鴉と人形   作:ダイヤモンド傭兵

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 22-4、フェーズ・・・
 さぁ、手を届ばし、何度でも翔びなさい。




第90話 掴んだ最後の一欠片

 推奨BGM『Connexion』

 

 

 

 愛海が殺されてから、ビルは何かが切れた。

 

 

 

 狂ったように愛海を殺した犯人を探し、七刀会の他のメンバーの手もあって犯人は見つかった。

 

 犯人はロクサット連合の人間であり、愛海の殺害はロクサット連合からの命令であった・・・と思われたが、命令書があるだけだった。

 

 犯人とされた人物は、ロクサット連合所属だったものの、愛海が殺害される3日前に死んでいた。

 

 だが、ロクサット連合はそれを隠しており、愛海の死を喜ぶ者すらいた。

 

 それを知ったロイラは、その瞬間からロクサット連合を潰そうとした。

 しかし、クルーガーとリサがそれを止めた。

 

 ロクサット連合の規模を考えれば、今手を出すのは悪手である。

 しかし、ビルは他とは違った。

 

 

 

 七刀会を抜け、パラデウスのトップを殺して成り代わり、パラデウスの資金を使ってネイトの開発を進めていった。

 迷わず非人道的な事に手を染め、多くの人を犠牲にしていった。

 

 愛海を殺したのはあの犯人だけではない。

 その背後にいたロクサット連合が本体である。

 

 だが理由はそれだけではなかった。

 

 七刀会のままでは、おそらくロクサット連合は倒せない。

 七刀会には、"力"が必要である。

 そして、後に現れる強者が力を持つためにも・・・

 

 

 

 自分が、悪になれば良い──

 

 

 

 簡単な事だった。

 自らが悪になれば、強者は育ち、ロクサット連合にも取り入りやすくなる。

 そうすれば、ロクサット連合を中から壊せる。

 

 ビルの心の中は清々しかった。

 だが同時に、姉であるルニシアに執着するようにもなっていった。

 

 心のどこかで、その執着に気付いていた。

 心のどこかで、もうやめろと叫ぶのに気付いていた。

 心のどこかで、泣いているのにも気付いていた。

 

 しかし、止まる必要は無いと迷わず突き進んだ。

 

 自分が死ぬその瞬間まで、悪を貫いてやろう。

 徹底して悪を貫き、世界を引っ掻き回そう。

 そして最期に、"ヒーロー"に無様に殺されよう。

 

 

 

 それが、泣き虫なビルが選んだ、"戦争"だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現在──

 

 そこまで話したビルの目から、1滴の涙が頬を伝った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナインボール、拠点。

 新設された出撃ドッグにて──

 

 

 1人の戦術人形が、カタパルトに脚を接続した。

 赤色灯に照らされたのは・・・

 

 先鋭的なフォルムで、黒く、一部金色の部位がある装甲だった。

 服は黒いトレンチコートだが、スカート部分は短くなっている。

 

 右手に持つライフルは狙撃を意識し、左手に持つ銃は先鋭的なフォルムで、右背部には折り畳まれた大型砲が装備されており、両肩には菱形に近い装置が取り付けられていた。

 

 

 

《『VOB』はまだ調整段階だ。危なくなったら躊躇わずパージしろよ》

 

 無線からはクラフターの声がする。

 しかし、工廠にも指令室にも、ガレージにもクラフターの姿はない。

 

《クラフター、あなたもですよ。開発者とはいえ危険な事に変わりはありませんから》

 

 そう、指令室にいるジェリコからの通信が入る。

 ジェリコが見るモニターには、出撃シークエンスに入っている3人の名前が移っている。

 

 そこには、クラフターとテンペスタの名前があった。

 

《久々の出撃だ、楽しく行こうじゃないか》

 

 テンペスタは待ちきれない様子で風を吹かし、髪や服の袖やスカートを浮かせている。

 

 テンペスタの服は再び新調されており、袖は手が隠れる程に長くなり、袖やスカートにはフリルが数多く付けられていた。

 

 

 

 そして、黒い戦術人形は静かに深呼吸をし、自身が素体を得ている事を実感しながらほくそ笑む。

 

 すると、後方から巨大な装置が吊るされながらスライドし、黒い戦術人形の背部に接続された。

 その装置は、巨大なブースターに小型のブースターを大量に付けたものだった。

 

 そして、カタパルトに進路を告げるランプが付いていき、出撃のブザーが鳴った。

 

「シュープリス、出る!」

 

《クラフター、出るよ!》

 

《テンペスタ、出る》

 

 カタパルトから射出された黒い戦術人形、シュープリスは背中の巨大ブースター、VOBによって異常なスピードで空を飛んでいった。

 

 そして、その傍らには同じくVOBを装備した小型の戦闘機らしきものもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翔に自らの事を話終えたビルは、涙を拭う事もなく拳を握り締めて翔を睨み付けた。

 

 その目には、深い怒りと憎悪が宿っていた。

 それは誰にも見せた事の無い、最も深い感情だった。

 

 

 

「愛海さんは・・・お前を待ってたんだぞ!ずっと!ずっと待ってたんだぞ!」

 

 ビルが1歩、翔に向けて踏み出す。

 

「愛海さんがお前の事を話している時、その時が1番幸せそうだった!どんなに苦しい状況でも、きっといつか会えると言いながら笑っていた!」

 

 また1歩、ビルは踏み出す。

 

「お前が戻ってきた時のために!愛海さんはずっと歩み続けてきた!お前が戻ってきた時、世界が平和であるようにと!」

 

 翔はビルを見据え、言葉の1つ1つを受け止め続けている。

 

「愛海さんの1番の原動力は、お前だったんだ!なのに、なのにお前はぁ!」

 

 ビルは翔の顔面を殴り、翔は頬で受け止めた。

 

 

 

 翔は強化人間であるため、骨格も強化されている。

 そのため、安易に殴れば逆に相手が怪我をしてしまう。

 だが、翔はビルの手へのダメージをできる限り少なくするため、翔は柔らかい頬で受け止めた。

 

 ビルの拳を、ビルの怒りを、受け止めるため。

 

 

 

「愛海さんは!ずっと待ってたんだぞ!ずっと、ずっと待ってたんだぞ!他でもない、お前をだ!」

 

 ビルは再び翔を殴り、3度目の拳を振り上げる。

 

「なのに、遅いんだよ!何もかも遅いのに、今さら戻ってきたと思ったら・・・お前は、お前はぁ!」

 

 その拳を翔は掌で受け止め、優しく包み込むように握った。

 ビルはハッとした。

 翔の顔は、優しくも決意に満ちた表情だったからだ。

 

「ごめんなさい、遅くなって・・・」

 

 翔の表情は、愛海にそっくりだった。

 ビルは殴ることをやめ、拳を下ろした。

 

「ありがとう、話してくれて・・・ありがとう、戦ってくれて・・・ありがとう、愛海のために怒ってくれて」

 

 暖かい風が、そっと2人の頬を撫でるように抜けていった。

 ビルの目からは涙が溢れ、ビルは崩れ落ちた。

 

「分かってる、分かってるよ・・・」

 

 翔はビルの横に座り、涙が止まるまで待っていた。

 

 

 

 ビルが落ち着いてくると、翔は口を開いた。

 

「ビル・・・もう一度七刀会と、そして今度は僕とも、一緒に戦ってくれないかな?」

 

 ビルは首を横に降った。

 

「それはできない・・・僕は、君達と歩むには・・・罪を重ね過ぎた・・・」

 

 翔はビルの前に移動し、手を握った。

 

「そう思うなら・・・罪を背負って、償って」

 

 顔を上げたビルの目が、翔の目と合った。

 翔の目は愛海と同じく、優しさに溢れた目をしていた。

 

「これは僕のエゴだけど・・・償いの一貫として、これまで人を傷つけてきた分、殺めてきた分、人を救って。そして戦いが終わったら、その時改めて裁かれよう」

 

 ただのエゴだ。

 翔自身がそれを分かっている。

 だが愛海の遺したものを、無駄にはできなかった。

 

 翔は立ち上がり、ビルに手を伸ばした。

 

「・・・立てる?」

 

 ビルには、翔が愛海に重なり、まるで太陽のように眩しかった。

 

 そして、ビルはその手を──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 激しい戦闘のあった場所で、目を開けた者がいた。

 

 それはアデリンだった。

 全身に包帯を巻かれ、服に血が染み着いている。

 痛みは全身にあり、動かせるのは首と右腕のみだった。

 

「お、気か付いたか」

 

 声がした方を向くと、トンプソンが座っていた。

 

「今のお前は重傷だ、動かず寝てろ」

 

 別の方を向くと、同じく全身に包帯を巻かれたサナがいた。

 アデリンは再びトンプソンの方を向き、問いかけた。

 

「今・・・どうなってる?」

 

 トンプソンは銃を軽く点検しながら答えた。

 

「今は制圧完了して、怪我人の手当てをしてるところだ」

 

 すると通信が入り、トンプソンはすぐに銃を持って立ち上がった。

 

「"お客さん"だ、お前はここで寝てろ」

 

 そう言ってトンプソンは駆けていった。

 

 

 

 

 

 翔とビルは互いに立って向かい合っていた。

 

「・・・僕は、本当に償えるのか?」

 

 翔は微笑んでビルの肩を叩いた。

 

「できるかどうかっていうより、やらなきゃいけない事だと思う。そのためにも、償う覚悟を持って、信じなきゃ」

 

 すると、翔の元に通信が入った。

 

《お兄ちゃん、聞こえる~?お客さんだよ~!》

 

 聞こえてきたのはジェノの声だった。

 ビルがモニターの電源を入れると、アヴェルヌスの前に複数の部隊が立っており、ジェノ達と向かい合っていた。

 

 

 

 その部隊は・・・

 AR小隊、404小隊、反逆小隊、そして銀治の第1部隊の計4つの部隊だった。

 

 アヴェルヌスの入り口で部隊の前に立っているのは、ジェノ、ランポルド、ルビー小隊、シーカーとドレイク達だった。

 

 

《翔・・・どういう事か、聞かせてもらおう》

 

 銀治は、噴き出しそうな怒りを込めて問いかけた。

 

 




 読んでくださり、ありがとうございます!

 これより、番外編と解説一覧を出してから、次の章へ移行します。

※重要な部分を書き忘れていたので修正しておきました。
 すいません。

 ビルの運命が大きく変わり、様々な動きがありましたが、どうだったでしょうか?
 感想や高評価、お待ちしています!
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