鴉と人形   作:ダイヤモンド傭兵

90 / 102
 乱数に規則性はありません。
 そこから生まれた新たな結果を、あなたは掴みますか?




第77話 やり方は違えども

 難民達の怒号と足音が響いている。

 

 時折、爆発音や銃声も響いている。

 

 争いの音色が響いている。

 

「殺せぇ!血で償わせろ!」

 

「奴らに思い知らせてやれ!」

 

「ここは俺達の場所だ!」

 

 しかし・・・

 

「おい、なんだ!?」

 

「どうしたトーマス?トーm、あ"あ"あ"あ"あ"っ!」

 

「ベティ!俺だ!俺だよ!おいよせやめっ…ギャアアアッ!」

 

 ELIDと化した難民が、かつての同胞を食らい、難民エリアに新たな音色が加わる。

 

 

 

 そんな難民エリアを、ジェノ達とアンジェ達は進んでいた。

 先頭はフレモントとスライサーが進んでいるため、アンジェ達はほとんど戦闘せずに済んでいる。

 

 しかし、フレモントとスライサーの動きに、アンジェ達は目を丸くしていた。

 

 スライサーは逆手に持った両刃の刀を使い、かなりの至近距離で戦っている。

 その刀の切れ味を利用し、複数の敵や障害物ごと敵を斬り倒しながら進んでいる。

 

 フレモントの武器『パルスガン(以下パルガン)』は拳銃のように銃身が短く、切り分けられたケーキのようなものが花のように広がっている。

 そこから散弾として放たれるのは、6発の青い電磁弾である。

 

 その電磁弾は着弾すると、小規模な青白い爆発を起こす。

 そのため、敵にダメージを与える範囲と威力は高く、人間であれば跡形も無く溶けて散ってしまう。

 

「もう少しだよ!走って!まだ行けるよね?」

 

 

 

 本来起こり得た未来の兵器、その火力を初めて目にしたアンジェ達は驚きつつ、進んでいく。

 もう既に、難民の声よりELIDの声の方が多くなっていた。

 

「お嬢ちゃん、おたくらの銃の火力って、ちょっと高すぎない?」

 

 アンジェ達と共に行動している、黒い短髪で黒い革ジャンを着ている『J』が問いかけると、フレモントは振り向かずにELIDを撃ちながら答える。

 

「高めだけどね!大丈夫だよ!それより行くよ!」

 

 一行が進んでいると、子供の鳴き声が聞こえた。

 1人の男児がELIDの群れに終われていた。

 ELIDの服装から、彼らが元は難民だったことが判る。

 男児は辺りを見渡すと、ホップスと目が合った。

 

「た、助けて!」

 

 男児は一行に駆け寄ろうとするが、男児はELIDに囲まれてしまう。

 ホップスは男児を一瞬見捨てようとしたが、フレモントがパルガンで2体のELIDを同時に倒し、男児に駆け寄る。

 

 フレモントが1度に倒せるELIDの数は2体。

 しかしELIDの数は明らかに多く、スライサーとジェノは他のELIDの対処やアンジェ達の護衛のため動けなかった。

 JがHGでフレモントを援護するが、それでも数は多すぎた。

 

「さぁ走って!ホップスさん!頼んだよ!」

 

 フレモントは右腕に噛みついたELIDを振り払い、壁を蹴って登り、ELID達の注意を引く。

 その隙に男児はホップスに駆け寄り、ホップスは男児を抱えて走る。

 

「おじさん!」

 

「もう大丈夫だ!行くぞ!」

 

 

 

 

 

 一行が進んでいると、逃げている途中のパウエルと鉢合わせる。

 

「お、お前達はっ!?」

 

 アンジェがすぐにパウエルを取り押さえ、手錠を掛ける。

 

「まさか鉢合わせるなんてね・・・一緒に逃げる人数が増えたけど、構わないかしら?」

 

 アンジェが近くにいたスライサーを見ると、スライサーはウィンクをした。

 

「問題ありませんわ。それに、あなた達が追っている相手であれば、喜んで連れていきますわ」

 

 するとJがパウエルの襟首を掴む。

 

「んじゃ、俺がこいつを連れてくよ。援護は任したぜ」

 

 そしてパウエルを含めた一行は難民エリアから脱出すべく、教会の中へ避難した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 教会の中には、アンジェの指揮下にある反逆小隊のRPK-16と『AK-15』がいた。

 AK-15は銀の長髪でAK-12とよく似た顔であり、黒いスーツを着ていた。

 

 2人によって教会の中は制圧されていたが、教会の周りにはELID達が歩き回っている。

 

 シュタージのエージェントであるJの同僚が、なんとか車を向かわせようとしているが、やはりELIDの数が多く進めない状態だった。

 

 アンジェはこの多すぎる数をどうにかできないか、Jと話し合っていた。

 ホップスは男児に懐かれたようだが、苦い顔をしている。

 フレモントとスライサーは教会内をクリアリングしており、ジェノは男児とホップスから離れないよう位置取っている。

 

 ホップスが次第に苛立ってきていると、クリアリングから戻ったフレモントとスライサーが、男児用の服を見つけてきたので別室に男児を連れていった。

 すると、ジェノがホップスに問いかける。

 

「ねぇ、ホップスさんって・・・独立党のスパイでしょ?」

 

 ホップスはジェノを睨み、アンジェ達もホップスを見る。

 ジェノはいつものニコニコとした表情で続ける。

 

「コッソリとね、データを詳しい所まで閲覧させて貰ったんだけどね・・・ホップスさんはホップスさんで、国の事を考えて行動してたんでしょ?」

 

 ホップスはHGに手を掛けようとするが、ジェノは動こうとしない。

 

「別に私は捕まえようなんて思ってないよ?だって今回の黄色い粉はホップスさんがやったことじゃないし。ただね、聞きたいことがあるの」

 

「・・・は?」

 

 ジェノは近くの椅子に座り、両手で頬杖をついて続ける。

 

「ホップスさん・・・ううん、『フランツ・サレク』さん・・・この国の本来の姿を取り戻したかったんじゃないの?データを見てると、そんな気がしたんだ」

 

「・・・だからなんだ?それの何が悪い!?前の対戦で我々は失敗した。ドイツの血と国土、そして脆弱な民族共同体守る上で、我々は失敗した・・・だが!」

 

 ホップスは拳を握り締める。

 

「敗者が蹂躙される事に文句は無いが、同胞達が命懸けで守ったこの国を、理想に溺れたロクサット主義者と、死人を崇めるカルト集団に預けるなど、言語道断だ!」

 

 ジェノは少しだけ、ホップスに顔を近づける。

 微笑みを絶やさないジェノは、逆に感情が判りづらくなっている。

 

 

 

「別に良いんじゃない?そういう思いで頑張るのって」

 

 ホップスは予想外の返答に目を丸くした。

 

「だってさぁ、ロクサット主義の人達って正に理想に溺れたって表現が合うような人達だし、パラデウスは散々な事してるし・・・理想を掲げながらパラデウスと組むなんて、そんな人達、殺したくなったりしたってしょーがないよ」

 

 ジェノはあくびをしてから続きを話していく。

 

「自分の国を守るために戦ったのに、国民を搾取するような真似されたらそれはキレるよね。兵士も役人も、自分や家族の生活が懸かってるもんね・・・でもね」

 

 ジェノは椅子から降りると、ホップスに一礼する。

 

「ここまで、スパイであれど誰へも後ろから撃たないでくれてありがとう。子供が駆け寄った時、その子が難民でも抱えて逃げてくれてありがとう」

 

 ホップスは困惑した。

 自分はスパイであるから罵倒されるはずだ、場合によっては撃たれるはずだ、なのにジェノは罵倒でも発砲でも手錠でもなく、感謝の言葉を告げた。

 

「俺は最初あの難民の子供を見捨てようと・・・」

 

「でも、結局は助けてくれたよね?それで良いんだよ、それで」

 

 ホップスはどう返答すれば良いか分からなくなった。

 すると、ジェノはアンジェ達の方を向いた。

 

「ねぇ、アンジェさん・・・J君・・・彼はちょっと見逃してくれる?1つだけ条件つけるからさ」

 

 アンジェとJは怪訝な表情を浮かべる。

 

「条件?」

 

「まさか金とかってんじゃねぇよな?」

 

 ジェノは笑ってそれを否定する。

 

「あはは!違うよ~!条件はね・・・」

 

 ジェノは座るホップスと目線を合わせてニッコリと笑う。

 

「この国ができるだけ平和的なやり方で良くなっていけるよう、君は架け橋になりなよ」

 

 ジェノはホップスに手を差しのべる。

 

「君はあの子供を助けられた。どれだけ理想を掲げても、どれだけ信仰を持とうと・・・手の届く人を助けられない人は、誰も助けられないんだよ」

 

 ジェノの笑顔は、いつもより明るく見えた。

 

「最初は見捨てようとしても、結局は助けた。その1歩を踏み出せたのなら、大丈夫だよ」

 

 ホップスは一瞬躊躇ったものの、ゆっくりとジェノの手を握った。

 するとジェノはホップスを引っ張って立たせる。

 

「さぁ、ここから脱出しよっか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空気を引き裂くような銃声が轟く。

 屋根の上に、エルプセンがいた。

 彼女は片膝立ちで、右腕に取り付けられた『スナイパーキャノン(以下スナキャ)』を構えていた。

 

 大型の機関に、長いバレルをバレルジャケットで覆っている。

 エルプセンの左膝には縦長のシールドが装備されており、左右に展開して計3枚のシールドで被弾部位を減らしている。

 

「ジェノのヤツ、今度奢りだぞ。こんなにつまらない獲物を寄越すとは・・・」

 

 スナキャの轟音に釣られてELID達は教会から離れていく。

 更に、別の方向ではガンナーが空からELID達を撃ち下ろしており、その銃声にもELID達が集まっていく。

 

 ジェノ達は教会の周辺からELID達が少なくなったのを見計らい、急いで脱出ポイントへと向かった。

 

 

 

 脱出ポイントへ着くと、ジェノは男児の頭を撫でてからアンジェとJ、モリドーに問いかける。

 

「一応聞くけど、ホップスさんはどうするの?」

 

 アンジェはため息混じりに答える。

 

「とりあえず、本当の架け橋になるのか試させてもらうわ。無論、何かしでかしたらその時は問答無用で逮捕するわ」

 

 Jとモリドーは頷いて肯定の意を表した。

 

「な~んだ、良かった~!」

 

 ジェノはクルクルと回りながらその場から離れると、建物の壁を伝って屋根に登り、スライサーとフレモントも屋根に登った。

 そのまま去ろうとしたところで、Jがジェノを引き留めた。

 

「おーい!そういえばジェノちゃんの任務ってなんだったの?」

 

 ジェノは振り返って笑顔を向ける。

 

「パラデウスに関する情報収集だったけど、今回の事件が関係ありそうだったから、それで報告書書いとく~!じゃ~ね~!」

 

 

 

 去って行くジェノ達を見届けた後、ホップスは男児の方を向いた。

 

「いいか、今日起こったことを忘れるな。こんなことをもう起こさせないために、勉強し、お前にできることで強くなれ」

 

 男児が頷くと、ホップスは去っていった。

 その顔は、決意に満ちていた。

 

 




 読んでくださり、ありがとうございます!

 今回はホップスに変化が起きましたが、どうだったでしょうか?
 エルプセンの戦闘シーンが少なかったのはすいません・・・
 感想や高評価、お待ちしています!

●フレモント
 水色でフワフワな短髪で身長150cm。
 水色の冬服を着ているが腹部は布で覆われていない。
 本来起こり得た未来種別はパルガン。

 真面目かつ早めの行動を意識しているが、考えるより体が先に動くことがしばしばある。

 戦闘では機動力を活かした近距離戦を得意としており、一撃離脱の戦法を最も得意としている。
 

●パルスガン
 複数の電磁弾を同時発射する■■用武器。
 電磁弾は着弾するか射程限界まで飛ぶと、小規模な青白い爆発を起こす。

 パルガンは総じて弾の拡散範囲が広く、射程限界で爆発する性質も相まって有効射程がかなり短い。
 しかし全弾命中した時の火力は高い。

 フレモントは特に全弾命中時の火力が高く、パルガン内では3本の指に入る程である。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。