鳥籠に囚われず、自由に飛ぶべきだ。
燃え盛る施設の中、BOCの社長は地下室に籠って肥えた体を縮こませている。周囲には護衛のスカルが2体おり、常に周囲を警戒している。
「どうした・・・テンペスタ!応答しろ!」
テンペスタに必死で無線で呼び掛けるが、全く応答が無い。地上からの爆発音や振動が絶えず響き、BOC社長は落ち着くことができていない。
すると、背後から集めたビー玉を転がすような音がしてBOC社長は振り向く。
そこには青い長髪、紺色に赤く光るラインの入ったボディースーツを着た女性が立っており、手にはマグナムを持っていた。
「BOC、社長ですね?」
「お、おお前は誰なんだ!?」
背後の壁に張り付くようにBOC社長は女性から離れ、スカル達は女性に銃口を向ける。すると女性は口角を少し上げたまま答える。
「私は『コーカサス社』製ハイエンドモデル『マジシャン』と申します」
マジシャンはBOC社長にゆっくりとお辞儀をする。するとBOC社長は安堵の表情を浮かべる。
コーカサス社、そこはBOCと協力関係にある企業であるため、助けが来たとBOC社長はマジシャンに縋り付く。
「良かった!コーカサス社は私を見捨てなかったのか!さぁ人形よ、私をここがぁっ!」
BOC社長の喉からは血が噴出し、マジシャンはいつの間にか細いナイフを払うようにしていた。続いてマジシャンはスカル達の頭部を撃ち抜き、BOC社長の傷口にガーゼを突っ込む。
「BOC社長、あなたはやらかしすぎたんですよ。だからコーカサス社、及び他の協力企業はあなたを見捨てたんですよ・・・それに、ご安心ください、ハイエンドモデル以外の製品は我々が引き継いで差し上げますから」
そう言うと、マジシャンはBOC社長の口の中に向けてマグナムの引き金を引いた。
BOC社長の隠れていた地下室を見つけたシーカーは扉をハッキングして開けるが、そこにはマジシャンの姿は無なかった。
「BOCの社長を発見・・・死んでる。でも、切り口がおかしい」
人形達をまともに扱わず、敵を徹底的に見下していたBOCの社長の人生は、裏切りによって幕を閉じた。
BOCが壊滅し、鹵獲されたテンペスタはスペアのボディを使って復活したが、なぜか敵意は無かった。
「私は敗北したし、BOCも無くなった。君達と戦う理由はBOCを守ること以外に無かったし、そもそもBOC自体には嫌気が指していたからね」
417はジャミングとハッキングを兼ねた装置が体内から発見され、それを取り除くと周囲の状況に驚いていた。
「私はBOCのハイエンドモデルに捕まってから、これまで何を・・・それに、なぜ鉄血が人間の味方をしているのだ?」
聞けば、417か造られたIOPのあるロシアでは、鉄血工造が人類に反旗を翻したという。それを聞いたロイラとエージェントは目を丸くしており、信じられないといった表情だった。
祝勝会の後、ティタンとテンペスタは正式に各企業に謝罪し事なきをえた。しかしこれには翔の縋り付くような懇願によってそこまでで済んでいたのだ。
といっても、しばらくは復興に力を貸すことになるようだが。
通信が復旧したことで、ロシアにある鉄血工造の支部にロイラは通信を掛けてみた。しかし応答は無く、ロイラの知り合いのいるIOPへと通信を掛けてみた。
すると、ロイラからの通信だと聞いたIOPのCEOがすぐさま通信に出た。
「ロイラ!君なのか!?」
CEOの声は力強いが、老人であることが伺える。
「そうよ。こっちは色々あって通信できない状態だったけど、この様子じゃあ、そっちは順調そうね・・・『ハーヴェル』」
IOPのCEO『ハーヴェル・ウィトキン』は安堵の表情を浮かべていた。
「一体全体、何が起きてたんだ?」
「簡単に説明すると・・・」
ロイラから事の経緯を聞かされたハーヴェルは驚愕の表情と安堵の表情を浮かべていた。
「どうりで通信が途絶し、こちらが調査に向かわせた戦術人形からの通信も途絶していた訳だ・・・しかし、無事で良かった。それで、417から聞いているだろうが、ロシアの鉄血の人形達は人類に反旗を翻している」
ハーヴェルとロイラは真剣な表情になり、話を続ける。
「あっちに委託していたものがね・・・こちらからハイエンドモデルによる小隊を向かわせるわ」
「ああ、こちらからも頼む・・・そうだ、もう1人の君の友人がやっているPMCに案内を依頼しよう」
ロイラは誰なのか、思い浮かばなかった。しかしハーヴェルはニヤリと笑みを浮かべる。
「『
ロイラは驚愕の表情を浮かべる。
「まさか・・・『クルーガー』が!?」
とあるVR空間にて、3人の初老の男性が会議をしていた。
「BOCが落とされるとはな」
男性Aは怒りとも呆れともとれるため息をついた。
「全くだ。自社のハイエンドモデルの運用すら、ほぼまともにできていないとはな・・・前社長が聞いたら嘆くだろう」
男性Bは遠い目をしている。
「ティタンは防衛を得意とし、ドレイクは攻撃に適し、バオシーは奇襲を得意とし、テンペスタは殲滅や制圧に適ている。しかしティタンを奇襲に回しバオシーのミサイルを廃して防衛に回すなど・・・愚の骨頂だ」
男性Cは怒りの表情を浮かべている。この3人は別々の企業の社長であり、男性Bはコーカサス社の社長である。そしてコーカサス社社長は翔の画像を表示させる。
「謎の赤い粒子を纏い、テンペスタをほぼ単独で撃破した人間だ」
他の2人は驚愕の表情を浮かべる。
「人間でありながらだと!?」
「我々のハイエンドモデルと比べても、指折りのテンペスタをか・・・危険すぎるな」
コーカサス社社長は深呼吸をする。
「我々の"管理"のために、奴は不要だ・・・」
2日後、ロイラは会議室に鉄血のハイエンドモデル達と翔を集め、にあることを伝える。
「これより発表するメンバーは鉄血工造ロシア支部へと向かい、そこで起きていることの実態の調査とそこでの活動を行ってもらいたい」
大型モニターには、支部の位置と港の位置が表示されている。
「まずはこの港に向かい、協力してくれるPMC、G&Kの戦術人形と合流してもらうわ」
次に、ロシア支部の鉄血が人類に反旗を翻していることが告げられると、エクスキューショナーを初めとしたハイエンドモデル達は落胆する。
「どうなってんだよおい・・・」
「そして、現在のロシアや周辺国はこの世界における戦いの最前線になってる可能性が非常に高いわ。つまり、そこへ行くメンバーは覚悟を決めておいて」
そしてロイラからロシア支部へと向かうメンバーを告げられる。
港の有澤製の軽巡洋艦の前に支度を終えた4人がいた。翔、エクスキューショナー、ヨルムンガンド、417である。
翔は記憶を思い出すためと、信用のために人間も行く必要があったため、メンバーに加えられていた。
エクスキューショナーは鉄血の戦力として。
ヨルムンガンドは、戦力であると共に姉妹機であるハイエンドモデルの確認のために。
そして417はIOPへの帰還と報告のために。
それぞれが改めて最終確認を行い、いざ行こうとしたところで突然の突風が吹く。すると、軽巡洋艦の
「やぁ、私も連れていってくれ。諸君」
翔達が怪訝な表情を浮かべていると、テンペスタは理由を話す。
「私はかねてより、ここから出たことは無いのだよ。だから世界を見てみたい・・・そして、翔・ニールセン。君の進む未来を見てみたくなったのだよ。ああ、ロイラからの許可は貰ってある。君達次第だそうだ」
そう言うとテンペスタは手摺から降りて翔の前に降り立つ。
「どうかな?戦力にはなると思うが」
エクスキューショナーとヨルムンガンドは「お前が決めろ」と言い、翔に丸投げする。
「・・・うん、行こう」
翔が了承すると、テンペスタは嬉しそうな笑顔を浮かべる。
するとエクスキューショナーは翔の肩を叩き、翔に拳を突き出す。
「じゃあ決まったことだし、行こうぜ・・・」
青空の下、翔達の上を1羽の鴉が新たな地への旅立を告げるように飛んでいる。
「"フロントライン"へ!」
第1章 壊れた世界 ─完─
読んでくださり、ありがとうございます!
新たな企業が現れ、新たな仲間が加わっての出発ですね!
これにて、第1章は終了です(番外編はありますが)。感想や高評価、お待ちしています。
●テンペスタ
黒い長髪で身長162cm、肉体年齢は17歳。
瞳は金色で見開かれており、肌は病的なまでに白い。黒いレインコートと青い軍服と手袋とブーツを身につけている、BOC製ハイエンドモデル。
明確な武装は無いが、内蔵されている風を操る装置により周囲の物を叩きつけたり、かまいたちを発生させて切ることも可能。
落ち着いた性格で、自由になりたかったが翔に敗北するまでは佐渡島に縛られており、唯一の楽しみが敵との戦闘しかなかった。
しかし現在は翔に興味を持ち、翔に着いていくことを選んだ。
●HK417/トゥーハンドカスタム
白い短髪で身長165cm、肉体年齢は18歳。
赤い瞳で左目に眼帯を着けており、黒いキャミソールと至る所にファスナーの付いた紫色のジャケットを着ており、黒いジーパンと白いスニーカーを履いている、IOPの試作戦術人形。
自身の装備しているHK417は2丁を同時使用するため、左に持つ方の排莢部分のパーツや構造が逆になっており、2丁で使用しても問題無いようになっている。
性格はクールだが、戦闘中は獣のような獰猛さを見せる。