ごめんよ。いままで、なにも言わずに蓮といっしょに留守にしちゃって。」
「ううん、蓮がボクの部屋の鏡に張り紙しておいたから。」
「あいつ、オレに黙ってそんなことしてたのか。」
「蓮と上手くやってるようだね。ボク安心した。」
「まあ、オレが、大人の我慢っての、してやってるからさ。あいつに合わせるのスンゲェ大変だけどさ。時々、気持ちイイ時あんだ。うんあんだ。」
「案外気が合うのかもね。」
「・・・・、優衣ちゃん、オレに話したい事があるって。」
「うん、ボク言った。」
優衣の目はあくまで星空に向かっているものの、やや潤んでいた。
「やっぱ、気になってたんだ、オレそろそろ家賃くらい払おうかなぁって、」
「そういう事じゃないよ。なんだか気が削がれちゃった。今日はもういいよ。」
真司は優衣の顔しか見てないから気づかないが、優衣は掌で下腹部を撫で回している。
「なんだよ、気になっちゃうじゃないか。」
優衣はその時、ようやく真司と視線を合わせる。その顔にはいたずらな笑みが浮かんでいる。焦らしているのだ。
「この間スゴイ吐き気に襲われたの。でもね。内科に行ったんだけど、そこじゃ癒んないって言われたの。」
唖然とする真司。意味が想像できない。口をガクガクさせて人差し指を振るしかできない。
「分かった、原爆症だ!」
真司は大真面目である。ちょうど二週間前に、国営放送のテレビを観るとも無しに見ていた時、その被爆者の後遺症の特集が記憶に残っていただけである。
「ホント真司くんおもしろいよね。ボク真司くんのそういうところ、いいところだと思うよ。でも今はちょっとイヤかな。気づいて欲しいんだ。これから3人でずっといっしょに生きていくんだからさ。」
およそこれで分からねば男ではない。しかし真司も半端ではない。
「え、蓮とか?」
「違うって。もう態とやってたら怒るからね。やっぱり今日は気が削がれちゃった。また今度にしよう。」
あるいは優衣も優衣である。基本的に優衣、真司という3人の問題は、生活や社会的関係性、責任、経済力にも関わる切迫した面を持っている。それを女の子特有の気分の問題で済ませてしまうのは、あるいはまだ優衣が少女から抜け出していないのではないか。
「そんな、オレ、このまま今日気持ち悪くて眠れないよ。勘弁してよ。もし悪いことしたんだったら謝るからさ。」
優衣は母性を含めた笑みを浮かべた。
「産婦人科にいったんだ。ボク。」
「あ・・・・・・・・」
口を空けたまま閉じることがない真司。これで気づかなければ日本人ではない。いや地球人ではない。
「まだ安定期じゃないから、もうちょっと辛いってこの間お医者様が言ってた。」
身体中バタバタさせる真司。顔はショック状態で口をあけたまま無表情であるが、身体だけは喜びを表現していた。
「真司くん、ボク真司くんの子供が産めて幸せだよ。」
「オレ、オレ、こっから出たらさ、ちゃんと働くよ。家もちゃんと、家は花鶏でいいのか、あ、指輪、そうだ、まず指輪が。」
などマンガレベルの発想を逐一処理していく真司。
「そうだね、指輪、必要だよね。」
と言ってややロン毛の真司の髪の毛を数本抜く。そして両掌を擦り込むように編んで真司に渡す。
「左の薬指、第二関節、キツめに縛るんだよ。」
「なんて名前にしようかな・・・・」
優衣を外に置いて、屋内のトイレで立小便をする真司は、城戸シンジロウ、城戸ケンシロウ、城戸ソンゴクウ、女なら城戸ポワトリンなどという名が脳裏に浮かび、さらにキドユイという名前を連想するに至って、真司の顔も下もゆるみっぱなしであった。
「おまえら、相性がいいな。」
いつのまにか隣で並んでいる蓮だった。
「ななな、な、なんだよ蓮!」
「普通男がこうなってしまったら、まず負い目と責任だろ。大体子供と優衣、二人を食わせていく経済力があるのか。今のおまえに。全て優衣におんぶにだっこで、優衣の金で風俗へ行こうとしたおまえに。」
真司は蓮と視線を合わせるよりも、蓮の左頬の生傷が気になった。そういえば左腕を添えずぶら下げている。
「あれは!ききき北岡に呼ばれたからだよ、いいい言ったじゃないかよ!」
蓮はやや真司の下方向へ目をやって、しばらく唖然と放心する。逆に蓮と視線をクロスさせる形で下方向を眺めた真司は勝ち誇った笑みを洩らした。
「まあ、優衣も優衣だ。どうしてお先真っ暗なこいつとあれほどはしゃげるのか。相性がいい・・・・・・、それからいいか、見て分かる通り、オレの方が流量はある。」
「オレはここから3倍界王拳だぞ。」
「おまえはそうやってデッキもなにもかも力任せだ。」
「なんだよ、蓮こそデッキもアレもセコいじゃねえか。それより蓮、おまえ一人でツッコんだろ。」
「優衣にツッコんだのはおまえの・・・・・このオレに下品な事を言わせるな!」
「そんなボロボロになりやがって、一人でカッコつけんじゃねえよ、貸せよ、オレがチョチョイとそこらへんのクリーチャー2、3匹やっつけてきてやるからよ。」
「煩い、おまえの小便臭い手で誰がデッキを触らせてやるか。」
「仕方ねえだろ、手洗うにもミラーワールドじゃ水なんか出ねえ・・・・・・あ」
「そうだ、ミラーワールドでは水を呑めない、食うものも無い、生きられるのは、クリーチャーから精気を吸っているライダーだけだ。優衣は仮死状態で捕まっていたらしいが、入って3日は経っている。分かるだろ、」
「分かったよ・・・・・、おまえホントカッコつけ過ぎなんだよ!オレをバカにすんのもいい加減にしろ!今度はオレがコア・ミラーを一人で破壊してくらぁ、おまえができなかったこと、オレがやってきてやらぁ!」
胸倉を掴む蓮。
「だからバカなんだキサマ、もう香川から聞いていた状況じゃない、クリーチャーはもう敵じゃないんだ、コア・ミラーを破壊させまいと別のライダーが徒党を組んで俺達を阻みに来た。5人だ!俺達と同じ力を持ったヤツが5人、俺達を本気で潰しにかかってきた、オレは!コア・ミラーに触れることもできず逃げるしかなかった。」
真司を地面に投げ打つ蓮。床に転びながらも呆然とする真司。蓮は自分に悔しいのだと直覚した。
「・・・・・なんだよ結局カッコつけじゃねえか。なんで言わねえんだよそれを先にさ。優衣ちゃんの為に、5対1で戦ったのか。バカヤロ・・・・」
蓮は呆然と真司を見下ろしている。
「明日、夕方に二人で仕掛ける。」
「そんなに待ってられるかよ!おまえが言ったんだぞ、優衣ちゃんを一刻も早く、」
「だがもう優衣が入ってきた鏡も割られている。そうなればコア・ミラーを破壊する以外ない。だが5人ものライダーが護っている。闇雲に突っ込んでどうにかなるわけがない。オレに考えがある。明日の夕方だ。いいな。」