仮面ライダー龍騎SPRITS   作:bassher

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ここは02年度放映された特撮番組『仮面ライダー龍騎』の二次小説です。『仮面ライダー龍騎』、並びそのスタッフ、また講談社マガジンZ連載『仮面ライダーSPIRIT』著者には、一切関係ありません。
公開は07年11月からとなります。



最後の三日間 03-01-17

 

 

 

 

 

 浅倉威は清々しい男である。

 彼は信念を持っている。イノチガケを求めて、体中に駆け巡る圧迫感から解放される、である。

 少年の頃から多感だった彼は、危険という圧迫に苛まれ、そこから活を求める事がこの上無く好きだった。純粋にそれだけだった。はじめは大自然を敵にした。深い森を彷徨い、野犬に襲われ、絶壁を素手で踏破し、荒波猛る冬の日本海を全裸で泳ぎ切った。しかしこれら巨大な敵をもってしても、浅倉威を満たしはしなかった。彼は考えを一歩進め、大人になる。敵にするものは人間でもいいのだ、より多くの人間が徒党を組んで自分と敵対すればもっとイノチガケになれる、彼は人間という敵と徹底的に対峙する事に決めた。

 まずは親だった。父親は浅倉に対して厳しい躾をした。叱るときは必ず出刃包丁で浅倉を痛めつけた。さすが浅倉の父だけあって、人間をどの程度痛めつければ恐怖を覚えるか知り尽くしていた。だが浅倉はそれを乗り越える。12歳の夏、弟の喉にカッターナイフの刃を突き立てて父を脅す。もみ合いになり弟だけが血まみれになった時、ついに父親も浅倉に逆らわなくなった。卑劣になれば、より多くの人間を敵に回して戦う事ができる。それを悟った浅倉にもはや両親は必要無かった。既に敵では無くなった両親を火刑にし、親離れをする。

 そんな一途な浅倉がたった一度だけ人間的になった時がある。その名は霧島忍。唇の厚みだったのか、目許の涼しさだったのかはよく分からない。ただ情熱に任せるままに人間的に体が動いた。

 

「貴方も怖いのね、ヒトが・・・・」

 

「オレをバカにするな!」

 

 その肉塊の生理的な反応に任せて突き入れるだけ突き入れた浅倉は、この時人間的だった。

 

「動機?殺したかったからだ。」

 

 あるいは己の肉体からその記憶を消し去りたかったのかもしれない。

 逮捕され、裁判というものを受けた浅倉は、そんな面倒な手続きよりも興味を引くものがあった。珍しいモノでも見るような見学人の中に、ただ二人気になる視線があった。一人は弁護士という肩書きの北岡秀一、なんとなく気に食わなかった。もう一人はあの霧島忍の妹、美穂だった。同類から受ける憎悪、いや敵意を嗅ぎ取った浅倉威は、なぜか口元が緩んだ。そう言えばもう一人奇妙な男がいた。閉じ込められた腹癒せに急所突きした石頭の男はなんだったのだろう。いままで急所を突き出して来た奴など浅倉威の記憶にはない。意識してハズす技は理屈で考えられる。しかし早々できるものではない。よほど戦慣れしている奴か自己防衛が麻痺しているバカだ。あの時浅倉は中指を骨折していた。

 

「煩い、イライラする・・・・」

 

 目覚めのきっかけはゴチャゴチャと小煩い騒音だった。薄目を開けると、2体のクリーチャーが戦っていた。周囲にあれほど居たライダーの姿が無く、王蛇のままで寝転がっている浅倉と共にその2体のクリーチャーが清明院大学駐車場に取り残されていた。2体、メタルゲラスとバイオグリーザはおそらく浅倉という獲物を奪い合っているのだろう。

 

「痒い」

 

 刳られた目の軽い痛みが痒みとなって浅倉をイラつかせた。割れたマスクから手を突っ込んで掻き毟ると指先が血で塗れた。体力は先程ガゼールの珠を腐る程ベノスネーカーが呑んだ事で回復している。飼犬と同じ隻眼となった自分を浅倉は自嘲した。

 

「どっちだ、オレと契約するのは、」

 

 王蛇は、もみ合う2体のクリーチャーに向けて契約カードを抜いてチラつかせる。

 

 ガァァァァォォォォ

 

 組み合った2体のクリーチャーの内、その光を目に捉えたのはメタルゲラス。力が抜け静止したメタルゲラスはしかしバイオグリーザのいい的となる。一瞬で舌が絡み付き投げ飛ばされ、仰向けに倒れるメタルゲラス。

 

「がんばれよ」

 

『アドベント』

 

 メタルゲラス、AP3、カードとして使用した場合パーマネントの効果を得る。

 コンクリートに伏した状態からバイオグリーザの舌を引っ張るゲラス、バイオグリーザも又大きく吹き飛ばされ地を転がる。転がるもただでは起きないグリーザ、姿を消す。素早く行動したのではない。クリアベントと同じく視覚的に擬装したのである。

 

「がんばれがんばれ」

 

 焦って周囲を摸索するゲラスを、バイザーで肩を叩きながら煽る王蛇。そのうち虚空から長い舌が現れ、ゲラスの首に再び巻き付く。悶え苦しむゲラス。

 

「そのまま抑えてろ」

 

『ファイナルベント』

 

 王蛇が宙を返って虚空に蹴撃を加える。途端出現するグリーザ。出現とともに爆砕。王蛇は透明化する敵に即座に囮を用意して釣ったのである。

 爆破したグリーザの珠をメタルゲラスが捉える。珠のエネルギーは即座に王蛇の肉体を潤す。

 

「スッキリする。癖になりそうだ。これが、ライダーか。」

 

 

 

「見つけた。」

 

 狙いはメガゼールの集団。契約のカードを翳す。

 

「こいつらがいないと話にならんからな。」

 

 そこはJR日野駅前、ガードレールを潜って甲州街道が分岐する路上。額の拡がりがやや気になる壮年の男から見て右手の分岐、ガゼールの群れが向かってくる。ファッションの綻びというにはあまり色褪せたジーンズとヨレたTシャツ一枚の男は、まるで寝起きのような髪を掻きむしりながら、手元にあるデッキにカードを収める。デッキの紋章は既にガゼールを象ったものに刻印されている。

 

「アンタもライダーなのか。」

 

 女声が響き渡る。ガゼールとは反対の左の分岐からまるで植物の茎のような頭の先から足の先まで実に見事な細いラインを象った女が叫んだ。だが残念な事にその服装は囚人のそれだ。

 

「甘いな。そんな事言う前に変身して攻撃してきたらどうだ、霧島美穂。最期の三日間なんだぞ。変身、」

 

 ロングの髪を枝毛も無くストレートに保った霧島美穂が羅刹の目で男を睨みつける。

 

「変身っ」

 

 美穂に白を基調としたスーツが纏わりつく。マスクド・ライダー10号ファム。

 

『ソードベント』

 

 さっそく持ち前の早い召還で畳み掛けようとするファム。だが余裕で待ち受けるマスクド・ライダー9号インペラー。その体色もブランクのそれでなく褐色に戻っている。

 

「じゃじゃ馬が逸る、」

 

 伸びてくるウィングスラッシャー。

 

「私は勝たなければ、」

 

 紙一重で躱し、拡がった懐へ飛び込むインペラー。

 

「霧島美穂、願いが叶うと本気で思ってるのか、」

 

 それを見て取ったファム、ウィングスラッシャーをバトンよりも短くしてクルリと回転、再び片刃を伸ばして逆サイドから伐つ、脇に食らい横に持っていかれるインペラー。

 

「そんな事は何度も、でもこれしかないんだ!」

 

 宙を回りながら地面に激突、大の字に倒れるインペラー。追い撃ちで疾走しながらウィングランサーを突き込もうとするファム。

 

 足絡み、

 

「一瞬富士山が見えたぞ」

 

 接近し過ぎたファムの腕、インペラーの両足が絡み、いつのまにか倒され、腕十字が極まる。ファムの極められた腕はウィングランサーを握るが故に容易にネジられもはや脱出不可能になっている。

 

「こんな事をしておもしろいか、」

 

 日野甲州街道のど真ん中、真新しく舗装されたアスファルトの上で地味な寝技が決まる。さぞやインペラーは心地がいいだろう。

 

「ゲームって言うのはな、親が利を得る。それが当たり前だ。今回のゲームは全て神崎士郎が神崎優衣の為に仕組んだ。」

 

「そんな事は私も、」

 

「出し抜く事はできん。キサマが詐欺師であっても、世間の常識を逆手に取る事すらここでは出来ないんだからな。問題は神崎優衣だ。神崎優衣がたとえ自殺しても、そして全ての罪を背負ってこのミラーワールドの岩戸に隠れても、神崎士郎の願いが叶ったとしても、時が巻戻り、新たなミラーワールドが発生し、凄惨なライダーバトルが繰り返される。何故か。」

 

「なんの話をしている、」

 

「こっちだってもう生き返るのはまっぴらなんだ。問題なのは神崎兄妹じゃない、神崎兄妹を作り上げたもっと大きな存在だ。」

 

 動けないファムの目に止まったのはマクドナルドの看板。正確に言えばその壁。

 

「電波はキライだ」

 

 伸びるスラッシャー、伸びた先はマクドナルドの壁、壁に刺さるスラッシャー先端、

 

「おまえが言うか」

 

 そして縮み始めるスラッシャー、壁から抜けるのではない、壁の方向に向かって縮んでいく、

 

「放さなければ、頭から突っ込むぞ」

 

 引き摺られ、手を放す選択をするインペラー。放された手を地面側に擦る形で回転して脱出するファム。その手にはスラッシャーがない。

 

「今はゆとりが無い。悪いがな。殺す事になる。」

 

 ファムの拘束を解いたインペラー、ファムと放れて即座に立ち上がり、既にカードを手にしている。

 

『ファイナルベント』

 

 ドライブディバイダー、インスタント、AP1~4、本来なら5だった。

 無数のガゼールを召還、跳躍し、疾走し、踊り狂い、側転し、様々な動きで撹乱しながら対象に向かって波状突撃させる。

 

『ファイナルベント』

 

 召還されるもう一本のウィングスラッシャー、ファムは水平に構え迎撃する、

 

 切断、替えす、切断、替えす、切断、替えす

 

 左から向かってくるメガゼールを横薙ぎし、スラッシャーを替えして右からのギガゼールを迎撃する、その切り替ええしの速さは圧倒する数をなぎ倒していく。

 

「はじめて見る型の技だ、だが、」

 

 インペラーが指を鳴らす、

 

 自爆自爆自爆、

 

「こんな事で、」

 

 爆雲に包まれるファム。インペラーはガゼールを近接爆破させダメージを負わせなおかつ翻弄する。

 

「眠ってもらうぞっ」

 

 ドライブディバスターのシメに入るインペラー。一跳躍で近接し真空飛びひざ蹴りの体勢で突っ込む。

 

「私は、勝たなきゃいけないんだ!」

 

 インペラーの背後、舞い降りる白鳥型クリーチャーブランウィング、その最強の膂力で大気の流れを御しインペラーに向けて圧倒的風量を送り込む。

 ミスティースラッシュ、インスタント、AP5、ブランウィングが起す風に推されて向かってる対象を伐つ迎撃型必殺技。

 

「ままよっ」

 

 圧倒的風量にガゼールが吹き飛ばされ、爆風も消え去り、視界が晴れカウンターを待つのみとなったファム。しかしそれでも膝蹴りの体勢を崩さないインペラー。この勢いを逆用する賭けに出る。バイザーの硬度、ブランウィングの風力、跳躍力、脚力、その全てがインペラーの右膝に込められる。

 

「いけないんだぁ!」

 

 その右膝めがけてウィングスラッシャーの片刃を斜め斬りに入れるファム。

 

 接触、弾き替える、

 

「オレもまだやる事がある!」

 

 弾き替えった反動で、逆端の刃がインペラー腹部へ、

 

「姉ちゃんを生き返らせる為に!」

 

 横薙ぎされるインペラー、

 

「バカナ」

 

 左へ持っていかれるインペラー、アスファルトに叩きつけられ、もはや起き上がる事ができない。

 

「覚悟」

 

 駆け寄ってブランバイザーを抜くファム。

 

「イヤもういい、」

 

 だがそのファムを寝たままのインペラーは手で制した。観念したという事だ。

 

 浮かぶ褐色の珠、

 

「これがライダーの魂、」

 

「違う、これは本来のインペラーの魂がデッキから漏れ出ただけだ。」

 

 インペラーのバックルは縦に裂けている。

 

「おまえは何者だ、」

 

「今度はファムか、前は‘リュウガ’と王蛇の挟み撃ちだったから、あの二人だけマークしてればなんとかなると思っていたが、オレも、やはり、甘い。」

 

「その顔どこかで見たな、確か、」

 

「辛いぞ、自分が何度も死ぬのを記憶しているのは。そして何をどうやっても正解にたどり着けない人生はな。正解なんて概念がそもそも間違いなのだろう。次はおまえにも気をつける事にするよ。しかし、いったいいつになったら死ねるんだ・・・・」

 

 泡が吹き肉体が蝕まれるように拡散、光の珠が飛び出してくる。人間の珠はクリーチャーのそれとさほど変わりない。いずこからかブランウィングが舞い降りて浮かんだ光の珠を咥えて飛び去っていく。

 

「まあいい、殺した人間の事など想像するだけ・・・・」

 

 そして褐色の珠をそのベルトに吸収するファムだった。

 

 

 

 大久保大介

 36歳。真実のジャーナリズムを追求する為にSOHOを設立した彼だったが、経営不振に陥り、北岡弁護士の紹介でスポンサーにつけた芝浦コーボに付け入られる形で会社を乗っ取られ、哀れマンションを追い出され、新宿の公園に寝泊まりするほどに零落れる。

 

「真司には、オレみたいに全てを失ってほしくない。」

 

 辛うじて同僚島田奈々子の母性にしがみついて日々を送る大久保は失踪前までそんな独り言を言っていたという。それはある種の代償行為への傾倒であった。

 そんな彼のミラーワールドでの姿は、マスクド・ライダー9号インペラー。

 契約カード×4

 スピンベント

 ファイナルベント

 と契約モンスターを惜しげもなく駆使した組織力のデッキ。アドベントの内3枚はパーマネントとして稼動できる強みで攻撃、防御、撹乱、囮、と様々な状況に対応できる。パーマネントと格闘戦で攻め防いで場を作り、敵にカードを使わせず自分のカードを駆使するライダーバトルのセオリーを根底から覆す集団戦法のそれが実現する。

 そのカードデッキは第3世代に属する。このデッキは第2世代の最終形である龍騎デッキを仮想敵としている。龍騎+ドラグレッダーの組み合わせがそれほどに脅威であったという事だが、特に龍騎の「速さ」への対策は以降デッキコンセプトの方向性を本質的に変える事になる。

 本来、契約クリーチャーの確定は、所有した契約者の裁量と運に一任される。ランダムに決定される契約クリーチャーの能力を第1世代は受け入れ各デッキ能力のバラつきを生み、反省した第2世代はクリーチャーの能力を極力廃する方向で成立していく。しかしそのクリーチャーのランダムな選定に限界を見た第3世代は最初から特定のクリーチャーを捕獲し製作の段階から親和性を計るというコンセプトに進んだ。

 その第一弾インペラーは最弱のクリーチャーガゼールの一匹を契約クリーチャーとし、各ベントの能力を召還カウントに対して一段高める事に成功。さらに一歩進めてその群体としての習性を引き出す形で複数のクリーチャーと契約し、徹底したアドベントへの依存によって攻防に臨機に対応できる類を見ないデッキを実現した。

 このデッキはガゼールというミラーワールド最多に繁殖するクリーチャー群を惜しげもなく消耗し補充し続ける事で機能する訳であるが、他のライダーと違い契約クリーチャーを表に出すリスクを絶えず負う訳であるから、そのリーダーの契約クリーチャー4体、特に捕獲しそれに合わせてチューニングしたメインの契約クリーチャーを失う危険もまた絶えず付き纏う。

 

 

 

「またか」

 

 漆黒のボディはどこかハードレザーのスーツのように見えなくない。ベルトのバックルはナイトのそれとはまるで違う円を基調したものながら明らかにそれはライダーと直覚できる。だがナイトと違うやたら昆虫じみたマスク。一度動物園前で龍騎やナイトと対峙したあの謎のライダーが、そのトゲ付きのランスを構えている。ナイトもまたウィングランサーを装備している。

 

 数合打ち合い、

 懐に誘い、

 首の皮一枚躱し、

 水平に得物を持ち、顎を打つ、

 

 今度の謎のライダーはやや技巧的で型通りの剣術を振るってきたが、それを数合で見抜いたナイトの型に無い不意打ちで顎を上げ隙だらけとなる。ナイトは覚束ない足を見て脳震盪していると踏んだ。

 

『ファイナルベント』

 

 直上を飛んでダークウィングに包まれ急降下。

 

 炸裂!

 

 微塵となる謎のライダー。その中心に立つ蓮。

 

「よくやりました。さすがです。」

 

 と上面な言葉を並べ立て寄ってくるのは香川。

 

「やはり、さっきのヤツもそうだが、ライダーではない。珠が浮かばない。」

 

 そう人間であるのか、それともクリーチャーであるのかすらわからないが、命というものをあのスーツの敵は持たない。

 

『シザースの分とおまえの分、ライダーの命をいただいて、サバイブの権利にチェックを懸ける。』

 

 と聞いていた。それとも聞き間違いだったのだろうか。今ナイトはシザース、ベルデと2人の珠を得ている。となると、後一つでサバイブ、つまりチェックメイトという事だ。今もっとも優勢なのはナイトという事なる。

 

「さあ私にも皆目。もしや神崎士郎とは違う別の勢力が独自に開発したライダーシステムかもしれません。それより、吹っ切れたようですね。これで私も貴方に希望を託す事ができます。」

 

「煩い・・・・・」

 

 膝を着く蓮。

 

「大丈夫ですか。」

 

 起し上げる香川。

 

「煩いと言っている、」

 

 振り払って先へ歩み出す蓮だった。その疲労が分かる背中を見て香川はほくそ笑む。

 

「無理もない。急激な体力の消耗を暴食で辛うじて賄っている状態ですからね。」

 

 

 

 爆破音と震動、幾種類かの怪物の悲鳴、

 インペラーとファムの戦っている日野駅からそう遠くない多摩川に掛かる日野橋。

 

「神崎は眠らせてくれる事もしないのかねえ。全くどいつもこいつも野蛮この上ない。上品なのはボクだけだねえ。」

 

 トレンチコートの襟を立てて橋の下で横になっているのは北岡秀一。身を潜めながら橋の上を眺めやると、ハチを模したクリーチャーが橋に溢れんばかりに満ちていた。その無数のクリーチャー達が、どういう訳か赤と青のカミキリムシによって率いられている。

 

「クリーチャーも生きる事に懸命だな。徒党を組んでいる。あれは龍騎なのか、」

 

 ドラゴンライダーキックっっっ

 

 思わず目を覆う北岡。ライダーの黒い炎はハチ型クリーチャー、バズスティンガーの群れを橋の南から北、一直線に切り裂き焼き尽くす。ライダーの放ったファイナルベントによって半数のバズスティンガーが消失した。ライダーは紛れもなく龍騎である。しかし、あの燃えるような真紅の姿ではない。黒い、いや、暗い、ナイトのその暗さでなく、自然界に無い純粋な黒でボディが染められている。

 

「城戸のヤツ、契約クリーチャーを変えたのか。」

 

 除装、

 

 カードを使い切り、その黒い姿から生身を晒す。それは紛れもなく城戸真司。しかしなぜだろう。まるで真司が真司である素振りが無い。あのムダにハシャぐしぐさも空いた口もズボラな目つきもない。光の珠を食らう契約クリーチャー、ドラグレッダーもまた暗い彩色で全身を染めている。それは限りなくドラグレッダーに近い存在であるがまるで違うモノ、ドラグブラッカー。

 

「少なくともオレが今まで知っていた城戸じゃない。それともこのスーパー弁護士が見抜けない程に強かって事か。浅倉、秋山、芝浦、全くオレ中心の人脈からこうも厄介なヤツを選んだものだ、神崎士郎。」

 

 北岡は不意打ちを策してデッキを取り出す。しかしその手が止まった。

 

 突進、

 

 バズスティンガーの群れを橋に沿って一直線に作られた空白地帯。そこをまるで暴走機関車のように真司に向かって突進するクリーチャーが一体。一本の角、銀に光るボディ、やや短い四肢、それはサイ型の、メタルゲラス。

 

 足を引っかける、高転び、

 

 真司は向かってくるゲラスに至って冷静に対応する。一歩ズれ、足をかける。足が絡み、自身の突進力で自身を地面にのめり込ませるゲラス。自慢の一本角が深く刺さって動くに動けず短い四肢をバタつかせてもがくゲラス。

 

「おまえか・・・・、一度おまえに聞きたかったんだ、」

 

 メタルゲラス、AP3、カードとして用いた場合パーマネントの効果。

 そう、ゲラスは今現在彼の契約クリーチャー。紫の蛇を象ったライダー、王蛇が既にベノサーベル片手に、群がる様々な配色のバズスティンガーを次々と斬り捨てながら悠然と歩み寄ってくる。

 

「・・・・・・・」

 

 まるで死んだような目でそれを待つ真司。

 

「おまえ、バカじゃないのか。」

 

 王蛇は中指を立てて挑発する。真司はまるで無反応だ。

 

「変身」

 

 纏うスーツは龍騎のそれである。横スリットに張りつくような巨大な二つの眼、しかし紅いはずのそれは決して光る事無く暗い。スーツもやはり紅くはない。暗く精気が無い。なにより動きに感情のムラが無い。バイザー一つ、蹴り一つで波状に攻撃してくるバズスティンガーの大軍を対手取っている。その精密な手際は冷酷さすら感じさせた。

 

「おまえ、おまえか!」

 

 その姿を龍騎のそれと認識した王蛇、右目を抑え、発狂したように周囲のバズスティンガーに当り散らしながら徐々に距離を縮めてくる。だがしかし王蛇は気づかなかった。そのモニターに映る名前が‘リュウガ’と表示されている事を。

 

 グフ・・・・・

 

 右から男声の碧いカミキリ型クリーチャー、ゼノバイターが半月状の武具を黒い龍騎、リュウガに向けて振り下ろす。

 

 クフ・・・・・

 

 左から女声の赤いテラバイターが同じ半月状態の武具をゼノバイターと歩調を合わせて伐ってくる。

 

 跳躍、

 

 それを一跳躍で躱すリュウガ、しかし眼前には王蛇がベノサーベルを上段に振りかぶっている。

 

「イライラぁ!」

 

 半歩間合いを詰める、腰を捻り、やや屈み気味、脚力と腰と左腕のストロークの全てを込めてドラグバイザーを握り込んで王蛇の右肘を狙って、打つ。

 

「クソがぁ」

 

 腕を弾かれる王蛇。弾かれた右腕がダラリと下がる。おそらく折れている。龍騎、否リュウガの動きはムダが無い。ムダが無ければこれだけの潜在能力を発揮する。そしてムダの無いリュウガ、カードを引き、持った手の甲でバイザーを弾いて開け、装填し、折り返して閉じる。3行程半。

 

『ソードベント』

 

 ドラグセイバー、パーマネント、AP3、龍騎のそれと全く同じカウントで召還できる。

 空中でキャッチ、そのまま王蛇へ振り下ろす。

 

「クソってのによ!」

 

 AP3VSAP3、消失、

 

 王蛇折れた肘を肩で奮ってリュウガと刃を合わせる。宙に浮いているリュウガは橋の北端にまで飛ばされる。

 

 右からブーメラン、

 

 それは先にリュウガを攻撃した赤いテラバイター、王蛇に向かって半月状の武器を投げ飛ばした。だが王蛇は反応している。回転するブーメランを左腕で無作為につかみ取り、連携して近接攻撃を掛けてくるゼノバイター顔面へ投げ付けた。ゼノバイターは逆撃を食らって後ろへ持っていかれ、テラバイターに衝突。

 

「面倒だ」

 

 王蛇はカードを出しチラつかせた。それはコントラクト、契約のカード。

 

 クフ・・・・・・・

 

 お互いに肩を抱き合って起き上がるバイター2匹の内、メスの方が王蛇に魅了される。

 

『アドベント』

 

 切断される首、

 

 メスの手際は速かった。即座にブーメランを奪ったかと思いきや肩を貸していたオスの首を一刀にした。契約クリーチャーの生態に支配されたテラバイターはそのままパーマネントとして、従うバズスティンガーを斬り殺して回る。

 

「それでいい。」

 

 テラバイターが周囲を整頓し王蛇へ寄せ付けない。

 

『ファイナルベント』

 

 そうしてベノクラッシュをリュウガへ。

 

『ガードベント』

 

『ガードベント』

 

 立ち上がったリュウガ、真司がやったようにベノクラッシュ対策に盾を2枚召還、両腕で構えた。

 ドラグシールド、パーマネント、GP3、

 

 貫通AP6VSGP3×2

 

 砕け散る2枚のシールド、弾き返され橋を逆に転がる王蛇、

 

「鬱陶しい、鬱陶し過ぎる・・・・」

 

 脳震盪でも起してるのか、俯せで手足をよく動かせないでいる王蛇、

 

「・・・・・・」

 

 清明院大学で7人のライダー対手に1人名を為さしめた王蛇を無言で見下す者、それがリュウガ。

 

『ファイナルベント』

 

 リュウガが飛翔する、纏わり付く黒い龍、ドラグブラッカー。

 

『ソードベント』

 

「イライラする、」

 

 ベノサーベル、パーマネント、AP3/GP3、

 辛うじて立ち上がり、出血を伴った召還で縦一文字に防御を構える王蛇。

 

 はぁっ、

 

 蹴撃の構えで黒い炎を描いて降下してくるリュウガ、

 ドラゴンライダーキック、インスタント、AP6、シールド貫通、

 

 折れるサーベル、

 

「イラぁ」

 

 ベノサーベルをへし折る、寸前、やや回避に右へ逸れる王蛇、しかしむしろ心臓の位置へリュウガを誘う事になる。胸に罅が割れ、腰の回転が横への慣性を生み、ねじ切れそうになりながら宙へ飛び、クリーチャーをオーバーラップして橋の上を飛び出していた。多摩川へ落下。王蛇は川底へ沈んだ。

 

「ホントに、城戸なのかおまえ、いい加減違い過ぎるぞ。」

 

『アドベント』

 

『ファイナルベント』

 

 橋の北端、既にマグナギガは召還され、緑のスーツを纏った北岡、ゾルダはエンド・オブ・ワールドの射程にバズスティンガーの群れとリュウガを捉えていた。

 

 轟火、

 

 日野橋の北から南、放射状に伸びる炎、拡がりは止まる事を知らず、バズスティンガーとリュウガを呑み込んでいく。

 

「ボクってやり過ぎちゃうのが、ステキだよね。」

 

 だが大量のバズスティンガーを一掃したゾルダの攻撃は先の大量のガゼールによって威力を減殺されたあの状況に似ていなくもない。

 

『ストライクベント』

 

 ドラグクロー、パーマネント、AP3、インスタントとして使えば+クリティカルの効果。バズスティンガーの影に隠れて、リュウガは生きていた。

 

「オレが」

 

 油断したゾルダ。ドラグクローファイヤーを食らって宙を大の字で回って伏す。

 

「・・・・・・」

 

 戯れるようにマグナギガとドラグブラッカーがバズスティンガーの珠を奪い合っている。そんな光景を無視して北に向かって立ち去ろうとするリュウガ。

 

「分かった・・・・お互い・・・生殺しはナシにしようぜ・・・・オレは十分・・・・」

 

 必然無様に伏したゾルダの前を素通りする事になるリュウガ。

 

「・・・・・・・おまえ等に興味は無い。」

 

 はじめて人間的な言句を顕にするリュウガ。

 

「ライダーの命を集めなければ、願いが叶えられない、おまえも知っているだろう。」

 

「・・・・・オレの願いは、城戸真司の存在ただ一つ・・・・」

 

「なに・・・・・・」

 

 この男は城戸じゃないのか、

 ライダーバトルはオレ中心じゃなかったのか、

 なぜ城戸なんだ、

 

 だが五体がシビれて動かないゾルダは、リュウガの背中を見送るしかなかった。

 

 

 

 深夜、JR立川駅改札前。

 

「オレ、何やってたんだろ」

 

 当の城戸真司本人は、日野橋から立川通りを北へ上がった駅構内、改札と焼きたてパン屋に挟まれたメノウ色の通路上で一日寝そべっていた。

 

「ダメだ、何ヤっても、結局何も止められないじゃんかオレ」

 

 秋山蓮と初めて対峙した時の言葉、

 

『イヤだ、おまえも口でなんと言おうと、いざ殺しちまえばオレと同じ気持ちになるはずだ、オレは、絶対、オレと同じ思いをさせたりしない、どんなヤツでも、たとえおまえのようなスッゲーイヤなヤツでもだ!』

 

 秋山蓮は殺す殺さないのレベルなどとうの昔に越えている男だったオレと同じ思いなんてとっくに越えていたんだだから殺せたんだ平気で殺せたんだオレなんかヤツから見ればチンケで小うるさい道具でしかなかったんだオレよりもヤツの方がオレイヤがってたんだ救えなかったオレダメなんじゃないかオレの気持ち分かっててヤツはヤリやがった悔しい裏切られたあいつオレを踏みにじりやがったオレ止められなかったあいつがイヤなヤツだって忘れてたオレの言う事なんかあいつ最初からどうでも良かったんだそうに違いないオレは悪くない悪くないんだ

 

「いてぇ・・・・腹いてよ・・・」

 

 真司は子供の時から考え込むと眠くなるか腹を痛める。

 

「真司さ、こんなカタカタヒール鳴らして寄って来てんのに、どうして気づかないかね、なに、また腹痛、真司はバカなんだから考えるなんて慣れない事したら体オカしくなるってなんべんも言ってるでしょ。」

 

 女声であった。囚人服であるが、その四肢は削り込んだように細く、作り込んだような目鼻が作り込んだように見事に顔に配置されている。

 

「美穂・・・・・」

 

 それは真司にとって遠い記憶の中にある顔だった。

 最期の三日間、2日めの幕が切って落された。

 

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