鴉と人形   作:ダイヤモンド傭兵

103 / 103
 22-4、フェーズ・・・
 さぁ、手を届ばし、何度でも翔びなさい。




第90話 掴んだ最後の一欠片

 推奨BGM『Connexion』

 

 

 

 愛海が殺されてから、ビルは何かが切れた。

 

 

 

 狂ったように愛海を殺した犯人を探し、七刀会の他のメンバーの手もあって犯人は見つかった。

 

 犯人はロクサット連合の人間であり、愛海の殺害はロクサット連合からの命令であった・・・と思われたが、命令書があるだけだった。

 

 犯人とされた人物は、ロクサット連合所属だったものの、愛海が殺害される3日前に死んでいた。

 

 だが、ロクサット連合はそれを隠しており、愛海の死を喜ぶ者すらいた。

 

 それを知ったロイラは、その瞬間からロクサット連合を潰そうとした。

 しかし、クルーガーとリサがそれを止めた。

 

 ロクサット連合の規模を考えれば、今手を出すのは悪手である。

 しかし、ビルは他とは違った。

 

 

 

 七刀会を抜け、パラデウスのトップを殺して成り代わり、パラデウスの資金を使ってネイトの開発を進めていった。

 迷わず非人道的な事に手を染め、多くの人を犠牲にしていった。

 

 愛海を殺したのはあの犯人だけではない。

 その背後にいたロクサット連合が本体である。

 

 だが理由はそれだけではなかった。

 

 七刀会のままでは、おそらくロクサット連合は倒せない。

 七刀会には、"力"が必要である。

 そして、後に現れる強者が力を持つためにも・・・

 

 

 

 自分が、悪になれば良い──

 

 

 

 簡単な事だった。

 自らが悪になれば、強者は育ち、ロクサット連合にも取り入りやすくなる。

 そうすれば、ロクサット連合を中から壊せる。

 

 ビルの心の中は清々しかった。

 だが同時に、姉であるルニシアに執着するようにもなっていった。

 

 心のどこかで、その執着に気付いていた。

 心のどこかで、もうやめろと叫ぶのに気付いていた。

 心のどこかで、泣いているのにも気付いていた。

 

 しかし、止まる必要は無いと迷わず突き進んだ。

 

 自分が死ぬその瞬間まで、悪を貫いてやろう。

 徹底して悪を貫き、世界を引っ掻き回そう。

 そして最期に、"ヒーロー"に無様に殺されよう。

 

 

 

 それが、泣き虫なビルが選んだ、"戦争"だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現在──

 

 そこまで話したビルの目から、1滴の涙が頬を伝った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナインボール、拠点。

 新設された出撃ドッグにて──

 

 

 1人の戦術人形が、カタパルトに脚を接続した。

 赤色灯に照らされたのは・・・

 

 先鋭的なフォルムで、黒く、一部金色の部位がある装甲だった。

 服は黒いトレンチコートだが、スカート部分は短くなっている。

 

 右手に持つライフルは狙撃を意識し、左手に持つ銃は先鋭的なフォルムで、右背部には折り畳まれた大型砲が装備されており、両肩には菱形に近い装置が取り付けられていた。

 

 

 

《『VOB』はまだ調整段階だ。危なくなったら躊躇わずパージしろよ》

 

 無線からはクラフターの声がする。

 しかし、工廠にも指令室にも、ガレージにもクラフターの姿はない。

 

《クラフター、あなたもですよ。開発者とはいえ危険な事に変わりはありませんから》

 

 そう、指令室にいるジェリコからの通信が入る。

 ジェリコが見るモニターには、出撃シークエンスに入っている3人の名前が移っている。

 

 そこには、クラフターとテンペスタの名前があった。

 

《久々の出撃だ、楽しく行こうじゃないか》

 

 テンペスタは待ちきれない様子で風を吹かし、髪や服の袖やスカートを浮かせている。

 

 テンペスタの服は再び新調されており、袖は手が隠れる程に長くなり、袖やスカートにはフリルが数多く付けられていた。

 

 

 

 そして、黒い戦術人形は静かに深呼吸をし、自身が素体を得ている事を実感しながらほくそ笑む。

 

 すると、後方から巨大な装置が吊るされながらスライドし、黒い戦術人形の背部に接続された。

 その装置は、巨大なブースターに小型のブースターを大量に付けたものだった。

 

 そして、カタパルトに進路を告げるランプが付いていき、出撃のブザーが鳴った。

 

「シュープリス、出る!」

 

《クラフター、出るよ!》

 

《テンペスタ、出る》

 

 カタパルトから射出された黒い戦術人形、シュープリスは背中の巨大ブースター、VOBによって異常なスピードで空を飛んでいった。

 

 そして、その傍らには同じくVOBを装備した小型の戦闘機らしきものもあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翔に自らの事を話終えたビルは、涙を拭う事もなく拳を握り締めて翔を睨み付けた。

 

 その目には、深い怒りと憎悪が宿っていた。

 それは誰にも見せた事の無い、最も深い感情だった。

 

 

 

「愛海さんは・・・お前を待ってたんだぞ!ずっと!ずっと待ってたんだぞ!」

 

 ビルが1歩、翔に向けて踏み出す。

 

「愛海さんがお前の事を話している時、その時が1番幸せそうだった!どんなに苦しい状況でも、きっといつか会えると言いながら笑っていた!」

 

 また1歩、ビルは踏み出す。

 

「お前が戻ってきた時のために!愛海さんはずっと歩み続けてきた!お前が戻ってきた時、世界が平和であるようにと!」

 

 翔はビルを見据え、言葉の1つ1つを受け止め続けている。

 

「愛海さんの1番の原動力は、お前だったんだ!なのに、なのにお前はぁ!」

 

 ビルは翔の顔面を殴り、翔は頬で受け止めた。

 

 

 

 翔は強化人間であるため、骨格も強化されている。

 そのため、安易に殴れば逆に相手が怪我をしてしまう。

 だが、翔はビルの手へのダメージをできる限り少なくするため、翔は柔らかい頬で受け止めた。

 

 ビルの拳を、ビルの怒りを、受け止めるため。

 

 

 

「愛海さんは!ずっと待ってたんだぞ!ずっと、ずっと待ってたんだぞ!他でもない、お前をだ!」

 

 ビルは再び翔を殴り、3度目の拳を振り上げる。

 

「なのに、遅いんだよ!何もかも遅いのに、今さら戻ってきたと思ったら・・・お前は、お前はぁ!」

 

 その拳を翔は掌で受け止め、優しく包み込むように握った。

 ビルはハッとした。

 翔の顔は、優しくも決意に満ちた表情だったからだ。

 

「ごめんなさい、遅くなって・・・」

 

 翔の表情は、愛海にそっくりだった。

 ビルは殴ることをやめ、拳を下ろした。

 

「ありがとう、話してくれて・・・ありがとう、戦ってくれて・・・ありがとう、愛海のために怒ってくれて」

 

 暖かい風が、そっと2人の頬を撫でるように抜けていった。

 ビルの目からは涙が溢れ、ビルは崩れ落ちた。

 

「分かってる、分かってるよ・・・」

 

 翔はビルの横に座り、涙が止まるまで待っていた。

 

 

 

 ビルが落ち着いてくると、翔は口を開いた。

 

「ビル・・・もう一度七刀会と、そして今度は僕とも、一緒に戦ってくれないかな?」

 

 ビルは首を横に降った。

 

「それはできない・・・僕は、君達と歩むには・・・罪を重ね過ぎた・・・」

 

 翔はビルの前に移動し、手を握った。

 

「そう思うなら・・・罪を背負って、償って」

 

 顔を上げたビルの目が、翔の目と合った。

 翔の目は愛海と同じく、優しさに溢れた目をしていた。

 

「これは僕のエゴだけど・・・償いの一貫として、これまで人を傷つけてきた分、殺めてきた分、人を救って。そして戦いが終わったら、その時改めて裁かれよう」

 

 ただのエゴだ。

 翔自身がそれを分かっている。

 だが愛海の遺したものを、無駄にはできなかった。

 

 翔は立ち上がり、ビルに手を伸ばした。

 

「・・・立てる?」

 

 ビルには、翔が愛海に重なり、まるで太陽のように眩しかった。

 

 そして、ビルはその手を──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 激しい戦闘のあった場所で、目を開けた者がいた。

 

 それはアデリンだった。

 全身に包帯を巻かれ、服に血が染み着いている。

 痛みは全身にあり、動かせるのは首と右腕のみだった。

 

「お、気か付いたか」

 

 声がした方を向くと、トンプソンが座っていた。

 

「今のお前は重傷だ、動かず寝てろ」

 

 別の方を向くと、同じく全身に包帯を巻かれたサナがいた。

 アデリンは再びトンプソンの方を向き、問いかけた。

 

「今・・・どうなってる?」

 

 トンプソンは銃を軽く点検しながら答えた。

 

「今は制圧完了して、怪我人の手当てをしてるところだ」

 

 すると通信が入り、トンプソンはすぐに銃を持って立ち上がった。

 

「"お客さん"だ、お前はここで寝てろ」

 

 そう言ってトンプソンは駆けていった。

 

 

 

 

 

 翔とビルは互いに立って向かい合っていた。

 

「・・・僕は、本当に償えるのか?」

 

 翔は微笑んでビルの肩を叩いた。

 

「できるかどうかっていうより、やらなきゃいけない事だと思う。そのためにも、償う覚悟を持って、信じなきゃ」

 

 すると、翔の元に通信が入った。

 

《お兄ちゃん、聞こえる~?お客さんだよ~!》

 

 聞こえてきたのはジェノの声だった。

 ビルがモニターの電源を入れると、アヴェルヌスの前に複数の部隊が立っており、ジェノ達と向かい合っていた。

 

 

 

 その部隊は・・・

 AR小隊、404小隊、反逆小隊、そして銀治の第1部隊の計4つの部隊だった。

 

 アヴェルヌスの入り口で部隊の前に立っているのは、ジェノ、ランポルド、ルビー小隊、シーカーとドレイク達だった。

 

 

《翔・・・どういう事か、聞かせてもらおう》

 

 銀治は、噴き出しそうな怒りを込めて問いかけた。

 

 




 読んでくださり、ありがとうございます!

 これより、番外編と解説一覧を出してから、次の章へ移行します。

※重要な部分を書き忘れていたので修正しておきました。
 すいません。

 ビルの運命が大きく変わり、様々な動きがありましたが、どうだったでしょうか?
 感想や高評価、お待ちしています!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

戦えない私がキヴォトス中の生徒に執着されるまで(作者:Zuzuiikb)(原作:ブルーアーカイブ)

▼戦う才能も、特別な力もない。▼トリニティ総合学園に通う一年生・レナは、少し不器用で、少し優しいだけの普通の少女だった。▼シャーレ所属をきっかけに始まった、小さな出会い。▼けれどそれは、レナの日常を少しずつ変えていく。▼距離の近すぎる先輩。▼妙に放っておいてくれない生徒たち。▼優しさの奥に滲む、独占欲と執着。▼これは、“戦えない”少女が、キヴォトス中の生徒た…


総合評価:1326/評価:8.14/連載:101話/更新日時:2026年05月19日(火) 18:43 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>