同じ読みでも、漢字や言い方が違えば全く違う意味になります。
僅かな休息が、通信機からの呼び出し音でかき消された。
銀治は臨時の拠点でマハリアンを保護した後、次の手を考えていた。
しかしマハリアンを保護できたため、そこは安心できていた。
だが、誰が通信を入れてきたのかと思えば、グリフィンだった。
《久しぶりだね、鴉間君》
「・・・サー、あなたはもうこちらとは関係無いのでは?」
銀治が怪訝な表情を浮かべるが、グリフィンはいつも通りの冷静な表情をしていた。
《君達が一方的に関係を切ってきたんだが、私はまだ関わりはあると思っている。もしそうでなくとも、私は以前の関係を修復したいと思っている》
しかし銀治は警戒を崩さないでいる。
《私は一方的に関係を切られて残念だと思っている。しかし、我々の関係を修復することは、互いのメリットになるはずだ》
翔が、愛海が言っていた翔・ニールセンだと七刀会の全員に通達が行った翌日、七刀会のメンバーは次々と翔への支援に特化していき、一部の組織とは関係を絶ったりもしていた。
七刀会の中で、グリフィンと関わりのあったクルーガーとハーヴェルは、グリフィンを含むプロメテウス計画を進める『ロクサット連合』との関わりを即座に絶っていた。
グリフィンはそれを知るとほぼ同時に、クルーガーとハーヴェルに通信を入れた。
「なぜ、我々と手を切った?」
クルーガーは普段のような力強い眼差しをており、ハーヴェルも普段のような飄々とした雰囲気だった。
《"鴉"が帰還したからだ。サー、お前の事だ・・・七刀会の事は既に知っているだろう》
「・・・神城愛海を中心とした組織だろう?肝心の目的は誰も教えてはくれなかったがね。だが、それがどうしたというんだ?神城愛海はもう既にいない。なのになぜ、七刀会に拘る?」
するとハーヴェルは「ほっほっほっ」と笑った。
《サー、お前さんは神城愛海の事も、彼女と我々の関係も解っていない。我々の関係は主従でも忠誠でも無い・・・少し照れるが、友情だよ》
グリフィンは信じられないと言った表情で、それを見たハーヴェルは再び笑った。
《信じられんか?まあ、もし儂が愛海と出会わなかったら、友情だけではここまでしなかったろうし、結局はロクサット連合に協力し続けたかもしれん》
グリフィンには理解できなかった。
契約や崇高な使命があるわけではなく、損得ですらない友情でここまで行動できるかを。
すると今度はクルーガーが口を開いた。
《彼女は、損得ではなく友人として我々を繋いだのだ。あの純粋で、それでいて力強く歩む彼女は輝いていた。それに、未来を楽しみにしていた・・・彼女はまさに、新世界の輝きだった》
そこに付け足すように、ハーヴェルは口を開く。
《だが、愛海は殺された。ロクサット連合の者でもパラデウスでもない何者かによって・・・だからこそ、その下手人を見つける必要と、彼女があの世で安心できる未来を創る必要があった・・・》
グリフィンは、ここで気づく。
2人には、ロクサット連合の望む未来を見ておらず、別の未来を見ていることに。
「そこに、鴉が帰還したと?」
《そういうことだ。愛海が生前、輝きの裏で探し求めていた"鴉"が帰ってきたとなれば、もうロクサット連合と手を組み続ける理由は無い》
クルーガーの言葉に、サーは脅しをかける。
「・・・ロクサット連合と手を切って、本当に良いのか?」
すると、クルーガーとハーヴェルは2人揃って笑みを浮かべた。
その笑みは、どこか吹っ切れていると共に眩しさ感じられた。
《やれるものならやってみろ、こちらも既に対策はしてある》
《資金面なら、既に日本との契約は済んでいるからな》
クルーガーとハーヴェルは、既に日本との手を結んでいた。
現在──
銀治は、グリフィンを試すつもりで問いかける。
「関係を修復したい、ですか・・・具体的に、何をするんです?」
グリフィンは微笑んでそれに答える。
しかしその返答は、予想外のものだった。
《マハリアンを、こちらに引き渡してほしい。彼女がこちらにあれば事は互いにとって有利に進む》
銀治は眉を潜める。
「それは、どういうことですか?」
《マハリアンは、コーラップスによる汚染を治療することができる。そのため、こちらではネイトであると推測されている。彼女がネイトなら、メンタルモデルに入ることが可能だ》
銀治は聞きながら思考を止めずにいる。
グリフィンは、ロクサット連合はマハリアンを欲している。
《メンタル内の情報を手にすれば、コーラップス汚染の治療法が見つかるだけじゃない、パラデウスに関する情報も多く手にできるだろう》
ロクサット連合がどういう組織か、グリフィンがどういった人間か、銀治はクルーガーから聞かされていた。
それだけでなく、以前グリフィンからの依頼があった際、銀治はグリフィンを信用できない者と悟っていた。
まるで、幼少期の頃にいたゴミ捨て場へ、何度も来ていた大人にそっくりだったからだ。
そのため銀治は・・・
「お断りします」
《・・・なぜ?》
「あなたが、信用できないからです。あなたはこれまで、他人に汚れ役を任せて自分は安全な所から眺めているだけだ。俺はかつて、あなたと同じような大人を見てきました。もう2度と、手を取りたくない人達を・・・」
するとグリフィンは、あっさりと引いた。
《・・・なら良いだろう、好きにすると良い。だが、我々はまた会うことになる》
グリフィンは通信を切り、銀治は冷えたコーヒーを飲み干した。
ロクサット連合の交渉人の1人が、再び日本政府へと交渉を持ち掛けていた。
「・・・どうです?ここまでの優遇処置があれば、プロメテウス計画に、参入してくれますか?」
対応している者は、小さくため息をついた。
《あなた方は、何か勘違いをしているようですね。我々は、優遇されたいのではありません。我々は、あなた方の計画そのものに反対しているのですよ?》
「しかし・・・以前も言った通り、世界が1つになれば戦争も飢えも無くなり、真の平和を手にできるのですよ!?」
食い下がる交渉人に、対応者は冷たい眼差しを向けていた。
《それに関しては、こちらも以前言ったようにあなた方のやり方では平和など手にできないと判断しています。国境が無くなれば、その分内戦や犯罪が多発し、文化の破壊も起こります》
対応者は常に淡々としており、交渉人はそれに苛つき始める。
《それに・・・あなた方のプロメテウス計画には、一見良いように見えても、様々な観点から破綻していると言える部分が多く、とても賛同できたものではありません》
すると、交渉人は拳を握り締めて声を低くする。
「・・・あなた方は、戦争をしたいのですか?」
対応者は表情も口調も変えず返答する。
《我々は、1度も戦争をしたいだのとそのような事を口にした事はありませんよ?脅したことも、何かを要求した事もありません。言ったとすれば、あなた方への明確な拒否です》
対応者は少しだけ声を低くする。
《しかし、それなのにその問いをしてくるという事は・・・あなた方にこそ、その意思がある。という認識でよろしいですね?》
交渉人は一瞬言葉に詰まり、対応者は少しだけため息をつく。
「ち、違います・・・我々は、戦争をしたいのではありません」
《ならなぜ、戦争をしたいのかと言ったのですか?仮にその問いが脅しだったとしても・・・そのような脅しをかける人間が、平和を実現させれるとは思えません》
対応者は表情に出さないものの、内心呆れていた。
《それと・・・あなた方は、どうやら日本でコソコソと計画の賛同者を増やそうとしているようですが、無駄ですよ。同調圧力を利用したり無知な者を唆そうとしても、この国ではそれは通用しません》
交渉人の眉がピクリと動いた。
《裏でコソコソと姑息な真似をしているのでは、なおさら平和の実現は無理ですし、協力などとてもじゃないですが無理です》
交渉人は拳を握り締めており、対応者の顔を睨み付けていた。
「・・・後悔するぞ」
交渉人はそう言って通信を切った。
通信を切られた対応者は、即座に内容を各部署と企業に送った。
読んでくださり、ありがとうございます!
今回は銀治サイドがメインの話でしたが、どうだったでしょうか?
感想や高評価、お待ちしています!
●ロクサット連合
プロメテウス計画を進めている連合。
ロシアとドイツの様々な政治家や企業、資産家などが加盟しており、特にドイツの政治家や企業の多くが加盟している。
しかし統一世界政府による平和を掲げる一方、裏では手段を選ばず行動しているため、それを恐れて加盟している者も一定数いる。
また、連合の上層部は自らが掲げるプロメテウス計画の欠点に気付いており、それを理解していながら計画を進めている。
そしてロクサット主義を最初に掲げた者は既に亡くなっており、その理念は既に形骸化している。