公開は07年11月からとなります。
朝。
秋山蓮は時々ボロボロになって帰ってくる。痣だらけの顔で、壁にもたれ掛ってようやく歩いているような有り様だ。
「煩い、構うな」
喫茶花鶏2階、同室で暮す城戸真司はそんな蓮に多少興味がある。興味があるが、蓮の頑なな態度に跳ね返される。時には理由もなく殴られた事もある。
「な、なんだよ、こっちは心配してやってんだぞ。」
心配してやる、と口にする事と心配する事はまるで違う。単なる興味本位である事を蓮は分かっている。
「煩いと言っている、」
蓮が優衣に世話になって5ヶ月、真司は3ヶ月になろうとしている。その間ずっとこの部屋で毎晩のように顔を合わせている2人だった。蓮はもはや10程の単語の組み合わせでしか真司と会話していない。蓮にしてみれば興味が無いのである。インテリアに気を使って語りかける者がいないように。だが最近は鬱陶しいに変化しつつある。
「なんだ、やるか、おい、蓮!」
真司の目前で倒れ込むようにベッドで気絶する蓮。こうなるともはや動かない。真司にしてみれば鬱陶しい事この上無い。無愛想は即ち嫌悪であると考える真司は、3ヶ月他人から嫌われる理由が分からない事が耐えられない。だがしかしつい1ヶ月前まで自分自身倒れる寸前までクリーチャーと死闘を繰り広げていたにも関らず、隣の人間が全く同じ状況にあることに気づかない真司も真司であるが。振り上げた拳をシブシブ抑える真司は納得がいかない顔ながらこう言った。
「今日は、このくらいにしといてやらぁ!」
チャンチャン。
「城戸にやらせればいいだろ。」
「ダメ、あの人のカルボナーラ目当ての人ばっかなんだもん。」
蓮が目覚めた時午後を既に回っていた。めずらしく昼に客が入って卵が底を尽いたので買い出しを頼まれた蓮は、優衣の指定した5キロ先の「石田青果」へシャドウスラッシャーを走らせる。優衣によると形は悪いが値と質は地域最上の店だそうだ。
「小林と申します。」
「板尾です。」
一方、店内にはようやくカップルが一組だけという落ち着いた状態になって、いつも通りやる事もなく閑古鳥が鳴いている。カップルの男は関西方面のアクセントである。
「知っている人は靖子にゃんと呼んでいます。」
「趣味は素うどんです、なんでやねん、関西に腐るほどあるちゅうねん。」
「あの・・・・もしかしておもしろい事を言ってらっしゃるのですか?それはどういう性質のギャグなのでしょうか。」
「あんさん、ギャグ説明したら死んでまうやろ。あんさんそれで笑いとっとるつもりぃか。」
「私はただ質問しているだけなのに、なんですかそのバカにしたような態度は。」
「まあええ。それはこっちに置いておいて、」
「右に置くのですか。左に置くのですか。」
「そこまで決めますか?」
「細かい事を隅々まで構築していく事で重厚な世界観か生まれるのです。」
「今そんな話してへんねんけど」
「貴方先程から失礼ですね。もうちょっと相手に話を合わせるくらいしてもいいじゃないですか。大人としての常識に欠ける人は私お断りです!」
と言って店を飛び出していく女性。
「お見合いだったんだ。」
と優衣がカルボナーラを笑顔でテーブルに置いた。
「ネエちゃんワシワロウたな、」
「いや、そんな」
「ワシワロウたやろ!」
客が逆ギレしはじめる。優衣ははじめて聞く関西弁に戸惑い、客のクレームに対応できない。
扉が開く、鈴が鳴る、
「おかえり、なんでもないから。」
客は優衣にキレまくりながら、見くびってカルボナーラ無料+レーコーもう一杯サービスを要求してきた。そこへである。蓮がいつもの黒いコートで決めながら、レジ袋片手に帰ってきた。
「・・・・・」
「なんやねんおまえ、ガンとばしてビビるオモとんか!顔はトトロに似とるけど、ワシは高校の頃は空手部はいっとったんやで!」
だが蓮はただ客を睨んだだけで、素通りして奥へと引っ込んでいく。
「おまえ、優衣を助けてやらんのか」
「汚れ物溜ってるじゃんか、」
蓮が厨房に入ると、真司は黙々と洗い物をしていた。蓮は冷蔵庫に卵を入れつつも片眉が動いてレジ袋を片手で握り潰していた。
「蓮、止めて!」
「なにすんのや、ワシが空手部でピンポンやっとったんがそんなに悪いんか!」
衝動が蓮を動かす。厨房から飛び出てきた蓮は、客の襟首を片手で掴んで路上へ放り出した。
「あ・・・・・絶対鼻血ぃ出てる・・・・、今唇左右回り込んで顎で合流してる・・・・」
追い出された客はいつまでも俯せになって路上で放心していた。
「蓮、お客なんだから!」
「煩い」
「どうして君はそんなに乱暴なんだ!」
客のいないのが幸いなのか、逆に歯止めになる要素がなく運が悪いのか、
「蓮、優衣ちゃんにとにかく謝れよ!」
と状況をそんな風にしか捉えられないのが真司の限界である。蓮はそんな扱いをされるのは人生で数え切れない程経験している。しかし別の意味で真司に掴み掛る蓮。
「おまえはなにをやっていた!」
いきなり矛先を向けられた真司は戸惑うしかない。
「オ、オレ、なにを、」
「どうして自分の女を守ってやれない!」
「・・・そんな、こと言われたって、オレ、どうせ、オレなんて、なんもできないに決まってるし、変にバカな事やって、」
「キサマの顔なぞ見たくもない!」
手にいままでずっと持っていたレジ袋を真司の頭にかぶせつけた。
「なんだ、おま、しかも玉結び!」
袋を被せられ、息をする毎に膨らんだり縮んだりするエレファントマン真司だった。
「蓮、ちょっとヒドいぞ!」
この状況をマジメにしか受け止められない優衣は、2階に上がる蓮に真剣に怒った。
「優衣ちゃん、優衣ちゃん、いいよ、オレ、たぶんオレ悪いんだし。」
袋を強引に引き剥がしなんとか顔を出した真司は優衣に腰を回して制止する。
「でも真司くんにこんなヒドい事、」
「優衣ちゃん、あいつは、たぶん、全面的にあいつ悪いヤツだけど、優衣ちゃんを助けたかったんだと思う。」
優衣は絶句した。気づいてもいないのが優衣という少女だった。この時もあの時も。
「ごめん、真司くん、ボク、ダメな子だ、」
振り返って、真司の胸に縋って泣き崩れる優衣。真司の首には、まだ輪になったレジ袋の成れの果てが巻き付いていた。
「蓮、まだ怒ってる?」
部屋に閉じ籠ってベッドに横になった蓮に再び優衣が声をかけた。
「怒る?オレがか。いいか優衣、怒るっていうのはな、同格の相手にするもんだ。」
「実はキミに頼みがあるんだ。」
「オレが邪魔か。」
「違うよ。蓮は今ボク等に必要なんだ。」
「ボク等?城戸もクリーチャーに狙われているのか。」
「そうなんだ。それをキミに頼みたいんだ。真司くんはドラグレッダーに狙われてる。」
「ああ、そうか、そういう事か。」
そうか、あの時のヤツか、あの時、そう、蓮がシザース=須藤を殺したあの時、
そこまではさすがに口を噤んだ蓮。
「ボク、こんなお願いするのは自分でも身勝手だって分かってる、でも。」
「いいだろう。ドラグレッダーか。誘き出す恰好のエサを提供してくれて感謝するよ。」
優衣の顔が歪む。
「どうしてそんなんなのさキミは!」
「それよりも、おまえ、あいつとは止めた方がいい。不幸になるだけだ。金も渡しているんだろ。」
「なんだよ突然、真司くんは今心を病んでるんだ、キミには関係無いだろ。」
「それは甘やかしているという事だ。あいつはおまえやオレとは背負っているモノが違う。」
「なんだよそれ、真司くんのなにが分かるって言うだ!」
「見てれば分かるさ。どうせ封印のカードをどこかで失くして狙われる事になったんだろ。あの軽薄さは、なにも背負っていない。その程度は分かる。」
「キミは、真司くんの事バカにし過ぎだ!」
再び優衣を怒らせる蓮だった。
「蓮なんか、ボクに何もしてくれなかったじゃないか。ちょっとは謝ってやろうと思ってたのにさ。」
ドアを閉め、蓮に聞こえないようにそういう優衣だった。
住宅街の中に位置する喫茶花鶏は、昼間の主婦層がメインの顧客であり、それは自動的に夜商売にならないという事である。午後7時という早過ぎる閉店時間もその為だ。
「ごめん、オレ晩飯いらないから。」
と言って真司はホンダズーマーに飛び乗った。
「歌舞伎町かあいつ。」
蓮はその真司をシャドウスラッシャーで追いかける。夜である事が尾行を容易くしている。真司がズーマーを乗り捨てたのは新宿PePe近く。時間的に生活感の無い衣装を身に纏った女性と会社帰りの背広の男が待ち合わせしているような時間。歌舞伎町方面へ口をあけてネオン看板に目移りしながらトボトボ歩いていく真司。
「あいつめ、優衣に貰った金で、」
とキレた蓮はもはや尾行ではない、駆け足で真司に追い縋って、真司の襟首を掴み、裏路地まで引き回した。
「あ、お、蓮、なんだおまえ、こんなところでおまえと遭うなんて、」
「フザケるな!」
そうして真司の顔面に拳を叩き込もうしたその時だった。蓮の拳を制止する2人の背広姿の男が立ちはだかった。
「暴力は止めたまえ、大事なエサに手を出してもらっては困る。」
「君は城戸真司君だね。ちょっと来てもらおう。」
蓮の腕を掴んだ男は、たちまち足を引っかけ蓮の長身を宙で一回転させる。真司もまたもう一方の男に羽交い締めにされる。
「蓮になにすんだよ!」
蓮が襲われて危機感がピークに達した真司は頭突き一発、拘束を振りほどき、ジャンプ一番飛び蹴りで男の顎先を揺らし伸してしまう。
オレ、ライダーになって強くなってんだ、
などと呑気に思い、笑顔になる真司だった。
「マテ、話を聞け」
「おまえの相手はこっちだ。」
もう一人の背広男が、真司に目を向けた瞬間、蓮が起き上がり様脇へ鋭角的にフックを見舞う。
「なんだこいつら・・・」
男は呻いて腹を抱えて倒れ込む。
「城戸、ここは逃げるぞ。」
「マテ、我々は警察の者だ・・・・」
激痛に呻きながら真司の足を掴む警察の男。
「警察を名乗る男は信用できんな。」
蓮は男の言う事を一蹴した。
「城戸、霧島美穂だ、彼女が脱走した。刑務所から突如消えた・・・・だから我々は唯一の身内である君をマークし、」
「美穂、あいつがどうかしたか!」
霧島美穂、という懐かしい響きが真司の心を掻きむしる。だがそんな真司を余所にあの音が聞こえてくる。
・・・・・・・・・・・・
「来たか!近い、」
蓮がまず反応した。
「これはガルド系か・・・」
そして蓮は真司を振り返る。
「おまえもライダーなのか」
同時に想う、
こいつは音だけでここまで識別できるのか、
蓮の中でどうでもいい同居人が不可思議な対手に変わった瞬間だった。
「なんで、おまえがライダーの事知ってんだよ、」
真司と蓮が互いに視線を向け合っているその瞬間、ゲーセンの窓から突如出現する鳥をモチーフにしたクリーチャー、ガルドサンダーが棒立ちする二人の首をアックス気味に押込んだ。
「・・・キド、敵はすぐこっちに来るぞ!」
ミラーワールドに二人を引きずり込んだガルドサンダーは、一旦炎の鳥と化して上昇していった。蓮は怯む間も置かずに直ちにデッキを取り出した。
「おまえ、ライダーだったんかよ。あのガルド、なんで俺達だけ狙ったんだ。」
「ガルドはライダーを特に狙う、そのくらいライダーとして場数を踏んだらすぐ分かる事だ。やはりその程度か。おまえも早くしないと死ぬぞ。変身!」
蓮は引きずり込まれたガラスからベルトを召還、デッキを装着し、ライダースーツを身に纏う。その姿は以前のゼブラ模様ではなくダーク。プレートの端々がやや鋭角的になり、全身さらに削り込まれた印象がある。これがマスクド・ライダー6号ナイトの新たな姿。
「オレは、オレは、もう変身しない!」
「なに?」
「ライダーの中身は人間なんだ、ライダーはライダーと戦わなきゃいけないんだろ、だったらオレイヤだ!」
「そういう事か。」
ナイトはバイザー、以前と変らぬサーベル状の‘ダークバイザー’を左腰から左腕で逆手に抜き切る。ナックルガードはコウモリの全身をモチーフに変化している。やはり同じ機構で柄頭のグリップを引くとコウモリが翼を拡げるようにナックルガードが左右に開く。
『ガードベント』
ウィングウォール、パーマネント、GP3、ナイトの全身を覆う長いマント。
「甘ったれるな!」
真司の胸倉をライダーの握力いっぱいに掴むナイト。
「キサマは願いを叶えたくてライダーになったんだろ。だったらその程度でビビるな!優衣にいままでそんな事で甘えていたのか!」
「あ・・・・」真司の目はナイトに怯えている。しかし視線の先が別の怯えの対象へ移る。「ガルドが来た。」
「分かっている。だが問題はここからだ。」
炎の影がナイトと真司を覆う、頭上の敵に間合いを計り、ダークバイザーを右腕で掴んで弧を描くナイト。しかしその弧のどこにも火の鳥は接しない。それどころか、弧をすり抜けていつの間にかナイトの胸元へ衝突していた。
弾け飛ぶナイトと真司、
弾け飛んでマクドのガラスを割ってしまう。
「なんだ、さっきの、すげー早い、」
真司に至っては顔中血まみれになる。
「ガルド系は時を止める。1秒だけな。その間こちらは完全に無防備に陥る。やはりガードをつけておいて正解だった。ヤツは再び時を止めて攻撃する為に2分は間を置くだろう。いいかげん変身したらどうだ。死にたいのなら構わんが。」
「死にたく、ない」
正直に過ぎる真司であった。忌まわしい顔をしながらもデッキを取り出す。
「結局肌身放さず持ってはいたわけだ。」
「変身!」
真司もまたガラスにデッキを翳してベルトを召還、装着してマスクを纏う。その姿は紅く、バイザーは龍の頭を象っている。
「龍騎、おまえが龍騎なのか!」ナイトは仰天した。「優衣め、ドラグレッダーを狙われているなどと、いやウソは言っていない、しかし優衣も女だ。厭らしく後々の言い訳だけは考えている。」
「ヤツだ、時間止めるってどうやって倒すんだよそんなの蓮!」
「おまえはどうやって倒したんだ、」
「いやただ早いなあと思いながら、あれ、どうやったんだっけ?勢いだったかな?」
「バカの見本だなキサマ。」
と言いつつも接近するガルドサンダーを確認したナイトは、カードを一枚引き抜く。
『ナスティベント』
ソニックブレイカー、インスタント、ゼブラスカルと契約していた時は視覚情報を混乱させたが、ダークウィングと契約した事で聴覚へのそれへと変わっている。周辺一帯に三半規管を錯覚させる程の極超音波が響き渡る。
「いてぇ」
平衡感覚を失いアスファルトを転げ回り、せんだみつおのナハナハポーズで苦しむ龍騎。
クェェェェ
同時に苦しんで落下するガルドサンダー、ソニックブレイカーは色覚から聴覚に転じた性質上、複数対象への効果へと実質強化されている。
『ソードベント』
ウィングランサー、パーマネント、AP2、それまでと同じくランス上の長い武具。
「はぁ」
落下してくるガルドサンダーに向け高く掲げるウィングランサー、刺されると同時に爆破、爆破すると同時に消失するランサーとマント。
「おまえなぁ蓮、あんな事するならすると最初になぁ」
水抜きのように耳を叩いて龍騎はナイトに詰め寄った。
「もう一匹いたのか。同じ体色で区別がつかなかった。」
斧が振り下ろされる、
「イタぁぁぁ」
龍騎の背中が攻撃され、吹き飛ばされる。ナイトは既にそれを察知して自分に寄り掛かってくる龍騎を軽く躱す。おかげで龍騎はラーメン屋の横開きのガラス戸を押し壊し、ガニ股ですっ転んでいる。
龍騎を攻撃したガルド系、斧を持っているガルドストームは攻撃した後忽然と二人の前から姿を消す。
「キド、遊んでいないで構えろ。」
ナイトは再びバイザーを逆手で抜いた。
腰を抑えながら起き上がる龍騎。
「バカ、これが遊んでるように見えんのかよ。」
「煩い、いいか、もうさっきのカードはネタ切れだ。」
「どうすんだよ、」
「どちらかが攻撃された時必ずヤツの姿は止まる、」
こいつスゲー、オレはいっぱいいっぱいなのに、
真司は蓮という男の何事にも動じない姿に唖然とした。
「ガードベントを構えろ、ガルド系のインターバルはそろそろだぞ!」
「お、おお」
『ガードベント』
ドラグシールド、パーマネント、AP2、蛇腹状の赤いシールド。
『ストライクベント』
ドラグクロー、パーマネント、AP2、左腕に装着される龍頭そのものの形状をしたグローブ。インスタントとして使用するとAP2+クリティカルの火弾を吐く。
「おまえはいいのか蓮、ほとんど武器がないぞ。」
『ファイナルベント』
「キャンセル、」
再び同時召還されるウィングランサーとウィングウォール、
飛翔斬、インスタント、AP5、ナイト最強の技であり、なおかつ途中キャンセルをする事でソードベント、ガードベントをパーマネントとして召還する事ができる。
「こいつ召還が異様に速い、速さで押すデッキなのか」小声で龍騎には聞こえない。「自分の心配をしろキド」
「なんだよこいつ」
まるで余計な迷惑でもかけたみたいじゃないか、そんなにオレがキライか、
龍騎はそんな想いを抱きながらキョロキョロと辺りを見回した。
「バカか。どこを見ている、」
「なんだよ、クーチャー探してるのが悪いのかよ。」
「だからバカなんだバカ、いいかヤツはオレ達のいずれ、」
突如ナイトの首に出現する帷子状のムチ、いやそう見えるだけ、実際は時を止めてムチを巻き付け拘束した。既に力強く絞め、ナイトは得物を地面に落す程に苦しんでいる。ガルドストームは斧を振り上げ、強引にナイトの体を引きつける。
「蓮!」
「いまだ、ヤツの動きが止まっている!」
「そうか!」
咄嗟にドラグクローを敵に向ける龍騎、ドラグクローの裂けた口が開いて火弾が発射、
クェェェェ
千切れ飛ぶムチ、倒れるナイト、炎が一気に爆発しガルドストームの肉体が消失した。
「なんなんだこの破壊力は、召還カウントは間違いなくシザースのハサミ程度・・・しかし、」
その爆発は至近にいたナイトのマントを消失させる程。
「イエぃ!」
ガッツポーズを取る龍騎だった。
「礼は言わんぞ、お互い様だからな。あれはおまえの報酬だ。借りを作るつもりはない。受け取るがいい。」
ナイトが指差す上空には、光輝く珠。既にガルドサンダーの珠はダークウィングが捕獲し、ガルドストームの珠が浮かんでいる。
「オレ、ライダーはもう、やりたくないんだ、」
俯くだけの龍騎、
「ならダークウィングが貰う。キサマはそうやって自分の契約クリーチャーの腹を減らして、自ら食われるがいい。」
「食われる、死ぬって事か・・・・」
ダークウィングとドラグレッダーが上空に登ろうとする珠を挟んで対峙する。
「優衣に甘えるだけのキサマにはお似合いの最後だ。」
「死ぬのは・・・・オレ死ぬのイヤだ!」
ダークウィングから強引に珠を奪い取るドラグレッダー。正直で素直な男それが城戸真司だった。
「死ぬのはイヤか、誰だって、恵理だってイヤだ・・・・戦え!」
振り上げるウィングランサー、
「なんだよ!」
飛ばされる龍騎、
「結局やっている事は北岡と同類か、オレは、」小声で語りながらナイトは龍騎に刃を向けた。「ライダーだろキサマ、戦え!」
「オレ、イヤだ、もう、それだけは絶対!」
シールドを構える龍騎、既にグローブは手に無い。
「ならなぜライダーになった!」
ウィングランサーを思い切り薙ぐ、AP2の攻撃をGP2のドラグシールドで受ける、同時に消失。
「ただ、優衣ちゃんを助けたかっただけだ!」
龍騎はしゃがみ込んで、両手で頭を覆っている。
「優衣を?ドラグレッダー?そうか、あの時か、」
あの神崎士郎がそんな生易しい望みで、こんな男を選んだのか、有り得ん、
そうか、
契約はあの時、ナイトがシザースを始末したあの時、だから優衣は無事だった、神崎は妹を助ける為にこの程度のヤツにデッキを渡さざるを得なかった、
「おまえ、さっきからオレを助けたり殺そうとしたり、いったいなんなんだよっ!」
確かにオレは何をやっている、
「そんな理由は、キサマを殺してから考える!」
ダークバイザーを抜くナイト、左腕、握りは逆手、
「冗談じゃねえ!」
龍騎、身の危険がピークに達し攻撃に出る、デッキからカードを抜く、
「キサマは甘い、」
逆手に取りダークバイザーで弧を描いて打ち付ける、龍騎にダメージを負わせる為ではない、狙いは龍騎左手甲、龍の頭を象ったドラグバイザー。既にカードが装填され、後はスライドさせるだけのドラグバイザーへダークバイザーを差し込んで食い止める。
「なにやってんだおまえ、カード入れられねえじゃねえかぁ」
ナイトは剣を手にした場合、逆手に持ち替え-柄頭を引き-カードを抜き-装填-柄頭を押す、と5行程かかる。ライダー全体としてやや遅いカードベントを蓮は、最初から利き腕の右から左へ持ち手を変え、しかも絶えず逆手で戦う訓練を積み、そして敵を妨害する戦法を練り出した。だがほとんどのライダーの場合、この戦法はあまり意味が無い。自身のバイザーも攻撃に使う為カードベントする事が不可能となるからである。戦いはただ停滞をするのみ。だがナイトのバイザーは違う。
「バカかキサマ、俺達は命のやり取りをしている、お互いカードを出し合うトランプじゃない。」
「バカって言ったな」
「バカはバカだ」
「オレゃバカじゃねえぞ、躊躇って漢字書けるんだぞ!」
「小学生の自慢か!」
「おまえ書けんのかよ!」
「・・・・・黙れ!」
柄頭を引きバイザーを開くナイト、
龍騎のバイザーを剣先で抑え、逆手に持つ事で、自分だけカードベントが可能になる。これがライアのような盾ならば、抑えつけた時の互いに腕のストロークの範囲にいる事になり空いた敵の腕より攻撃を受ける事になる。ナイトは剣、龍騎の空いた右拳は届かない。
「ズッケー!躊躇が書けないくせに!」
「書けない訳ではない!」
今度調べておこうと本気で考える蓮だった。考えつつもカードを取り出すナイト。
「死にたくねえ!」
その時龍騎は意外な手に打って出る。右腕で自身の左腕を握り両腕の力でナイトの剣先を押し返した。
「なに、きさま」
ナイトも反射的に両手持ちに切り替える。カードも落してしまった。
「おまえなんかに殺されてたまるかよ!」
「キサマバカか、これでは互いに何もできんじゃないか!」
互いにリキみながらにらみ合う、真の意味で停滞の状態に突入していく。
「オレはもう殺し合いなんかしねえ・・・」
「ライダーは殺し合うものだ、その程度の覚悟も無いのか・・・・」
「言う事為す事全部バカにしやがって、イヤなヤツだな、おまえ、いいかよく聞け、今はおまえも想像できないだろうが、人殺しになるんだぞ、ライダー同士戦うって、どっちかが勝つって事は。オレは、人を殺したんだ!誰かよくわかんねえライダーをやっちまったんだ!」
「その程度か・・・」
その程度・・・・真司は絶句して両腕が僅かに緩んだ。
「なんなんだよ、その程度って、」
龍騎を体ごと押し返すナイト、
「1ヶ月もなにをメソメソしていたのか思えば。ライダーとして生きていくという事は、願いを叶えるという事は、屍を築いてその上を踏み越えていくという事だ。そんな事当たり前だろ!」
最低だ、なんて最低なヤツなんだ、
真司は蓮の言葉の重みを知らない。ただ両掌と尻餅をアスファルトについた。しかし既にナイトのバイザーにカードが装填されているのを見て取った龍騎は跳ね起きた。
「くそぁ、オレもバイザーだぁ!」
龍騎が左腕で殴りにかかる。寸前、ナイトはバイザーを閉じる。
「遅い」
『トリックベント』
龍騎の左拳は、ナイトのナックルガード正面で受け止められる。龍騎の手首関節がグキと鳴った。
「ぉぁっっっテテテ、なんでオレの方が痛えんだよ、」
左手を掴んでもんどり打ってアスファルトを転がる。左の指がグリップとナックルガードに挟まり、骨が軋んで神経が悲鳴を上げ痙攣を起す。血液の流れが過敏に痛覚を刺激する。
「バカが、ナックルをもっと握り込まんからだ。」
「そ、そうなんだ・・・・なんでグリップついてんだろってずっと分かんなかったんだけど、」
「素直に聞くヤツがあるか!」
いつのまにか全包囲で囲んでいるナイトの大軍団。
「おお、なんでステレオ、てか総員ツッコミ、
てかなんなんだ、蓮何人兄弟なんだよ、」
左から、右から、上から、斜めから、切りつけてくるナイト、
「しょせんキサマはその場凌ぎで仕方なしにライダーになったに過ぎん。それがよく分かった。キサマはそういう運命だったのだ!」
「ぐわぉぁっっっっ」
次々と剣を伐ち込まれ踊るように振り回される龍騎。倒され、辛うじて俯きに背を丸め、ベルトとバイザーは頑なに腹の内側にして守る。そこへ容赦なく打ちつけられるダークバイザー。スーツが破れ、肉が裂け、痛覚が反応し、足先から手先まで痺れ、頭に電気が走ったようにジンジンする。
「キサマは最初からライダーに向いてなかった。オレが引導を渡してやる、」
「イヤだ、おまえにだけは絶対負けねえ、」
『アドベント』
俯せでカードを発動、上空より遠吠えを上げながら舞い降りるドラグレッダー、
「これだ!」
だがしかしナイトの行動は真司の想像を越えた。上空40メートルに赤き龍が出現した途端、全ナイトが一斉に飛び上がった。
「なにを!」
立ち上がって見上げる龍騎。ナイトの狙いは龍騎ではない。龍騎に力を与えるドラグレッダーであった。ナイトの剣が次々と繰り出される。袈裟斬り、斜め両断、横薙ぎ、
「契約クリーチャーを前に出す事がどれほど恐ろしい事かキサマに教えてやるっ」
鬣が削られ、鱗が削がれ、髯が切断される、
グルルルロロロ、
「バカヤローっ、狙いはオレだろ!」
どこまでイヤなヤツなんだ、オレこんなイヤなヤツの隣に3ヶ月もいっしょだったのか、
はるか上空にあって無力の龍騎。
「前回はクリーチャーを先に始末しないで失敗した、」
ドラグレッダーがのたうって抵抗し、次々とアリのように纏わり付くナイトを風船を割るように消していく。既に4体にまで討ち減らされたナイトであったがしかし、大上段に構えた一体のナイトが龍の額にその刃を撃ちつけようとしていた。おそらくその一撃で全てが決まる。蓮の思惑通り、ライダーに向いてない者をライダーから引きずり下ろす事がこれで叶う。
だが真司がそうであるように、蓮は真司という男をまるで侮っていた。
『ファイナルベント』
大上段から一撃寸前、突如消失するドラグレッダー。
「よし、キャンセルだ」
龍騎、ファイナルベントを発動、ドラグレッダーは強制的に龍騎の近隣に転移、だが龍騎が跳躍し今のナイトに蹴撃をするには高度があり過ぎる。攻撃の為ではない、契約クリーチャーを守る為のキャンセル技であった。
「キサマ!」
目標を失って次々降下する4体のナイト、
「へへ、一回クリーチャーと戦った時、いっしょに使ってムダにしちゃったんだよねえ~」
腰に手をあて大威張りする龍騎。
「バカはバカな経験は豊富という事か、」
再び龍騎に同時攻撃を仕掛けるナイト。
「こんなヤツに負けねえ!」
逆手から左回しで剣を振るナイトに対して、今度はグリップをしっかり握って、一歩前へ、内懐へ入り込む龍騎。
左ストレート、割れるナイト、
「調子に乗るな!」
続くナイト2体、左薙ぎと右薙ぎで龍騎を両サイドから同時攻撃、
「ノってる時のオレは強いぜ!」
二つの刃を受け止めるドラグバイザー、龍の頭の額に当たる部分、
「ライア・・・」
ナイトはバイザーを盾として使うライダーをもう一人、覚えている。
「おまえのバイザー、スッゲーてこずったけどさ、オレのバイザーだって、スゴイんだぜ。」
制止したナイト2体に大股を開いて飛び上がり同時にキックを見舞う龍騎。やはり割れるナイト2体。
「くそ、」
慌ててバイザーを開こうとするナイト、だが柄頭がビクとも動かない。
さっきの衝撃で、
ナイトは引き攣った。トリック発動寸前、バイザーに撃ち込んだ龍騎のパンチがバイザーを故障させてしまっていた。
「くそが、」
即座に右順手に持ち替えて先制に出るナイト、こうなれば狙いはデッキ外ししかない。
「オレ決めた、ライダーを続ける、」
カードを抜く龍騎、バイザーを手の甲で弾いて装填、
「なんとぉぉぉ」
だが折り返す前にナイトがベルト目掛けて突き込みに来る、
「そして、」
ナイトの刃が届く寸前、ドラグバイザーを斜めアッパー、龍の額で弾く、弾いた反動でバイザーが閉まる。
『ソードベント』
天に光る点が、徐々に降下してくる、それはドラグセイバー。
「きさま、」
その時ナイトは飛翔してドラグセイバーを弾く以外勝機は無かっただろう、
「とお」
しかし先に飛翔したのは龍騎、飛翔し回転するセイバーを宙で掴む。
「キド、シンジ、」
迂闊にも呆然としたナイト。直覚的に悟った敗北、
「オレは!」
一刀両断、
天空より上段で振り下ろされるドラグセイバー、横一文字に構えるダークバイザー、セイバーの刃がバイザーの刃を折る、頭から胸元まで一直線に撃ちつけられるセイバー、
「城戸真司・・・か、」
アスファルトに大の字で叩きつけられたナイト。そのナイトの首筋にセイバーをアテる龍騎だった。
「オレは!ライダーを続ける、守る為に、みんなを守る為に、ライダーも、みんな、命を落させたりしない、」
「殺せ!オレを殺して、命を得ればいい。」
ナイトが見上げる龍騎は、夜のネオンが逆光になって巨大な影をつくり、その大きな両目だけが紅く光っていた。
「イヤだ、おまえも口でなんと言おうと、いざ殺しちまえばオレと同じ気持ちになるはずだ、オレは、絶対、オレと同じ思いをさせたりしない、どんなヤツでも、たとえおまえのようなスッゲーイヤなヤツでもだ!」
こいつは、バカ過ぎる、
二人のディスコミュニケーションはまだはじまったばかりである。
『ファイナルベント』
突如何処からともなく鳴り響く肉声。龍騎もナイトも既に使ってしまっているカード。第三のライダーは、二人が戦っている小さな路地の歌舞伎町側の突き当たり、デート喫茶の前で堂々と銃を構えて立ち尽くしている。
「感動したよ。思わず涙が出てしまった。あまりにも失笑してね。」
銃を武器とするライダーは全ライダー中ただ一人しかいない。マスクド・ライダー7号ゾルダしか。ゾルダの前面には既にマグナギガが地の底から浮かんで直立している。
「北岡!」
頭をフラつかせながら骨が軋む程無理に上体を起き上がらせるナイト。
「え、あれあの弁護士なのか、そんなヤツもライダーやってんのか。」
『ガードベント』
龍騎は、何がなんだかよく分からないが、ともかくも最後のカードを召還した。そんな経験は無いはずなのだが、ファイナルベントを防ぐ方法をなんとはなしに知っていた。
全弾発射、
「ガードしてもムダだよ」
ミサイル、機関砲、レーザー、あらゆる種類の銃撃が、通路左右の建造物全てをえぐり取り、雨あられの数と密度で2名のライダーへ降り懸かる。
「北岡ぁぁ」
左手で頭を覆う事くらいしかできないナイト。
「オレはシナナイ!」
そのナイトの前面に盾を手に立つ龍騎。だが龍騎の骨が軋む程耐える衝撃は、容赦無く龍騎とナイトを呑み込み、削り取られた直立型の建築物は、その細い通路に向かって次々と倒壊、倒壊の衝突でビルが砕け、通路に巨大な瓦礫を降らせる。
「さらばだ、厄介な敵、秋山蓮、どちらにしても、終わりだ。」
右隣に停めたライドシューター。ゾルダは2名のライダーの死も確認せず搭乗する。
「シナナイってんだ!」
粉塵霞む瓦礫の中、ゾルダに向かって一直線、一つの影が青竜刀を片手に突撃してくる。龍騎だ。
「意外だな。てっきりヤツが来るものと思っていたが、」
既にギガアーマーを準備していたゾルダ。衝突するAP2とGP3、ドラグセイバーのみが消失する。
「お、お、お、お、シビ、れた・・・」
盾に弾かれた衝撃で、全身を痺れさせガニ股で立ち尽くす龍騎。
「おまえ、城戸真司か。全くどこまでボク中心に仕組まれてるんだ、」
突如変身解除する龍騎、ゾルダに素顔を晒す真司。
「な、なんで、」
カードを使い尽くしたスーツは、自動的に除装される。
「おまえが龍騎だったとはな。しかしベルデがおまえを龍騎だと知ったら・・・、いやそうか、知っているのか。そういう事か。小物の考えだな坊やが。」
一人で納得するゾルダに、除装されてなおガニ股のままゾルダに歩み寄ろうとする真司。
「あ、アンタ、北岡弁護士なのか、アンタもライダーやってんのか、ちゅうか、ベルデって、あいつの事知ってんのか。」
真司は、自分が殺したサイのようなライダーが仮面内側のモニタで、ベルデと表示されていた事を覚えていた。
「ああオレは今全てのライダーの事を詳細に知っている。」と先程真司の事を何も知らなかったくせに堂々と言い放つ男だった。「たとえばおまえが戦ったベルデ、あいつはおまえの顔見知りだ。昨日にも顔を見たんじゃないかな。」
「は、ま、マテよ、オレ、ベルデってヤツを殺した、殺したはずだぁ!」
「残念だったな。正体はマナーとして言わないでおくが、オレはヤツと10日前に携帯で話したばかりだよ。」
放心する真司。そんな真司を余所にライドシューターを走らせ、ミラーワールドを脱出していく。
「良かった・・・・・殺してねえんじゃん・・・・・良かった・・・・ホント良かった・・・・・」
膝を折り、地面に両掌を着いて四つんばいになる真司。
「ヤツは、北岡は逃げたのか。」
蓮もまた変身を解いて項垂れる真司と並ぶ。ただヨカッタヨカッタと連呼する異様な様子の真司を強引に揺り起こした。
「おい起きろ、北岡は何か言ってなかったか、あいつが手抜きをするはずがない。いったい、」
「オレ・・・・殺してねえんだ・・・・」
顔を泥だらけにして目を腫らして涙ぐむ真司のしわくちゃな顔を見て蓮は、バカバカしくなって襟首から手を放す。
「そうか、そういう事か、北岡め、意地が悪いヤツ・・・・おい城戸!バカ!」
バカと言われて正気を取り戻す真司、
「バカバカ言うなよこいつ、」
「ここに閉じ込められた、」
「なに言ってんだおまえ、」
「ミラーワールドは、何人たりとも入ったところからしか出る事ができない。見てみろ、完全に破壊されている。ヤツは、最悪閉じ込める事を想定していたんだ。」
「もう、一生、オレ達は、あっちに還れないって事か・・・・・」
真司達の視界には廃墟と化した新宿の裏路地が見えるだけだった。