新たな識別反応の追加を確認。
中庭にある花壇。
そこでジェリコは花にジョウロで水やりをしていた。
そして、翔とM200も水やりをしていた。
晴々とし、輝いている翔の表情に、ジェリコは微笑んだ。
(記憶が全部戻った時、どうなるかと気になりましたが・・・問題はなさそうですね)
空を見上げた翔の鼻に白い蝶が止まり、翔は蝶と目を合わせたまま固まる。
それを見たジェリコとM200はクスリと笑い、翔は蝶が飛び立つまでその姿勢のまま固まっていた。
「生き物に好かれてますね」
「なんだかね~」
そろそろ中庭から戻ろうと踵を返した翔の足には蛙がしがみついていたため、ジェリコとM200は顔を見合わせて再びクスリと笑った。
時は遡り・・・
翔が記憶を完全に取り戻す前、ナインボールが設立された少し後の事である。
「・・・指揮官は、あなた方の道具でも!人形でもありません!」
ジェリコは通信相手を睨み付け、相手からの"依頼"を断って通信を切った。
ジェリコは立ち上がり、眉間を揉みながら指令室を出た。
ここ最近、ナインボールに対し依頼という名目で、実質的に自らの所有物にしようとする組織や個人が複数現れていた。
依頼の説明はどれも傲慢そのものであるが、露骨なものや騙すようなものから様々であり、容認できないものばかりだった。
ナインボールは鉄血から独立しており、更に組織の長はかつて鉄血のロシア支部の指揮官だった者である。
そのため鉄血の情報を持っていることは明白であり、それを手にしようとするのはある種必然だった。
そして、ナインボールはそれだけでなく多くのハイエンドモデルが所属している。
情報が取れなくとも、戦力としては十分である。
しかし、それらよりも注目されているのはアンチコジマである。
謎の赤い粒子、その詳細は謎に包まれているものの、機能停止した戦術人形が再起動しただけでなく、それまでよりも高い能力を手にしていた。
また、何かしらの反応によって爆発する様子も確認でき、更には環境を浄化する性質も併せ持っていた。
であれば、その粒子はあらゆる方面で利用できる。
そのため各方面からは喉から手が出る程欲しいものであった。
しかし依頼内容から見える扱いは道具や人形と言って良いものであり、果ては奴隷や使い捨てのようなものまである始末である。
そんなものは到底許されるものではなく、ジェリコだけではない。話を聞いた皆が怒りを覚えていた。
しかし翔は俯いて顔を静かに歪ませ、頭を抱えていた。
悪意ある者や自覚無き悪意により、様々なものをあの手この手で利用しようとしてきていたのを見てきた翔だが・・・
遂に自分自身までその対象になってしまったのだ。
その様子を見たジェリコは立ったまま俯く翔に歩み寄る。
「翔・ニールセン!」
突然、ジェリコは大きな声を出した。それにより、翔の脳内に浮かぶ憂いは一瞬途切れる。
「頭を上げろ!」
翔は慌ててジェリコの方を向くと、厳しい表情をしたジェリコは翔の背と肩に手を添える。
「胸を張れ!」
翔が姿勢を正すと、ジェリコは翔の両頬に手を添える。
「前を見ろ!・・・そうしたら・・・」
ジェリコは厳しい表情から一転し、柔らかい表情となる。
「笑ってください」
ジェリコは翔と最初に出会った時、翔の事を指揮官だとは思えなかった。
指揮官のような威厳を感じなかったからである。
加えて、鉄血の所属であるために信頼できるかどうか疑っていた。
その後、作戦の際に翔は指揮官でありながら積極的に戦闘に参加していた。
指揮官の肩書きを甘く見ている訳ではないと思いつつも、指揮官でありながら前線に出るなどと、ジェリコは翔に問いかけたことがある。
「分からない・・・でも、僕が戦わなきゃってなぜか思うんだ」
記憶が完全に戻っていない翔は、そう言った。
しかしその表情からは、どこか影を感じられた。
自分達人形が存在できるのは、"仮面"を与えられているからである。
人形の喜怒哀楽は全て、設定されているもの。
そして、バックアップだってある。
だから見捨てても構わない、その覚悟でいた。
けれど翔はカプリコルヌスとの戦闘の際、撃破されたナディアとM200、そしてジェリコを庇おうとした。
その時、一瞬だけ見えた翔の顔・・・
まるで泣き出しそうな子供のような、それでいて命を落とす覚悟をしているかのような・・・
翔にとって、人形というのは見捨てられるものでは無い。
それはおそらく、過去の記憶に関係しているだろうと。
その後、翔からレイヤードの話を聞いた時・・・ジェリコはエゴールや他の者と同様に衝撃を受けた。
全てが作り物で、家族は全て"仮面"を付けており・・・
更には空すらない。
見方によっては、鉄格子に入れられた実験動物にも見えるだろう。
だがそんな環境で育った翔は、真実を知ってもなお信じて進んだのだ。
だからこそ、守らなければならない。
翔は指揮官であり、指揮官だからこそ守ろうとして戦場に赴くのだ。
そして翔は皆の希望である。
しかし翔は作戦立案や後方指揮は苦手としている。
得意不得意は誰にでもあることだ。ならば・・・
(私が・・・指揮モジュールとこれまでの経験を使い、作戦立案や指揮をすれば良い)
そして現在──
ジェリコは司令室にいた。モニターには翔達の様子が映し出されており、ジェリコの体のアンチコジマは活性化していた。
「それでは、作戦開始です」
ジェリコのデータリンクとダイバーのハッキングにより一気に電子戦を制し、今回の目標であるROSの部隊は撃破されていく。
相手にハイエンドモデルこそいないものの、数や位置はかなり統制が取れていたため、通常の部隊より厄介になっている。
いくら翔がレーダーを持っているとはいえ、レーダーを持たない戦術人形には敵の位置が分かりづらかった。
しかしジェリコのデータリンクにより、敵の位置は容易に判断できている。
翔達の進行と敵の撃破されていく様はまるで川の流れのようだった。
止まらず、隙をカバーし合い、確実に仕留めていく。
そして、本来であれば激しい攻防が起こると思われる作戦は、流れるようにしてあっという間に終了した。
帰還した翔はいつものように、ジェリコに礼を言う。
いつもの事で、人によっては単なる作業の1つとして言っていることもある。
しかし翔の言葉は1つ1つに心が込められている。
(仮面など、あってないようなものだったのかもしれませんね)
ジェリコはそうメンタル内で呟き、微笑んだ。
読んでくださり、ありがとうございます!
大変お待たせしてすいませんでした。
メンタル面だけでなく、予定が重なったりそれによる疲労などでなかなか進めませんでした。
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