さぁ、手を届ばし、何度でも翔びなさい。
推奨BGM『Connexion』
愛海が殺されてから、ビルは何かが切れた。
狂ったように愛海を殺した犯人を探し、七刀会の他のメンバーの手もあって犯人は見つかった。
犯人はロクサット連合の人間であり、愛海の殺害はロクサット連合からの命令であった・・・と思われたが、命令書があるだけだった。
犯人とされた人物は、ロクサット連合所属だったものの、愛海が殺害される3日前に死んでいた。
だが、ロクサット連合はそれを隠しており、愛海の死を喜ぶ者すらいた。
それを知ったロイラは、その瞬間からロクサット連合を潰そうとした。
しかし、クルーガーとリサがそれを止めた。
ロクサット連合の規模を考えれば、今手を出すのは悪手である。
しかし、ビルは他とは違った。
七刀会を抜け、パラデウスのトップを殺して成り代わり、パラデウスの資金を使ってネイトの開発を進めていった。
迷わず非人道的な事に手を染め、多くの人を犠牲にしていった。
愛海を殺したのはあの犯人だけではない。
その背後にいたロクサット連合が本体である。
だが理由はそれだけではなかった。
七刀会のままでは、おそらくロクサット連合は倒せない。
七刀会には、"力"が必要である。
そして、後に現れる強者が力を持つためにも・・・
自分が、悪になれば良い──
簡単な事だった。
自らが悪になれば、強者は育ち、ロクサット連合にも取り入りやすくなる。
そうすれば、ロクサット連合を中から壊せる。
ビルの心の中は清々しかった。
だが同時に、姉であるルニシアに執着するようにもなっていった。
心のどこかで、その執着に気付いていた。
心のどこかで、もうやめろと叫ぶのに気付いていた。
心のどこかで、泣いているのにも気付いていた。
しかし、止まる必要は無いと迷わず突き進んだ。
自分が死ぬその瞬間まで、悪を貫いてやろう。
徹底して悪を貫き、世界を引っ掻き回そう。
そして最期に、"ヒーロー"に無様に殺されよう。
それが、泣き虫なビルが選んだ、"戦争"だった。
現在──
そこまで話したビルの目から、1滴の涙が頬を伝った。
ナインボール、拠点。
新設された出撃ドッグにて──
1人の戦術人形が、カタパルトに脚を接続した。
赤色灯に照らされたのは・・・
先鋭的なフォルムで、黒く、一部金色の部位がある装甲だった。
服は黒いトレンチコートだが、スカート部分は短くなっている。
右手に持つライフルは狙撃を意識し、左手に持つ銃は先鋭的なフォルムで、右背部には折り畳まれた大型砲が装備されており、両肩には菱形に近い装置が取り付けられていた。
《『VOB』はまだ調整段階だ。危なくなったら躊躇わずパージしろよ》
無線からはクラフターの声がする。
しかし、工廠にも指令室にも、ガレージにもクラフターの姿はない。
《クラフター、あなたもですよ。開発者とはいえ危険な事に変わりはありませんから》
そう、指令室にいるジェリコからの通信が入る。
ジェリコが見るモニターには、出撃シークエンスに入っている3人の名前が移っている。
そこには、クラフターとテンペスタの名前があった。
《久々の出撃だ、楽しく行こうじゃないか》
テンペスタは待ちきれない様子で風を吹かし、髪や服の袖やスカートを浮かせている。
テンペスタの服は再び新調されており、袖は手が隠れる程に長くなり、袖やスカートにはフリルが数多く付けられていた。
そして、黒い戦術人形は静かに深呼吸をし、自身が素体を得ている事を実感しながらほくそ笑む。
すると、後方から巨大な装置が吊るされながらスライドし、黒い戦術人形の背部に接続された。
その装置は、巨大なブースターに小型のブースターを大量に付けたものだった。
そして、カタパルトに進路を告げるランプが付いていき、出撃のブザーが鳴った。
「シュープリス、出る!」
《クラフター、出るよ!》
《テンペスタ、出る》
カタパルトから射出された黒い戦術人形、シュープリスは背中の巨大ブースター、VOBによって異常なスピードで空を飛んでいった。
そして、その傍らには同じくVOBを装備した小型の戦闘機らしきものもあった。
翔に自らの事を話終えたビルは、涙を拭う事もなく拳を握り締めて翔を睨み付けた。
その目には、深い怒りと憎悪が宿っていた。
それは誰にも見せた事の無い、最も深い感情だった。
「愛海さんは・・・お前を待ってたんだぞ!ずっと!ずっと待ってたんだぞ!」
ビルが1歩、翔に向けて踏み出す。
「愛海さんがお前の事を話している時、その時が1番幸せそうだった!どんなに苦しい状況でも、きっといつか会えると言いながら笑っていた!」
また1歩、ビルは踏み出す。
「お前が戻ってきた時のために!愛海さんはずっと歩み続けてきた!お前が戻ってきた時、世界が平和であるようにと!」
翔はビルを見据え、言葉の1つ1つを受け止め続けている。
「愛海さんの1番の原動力は、お前だったんだ!なのに、なのにお前はぁ!」
ビルは翔の顔面を殴り、翔は頬で受け止めた。
翔は強化人間であるため、骨格も強化されている。
そのため、安易に殴れば逆に相手が怪我をしてしまう。
だが、翔はビルの手へのダメージをできる限り少なくするため、翔は柔らかい頬で受け止めた。
ビルの拳を、ビルの怒りを、受け止めるため。
「愛海さんは!ずっと待ってたんだぞ!ずっと、ずっと待ってたんだぞ!他でもない、お前をだ!」
ビルは再び翔を殴り、3度目の拳を振り上げる。
「なのに、遅いんだよ!何もかも遅いのに、今さら戻ってきたと思ったら・・・お前は、お前はぁ!」
その拳を翔は掌で受け止め、優しく包み込むように握った。
ビルはハッとした。
翔の顔は、優しくも決意に満ちた表情だったからだ。
「ごめんなさい、遅くなって・・・」
翔の表情は、愛海にそっくりだった。
ビルは殴ることをやめ、拳を下ろした。
「ありがとう、話してくれて・・・ありがとう、戦ってくれて・・・ありがとう、愛海のために怒ってくれて」
暖かい風が、そっと2人の頬を撫でるように抜けていった。
ビルの目からは涙が溢れ、ビルは崩れ落ちた。
「分かってる、分かってるよ・・・」
翔はビルの横に座り、涙が止まるまで待っていた。
ビルが落ち着いてくると、翔は口を開いた。
「ビル・・・もう一度七刀会と、そして今度は僕とも、一緒に戦ってくれないかな?」
ビルは首を横に降った。
「それはできない・・・僕は、君達と歩むには・・・罪を重ね過ぎた・・・」
翔はビルの前に移動し、手を握った。
「そう思うなら・・・罪を背負って、償って」
顔を上げたビルの目が、翔の目と合った。
翔の目は愛海と同じく、優しさに溢れた目をしていた。
「これは僕のエゴだけど・・・償いの一貫として、これまで人を傷つけてきた分、殺めてきた分、人を救って。そして戦いが終わったら、その時改めて裁かれよう」
ただのエゴだ。
翔自身がそれを分かっている。
だが愛海の遺したものを、無駄にはできなかった。
翔は立ち上がり、ビルに手を伸ばした。
「・・・立てる?」
ビルには、翔が愛海に重なり、まるで太陽のように眩しかった。
そして、ビルはその手を──
激しい戦闘のあった場所で、目を開けた者がいた。
それはアデリンだった。
全身に包帯を巻かれ、服に血が染み着いている。
痛みは全身にあり、動かせるのは首と右腕のみだった。
「お、気か付いたか」
声がした方を向くと、トンプソンが座っていた。
「今のお前は重傷だ、動かず寝てろ」
別の方を向くと、同じく全身に包帯を巻かれたサナがいた。
アデリンは再びトンプソンの方を向き、問いかけた。
「今・・・どうなってる?」
トンプソンは銃を軽く点検しながら答えた。
「今は制圧完了して、怪我人の手当てをしてるところだ」
すると通信が入り、トンプソンはすぐに銃を持って立ち上がった。
「"お客さん"だ、お前はここで寝てろ」
そう言ってトンプソンは駆けていった。
翔とビルは互いに立って向かい合っていた。
「・・・僕は、本当に償えるのか?」
翔は微笑んでビルの肩を叩いた。
「できるかどうかっていうより、やらなきゃいけない事だと思う。そのためにも、償う覚悟を持って、信じなきゃ」
すると、翔の元に通信が入った。
《お兄ちゃん、聞こえる~?お客さんだよ~!》
聞こえてきたのはジェノの声だった。
ビルがモニターの電源を入れると、アヴェルヌスの前に複数の部隊が立っており、ジェノ達と向かい合っていた。
その部隊は・・・
AR小隊、404小隊、反逆小隊、そして銀治の第1部隊の計4つの部隊だった。
アヴェルヌスの入り口で部隊の前に立っているのは、ジェノ、ランポルド、ルビー小隊、シーカーとドレイク達だった。
《翔・・・どういう事か、聞かせてもらおう》
銀治は、噴き出しそうな怒りを込めて問いかけた。
読んでくださり、ありがとうございます!
これより、番外編と解説一覧を出してから、次の章へ移行します。
※重要な部分を書き忘れていたので修正しておきました。
すいません。
ビルの運命が大きく変わり、様々な動きがありましたが、どうだったでしょうか?
感想や高評価、お待ちしています!