鴉と人形   作:ダイヤモンド傭兵

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 人は光を求めます。
 しかし、他者の光が許せない者も、いたりするものです。




第89話 太陽

 1つの部屋の前に、翔は立っていた。

 

 そして、ノックをしてから部屋に入る。

 

 直後に1発の弾丸が翔の顔のすぐ横を通るが、翔は構わずに進んだ。

 

 

 

 翔の前にいたのは、ネイト達からお父様と呼ばれている、ウィリアム(ビル)だった。

 

 彼はブロンドの短髪に金縁のサングラスをし、黒のラペルドベストと薄紫のシャツを着て、黒のズボンと靴を履いていた。

「ようやく、面と向かって会えたね」

 

 翔は安堵から来る微笑みを浮かべたが、ビルはリボルバーの銃口を翔に向けていた。

 その眼は、翔を睨み付けていた。

 

「出ていけ・・・僕は君が嫌いだし、会わせる顔も無い。だから、出ていけ!」

 

 翔はビルに歩み寄る。

 

「アヴェルヌスに入る前に言ったように、僕は君の話を聞かなきゃいけないんだ」

 

 ビルには、翔の微笑みが愛海の微笑みと重なって見え、眼を反らして銃口を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ビルの本名は『バラド・フォン・オーベルシュタイン』。

 そして、ルニシア(現在のM4)の実の弟であり、ビルの名はルニシアが彼への愛称で読んでいた名である。

 

 2人の父は『ルドルフ』。

 オーベルシュタイン家の7代目当主であり、現在はベルリン政府の工業情報省大臣兼国務委員会副主席でもある。

 

 ルドルフは冷酷で、なおかつ無機質な対応を取る人間であり、そして子供である2人には厳しかった。

 2人の母はというと、当時はまだ単なる宗教団体だったパラデウスにのめり込んでいた。

 

 故に、ビルとルニシアは息苦しさを感じていた。

 2人の世話をするメイドはそれを感じていたのか、時折教育やパラデウスとは関係無い本を持ってきてくれていた。

 

 ビルはルニシアに憧れを抱き、いつもついて回っていた。

 

 だが、それでも2人の環境は良いものではなかった。

 豪邸に住み、高級な食事や服、教育を与えられても、家から出られない故に、幼い2人は外の世界を知らなかった。

 

 しかし、ある日転機が舞い込んできた。

 

 ルドルフが一時的に、新たな家庭教師を2人に付けたのだ。

 期間は1ヶ月、分野は"外"に関してだった。

 

 ルドルフは外にあるものをある程度知っておくために、その家庭教師を連れてきた。

 その家庭教師こそが・・・

 

 

 

「初めまして。私は神城 愛海、よろしくね!」

 

 栗色のロングヘアで、袖が赤い白いシャツと黒のストレートパンツを着て、赤いシューズを履いていた。

 

 それが、彼女との出会いだった。

 

 

 

 愛海は外の世界について様々な事を教えてくれた。

 ルドルフから教えるよう言われた事だけではない。様々な知識を、楽しく教えてくれた。

 

「蟻はこんなに小さいのに、自分の何倍も大きな物を運ぶことができるの。それに・・・」

 

 ビルとルニシアは、様々な話に眼を輝かせていた。

 

 動植物の種類と魅力、様々な環境とその原理、各国の歴史と文化、人の作った芸術品や機械など、外の世界を知らない2人にとって、聞いているだけで冒険したような気分になれた。

 

 見飽きた家、見飽きた庭。

 全てが新しく、輝いて見えた。

 

 だが、それは母親にとっては目障りだった。

 ビルは母親のその思いを、うっすらと感じ取っていた。

 

 母親は愛海に対し、徐々に口出しをするようになっていった。

 知的な言い方だが、内容は屁理屈とも取れるものが多かった。

 

 しかし愛海はその冷たさに対し、キャッチボールをするかのように優しく暖かさで答えた。

 

 その明るさと優しさに、母親は次第に苛立ちを感じ始めていった。

 愛海は太陽のように明るく、暖かく、母親の冷たさの全てが無意味だった。

 

 

 

 ビルにとっても、ルニシアにとっても、愛海は正に太陽のような存在になっていき、2人の心はパラデウスから離れていった。

 

 

 

 そう思っていたある日、更なる転機が訪れる。

 それは、家庭教師としての契約が残り3日となった日の事だった。

 

「ねぇ・・・明日か明後日、お出掛けしてみない?」

 

 その日の授業が終わった後、愛海が聞いてきた。

 メイドは血相を変えたが、ビルとルニシアは眼を輝かせていた。

 

「あ、愛海様、外出は、その・・・」

 

 メイドは、2人を外へ出せない理由を言い出せずにいた。

 母親が2人にパラデウスの教義を教え込むため、出さずにいる事を・・・

 

 しかし、メイドの心は揺らいでいた。

 2人の事を考えるなら、外の世界を知って欲しい。

 だが2人の母親の事を考えればそれはできず、自分の立場すら危うくなるのだから。

 

 

 

 

 

 そしてその日の夜、事件は起きた。

 

 母親は、外出を許さない事と愛海を解雇する事をビルとルニシアに話した。

 しかしやはり、2人は反対した。

 

「どうして!?愛海さんは何も悪くないじゃないか!?」

 

「そうよ!どうして愛海さんを追い出すの?」

 

 母親の苛立ちは、限界を迎えつつあった。

 

「あの人はあなた達の教育係として、相応しくありません。あのような人間は、あなた達の心に悪影響を及ぼし、パラデウスの教義にも反します」

 

 しかし、そんな母親に2人は怒りを爆発させた。

 真っ先に声を上げたのは、ルニシアだった。

 

「どこが悪影響なの!?愛海さんはちゃんと勉強教えてくれて、しかも沢山の事を教えてくれて、1度だって嘘をついた事なんて無い!」

 

 ビルも声を上げた。

 

「そうだよ!教えてくれた事はどれも事実だし、憶測を混ぜた事も無い!それに、パラデウスの教義とは何も関係無いじゃないか!」

 

 すると、母親の顔は憤怒に染まった。

 だがそのタイミングで、部屋の扉がノックされた。

 

「どうしたの?何かあったの?」

 

 たまたま通りかかった愛海が、大きな声を聞いて確認しに来たのだ。

 大きな声、といってもくぐもった音としか聞こえないようになっているが、愛海には気になってしまっていた。

 

 すると母親が立ち上がり、部屋の扉を開けた。

 ビルとルニシアは母親が何を言うか、気が気でなかった。

 しかし母親は、2人の予想外の行動を取った。

 

「どうしたんです?2人は・・・」

 

 愛海が聞き終わる前に、母親は手を上げて愛海の顔を平手打ちしようとした。

 しかし、愛海は瞬時に母親の手首を掴み、そっと手を下ろさせた。

 

「・・・子供達の前で、そんな事はやめてください」

 

 優しく、諭すような声色と表情で愛海は言った。

 母親の表情は、ビルとルニシアからは見えなかったが、その肩が震えているのが分かった。

 

 母親は、敗北した。

 ビルとルニシアは、そう悟った。

 

 

 

 

 

 外の世界は、ビルとルニシアにとって輝きに満ちており、家にいるよりも学べる事が豊富にあった。

 

 あの時、街中のキッチンカーで売っていたクレープを3人で食べたが、ビルはあの時の味が未だに忘れられないでいる。

 

 あの日の外出はまるで、冒険のような気分だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 愛海が家庭教師を務める期間が終わり、しばらくして戦争に巻き込まれた。

 

 家族は離ればなれになり、ビルとルニシアも離ればなってしまった。

 家を失い、両親ともはぐれてしまったビルだったが、ロイラの部隊に保護された。

 

 父親の元に戻れたビルだったが、そこでルニシアが殺された事を知った。

 

 1人で生き延びていたルニシアが、クルーガーの部隊に保護される直前、クルーガーの目の前で撃たれたとの報告だった。

 

 そして父親であるルドルフが、葬式もせず捨てるように処理した事も。

 

 

 

 その日の絶望から年月は経ち、ビルは様々な知識を身につけ、天才と呼ばれるまでに成長した。

 しかし、ルニシアの事が頭から離れず、荒んでいった。

 

 そんなある日の事である。

 ビルに会わせたい人がいると、リコリスから連絡があった。

 

 指定された料理店の個室にいたのは、愛海だった。

 ビルが成長した分歳を取っていたが、あの時の明るさは変わらなかった!

 

「ビル君?ビル君よね?久しぶり!」

 

 愛海はビルに駆け寄り、成長したビルを観察してきた。

 意外な再開に、ビルは固まっていたが、ルニシアの話になると、愛海の前だからか涙が溢れた。

 

 しかし、愛海から聞かされたのは衝撃的な話だった。

 

 ルニシアが、ペルシカによって密かに機械に意識と記憶を移して延命している事、そして場所を知られぬようビルにも言えないこと、そして・・・

 

「世界の危機に備えて、あなたの力を狩りたいの」

 

 愛海から聞かされた、七刀会の話。

 ビルには願ってもない話だった。

 

 ルニシアを守れて、愛海の役にも立てて、様々な研究を進められる・・・

 一石二鳥どころか、一石三鳥である。

 

 

 

 

 

 ハーヴェルとペルシカは、銃をメインとした戦術人形の開発しつつ、ルニシアの事を隠していた。

 クルーガーはその戦術人形を活用した戦術開発。

 

 ロイラとリコリスは攻撃に特化した兵器の開発。

 

 武龍は戦車や軍艦、防衛力や火力を重視した兵器の開発。

 

 ロドンは特殊な兵器や局地戦、災害時を想定した兵器の開発。

 

 リサはライフラインやエネルギー兵器の開発を。

 

 そしてビルは、機械と人間の融合に関する開発をしつつ、事あるごとにペルシカに突っかかって険悪な関係を装っていた。

 

 こうして、当初は順調に進んでいたのだが・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雨が降るその日、ビルは愛海に呼ばれて会議をするはずだった。

 

 七刀会の事を悟られぬよう、他の企業の人間も交えての会議になる予定になっていた。

 だが・・・

 

 

 

 1発の銃声と共に、弾丸が愛海の左胸に当たった。

 続けて放たれた銃弾は、愛海の右胸の下と臍の上に当たった。

 

 

 

 愛海を出迎えに来ていたビルはすぐに駆け寄り、濡れるのも構わずに救命措置を行おうとした。

 周囲の者も何とかしようと駆け回り、救急車を手配していく。

 

 しかし、出血が激しかった。

 

「愛海さん!愛海さん!」

 

 必死に声をかけるが、愛海の目は虚ろだった。

 すると、愛海は震える手で空へと手を伸ばした。

 

「か、け・・・る・・・わた、し・・・」

 

 愛海の手が力無く倒れ、呼吸と心音が止まった。

 

「愛海さん・・・愛海さぁぁぁぁぁん!!!」

 

 




 読んでくださり、ありがとうございます!

 今回はビル(ウィリアム)の過去編でしたが、どうだったでしょうか?
 感想や高評価、お待ちしています!

●バラド・フォン・オーベルシュタイン
 ブロンドの短髪に金縁のサングラスをし、黒のラペルドベストと薄紫のシャツを着て、黒のズボンと靴を履いている。

 ウィリアムと呼ばれ、ルニシアからはビルと呼ばれている。

 冷酷だが姉であるルニシアに執着しており、ルニシアと愛海の事になると感情的になる。

 生物学、人形関連など様々な知識を身につけた天才であり、パラデウスのトップに君臨しており、過去には七刀会や90wishに所属していた。

●ルドルフ・フォン・オーベルシュタイン
 白髪のオールバックの髪の人物で、ルニシアとビルの父親。

 冷酷かつ無機質な性格であり、家にいる事は少なく、子供と過ごすことはほとんど無かった。

 オーベルシュタイン家の7代目当主であり、現在はベルリン政府の工業情報省大臣兼国務委員会副主席でもある。
 しかし、過去に権力掌握のために無差別テロを誘発し、それを揉み消していたりもする。

 本人なりに未来の事を考え、私欲のための行動はしていないものの、冷たすぎる面から恨む者は多い。

●ルニシアとビルの母親
 ルドルフの妻であり、ルニシアとビルの母親だが、当時からあったパラデウスにのめり込んでいた。
 しかし、ルニシアと逃げる途中ではぐれ、合流する前に死亡した。
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