鴉と人形   作:ダイヤモンド傭兵

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 ロイラがなぜ、夏の狂犬と呼ばれているのか?
 その時の一部始終が、こちらである。




番外編 夏の狂犬

 鉄血工造設立直前──

 

 

 

 ロシアは過去の不祥事から警官が大きく不足してしまい、一時的に正規軍に任せることにした。

 正規軍は指揮官の内、特に優秀な3人の指揮官に治安維持やテロの対処などを任せていた。

 

 治安維持にはクルーガー、テロの対処にはカーター、そして切り札にはロイラだった。

 ロイラはまだ指揮官として最年少なものの、その指揮能力の高さは素晴らしいものだった。

 

「なんで私は小さな事しか任されてないのよ・・・まったく」

 

 臨時の拠点でロイラは呆れてテーブルに突っ伏していた。

 

「お前は正規軍の切り札なのだ、あまり部隊を消耗されても困るだろう」

 

 カーターはそう言いながらロイラにコーヒーを渡す。ロイラは一言お礼を言うとコーヒーを飲むが、あまり機嫌は良くならなかった。

 

「『愛海』のコーヒーが恋しいわ・・・」

 

「まだ言ってるのか・・・あと1ヶ月の辛抱だ」

 

 クルーガーはそう宥め、ロイラは天井を見上げた。

 3人の仲は当時良好であり、3人が揃えばほぼ無敵と言われる程だった。

 

 そして、事件は起きる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロシアの数ある街、その中でも大きな場所の1つがテロ組織に襲撃され、占拠されてしまった。そして、そこにはロイラの父と妹がいた。

 

 ロイラ達はすぐさま本部に掛け合い、出動の許可を取ろうとした。

 クルーガーは人道的観点から。

 カーターは軍のメンツや戦略的観点から。

 ロイラは自分や部下達の家族がいるという観点から。

 

 しかし、正規軍本部は出動の許可を出さなかった。

 他の場所でも小規模とはいえテロが起き、更に不必要な犠牲を出したくないとの言い分に、ロイラ達は業を煮やした。

 

「・・・これでは、部下達の士気や世間からの批判も起きるだろうな」

 

 カーターはそう言いながら今できることの計画を立て始める。こういう時に感情抜きで行動できるカーターの存在は大きかった。

 クルーガーはひとまず現場に住んでいる者の安否を確かめ、ロイラは装備の点検を指示する。

 

 だが、ロイラにとって悲劇が起こる。

 テロリスト達が、その街の自治と金銭を要求すると共に見せしめとして10人の男女を殺害した動画を投稿したのだ。

 そのうち2人は、ロイラの父と妹だった。

 

 ロイラは拳を握り締め、その目は怒りに染まっていた。自分1人だけでもと、その場を去ろうとしたロイラをクルーガーが止める。

 

「ロイラ・・・今は待ってくれ。今君が行けば、君は犯罪者となってしまう。そうなれば、奴らをどうにかすることができなくなる。だから頼む、今は待ってくれ!」

 

 ロイラの背後にいたカーターは静かに次の一手を口にする。しかしカーターも内心では憤慨していた。

 既に手遅れと言って良い事が起きてしまっている。それを許せるはずがなかった。

 

「少しでも早く動けるよう、揺さぶりをかけてみよう」

 

 

 

 

 

 ようやく出動の許可が出たため、ロイラとその指揮下の部隊は突入の準備に入る。

 

「お前達の家族は危機に曝されている。私の家族のように殺されている者もいるだろう・・・ならばやることは1つだ」

 

 ロイラはHGにマガジンを込める。

 

「総員、奴らを喰い尽くせ!1匹たりとも逃すな!徹底的に、見つけ次第喰い殺せ!」

 

 そして21:00、作戦が始まった。

 ロイラの指揮下の部隊は徹底的かつ臨機応変に動き、テロリスト達を追い詰めていく。

 

 テロリスト達はその動きに恐怖した。

 速く、精密で、苛烈で、どこへ行っても先回りされる。

 ある者は暗闇へ引きずり込まれ、ある者は逃げた先に仕掛けられた爆弾で、ある者はドアの向こうから蜂の巣にされ・・・

 

「どこへ逃げりゃ良いんだ!?」

「やめろ!来るなぁぁぁ!」

「待て、待ってくブギャッ!」

 

 窓から窓へ、屋根から屋根へ、深い闇から深い闇へ、使えるものは全て使い・・・ロイラの部隊は移動しつつテロリスト達を殲滅していく。

 そして、部隊の後方からロイラも護衛と共に進んでいく。

 

 街1つを占拠するテロリストの組織力。数はロイラの部隊を遥かに上回っており、退役軍人から訓練を受けている。だというのに次々と殲滅されていき、逃げ惑うしかなくなってる者も多く出ている。

 

 テロリストのリーダーはこの状況を見て体が震えている。

 

「なんなんだ・・・なんなんだこいつらは!?」

 

 

 

 あるテロリストは逃げた先の家屋のクローゼットに隠れる。すると後から逃げ込んできた別のテロリストがロイラの部隊に捕まり、壁に押し当てられ、足が千切れるまでMGを連射される。

 

 そしてそのテロリストを床に放り、クローゼットを見る。そしてクローゼットの近くに射撃し、思わず声をあげてしまったためそのままそのテロリストは撃ち抜かれる。

 

 

 

 悲惨な状況となっている街を、ロイラは部下と共に歩いている。

 銃声と爆発音を、まるでオーケストラを奏でるように指示を出す。

 ロイラはまさに指揮者(マエストロ)、その部下達は奏者であり武器と敵は楽器である。

 

 ロイラは部下達から送られる通信にすぐに返答し、攻撃の手を緩めない。

 物陰からロイラに奇襲を仕掛けたテロリストはすぐさま護衛かロイラ自身に撃ち抜かれる。

 

 徹底的に、残酷で、冷酷に。

 人質を取る暇も、逃げることも、道連れにすることも許さず、進んでいく。

 

 その結果、1時間足らずでロイラはテロリスト達を制圧した。

 帰還したロイラ達はロイラを含め返り血を浴びており、更に犠牲者は誰一人としておらず、街に住んでいた生存者も回収していた。

 

 その様子は、まるで血濡れの狂犬達が行進しているかのようであり、当時その凱旋を見たゼリンスキーを含む多くの者は戦慄する。

 

(あいつに、手を出してはならない)

 

 運良く生き残ったテロリストは発狂し、裁判どころでは無くなった。

 

 

 

 

 

 正規軍上層部は、ロイラの指揮が過剰だとして謹慎処分を言い渡した。しかしロイラはその場で辞表を提出し、ロイラだけでなくロイラの部下の大半も軍を抜けた。

 

「あれだけ対応を遅らせ、しかも遅らせた理由の1つである小規模のテロは誤報、それらの謝罪は無く、私や部下達の家族が殺されたことにも何の言葉も出さない連中とは、付き合ってられん」

 

 その言葉を残し、ロイラとその部下の大半は去っていった。

 

 そして・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日本に訪れたロイラの元に1通の電話が届く。

 

《やぁロイラ、久しぶりだね。軍を抜けたんだって?》

 

「久しぶりねリコ、ええそうよ。そっちはどう?」

 

 電話の主はリコリスだった。

 

《こっちは、ある計画を進めてる。で、君にも協力してほしいんだ》

 

「何かしら?」

 

 ロイラは歩きながら通話を続ける。

 

《今度日本に来たら直接話そう》

 

「あら、ちょうど今日本にいるのだけれど?」

 

《それは良かった!なら早速話そう、場所はいつもの喫茶店だ》

 

 リコリスはすぐに電話を切り、ロイラは小さなため息をついてその喫茶店に向かう。

 

「ホント、せっかちねぇ・・・」

 

 

 

 その翌年、鉄血工造が設立されることとなる。

 ロイラは部隊指揮や社長の秘書として行動していくこととなる。

 いつしか、正規軍の間では『夏の狂犬』と呼ばれていたロイラが、なぜ再び戦場に戻ったのか?それは定かではない。

 

 




 読んでくださり、ありがとうございます!

 今回はロイラの過去編でしたが、どうだったでしょうか?
 次回から第5章が始まります。
 感想や高評価、お待ちしています!
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