誰かが泣こうとも、傘を刺そうとも、その空の向こうには青空がある。
ロイラはしゃがみ、エリザと目線を合わせる。責めるわけでもなく、怒鳴るわけでもなく、静かに待っている。翔達も静かに待っている。
エリザがロイラを睨み付けていると、ロイラは突然エリザを抱き上げて駆け出した。その顔はいたずらっぽい笑みを浮かべている。
「な、何をする!?」
「ん~?ちょっと付き合ってもらうだけよ~!」
突然駆け出したロイラに、ジャッジは手を伸ばしている。
「え、エリザ様ぁぁぁ!」
翔は微笑み、駆け足でロイラの後を追った。そしてその後ろをM200達も付いていった。
その様子を、ティタン達は呆然と眺めていた・・・
ロイラに抱き上げられたエリザは為すがままに屋上へ連れ出される。そしてエリザを下ろすとその隣に座る。
「ふぅ・・・あなたも座りなさいよ。それに、綺麗でしょ?この空」
エリザが空を見上げると、その空は青く清み渡っていた。
「その反応、ほとんど外に出てなかったようね・・・出ても別の屋内にいたんでしょう?」
エリザは無言でいるが、ロイラは次の話題に移る。
「・・・ねぇ、リコ(リコリスの愛称)は・・・優しかったでしょ?」
エリザはすぐにロイラの方を向く。ロイラは優しげな笑みを浮かべたまま、エリザの方を向く。
「リコとは鉄血工造設立前からの仲なの。『
七刀会、それはリコやロイラを含む7人で構成された非公式組織であり、親友達の集まりでもあった。
「あなたはリコが作った、リコの娘・・・リコはあなたを愛していたでしょう?昔っからあまり感情を出さないけど、すっごく優しいでしょ?それに私は、ようやくあなたに会えて嬉しいのよ」
「・・・なぜだ?」
ロイラとエリザのいる屋上の扉の裏では、翔達がすぐにでも突入できるよう待機しているが、翔だけは微笑んでいた。
「私はリコとは小さい頃からの幼馴染みで、鉄血工造が創設された時だって、リコはいの一番に私を誘ったのよ。私は研究より経営や指揮が得意だから、それをやってくれって・・・」
「・・・『腐れ縁の幼馴染み』って、お前の事だったんだな」
ロイラは大きく笑い、その笑い声は静かなその場に響いた。
「リコったら、自分から幾度と無く私を連れ回しておいて、腐れ縁とか言ってたの?まあ良いわ・・・で、リコがどこにもいないしこんな騒ぎになってるのならひょっこり出てきてもおかしくないのだけれど・・・出てこないってことは、"そういうこと"ね?」
エリザは拳を握り締め、唇を噛む。
「辛いなら、今は言わなくても良いわ」
ロイラはエリザの頭を優しく撫でる。
「っ!」
エリザはロイラを突き飛ばす。
「今更・・・今更人間がなんなんだ!?パパは殺されて、お姉ちゃんとは会えないし!それなのに今更人間が・・・今更!」
その時、ロイラはエリザを抱き締める。離さないよう、しっかりと。
M200達はすぐにでも突入できるようにしているが、翔はレーダーに下の階から1つの敵性反応が接近していることに気づく。
「皆、ここはお願い」
翔は階段を飛び降り、ブースターを起動させて静かに下の階に降り立つ。
そこにいたのは口の端から血を出しているエージェントが、息を切らして立っていた。その反応はロシア支部のものであり、2人は向かい合う。
「そこを退きなさい・・・」
「それはできない。今は2人だけで話さなきゃいけない時なんだ」
翔に向かってくるロシア支部のエージェントに対し、翔は外骨格をパージして体に刺した破片を抜いてロシア支部のエージェントの拳に自身の拳を打ち付ける。
ロシア支部のエージェントはティタンの拳によるダメージが残っているため、翔の拳と自身の拳がぶつかっただけで全身が軋み、痛みで顔が歪む。
ロシア支部のエージェントは反対の拳を振りかぶるが、その拳を翔は額で受け止める。しかし翔は怯む様子は無く、ロシア支部のエージェントを見据えていた。
「ここは、通さない」
「あなた、ずっと泣かずにここまで来たんでしょ?リコが殺された時も、他の辛いことがあった時も・・・」
エリザはロイラを引き剥がそうとするが、ロイラは離そうとしない。
「もう、泣いて良いの。吐き出して良いの・・・全部、全部」
「うっ・・・お前は、お前は!」
下の階では、ロシア支部のエージェントの蹴りを翔は蹴りで受け止める。
「私は鉄血工造の社長だからあなたと話してる訳じゃないの。リコの幼馴染みとして、七刀会で共にいた1人として、リコの研究を後押しした身として、そして・・・あなたをデザインした人として」
すると、エリザの動きが止まる。
「・・・え?」
「リコはね、システムや素体の構造を決めたは良いものの、その素体のデザインが決められなくて、本社に戻ってまで私に直接相談に来たの。だから私はね、あなたをデザインしたの・・・リコの娘として」
ロイラはエリザを少しだけ離すと、その頬を両手で包む。
その目は潤んでいた。
「やっと・・・こうしてあなたと会えて、あなたに触れられて、抱き締めることができた」
「に、人間なんてどうせ・・・!」
翔はロシア支部のエージェントの拳を受け流し、その勢いで腹部に拳を叩き込む。
「あなたを作品としてデザインしたんじゃない、それは自分の娘として作ったリコも同じよ」
「私は・・・私は!」
ロイラは再びエリザを抱き締める。
「もういいの・・・もう、いいのよ・・・もう、大丈夫よ」
翔はロシア支部のエージェントの拳を体で受け止める。その拳は弱々しく、もう既にロシア支部のエージェントには戦う力は残っていなかった。
「エリザ様には、私達が必要なんです・・・私達も、エリザ様が必要なんです・・・それに、人間は!」
「もう、いいんだよ・・・エリザはきっと、君達を手放したりはしない、見捨てたりしない。それに、エリザも君達も・・・」
「もう、笑って良いんだよ」
「もう、笑って良いのよ」
エリザは、泣いた。ロシア支部のエージェントも、泣いた。ロイラも翔も、それを受け入れていた。扉の前で待機しているM200達も、いつの間にか通路の角にいたティタンも、静かに受け入れていた。
エリザからポツリポツリと真相を聞いた後、エリザとロシア支部のエージェントはロイラ達と共に1度本社へ向かうこととなった。
翔は鉄血との戦争の終結を正規軍とグリフィンに伝え、鉄血工造ロシア支部の指揮官として任命された。
鉄の雨は止んだ。そう信じた人々と人形達は安堵し、復興に乗り出していく。
しかし未だ鉄血に対する不信は残っている・・・が、それも時間の問題と思われた。
罪無き指揮官である翔を責める者もいるだろう。
鉄血そのものを恨む者もいるだろう。
「鉄血の、クズめ・・・AR-15、あなたの仇は・・・!」
鉄血を許そうとする者もいるだろう。
「色々あったけどさ・・・翔君がいるなら、きっと大丈夫だよ!・・・目玉コレクションが集められなくなったのは残念だけど」
苦虫を噛み潰したようにしている者もいるだろう。
「このタイミングで、鉄血との戦争が終わる・・・だと?」
しかし、誰もが進んでいけるだろう。そのための強さは、もう持っているはずなのだから。
鉄血工造本社にて──
「皆~、帰ったわよ~」
ロイラ達が帰還すると、本社のアルケミストやデストロイヤー達が出迎え、デストロイヤーの後ろからは陽と加奈が顔を覗かせている。
「この子がエリザよ」
ロイラが優しくエリザを前に出し、エリザは自己紹介をする。
「私がエリザだ、よろしく」
「私はちょっとした会議があるから、陽、加奈、ちょっとエリザと遊んであげて」
陽と加奈はエリザの元へ駆け寄り、その後ろにデストロイヤーが続く。
「よろしくねエリザ!僕は遠藤 陽!」
「エリザちゃん、よろしく。私は遠藤 加奈!」
そこにジャッジとロシア支部のエージェントも加わり、娯楽室へと向かった。
「エリザ、何やる?『モフモフド・コア4』やる?」
「それとも『ぷにっと・ドーン』やる?」
雨は止んだ──
読んでくださり、ありがとうございます!
鉄血と人類の争いは終わりましたが、どうだったでしょうか?
また、次回で第3章最終回です(番外編はあります)!
感想や高評価、お待ちしています!
●ジュピター砲
ロシア支部で開発された大型砲台。
レーザー砲による長距離砲撃を行い、防衛に高い効力を発揮する。
また、砲台下部に機銃があるため接近されてもある程度対処は可能。
しかしハッキング耐性は高くないため、ゲーガーから改善が求められている。
●RO635
黒髪で2つのお下げをし、クリーム色のブレザーに黄色いレインコートを羽織った16Lab製戦術人形で、種別はSMG。
正義感が強く悪を許さない性格だが、銀治や他の戦術人形達と接する内に性格は柔らかくなっている。
ちなみに特撮ものの映像作品を好んでいる。
AR小隊に新しく入った戦術人形であり、M4の代わりに指揮をしたり銀治の補佐をすることもある。
●KSG
銀の短髪に黒いフード付きジャケットを着ており、オレンジ色のサングラスをしたIOP製の戦術人形で種別はSG。
冷徹な完璧主義者な性格で、研鑽を怠らないよう努力を続けている。
また、自分は部隊を率いるのには適さないと判断しており、その分前線で味方を守ると共に果敢に攻撃している。
ちなみにラムの後輩でもある。