仮面ライダー龍騎SPRITS   作:bassher

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ここは02年度放映された特撮番組『仮面ライダー龍騎』の二次小説です。『仮面ライダー龍騎』、並びそのスタッフ、また講談社マガジンZ連載『仮面ライダーSPIRIT』著者には、一切関係ありません。
公開は07年11月からとなります。



最後の三日間 03-01-19 Bパート

 

 

 

 

 

 

 立川のホテル、13階通路。構えを解かず微動だにしないファムがいる。筋肉の緊張の持続は死を迎えるとおよそ緩和されてしまうが、例外として極度の心身の疲労、即死などによって強行性死体硬直という症状に陥る事があるという。

 右腕で突き出すスラッシャーは片刃が折れている。

 

「美穂」

 

 そのファムの両肩を柔らかく包むように抱く一人の仮面の男がいる。

 

「・・・・・、真司、アンタ、そうか、真司なんだよね」

 

 堰を切ったように緊張を崩して、男の胸に抱擁されるように体を預けてしまう仮面の女。

 

「よくやった。よくがんばったな。」

 

 男は紅のスーツを身に纏い、仮面で表情は見えない。

 

「うんヒャクパーがんばったよねアタシ。」

 

 仮面の男と仮面の女、対手の仮面の光沢を覗くと自分の顔が映り込む。

 

「もうがんばらなくていい。後はオレががんばる。」

 

「死んじゃうってそんなにイヤな気分じゃないんだね。スゥって遠のく感じで。お姉ちゃんもそんな感じだったのかな。アンタ知らなかったと思うけど、アタシはアンタがこの世で一番スキだったんだよ。」

 

 仮面同士であるが故に、相手の中の素直な私、の仮面を被り続ける事が出来る。あるいは社会的に真な素直な自分はその仮面にしか無いのかもしれない。だからたとえ愛する人の前であったとしても、ヒトはその仮面を被り続ける。そう、霧島美穂はヒトとして死んでいく。

 泡吹く肢体、それを抱きかかえたまま立ち尽くす紅のライダー。泡が拡散し切った跡に残った真珠のように光る珠、そして褐色の珠。両腕で掴むライダーはそれを高々と掲げた。

 

「よくやった、よくオレに、命の珠を与えてくれたぁ!」

 

 紅のマスクド・ライダー11号リュウガは歓喜のあまり恐竜のように吠えた。

 

 

 

 霧島美穂

 18歳。工業高校を中退後、姉の一件を世間に逆恨みした美穂は、結婚詐欺師の道へ走った。

 

「本気になるのも、騙して金取るのも、男の前で演技してる事に変わりないっしょ。」

 

 一時、同居する男へ貢ぐ為の犯行と思われていたが、弁護士北岡の調べ、そう警察はその他の可能性を一切捜査していなかった、北岡の調べで植物状態になった姉、しかも浅倉威の犠牲者だった姉の事が発覚し、判決に際して手心が加えられたのは言うまでも無い。ただこの時並行して弁護する浅倉をネタに刑を軽減した節操無さに、弁護士に対して世間の目はいっそう厳しくなった。

 

「姉ちゃんを助けなきゃ」

 

 彼女が脱獄した理由は、もちろん姉を按じた為であるが、それは北岡が美穂に代わって姉の莫大な入院費を支払い続けていた事実を知らなかったという事でもある。

 そんな彼女のミラーワールドでの姿こそはマスクド・ライダー10号ファム。

 契約カード

 ソードベント×2

 ガードベント×2

 ファイナルベント

 第2世代であるナイト型デッキをベースとして第3世代と同じ契約クリーチャーを最初から特定し親和性を高めた言わば2,5世代と言えるデッキ。パーマネントを最速で召還し、スペックは低いものの、その特殊能力は全てのライダーを圧倒しうる潜在力を秘め、とりわけ唯一の迎撃型ファイナルベントは、突撃系ファイナルベントを持つライダーを手玉に取れる類を見ない強力さを秘める。ただし、これより後発のデッキはいずれもカード一枚あればファムを打倒しうる実力を内在し、これらの対処を如何にこなすかがファムの生存の分かれ目となる。

 

 

 

「しまっ、キャンセル!」

 

 既に閉じた傘状のまま宙を固まり、通路に落下する。

 

『ファイナルベント』

 

 クリスタルブレイク発動。鑑賞席最後列から出現して滑るように疾走する白虎を模した一匹の獣。先にリターンで復元したデストワイルダーが凍った傘に片爪を刺して床を引き摺ってなお奔る。その先に同じ爪を召還し大きく腕を広げて待ちかまえる壇上のタイガが立ち尽くす。

 

 放り上げられる傘、

 

「三日間飲ませず食わせず追い込んでその疲労の極みでなお強力な手札で畳みかける。あの強靱な男を降し、一気にサバイブの権利を得る為には、演出して過ぎるという事はありません。」

 

 それはほくそ笑んで眼鏡のズレを修正する香川の小さな小さな独り言。しかし次の瞬間、香川の目の前でその眼鏡が再びズレる程に驚愕する出来事が起こる。

 

「なに?!」

 

 マントにくるまれたナイト、その傘状の物体が再び自転し、放り上げられた宙をさらに上昇して劇場天井に突き刺さる。同時にマントから縦割れに亀裂が走り、

 

「えいや」

 

 表面に張った氷塊と共にマントが砕けウィングランサーに掴まりぶら下がるナイトが姿を顕す。

 

「そんなバグ、あり得るのか」

 

 タイガの叫び通り、ライダーバトルで奇跡に近い現象が起こる。

 

『アドベント』

 

 再び飛来するダークウィング、刺さったランサーを抜いて落下するナイトと合体、宙を舞う。

 

「キャンセルした事でマントは契約クリーチャーでなく、コピーの盾に代わり、そのコピーが凍結した。これはデバッグの必要ありですね。」

 

 香川の額には汗が一筋流れた。

 

「はぁ」

 

 ナイトは降下様、錐揉みし、ダークウィングがねじれながらナイトの体を包み込んで再び傘状となる。それは擬似的なファイナルベント。

 

「まだ僕の技は継続中だ!」

 

 待ちかまえるタイガ、爪を高々と突き出す。しかしその爪を眺めたタイガ、肝心な事を思い出す。この爪には防御力がある事を。咄嗟に両前腕を揃えて構え直すタイガ。

 

「恵理ぃぃぃぃ」

 

「英雄だぁぁ」

 

 真っ向勝負するナイトとタイガ、

 

「残念ですが東條君、君は思い違いをしています。その今あるデストクローは本来召還されたデストクローではない。ファイナルベントをかける上で装着されたものです。それは、本来のデストクローの能力は無い。本当に残念でした東條君。」

 

 香川は失望を隠さなかった。

 

「そ、そんな」ナイトの鋭鋒が前腕装甲を砕きタイガの仮面の目にあたる部分に刺さって穴を広げる。「ボクをどうしてイジメるんだぁぁぁ」

 

 砕けるマスク、顕れる人の顔、さらに深々と抉り込んでいく傘、一枚一枚散らばっていく装甲と肉片。

 

「せ、先生ぃぃぃぃぃぃぃ」

 

 タイガの肉体は拡散し、拡散しつつ泡となって蒸発し塵も残らない。デッキもまた粉々になり、破片が着地したナイトの足下に僅か残っているだけ。

 

「違う、これはライダーの魂ではない。」

 

 その四散した肉体の中から白い珠が顕れ浮かぶ。おかしな事にライダーの魂であるにも関わらず特有の色を持たず、むしろクリーチャーのそれに近い。

 

「ナイトはダークウィングをキャンセルしてコピーが凍結、タイガはファイナルベント中に防御に回ってGPが発動しない。問題ですよこのバグは。」

 

 香川が鑑賞席から出て舞台に上がってくる。その香川の靴が響かせる壇上の僅かな震動を感じ、ナイトは愕然と膝を折った。意識はあるものの五感の全てが遊離した感覚になり、呼吸が一定のリズムを刻んでくれない。

 

「どういう事だ。香川。タイガとはいったいなんなんだ。」

 

「さあ、どういう事なんでしょうね。」

 

「オレは無為の人間を殺したのかと聞いているんだ、答えろ!」

 

 香川は無言で笑みを浮かべた。その白衣のポケットの中には、破壊されたはずのタイガデッキが見え隠れしていた。

 

 

 

 そこは右も左も上も下も白くぼんやりした場所だった。世界の中心はおそらく大の字になっている城戸真司だろう。

 

「ああ、これ、幸せってヤツなのかな、」

 

 毛穴じゅうから染み込んでくる柔らかな暖かみの中に真司は時を忘れる程浸っていた。

 

「ああ・・・・・、楽できるんだ、ずっとずっと楽できるんだ・・・・・」

 

「おい、シンズィーっ!」

 

 この発音で真司を呼ぶ者は一人しかいない。その男が、はるか地平線の彼方から倒立前転で向かってくる。ネクタイだけはしっかり整えた全裸で。

 

「先輩っ、あにやってんスか!」

 

「バカヤローっ、おめえみてえなバカがな、イチイチ物事に理由なんか考えんじゃねーっつんだ。実は死んじまったんだがなぁ。」

 

 なぜか大久保はゲラゲラと高笑いをしている。

 

「し、し、し、死んだって、そりゃ大変じゃないっスか!?」

 

 無思慮な笑顔を急に沈め、興味深い目で真司の上から下まで眺める大久保。

 

「・・・・・・・、そうか、まだおまえはそう思えてるのか。」

 

「何言ってんスか」

 

「いいか、おまえのがむしゃらなところ、俺も令子も、そこだけは認めるしか無かったんだぞ。」

 

 それは決して褒めている意味にはなってないのだが、人によっては褒められたように聞こえる日本語の便利な発明である。

 

「何言ってんスか!」

 

「おまえはな、まだやり残した事があって、まだこっから出たいって思いがあんだ、くすぶってんだよ今のおまえは。死ぬとな、生きる事にこだわりが無くなってスッキリしちゃうからよ。死んだら欲もなんもフッとんじまう。もう何回もこんな気分味わってんだが。しかし不思議と生き返ると、また生きる事にこだわっちまう。イヤらしいよな人間てのはよ。」

 

「オレ、オレ、そんな事ないっスよ。オレここでずっと居たいっス。情けないけど、オレ結局どうしようもないヤツだって、思い知ったっス。だから、オレここで楽するのキライじゃないっスよ。現実は、オレの居るところじゃなかったんスよ。」

 

「人を助けたいんじゃなかったのかよ。」

 

「もう十分助けたじゃないっスか。」

 

「その分おまえは大分助けられっじゃねえのか?」

 

「オレが?オレ助けられたかな・・・・・」

 

「令子だろ、今の同居人だろ、弁護士だろ、そうだ、肝心なオレがいる、次いでにいっしょに住んでた女もいるだろ。おまえは助けるヒーローじゃなくて、どっちかっつうと助けられるヒーローだぞ。」

 

「なんか、ヤな事言うな先輩、ひ、ヒーローはヒーローじゃないっスか。精一杯ヒーローしたっス。」

 

「ホントバカだな。おまえ自分がどんだけ情けない事言ってるのか分かりゃしねえんだな。まあ、だからこそおまえなんだがな。じゃあこうしよう、おまえもしやる気になったら、国立のスタ丼肉盛り飯盛り、餃子な。おまえ出せよ。オレは覚えてるぞ。オレが覚えてるのはハンパねえからな。いいな。」

 

「オレ、オレだってハンパねえっスよ。先輩に奢るなんて絶対しねえっス。オレハンパねえくらいダメなヤツっスから。」

 

「ま、なんかもうこだわりがねえからいいや。でもな真司。これだけ覚えておいてくれ。もし迷った時、そん時はこの言葉を口にしろ。考えなくていい、口にするだけでかまわん。オレはバカだけど、あきらめの悪いバカだ、そう言え、いいな。」

 

「待ってください、先輩ぃぃ!」

 

 そうして大久保は倒立バック転ではるか地平線の彼方へ去っていった。ネクタイだけはしっかりと整えた全裸で。

 真司が呆然としていると、大久保と入れ替わるように天空の彼方から竹とんぼが飛んでくる。いや、よく見れば腰まであるだろうロングの髪を二つ束ねたマントの女だ。顔のパーツ一つ一つが丁寧に作り込まれ、それが端正に配置されている。

 

「なにやってんだっ!?美穂!」

 

 そうマスクド・ライダー10号美穂がなぜかブロンドのヅラとマントを身に纏って天空の彼方から飛んできた。首を回して。

 

「うさぎちゃんのコスしようとしたのよ。でもさ、どういう訳か兜甲児襲った女アンドロイドみたいになっちゃってさ。」

 

「分かんねえよ!」

 

 美穂は屈託無く笑いをとばす。

 

「殺されちゃったよへへへ」

 

「殺されたって、大変じゃねえか!なんでそんなヘラヘラしてんだ」

 

「・・・・・アンタ、やっぱりまだ未練があるんだね。まだこっちにこない人なんだアンタ。」

 

「何言ってんだよ、ていうか誰に殺されたんだよ」

 

「アンタだよ。」

 

「オレ?えーと、そんな事したっけ・・・・してねえよ!」

 

「アンタクリソツなんがいたっしょ。あれアンタよ。」

 

「そうか、それで納得した、そうか、あれオレなんだ・・・・、ってアレ?、じゃあここのオレはなんなんだ、レレ?危ねえ危ねえ、おまえいい加減な事言うなよ!危うく騙されるところだったぜ。」

 

「他の人だったら、騙される以前で終わってるって。だけどホントにアンタさ。アンタの鏡、かっこよく思われたい、頭が良いって思われたい、力が強いって思われたいっていう鏡の姿さ。」

 

「ウソ言えよ、おまえ、なんでそんな不愉快な事言うのさ、あんなのオレじゃねえ!」

 

「じゃあ否定すればいいさ。否定してそんな自分を克服すればいいさ。」

 

「おまえだって無念晴らしたいだろ、殺されたんだから。」

 

「そうか、アンタそう思いたいんだったら、私の無念を晴らしておくれ。」

 

 死者の意思は、死の直後より周囲の人間のモノになる。葬儀において、死者には無念があるものと決めるのもそれを元に悔やむのは葬儀に来た人間の意思である。

 

「晴らすよ絶対。当たり前じゃねえか。オレヒーローなんだからさ。オレがライダーになったのは、一人でも多くの人を助けたいからなんだからさ。」

 

「その割りにアタシが助けてやったよね。」

 

「言うなよ。先輩にも言われて軽くショッキングなんだからよ。そうだ、考えてみたら、オレを欺してオレに成りすましたって事じゃねえかアイツ。なんか今初めて本気でむかっ腹が立った。アイツ絶対許せねえぞ!」

 

「アンタらしいね。しぶとくガムシャラにいきなよ。そうじゃないアンタなんか見たくねえからさ。じゃあね。」

 

 といいつつマントを身に纏った霧島美穂は天空の彼方へ飛んでいった。首を回して。

 独りなにもない大地に残された真司は、気合いのガッツポーズをした。

 

「先輩の言う通りだ。オレここ出なきゃ。きっと助け足りないから、オレここ出たいんだ、ここ出たいに違いないんだ!」

 

 バカという事は、即ち直前の記憶を忘れて今をガムシャラになれるという事である。良くも悪くも。

 

「オレ、バカだけど、あきらめの悪いバカだぁぁ!」

 

 

 

「よくやった、よくオレに、命の珠を与えてくれたぁ!」

 

 リュウガは吠え、掲げた二つの珠、真珠のような珠と、褐色の珠を二つ、ベルトの中へと吸収させた。途端、

 

 崩れ去るバックル、

 

「なぜ」

 

 バックル、即ちリュウガのカードデッキがボロボロと崩れ去る。同時に放出される吸収したばかりの二つの珠、途端ガラスが砕けるようにベルトもスーツも消失し、城戸真司とうり二つの素顔が晒される。

 

「バカな!」

 

 リュウガVSファムのファイナルベントが衝突した時、リュウガはファムを絶命させたが、ファムはリュウガのベルトにダメージを負わせていた。

 

 グルルォォォォォォォォォォ

 

「ドラグブラッカー・・・・」

 

 紅の色に染まった龍のクリーチャーが、ホテル通路を蛇行して元契約者に迫っていく。

 

「オレは城戸真司に克ったはずだぁぁ」

 

 恐怖というものを覚えて、左腕で顔を覆う。だがしかし、その龍の動きは寸前でピタリと止まる。

 

「同類よ、今回は救済措置を執る。」

 

 龍が止まったのではない。時が止まったのだ。時が止まり、リュウガの眼前に立つのはトレンチコートの中性的な、あるいは非人間的な神崎士郎。

 

「なんだ、おまえ、何をしにきた、」

 

「今回は救済措置を執ると言った。このままでは、おまえを含む4つの魂は消失する。従って、一人、ライダーを生かす事にした。」

 

 リュウガはドラグブラッカーを指指した。

 

「そうか、安心したぜ。オレをこいつから守ってくれるんだな。」

 

 だがその指先に亀裂が走り、亀裂は指から掌、掌から腕、肩を伝って全身に回る。

 

「おまえでは無い。同類よ、おまえはしょせん鏡。おまえが城戸真司を吸収し、城戸真司になるという事は、実のところ城戸真司におまえが吸収される事を意味する。同類よ。おまえは最初から城戸真司の滋養になる運命だった。」

 

 亀裂が全身を走り、内側から光のエネルギーが膨張し溢れ出る。

 

「そんなぁぁぁぁ」

 

 砕け散る肉体。それもやはりガラスが砕けるように拡散し、光もまた霧散する。顕れ出でた全裸の男は、ぐったりとうずくまり、ホテルの通路の上を背を丸めて小刻みに震える。

 

 

「オレ・・・・・どうしたんだ・・・・」

 

 城戸真司が再びその姿を晒す。

 

「受け取るがいい。龍騎。」

 

 神崎士郎が真司の前に転がしたのはブランクデッキ。それは以前真司が使っていたものだ。

 

「お、おまえは・・・・。知ってるぞ。優衣ちゃんのアニキだろ。こんなとこで何やってんだよ。アンタこの世界で神様みたいな事ができるのに、優衣ちゃん一人守れなかったじゃんかよ!」

 

 グルルォォォォォォォォ

 

 だが真司が構っている暇はない。既に時は動き、ドラグブラッカーが真司を食おうと迫っていた。

 

「契約しろ。再びな。」

 

「くそったれぇ」

 

 それは髄意反射の極みと言えるコンマ05秒のカードドロー。引いたのは当然契約のカード。

 寸前で止まるドラグブラッカー、真司の手の中にあるデッキケースに龍の刻印が再び刻まれる。立ち上がる城戸真司、それはマスクド・ライダー8号龍騎の再誕だった。

 

「おまえは3つの魂を得た。」

 

 依然神崎士郎は真司から視線を外さない。真司の頭上には真珠のような珠と褐色の珠、そして新たに暗い色の珠が浮かんでいた。3つの珠はグルグルと真司を周回し、周回しながら互いに折り重なって一つの光となっていく。

 

「なんなんだよ、これ、これってもしかして死んだライダーの魂か。」

 

「おまえはサバイブの権利を得た。受け取るがいい。」

 

 光は一枚のカードへと凝縮されていく。手に取る真司。カードの模様は炎を背景にした黄金の片翼。

 

「なんなんだよこれ。オレこんなものが欲しかったのか・・・・・」

 

「これで、優衣と子供を救える。」

 

 唐突に神崎士郎の口から出た固有名詞に戸惑いを隠せない真司。

 

「優衣ちゃんが、どうしたってんだ。もう死んだんじゃないのかよ!」

 

「生きている。が、死んだも同然だ。」

 

「死にかけてるって事か、おい!妹だろ、なんでそんな落ち着いてられるんだ!」

 

「おまえは願った。守りたいと。優衣の命も守るがいい。」

 

「守るさ、どこにいる、優衣ちゃんは!オレの子供は!」

 

 神崎は意地の悪い笑みを浮かべる。

 

「いずれ分かる。」

 

「待て」

 

 空に溶けるように消える神崎士郎。真司は手を伸ばしたが既に遅かった。

 

「なんなんだよ、いったい、結局オレ、なにも分からねえんじゃねえかよぉぉぉぉ」

 

 

 

 マスクド・ライダー11号リュウガのデッキは、惜しげもなく最強たらんとするノウハウを詰め込んだデッキである。

 契約カード

 ソードベント

 ガードベント×2

 ストライクベント

 ファイナルベント

 龍騎型デッキに対してドラグブラッカーを捕獲し2,5世代の技術を盛り込んだ龍騎の直系の発展型デッキ。

 龍騎のそれと同じく攻防のバランスが良く片腕でありながらも装填の速い完成度の高いバイザー。カードのほとんどを占め、しかも同カウント召還のカードの中で最強のスペックを誇るパーマネント群。

 中でもファイナルベントは龍騎と同等の破壊力ながら、シールド貫通という反則に近い効果を持つ。それはガードベントを無効にできるという事であり、基本6枚対6枚でカードを相殺し合うライダーの戦いにおいて、ただ一枚対手のカードを無効にしながらも自身のカードを有効にする手段を策も無く得るという事である。対手の防ぎようがない切り札の存在は、リュウガデッキの優位をどの時点でも保証する。

 しかしかと言って全てのデッキに対して最強たり得るかというとそうではない。龍騎型と同じくスペックと速さに依存した単調さがあり、対手が攪乱と特殊技に秀でたデッキなら、思わず足下を掬われる事になる。

 

 

 

 香川がポケットからブルー地にトラの文様が入ったデッキを取り出す。

 

「変身」

 

 叫んだ香川の身にタイガのスーツがまとわりつく。

 

「香川、キサマ、ライダーか。そういう事なのか。」

 

 膝をつきバイザーを立ててもたれ掛かるナイト。

 

「驚きましたか、ええ驚きましたよね。私のこの智謀、貴方程度のノラ犬が読み取れるはずがない。改めまして、私こそマスクド・ライダー12号タイガです。」

 

 高笑いするタイガは自らのこめかみを2本の指で軽く叩く。

 

「さっきのヤツはなんだったんだ。」

 

「あれは私の替え玉、私に代わって動く駒でした。もはや貴方は虫の息。さようなら秋山君。私にサバイブの権利をもたらす私の駒となる男。」

 

 デストバイザーの柄を握りカードインスペースを開くタイガ。

 

「やはりな」

 

 刹那、ナイトの動きは神速であった。軽やかにタイガに急接、腰を回し気味にダークバイザーの刃をデストバイザーの開いた薄い孔へ刺し込む。

 

「見苦しい。こんなガキじみた妨害が今更なんになるというのです。もはや貴方が私に命を捧げる事は、リンゴが木から落ちる事よりも明らかです。」

 

「箱の中の猫の生死は箱を開けて見るまで分からんぞ。オレはな、香川、最初からキサマが怪しいと踏んでいた。」

 

「バカな、何を戯言を、私は完璧だったはず。なぜだ、なぜ分かった!」

 

「おまえ大学近くで会った時、オレになんと言ったか覚えているか。優衣に言われてオレ達を探したと。」

 

「それがなんだと言うのです。」

 

「オレが優衣の鏡台に貼り付けた書き置きには、ミラーワールドに閉じ込められたなどと一言も書いていない。」

 

「それで貴方は、貴方は、この私を、イヤそんなはずはない、いままでこうも思う通りに動いていたくせに。」

 

「コア・ミラーの時は、オレもまさか自分を閉じ込めるような真似をしないだろうとタカを括っていた。甘かったと認める。しかし、キサマがライダーならばそれも納得だ。」

 

「強がりを言うのではありませんよ、第一貴方もこの状況、どうしようも無いではないですか。」

 

「おまえ、自分で作ったもののくせに、このバイザーが分かっていないようだな。」

 

 既にナイトは対手のバイザーに刃を刺し込みながらも自身のバイザーの柄頭を掴んで引き、カードイン。

 そう、ダークバイザーは敵のベントインを妨害しつつも自身はカードを装填できる。龍騎戦では失敗したものの、武具として取り扱いも良く、腰に収めれば装填行程も速い。実に完成度の高いバイザーである。

 

『ガードベント』

 

 召還されナイト全身を覆うマント。ナイトは依然バイザーを刺し込んだまま、顔まで覆った。

 

「そうだ、それが貴方の最後の1枚、結局貴方はどう足掻いても無力。」

 

 しかし微動だにしないナイト。いやナイトが動かないのではない。

 

「東條悟。おまえは実に優秀だった。」

 

 背後から声、振り返るタイガ、そこに立つ中性的な少年、神崎士郎がトレンチコートを羽織って立っている。神崎士郎が時を止めた。

 

「神崎、なぜいる、私になんの用件だ。」

 

 タイガは震えが止まらない。

 

「東條悟、おまえは実に優秀なトリックスターだった。おまえがゲームを先導してくれた事で、ライダーの魂は効率的に整理されていった。それだけは感謝している。」

 

「何を言っている。私は!最後のライダーとなる。その為に今王手をかけている!この男を葬れば、私は、オレは、英雄になれるんだ、天才のボクの邪魔をするな。それより何だ、ボクの名前を間違えるなよ!」

 

「香川英行という人格は、時におまえが擬装し、時に任意の者を拿捕して作り上げた架空の人物に過ぎない。あるループではそれをおまえ自身が殺した時もある。」

 

「そんなバカな・・・オレは香川英行だ、ボクは先生なんだ・・・・・」

 

 タイガの中の記憶が急激に改竄、復元していく。

 

『英雄、それがなんだと言うのですか香川先生、いったい何をなさるんですか先生、やめてください!』

 

『仲村君、そうです。貴方は英雄となるのです。このサイコローグによって。貴方は、私が香川英行という面を被って演じている間、私、東條悟を演じるのです。」

 

『先生・・・・・これって、私は・・・・・』

 

『それが喜びという感情です。』

 

『イヤだぁぁぁ!』

 

 復元された記憶には、自分が東條悟である事をはっきりと物語っていた。

 

「感受性と人格と記憶の全てが混濁した一個人。それがおまえだ。」

 

「私は東條君の別人格とでも言うのか、これではキサマと同じ・・・・・」

 

「おまえは理想的な駒だったが、優衣の命を危機に晒した。デッキに手を加える力はこの世界を制する力ではない。」

 

「は・・・・・・・バカな、ボクが死ぬはずがない。ボクが間違いを犯すはずがない。ボクは絶えず正解だったはずだ。ボクが正解を選ぶんじゃない、ボクが選んだものが正解になるはずなんだ、いままで、いままでそうだったじゃないか!」

 

「おまえが絶えず正解であるならば、今おまえが死ぬ事が、おまえにとっての正解なのだ。」

 

 空に溶けるように消え入る神崎士郎、神崎の背後に隠れていた者がその時初めてタイガの視界に入る。劇場出入り口に立つそれはゾルダ。

 

「北岡っ」

 

「よぉ」

 

『アドベント』

 

「ファイナルベント』

 

 ナイトもまた停止した時の束縛から解放される。

 

「オレ一人ならば無力だ。確かに。」

 

「神崎っっっっ」

 

 爆音と爆炎と爆煙が劇場鑑賞席の北から南を広角的に貫通していく。タイガの嬌声など激流の中の小さな枯れ葉のごとく問題にならず呑み込まれていく。

 

 

 

 東條悟。

 23歳。清明院大学院在学中、行方不明となる。

 親にも見放される情緒不安定であるが、病理的というよりも、最近とみに多い、自己の過大視をコミュニケーション不全にあえて塗れる事で保存する極右ではないだろうか。

 学校においてコミュニケーション不全を続ける者とそうでなく現実と折り合いをつける者とに分かたれ、脱落していくクラスメイト達は、しぶとくそして運良く前者である東條に対してフラストレーションを溜め、そしてフラストレーションのハケ口として利用ようになる。即ちイジメであるが、むしろその状況において東條はコミュニケーション不全を貫徹し、自己評価を増長させていく。その気取った存在がクラスメイトの男女を問わずフラストレーションをさらに増長させ、普通になれ、と全包囲して迫った。もちろん‘普通’の基準は全包囲したものが査定する為に基準などあって無いようなもの。青少年はタガが無い。死ぬか発散の為のサンドバックとなるかの二者択一を東條に強制した。しかし東條はついにこれに克つ。

 

「痛いよ、やめてよ」

 

 自分で自分の頭や腕を壁に叩きつけ、教室一面血の海にしながらついには左の前腕から鈍い音が鳴った。

 

「ダメだよ。こんな事しちゃ。」

 

 東條悟は折れた前腕を弄びながら、素朴にクラスメイト達に笑いかけた。しかしその日以来、一線を越えている東條の顔を見て戦慄しない者はいなくなった。こうして彼は卒業まで孤高の旅路を笑みを浮かべて歩んだのである。ただ一つの例外を除いて、

 

「ひでお伝説おもしろいなこれ」

 

「エイユウって言うんだよこの字。英雄っていいよね。誰からも認めてもらえて。」

 

「いいじゃんか。おまえはおまえで。わかんねえけどさ。」

 

 もはや名を忘れてしまったクラスメイトの愚鈍な男子がそう言った時、東條の目は僅かに火が点った。城戸真司はあるいは東條悟の虚栄心という魔物を起こしてしまったかもしれない。

 東條が香川という、経歴不明な男に師事した後、2ヶ月の間行方知れずになった。失踪届けなどは出されず差して騒がれる事は無かったが、ひさしぶりに顔を見かけた大学の知人は一応に、より東條らしくなった、と口にしている。

 そんな彼のミラーワールドでの姿こそはマスクド・ライダー12号タイガ。

 契約カード×2

 ストライクベント

 フリーズベント

 リターンベント

 ファイナルベント

 その本質は契約カードの一方を召還した際に発揮される特殊エンチャントによって圧倒優位の場を作る事にある。デストワイルダーの空間制御によって対手の攻撃を寄せ付けずなおかつ一方的に攻撃し、サイコローグに操作された圧倒多量の擬似ライダーの人海戦術によって同じく攻防に渡って一方的な戦いを仕掛ける事ができる。

 だがその根幹である両クリーチャーの召還カウントは、デストバイザーのベントインと相まって極めて遅く、つまり、回り始めれば強い、という皮肉を込めた賞賛に附されるデッキである。

 実際、回り始めるまではバイザーで対手カードを伐ち凌ぐしか無い。しかし逆に彼我のデッキコントロールに秀でた者であれば、龍騎以前のライダーならば太刀打ちする隙を見出す事なく、龍騎以降のライダーならば回り始めるまでに決着をつけなければやはり手も足もでない最強ぶりを発揮する。

 

 

 

 

 

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