守るためにも、勝ち取るためにも。
訓練の前日、翔は夢を見た。
目線的に、幼い頃の記憶だろう。観客席に座って大きなモニターに映る光景を眺め、気分はとても高揚していた。そして隣には手を繋いで一緒にモニターを眺める女性がいた。
モニターに映された映像では2機のロボットがおり、赤と黒の機体と黒く足の関節が逆になっている機体が戦っていた。状況は赤と黒の機体が優勢であり、一方的な戦闘に近かった。
そして赤と黒の機体が黒い機体にトドメを刺す瞬間、赤と黒の機体の肩が映る。
そこには、黒い球体に黄色の『9』の数字が描かれたエンブレムが貼られていた──
翌日──
訓練所にて、パイロットスーツではなくタンクトップと短パンを着た翔は目の前のノーマルモデル『リッパー』に向かって拳を構えていた。
リッパーは紫を基調としたボディースーツとバイザーを身につけており、短い髪も紫となっている。
《力の制御は教えた。後はそいつと格闘戦をしてみろ》
通信で指示を出しているのは、銀の長髪に右目の眼帯をつけているハイエンドモデル『アルケミスト』である。アルケミストは過去にBOCのハイエンドモデルと交戦し、左足を破壊されている。そのため現在はオペレーターとして活動している。
翔がアルケミストに教わったやり方でリッパーと格闘戦をしていると、アルケミストの元にロイラがやって来る。
「新人の調子はどう?」
画面にはリッパーに背負い投げをされるも、その力を利用して体制を立て直した翔の姿が映し出されていた。
「ハッキリ言って、戦闘には向かないと思うぞ。アイツはこれまで見てきたどんな奴よりも優しく、優しすぎる」
画面に映る翔は、ようやく訓練プログラムの第1段階をクリアしていた。
「優しいが故に、寸止めに近いことを無意識にやって威力を一気に下げてしまっている。これでは誰かを守ることもできないぞ」
アルケミストは一度翔に休憩を促し、ロイラに向き直る。しかしロイラは興味ありげに翔を観察していた。
依頼主:ロイラ・ノット・スタイン
目標:補給線の偵察
作戦開始時刻:04:00
今回の作戦は、我が社が確保していたかつての重要な補給線の偵察。
知っての通り、今はBOCに制圧されているから我が社は補給ができない状態。そして今は残された資源が底を尽きかけている。
そのため早急な奪還が求められるものの、まずは偵察が必要。敵に発見されたらすぐに離脱して。それと、通信の傍受を避けるため、作戦エリア内では通信はオフにしておいて。
音を小さくするため、自転車を使って作戦エリアまで移動し、到着すると自転車から降りて自転車を茂みに隠す。
「よし、準備は大丈夫?」
今回の作戦部隊の隊長には、補給線が制圧される直前に造られたハイエンドモデル『シーカー』であり、部隊のノーマルモデルはリッパーが2人である。
翔は部隊の補助を担当することになっている。
シーカーは黒い髪を後ろで束ねており、黒いボディースーツの上に迷彩柄のジャケットを羽織っている。
「大丈夫、だけど···」
翔は胸のホルスターから取り出した鉄血製
シーカーは翔の肩を叩くと翔を励ます。
「大丈夫、今回はあくまで偵察。いざとなったら私とリッパーが守るから」
シーカーはそう言って、自身が持つ上下二連のSGを揺らす。シーカーの射撃武装はBOCの戦力によって破壊され、今は現在のSGを使っている。
4人は茂みに隠れ、補給線に接近していく。作戦エリアは工業地帯と団地が川を挟んで建っており、他の企業と最も近い場所だったため、補給線として使われていた。
シーカーが周囲をスキャンすると、敵は数体いるもののさほど驚異では無い数だった。それも、団地に集中していたために工業地帯にはほとんど敵はいなかった。
一行は一度工業地帯に入って調査をすることとした。
工業地帯ではまだ動く設備がいくつか残っており、その中には溶鉱炉や発電所といった大型の設備もあった。
しかしそろそろ撤退しようとしたところで、翔がギリギリ隠れきれてなかった事で敵に発見されてしまった。
敵は白い骨格が剥き出しになり、内部を保護する部分は黒くなっており、
「倒してからじゃなきゃ、逃げ切れないか・・・総員、交戦開始!翔君は最小限の援護を!」
シーカーは前線でSGをスカルに撃ち込み、リッパーの片方は物陰から回り込み、左側面から攻撃していく。もう1人のリッパーと翔は右側面から攻撃していく。
スカルは一見すると硬そうに見えるが、実際はそこまで硬くはない。そのため、リッパーが両手に持つSMGだけでも倒せている。
しかし翔はあまり攻撃を当てられていない。優しすぎるあまり、傷つけたくない気持ちが大きく出てしまっているのだ。
だが、スカル達が翔に攻撃しようとすればその隙にシーカー達は攻撃できる。それによりスカルは数を減らしていき、ようやく撤退できるところまで減らすことに成功する。
シーカーは工業地帯から撤退しようとし、そこへ走る。
しかし、撤退の最中で工業地帯へ入った瞬間──
建物の壁を破壊し、突如現れた黒い鎧を纏った何者かがリッパーを巨大な拳で叩き潰した。
「まずは1匹」
黒い鎧はどこか流線形であり、両腕は大型化している。そして所々青く光る部位がある。それは明らかにノーマルモデルとは違う存在感を放っており、シーカーは見覚えがあった。
「逃げて!アイツはハイエンドモデルだ!」
仁王立ちしている、鎧を纏った相手は──
BOC製ハイエンドモデル『ティタン』。
BOC製ハイエンドモデルの中で、最も硬い装甲を持つ者である。
3人はすぐさま逃げ出すが、ティタンは壁を破壊しながら追いかけてくる。リッパーは時折振り向いてSMGを撃ち込むが、ダメージを受けている様子は無いどころか、足止めにすらなっていない。
「そんな攻撃、効くわけ無いだろう!」
するとティタンは立ち止まり、両手を開いて前に突き出す。すると掌の発光部位が光だし、凝縮されたエネルギーの砲弾を発射する。
それに被弾したリッパーは粉々に吹き飛んでしまい、衝撃で翔とシーカーは壁に叩きつけられ、翔は頭を打ってしまう。
ティタンはゆっくりと歩み寄るが、シーカーが投げたスタングレネードにより怯む。
「小癪なっ!」
その隙に翔とシーカーは逃げて距離を離す。すると緊急離脱用の小型ポッドとカタパルトを発見する。
「まだ動くみたいだね。翔君、これで逃げて」
しかし翔は首を横に振る。
「翔君、機械の私とは違って君は人間なんだ。それに、君を守るのは私の任務の1つでもある」
すると突然、翔はシーカーを突き飛ばしてポッドに押し込むと蓋を閉める。
「翔君、何を!?」
翔は微笑み、ポッドの射出ボタンに手を掛ける。
「僕のせいでこんなことになったんだ・・・僕が責任を取らないと。それとこのSG、借りるね」
翔はボタンを押し、ポッドはカタパルトから射出されていく。
「翔くぅぅぅん!」
SGを持った翔は射出されたポッドを眺め、そこに風が吹いた。
読んでくださり、ありがとうございます!
翔は初陣からハイエンドモデルと遭遇してしまいましたが、翔は生き残れるのでしょうか?
まだ書き切れない設定がありますが、そこはお許しください。
感想や高評価、お待ちしています。
●ロイラ・ノット・スタイン
金髪のロングヘアで左目の上に火傷の跡があり、身長166cm。31歳で10月7日生まれ。
2代目の鉄血工造社長であり、かつては前社長の補佐を務めていた。
●エージェント
黒髪でメイド服を着ている鉄血製のハイエンドモデル。
ロイラの補佐と鉄血の戦術人形達のまとめ役を担っており、鉄血のハイエンドモデルの中では数少ない、無傷の人形である。
また、海外モデルとの差異はない。
●ヨルムンガンド
黒い長髪に黒いセーラー服を着ている鉄血製ハイエンドモデル。
最新型のハイエンドモデルとして造られたものの、BOCの襲撃により武装が破壊されてしまい、今は料理人として働いている。
性格は姉御肌だが自らの好奇心と興味を優先することが多い。
●有澤重工
2020年に起業した日本の軍需企業。
主に重機や戦車、軍艦といったものを開発していたが、第三次大戦によって戦術人形の開発にも乗り出し、現在は皇居の防衛を最重要任務としている。
また、有澤の製品は火力と装甲に秀でており、大艦巨砲主義としても知られている。
●キサラギ研究所
2017年に起業した研究開発を主軸とした日本の会社。
他の企業とは違った特殊な兵器や局地的な兵器の開発を得意としており、キサラギの戦術人形は災害への対応力が非常に評価されている。
現在はBOCによる本社への襲撃により、戦力は大幅に減ってしまっている。