反応爆発の可能性は現状極めて低いと判断。
大きなマズルフラッシュと共に大口径の弾丸が放たれる。
連射速度はセミオートと言って良いが、引き金は引かれたままである。
比較的遅めの弾速で弾は飛んでいき、旧式の戦車を撃ち抜いていく。
銃を撃っているのは、ランポルドである。
「全目標を撃破、これより帰還する」
夕暮れで赤く染まる空を背に、ランポルドは戦車を踏みつけていた。
ランポルドは任務から帰還すると、必ず翔の顔を見に行く。
そして翔の顔を見る度に安堵している。
しかしそれは恋愛感情から行っているものではなく、純粋に翔を心配しているからである。
ランポルドは、全ての記憶を取り戻した翔から"終わり"の後に何があったのかを聞き、それから顔を見に行くようになっていた。
何があったのかを聞いたその日の夜、ランポルドはストレコと229と共に会議を行っていた。
「この命に代えても・・・いや、私達全員が生き残りつつ翔を守るぞ」
「当たり前だ・・・もう、1人にさせるかよ」
「やってやるのだ」
翔が選択したある行い、それは想像を絶する覚悟を必要とするものだった。
その選択により、翔が背負ったものはあまりに大きすぎる。
「僕は・・・皆の事を・・・本当に、本当にごめんなさい・・・」
全てを話した時、土下座をしようとした翔をランポルドは止め、思わず抱き締めた。
「いいんです。謝る必要はありません・・・あなたは、あなたは何も、何も悪くありません!」
ランポルドは忠義に厚く、翔に忠誠を誓っていた。
しかしそれとは別に、翔を責めることなどできないと思っていた。
静かな会議室で、翔が謝罪をした日に翔が座っていた椅子をチラリと見る。
「まさか・・・私達の存在が、未来の産物ではなく・・・全て消え去っていたとはな」
ある日、ランポルドは青空の下で座禅を組んで精神統一をしていた。
森の中、風1つ無い無音の中で静かに目を閉じていた。
(翔・・・あなたの行いが、罪だとするならば・・・)
鳥のさえずりも無く、ただただ静けさが広がっている。
(あなたの行いに対する、報いと代償が・・・再び戦火に巻き込まれる事ならば・・・)
まるで、時が止まったかのように永遠に感じる時間が過ぎ去っていく。
(未来を救う代わりに、本来起こり得た未来を消し去った事が罪ならば・・・)
空には雲1つ無く、太陽は真上にあった。
(私は罪を・・・罰を・・・焼き尽くそう・・・)
ランポルドはゆっくりと目を開ける。
(翔の飛ぶ空を、翼を、選択を・・・罪などとは呼ばせない)
ランポルドは立ち上がり、1歩を踏み出した。
ストレコは部屋のベッドの上で仰向けになり、手を天井に向けて伸ばし、手の向きを変えて手を観察していた。
「・・・お前の存在も消えちまったとなると、寂しいな」
ストレコは、かつて翔以外で自分を使いこなしたとある人物を思い出し、目を閉じる。
脳裏に浮かぶのは、その人物との思い出である。
その者は、汚染された世界の数少ない生存可能区域の1つ、『シティ』を巡ってレジスタンスと共に戦っていた。
戦いの最中、ストレコを購入したのが出会いだった。
そしてストレコを使い、戦い続けた。
戦いに勝者は無く、追撃に現れたコウモリのような特殊兵器を相手にし、それを葬った。
その者の戦い方はまさに、羽ばたく鳥のようだった。
その後、あての無い放浪をすることになったが、戦いは続いた。
謎のカルト教団、傭兵組織、正体不明の組織・・・
様々な戦場を渡り歩き、そして勝ち続けた。
二足歩行の巨大兵器、核を搭載した巨大戦艦、6本足の巨大兵器、大地を焼き払う巨大戦闘機、そして強化されたコウモリ。
そんな巨大な兵器達すら、その者は葬っていった。
まさに、全てを黒く焼き尽くすが如く・・・
そしてストレコは、いつしかその者の愛銃となっていた。
ストレコも、その者とであればどんな敵にも勝てると思っていた。
もちろん、翔ともである。
その者は勝ち続け、無敗のまま生涯を終えた。
ストレコは、その者と共に戦えたことを誇りに思っていた。
そして、翔と戦えたことも誇りである。
だがその歴史が、消えた・・・
本来起こり得た未来、その歴史は消された。
翔自身の手で・・・
消さなければ未来は救えなかった。
消さなければ同じことが繰り返される。
そうすれば、どうしようもない"詰み"が訪れる。
それだけは、避けなければならなかった。
家族を、友を、あの日々を、そして自分自身さえも。
本来起こり得た未来全てを消して、未来を救う事にした。
それがどれほど辛いものなのか、ストレコには想像もできない程だった。
昼時、ストレコは食堂で座っている翔を見つける。
翔の左隣にはM200がおり、間もなくして左隣にジェノが座る。
するとストレコは厨房へ向かった。
翔達が昼食に何を食べるか話していると、3人の前に大盛りのカツ丼が置かれる。
そして翔の前にストレコは座り、自身の前にも大盛りのカツ丼を置く。
「食え」
「す、ストレコ・・・これは一体・・・」
いきなり置かれたカツ丼に、翔はもちろんM200とジェノも困惑していた。
「うるさい。オレが作ったんだ、ちゃんと食え」
ストレコはすぐにカツ丼を食べ始める。
「いいか?オレは翔がしたことを責めるつもりは無い。あれはどうしようもない詰みだし、なんとかできたのだって奇跡だ。だから食え。食って未来に繋げろ」
ストレコなりのやり方に、翔は微笑んでカツ丼を食べ始めた。
22Rは拠点の屋上から、周囲の景色をイーゼルに立て掛けたキャンパスに描いていた。
筆を持ち、絵の具を混ぜ、白いキャンパスを彩っていく。
細かく、時に大胆に筆を走らせ、撫でるように、払うように、力加減を変えていく。
緩急を付け、細かく色を変え、質感にも気を配る。
そして完成した絵は、周囲の森と太陽の光が描かれており、まるでカーテンのような光は美しく森を照らしている。
最後に、自身の銃の銃口を模したハンコを空いたスペースに押して完成である。
「ふふん、また1つできたのだ」
ある日、22Rは翔を倉庫に呼び出した。
倉庫の中の広いスペース、そこには2つの布を被せた何かがあった。
「見せたいものって、何?」
「おいらの最高傑作、見て欲しいのだ」
22Rは自信満々な顔で、2つの布を同時に取り払った。
その布で隠されていたものを見た翔は、眼を見開いた。
「これって・・・」
それはイーゼルに立て掛けられた、2枚の絵だった。
1つはレイヤードの景色、もう1つは翔とその家族である。
レイヤードの景色。
周囲は壁に覆われており、多数の配管が伸びている。
立ち並ぶ様々な建物と歩く人々。
絵の中心には配管の通る穴があり、そこには1輪のホトケノザが咲いていた。
「ホトケノザの花言葉は、調和、輝く心、そして小さな幸せの3つなのだ。他にもあるかもしれないけど」
「ここって、2層の14番区だよね?あの景色、そのものだ・・・」
翔はレイヤードの全ての区画と地形を把握しており、絵ではあるが何ヵ月かぶりに見る景色に心が踊っていた。
「君はいつも争いを無くそうとしている。何かあったら放っておけず、助けに行く。それでいくつもの調和が生まれ、そんな君の心は、いつだって輝いているのだ」
22Rは胸を張って続ける。
「時に泣いたりしても、その輝きは決して消えてなかったのだ。そして、レイヤードでの日々は他人にとってはその幸せが小さなものに見えるかもしれないけれど、蓋を開けてみれば沢山の幸せに溢れているのだ」
22Rはドヤ顔をしており、翔は微笑みつつもう1つの絵を見る。
真ん中で笑うのは翔で、その背後に両親、右隣に姉がいた。
金の短髪のガチムチマッチョマンの父。
赤い短髪で細身かつスタイルの良い母。
青い長髪で物静かで清楚な雰囲気の姉。
「父さん、母さん、パル姉・・・」
不意に込み上げるものがあり、翔の目頭が熱くなった。
「映像記録も無い今、君にはこれが必要なのだ」
「ありがとう、22R・・・」
229は翔の本来起こり得た未来に対して行ったことは、翔にとって最善を尽くした結果であり、責めることはできないが、そっとしておきつつ、自分にできることをしていた。
その1つが、趣味である油絵だった。
読んでくださり、ありがとうございます!
今回はランポルド、ストレコ、229の話でしたが、どうだったでしょうか?
(ストレコを愛用していたのは一体どこの鳥なんでしょうね?)
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