仮面ライダー龍騎SPRITS   作:bassher

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ここは02年度放映された特撮番組『仮面ライダー龍騎』の二次小説です。『仮面ライダー龍騎』、並びそのスタッフ、また講談社マガジンZ連載『仮面ライダーSPIRIT』著者には、一切関係ありません。
公開は07年11月からとなります。


最後の三日間 03-01-18

 

 

 

 

 

 深夜、昭和記念公園。

 

「今度は何体だ、寝かせてもくれんか。」

 

 先日から蓮を襲っている黒いライダーらしき者達が今日は10数体。まるで軍隊のように整頓されたローマレギオンのそれのように方形陣を組んで例のランサーを一斉にナイトに向けている。隊列を崩す事を考えるナイトは、右に移動して揺さぶりをかける。しかしそのナイトを嘲笑うかのように総員ただ軸回転し、ナイトへ向く面に対して最大数のランサーを垂れる。左に揺さぶっても同じ。総員まるでムダがない。まるで一つの機械か体組織のようだ。

 

「頭はどいつだ。」

 

 これほどの集団がこれほどの連動をする為に指令を下す中核がいる、と直覚したナイト。

 

『アドベント』

 

 顕れるダークウィング、跳躍するナイトを爪で掴んで上昇する。

 

 投擲されるランサー、

 

 上昇するナイトに向かって次々と投擲されるトゲ付きのランサー。しかし全てが放物を描いて落下する。

 

「あれか。」

 

 夜目が効くという訳でないが木立の中に蠢く影を見つけるナイト。振り返ってみれば影でしか見えなかった事が幸いしていたかもしれない。

 

『ファイナルベント』

 

 一路謎の集団上空を横切って降下するナイト、謎の集団はボウリングのピンのように整列し不動のままただランサーを投擲していく。しかし飛翔斬の回転はその攻撃を全て弾き、その内飛翔斬の狙いが分かったのか、一斉に木立に走り寄って、素早く盾となって陣列を組む謎の集団。標的までの軌跡を塞がれたナイト、一旦上昇、木立を直上降下。蓮はこの精度までファイナルベントを御せるようになった。木立に突撃、茂みを突っ切った先に見えるのは、コオロギのモチーフに妙に金属がかったパーツで構成されたサイコローグ。

 

 塵と化す、

 

 飛翔斬が直線頭上より降下してサイコローグを微塵にする。

 

「クリーチャーだったのか、複数のライダーと同時に契約できるタイプなのか。」

 

 着地したナイトの困惑は耳につんざく悲鳴によってかき消される。悲鳴をあげているのは、あのライダーのようなもの達の悲鳴。蓮はなぜかその者達の人間的な動きに違和感を持った。いやいままで人間的では無かった。

 闇雲にランサーを振り回しながら半狂乱になって寄ってくる者が一人。ナイトは咄嗟にダークバイザーを抜いてもっとも隙のある脇を狙い伐った。

 

 あぁぎぁぁぁぁぁ

 

 ベルトのバックルが割れる。途端に全身が割れるように除装され、生身の人間の姿が露出する。若い、大学生くらいの男だった。問題はその男がベルトを破壊してなお狂乱しながらふらつき、涎を滴らし卒倒、即死した事である。

 

「笑っている・・・・・なんなんだ、こいつら。」

 

 見ればそれは引き攣った笑顔だった。引き攣った笑顔のまま痛覚も怖れも感じないのか、そのまま泡が吹いて肉体が消失した。

 

「秋山さん、お願いしますよっ」

 

 唖然とした蓮は香川の声に意識を呼び戻される。見れば同じように狂ったライダー達に取り囲まれている香川がいる。

 

『ソードベント』

 

「ヤツらのベルトは脆い」

 

 即座に救出にかかるナイト。もはや集団戦でしか対抗できていない者達が統率もとれず乱れている。ナイトのいい獲物である。ベルト突きを次々と決めて何人も泡にしていくナイト。そのライダーの全てが喜色を浮かべながら無惨に死んでいく。

 

「人で無しだな。すっかり。」

 

 掃討し終わり、やや俯く蓮。やはりこのライダー達も命の珠が浮かばない。片膝を折り、辛うじて立てたランサーにすがりついて立つ。

 

「あぶない」

 

 それは珍しい香川の機敏な動作だった。突き飛ばす香川、訳も分からず公園の土に仮面を汚すナイト、湧き出る鉤爪、引き裂かされる血に染まる白衣。

 

「香川、おまえがなのか、」

 

 鮮血が白き仮面に降り懸かる。ナイトの眼前に、白虎を模したその仮面の男が立ち尽くす。マスクド・ライダー12号タイガは既にデストクローを両腕に装着し、その爪に濃い血が滴っている。いったいいままでどこにどう潜んでいたのか。少なくとも上空舞い上がったナイトの視界にはタイガの影を捉えることはできなかった。

 

「いけませんね、情に動かされてはいけません、研究者は、常に、論理的でなければ、」

 

「傷は浅いぞ」

 

 失神して倒れかかる香川を抱き留めるナイト、同時にランサーで半円を描くように振ってタイガを威嚇する。

 

「チッ、つまんなくなっちゃった」

 

 子供のグチのような小言をタイガは吐き捨て、不思議な事に、壁に隠れるように、空間に溶けて消えた。

 

「クリア?持っているのか、」

 

 香川を丁寧に地面に寝かせてタイガを追おうとするナイト。

 

「あ、秋山くん、」

 

 白目を剥きながら片腕だけはナイトを掴んで放さない香川。

 

「分かった。大丈夫だ。死なせない。」

 

 ナイトは足首を掴ませたまま動かなかった。

 

 

 

 ク・・・・・・・

 

 介抱しているのはテラバイターだった。ライダースーツを纏ったまま多摩川に落ちた王蛇を救ったのは、このカミキリムシ型のメスクリーチャー。だが哀しいかなテラバイターは獣である。人がなにか口元に入れる事で養分を補充する事は観察して分かっていた、水面から向こうの世界へ出て水を掌で掬って多摩川の水を両掌で掬って来もした、しかしその水を王蛇のヘルメットに振り掛けるだけで呑ませているものと考えている。哀れせっかくの水は王蛇の仮面の上を滴って地面に落ちるのみ。

 

「・・・・・なんだ・・・・・」

 

 その回復は全く王蛇、浅倉威の強靭な生命力の賜物である。周囲を警戒しながらゆっくりと上体を起き上がらせる。

 

 ク・・・・・・・

 

 テラバイターが介抱したという事を察した王蛇はしかし、やや目線を外す。

 

「オレはおまえの赤ん坊じゃねえ!」

 

 ブつ、

 

 王蛇は突如テラバイターの顔面を殴りつける。仰けぞって地に膝を着くテラバイターを尻目に立ち上がり、容赦無くバックルからデッキを引き抜く。同時に召還がキャンセルされ、消失するテラバイター。出現するのは囚人服の浅倉威だった。

 

「現実を選択するのではなく、現実を拒絶する道具とする為に理想や夢、あるいは物語を想起し、知らず内に傲慢となって一人よがりの物語の為に他者が関る現実を屈しようと望む。楽しそうだな。俺達は否応無く神崎のゲームシナリオ通りに動かされているというのに。」

 

 その浅倉の背後、堤防急斜面の草地に座り込んで雑草をイジる全身赤でキメた男。

 

「・・・・・、戦うか、」

 

 テラバイターの時もそうだが、浅倉はビジョンに入った状況を一瞬で認識してみせた。

 

「おまえ、ライダーの中で一番性急だ。少しは駆け引きするものだが。それほど覚悟が決まっているという事か。ふん、だがそれも結局おまえの一人よがりな物語のせいでしかない。」

 

 そんな独り言に近い男の言動を無視するかのようにデッキを翳す浅倉。

 

「変身」

 

 全身赤で決めた手塚みゆきは立ち上がり、徐にデッキを翳し追随する。

 

「変身」

 

 水面が波打つような静かな両者の変身。一方は怪しい紫の蛇であり、一方は怪しいワインレッドの八つの目。

 

『ソードベント』

 

「見るからにイライラする」

 

 王蛇が先に動く。ベノバイザーを振ってカードインスペースを開け、開けると同時にカードを抜いて、指先でカードインすると連動して掌でバイザーを押し閉じる。同時に王蛇の仮面とボディの隙間から溢れ出る鮮血。今日はやや飛びがいい。

 

『コピーベント』

 

「さてこの得物はどういうものか。」

 

 さっそくベノサーベルを模造するライア。エビルバイザーの尻尾を握って開け、カードを引き、装填、尻尾を握って閉じる。

 

「イラぁ!」

 

 敵の細かい挙動などに構わず突進する王蛇、

 

「軽挙が」

 

 徐々に闘者に対して軽蔑の念が沸いてくる智者。振り下ろされるベノサーベルをバイザーである盾であえて押しつけるように傾け受け流す。ライアはその時、未だかつて無いほどの衝撃を骨で感じた。だがライアを動転させるほどではない。

 

「小賢しい」

 

「己の得物を味わうがいい」

 

 腹部、

 

 まともに食らう王蛇、しかし不動を保つ王蛇、

 

「小賢しいと!」

 

 肋が折れているにも関らず、ベノサーベルを切替えす王蛇、

 

「そこまでするキサマの物語はなんだ!」

 

 ライアもコピーしたベノサーベルを逆手に握り替えして掬い上げるように刃を合わせる。

 

 AP3VSAP3、消失、

 

「ぁん、」

 

 ライダーになって2日、現実に無い現象に戸惑う王蛇は、自己防衛が働いて後退る。後退ってとにかくバイザーを手にする。

 

『スイングベント』

 

「貰った」

 

 ライダーバトルの経験量に関してライアの右に出るものはいない。即座に自身の得物を召還、後退る王蛇のバイザーを剥奪する。

 

「あん」

 

 ここで通常のライダーなら戦闘不能の事態に陥って逃避するしかない。しかし王蛇、浅倉の生命力、修羅場を潜った場数はライアの比ではない。即座に五体による攻撃、跳躍からの蹴りを敢行。

 

「きさ」

 

 両足を揃えたドロップキックを食らってライアは押し倒される。喉元を王蛇の片足で押さえつけられ、身動きがとれないライア。

 

「うっとおしい」

 

 落としたベノバイザーを手にした王蛇、コブの側で闇雲にライアを打ち付けた。

 

「ライダーなら、ライダーの戦いをしろと、」

 

 メッタ打ちにされてもしかしライアに差してダメージはない。ただあまりに闇雲な攻撃に次の手が打てない。

 

「関係あるか、戦いのルールは、命だけだ」

 

 智者にとってライダーはライダーのルールに従っていなければならない。それが公理だ。しかし闘者にとってファッション、命のやりとりをする為の外装に等しい。ややゴルフスイング気味に打ち付ける姿が様になっていく王蛇は上気していた。

 

『アドベント』

 

 しかしライアは盾で防御しながらもその盾に器用にカードを投げ入れた。

 アドベントエビルダイバー、AP4、カードとして使用した場合、インスタントとして機能し、1突撃、2防御、3ライダーを乗せての滑空、のいずれかの効果。

 今回は突撃。ワインレッドのエイ、エビルダイバーが地面スレスレで衝撃波の尾を引きながら王蛇に向かって突進する。

 

「これがライダーの戦いというものだ!」

 

 ライアから身を翻し、のけぞって回避する王蛇、横切るエビルダイバーは効果を及ぼし消失、ライアは立ち上がり埃を払い余裕を取り戻す。

 

「おもしろい、気に入った。」

 

 王蛇、見れば首のプロテクターが斬れ、鮮血が流れているのを片手で塞いでいる。

 

「もうおまえはイイ、底が分かった。おまえ程度の何も持たない奴ならば、状況が状況だ、おまえというチープな存在にまだ有意義な意味が生まれる。ライダーバトルを止める為に、このオレに命を捧げるがいい!」

 

『ファイナルベント』

 

 王蛇が油断したと見たライア。ハイドベノンを発動。再び現出するエビルダイバー、見もしないで搭乗するライア、両足で調整を取りながら精密に王蛇へ。

 

「また来たか、いい子だ。」

 

『ファイナルベント』

 

 王蛇もまたベノクラッシュを全身血を噴きながら発動、そのカウントの速さは、ハイドベノンの発動に追いつき、宙返りを既に始めている。

 

「バカな」

 

 絶えず予測を上回る状況に驚く智者。

 

「戦え!」

 

 絶えまない命の狭間に狂気する闘者。

 

 AP6VSAP5、

 

 はじき飛ばされるのはライア、

 

「なぜだ、それほど速いカウントならば押し切られるはずなど・・・・」

 

 胸のプロテクターを割り、頭部も一部割れ目元が露出している。手がガタガタと振るえ、立ち上がろうと手を地に着くもその手を離せない。

 

「ああ、これだ、これだ、」

 

 王蛇は天を仰いで喜んでいた。

 

 

 

 同時刻。深夜。

 

「な、な、なんで、美穂がここにいんだよ、おまえ、こんな、ここは、ミラーワールドだぞ!」

 

 ここまで大袈裟に慌てふためく事ができるのは真司くらいだろう。

 

「あんたバカ?ここに今どきいるって事は二人ともライダーって事だろ。気づけよフツー。」

 

 霧島美穂は、真司が捉えられた人間である可能性を言ってから気がついたが、どうせ真司なら分からないだろうとタカを括った。

 

「二人?蓮とオレ?そらライダーだけどさ。」

 

 いったいどんな不文律でそんな理屈を捻り出してくるのか神でも筆者でも分からない真司のアルゴリズムだ。

 

「やっぱりライダーなんじゃん。」と言いつつ白色のデッキを翳す美穂。「はい行くよ、へーんしん。」

 

 真司を見下したままファムの姿を纏う。

 

「お、お、おまえなんでライダーなんだよ、」他の者なら演技なんじゃないかと思える程の驚きぶりだ。「分かったぞ、オレがライダーになって羨ましかったんだな。いいか、ライダーってのはな、そんな甘いもんじゃねえんだ、」

 

 と言いつつデッキを翳し龍騎となる。

 

「呆れた、結局アンタもライダーなんだね、アタシだって事知っててもそうやって変身する。ま、いいわ、どうせならと思ってたし。これでこっちも本気で殺れる。」

 

『ソードベント』

 

 自身が先にファムになった事を頭からすっかり消し去っているオンナだった。

 

「少しイタイ目見れば、おまえも二度とライダーなんかやりたくなくなるんだ、こらしめてやるぞ!」

 

『ソードベント』

 

 オトコはオンナが既にライダー一人の命を奪った覚悟を知らない。

 天より光が放たれ先に得物を受け取ったのはファム。龍騎のカードインがやや遅れた事がこの差を生んだ。

 

 剣を弾く、

 

「あ、ズッけー!」

 

 おもわず龍騎が叫ぶ。おぼろげに実体化もしていないドラグセイバーを手に取ろうとする龍騎、寸前、ファムはウィングスラッシャーを十数メートル伸ばして弾き跳ばす。龍騎のはるか先の床面に刺さるドラグセイバー。

 

「あんたバカぁ?アタシ達は戦ってんだよ!」

 

 再びウィングスラッシャーを伸ばして龍騎左側面を横薙ぎにするファム。

 

「おまえもなのかよ!」

 

 龍騎の左側面、左腕にはドラグバイザーが装着されている。ファムの攻撃をバイザーを盾に推し弾く。

 

「真司のくせに生意気」

 

 弾き返されたスラッシャーの反動を回転で保ち、反対側面へ回し込み伐つファム。

 

「おげぇ」

 

 その切り返しの速さに対応できず腹部を伐たれる龍騎は、悲鳴をあげてスッ転ぶ。

 

「無様ね」

 

 伐つ伐つ伐つ伐つ伐つ

 

「おぇぇぇぇぇ、いい加減、しろ!」

 

「アタシが徹底的にヤるって知ってるでしょ」

 

 転んで丸まる龍騎にスラッシャーをメッタ伐ちするファム。

 

「昔から容赦ねえなおまえ、」

 

 一瞬、攻撃が止んだ。恐る恐る周囲を見渡す龍騎。

 

「アンタの事だから運だけで今まで生き残ってきたんだろうけど。」既に影が差すほどの眼前にファムは立っていた。龍騎の喉元に刃を押し付ける。「決定的だね、もう。」

 

 圧倒的な力を見せつけるファム。龍騎も呆然として動けなかった。だが真司という男をここで終わらせまいとする何者かの力があるのか、テコ入れが入った。

 

『ソードベント』

 

『ガードベント』

 

「なんだ、」龍騎の目に映ったのは、おぼろげな影。

 

 工事区画の鬱陶しい風景しかない南口よりゆっくりと向かってくる一つの影。

 

「新手かい!」

 

 スラッシャーの後刃を向けて十数メートル伸ばす。

 

 盾、

 

 スラッシャー消滅、

 

 歩み寄る者の左肩に装着された盾に弾かれ消滅するウィングスラッシャー。という事は盾はGPを持ち、そのようなアイテムを持つ者はライダーであるという事だ。

 

「あれは・・・リュウガ?・・・・なんだそれ、オレのパクリかよ・・・・」

 

 その影が近づいてくるにつれ、造形がはっきりとしてくる。龍騎は驚く。ファムもまた龍騎とその影の者を交互に見やる。その造形は龍騎とウリ二つ。暗い、濁ったような暗さが龍騎の燃える紅とは違うものの、龍騎と同じプレート、同じマスク、そして同じバイザーだった。ドラグシールドもドラグセイバーも寸分違わない。

 

「ホラ、アンタもさっさと立つ!」

 

 驚きを隠すようにファムは龍騎を怒鳴りつけ、ちょうど足下に刺さっていたドラグセイバーを足で蹴って龍騎の目の前に滑らせる。

 

「見つけた、キドシンジ・・・・」

 

 暗い龍騎、それがリュウガとモニターに表示されている以外真司達はなにも知らない。

 

「邪魔すんなよ!」

 

 ファムはバイザーを抜いて駆ける。既にカードを反対の手に掴んで駆けながら装填、バイザーを閉じながら切っ先を向ける。リュウガは向かってくるファムに左肩のシールドを構える。セオリーだ。

 

 掬い上げる、

 

 弾き飛ばされる盾、

 

 だがファムが狙っていたのはまさにその盾。最初の太刀合わせで攻撃が通らないと踏んだファム、己が得物が召還される前に盾の始末にかかった。思い切り低い姿勢を取ってバイザーの細い刃を盾の裏側に差し込んで掬い上げる。

 

 セイバーを寸前で躱し跳躍、

 

 リュウガは盾が弾かれつつもドラグセイバーを横薙ぎに狙う。しかしファムは掬い上げ様跳躍の体勢を取って宙に逃れ剣を躱す。ちょうどそこへ回転しながら降ってくるウィングスラッシャー、掴んだファムは跳躍頂点から一転降下。降下様、スラッシャーを伸ばす。

 

 弾く、

 

 バイザーを小器用に捻ってスラッシャーを弾くリュウガ、そして再びドラグセイバーを横薙ぎに振る。

 

 青龍刀の幅広の刃に乗るファム、

 

 乗って、レイピアの刃をリュウガの首の隙間に通す、

 

「!」

 

「貰ったぁ!」

 

 明らかにそれは致命傷、首元の頚動脈を切断し、骨を素通しし内臓に達している。しかし、

 

「ぁ!」

 

 バイザーを打つ、

 

 まるで怪獣のように吠えリュウガはバイザーを握り込んでファムの肋骨へ打つ。ファムは勢い吹き飛ばされ、立川駅改札を南から北へ滑る。

 

「なんなんだ、人間なのか、」

 

 脇腹を抑え立ち上がれないファム。飛ばされた勢いでブランバイザーの刃が折れている。ファムは知らない、リュウガの中身はミラーワールドで産まれた人にあらざる存在である事を。

 

「・・・・・」

 

 ドラグセイバーを反射させながらうずくまるファムに歩み寄るリュウガ。

 

「戦うな、おまえら!」

 

 そこへ形の同じセイバーを両手で握り締めた龍騎が突進してくる。

 

 AP2VSAP3、

 

「キドシンジ!」

 

 たちまち消え失せる龍騎のドラグセイバー、そのまま胸プレートまでリュウガの刃が振り下ろされる。

 

「なんでだよ!」

 

 胸が抉れて吹き飛ぶ龍騎、

 

「キドシンジ・・・・・」

 

 興味を龍騎に移したリュウガは、なお健在のドラグセイバー片手に、ゆっくりと歩み寄っていく。機械的だったリュウガのなにかが嬉々としている。

 

「なんでだ・・・・いっしょじゃないのか、あっちの方がパクリなのに・・・なんかあいつスゲームカつく、」

 

『ストライクベント』

 

 ドラグクローを召還する龍騎。

 

「フ・・・・」

 

 なにを思ったかリュウガ、龍騎の様を見て剣を床面に刺す。

 

『ストライクベント』

 

 バイザーのカードインも全く同じ、黒いドラグクローを召還するリュウガ。

 

「マネすんな!イチイチに釈が触る!」癪に障るであるが今の真司に説明してもムダだ。

 

「キドシンジ!」

 

 互いの手にドラグクロー、龍頭同士が衝突し合う真っ向勝負、

 

 AP2VSAP3、しかし互いにクリティカルが加味される、

 

「真司っ」

 

 激突する炎に辺り一面輝く、ファムもまた目を塞ぐ。

 

「くそ、なんなんだよ、腹立つ、」

 

「キド・・・・シンジ・・・」

 

 ファムが視界を取り戻した時、眼前にはVの字に股を開いてスッ転んでいる龍騎と、片膝をつくリュウガがいた。両者ともダメージを負っている。リュウガを討つチャンスはこれしかないと思うファムはバイザーを開こうとするもクリップが上がらない。

 

「腹の底掻き毟られるようだ、」

 

『ファイナルベント』

 

 龍騎は勝負に出る。ドラグレッダーが龍騎に纏わり付いた。

 

「・・・・・・」

 

『ファイナルベント』

 

 リュウガはまたしても龍騎と同じカードで出る。纏わり付くのは黒い龍、ドラグブラッカーだ。

 

「どこまでパクリだぁぁ」

 

 跳躍する龍騎、

 

「ハァ!」

 

 同じく跳躍するリュウガ。

 互いに蹴撃の構えを取る。龍騎の方がやや高所から降下する形となり、リュウガはドラグブラッカーの炎に推し上げられる形となる。

 

「きえろぉぉぉぉ!」

 

 この時龍騎は自身の願いすらも忘れていたかもしれない。

 

「ハァァァァァ!」

 

 リュウガはただ一途に願った。

 

 交差、

 

 激突しない、

 

「なに、」

 

「ハァァァァァ」

 

 素通りしていくリュウガ、そのドラゴンライダーキックの対手は龍騎そのものではない。その背後のドラグレッダー。

 

 クァァァァァ

 

 直撃するリュウガ、必殺の一撃が龍のボディを粉々にし、黒き炎が破片を焼き尽くす。

 

「ドラグレッダァァァァァ」

 

 一瞬にして紅のボディがくすみ、グレーのブランク体となる龍騎。宙を失速して墜落、大の字になって床面に叩きつけられた。その顔面にはドラグレッダーの破片が降り注いだ。

 

「ドラグレッダー・・・・こんな・・・」

 

 脱力し、ただ目の前の破片を一つ掴むブランク体。しかし破片は即座に泡を吹いて消失していく。

 

「これでまず龍騎の姿を。」

 

 リュウガが初めて言語らしいものを喋った。彼はドラグブラッカーが宙を舞う姿を見止めて、ドラグレッダーの命の珠に食らいつく様をただ眺めていた。驚くべきはその後、珠を呑み込んだブラッカーは眩い光を全身から放ち、その色を黒から紅へ変化させる。同時にリュウガもまた光を放ち、正真正銘、龍騎とまったく同じ姿、紅のボディスーツと化す。雄叫びを天に向かってあげるリュウガだった。

 

「オレ・・・結局なんもできなかったじゃないか・・・・・」

 

 俯せのまま起き上がれない真司。もはやどうにもならない状況である事を悟った。マスクの中は涙と鼻水に塗れている。

 

「最初からだ、」紅となったリュウガは、ブランクとなった龍騎、真司を指差す。「最初からまず契約クリーチャーをと思っていた。万が一があるからな。よく分かっているのだ。キドシンジ、キサマの事はな。」

 

 まるで知能が上がったかのように次々と言語を紡ぎ出す。リュウガは真司しか見ていない。

 

「真司になにすんだ!」

 

 ファムが衝動のまま割って入った。その腕には先程リュウガが突き刺して置いたはずのドラグセイバーが握られている。

 

「は」

 

 らしからぬ油断で不意を突かれるリュウガ。思わずバイザーを盾にした。だが振り上げたリュウガのドラグバイザーは、なにもしていないのに砕け散った。

 

「貰ったぁ」

 

 リュウガは、まともに自身の得物を食らう事になる。

 

「キドシンジ、なのか」

 

 衝撃が斜め一線走り、地に膝をつくリュウガ。リュウガのバイザーは先のドラグクロー同士の衝突で致命的なダメージを負っていた。

 

「逃げるよ、立てよこら腰抜け!」

 

 ファムは呆然とするリュウガを尻目に、真司の元に駆け寄って無理矢理抱き起こした。

 

「オレ・・・・・なんもできね・・・」

 

「ボヤボヤすんなゴラァ!」

 

 真司のケツを蹴り飛ばし、北口の方へ逃げをうつファムだった。

 

「・・・・・・・・・・・キドシンジ・・・・・、これがキドシンジ・・・・・」

 

 胸から亀裂がマスクまで走り、装甲が剥がれ落ちた。リュウガ、ただ呆然とし、外気に素顔を半分晒す。真司にとってそれは、その顔はまるで鏡に映した自分、いや正真正銘鏡の自分であった。

 

 

 

 深夜の河中、

 闇がうねるように水面に波紋が広がっていく。半球状の上半身だけを浮かべて、両者の激闘を傍観しているのはクラゲ型のクリーチャー、ブロバジェル。両者、マスクド・ライダーである王蛇とライアの激闘である。

 

「コア・ミラーで見かけた時もそうだったが、キサマの目的はなんだ、ただ戦いを楽しんでいるだけのようにしか見えん。一体何が目的なのだ。」

 

 智者にとってライダーバトルは自身のかなえたい願いの為の手段である。そしてすべてのライダーがそうでなければならない。あるいはそこに彼の限界があったかもしれない。

 

「どうした、怖じ気づいたか、戦え、」

 

 全身血まみれの闘者は目的や願い、論理主義や合理主義とは無縁の、あるがままの存在だ。

 

 そこへ触手、

 

「水中か、」

 

 それはブロバジェルの突然の乱入。両者弱っていると見て取った上で、ライアの首に触手を伸ばして絡め取る。為す術も無く土手を引きずられるライア。

 

『アドベント』

 

 アドベントメタルゲラス、AP3、カードとして使用した場合、パーマネントの効果を得る。

 

『アドベント』

 

 アドベントテラバイター、AP3、カードとして使用した場合、パーマネントの効果を得る。

 

「楽しみを取るな」

 

 王蛇は獲られまいと2体のクリーチャーを召還。ゲラスは水中に向かって突進し、バイターはブーメランを投擲してブロバジェルの触手を切断する。投擲したブーメランは大きく弧を描いて堤防の斜面に突き刺さる。

 

「礼を言う必要はないな」

 

 立ち上がり王蛇へ向けてエビルウィップを放つライア。ムチはバイザーを搦め取るものの、今度は王蛇それを放さず、ピンと張って綱引き状態となる。

 

「いいぞ、戦いらしくなってきた」

 

 メタルゲラスは水面を荒らしてブロバジェルと掴み合いの格闘を繰り広げている。王蛇はライアと綱引きしながら徐々に右へ移動する、その先に刺さったブーメランがある。王蛇が身動きがとれないという事は一本のムチで繋がったライアもまた身動きが取れないという事である。実際ライアは水面に両足を取られている。

 

 クぅぅぅ

 

「クリーチャーごときが」

 

 その無防備なライアを羽交い締めにしたのはテラバイター。ライアは振りほどこうとするも、基本的な膂力はクリーチャーがはるかに強力であり、ライダーはこれを得物の強力さでカバーしているのが実情だ。

 

「あぁ・・・・、こういう終わりは、趣味じゃない、まあいい、欲しいものものある」

 

 ムチを振りほどく王蛇、悠然とブーメランを抜きもがくライアに歩み寄っていく。

 

 共々貫く、

 

 ク・・・・・・!

 

「このオレが、こんな、」

 

 ライアの腹部をまっすぐに刺し貫く王蛇、それは自動的に折り重なったテラバイターまでも道連れにするという事だ。

 

「ああ、いい、やはりどんなクスリよりスッとする」

 

 王蛇は高笑いしなにか体内から溢れ出るなにかの感覚に酔い知れている。

 

 ク・・・・

 

 最後の力を振り絞って胸に刺さったブーメランをライアごと引き離すテラバイター。しかしその肉体は既に泡と化して蒸発しつつある。怨みなのかなんなのか、王蛇に向けてひたすら手を伸ばすも、その指先から蒸発していく。

 

「おまえは、うっとうしい、」

 

 そう消失してしまった一匹のクリーチャーに言葉だけはかけてやった王蛇だった。

 

「キサマ!何をやっているのか分かっているのかぁ!あっちの世界なら犯罪行為だ、」

 

 ライアは腹部にブーメランを差したまま川の中を転げ回り絶叫をあげた。

 

「踊れ踊れ、さっきのヤツはどうした、」

 

 カカと笑いながらそれを傍観している王蛇、

 

「オレは、ただこのライダーバトルを破綻させたかっただけだ、神崎士郎の望む通りにライダー同士が戦い合って最後に一人が生き残る事なぞあり得ない、人ならばかならずこの虚しい戦いを辞め、調和し合う事を証明したかっただけだぁ、だけなのにッ!」

 

「おまえ、煩い、イライラする、」王蛇はバイザーにカードを装填している。「じゃあ一つ聞こう、ならなぜおまえはオレと戦っている?」

 

『ファイナルベント』

 

「?!」

 

 ライアの顔面に王蛇の鮮血が飛ぶ。宙を舞ってベノスネーカーの毒液を全身に浴びながら向かってくる王蛇を、ライアはただ呆然と眺めていた。

 

 砕かれる鎧、砕かれる骨、四散する肉体、

 

「オレは、間違ってない・・・・」

 

 なぜだろう、王蛇の連続蹴りの一足一足の動きも、自分の肉体が千切れ飛んでいく様も眺める事ができた手塚みゆきだった。

 

「ああ・・・・やはりイイ。どんなクスリよりも、ヒトゴロシが一番効く。」

 

 王蛇は狂喜した。彼にとってこれが浅倉威という世界の全てだった。だがその余韻にいつまでも浸っている訳にはいかない。

 

 劈く、

 

 耳に劈く快音が轟く、それは低空を滑空するエアロダイバーが空を切り裂く音。主人を失ってむしろ好きに王蛇を狙う事ができるようになった。

 

「そう、おまえだ、おまえと話がしたかったんだ、」

 

 翳す、

 

 だが修羅場が人生である王蛇の戦闘感覚はしょせん畜生の野生などよりはるかに洗練している。王蛇はただ一枚のカードでエアロダイバーの動きを止めた。カードには‘コントラクト’の文字が描かれている。光るカード、宙を固定したように微動だにしなくなるエアロダイバー。カードからの光が収まった時、そこにはエアロダイバーの絵柄が刻まれていた。それは服従の証であった。

 

『アドベント』

 

 アドベントエアロダイバー、AP3、カードとして使用した場合、パーマネントとして機能する。

 

「とぉ」

 

 エアロダイバーに立ち乗りする王蛇、向かう先はメタルゲラスが消失して自由となり、浮かんだテラバイターの珠に食らいつこうとしていたブロバジェル、

 

「いけぁぁぁぁぁ」

 

 爆殺、

 

 エアロダイバーの体当たりで四散爆破するブロバジェル。

 

「いい世界だ。ミラーワールドってのは。」

 

 ブロバジェルの珠に食らいつくエアロダイバーの姿を眺めつつ、浅倉威はただ放心していた。

 

 

 

 手塚みゆき

 24歳。清明院大学と学界トップを争う平安大学の大学院で数学を専攻、助教授の道が開けていた。世界チェス大会の優勝者であるコンピューターを最速の手数で下した天才ぶりは日本中で話題になった。しかし、

 

「論理主義は現実を識る術で無く、現実を規定するものでしかない。即ち100の答えを推測し、100の実験で正解を得ようと、101度めの推測が正解であると決定するのは信仰の問題であり、事実ではない。僕は論理主義に冷めた。」

 

 と突如大学院を中途退学してコイン占いという風変わりな事に身を興じていた。

 そんな彼のミラーワールドにおける姿こそマスクド・ライダー3号ライア。

 契約カード

 スイングベント

 プロテクトベント

 コピーベント

 ファイナルベント×2

 という対ライダー戦において効果を発揮するデッキ。対手のキーカードを封殺し、対手の装備型バイザーを奪い取り、対手を確実に仕留める万全の体勢を配したデッキである。しかし格闘戦においてムチという得物は防御に適さず、またパーマネントとして盾を持たないという脆さを克服する必要がある。またそのバイザーのベントインまでの速度が後続のライダーに比して致命的に遅い、つまり立ち上がりに工夫の要るデッキである。

 

 

 

「フ、真司口開けて寝てるの変んな~い」

 

 既に夕刻を経過している。

 立川市役所周辺には、なぜかラブホテルが多い。その中には、真司と美穂が頻繁に出入りした‘想い出の部屋’というものがある。

 

「コチョコチョ」

 

 くしゅーーーーん、

 

 美穂は甘たるい声を出しながら、間抜けな顔で高鼾をかいている真司の鼻にテッィシュのこよりを突っ込んで遊んでいる。一年ぶりに溜りに溜ったものを解消し、生き物としての悦びを満悦していた。

 

「真司これだから止められないんだよ~」

 

 と猫のように背を丸めて掛け布団を頭から被る美穂。くしゃみしようがなにしようが間抜けな顔で眠り続ける真司。なぜこのような状況に陥ったかと言うと、

 

「逃げるよ!」

 

「え、まだ逃げんのかよ」

 

 二人はリュウガから必死で逃げた。変身を解いて身軽になり、ただ闇雲に立川北口を駆け回った。習性というべきか、たどり着いたのは想い出の染み付いたいつものラブホ、いつもの部屋。相反転して全くいつも通りにいかないのがミソだが、落ち着く場所に隠れる事に成功した二人だった。

 

「なに言ってんだいバカ!」

 

「だってさ、なんも、結局、オレ、やっぱ、なんもできねえじゃん、」

 

「当たり前じゃない、アンタみたいなバカなんにもできる訳ないじゃないよ!」

 

「オレ、ライダーになる時誓ったんだ、一人でもたくさんの人をあの化け物から救うって、ライダーも人なんだ、だからライダーもオレ救わなきゃいけないんだ、でも、でもダメだった、みんな、蓮までさ、オレの言う事全然聞かないし、オレ、なんも出来てねえんだ。このまま生きてても仕方ないよ。」

 

「訳分かメな事言ってるけどさ、どうせアンタのせいでしょ!」

 

「オ、オレ、オレのせいかよ!」

 

 人から言われると怒り出す真司だった。

 

「アンタ、具体的な事なんかした?ライダーの戦い止めたキャ、人のバイザー壊すとかクリーチャー壊すとかいろいろあんだろ。この世界でただザコのクリーチャー叩いてヒーローごっこしてただけなんじゃないの?」

 

「ぁんだと!」

 

 図星を突かれて逆上した男は、女の細い首に両掌で締め上げた。

 

「・・・・く、バカって、っての・・・」

 

 それでも口を閉じない女。割と慣れた状況である。

 

「おまえ、バカって言われんのが一番イヤなの忘れたんか!」

 

 さらに逆上した男は首を締め付けたままベットへ女を押し倒す。

 

「ライダー・・・・アタシも、人だよ、殺すのかい・・・」

 

 力を振り絞って発したその女の言葉の意味が、真司の頭で無く胸に突き刺さる。

 

「は」

 

 思わず両手を放すオトコ。自分の掌を交互に見て目を瞬かせる。しかしオンナの腹部に跨った姿勢は変らない。

 

「ハァハァ・・・」

 

 オンナはオトコから視線を外し、ただ息を乱してその細い首に一筋汗を垂らした。

 

「ハァハァ・・・・」

 

 オトコはそのオンナの首筋に放心したように見とれる。見とれてゴクと喉を鳴らし口を開けている。

 

「ふ・・・・」

 

 オンナはいっしょに住んだオトコのこの心理を完全に把握している。オンナの行動は一旦視線をオトコと合わせ、そして済ました顔でまた目を逸らす。そうすればオトコは必ず、

 

「うぁぁぁミホぁぁぁぁぁ」

 

 オンナにカブりつく。

 そんなこんなで日が沈んだ。

 

「なんでアンタライダーなんかになっちゃったのさぁ」

 

 真司が起きている時では信じられぬ甘たるい声をあげて寝ているオトコの鼻をイジって遊ぶ美穂。

 

「ホント、アンタアタシを困らせる事にかけては絶妙なんだから。姉ちゃんかアンタかどっちか取らなきゃいけなくなったじゃないか。女はな、勢いに流されちゃう事があるんだぞ。こら、分かってんのか、このバカ真司。」

 

 楽しそうである。

 なにより真司の上着からカードデッキを取り出し弄ぶところなぞは、特に楽しそうであった。

 

 

 

「こいつもあの世界で健気にやっているんだな・・・・」

 

 同じく立川北口、二人がいるのは映画館の鑑賞席。劇場内では無音で怪獣同士が戦う映像とカラフルなネズミ(と蓮は思っている)のアニメが交互に繰り返されている。5度も繰り返し見せられると不思議なもので、釈由美子が無性に可愛くなってくる。たとえそれが機械のごとく感受性を麻痺させた人間であってもだ。

 感受性の無い蓮は黒づくめである事は変わりないが、なぜか半裸の上からコート一枚羽織って肘掛けを突いている。顔色は死人のようだ。

 

「貴方が助けたというのですか。」

 

 その横で座席5つ使って仰向けに寝ていたのは手負いの香川だった。上半身脱がされ黒い布で胸から腹部にかけてグルグル巻にされている。肘掛けを器用に避けて起き上がると背中にはまだ艶のある紅い染みが。

 

「ムリをするな。ここではロクな手当ができん。傷口を塞ぐにも体を締め付ける事くらいしかできん。」

 

「まさかね、見捨てると思っていたのですが、意外でしたよ。」

 

 と言ってみせる香川だった。

 

「熱も引いたな。閉じ籠ってばかりの学者の割に丈夫じゃないか。ところで、あのタイガ気にならんか。」

 

「は?唐突が過ぎますね。」

 

 困惑してみせる香川。

 

「おまえを襲ったヤツだ。気になるだろ。」

 

「まあ、生きているとは思っていませんでしたが。」

 

「ああ」その時蓮ははじめて目線を香川に合わせた。「あのタイガは神崎とも組んでいた。いや利用されたていたのか。あの王蛇のクリーチャーを守っていたが、それに裏切られる形で死んだと思っていた。いやまだ生きていたが。」

 

「神崎や王蛇の間を上手く渡り合っているという事でしょう。もしかして相当な難敵かもしれませんよ。」

 

「誉めるのか」

 

「いえいえ、ただ貴方に警戒しろと言っているのです。悪いことですか?」

 

「いや」

 

 済まして再び釈由美子の大画面に向かう蓮だった。

 香川は自分の白衣が背もたれにかかっているのに気づき、鳥肌の立った皮膚を摩りながらも身に纏う。ポケットから薬瓶を取り出し、錠剤を2粒掌にあけ、口で掌を塞ぐように一気に呑み込む。

 

「案外これが生命線だったのかもしれませんね。ミラーワールドに引きずり込まれての唯一の食糧です。これが尽きるまでには脱出したいものです。」

 

 ガリガリと奥歯で噛み砕く香川だった。

 

「ラムネなんて言うなよ。」

 

「栄養剤ですよもちろん。それにしてもこの黒い包帯はちゃんと消毒したのですか。」

 

「汗臭いが我慢しろ。」

 

「よくこれで熱が出なかったものです・・・、この映画はシリーズとして20作以上制作されています。年寄り連中は第一作を崇めますが、平成元年に制作された17作めが誰が何と言おうと傑作です。知っていますか、世界的ビックネームである円谷英二が関っている事は皆知っていますが、もう一人漫画の神様と言われた手塚治虫がこの作品に関っているのですよ。」

 

 なぜか誇らしげに高笑いする香川だった。いったいナニ自慢なのかテヅカもツブラヤも知らない蓮は訝しむしかない。

 

「おまえ、どうしてそんなに落ちついていられる。このまま順当にいけば、傷が無くとも死ぬ事になる。そのラムネも尽きてな。」

 

「栄養剤ですよ。」香川はメガネを直した。「私がライダーシステムを製作したのは、あまり誉められた理由からではありませんでした。」

 

「ほう」蓮はあくまで銀幕から視線を外さない。

 

「ある日、食堂でした。うちの大学は雑誌に載る程有名でして、4階層ある食堂全て学生で混雑していました。その中で神崎とすれ違った拍子に、互いの研究資料を落してしまいました。それが私がミラーワールドに関った最初です。」

 

「わからんな」

 

「分かりませんか。貴方も凡才ですね。もう少しかみ砕いて説明してあげましょう。神崎が落した研究資料には、ミラーワールドの詳細とライダーシステムの全容が載っていたのです。私は昔から一種の特技がありましてね。一度目に入ったものは忘れないのですよ。皆目理解できませんでした。悔しい事にね。ですがその一字一句、図面の端の訂正線に至るまで細かに脳に焼き付いてしまいました。」

 

「そこで神崎に協力したのか」

 

「いえいえ、貴方は凡才な上せっかちですね。私はあの神崎のいつもの凝ったおフザケとばかり思っていました。401号室の実験用ミラーを見てもなおね。妻と子が大学に来るまでは。学食のメロン味のソフトクリームを息子が欲しがったのですよ。それほど特別な味ではないのですがねえ。そこで、目撃してしまったのです。ミラー・モンスター・クリーチャーをね。」

 

「話が見えんな。」

 

「呆れますね貴方の国語力の無さは。一瞬の事でしたよ。妻と息子が鏡の内側に呑み込まれたのはね。」

 

 蓮は驚くように香川を見た。香川の顔には驚く程に感情が無かった。

 

「そうか、確かにオレのコクゴクリョクが無かった。すまなかったな。」

 

「私はそれを眺めているだけでした。ただね。神崎がSEALのカードを持って私を助けてくれなければ終わりでした。以来クリーチャーへの復讐が私をライダーデッキ製作へ突き動かしました。」

 

 蓮は驚愕した。もし本当なら、この眼前の学者は、自分と同じかそれ以上の喪失をし、そして具体的に目的を達成する行動に出て、あるいは故に逸る気を自分よりもはるかに抑えていた事になる。

 

「そうか、棄てるべきものが命以外無いからか。」

 

「だが神崎は違いました。彼がライダーシステムを構築した目的は、クリーチャーが人を襲って得た、あの命の珠の収集だったのです。」

 

「あの珠を集めるのがそんなに大事か。」

 

「命はその存在が奇蹟です。無生物を生物へと還るのですからね。それを蓄積するクリーチャーをライダーが討つ事でさらに命の珠を蓄積する事になります。そうして集まった奇蹟は、現実を凌駕する大きな奇蹟となって死人を生き返らせる事も、己が命を永遠のものとする事も、女一人の人生を立て直す事もできるのです。神崎はライダー同士戦わせ、命の珠を集約したがっています。」

 

 香川は悠然と蓮と視線を交わした。

 

「ようやく見つけたよ。命を二つ持つ、イヤ君自身を含めて三つの命を持つ、若造。」

 

 蓮でも香川でも無い声。声の主はまるで変声期をようやく脱したようなくぐもった声質で蓮に語りかけ、舞台の壇上、契約クリーチャーであるデストワイルダーと共に、銀幕に影を落していた。

 マクスド・ライダー12号、タイガはバイザーである斧型の得物を蓮に突き出した。

 

 

 

 頭を蹴り飛ばされ否応なく寝醒める真司。

 

「相変わらず寝相悪いな。どーして足臭いんだこいつ。」

 

 上下に逆になった美穂の太股を寝ぼけ眼で頬擦りする真司。

 

「何、まだやり足りない・・・・」

 

 いつのまにか覚醒している美穂。唸って髪を掻き毟りながら起き上がる。

 

「お、おまえ、何パンティ鋏んでんだよ、オレんじゃねえか!」

 

 抜き取った真司のデッキを、履いた次いでにパンティの中に挟んだ美穂だった。

 

「え・・・・・、アタシの。」

 

「はぁ・・そうか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、っておまえのデッキ白かったじゃねえか!」

 

 映像的な記憶は割りとマシな真司だった。

 

「日焼けしたんだよ。」

 

「はぁ・・そうか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、そうなのか?」

 

「する訳ないじゃん。バっカじゃない。」

 

「ってなんだよそれ!」

 

 一旦しゃがみ込んで腕を錐揉みしながら突き上げ中指を立てる真司。

 

「ライダーの戦いを止めさせるんだろ。だったらこのくらいの事フツーあんたの方かすべきじゃないのかい。」

 

「え・・・・?」

 

 イタイところを突かれて目が空ろになる真司。

 

 オレがナニしたってんだよ助けたいって言っただけじゃないか一応助けたじゃないか精一杯やったんだライダーの戦いだってこれから止めるさどうやって止めるか分からないけど止めたいと思う事が大事なんだ思えばいいんだなにもできなくてもなにもできなくてもなにもできなくても

 

 震動、

 

「なんだい、この世界は地震なんてあんのかい」

 

 突如、真司と美穂の足許から縦に不連続な震動を感じる。しかもその震動、震源は徐々に近づいてくる。

 

「あ・・・・・」

 

「どくんだよ、真司!」

 

 ベッドが下から炸裂、ハゲと叫んで真司がふっ飛び、毛布に上半身だけ絡まって、頭から床に落下、大股開きで天地逆になる真司。

 

「ふ、ふとんがフッとんだぁ」

 

「あいつは!」

 

 ベッドに大穴が開き、下階から跳躍して出る影が一つ。それは紅のスーツに身を包んだライダーだった。

 

「おまえは・・・・」

 

「キド、シンジ、ここだと思っていた。」

 

 起き上がった全裸の真司は恐怖する。それは先にドラグレッダーを葬り去り、真司の姿を盗み取ったあのライダー。龍騎の姿をしたライダーが真司と対峙する。

 

「リュウガ!」

 

 パンティ一枚の美穂は叫んで己がバイザーを一足飛びで掴む。

 

「おまえは邪魔だ」

 

 ドラグクローファイヤー!

 

「変身っ」

 

 炸裂する炎、室内に巻き起こる爆風、

 

「美穂っっっ」

 

 爆風受ける真司のロンゲは強く棚引いた。爆風が収まった先は壁に空いた大穴。ホテルの外の風景、NTTの鉄塔が夜空に怪しく光っている。

 

「さあ、邪魔者はいなくなった。」

 

 デッキをベルトから外すリュウガ。装着が解ける。

 

「・・・・・・なんなんだよ、なんで、オレ、なんだよ・・・・」

 

 顕れた顔は真司にとって一番身近な顔だった。鏡で毎朝眺めている顔、そう、本当に正真正銘鏡で毎朝眺めているそのものである。

 

 美穂もいない優衣ちゃんもいないオレがなにをやったっていうだオレなんもできんかったオレがなにを思ってもムダだでも願ってるんだ願ってるはずなのに願ってもなにもできねえ

 

「楽になりたくはないか」

 

「え・・・・・・」

 

 それは今の真司にとって最大の誘惑であった。

 

「オレはおまえだ。この世界の。オレはおまえを体に容れる事で完全になれる。ドラグブラッカーがレッダーを吸収したように。」

 

「し、死ぬって、事じゃねえか!」

 

「それは違う。おまえはオレと共に生きる。楽になれるぞ。これからはおまえの人生はオレが考えオレが行動しオレが全ておまえをやってやる。おまえはオレの体内でただ楽になれる。おまえは、オレに、任せればいい。世界を救う事もこのミラーワールドの事も、全てオレに任せろ。」

 

「これからずっと楽に生きられるのか、」

 

 その誘惑に今の真司は勝てなかった。

 

「さあ、一つに」

 

 大きく手を拡げるミラーワールドの真司。もう一人の自分に両掌を着く真司。掌はズブズブともう一人の真司にのめり込んでいき、腕が入っていき、胴体が入っていった。

 

「オレ、楽になりたい、結局それだけだったんだ、」

 

 

 

 

 

 

 

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