誰かによる、明日への曲を。
第76話 音楽隊
ドイツ、ブレーメン──
雨が降る中、とある古い家に5人の人影があった。
「さぁて、久々にここからスタートしよっか!」
ニコニコしながら、オモチャのラッパをクルクル回しているのは、ジェノである。
その隣にあるベッドで、横になって本を読んでいるのはスライサーである。
「もう夜ですから、寝たいですわ」
ボヤくスライサーに、ガンナーは背後からアイマスクを着ける。
「ならこれでも着けて寝てろ」
そして、部屋の端でチェスをしている見慣れない2人がいた。
「チェックメイト、私の勝ちだ。"フレモント"」
「ぶーぶー!」
チェスに勝ったのは"エルプセン"。
長い青紫色の髪に、白いノースリーブのシャツと大量のポケットが付いた緑のズボンを履いており、耳にはエンドウ豆のピアスを付けている。
チェスに負けてブー垂れてるのはフレモント。
水色でフワフワな短髪に、水色の冬服を着ているが腹部は布で覆われていない。
2人は以前クラフターに造られた戦術人形であり、本来起こり得た未来の武器でもあった。
「今日はもう寝よう、明日は遅い」
「も~う!逆だよ!早いんだよ!?」
5人がブレーメンに来たのは、ブレーメンにてパラデウスの動きが確認されたからであり、2日後に翔がドイツに入る前に情報収集をするためである。
基本はジェノ、スライサー、フレモントの3人が行動し、ガンナーとエルプセンは武装の関係上、潜入には適さないと判断して後方支援に回っていた。
ジェノ達は夜が明けてから、すぐに拠点から出て行った。
そして、パラデウスとの関係が疑われている『ガラテアグループ』の1つである植物研究所へ向かった。
すると、ジェノとスライサーにとっては見覚えのある者がいた。
植物研究所、そこにはアンジェがヨーロッパ側内部にある不穏分子の調査を依頼されており、2人の男性と1人の女を連れていた。
アンジェのサポートと護衛のため、その2人は付いていたが・・・
紫がかった黒い短髪に黒いスーツを着た女性は、窓の外にいたジェノを見た瞬間、顔色を悪くする。
「どうしたの、"モリドー"?」
アンジェに気を遣われたモリドーは「単なる見間違えでした」と言ってもう一度チラリと見てみる。
ジェノは既にいなかった。
(どうして・・・どうしてこんな時にアイツがここに!?私を見つけた瞬間の、あのオモチャを見つけた悪魔のような笑み!絶対にジェノサイダーです!)
2日後日、翔とルビー小隊がドイツ入りした。
しかし翔とM200は他のメンバーの勧めもあり、半ば強制的に2人でドイツを観光することとなった。
「任務なのに・・・どうして僕達だけ観光を・・・」
眉毛をハの字にしている翔だったが、M200が乗り気なので仕方なく行く事になった。
なお、他のルビー小隊のメンバーは2人の周囲で隠れて護衛することになっている。
ジェノ達は、2人が観光に向かうのを満面の笑みで見送った。
しかし振り返った瞬間、ジェノはオモチャを見つけた悪魔のような笑みを浮かべた。
「さぁて、こっちはこっちで楽しもっか!」
その頃、アンジェ達は調査対象である『パウエル』を確保するため、難民エリアに入っていた。
難民エリアは、ブレーメン政府からは"膿疱"と呼ばれるような場所であり、実質見捨てているも同然だった。
しかしそれ故、違法な売買が横行していた。
その売買されるものの中には、人身すらあった。
パウエルはその中でも、特に大きな犯罪組織のトップであり難民エリアの裏を牛耳っている。
更に、アンジェ達を付け狙う者もいた。
そんな中をアンジェ達は掻い潜り、パウエルへと辿り着こうとしていた。
礼拝堂に難民達が集まり、騒いでいる。
壇上にいる、ブロンドの短髪に薄茶のゆったりとした服をしている、でっぷりと太った男性・・・彼がパウエルである。
「同胞達よ、奴らは遂に・・・我らが故郷へと魔の手を伸ばした。我らの自由は全て、奴らの築いた壁によって閉ざされている。そのせいで、状況はより悲惨な方向へ悪化している・・・」
難民達は、難民エリアとそうでないエリアを隔てている高い壁を思い浮かべる。
難民エリアに押し込まれ、食うに困るだけでなくまともな治療もできず、その結果死ぬ者や犯罪に手を染めざるを得なくなった者もいる。
「世界はこうあるべきではなかった・・・既に壌土も町も、居場所も、戦火によって地獄と化し、破壊し尽くされた」
パウエルは心の中でほくそ笑みながら、顔は悲しげな表情を浮かべて俯く。
「こうなったのは、我らが罪を犯したわけではない。特に、腐ったゴミの中で生まれた子供に、何の罪がある?
そのパウエルに、難民達が声を上げる。
「受け入れない!絶対に!」
「ここは私達の場所よ!」
「誰にも奪わせない!」
「血で償わせろ!」
声を上げた難民達の中には、パウエルが指示したサクラも混じっていた。
パウエルは顔を上げた。
「そう、ここは我々の故郷なのだ。それを踏みにじり、見下し、更には子を殺した!だから・・・血で償わせるのだ!」
パウエルは声を荒げ、続ける。
「我々は何も間違っていない!全ては卑怯な奴らの自業自得だ!今こそ!我々が戦えることを奴らに分からせる時だ!そして!我らの尊厳を取り戻すのだ!」
難民達は拳を突き上げで声を上げ、その声は礼拝堂に響き渡った。
その後、パウエルが焚き付けた難民達が暴動を起こした。
アンジェ達は建物の屋上を伝って難民達を避けて行こうとした。
しかし、路地の端に山積みにされた死体の山が、動いた。
コーラップスによる汚染で、ELID化したのだ。
ただの死体と、ELIDの区別などほとんどつかない。
だが死体の山の側に、黄色い粉末があった。
アンジェは、嫌な予感が頭をよぎる。
「感染者はそう簡単に変異したりしない、誰かが変異を促してるのよ」
難民エリアの半分以上、もしくは全てがELIDとなった時の恐ろしさはとてつもないものである。
しかし、アンジェは不意に鼻に違和感を覚える。
触れると、鼻血が出ていた。
男性2人も鼻血が出ており、アンジェは死体の山付近にある黄色い粉を見る。
「・・・風があの粉を巻き上げてるんだわ、ここから離れないと!」
すると難民の1人がアンジェ達を見つけ、指を指す。
それを見た他の難民達が集まってきたが、黄色い粉を多量に吸ったと思われる難民は理性を失っていた。
アンジェ達はすぐに逃げたが、程なくして下に降りるしかなくなってしまった。
その後難民達をある程度撒きつつ、1つの建物に逃げ込んで他の場所から出ようとすると・・・
「がっ!」
「なんだお前ら!?グギュッ!」
「ゴブッ!」
急に辺りが静になり、男性の1人である『ホップス』は拳銃を構えながら、裏口の扉に近づく。
ブロンドの短髪に、黒いスーツを着た彼は音を立てないよう、ゆっくりと扉を開けた。
扉を開けた瞬間・・・
ホップスの目の前にフレモントが現れ、「ぷー」とオモチャのラッパで間抜けな音を鳴らした。
「・・・は?」
するとフレモントが振り向き、物陰から顔を出しているジェノに声をかける。
「ね~!やっぱり反応悪いよ!」
ジェノは笑いながら物陰から出てくる。
続いて、スライサーも別の物陰から出てくる。
「お、お前達は!?」
ホップスがフレモントに銃口を向けていると、アンジェが出てくる。
「ちょっと待って・・・そのエンブレム、ナインボールね」
フレモントは頷いて答える。
「そう!翔さんから頼まれて、パラデウスの調査をしてたんだよ!でも翔さんが前に話してたアンジェさんがいたから、助けに来てみたんだよ」
すると、ジェノは一瞬でモリドーに接近し、眉毛を高速で上下させながらすり寄る。
「んで~?久しぶりだね~モリモリ~。元気してた~?ん~?」
「調査とはいえ、なんでこんなところにあなたがいるんですか!?」
モリドーが1歩下がると、ジェノはニヤニヤしながら1歩近づく。
「何、あなた達知り合いなの?」
アンジェが質問すると、ジェノはピースしながら答えた。
「ニヒヒ~、そうだよ~!あ、でも詳細はまた後でね!そろそろ行かないと!」
周囲には僅かながら難民達の声が聞こえてきている。
「さぁ行くよ!私が案内するよ!早く行くよ!」
フレモントは両手に武器を構え、スライサーと共に先陣を切る。
アンジェ達はフレモントに続いて進んでいき、ジェノは後方から進んでいく。
難民エリアの出口まで、もう少しである。
読んでくださり、ありがとうございます!
ここから第7章、開幕です。
今回は、ゲーム本編のイベントの1つ『双連乱数』に入りましたが、どうだったでしょうか?
ちなみに、フレモントとエルプセンはまだ戦闘描写が無いので、解説は後になります。
感想や高評価、お待ちしています!
●ガラテアグループ
ドイツの老舗企業であり、医療関係をメインとしている。
様々な医療製品を作り続けていたが、近年ではパラデウスとの繋がりが疑われている。
●モリドー
紫がかった黒い短髪に黒いスーツを来ている女性。
ヨーロッパ代表の秘書を務めている。
過去にジェノ達バタフライムーンとの面識があるが、詳細は不明。
しかしジェノがかなり苦手である事は判明している。
●パウエル
ブロンドの短髪に薄茶のゆったりとした服を着ている、でっぷりと太った男性。
難民エリアの裏を牛耳る者であり、様々な違法売買に手を染めており、中でも人身売買には特に力を入れている。
●ホップス
ブロンドの短髪に黒いスーツを着た男性。
政府関係の安全保障を担当しており、モリドーと共にアンジェの護衛を依頼されている。
自他共に厳しく、現実主義でもある。