本屋の隣にある探偵事務所。
そこへある女性が訪ねてくる。
「ようこそ、お嬢さん」
正面にあるデスクに座っている男性が立ち上がり、挨拶をする。
男性はブロンドのオールバックの髪に、灰色のスーツを着ていた。
その男性はこの事務所の探偵であり、その相棒の人形は女性を応接用のソファーに案内し、コーヒーを入れに行った。
人形はブロンドのボブカットに白いスーツを着ており、2人のスーツは色違いの同じ形であった。
「依頼があって、ここに来ました・・・」
女性の目には涙が浮かんでおり、探偵は依頼を聞くことにした。
依頼人である女性は、黒いロングヘアでブラウンのコートを着ているが、その髪はストレスのせいかボサボサになっていた。
「その・・・最近、ストーカーに遭っていて・・・眠れなくて・・・」
依頼人の話によると・・・
1週間前からストーカーが付きまとっており、猥褻な内容の手紙まで送られており、ほとんど眠れていないという。
更に、警察には通報したものの、証拠不十分とされてしまっていた。
「なるほど、話は分かりました。ではこちらで証拠を集めてみましょう」
20:00──
依頼人の女性が仕事から帰る際、探偵と相棒はそれぞれ別の位置から依頼人とその周囲を観察し、ストーカーの証拠を掴もうとしていた。
「『ペタロ』、ストーカーは?」
探偵がペタロと呼ぶのは、自身の相棒である人形である。
ペタロは人混みに紛れながら応答した。
《依頼人を尾行する人物は見当たらず・・・そちらは?》
探偵は依頼人の先を歩きつつ、周囲を警戒している。
「こっちもだ・・・だが、まだ粘るぞ」
《了解》
しばらく歩いていると、洗い呼吸の人物が依頼人を尾行し始めた。
緑のニット帽を深く被り、サングラスをかけている。
服は黒に紫のラインが入ったジャージだが、サイズが合ってないのかダボダボになっている。
探偵は依頼人に指示を出し、自分は少し道を外れる。
依頼人は道の角を、同じ方向に3回曲がる。
「・・・アタリだ、奴がストーカーで確定。証拠は取れたから、後は依頼人を守るだけだ」
探偵が依頼人に距離を近づけ、ペタロは依頼人の知り合いと偶然鉢合わせた風に装おうとしたが・・・
ストーカーは依頼人の背後に駆け寄っていった。
手に持っているものが街頭に反射して光る。
ストーカーが持っているのは、ナイフだった。
「まずいっ!」
探偵は依頼人に駆け寄り、ペタロはストーカーの前に立ち塞がると、ストーカーの右腹部に蹴りを入れる。
探偵は依頼人を自身の背後に隠し、胸のホルスターからリボルバーを抜く。
「動くな!」
暴れるストーカーは言葉にならない叫び声をあげているが、ペタロに取り押さえられて身動きが取れないでいる。
ペタロは両手が空くように拘束すると、警察へ通報しようとした。
「離せ!俺の兄貴に手を出すな!」
声のした方を向くと、モスグリーンのジャージを着てフードを被っている男がいた。
先程の発言から、ストーカーの弟であるだけでなく、近くにいたということは協力者でもあるだろう。
しかし問題は、ストーカーの弟の手には小型拳銃が握られており、それはペタロに向けられていた。
ペタロに拘束されているストーカーは下卑た笑みを浮かべたが・・・
1発の銃声が鳴り響いた。
「うあああっ!」
ストーカーの弟の持つ小型拳銃、そのバレルに1発の弾丸が突き刺さっており、弾丸を発射できなくさせていた。
探偵の持つリボルバーからは硝煙が出ており、この一瞬で撃ったのは明確だった。
ストーカーとその弟は、信じられないといった表情で探偵を見る。
探偵は余裕の笑みを浮かべていた。
「銃ってのは、使い手が信じれば当ててくれるもんさ」
その後ストーカーとその弟は逮捕され、依頼人はストーカーの被害に悩まされる事は無くなった。
依頼人が快調になっているのを聞き、探偵とペタロは拳を突き合わせた。
地元では有名な探偵、その相棒は少し古い人形だが、パーツを新しいものに新調するのを続け、表情が少し乏しい以外に問題は無い。
2人の探偵事務所は、これまで様々な事件の解決に協力してきており、地元警察からの信頼も厚かった。
ある日、探偵は警察から依頼を受けた。
内容は、行方不明となった人形の捜索だった。
本来であれば、探偵の力を借りる必要など無いはずだが、数日前に大量のELIDが突然現れたことにより、町の警官の数は大きく減っていた。
そのため、人形の捜索を依頼してきたのである。
探偵は依頼を快く引き受け、人形の行方が途絶えたとされる場所へ向かった。
「なんだここ?痕跡がほとんど無い・・・」
場所は廃墟となった工場地帯で、既に土地の買い手が見つかっており、近く住宅地やショッピングモールなどが建つ予定になっていた。
「僅かな痕跡は所々ありますが、それにしても数が少ないですね」
痕跡という痕跡が悉く消されており、足跡はおろか服の繊維すら無かった。
不気味な程に痕跡が無く、探偵はため息をつく。
「はぁ・・・これじゃあ、ここで何があったのかが全く分からないな・・・」
しかし次の瞬間、探偵の腹部に何か衝撃が入る。
「グホァッ!」
衝撃の強さと大きさ的に、咄嗟に殴られたと探偵は思ったが、ペタロは腹部を殴られたように体を曲げ、その場に倒れた。
「ペタロ!」
すると、数人の男女が現れてペタロを拘束し、連れ去ろうとする。
「美しい、まさに天使だ!」
「本当に旧式なのか?」
「おい、さっさと行くぞ!」
男女の会話を聞くに、人形天使教であると判断した探偵は立ち上がろうとする。
「お、お前ら・・・待て・・・」
しかし、振り向いた男が探偵にテーザーガンを撃ち、探偵は意識を失った。
探偵が目を覚ますと、病院にいた。
すぐに看護師が医者を呼びに行き、医者と共に警官も病室に入ってきた。
すぐに警官に何があったのかを説明するが、警官は口を濁していた。
「どうした?すぐに動けば、助けられるかもしれない!いなくなった人形だって、もしかしたらアイツらに拐われたのかもしれない!」
警官は探偵に顔を近づけ、囁いた。
「・・・実は、署長が人形天使教と繋がりがあってな。人形天使教が関わってる事件は、捜査させてくれないんだ。俺だって、力になってやりたい」
警官は、探偵の服の袖に急いで書き留めたメモを差し込み、探偵から離れた。
「事情は分かった。上に伝えておこう」
そう言って警官は去っていった。
警官が残していったメモには、最寄りの人形天使教の拠点が記されていた。
探偵は病院から抜け出し、人形天使教の拠点に向かった。
崖下の山中、そこに拠点はあった。
途中で事務所に寄って予備の弾丸を持ってきており、数を確認してから拠点の裏口に入る。
呑気にイヤホンで音楽を聴きながら、何かの部品を点検している男性の背後から奇襲し、イヤホンを外して口を塞ぐ。
「人形達をどこへ隠した?言え!」
突きつけられた銃口に、男性はすぐに場所を教えてしまう。
探偵は男性を殴って気絶させ、先へ進む。
しかしそこからの探偵の行動は、監視カメラに映っておりすぐに武装した信者が集まってきた。
探偵は迷わず信者を射殺していき、物陰に隠れてリロードする。
廊下を進み、階段を降りる。だがそこで左右からの挟み撃ちに遭い、1人は倒せたもののもう1人に撃たれてしまう。
撃たれたのは、右腕である。
更に、そこに集まってきた信者達はペタロを含む5人の人形を連れてきた。
信者の中に、階級が高いのか煌びやかな服装の男性がいた。
「全く・・・こんなに殺してしまうとは・・・」
「黙れ!今すぐ人形達を解放しろ!」
探偵は左手でリボルバーを持ち直すが、背中を殴られて膝をついてしまう。
(バカなっ!?後ろには誰もいないはず!足音すらしなかったぞ!?)
探偵は信者達に銃口を突きつけられ、ペタロ達5人の人形にも銃口が向けられている。
「あなたは信者達を何人も殺しました。そして、この人形にはあなたを呼び込んだ罪があります・・・よって、罰を与えます」
信者達は、迷うこと無くペタロ達に向かって引き金を引いた。
「やめろおおおおおおおおおお!!!」
ペタロは、最初は探偵の母が購入した家政人形だった。
しかし、探偵が事務所を開いてからは母親の勧めもあり、ペタロは探偵業の手伝いを始めた。
しばらくして、ペタロの素体を新しいものに変え、ペタロと探偵のできることは増えていった。
2人の仲は深まっていき、家族と言える関係になった。
互いに支え合う相棒であり、家族であり・・・
旧式なんてのは関係無くなっていた。
そんなペタロが、頭部を撃たれて人工血液と部品を撒き散らしながら機能停止した。
探偵は信者を撃とうとするが、左腕が殴られたような衝撃を受けて折れてしまった。
「あなたは生かしておいてあげましょう。我らに逆らいし人間が、何を生むのか・・・それを知らしめるために」
こうして、探偵は町の入り口近くに投げ出された。
ベッドの上で、探偵は目を覚ます。
今となっては、元探偵となっているが。
時計を見ると、08:00だった。
「また、あの夢か・・・」
元探偵がいる部屋は少し前まで住んでいた民家ではなく、質素だが明らかに上流階級のものと言える部屋だった。
「・・・許せない、許せない、許せない!」
元探偵は自身の顔を掴み、歯軋りをする。
「あの、鴉!絶対に・・・絶対に、殺す!」
その目に、かつての輝きは無く・・・
あるのはただ、憎悪に燃え上がった目だった・・・
読んでくださり、ありがとうございます!
遅くなってしまい、すいませんでした。
今回の番外編、探偵は誰か分かりましたか?
ちなみに、前回の前書きは日本語にすると「任せたよ」になります。
ではこれから、章毎の解説一覧を書いていきます。
ついでに誤字脱字の点検と、解説漏れが無いか探していきます。
解説漏れは、文字数が足りなければ解説一覧に載せます。
●探偵
黒いオールバックの髪の探偵。
地元では有名な探偵だった。
射撃の腕はかなりのもので、地元では彼の右に出る者はいない程である。
●ペタロ
ブロンドのボブカットで身長160cm。
白いスーツを着ている。
旧式であるが故に、表情が少し乏しい。
しかし探偵の事は信頼しており、家族として扱ってもらえるだけでなく、相棒であることを誇りにしていた。
名前はイタリア語で花弁を意味している。
探偵の母親が家政人形として購入し、それからは共に過ごすうちに探偵業を手伝うようになった。
新しい素体は、ペタロから頼み込んで得たものでもある。
しかし、人形天使教の信者により破壊されてしまった。