鴉と人形   作:ダイヤモンド傭兵

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 鴉を殺せるのは獣だけ。
 獣を殺せるのは鴉だけ。




第59話 鴉と獣

 月明かりに照らされた空の下、翔はナインボール拠点の屋上にマットを敷いて月を眺めていた。

 

「ようやく、思い出したよ・・・全部、全部」

 

 そして翔は目蓋を閉じた。

 

 

 

 

 

 目を開けると、赤い海の中にいた。

 背後に誰かがいるが、振り替える前に背後の誰かが口を開く。

 

「行ってこい」

 

 懐かしく、今にも泣きながら飛び付きそうな女性の声だった。

 

「うん、行ってきます。"母さん"」

 

 背後にいた、翔が母と呼ぶ者の気配と反応は消え、翔は歩んでいく。

 すると、右から声をかけられる。今度は男性の声である。

 

「本当にこのまま進む気か?」

 

「・・・うん。どんな答えでも、僕は進むよ」

 

 その男性は笑みを浮かべる。

 

「そうかぁ、なら行ってこい」

 

「ありがとう、オールドキング」

 

 更に進んでいくと、背を向けた男性が見えてくる。

 

「久しぶり、エーアスト。ごめん、ずっと忘れてて」

 

 男性が振り向く。

 銀の短髪で黒いパイロットスーツを着ているその男性こそ、エーアストである。

 

 

 

 

 

「気にすんな、記憶が無くなるのも無理はない」

 

 翔はエーアストと明確に顔を合わせ、目に涙が溢れてくる。

 

「エーアスト、僕・・・僕!」

 

 エーアストは翔の肩を優しく叩く。

 

「"あれ"は俺が選んだことだ。それに、お前は俺の最後の頼みを聞いてくれたんだ、何も悪くない」

 

 翔は涙を拭い、エーアストと目を合わせる。

 

「・・・聞かせて。なんであんなことをしたのか」

 

 エーアストは一瞬躊躇する表情を見せる。

 

「本当に、聞きたいのか?」

 

 翔は無言で頷き、エーアストは観念したようにため息をする。

 

 

 

 エーアストがやったこと、それは1億人という規格外の人数を己の手で虐殺した事であり、かつての仲間達を補給無しで殲滅したため、"人類種の天敵"と呼ばれることになった。

 そして、最後は翔との決闘により敗北した。

 

 

 

「・・・コジマ粒子、それの発見から人類は狂い出した。そして自分達が汚染した地上を捨てたのに、『クレイドル』を飛ばすためにコジマ粒子を使い、結局は清浄だった空も汚染して・・・しかも戦争は自分達の犯した罪を隠すために続けてて、危険だって分かってるのに、依存し続けてよ・・・」

 

 あの荒廃した世界、そして自分達の罪を隠すために国家に対して戦争を起こし、その先も戦争を続けた企業連。それはエーアストも翔も忘れることはない。

 

「お前がアンチコジマを見つけた時、企業は罪が暴かれるのを恐れてそれを葬ろうとした。だから・・・」

 

 

 

「文明をリセットさせるつもりで連中を消し炭にして、コジマ技術へのトラウマを人類に植え付け、後の未来ではコジマ技術を使わない世界を歩んでもらう・・・ってのが、建前だな」

 

 翔は眉を潜める。するとエーアストは翔に背を向けて離れていく。

 

「本音は・・・俺を殺してほしかったんだよ」

 

 翔はその言葉に目を見開く。

 

「俺はいつの頃からか、人を殺すのが楽しくなっちまった。『セレン』と『リリウム』のおかげで多少は押さえられてたんだが、『アンサラー』を墜とした時にはもう、押さえ切れなくなってたんだ。押さえられてるように見えても、心の中では楽しんでたんだ!」

 

 エーアストは振り向かない、今の己の顔を翔に見られないように。

 

「前にこんな言葉を聞いたんだ、『鴉を殺せるのは獣だけ、獣を殺せるのは鴉だけ』ってな。実際そうだろ?」

 

 すると、轟音と共に空から2機の巨大な人型兵器が降ってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 企業により作られし、剥き出しの殺意──

 

 そして同時に、"立ち上がり、進むための力"を与えてくれる──

 

 パイロットが乗って、初めて完成する兵器──

 

 

 

 ──ARMORED・CORE──

 

 

 

 その次世代機である、"ネクスト"。

 

 エーアストの元に降ってきたのは、黒と金のカラーリングをしたネクストであり、先鋭的で鳥のようなフォルムをしている。そして右手にはショットガン、左腕にはレーザーブレード、右背部に『増設レーダー』、左背部に『レールキャノン』、肩に『フレア』を装備している。

 

 その名は『ストレイド』。

 

 翔の元に降ってきたのは、赤と黒のカラーリングをしたネクストであり、先鋭的だが人であって人でないフォルムをしている。

 右手に『アサルトライフル』、左腕にレーザーブレード『07-MOONLIGHT』(以下月光)、右背部に『近接信管ミサイル』(以下VTF)、左背部に『グレネードキャノン』(以下グレキャ)『OGOTO・MK-Ⅱ』(以下雄琴2)を装備している。

 

 その名は『コルヴィス』。

 

 2人はネクストに乗り、うなじにある接続端子にコードを繋いでシステムを起動させる。

 

《メインシステム、戦闘モード起動》

 

 エーアストの表情は、狂った獣のような笑みを浮かべていた。

 

「もう言葉なんざいらねぇ!今、この瞬間!世界とかそんなの関係ねぇ、力こそが全てだ!俺を超えていけ!"レイヴン"!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

推奨BGM『Scorcher』(ACfaより)

 

 

 

 場所が赤い海の中から雲の上の大空へと変わり、巨大な飛行物体の上に2機は立っている。そこは、かつてエーアストが1億人を虐殺した場所である。

 

「ターゲット確認、戦闘開始!」

 

 2機はほぼ同時に飛び上がり、戦闘を開始する。接近しようとするストレイドに対し翔はVTFを発射し、そのすぐ後にアサルトライフルを連射していく。

 

 ストレイドはフレアでVTFを無力化しつつ、アサルトライフルの弾を装甲の斜めに当たるように動きながら接近していく。そしてある程度進むとレールキャノンを撃ち込む。

 コルヴィスはほんの僅かなQBに機体の軸ずらしを合わせることででレールキャノンの弾を回避し、引き撃ちをしていく。

 

 ストレイドはショットガンをコルヴィスの右腕に向けて撃っている。しかし狙いはコルヴィスの右腕ではなく、コルヴィスが持つアサルトライフルである。

 徹底的な攻めの姿勢、それがエーアストである。

 

 ストレイドの持つショットガンは対ネクスト戦を想定されたものであり、ある程度離れていても武器には確実なダメージを与えられる。そしておまけ感覚でコルヴィスのPAも少なからず削っていく。

 

 

 

 ネクスト用の武装の火力が相手ではPAで完全に防ぐことができず、あくまで軽減に留まる。

 2人はそれを知っているが故に、PAだけには頼らず攻撃を回避するか最小限に留めるかしている。

 

 コルヴィスはクレイドルの柱にストレイドが近づいたタイミングを見計らって雄琴2を柱に撃ち込み、ストレイドは柱とは反対方向へQBするも、雄琴2の爆発によりPAは大きく削れる。

 

 そこにコルヴィスはVTFを発射しながら接近していき、ストレイドはフレアを起動させる。しかしコルヴィスは自らが放ったVTFをアサルトライフルで撃ち抜き、ストレイドに当たる前に爆発させる。

 

 すると爆発でストレイドの視界が遮られ、ストレイドは爆煙の中にショットガンを撃ち込むが、コルヴィスは散弾を頭部に当たらないよう左腕で防ぎながらQBで一気に距離を詰め、アサルトライフルを連射する。

 

 これによりストレイドは更にPAが減衰する。しかしストレイドはレーザーブレードを起動させ、分厚く青白い刀身を振り上げる。しかしコルヴィスはQTを利用した回り蹴りでレーザーブレードを回避し、再びアサルトライフルを連射する。

 

 更にコルヴィスは雄琴2をストレイドに撃ち込むが、ストレイドはコルヴィスに向かってQBし、雄琴2を回避する。

 

 

 

 コルヴィスは月光を起動させ、ストレイドもレーザーブレードを起動させる。月光の紫色の刀身とストレイドのレーザーブレードの青白い刀身がぶつかり、火花を散らす。

 

 するとストレイドとコルヴィスは同時に互いの脚部に銃口を向け、射撃する。どちらも膝関節に撃つことはできなかったが、脚部に損傷を与えることには成功する。

 しかし至近距離からショットガンを撃ち込まれた分、コルヴィスの方が損傷具合は大きい。

 

 するとコルヴィスは脚部のブースターだけでQBし、サマーソルトキックでストレイドの腕を弾き、体制を崩す。そして1回転する間に雄琴2を展開しており、至近距離から砲撃する。

 

 ストレイドは背後にQBして距離を離すと同時にショットガンを撃ち込み、コルヴィスの頭部に数発が命中しコルヴィスの青く光る複眼がいくつか破壊される。

 

 コルヴィスはアサルトライフルを連射しようとするが、ストレイドはレーザーブレードを起動させ、コルヴィスのアサルトライフルを斬り、コルヴィスはVTFをその距離から撃ち込んでストレイドにダメージを与える。

 

 

 

 

 

 2人はこの戦いを、心の底から楽しんでいた。

 

 エーアストは殺すことを楽しみ、翔はACに乗って戦うことを楽しみ・・・

 

 エーアストは戦場で、翔はアリーナで。

 しかし同時に、親友とここまで戦えることに歓喜していた。

 

 エーアストとここまで戦えることに成長した翔にエーアストは喜び、翔自身も己の成長を実感していた。

 

 

 

 

 

 コルヴィスは腕に付けていた予備の小型レーザーブレードを使い、ストレイドのショットガンが破壊する。ストレイドはすぐさま腰に付けていたハンドガンを持ち、戦闘を続行していく。

 

 コルヴィスは全身のブースターを使った3次元的な戦闘を行い、それはまるで"白い閃光"を彷彿とさせるものだった。

 その動きにより、変則的な斬り方でストレイドのフレアが両方とも破壊される。

 

 すると今度は獣のような徹底的な攻めの姿勢に入る。しかしそれは、エーアストのものと酷似していたが、そこに翔は様々な動きを織り混ぜている。

 

 

 

 翔は、既に出会った者達の意志を継いでいるのだ──

 

 

 

 それを"再確認"したエーアストは殺意とは違う笑みを浮かべ、翔に迫る。

 コルヴィスは迫るストレイドに雄琴2とVTFを同時に放つが、ストレイドはレールキャノンを雄琴2の方向に撃ち込み、VTFにはハンドガンを投げつける。

 

 コルヴィスは雄琴2の誘爆により大きな損傷を負い、投げつけたハンドガンだけでは爆発しきらなかったVTFをストレイドは右腕を犠牲にすることで機体本体へのダメージを抑える。

 

 しかし、レーダーは未だにコルヴィスが戦闘可能であることを示しており、メインブースターを破壊されたコルヴィスは己の足で駆けていく。

 

 そしてストレイドとの鍔迫り合いになるが、ストレイドが月光をレーザーブレードで受け止めた途端、コルヴィスはレーザーブレードを受け流し、ストレイドの背後に回ると小型レーザーブレードをコクピットへ向けて突き刺そうとする。

 

 しかしストレイドはQTによって回避し、距離を取ろうとするが直前に翔が放ったVTFがストレイドのレールキャノンを破壊し、ストレイドはバランスを崩す。

 

 

 

 その瞬間にコルヴィスは接近し、居合いの構えを取る。ストレイドが反撃するよりも速く、コルヴィスはストレイドのコクピットを斬った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翔とエーアストは、再び向かい合っていた。

 

「ありがとう、翔。継いで、そして超えたんだな。"俺達"を・・・」

 

「うん・・・」

 

 2人は固い握手を交わし、屈託の無い清々しい笑顔で笑い合った。

 

「じゃあな、翔」

 

「またね、エーアスト」

 

 

 

 そして、翔はそっと目を開けて立ち上がると月へ向けて手を伸ばした。

 

 




 読んでくださり、ありがとうございます!

 今回で番外編以外の第5章は終了です。
 いつもより長くなりましたが、翔は記憶を完全に取り戻し、首輪付きを超えました。
 感想や高評価、お待ちしています!

●バラクーダノード
 リコリスが発見したコーラップスを使用したとある古代兵器のデータ。
 多くの権力者が狙っているが、人間が制御できるわけではないためエリザの本体と繋いで隠し、封印していた。

●グリフィン・リヨン
 白髪混じりの灰色の髪をした男性。

 極めて用心深く、外食をすることはなく密会も己の息のかかったバーでしか行わない。
 また、G&Kをクルーガーと共に設立した人物でもある。

 駒扱いであっても無意味に使い捨てる男ではなく、要求を断られてもすぐに引くなど融通は効く部類である。しかし本心は表に出すことはない。
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