帝国の旗を掲げよ   作:ドイツ軍ファルマート大陸軍集団

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閑話休題:騎士団国史・前編

 

ベルリン市内

 

ドイツ軍の先遣部隊が門の奥へと突入してから約1週間後

 

多くの軍用車が車列を成し、門の向こうへと進んで行く光景はすっかりベルリンの日常風景と化しており、市民は軍用車の車列や物々しい警備をするドイツ軍野戦憲兵隊やSSの姿に対して、もはや気にも止めて居らず、魔法が存在するファンタジーな異世界とベルリンが繋がると言う異常な現象がいまだに続いてはいるものの、ドイツは今日も平和であった。

 

そしてそんな平和な日が続いていたある日、スレイプニル旅団のミュラー大佐はリィズからの招待で、軍用車に揺られながら、在独ヴィザンツィア騎士団国大使館が置かれる、ベルビュー宮殿へと向かっていた。

 

「…」

 

「どうかしましたか大佐?」

 

そんな中、車に揺られながら、窓の外のウンターデンリンデン通りを何やら意味ありげに見つめるミュラー大佐に、副官のアルフレッド中尉がそう聞いた

 

「うん…いやな、異世界に繋がる門が現れた時の事を思い出していてな…あの時はどうなるかと思ったが、すっかり平和になったな」

 

「確かに…噂では、近いうちにヴィザンツィア騎士団国への観光を目的とした出入国も解禁するかもとの話も出ているらしいですよ」

 

「詳しいな」

 

「いや何、自分には外務省に知り合いがいますので、そこから聞きました。とは言っても、今だに構想だけで、実行はもう少し先らしいですが…」

 

「なるほどな」

 

ヴィザンツィア騎士団国とドイツ…

 

平和的に接触し、正式に同盟を結んだ両国の友好と交流は日に日に盛んになっており、近い内に両国間で人材の交流や留学生受け入れだけでなく、観光客誘致まで話が進んでいる。

 

そしてその布石として…

 

「観光客といえば…大佐、今日のニュースは見ましたか?」

 

「ベルリン動物園に寄贈された、ファルマート世界の動物を観るために人が押し寄せていることか?テレビでもやっていた、混雑で入場制限がかけられているらしいな」

 

「えぇ、でも見る価値はあるみたいですよ。なんせ、ドラゴンだけでなくユニコーンやバジリスクなどの、お伽話に出ていた動物が寄贈されたとの事ですからね」

 

今から五日前、ヴィザンツィア騎士団国は、ドラゴンやヴァジリスク、ペガサスやユニコーンなどのファルマート大陸…ひいては異世界にしか存在しない生物を友好の証として、ドイツへと寄贈していた。

 

今から三日前の、一般公開前日には、まずはヒトラーを含めた党幹部、そしてヒトラーユーゲントの青少年達が視察という名目で観覧し、その光景はテレビを通じて国中へ流された。

 

そして次の日の一般公開の日には、多くの人々がベルリン動物園へと押し寄せて大混雑になり、入場制限が設けられる事態になった。

 

そして公開日から一夜明けた今でも、客足は途絶える事はない様子であった。

 

「動物だけではない。最近では魔法技術の研究も力がいられているらしい…特に親衛隊では、組織一丸で研究に励んでいるとのことだ」

 

「その話は自分も知っております。オカルト好きとして有名な、SS長官のヒムラー閣下殿は、例のヴィザツィア騎士団国から移住して来た魔法使いを雇い入れる、いい空気を吸って嬉々として研究をバックアップしているらしいですな」

 

親衛隊は秘密主義の組織の為、正確に何がどうなっているか、一体何の研究をしているかは、正直の所分からない。

 

しかし、ミーミルを親衛隊に呼び込んでから、ヒムラーは日々を生き生きと過ごしており、最近ではヴェヴェルスブルク城に、魔法技術の研究を専門とした学校…つまり魔法大学を作る事を考えているなど、異世界に繋がる門が出現すると言うオカルト現象が起こってから、益々オカルトへの傾倒に拍車がかかっている様子であり、その様子はもはや軍や政府関係者にとっては周知の事であった。

 

「しかし、オカルトが現実になった以上…そのうち親衛隊の奴ら、自分達が信仰している、イルミン教なる変な宗教をドイツの国教にしようと本格的に動き出しそうだな…」

 

「バイエルン出身のカトリック教徒の自分としては、勘弁してほしいです」

 

「貴様の意見に同感だな…少なくとも、奴等の珍妙な考えにこちらを巻き込まないでもらいたいものだ…」

 

二人は、親衛隊のオカルト思想が勢いづいた後のドイツを想像し、頭が痛くなりそうだった。

 

するとそんな時、ふとミュラー大佐の目に、道端で花を売って居る花売りの姿が目に入った。

 

「中尉、ここで一旦止めろ」

 

するとすぐさまミュラー大佐はアルフレッド中尉に車を停めさせた。

 

「どうかなさいましたか、大佐?」

 

「いや何、手ぶらと言うの少し不粋ではと思ってね」

 

そして、アルフレッド中尉の質問にそう答えると、ミュラー大佐は車を降り、花を売って居た露店売り元へと向かった。

 

ベルビュー宮殿

 

ベルリンの西部、ミッテ地区に1786年に離宮として建築され、ナチス政権下では、ゲストハウスとして使われ、ソビエト連邦外相ヴャチェスラフ・モロトフがベルリンを訪れた際には、この宮殿を宿泊場所として使っていた。

 

現在は、在独ヴィザンツィア騎士団国大使館が置かれ、ドイツとヴィザンツィア騎士団国との、外交的橋渡しを行うこの宮殿には、多くの国防軍や親衛隊、政府幹部が、ヴィザンツィア騎士団国、ひいてはファルマート大陸に関する情報を得る為、出入りが行われていた。

 

そして今回、ミュラー大佐は在独大使としてこの宮殿に腰を落ち着かせる、リィズの招待でお茶に招かれていた。

 

他国の王族との茶会…本来であれば、軍人として名誉な事ではあるもの、互いに親交を深め合い、今ではミュラー大佐自身、今では彼女の事を姫ではなく、Fräuleinリィズと呼んでいる程仲を深めており、休日に彼女の好きなオペラやオーケストラの演奏を見に行くなど、すっかり仲の良い上司…いや、仲の良い友人の様な関係を築いて居る為、今回のお呼ばれに対しても宅へ行くような、そんな気分であった。

 

サロン室

 

「大佐…まだかな」

 

だが一方で、ミュラー大佐に好意を持っている…もっとざっくり言ってしまえば、ミュラー大佐に対して恋心を抱いているリィズは、今まで誘われるだけの方が多かった自分が、こうして初めて自分からミュラー大佐をお茶の席に招待した事で、いまだかつて無いほどに緊張していた。

 

更に今日は、アンネリーゼは訓練、ミアも休暇でベルリン市内へと観光に赴いて留守にしており、今回のお茶会はミュラー大佐と二人っきりである為、緊張は今までの比ではなかった。

 

すると

 

「失礼いたします。クラウス・ミュラー大佐が到着なさいました」

 

「はぁ、よし!通してあげて!」

 

大使館付きの従者が、緊張している様子のリィズにそう言うとリィズは息を吐き、覚悟を決めた様子でそう従者に述べた。

 

そして数分後

 

「やぁ、Fräulein。今回はわざわざのお招き感謝するよ」

 

オレンジ色の花束を持ち、空軍の制服に身を包んだ、ミュラー大佐が現れた。

 

「た、大佐、昨日は来てくれてありがとうございます」

 

「ふっ、こうかしこまらなくて良いFräulein」

 

緊張した様子のリィズを見て、ミュラー大佐は少し笑いながらそう言った。

 

「そうだ、良かったら…」

 

そして手に持って居た、オレンジ色の薔薇の花束をリィズに渡した。

 

「えっ、良いんですか?」

 

「構わん、たまたま大通りを通りかかった時に見つけた花だ」

 

「///…ありがとうございます」

 

そしてリィズは顔を赤くしながら、ミュラー大佐にそう言いオレンジ色のバラを受け取った。

 

それから数分後

 

「それにしても、こんな素敵な花をたまたま見つけられましたね、大佐」

 

「大通りを車で移動して居た時に偶々な…平和だと思って外を見て居たついな…本当に、7月30日のあの日に、戦争にならなくて良かったよ…」

 

ミュラー大佐は、7月30日のあの日と、車の窓から見えた今日の平和な光景を思い出しながらそう言った。

 

「そうですね…まぁ、我が国は情報を何より大事にして居ますから、未知の相手とは戦わないのが我が国のやり方ですから…まぁ最も…ベルリンと繋がった先にあった国が帝国だったら…高い確率で戦争になって居たかも知れませんが…」

 

「帝国…確かFräuleinの世界…ファルマートの覇権国家だったな。帝国と言う国は、そんなにも好戦的なのか?」

 

「好戦的と言うよりも増長して居ると言った方が正しいですね…あの国と繋がって居たら、奴等は碌な調査もせず、この国に攻め込んできて居たかも知れませんね…」

 

ファルマート大陸の覇権国家であり、リィズの祖国であるヴィザンツィア騎士団国最大の仮想敵国である帝国…

 

増長し堕落し、そして停滞した国であるあの国ならば、ドイツと門を介してか繋がった際、碌な調査も行わずベルリンへ攻めこんでいたかも知れないと、リィズは思った。

 

「もしそうなったら、どうなって居たでしょうかね?」

 

そしてリィズは、興味本位でそうミュラー大佐に聞いた。

 

すると

 

「ドイツ軍人として言わせてもらうが、そうなって居た時は、徹底的に戦って居ただろうな…そして講和などせず、帝国と言う国を我が国の砲撃と戦車の横隊で踏み潰し、街は空軍の爆撃で徹底的に破壊し、帝国と言う国は戦後存在すら許さない…そんな事になって居たな」

 

ミュラー大佐は、軍人らしい鋭い目つきになると、穏やかだが断固とした態度でそう答えた。

 

「ははは…恐ろしいですね」

 

リィズは笑いながらそう言って居たが、もしもそうなって居たらと考えると、ファルマート大陸はとんでもない事になって居ただろうと感じた

 

もしもあの時…ヴィザンツィア騎士団国ではなく、帝国とドイツが繋がり、そして戦争になって居たら…

 

おそらく、ベルリンの市民の多くは殺され、そして街の至る所で略奪が行われて居ただろう。

 

そんな事が行われたら、ミュラー大佐は軍人としてもドイツ人としても、絶対に帝国を赦すつもりはなく、そしてそれは他の軍人も同じ考えだろう。

 

攻め込んで来た帝国兵はすぐに全滅され、生き残りがいてもSSの拷問で二度と故郷の地は踏めないだろう。

 

そして、報復の為ファルマートへ進撃したドイツ軍は、帝国と言う国家そのもの存在どころか、ファルマート世界にあるあらゆる国家や民族の存続を許さず、100万人の兵士と、数千の戦車や戦闘機、数百機の爆撃機で武装したドイツ軍により、ファルマート大陸のありとあらゆる国や都市は、報復として破壊され、そしてここに住む人々もSSにより抹殺される事は火を見るより明らかであろう。

 

そしてトドメと言わんばかりに、帝国の首都は見せしめとして、ドイツ軍の究極の兵器である、核ミサイルにより完全に破壊され、文字通り帝国は灰と共に消滅して居たかも知れないと。

 

「まぁ少なくとも…こうして同じテーブルを囲み、君とお茶を飲む事は無かったろうな…」

 

「そうですね。あの時慎重に行動したからこそ、我が国と大佐の国は友好関係を結び、こうしてお茶を飲んでいる…本当に運がよかったです」

 

「そうだな、Fräuleinの国は優秀な国だ」

 

血と破壊の渦に巻き込まれ、怨嗟と断末魔のアンサンブルが鳴り響く、ヘルヘイムがマシに思えるほどの地獄の様な世界になって居たかも知れない事を想像し、そしてそうならずこうして平和を享受している現実を改めて知り、少し安心した様な様子でリィズとミュラー大佐の二人はそう言い、お茶を飲んだ。

 

そして落ち着いた所で

 

「そう言えばミュラー大佐、コレ…」

 

リィズは一冊の本を、ミュラー大佐に手渡した。

 

「コレは…」

 

「大佐から預かりっぱなしでしたので」

 

その本とは、ドイツとヴィザンツィア騎士団国が接触してから間も無い頃に、ミュラー大佐から借りた、北欧神話の本であった。

 

「そう言えば借りっぱなしだったな…どうだった?」

 

「えぇ、とても面白かったです。話の世界が、私達が住んでいた世界と少し似て居るところ…そして…」

 

感想を聞かれたリィズはそこまで言うと紅茶を一口飲み、そして続けてこう言った。

 

「何より、北欧神話に登場する神々が、我がヴィザンツィア騎士団国の最盛期を築いた英雄や騎士団国総長と同じ名前であった事がとても面白かったです」

 

「なるほど…うん、待てよ…今なんて言った?」

 

リィズの口から出た聞き捨てならない程のとんでもない爆弾発言に思わずミュラー大佐は、困惑した様子でそう聞いた。

 

「えぇ、ですから…例えば北欧神話に出てくるこの主神オーディンなど、我がヴィザンツィア騎士団国最盛期を築いた総長、別名神に選ばれし総長と呼ばれたオーディン・フォン・コンスタンティヌスにそっくりですし、他にもこのブリュンヒルドを中心としたヴァルキュリヤの名前など、同じ時代に存在した41人の女性戦士と全く同じですし、それにこのロキと言う神も、我が国の歴史上、唯一亜人側に寝返った裏切り者と同じ名前…」

 

「ちょっと待て、少し心を落ち着かせてくれ」

 

そして続く説明にミュラー大佐は、ゲートが出現した時と同じくらいに動揺し、リィズの話を遮ると紅茶を飲み、心を落ち着かせて、話を整理し始めた。

 

(つまり何だ…ヴィザンツィア騎士団国には、北欧神話と同じ人物が存在…いや、もしかしたら…そんなバカな…)

 

ミュラー大佐がありえないと思った仮説…それは、北欧神話は存在して居て、ヴィザンツィア騎士団国の王の話であったのではないかと

 

(有り得なくもないな…騎士団国側からの資料によると、ゲートの向こうの世界に居る亜人の中には、メデューサや狼男などの神話や御伽噺の世界だと思って居た生き物も居て、一説によると世界中の神話や伝承で語られる生物が何かの拍子でこちらに来たからだという説が浮上して来て居る…もしかしたら…)

 

そこまで考えた時、ふとミュラー大佐はある事に気がついた。

 

(そう言えば…俺はヴィザンツィア騎士団国の事をあまり知らないな…)

 

そう、これほどまでに彼方の世界の人間と接して居るのに、考えてみれば、自分は向こうの世界…ヴィザンツィア騎士団国について詳しい事は知らないと言う事である。

 

ヴィザンツィア騎士団国

 

総人口は2611万で、帝国と呼ばれるファルマート大陸最大の大国の、人口約6000万人に比べると少ないが、帝国よりも優れた社会システムと大陸最強と言われるほどの優秀な諜報機関、そして思想的団結力を持つ、一枚岩と言う言葉が相応しい体制を有する国…

 

ヴィザンツィア語と呼ばれる、ドイツ語と同じ言語を公用語として居る。

 

ベルリンと繋がる未知の異世界に存在する、ファルマート大陸において、ドイツの唯一の同盟国。

 

反帝国と反亜人主義を国家のイデオロギーとしており、その為、国に住むすべての国民は、ヒト種であり亜人は一人もいない。

 

ミュラー大佐が知っている事はその程度であり、詳しい歴史などは何も知らないと自覚した。

 

(しかし、私も近いうちにヴィザンツィア騎士団国へと派遣される…ここは、騎士団国の歴史をもっと知っておく必要があるな…)

 

しかしミュラー大佐は近い内、自分たちの部隊も、ファルマート大陸へと派遣される事、そして何よりミュラー大佐は、空軍のヘリコプター部隊の指揮官であるだけでなく、実はドイツ国防軍情報本部…通称アプヴェーアにも所属し、秘密作戦を実行する、アプヴェーアの実働部隊の指揮官という顔も持って居る。

 

(このまま知らない…と言うわけには行かないな…)

 

そう思ったミュラー大佐は一口紅茶を飲み、一息ついたところでリィズにこう言った

 

「Fräulein…この機会だ、君の国の事を、教えてくれないか?」

 

「良いですけど…少し長くなりますよ」

 

「時間ならたっぷりある…聞かせてくれ、君の国のことを」

 

「分かりました…」

 

ミュラー大佐にそう言われたリィズはそう答えると、ティーポッドに入って居た紅茶を、自分とミュラー大佐のカップに注ぎ、そして一口飲み落ち着いた所で、かつて幼い頃、今は亡き母が語り聞かせてくれた時と同じ様に、リィズは語り出した

 

「それははるか昔…今からちょうど995年前…」

 

ヴィザンツィア騎士団国の詳しい歴史を…

 

自分の国の建国史

 

そして今から約500年前の、ヴィザンツィア騎士団国最盛期を実現した、神に選ばれた騎士団総長である、オーディン・フォン・コンスタンティヌス神総長の伝説を…

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