公開は07年11月からとなります。
「やっぱりここでこう首を両サイドから圧迫して直角の方向から胴を圧迫して、そして首全体の装置が回転させる。どう、すばらしいでしょ。」
東條悟は一種の天才である。
幼い頃よりいったい何を考えているかよく分からず、両親も『人を如何に効率的に処分できるか』という話を延々される事にうんざりして半ば見放した。
だが彼はいつのまにか‘できている’子だった。学校の教科書は始業式に貰ったものをペラペラと捲って済ませ、後は読まない。そのくせ中の上の成績を簡単に収めて高校までフラフラと人生を送った。いや暗記がいいという単純な事ではない。彼の頭に残った記憶、彼の気まぐれ、彼の行動が全て効率的に一意的な‘正解’へ彼を導くのである。時にテスト数分前に発したなにげない一言の為に及第点を取るなど当たり前。脱線と道路封鎖の為に教師すら定時に間に合わない状況に、珍しく1時間早く登校していた為に教室に2人だけしかおらず、あまり他人に興味無い東條は1時間空想に深けっていたという事などという事もあった。ちなみにもう一人は、居眠りしていつのまにか学校で朝を迎えた同級生、城戸真司であった。
清明院大学入学に際してもそうである。偏差値が絶対的に足りないにも関らず、
「なんだか行きたいと思ったんだ。あのポスターの名前のところがさ、ポワァんと光ってさ。」
とセンター1ヶ月前に言い出す。当然学費を準備できない両親も、教師も反対した。しかも彼は1年これと言った努力などしていないにも関らずである。ところが、たまたま古本屋で見つけた赤本、しかも他校のそれを手に取り、そこで何か興味を引く問題、彼はやはりポワァと光ったという問題を三日三晩飽きもせずやりこなし、そしてついに合格という快挙を成し遂げた。もちろん学費もたまたま通りかかった宝くじ売り場に、試験と同じマークシートがあると思い適当に記入して差し出したものが大当たりした事で間に合わせる。
「どうしてボクの事認めてくれないのさ。」
だがそんな彼に世間の全て、両親からなにから彼を知る者全ては‘情緒不安定のアテにならない怠惰な男’のレッテルを貼る。彼が齎すものは間違いなく正解である。だがその正解を東條悟自身が論理をもって裏付けできない。宗教から科学へ改宗して数百年経過した現在、論理を伴わない正解は、正解ではなくまぐれとしか思われないのが世間というものであった。
「英雄に、なれば良いのです。」
だがやはり清明院という正解を選んだだけの事はある。大学の教授、知り合った時点では助教授だった香川英行が進んで東條に話しかけてきた。
香川が東條という存在を認識したのは既に入学前から。毎年適当な事務処理でしかない入試問題の作成において、数割は絶対解けない問題を含ませておくのが普通である。そんな問題の中に、いわゆる名問が出現し、定番となって受け継がれていくものであり、唯一入試を作るものの楽しみと言っても良い。その年の香川が用意した難問は、香川が作って10年、研究生や助教授仲間すら解けたためしがないという奇問であった。その解答を、香川が10年温めてきた解答のそれとは全く別のアプローチで正解をした者がいる。誰でも無い東條である。
天才とは、知性でも教養でもないのか、
香川はこの男に惚れ込んだ。教育者、あるいは養育者としての熱情が香川教授にもあったのかもしれない。
「英雄か、なんだか体の中が動き回ってる感じがする。そうか、これが嬉しいって事なのかな。」
「そうです。貴方は英雄となるのです。このサイコローグによって。貴方は、私がタイガの面を被って貴方を演じている間、私を演じるのです。」
「なんだか眠いよ先生・・・・・これって、胃がゾワゾワする・・・・・」
「それが喜びという感情です。」
「そうか・・・・・きっと先生がそう言うんだからそうなんだね・・・・」
「変身!」
蓮の中のプライムナリィアラートが最大値を示した。既に腕はデッキをベルトに装填している。
腹部に衝撃、
「なぜ」
吹き飛んで後列2席ごと持っていかれるナイト。振り返って考えれば、この時の際どい変身が蓮最大のピンチを救った。
「デストワイルダーを召還しているとこういう事ができるんだよねえ。」
依然8列先の壇上に契約クリーチャーと並ぶタイガ。彼は一歩もその場が動いていない。では先にナイトを襲った衝撃はなんだというのか。タイガはバイザーしか握っていない。あるいはデストワイルダーの長距離攻撃か。
「衝撃波を撃ってきたとでも言うのか。」
慌てて座席に隠れるナイト。
「可笑しいよね。隠れればなんとかなると思ってる。僕の‘空間制御’にはそんなのムダなのに。」
デストバイザーで裂く、
「ぐわ、」
衝撃が前ではない、横殴りに襲いかかり、火花散って持って行かれるナイト。
「なぜ」
と息着く暇も与えられず真反対から衝撃を受け、元の位置に飛ばされるナイト。
「ハ、デストワイルダーが召還され続けている限り、僕は空間を自由に縫う事ができるのさ。位置も方向も自在にね。」
そう、タイガは絶対的優位に遊んでいる。
「バカな・・・・」
続け様に空間をショートカットされてデストバイザーを食らうナイトは端から端、あらゆる方角へ持って行かれタイガの児戯に弄ばれる。しかし、
『ソードベント』
それでもナイトは自身の得物を辛うじて召還し、それを杖に立ち上がる。位置は壇上から2席先、至近である。
「ならば、そのクリーチャーを伐つ!」
一足でただ立ち尽くすデストワイルダーに攻撃を仕掛けようとするナイト。
「まだ分かってないんだね。空間を裂けるんだよ僕は。」
「遠い」
ナイトは跳躍一つでデストワイルダーに肉薄する距離にいた。いたはずだった。だがその一飛び40メートルのはずの膂力はなぜかデストワイルダーとの距離2席分を埋めることができなかった。全てはタイガのバイザー一閃から起こった現象。着地したナイトは自身の足下を見る。先の位置から1センチと動いていない。
「空間を伸ばす事も自在なのさ僕は。」
タイガの空間制御能力は、デストワイルダー召還時のエンチャント効果としてデストワイルダーが場に存在し続ける限り持続する。空間制御能力、即ち空間をショートカット、そして空間の伸縮、歪曲がそれである。即ち、自在の攻撃と絶対の防御が可能であり、一方的な戦いを仕掛ける事が適うという事である。
「ふざけるな!」
「強がる奴って、そうやって手も足も出ない時は怒鳴るよね。バカみたいに。」
デストバイザーの握手を下から押す、連動して刃根の上端がせり上がる-カードを引く-ベントイン-握手を引く。4行程。
『ストライクベント』
「遅い」
ウィングランサーを持ちつつも、腰のバイザーの柄頭を引く、同時に空いた手でカードを引く-ベントイン-柄頭を押す。
『トリックベント』
ナイトは今回含めてタイガデッキと3度遭遇している。その経験から彼はタイガが遅い事をある程度見抜いていた。遅い、とはカードインの行程と召還カウントである。ならば付け入る隙はタイガのカード操作時にしかない。
ナイトが宙を跳躍すると同時に召還される無数のナイト、劇場観客席の左端から右端へ横陣を組み、今まさに数十の切っ先がタイガとデストワイルダーの急所に届こうとうしていた。未だタイガの得物、デストクローは召還されていない。
「こいつ調子に乗っちゃってるよ。可笑しいよね。」
だがしかしタイガ、微動だにしない。
一閃、
振るうデストバイザー、
砕かれ砕かれ砕かれ砕かれ砕かれ、
「同時にだと!」
デストバイザーを振るった。デストバイザーは空間をショートカットし一体のナイトを貫通、そしてさらにショートカットしもう一体、縫うように空間をショートカットし続け全てのナイトを一瞬同時攻撃した。残ったのは本体、今タイガの足下に叩きつけられたナイト本体のみ。
装着されるクロー、
「僕にとって、線も面も、点に過ぎないのさ。」
舞台に伏すナイトをタイガはしかしその足で踏みつけた。
「殺せ・・・・・・ひと思いに・・・・」
「ダメだよ、僕はこれでもけっこう殺し方の研究をしてきたんだ。やっぱり首が一番いいと思うんだ。クリスタルブレイクの完全な型を目指しててね。だけどその前に、もう少し弱らせないといけないよね。君もそう思うだろ。」
掬い上げる爪、ナイトを片腕で易々と放り上げる。ナイト、しかしそのまま飛ばされる訳ではない。浮かんでいる。ただフワフワと。
「・・・・・(!)」
ナイトは声を発してこの奇妙に方向感覚のない浮遊に戸惑った。しかし声が出ない。声帯の問題ではない。声帯を震わせても伝達する媒体が存在しないのである。
「どうたい。僕の考えた真空状態は。空間を極限まで伸ばすという事は、重力が無くなるという事で、重力が無くなるっていう事は空気も無くなるって言うことだよ。光もその空間は変な進み方するみたいでね。君が今ぼんやり陽炎みたいに見えるよ。考えてた通りだ。僕って頭良かったんだね。やっぱり。」
「・・・・・(窒息させるのか)・・・・」
もがき苦しむナイト。しかし上下の感覚もなく手足をバタつかせればその反動で体が錐揉みしてしまう無重力空間、もがけばもがく程に体の酸素が喪失していく。だがなぜか仮面はいつもと違う奇妙な圧迫感がするのだ。
「シロートはさ、ここで空気が無くなる事を気にするんだけどさ。実はフリーズドライになる方が速いんだよね。血液が蒸発して、もしかして君はそのままずっと冷凍保存されるかもしれないよ。やったね君。」
絶叫があがる。しかし球体状となった無重力の珠の中では、その叫びは声となって大気を震動しない。
霧島美穂は気概が男そのものであるが、実は穢れを知らぬオンナノコである。
工業高校を出るまでは多少堅物のところがあったが、誰もが認める絶妙のプロポーションと作り込んだ造型の顔立ちは、高校男子のハートを掴んで放さない人気者であった。
「動機?殺したかったからだ。」
美穂には3つ上の姉がいた。この時美穂17歳。あの時自分と約束していなければ、素直にいつもの帰路を辿っていれば、あの浅倉威に姉は遭遇しなかったろう。姉は浅倉にレイプされた挙げ句首を絞められショック死したという。
「傷一つ無い、こんな美しい死体初めて見ましたよ。」
医者の無神経な言葉は、美穂にヒトそのものへの不信を植え付けた。医者は興味でしか姉を見ていない。それは医者にとって、情も哀しみも心の痛みも出尽くした果てにまだ医療という職に執着していられる為の精神上の処方であったが、そんな事その時の美穂には知った事ではない。医者、そう検死官ではない。
「姉はまだ死んで無いんですか。」
脳死はしていない、というのが医者の答えだった。即座に美穂は延命措置として入院を申請する。保険は効かないという医療事務の含み笑みを無視して。それからの美穂は莫大な入院費と闘わなければならなくなった。
「いいですか霧島さん、浅倉はお姉さんを殺害していない。ショック死です。ボクはこの手の品の無い素材を使いたくないですが、法を味方にする為には、いた仕方ない。どういう類か知らないショックで死んだ。恐怖のあまりか別の何かかどうかは、貴方の姉しか分からない。その代わり、警官殺しがあるのです。その方が訴訟を通しやすい。貴方の怨みは起訴猶予です。」
「どうして死刑にしてくれない!」
美穂は浅倉の弁護士によって不信をさらに広げた。ヒトとは何か。法は自分に何をしてくれるのか。法が骨組みとなった今社会、世間の枠組みというのは何か。
全てがバカバカしくなった美穂は、男を騙して金を取る世間から外れた職にありつく。被害件数は3ケタに上る。その手際は見事なもので、同職の男詐欺師すら手玉に取る敏腕だった。
「金・・・・カネか・・・・う」
騙しやすいと思って近づいた獲物、それが真司だった。真司は悩みだすと胃が逆流するというクセを持つ。つくづく考えるという事が不得手なマヌケな男だった。
「しょうが無いね」
夜の公園、吐き出された汚物をヒールの先で土を蹴り埋める美穂。以後どういう訳か二人でアパートを借りて半年程住む事になるのだからヒトというのは分からない。
「たまごっちをやってる友達がさ、うんちの処理してる時が一番幸せって言ってたなぁ。どっか港で玉かけでもすっかな。」
などと思い始めた美穂であったが、その半年一つところに留まって生活していた事が警察に付け込まれる隙を産んだ。
「御免ください。不動産でお困りの事はございませんか。」
と言われて玄関を開けた途端数人の警官が突入、有無を言わさず美穂は逮捕された。
「この人殺しどもめ!」
美穂が逮捕されるという事。それは姉の入院がキャンセルされ、即座に焼却場に送られるかもしれない、という事。その想像が拭い切れぬまま、時に発狂して血が出るまで壁を殴りつけ、そのこびりついた血が渇いて血痕と分からない色の染みになるまで獄中で過ごす事になる。
「変身っ」
ホテル13階の壁が炸裂し、紅蓮の炎が横走りする。瓦礫に紛れて宙に放り出されるのは、既にスーツを纏ったマスクド・ライダー10号ファム。
マントを翻しながらフワリと着地。
「しつこいヤツめ、真司のライダーの姿を奪っておいてまだ物足りないのか。」
『ソードベント』
と言いつつ顎を上げ、召還したウィングスラッシャーを先に空いた壁まで伸ばして穴まで刃を引っかける。
「・・・・・・ああ気持ちいい・・・・」
そうしてファムがスラッシャーに引っ張られる形で上階に戻った時、そこではちょうど真司がミラー真司に呑み込まれたその直後だった。
「ああ、オレも気持ちがいいぜ、おまえは最高だ。」
「なにしてんだい!」
振り返った顔は真司そのものであった。仰天したファム、攻撃衝動となってスラッシャーが跳ぶ。
掴む、
「ああ素晴らしい、未知の力まで手に入れたようだ。」
驚くべき事に生身の力でライダーの得物を掴み取るミラー真司。
「私の真司を返せ!」
女の思い込みは怖しい。一目しただけで、事情が分からないにも関わらず、ほとんど正鵠を射ている。
「変身」
余裕の笑みを浮かべながらスーツを纏う。現れ出でるリュウガ。そのボディは龍騎のごとく紅い。
「返せ!」
掴まれたスラッシャーを伸ばしてリュウガを壁に激突させる。リュウガは壁を突き抜け、ホテルの廊下に躍り出る。転がったリュウガをすかさず飛び掛かってスラッシャーで確実に仕留めようとするファム。
「これがアバズレというヤツか」
折る、スラッシャーを素手でへし折るリュウガ。その膂力はもはや人外である。
「畜生!」
だが折れたスラッシャーの逆刃を返して伐つファム。‘化け物’ならば怖れに圧されるが‘畜生’ならば蔑みを心根に植え、辛うじて立ち向かう事ができる。
「アバズレアバズレ」
蹴り、
「ぁ」
鳩尾に蹴りを食らうファム。ただ足を持ち上げただけの腿の力だけの蹴り、にも関わらず数十メートル通路を滑り込むファム。
『ガードベント』
だがそれでも盾を召還するファムは手が速い。
「食らわなければ、」
立ち上がるファム。構えた盾はしかし防御の為ではない。
豪雪のごとき羽毛、
「またか」
通路全てが真白に埋められる。降り続く羽毛によって数メートル先の視界が取れないリュウガは、また逃走を計ったと思った。しかしそうでもない。
「私の真司を返せてんだこん畜生!」
レイピアの刃がアキレス腱を斬る、
羽毛は防御でも逃走でも無く攻撃の為の撹乱。ライダーのスーツは須くシューズとレッグアーマー部の隙間、脛に僅かな隙がある。ファムの細い刀身はそこに狙いを絞った。前回肉体へのダメージに無反応だったリュウガも腱を斬られれば動く事ができないと踏んだ。しかし、
「っっっっっぉぉぉぉまぇぇぇぇ!」
片膝を抱え込んで激痛を訴え、床を転がるリュウガ。
「なんだ、」
その痛みに対する反応は、期待していたファムが唖然、いや拍子抜けする程。
「グぁぁぁぉぉぉぉぉいデぇぇぇぇぇいデおぉぉぉぉ」
ファムは知らない。真司を吸収したリュウガがこの世ではじめて痛みというものを知った瞬間だという事を。
「バカ真司・・・・・」
そのあまりに無様な姿は、あの超然としたリュウガと同一人物か疑う程。いやファム、霧島美穂の目には、風呂上がりの際左足の小指を角にぶつけて全裸で転げ回った時の真司そのものだった。セピア色の記憶で呆然とするファム。
「ぉまえ,この女野郎!」
起き上がり油断したファムの首を捉える。片腕で掴んで軽々と持ち上げた。
「お、おまえ!い、い、いデぇじゃねえかよ!」
ファムの肢体を持ち上げたままバイザーを握り込んで顔面に撃ち付ける。続け様撃ち続けその内グーにしたまま前腕だけ振って叩きつけるような仕草になる。おそらく効果的なヒッティングではないがしかし、それでもファムのマスクがいびつに変形していく。
「・・・・・(どこまで真司になってんだこいつ)・・・・」
殴打され続けるファムはあまりに重なる真司のイメージに、網様体の中の血液が沸騰する程の怒りが満ちる。
腹部、
「ぎぇぇぇぇ」
片腕で握ったバイザーで肋骨の隙を刺すファム。即座に手を放して両手で傷口を塞ぐリュウガ。その子供のような痛がり様を黙視しつつ通路いっぱいに後方へ下がるファム。その歪んだマスクの中身は、二目と見られないものになっているだろう。
「お、おまえ!こんな痛い事しやがって、許さんからな、許さないとオレが言ったら、ホント許さないんだからな!」
カードを引くと同時に腕を振ってバイザーを開ける-ベントイン-折り返し閉じる、
『ファイナルベント』
リュウガの背後から紅いドラグブラッカーが壁を突き破って出現、ファム-リュウガ-ドラグブラッカーと並ぶ通路の先に大穴が開き、中央線のレールが見える。
ドラゴンライダーキック、AP6、シールド貫通。
「ふん、最初の頃のアンタは、痛いだけの男だったのにさ」
レイピアを逆手に持ち替える-バイザー柄頭を引く-カードを引く-ベントイン-柄頭を押す、
『ファイナルベント』
空いた大穴に見え隠れする巨大な影、ブランウィングが出現する。
ミスティースラッシュ、AP5、迎撃型。
細い通路上、無類の強さを誇るデッキ同士、最強の札の手合わせが今始まった。
「あのデッキ、最強とでもいうのか」
しかしその声は真空と化したしゃぼん玉のように浮かぶ空間の中では音となって届かない。
「この間、不愉快な想いさせられたの思い出しちゃった。あの不愉快な想いをさせるおまえはボクという英雄にとって悪だよ。他人に迷惑をかけちゃいけませんって、学校を出てればちゃんと習ったよね。」
ヘラヘラと鑑賞するゆとりのあるタイガだったが、しかしその笑いが止まる。ナイトがベルトよりカードを一枚抜いて装填しつつある。
「余計な手間をかけさせるなよ。そんなにボクを困らせて何がおもしろいのかな。おまえ性格悪いぞ。」
タイガの選択肢は二つ、このまま放置して冷凍漬けにするか、それともナイトの次の攻撃に対応、その為に空間制御への専念を諦めなければならない。前者でありなおかつナイトがアドベントによる攻撃を仕掛けたなら、動けないタイガとデストワイルダーは危機的な状況を迎え、倒すにしても際どいタイミングの勝負となる。しかし後者ならば敵の攻撃を対応した上でまた新たに空間制御を発動すればいい。迷う事ではない。
「ぐわ」
吊るされた糸が途切れたように落下、シートに背もたれに落下し腰を強打するナイト。
『ナスティベント』
しかしそれでもカードを発動。ナイトが選択したのは音響撹乱。
「なんだそれ。拍子抜けしちゃったな。君真空にできるっていう事が分かってないよね。」
裂く、
虚空を裂くタイガ、ソニックブレイカーは音、音である限り真空を伝達する事はない、タイガは空間を裂いて真空の膜を自身の周囲に張り巡らせた。
「おかしいね、不発しちゃってさ。」
エヘラエヘラと依然余裕のタイガ。
「どうかな。隣をよく見てみろ!」
投擲!
ウィングランサーを投擲するナイト。隣、ソニックブレイカーの音響攻撃をまともに受けもがき苦しむデストワイルダーへ深々と突き刺さる。
爆破、
「おや」
タイガの叫びはやの発音が高らかに跳ね上がった。
「これでチェックだ」多少北岡のマネをしてみせるナイト。それほど勝利を確信した。「これでおまえのその力もでない。いやライダーとしておまえの終わりだ。」
ゆっくりと振り返るタイガ。絶対の危機であるこの状況、しかしなぜか落ち着き払っている。既にデストバイザーにカードを装填している。
「あっそう」
『リターンベント』
特殊カードリターンベント、インスタントとして機能し、使用済みカード並び破壊されたカードを復元し再使用する事ができる。ガイのコンファイン対策がすぐ思いつくがそれに留まらない。このカード一枚でタイガの持つ全カードがもう一枚ある事と同じであり、一粒一粒が強力なカードで占められるタイガデッキにおいてその価値は無限に拡がる。
「でもボクはこうやって、」
タイガの右手、ガラスの破片がいずこから集まって一枚のカードを形成する。それはデストワイルダーが描かれたアドベントカード。
「元通り。ボクはこれでカードがリセットされてフルの状態なんだよねえ。君はぜ~んぶムダなんだよ。」
「詐術が多いヤツ。」
だがその時、観覧席の中にうずくまっていた香川が顔を出した。
「そんな事は無い!今です。タイガはカードがリセットされ、武器も消失している。無防備でしかも召還が遅い。討つなら今しかない!」
「そうか」
天割するような状況打破の助言だったが、その香川の口は罠の臭みを漂わせ歪んでいた。
『ファイナルベント』
跳躍するナイト、宙でダークウィングと合体し仰角15度、鑑賞席の傾斜に水平を保つ形で突撃。
「填まった」
確かに装填まで遅いものの、タイガには早期に効果的なカードが一枚ある。
『フリーズベント』
瞬間凍結、インスンタト、対象クリーチャーを凍結させる、
「しまっ、キャンセル!」
閉じた傘状となったナイトを襲うフリーズドライ。慌ててファイナルベントを中止したナイトだったが、そのままの状態で宙を固まり、鑑賞席の細い通路に落下する。
「ムダはゴミだよね。ゴミはちゃんと処分しないとね。」
『ファイナルベント』
クリスタルブレイク発動。早期の内に対手を凍結し、そこからコンボに繋げるのはタイガの基本戦術である。ナイトはタイガの術中に填まった。