何にも与することの無い、自由を手にした傭兵が。
鉄血工造、ロシア支部。その中にある広場にハイエンドモデル達とM200達は集められていた。
そして台の上にロイラが立つ。
「皆、正規軍との戦い・・・本当にお疲れ様。今日は翔・ニールセンから大事な話がある」
翔の身に何かあったとかと心配する者もいたが、ロイラの隣に翔が立ったため、そんなに心配することではないと認識する。
「あの・・・僕は鉄血から独立し、傭兵に転職します。組織名は決まっているけど、活動拠点が決まるまでは鉄血に残ろうと思う」
翔が元々傭兵だったことを知っている面々はそれほど驚く様子は無く、M200やナディア、ジェリコに至っては着いていくつもりでいた。
次にロイラが話す。
「さてさて、私としては自由にさせてあげたい気持ちはあるけれど、同時にまだまだいてほしい気持ちもあるのよね・・・だからこうしましょう、翔とエクスキューショナーが戦って、翔が勝ったら独立を許可するわ」
翔はそう簡単に独立させてくれるとは思っていなかったので、仕方なく頷く。エクスキューショナーは「そう来たか」といった表情をしている。
訓練所に向かった翔達は翔とエクスキューショナーの戦いを見るために観戦席へ座り、翔とエクスキューショナーは互いに竹刀を構える。
「勝負は3本勝負、準備は良い?」
翔は右手で持った竹刀を下に下げており、エクスキューショナーは居合の構えでいる。そこはただただ無言で静かであり、その静けさが答えだった。
「・・・では、始め!」
ロイラの掛け声の直後・・・エクスキューショナーは翔に迫り、居合斬りをするが、翔は居合より下に潜り込んで躱すと、エクスキューショナーの鳩尾に突きを入れる。
この一瞬の出来事に、その場は固まる。
「1本!1対0!」
開始位置に戻ったエクスキューショナーは竹刀を肩に担ぎ、深く踏み込む。翔は変わらず同じ構えでいる。
「始め!」
エクスキューショナーは先程より前の位置から竹刀を振り下ろすが、翔は受け流すと共にそのまま前進してすれ違いざまに腹部に竹刀を命中させる。
翔の動きは静かで、そして一瞬だった。
「勝負あり!勝者、翔・ニールセン!」
翔は大きく息を吐いた後、エクスキューショナーと握手を交わす。
翔が独立の許可を貰ってから数日後──
拠点となる場所が決まり、拠点が建設されていく。場所はかつて飛行場があった場所であり、建設には翔も資材運びなどを手伝っている。
しかし、資材を運ぶ翔は体に違和感を感じていた。
(やっぱり、体が重く感じる・・・記憶が無くなる前はもっと軽かったのに・・・体がなまっているのとは違う感覚だけど、なんなんだろう、これ・・・?)
体に違和感があっても、翔の身体能力が高いことに変わりはなかった。そのため拠点の建設は無事に終了する。
拠点には飛行場やヘリポートなど、かつてあったものを有効活用した上で、ジュピター砲や武器やパーツを開発する設備なども備えられ、キサラギ製の防衛用タレットやアクアビット製の防御機構、有澤製の防壁も備えられている。
翔は独立するものの、その支援企業として鉄血は元よりキサラギやアクアビット、有澤までもが名乗りを挙げたのだ。
傭兵とて、今の情勢的に後ろ楯が無いままなのは危険だと判断した鉄血、翔に恩があるキサラギとアクアビット、日本のために戦ってくれた者を支援するのは当たり前だとする有澤・・・
そして出来上がったのが、この要塞のような拠点だった。
その後、翔達は送別会をする事になったが、このまま戻るわけではなくロシア支部で送別会を行った。
送別会は滞りなく進み、翔達が寝静まるとエクスキューショナーは1人で晩酌を始めようとする。するとエクスキューショナーのコップに日本酒を注ぐ者がいた。
ロイラだった。エクスキューショナーは驚くが、ロイラは構わず隣に座る。
「どう?送別会は楽しかったかしら?」
「楽しかったかって、そりゃ楽しかったに決まってんだろ?」
質問の意味が判らず、エクスキューショナーは困惑する。
「ま、それもそうね・・・なら、翔君といて楽しい?」
エクスキューショナーの動きがピタリと止まる。
「あなた、もしかして翔といると強い相手と戦えるって思ってない?」
「・・・そうだよ、だからなんだ?」
ロイラは前のようにいたずらっぽい笑みを浮かべる。
「あなたも着いていけば?」
「はぁ!?」
思わず大きい声が出てしまい、エクスキューショナーは周囲を確認する。
「酔ってる訳じゃないわよ。ただね、『愛海』ちゃんの『機械だとしても、自由はあるべき』って言葉を思い出してね」
エクスキューショナーは頷きつつ、日本酒を1口飲んだ。
翔はなかなか眠れず、中庭のベンチで夜風を浴びていた。そして苦しそうな表情をしながら俯いてため息をついていた。
(こんなの、皆に背負わせるわけにはいかないよね・・・)
するとそこに足音が聞こえてくる。レーザーを見ると反応が1つ確認できた。
「・・・眠れないんですか?」
「M200・・・うん、眠れなくてね。少ししたら行くよ」
しかしM200はそこから動く様子は無かった。
「そんな風には見えません」
M200は翔の顔を上げさせる。
「だったら、なんでそんなに苦しそうな顔をして・・・泣いてるんですか?」
いつの間にか、翔の目には涙が浮かんでいた。
「話してください。あなたの気持ちを、あなたの心を・・・」
翔は静かに語り出した。
月の光は雲に隠れており、周りは暗い。
「僕が傭兵として活動していく中で、単に傭兵としての活動じゃないこともするつもりなんだ・・・」
その"傭兵とは違う活動"とは、『イレギュラーの発見と支援や保護、または撃破』であり、"イレギュラー"である事を確かめるために他者に戦闘を仕掛ける可能性がある。
場合によっては味方勢力の者であっても。
「この活動は僕がずっと前からやってる役割。だからそれを果たすためにも独立するんだ」
イレギュラー・・・それは規格外の力を持ち、秩序を破壊しかねない程の者であり、人類の力を体現する存在でもある。
「こんなこと、信じてくれとは言わない。僕の親でさえ定義するのに時間がかかった事だし」
M200は静かに聞いていた。
「・・・ボクは信じます。あなたはずっと、誰かのために戦い続けて来ました。記憶が無くても、取り戻しても」
雲が少しずつ晴れていく。
「ボクが、あなたを信じます。それに、あなた1人で背負わせるわけにはいきません。ボクが、ボク達がいますから」
微笑んだM200の顔を見て、翔はその笑顔がとても眩しく感じた。
「・・・ありがとう」
翔は涙を拭い、立ち上がった。その2人を月明かりは静かに照らしていた。
まるで、未来へと導くかのように。
そして翔が鉄血から去り、新たな拠点の前に立つ。
振り替えれば、M200とナディア、ジェリコ、エクスキューショナーにテンペスタとティタン・・・更にはガリル達だけでなくヨルムンガンドとウロボロスまでいた。
「・・・改めて聞くけど、皆着いてきて本当に良いの?」
全員は示し合わせたようにサムズアップした。
「翔、お前といると強い奴と戦えるんだ!こんなタイミング逃すわけないだろ?」
「我が主の行く所であれば、どこへでも」
エクスキューショナーは強さを求め、テンペスタは主である翔に着いていくつもりである。
「あなたが背負うもの、私達も背負うわ」
「私も同感です」
ナディアとジェリコはそう言い・・・
「私はなんとなくだし、ウロボロスは戦力になるから連れてきた」
「もうこやつとは腐れ縁だからな・・・」
ヨルムンガンドは笑っており、連れてこられたウロボロスは苦笑いしているが、まんざらでもない様子である。
「うちらはもちろん着いてくで?ダメや言うたら抵抗するで、拳で」
ガリルはそんな調子である。
そして、翔は設立の合図を行う。翔が掲げた旗には9の数字の描かれたエンブレムがあった。
「傭兵組織『ナインボール』、ここに設立を宣言し、活動を開始します!」
読んでくださり、ありがとうございます!
更新遅れてすいません、色々考えてたら遅れてしまいました。
また、カンケルの解説に関して追記しておきました、良ければ見てみてください。
さて、今回は傭兵組織を設立することになりましたが、どうだったでしょうか?
感想や高評価、お待ちしています。
●アンチコジマ
謎の赤い粒子の名称であり、かつて翔が発見した粒子である。
汚染と破壊の性質を持つコジマ粒子とは対照的に、浄化と破壊の性質を持つ。そのためコジマ粒子を打ち消したり、汚染を浄化する事ができる。
また、コジマ粒子と同様に莫大なエネルギーと反応による爆発を起こす。
しかし、その粒子がどう使われたかは翔からはまだ明かされていない。