しかし、簡単には変わらないものもあります。
その日、空は晴れていた──
翔は情報収集のため、変装をしてボーン村に向かった。
そこではエリヤが演説をしていた。
しかし、エリヤの演説は普段より熱が入っており、過激にさえ感じられる程だった。
「聖女は裏切った!神であるパラデウスに背き、悪へと堕ちた!これは許されざる行いであり、断罪すべきである!」
翔は眉を潜めた。
マハリアンが何をしたのだろうか?銀治もマハリアンも、ボーン村に害のある行為は1度もしていないはずである。
「そして、聖女が裏切る原因を作った悪魔も断罪せねばならない!聖女を連れ去った、あの悪魔を!」
翔は物陰に隠れ、すぐさま待機しているゲーガー達に、銀治とマハリアンがボーン村へ来ないよう連絡した。
理由は不明だが、マハリアンと銀治はエリヤ達パラデウスの信者にとって、敵として見なされている。
複数の信者があのような発言をするようになってしまえば、信者達が次にする行動は、マハリアンや銀治へ直接向けられる。
良くてリンチや監禁、悪ければ殺害されるだろう。
しかし・・・エリヤの次の発言に、翔は耳を疑った。
「しかし、裏切りの裏では幸運が舞い降りています!先日我々を救ってくれた、正義の使徒です!聖女は逃げた!しかし使徒は金に目が眩んだ者共に対し、命を懸けて立ち向かってくれた!」
翔は頭を抱え、天を仰いだ。
(まさか、まさかそんな・・・なんでまたこんな・・・)
翔の脳裏に、本来起こり得た未来で自分がどう語り継がれていたかが思い浮かぶ。
翔はエーアストとの決闘の後、表舞台からは失踪していた。
その間に、翔は神話として語り継がれていたのだ。
そして今、翔はエリヤによって祭り上げられている。
(神様の次は、正義の使徒か・・・)
翔はため息をついたが、これは早急に対処しなければならない問題であるため、思考を巡らせる。
しかしとりあえず、翔はその場から離れて銀治に通信を入れる。
「銀治、ボーン村の様子がおかしい・・・銀治とマハリアンはボーン村で裏切ったことにされてる。だからしばらくは近づかないで」
《何だって?俺達は今到着したばかりだぞ!》
遅かった。
しかし翔はすぐにその場を離れるよう、警告しようとした。
「銀治、今すぐに離れ・・・」
その瞬間、大きな爆発音が響き渡った。
翔はすぐに爆発のあった場所へ駆けた。
しかし周囲には黄色い粉が撒き散らされており、コーラップス汚染が急速に進む者が多数いた。
それを見て、翔は懐から拳銃を抜いた。
すると、そこに爆発音を聞きつけた銀治とM4、AR-15、SOPが駆けつけた。
銀治はこの惨状を目にすると、すぐにガスマスクを着けた。
「なんなんだ・・・これ・・・?」
翔は爆心地と思われる場所へ向かい、銀治達は生存者がいないか探し始めた。
すると、爆心地の瓦礫の下に下半身が埋もれているエリヤがいた。
「あな、たは・・・」
エリヤの体は重傷なだけでなく、コーラップス汚染が急速に進んでおり、あと数秒で意識を失う程だった。
「神、の・・・祝福、と・・・罰、を・・・」
するとエリヤは意識を失い、ELID化が始まった。
翔はエリヤの脳幹に向けて銃弾を撃ち込むと、生存者を探し始めた。
しかしレーダーに映る反応はどれも微弱であり、助かる見込みは無いに等しかった。
そんな時、銀治の叫び声が響いた。
「おい!エリザ!しっかりしろ!」
翔が銀治のいる方向を見ると、銀治が跪いて女の子を抱き抱えていた。
銀治が叫んでいた通り、エリザだった。
エリザはボロボロで、ぬいぐるみを持つ力はおろか体を全く動かせずぐったりしている。
傷は深く、アンチコジマでコーラップス汚染を浄化しても、間に合わない程だった。
しかしエリザは、それでも銀治に目線を向けた。
「ロ、ビン・・・逃げ、て・・・」
虚ろな目で、エリザは動かなくなった。
銀治はエリザを抱き締め、目から涙を溢れさせる。
それを見て、M4達は拳を握り締めて震えていた。
翔も拳を握り締め、近くで起き上がったELIDの頭部を撃ち抜いた。
その後銀治の方を見ると、銀治はエリザの遺体を抱いて立ち上がった。
「許さない・・・パラデウスに、必ず代償を払わせる!」
ボーン村の惨状を、遠くにある廃墟の煙突から眺める人影があった。
フード付きの黒いローブを身に付け、ローブに大量の指をぶら下げている・・・デスだった。
「ヒェ、ヒェ、ヒェ、ヒェ、ヒェ・・・多くの命が終わり、そしてそれを嘆き悲しむ者を見るのは、やはり心地が良いですなぁ」
デスは煙突から降りると、ボーン村とは逆の方向へ歩いて行った。
低く、嘲笑うような笑い声を上げながら・・・
「ヒェ、ヒェ、ヒェ、ヒェ、ヒェ、ヒェ、ヒェ、ヒェ、ヒェ、ヒェ!」
夜・・・人気の無い公園の森の中にて、翔とフォートレス、そしてルビー小隊が集まっていた。
「・・・それで、入手した情報ってのは?」
潜伏していたルビー小隊は、2つの情報を得ていた。
そして、まず最初に説明を始めたのはナディアだった。
「1つは、パラデウスが開発していた新兵器の情報よ。名前は『イアソの箱』、コーラップスをたっぷり吸ったエピフィラムの花粉を撒き散らす兵器よ」
翔の脳裏にボーン村の惨状が浮かんだ。
「まさか、ボーン村のあれは・・・」
「そう、あの黄色い粉はイアソの箱によるものよ。けど、あんな爆発を起こすものでは無いのが気になるけど・・・」
すると、次にM200が説明を始める。
「もう1つは、ベルリンにあるパラデウスの拠点の場所です」
M200から送られてきたデータには、拠点の場所といくつかの画像があった。
「この位置は、おそらく銀治さん達も知っているか、これから手にすると思います・・・それで、ですが」
M200は心配した面持ちで、翔を見た。
「翔さんは・・・ボーン村での惨状を見ても、パラデウスを助けようと、思いますか?」
翔は、少し目を閉じてから口を開いた。
「そうだね・・・それはパラデウスの各幹部やトップと話をしてみないと、分からないかな。でも・・・」
翔の脳裏に、エーアストやかつて敵だったが後に味方となった者達が浮かんだ。
エーアストは1億人を虐殺した。
他も様々な罪を犯していた。
しかし、エーアストは決闘に応じて殺すしか当時の選択肢は無かった。
そしてもう1人、脳裏に浮かぶ者がいた。
敵だった・・・数々の罪を犯した・・・
しかしそれでも、翔は手を差し伸べた。
だが、助けられなかった。
「本当に敵なのか、殺す以外の選択肢が無いのか・・・それは、その背景を見なければ分からない。だから僕は、手を伸ばすのを、やめない」
すると、今度はトンプソンが口を開いた。
「その考えは良いが、それだといずれ・・・銀治やアンジェとぶつかると思うが、その覚悟はあるのか?」
翔は頷いた。
「大丈夫。覚悟はできてるし、きっとなんとかなるよ」
そういうと翔は立ち上がり、夜空を見上げた。
夜空には星がほとんど見えていないが、月だけは輝いていた。
その頃、ナインボールの拠点では──
クラフターは工廠にいた。
そこで有澤重工から新たに送られてきたデータを、テーブルに腰掛けながら確認していた。
「ふむふむ、今度は第3世代の武器が2つか・・・しっかり、これはなかなか面白くなりそうだな」
データは3つあり、それぞれに記載されている名前は、『CR-WH05BP』と『WH10M-SILKY』とあった。
そしてクラフターは最後のデータを見ると、笑みを浮かべた。
「ほ~う・・・これは腕によりをかけて作らなきゃな」
送られてきた中で最後のデータ。
そこにあった名前は・・・
『シュープリス』
読んでくださり、ありがとうございます!
大変お待たせしてすいませんでした・・・
今回はボール村が本編のような結末を迎えてしまい、銀治が打倒パラデウスへと決意を固めましたが、どうだったでしょうか?
感想や高評価、お待ちしています!
●イアソの箱
パラデウスの新兵器。
コーラップスをたっぷり吸ったエピフィラムの花粉を撒き散らし、周囲の人間をELID化もしくはコーラップス汚染にさせる目的の兵器。
爆発はせずに周囲へ一気に噴霧するものだが、ボール村では爆発が起こっていた。