仮面ライダー龍騎SPRITS   作:bassher

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ここは02年度放映された特撮番組『仮面ライダー龍騎』の二次小説です。『仮面ライダー龍騎』、並びそのスタッフ、また講談社マガジンZ連載『仮面ライダーSPIRIT』著者には、一切関係ありません。
公開は07年11月からとなります。



ユイ 03-01-19

 

 

 

 

 

 喫茶『花鶏』。時は最期の三日間が開始される以前、1月14日。

 

「士郎さんはおわかりですよね?」

 

「何言ってるんだい?」

 

 だが沙奈子の次の言葉は、令子の想定をはるかに凌駕していた。

 

「優衣は一人っ子だよ。」

 

 令子は天と地がグルグルと動転するかのような、この世の根底を成すものが掘り返された想いに駆られた。

 

「そんな、そんな、何人もいるんですよ、神崎優衣には兄がいると証言した人が。」

 

 堰を切ったように感情を露呈してしまう令子。

 

「そんなのアタシゃ知らないよ。」

 

「いいですか貴方の娘さんである優衣さんからも私は聞いた事があるんですよお兄さんかいるとそれから」

 

「なに言ってんだい、あの子はそんな嘘を言う子じゃないよ。それから娘ってなんだい、アンタホントはなんかのコラコラ詐欺じゃないだろうね。」

 

「いいですか、文京であなた方がお住まいになっていた家に私は何度も足を運びました。そして貴方が優衣さんを産み、育て、ご主人がお亡くなりになって、この喫茶店に移り住むようになった事はご近所の方への取材ではっきりしています。あちらに住んでいらっしゃった時は、ご夫婦で大層優衣さんを可愛がっていたそうですが、しばらくすると虐待をするようになりましたね?その事実をまるでそう、リセットでもするかのようにここに越してきた。違います?お母さん?」

 

 お母さん、という言葉を聞いた神崎沙奈子は、瞳孔が開き、口を空け、身が硬直し、放心していた。意味の無い奇声をあげたがその自覚すらない。うろたえるという一つの言葉に収めるにはあまりに乱雑な様態だった。

 

「あの子・・・・・、私の子・・・・・、なんでそんな事忘れてたんだろ・・・・・どうして私はあの子の叔母だと思ってたんだろ・・・・あの子だ、あの化け物がこんな風に私を!」

 

 ついには両手でその長い白髪を掻き毟り、狂ったように涙を流し始めた。

 

「すいません、お母さん、しっかりと。いったい、」

 

 令子は触りがたいものでも扱うように沙奈子の肩を両手で掴む。

 

「あの子、どうして、あの子、まだ生きてんだい!あの子、私が殺したのにっ!」

 

 神崎優衣は12年前、死亡届けが提出されている。死因は自宅階段からの転落死。全身が映る大鏡の前まで這いずった痕があり、その鏡をひっかくように血のラインを4本入れていたという。事件性は無いと警察は判断したものの、二人で食事していたという互いの証言以外両親の当日の行動を裏付けるものはなかった。

 

 

 

「おまえは言ってはならん事を言った!」

 

 装着されるナイトサバイブの鎧。ダークブレードを抜いて真司に刃を向ける。

 

「レン、おまえとのくされ縁はもうコリゴリなんだよ!」

 

 真司も直ちに龍騎サバイブへ。

 

「最後の勝負だ!」

 

 カードを引くと同時にバイザーが開く-装填-自動的にカードが閉じる。

 

『無想斬』

 

 ファイナルベント、インスタント、AP8、貫通、全てを断ち、同じ大地の上に自身以外の者が立つ事を許さぬナイトの技の極み。

 

 キィィィィィィィィィ

 

 宙より顕れ出でて飛翔するダークレイダー。金属的なギミックで翼を稼働してジェット噴流で高く飛翔。

 

「はぁ」

 

 ナイトもまたその高さに飛翔、

 待ちかまえるダークレイダーがナイトのアームプレートと合体、大回転。

 

「オレは救う、そう選択したんだぁ!」

 

 龍騎サバイブ、はるか天上で点にしか見えないナイトを見つめ立ちつくしている。手にする銃型のバイザーが軟質に変形、巨大な龍の頭のガントレットと化す。剣、銃、そして手甲と三態に変化するこれが龍騎のドラグバイザーツヴァイ。カード装填は全て共通、剣だった時のそれと同じく、カードを引くと同時に、カードインスペースがややせり上がり、その薄い孔にカードを装填、覆い被せるようにバイザーを閉じる。

 

『ドラゴンライダーローリング』

 

 ファイナルベント、インスタント、AP9、迎撃型、真司の全ての想いを貫徹する必殺の力。

 

「オレは負けんんんんんん」

 

 龍騎直上を急降下するナイト。

 

「オレ、決めた、鬼になるよ」

 

 それを見上げ敢然と立ち尽くす龍騎。

 最初からいけ好かない隣人だった。だが気になった。

 好かれているのか嫌われているのかその態度からまるで分からない。

 自分に不満があるのか見下しているのか、それすらもまるで読み取れずイライラし、ある種の敵意を募らせる毎日だった。あるいは恐れという感情はそういうものかもしれない。

 恐れが敬意に変わったのは、同じライダーと知った時。同じなのにまるで次元が違う領域で敵を見て、剣を振るい、命をかけていた。とても自分にはできない事をやると思った。

 助けた事もあった。助けられた事もあった。その合間で互いの緊張感がかすかに解れる瞬間があった。だがその後に来るのは殺したくなる程の失望と冷たい対手の態度だった。しかし、コア・ミラーで決別したあの時、なぜ自分の事のように泣けたのだろうか。どうしてあの気持ちよさの中にいる事をあの男は拒絶するのか。

 そんな解答不可な問題を心の片隅に置いて曙橋交差点で対した時、すなわち最後に残ったライダーが自分とこの男だったという胸糞の悪さを体感した時、はじめて対手が拒絶していた何かを感じる事ができた。

 

「おまえは結局人を救いたいと一人よがりにわめき立てて、その救いたい人間を犠牲にしてきただけだ。」

 

 秋山蓮という男に応える事、乗り越える事ができなければ、対手の言う通り、みんなを救うライダーにはなれない。

 

「ぉぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁ」

 

 大車輪の刃が龍騎の脳天に斬り込んでいく。しかし龍騎は動かない。顔面から喉、胸元へ入る、それでも龍騎は動かない。

 

「城戸・・・・?!」

 

 だが手応えが無い、それは残像。

 

「蓮っっっっっっっっっっ」

 

 既に龍騎はナイト左側面の僅かな死角から後ろ回し蹴りのモーションに入っている。

 朝日が見え始めた東の彼方より低空を這うようにくねるドラグレッダー、その姿に硬質のスーツが纏わり付き、肉厚が一回り増した《ドラグランザー》へと進化する。ランザーが対峙する両者を大きく円を描いてその身で囲む。龍騎の回転の足先とランザーの頭が並行し、やや引っかけた状態で蹴撃がナイトの左から入る。敵ファイナルベントを寸前で迎撃、しかもその狙いはナイトアームプレートに付いたダークレイダーの回転中心。真司がライダーとして経験した全霊を込めたローリングソバット。

 

「ぉぉぉぉぉぉぉぁぁぁぁ」

 

 粉々に砕け去るダークレイダー。たちまちブランク体となって路上を転げ回る、もはや大の字にうずくまって起き上がろうとしないナイト。

 

「・・・・・蓮、もう止めようぜ。」

 

「ああ、納得した。オレの負けだ。」

 

 大の字のままスーツを除装する蓮。

 

「オレ、終わらせるよ。どこまでできるか分からないけど・・・・、オレ、ライダーになって、自分がバカだってホント分かったんだ。言った事の全部が恥かしくなってきて、とても無力なんだって分かった。でも、だけど、」

 

「オレを負かしたんだ。おまえはできるさ。」蓮は視線を合わせない。「最期に聞かせろ、おまえはみんなを救いたいと願っていたな。なら、そのみんなの中に、小川恵理の名はあるのか?」

 

 蓮に励まされ真司は奮い立った。

 

「ああ、もちろん、もちろんだとも!やるよ。絶対って言えないけど、オレバカだけど、みんなから救われてるライダーだけど、あの、ミラーワールドを牛耳ってるアイツを、すごい力を今でも感じるけど、なんとかしてみせるよ!」

 

 龍騎、蓮に背を向け、駆け足で立ち去ろうとする。

 蓮は依然大の字で、その手に自身のサバイブカードを握り、ジッと眺めていた。

 

「安心したよ。おまえなら託せる。受け取れ城戸!」

 

 頸動脈を切る、

 

「なんでだよ!」振り返って絶叫する龍騎。「なんでおまえ、死ぬ必要なんか無いじゃないかっ!」

 

 蓮はカードを自分の首筋に宛て横に流した。止めどもなく路上に溢れる蓮の血は純粋で濃くそれでいて鮮やかだった。すかさず蓮の元に駆け寄り、震えながら伸ばすその手を掴む龍騎。

 

「受け取れ、オレの命を・・・・それがライダーのルール・・・・・、いやそんなんじゃない、オレはただ死にたかったんだ、純粋に・・・・」

 

「おまえオレよりもバカだ!なんだよそれ、なんなんだよ、オレがそんな、おまえの命なんていつ望んだよ!」

 

「わからんか・・・・オレはけじめでしか生きられん男だ・・・・分かれよそのくらいは、バカが・・・・・」

 

 龍騎は、蓮をキツく抱きしめた。

 

「もうバカって言うなよ・・・・、分かったよ・・・・・、蓮、きっと、恵理さんとおまえは今度生まれ変わって魂がサラサラになって、そしたら結ばれる運命なんだ、」

 

「いや、言ってやるぞ。バカ野郎。だが、そのバカの言葉を、信じてみる事に・・・・・」

 

 蓮のぬくもりは未だ消えない。

 

 

 

 秋山蓮。

 24歳。同居人曰く、性格が悪いし、意地悪だし、好き嫌い激しいし、何考えてるか分からない、という言葉より拳の男。

 

「恵理に未来を、」

 

 しかし小川恵理という、自分を好いてくれた者の為になら命を張れる程の男だという。およそコミュニケーションを取ろうとすれば、あるいは取れば取る程疲れる男でしかない。近づけば傷つくだけである。

 そんな彼のミラーワールドの姿こそはマスクド・ライダー6号ナイト。

 契約カード

 ソードベント

 ガードベント

 ナスティベント

 トリックベント

 ファイナルベント

 およそそれ以前までのデッキと違い、契約クリーチャーへの依存度を極力廃して、各ベントの能力を洗練した第二世代最初のデッキ。そのバイザーは武器としてもっとも洗練された剣状であり、パーマネントとインスタントが程良く混成したバランスで、使い手の技量がストレートにデッキの強さに反映するクセの無さがある。それ以降のデッキの基本となっていくデッキであり、そうであるが故に後期デッキのカウントの速さに念入りの対策を講じる必要がある。またキーカードが絞れるが故にライア、ガイの餌食になり易く、遠距離攻撃への明確な対策は捨て身の肉薄しかない。コンボは比類無い強力さを誇るが、コンボを成立させる状況は、装着者の手腕に求める以外無い、即ち装着者の技量をこれ以上無い程要求するデッキである。

 

 

 

 そして喫茶『花鶏』前。

 

『ゴルドシールド』

 

 オーディン、ガードを固めに入る。

 

『ストレンジベント』

 

『スチールベント』

 

 龍騎、ゴルドシールドを転送の形で自らの手元に。

 

『スチールベント』

 

 だがオーディンもまた入れ替えるように対手の得物を奪取する。ゴルドシールドでは無い。ドラグバイザーツヴァイがオーディンの手に。

 戦いは一方的となる。

 

「なんでだよ!」

 

 バイザーを奪われ、面が片割れし、露出した鼻から濃い血が一筋流れている。スーツはところどころ欠損し、罅割れ、今腕のプレートがすっぽりと地面に落ちた。

 

「さあ、渡すがいい。おまえが集めた12の魂を。おまえをライダーに選んだのは優衣の為だったが、おまえはそれ以上の役割を果たしてくれた。特にこの段階おまえほどカモになるライダーはいない。感謝する。」

 

「オレはバカにされるのが一番キライなんだ!」

 

 龍騎は素手で殴りかかった。

 

 顔面真っ二つ、

 

「気が済んだか。」

 

 無防備にその鉄拳を食らうオーディン。そのクリティカルヒットはオーディンのマスクを割って、装着者の素顔を晒す。

 

「神崎、なんでだよ、どうしてこんなバカみたいな事をしたんだ、そんなに人の命を玩具にして楽しいのかよ!」

 

「その発想がおまえの限界だ。あと一撃の命、教えやろう。オレは優衣の為に生まれた。優衣が殺された為に、その命を与える為にオレは生まれた。」

 

「それって、まさか、」

 

「優衣は父親に殺された。12年前、階段から突き落とされた。優衣は力を持っていた。優衣はその偉大な力で、このミラーワールドを開放した。両親はそれを恐れた。恐れる必要などどこにも無いのに恐れ殺した。だが優衣はオレを産んだ。産んでまず父親を殺し、母親の記憶を書き換え、今の暮らしを手に入れた。しかし失った命を取り戻す事はできない。永久にな。だが継ぎ足す事ができる。10数年に一度、もっとも純粋な命を12集め継ぎ足す。純粋な命を選抜し、この戦いによって磨き上げるのがオレの優衣に対しての思いやりなのだ。」

 

 唖然とする龍騎を、既に召還済のゴルドセイバーが横薙ぎする。セイバーが腹をえぐると、龍騎は人体には不自然過ぎる屈折をしながら押し飛ばされる。

 

「!」

 

 強引にそれでも立ち上がろうとする龍騎。負けねえ、と叫ぼうとするも大量の吐血によって言葉にならない。おそらく内蔵は断裂し、腹に刃を入れた訳ではないが、切腹と同じもはや手遅れのダメージを負った。

 

「オレ・・・・蓮、ごめんよぉ・・・・」

 

 泣きじゃくって万歳状態で跳躍する龍騎。宙で一回転、それは両足を揃えた蹴撃の構えとなる。オーディンはその上方65度からの攻撃を呆然と見上げている。

 

「勝った」

 

 オーディンの胸に龍騎の足裏が入るか入らないかという寸前、両手で龍騎の足首を握るオーディン、掴んだまま両腕を拡げると、龍騎の体は股間から亀裂が走り、頭まで綺麗に達する。びらんと波打ってピチャとオーディン左右の地面に着く龍騎の右半分と左半分。オーディンは両腕を拡げたまま、天空を仰ぎ見た。

 

「12の純粋なる魂が集まった。優衣、捧げよう。オレの全力を注いだ思いやりの世界を。」

 

 

 

 20年後。『花鶏』。

 ポットの沸騰した音と、焦げたパンの香り、焼けたベーコンの臭みが入り交じる朝。

 

「お母さん、コンロの火ちゃんと見ていないとダメじゃないか。」

 

「あらあら、でもおまえの洋服からボタンが取れちゃってるじゃない。これを縫い合わせなきゃ。」

 

 神崎優衣は40歳になった。小皺が増えたものの、彼女の叔母と同じく華奢な体に丸みのある小顔、その中性的な雰囲気によって独特の愛玩臭さを醸し出すようになった。

 

「母さんはホント頑固だよね。だから再婚ができないんだ。なにか一つの事をしようと思ったらもう一つの事を終わらせてからにしなきゃダメじゃないか。」

 

 彼女の息子は華奢だが背は高く、自慢ではないがどこに出しても女性の眼を引く容姿と優衣は思っている。だがその低く割れる声は好悪が分かれるところだろう。今年清明院大学の2年生になり、大学院に通いたいと最近では言うようになった。

 

「あらあら、士郎、でもボタン大事じゃない。取れちゃってるんだから。」

 

 叔母の沙奈子は息子が産まれると入れ替わる形で急逝した。しかし母子二人ならつましく生きられる程度の財産を優衣の両親が残しており、生きる事には不自由が無かった。叔母の喫茶店も実は必要無かったが、ただの無職という世間的な悪印象を回避し、店を切り盛りしていく事は優衣にとって適度な張りとなって人生を彩っていた。印象はただの建前の問題であり、単なる顔でしかないが、女にとって顔は命であるから、そう小さな問題ではないらしい。

 

「イタ」

 

 繕い物をしていた優衣の左人差し指に紅い雫が。雫は優衣が注視している間にもその大きさを拡げ、雫が表面張力を超えて弾け、人差し指に紅い筋が流れた。

 

「いけない」

 

 息子は驚く程動転し、驚く程俊敏に、優衣の指先の血を自らの口で塞いだ。

 

「ごめんなさいね、士郎。私はダメな母親だから、仕方ないとあきらめてちょうだい。こういうお母さんもいていいじゃない。」

 

「いや、いい妹だ。」

 

 血のついた口元をぬぐったその顔は、中性的ながら辛うじて男性と分かる、20歳のそれであった。

 

「士郎・・・・お兄ちゃん・・・」

 

 優衣の声は不思議が込められていない。それどころか優衣までも20歳の容姿になっていた。

 

「優衣、ようやくこの体を得た。これで、永遠におまえを守っていける。理想的な、おまえに優しい世界だ。」

 

 兄に対して悦びの抱擁をする優衣だった。

 今日も窓の外ではレイドラグーンの大軍が人と街を蹂躙していく。

 

「お兄ちゃん・・・・・大好き・・・・」

 

 兄の柔らかい感触に、全ての時間と記憶は想い出という引きだしに了われていく。

 喫茶『花鶏』の中では、いつまでもポットが沸騰し、ベーコンの焼ける匂いが漂っていた。

 

 

 

『タイムベント』

 

 

 

 

 

 

 

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