公開は07年11月からとなります。
「ボクも行く。」
「城戸、なぜ喋った、」
「だって、こういう事は、ちゃんと言っとかないといけないだろ。」
「ボクも行く、」
「知らなくてもいい事だ、優衣がどうしようと勝手に終わっている。おまえは余計な事をしたんだ」
「ボクも行く、」
「蓮、おまえはなんでそうなんだよ、いつもいつも」
「ボクも行く!」
「今オレがどうかは関係ない」
「ボクも、行くったら行く!」
仲良し三人組は、優衣がここで待っているか、コア・ミラーまで優衣も行くかでモメていた。当然戦闘がはじまれば優衣はもっとも危険になる。それを承知で見届けたいという優衣。この3人に共通するが、どんなに他人に迷惑をかけても『他人に迷惑をかけたくない』自分を通したがる人種である。そんな危険をハナから分かって優衣に一言も言わずに事を済ませようとした蓮、二人の対峙のはずなのだが、なぜか二人から責められる事になる真司。
「ではそこで見ていろ。いいな、オレ達の足手まといになるのはおまえもイヤだろ優衣。」
そこは既に地下駐車場へ通じるただ一つの入り口。シャッターは開かれ、扉の左右で隠れ見ている3人。蓮が優衣に指定したのは入り口すぐのスバルレガシィの中。コア・ミラーは入り口から直線上に最奥にあり、その前には2人のライダーか雑談している。タイガと、ガイに擬装したベルデだ。
「どうすんだよ、考えがあるんだろ、今なら、2人のデッキを、」
感情の焦りをストレートに肉体全身をユスユスさせて表現する真司。デッキ破壊が即契約者の死に繋がる事をまだ真司は知らない。
「待て。あの二人を倒したところで、もう3人いる。コア・ミラーがそろそろ動き出す。それまで待て。それからバイザーを破壊すればいい。デッキは破壊するのに手間がかかる。それより、なぜあれがベルデなんだ、あれはガイだろ。前にやりあった事がある。」
「いや、ありゃベルデ」
「待て、オレが分からん事をおまえに聞いて分かるはずはないな。悪かった。」
蓮の適当な厭味に、カッとなる真司。しかし蓮の制止が入る。コア・ミラーが自発的に光を帯び始めた。
「・・・・あれ、あれが蓮が待ってたもんか。」
「やはりそうだ。日中の光を溜めてこの時間にクリーチャーを産み出すエネルギーとする。クリーチャーとオレ達を同時に対手にすれば、コア・ミラーを割る隙が生まれる。いくぞ、いいか、いつも通り変身なんて大声で、」
「変身!」
と真司がいかにもやりそうな事を予見した蓮だったが、真司がバカをやる速さは蓮の予想を越えていた。
「バカ、変身!」
真司が龍騎を纏ったのに続いて蓮もまたナイトを纏う。
「来たか、」
駐車場隅でインペラー、ガイと共に駆け足でコア・ミラーに駆け寄るゾルダが見える。対手は未だ変身したばかりで体勢が整っていない。秒単位の差であるが。
『ソードベント』
「蓮、確認しとくけど、殺さないよな。絶対に。」
先んじてドラグセイバーを召還しつつ、ナイトを振り返る龍騎。
「分かっている。早く行け。」
ナイトはただ顎を振って龍騎を促した。
「言った事は守るヤツだよな。おまえそうだよな、絶対。だからオレもやるよ、おまえに言われた通り、」
駆け出すのは龍騎のみ。ナイトは立ち止まってただ龍騎の背中を見送るのみ。
「一人で来るよ、」
と言うのはタイガ。
「あの男はバカだからね、」
メタルホーンを装着した姿をコピーしたベルデは半歩下がる。
「なにか考えているらしいが。」
『ストライクベント』
駆けつけメタルホーンを召還するのはホンモノのガイ。
「でしょうね。数で優位って言うのは、相討ちしても生き残る数はこっちが多いという事ですからね。対手は一捻りしないといけないでしょうから。」
ゾルダは小器用にカードを左腕から抜き取り、バイザーへ持って行こうとする。しかし、
「北岡っ!」
遥か彼方より投擲される一振りの剣、それはダークバイザー、ダークバイザーでナイトが狙ったもの、それはマグナバイザー、
「秋山、」
弾かれコア・ミラーすぐ傍まで飛ばされるマグナバイザー、慌てて拾いに駆けようとするゾルダ、
「やめておけ、クリーチャーが生まれる」
コア・ミラーから光が指向的に放たれ、一枚の絵を透過する。全身が三角錐の体型、10本の足、足の吸盤、その墨は食用にできるというあの烏賊、クラーケン系のクリーチャーが十数匹出現。産まれた途端激しく動き回り、マグナバイザーとダークバイザーを踏み潰してしまう。危ういところゾルダを救ったのはインペラーだった。
「だがこんな事狙って、秋山も、」
「変身!」
ゾルダは互いのバイザーを封じてしまった行動が理解できず、ナイトを振り返る。その答えはすぐに分かった。ナイトはバイザーを投擲してすぐに自ら変身を解除し、再度変身、壊れたバイザーは消失し、真新しいバイザーを腰元に出現させた。
「最初から狙っていたようだな。おまえも早く、」
「見習う事にするさ。」
インペラーの厭味を聞く前に、既にデッキを外して素顔を晒す北岡秀一だった。
「どおりゃぁぁぁぁおりゃおりゃゃゃゃ!」
ドラグセイバーを掴んでまさに猪突する龍騎。向かうはタイガと擬装ベルデ。
「なに張り切ってんだろ。バカみたいだね。」
『ストライクベント』
タイガは斧型バイザーにカードをセットする。
「バカみたいだね。」
もう飽きた、適当に相槌打つのももう勘弁して欲しい、とベルデは思いながら、タイガに気づかれないように一歩下がる。2P対戦では、パートナーをいかに利用するかがベルデの焦点だ。タイガというヤツが見かけ倒しならば打ち疲れた龍騎を叩けばいい、タイガが意外にやるとしても、カードを使う時は必ず隙が生じる。
「どおっっっっっ!」
タイガのデストクロー召還間際狙って、やや跳躍気味に弾き飛ばす龍騎、さらに降下しつつ剣を振りかざす、
「ホッント、バカだね!」
デストバイザーで迎撃するタイガ。しかしバイザーの付帯武装では、パーマネントには文字どおり太刀打ちできない。扇状に拡がった斧の刃が中央から切断される。
「この間の借りだからな!」
着地から返す刀で袈裟斬りの龍騎、AP2の攻撃に怯んで後退りするタイガ。
「ホント、バカバカしいね、こんなの英雄になるボクのやる事じゃ、初めから無かったんだ。」
さらに距離を置くタイガ。ベルデはその一部始終をニタニタと見ていた。
「どいつもこいつもボクの敵じゃないね、」
龍騎の背後から躍り掛かるベルデ、擬装したメタルホーンを振るう。タイガを警戒した真司はどうせバカだから気づく事は無いと踏んだ。
「いいか、オレは人を殺さない事にしてんだ、だからこのくらいで勘弁・・・・・ん」
だが龍騎はまさにそのタイガの視線の先が自分からやや外れ後方にいっている事に気づく。これは経験量から来る直感だ。
ドラグセイバー対メタルホーン、
数合の鍔迫り合い、
互いに手元に重心を置き、リーチよりも切り返しの速度に秀でる得物同士の戦い、
「おまえ大した事なんか全然無いね、」
もっとも拳に近い動きとなるメタルホーンは、基本的に防具の特性に近い。敵の攻撃を撥ね除けた上で切り返し懐に入る。
「オレはな、アンタのせいで一ヶ月どのくらい苦しんだか知れないんだぞ、思い知れ!」
しかしドラグセイバーは、リーチをギリギリまで削り落しながら時に両手で持ち、切り返しをメタルホーン程度には維持している。本質的にリーチの長さだけ龍騎が優位なのである。
「このゲームじゃおまえなんか全っ然通用しないね!」
ベルデはひたすら剣を払って突きを繰り出そうとする。しかし龍騎は即座に返して首元まで刃を伸ばす。そしてベルデが慌てて角を戻し弾く。ひたすらこの繰り返しとなる。
「なにをしている、」
拮抗する状況の中、現れたのはホンモノのガイ、ガイが叫んでいるのは龍騎でもベルデでも無い。両者の剣撃を一歩引いて眺めているタイガに対してだ。
「だって、バイザーが壊れちゃったから。」
「再変身すればいいだろ、」
「ボクはここで見張りに立ってたんだ、休んでもいいだろ。」
「もういい!」
ガイは既に装着した真のメタルホーンを振りかざし龍騎に肉迫。ベルデはガイに気づいて一歩下がり、半ば交代する形となる。
「双子!?」
頭の角から足の先までまるで同じ恰好をしたライダーの登場に戸惑う龍騎、しかしガイの戦意に対抗して辛うじて剣を繰り出す。
ドラグセイバーVSメタルホーン、
AP2VSAP2、
右から降り懸かる剣の切っ先を狙って弾くガイ、消失する二つの得物、龍騎は大きく揺すられ胸が空く、
「私には分かるぞ、キサマはなんの信念も無い、なんの責任感も、背負っている物も無い、」
得物を失ったガイはしかし、この好機を逃さない、勢いを殺さず左肩の角を突き出しチャージをかける、胸を突く、弾き飛ばす、抉れる龍騎のプレートアーマー、真司はその時肋骨が折れたのが確かに分かった、
「つぇぇ・・・・」
起き上がれない龍騎、見下すガイ、
「キサマのようなチンピラ剣法で、いったい何を望む、名誉か、世の中を自分の思った通りに変えたいか、覚悟を見せてみろ、」
切っ先の先端を狙ったガイ。それは剣が手元に重心があり、なおかつ一点支持でリーチを持つ事から、テコの原理が働いて大きな反動を生じる事を見越した返しであった。ベルデがこれを思いつきもしなかったのは、ベルデという人間が画像の重なりで当り判定をする世界の住人だからである。
『ホールドベント』
「どけ、ボクがトドメを刺す、」
そのベルデが割って入ろうとする、
『コンファインベント』
「私の邪魔をするな、横取りなど、おまえそんな事をするヤツだったのか。」
「はぁ?アンタなにしてんの、敵を助けたよね、このベルデ同盟を裏切るって事?」
「そうじゃない事ぐらい、おまえにも分かっているだろ!」
「黙れよ!何、その偉そうな態度、あっちの世界じゃどのくらい偉い人なのか知らないけど、ここじゃライダーが全てなんだ、アンタここで殺してもいいんだぜ、」
ベルデの言動と態度に意外な程絶句するガイ、
「ここまで小物とはな・・・・」その言葉はむしろ失望だった。そして目を逸らしたいのか龍騎へ振り返り、「実力というものを見せてやる。」
再びショルダーチャージのガイ、
「オレ、蓮と約束したんだ、言われた通りやるって、」
ヨロヨロと立ち上がる龍騎、グリップを握り絞める、ガイに体重をかけた強力な攻撃ができるバイザーがあるなら、龍騎もまたバイザーがある。
「さあ覚悟を見せてみろ、」
「約束したんだ、」
ガイの大きく反り返った角が龍騎に迫る、寸前、龍騎は握り込んだバイザーを腰の捻りを伴って突き上げる、角が折れる、しかしガイの全体重をかけた衝撃力は龍騎を再び吹き飛ばした。
「折るか、意外とやるようだなキサマ・・・・・・何者だ、」
「アンタのモニターに出てんだろ、」
「龍騎・・・・」
『ソードベント』
「思った通り、どっちみち城戸のペースに巻き込まれている。」
タイガ、ガイ、ベルデは、辛うじて龍騎が抑えている。ゾルダは再変身からコア・ミラーより出たクラーケン系に手を焼いている。インペラーもまたゾルダを庇いつつクラーケン系に対してガゼール軍団を繰り出しそろそろ鎮圧に向かっている。
「あのインペラー、クリーチャーを群体で使えるとは。しかしもうオレにはこれしかない。」
そしてナイトは唯一この状況でフリーである。彼は駐車場入り口に立ち尽くし、まずはウィングランサーを召還、一旦大地に差し、さらにもう一枚右手でカードをデッキから抜く。同時に左手で腰に収まったバイザーの柄頭を引く、カードイン、即座に左掌で柄頭を押す。ほぼ3行程。ナイトは剣を収めた状態ならばこの速さで処理できる。これも龍騎に前衛を任せている恩恵である。
『トリックベント』
ソード+トリックのコンボ。出現するランサーを携えた数十のナイト。ナイトはこの圧倒数で推す事に賭けた。だからコンボを成すまで時間を稼ぐ必要があった。そして立ち上げの速い龍騎単独で突っ込ませる必要があった。だがしかしインペラーという群体使いの不確定要素はナイトに不安を覚えさせた。
「やるまでだ!」
ナイトには他に手はない。一斉にランサーを振りかざし、コア・ミラー目掛けて突撃した。
「なんだ、このライダーどもは、」
ベルデはメタルホーンを振りかざしナイト軍団の攻勢を受け止めるばかり。
「虚像だ、」
と一体割ってガイは見抜いたものの、あまりの圧倒的な攻勢を得物の無い身で受け流すしかない。
「秋山、」
ゾルダは既にクラーケン軍団の為にトリック対策のショットを消費しており、もはやマグナバイザーだけで対処するしかない、
「やはり予備兵力というのはとっておくものだな。」
『アドベント』
アドベントネガゼール、カードとして使用するとパーマネントの効果でネガゼール率いる群れごと使役できる、AP1~3、
『アドベント』
アドベントオメガゼール、カードとして使用するとパーマネントとしての効果でオメガゼール率いる群れごと使役できる、その軍勢はもっとも多い。AP1~3、
前面のクラーケン軍団にガゼール軍団の数で対抗し、数を極限にまで消費しながらも鎮圧しつつあったインペラー、後方に出現した新たな圧倒的多数の敵に狼狽える事もなく、2枚のアドベントを連続挿入、より圧倒数のガゼールを召還する。だが最初から圧倒数を繰り出しているナイトに対して、攻撃力の小さなモノから徐々に増えていき投入、半ば逐次投入の形で体制の整わないガゼールはナイト軍団に圧され気味になる。地下駐車場に溢れんばかりのそれは乱戦だった。
「このまま上手くやれるとは思ってないさ、」
ウィングランサーの一撃でガゼールを葬れるものの、虚像であるナイト軍団はライダーのパンチ一つ、ガゼールの攻撃一つで割れるように消失し、ライダーにはダメージすら与えられず返り討ちに合う。その内ガゼールの半数程に減らされるナイト軍団。だがしかしナイトはなぜか気負けしていなかった。
『ファイナルベント』
単独ではない、減らされたそのさらに半数が全て跳躍、傘状なってガゼール軍団の頭上に同時多発で降り注ぎ、もろともガゼールを爆砕させていく。
「もらった!」
そして一本の傘が射角60度でコア・ミラーに突撃していく。それはナイト本体。
「甘いんだよ秋山、」
だが立ち塞がるギガアーマー、
「北岡ぁ」
シールド防御によってファイナルベントを防がれてしまう。
「どんな状況にあろうと、おまえの目的は一つ、コア・ミラーの破壊を諦めない限り、おまえの行動は見透かせるのさ。結局甘いんだよおまえは。」
弾かれてコンクリートの床に打ちつけられるナイト、シールドが消失しなおバイザーを向けて威圧するゾルダ。
「やはりキサマはいいところで出てくるな。言ったな。オレは甘いと。だが今オレは一人じゃない。」
『ファイナルベント』
「なに、」
「ぐぉぉぉぉぉ!」
それは同じ方向と角度、既に上空ではドラグレッダーが出現、ブレスに推し出された龍騎が蹴撃の体勢で突っ込んでいた。
「取り返しがつかん事になるぞ、」
代わって立ち塞がるのはインペラー率いるガゼール。コア・ミラー前に縦列陣を作った。
「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっ!」
だがものともせずガゼールの壁を一直線に粉砕するドラゴンライダーキック。ガゼールを焼失させ、インペラーを弾き飛ばし、そして、コア・ミラーを押し倒す。ミラーはゆっくりと根元を軸に回転し、コンクリートに倒れた途端粉々に破砕した。
「オレ達の勝ちだ!」
「秋山っ」
ウィングランサーで横薙ぎ、 足を掬われ飛ばされるゾルダ、そのランサーを杖に立ち上がるナイト。
「蓮!」
互いの掌を打ち合う龍騎とナイト。あるいは目的の達成よりも、協調した互いの連携が喜ばしいのかもしれない。だがそのこの上無い高揚は無慈悲にかき消される事になる。
光、
コア・ミラーの割れた破片から突き抜けるような光の柱、地下駐車場の天井を突き破り、大学校舎の全てを崩壊させ天に伸び、達した途端空全体に罅を入れ、世界全てに掛かった透明な膜が高音と共に割れ去り焼失した。
「蓮、なんだよ、これ、これがミラーワールドが変わるって事なのか、」
「人だ、人が浮かんでいる、」
ナイトが指差すはるか上空、輝く人影が浮かぶ。
「オメデトウ、」
光を振り払うと、全身を金に彩ったライダー、ベルトでそうと分かる、ライダーが姿を顕す。
「イテ、」ベルデが思わず蹌踉けた。
「攻撃、」ガイもまた怯む。
振り払われた光は、金の羽根となって7人のライダー全てに降り注ぎ、その一枚一枚が小さく破裂してダメージを負わせる。
「オメデトウ諸君、これより‘最期の三日間’を開幕する。」
「なんだそれは、」ゾルダが叫ぶ。
「止められなかった、」インペラーは事の重大さに絶句している。
「この瞬間より、君達はこのミラーワールドか崩壊する三日の間に全ての決着をつけなければならない。」
「なんなんだ、何がどうなってんだ、蓮、話が違うじゃないか!」
「オレに聞くな!」
狼狽えてつい八つ当たりしてしまう龍騎とナイトだった。
「戦え、生き残った者は、私と戦い、そして願いを得られるだろう。健闘を祈る!」
7人のライダーが見上げる中、まるで電球が切れたかのように光が消失し謎のライダーもまた消えた。
「また同じループだ。」インペラーだった。「こうやって俺達は最後の一人になるまで誰も現実世界に還れない。おまえ等がやったのは、最期の三日間を引き起こすキーでしかなかったんだ。」
「なにを知っている、」ナイトが叫んだ。
「改めて覚悟する事だ、おまえの望みは、オレもその隣のヤツも含めて倒さねば叶える事ができない事をな。」
望み、恵理の顔をもう見られない、城戸も殺さねば、還れない、
「信じられるか、おまえの言う事なんか!なぁ蓮、なぁ!」
龍騎の言う事なぞもはやナイトの耳に入ってこなかった。インペラーの言葉に絶句するしかなかった。
「なに、それ、どうして、そんなこと、」
思わず車から飛び出して立ち尽くす優衣。ライダーならまだ望みはあるが優衣は違う。いや優衣自身は身の上の事よりこれからはじまる鮮烈な悲劇が、あってはならないという思いの方が強かったが。
「先生、ボクを誉めて、」
腹、
「え、なに、」
優衣の目の前に突如現れた白を基調としたライダー。まずその縞のあるボディが目に入り、肩から腕の先まで流し見て、腕の熊手のような爪が自分の腹に刺さっている事に驚愕し、そして見たところではじめて痛みが走る優衣。しかしその痛みも、いや痛みという意識も一瞬でしかなかった。グリグリと抉って鮮血する腹の傷はなぜか凍っていき、優衣の腹から胸へ凍結が達した段階で意識が消え、四肢の先、頭の先まで凍り付いた時には見事な彫像と化していた。
「なにやってんだ、どこ刺してんだ、そこはオレと優衣ちゃんの子がいるんだ、ぞ!」
駐車場入り口で優衣を氷漬けにしたタイガの姿を地下駐車場の反対の端で見つける龍騎。絶叫し、一直線に駆け寄って闇雲にバイザーだけに攻撃をかけようとする。
『ファイナルベント』
だがその拳はタイガに達する事は無かった。
横から割って入るデストワイルダー、前回と同じく巨体に押し倒され、爪を腹部に刺されながらタイガの元に引きずられていく。
「どうして、ボクは英雄になったんだよ、どうして、どうしてボクを好きになってくれないの・・・」
デストクローを広げて待ち構えるタイガ。
龍騎をコンクリートの床に擦りつけながら疾走するデストワイルダーは掬い上げるように放り上げる。
「優衣、ちゃん、オレ、ダメだっ・・・・」
高く掲げるタイガのデストクローに背中から突き刺さる龍騎、突き刺さった瞬間に優衣と同じく凍結現象が龍騎全身を覆う。
クリスタルブレイク、インスタント、AP6、シールド防御不可。
「やっぱり、気持ちいいよね。技が決まるの。」
氷の破片となって砕け散る龍騎。転がった龍騎の顔の一部は、同じく砕けた優衣の左指に巻かれた髪の毛を捉えていた。