鴉と人形   作:ダイヤモンド傭兵

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 世の中は常に変化し、それはまるで螺旋のよう。
 それとも・・・繭の中、かもしれませんね。




第84話 螺旋か繭か

「・・・どういう事だ?」

 

 銀治が見た光景は、異様に感じられた。

 

 

 

 翔、アーキテクト、ゲーガー、アデリンが負傷したナルシスとその配下のネイト達の手当てをしていた。

 包帯を巻き、添え木をし、破壊された手足を換装し、とりあえずは動ける状態にしていく。

 

 モリドーに関しては、拘束した状態で簡単な手当てだけして、床に寝かされている。

 

「何やってんだ、翔?」

 

 翔はナルシスの腕の具合を確認すると、いつものような明るい顔で振り向いた。

 

「傷の手当てだよ。聞きたい事もあるし、こっちにいるネイト達は戦う時に敬意を払ってくれてたしね。モリドーは分からないけど」

 

 見れば、モリドーは不貞腐れているのか壁の方を向いている。

 

「アデリンや、翔の所で預かってるネイトならともかく、そいつらに関しては・・・ボーン村でイアソの箱を使った奴らだろうが!?」

 

 銀治の怒りに、翔は真剣な表情となった。

 しかし、アデリンは眉を潜めていた。

 

「ちょっと待って。ボーン村で、イアソの箱・・・?」

 

 すると、M4とM16が真っ先にアデリンに銃口を向けた。

 

「シラを切ろうとしてもそうはいかないぞ」

 

 アデリンはすぐさま首と手を左右に振った。

 

「違う違う!そうじゃない!」

 

 次の瞬間、アデリンからは予想外の言葉が発せられる。

 

 

 

「イアソの箱は、3日前に回収命令が出てたんだ!少なくともベルリンでイアソの箱は使われてない。それに、そもそもボーン村にはイアソの箱は配置されて無かったぞ」

 

 

 

 銀治は拳銃をナルシスに向ける。

 

「信じられるか」

 

「なんなら記録を見てみろ・・・おい『リーフ』、記録を見せてやれ」

 

 ナルシスからリーフと呼ばれた白ネイトは、タブレットに記録を表示させ、近くにいたゲーガーに手渡した。

 

「・・・確かに、ナルシスの言う通りだな」

 

 銀治が記録を見ると、ナルシスの言った通りである。

 しかし銀治は、まだ回収が完了していない3つのイアソの箱が気になった。

 

「この3つのイアソの箱はどうなった?」

 

「その3つはまだ回収の報告が来てないんだ。回収状況の報告は遅くても3日毎に送るよう言われてて、今日は夜に連絡が来る予定だ」

 

 だが、それでも銀治は信じられなかった。

 脳裏に、ボーン村での惨劇とエリザの事がフラッシュバックする。

 すると、翔が銀治の前に立った。

 

「・・・銀治、君はどうしたい?」

 

 銀治が翔の顔を見ると、翔の顔は真剣でありながらも微笑みを絶やしていなかった。

 責めるわけでも嘲笑するわけでもない、優しく背中を押すように問いかける翔に、銀治は胸が締め付けられるように感じた。

 

「・・・俺は、やっぱりパラデウスを許せない。これまでやってきたことが、許せないんだ。仮にボーン村での事が本当にパラデウスじゃなくても、これまでやってきたことは変わらないんだ」

 

 銀治は手に持った拳銃を見つめると、翔に向き直る。

 

「・・・翔は、どうしたいんだ?」

 

「僕は・・・ここにいるネイト達は、一旦見逃したい。パラデウスはまだ、引き返せる位置にいる。まだ、まだほんの少しだけ、"可能性"が残ってるんだ。だから、ここにいるネイト達は一旦こっちで預かりたい」

 

 銀治は眉を潜め、ナルシスは察した表情になる。

 

「翔・・・それはできない。ここにいるネイト達は、ここで殺すか捕縛して処分を受けさせなきゃならない。鉄血の時とはワケが違うんだぞ」

 

 すると、ナルシスはさりげなく近くのネイトの盾になるように移動した。

 

「あの時と違う状況なのは分かってる。けど、これは譲れない。ナルシスと、ここにいるモリドー以外のネイト達は、もう前とは違うんだ。無闇に人を傷つける存在じゃない」

 

 銀治はため息をつき、こめかみを押さえる。

 

「どう信用しろってんだ・・・?」

 

 銀治の問いに、翔は頷いてから答えた。

 

「ナルシスは前にこっちで捕獲されてた時期があってね、その後はパラデウスに帰したんだ。そして、さっきの戦いではネイト達と一緒に、敬意を払って僕と戦っていたんだ」

 

 翔はナルシスの方を見る。

 ナルシスは静かに翔を見ており、翔は銀治に向き直ると再び口を開いた。

 

「それに、ナルシスはちゃんと自分の答えを出せたようだしね」

 

 翔の笑顔に、銀治はため息をついた。

 

「・・・分かったよ、もうそっちの好きにしろ。それ以上言い合ってたって(らち)が明かない・・・」

 

「ありがとう、銀治」

 

 

 

 

 

 銀治と翔のやり取りが終わると、ナルシスはネイト達に声をかけ、荷造りを促した。

 

「おいお前ら、荷物まとめろ。引っ越しだ」

 

 そう言いつつナルシスはモリドーを担ぎ、ネイト達は部屋へと歩いていった。

 

「な、何をするのですかナルシス!」

 

「お姉様、こうなったらもう大人しくドナドナされるしかないのよ・・・」

 

 その様子を見ていた翔に、マハリアンが歩み寄った。

 

「翔さん、姉さんの事を・・・よろしくお願いします」

 

 マハリアンは頭を下げた。

 

「分かりました、任せてください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、ガラテアグループの研究所では──

 

 

 今にもARの引き金を引こうとしているAK-15の前に、フォートレスが立ち塞がっていた。

 AK-15は黒い戦闘服を着ており、万全の態勢かつここにいる事が判る。

 

 その背後では、椅子に座った女性が手にあるデータチップを見つめていた。

 

 女性は長い銀髪で白衣を着ている。

 彼女は『グレイ』。最上級ネイトの1人であり、表向きはドイツ最高峰の外科医の顔を持っている。

 

 グレイの隣には、銀の長いポニーテールの髪に露出が多く機械部分をほぼ剥き出しにした服を着た女性がおり、彼女もネイトである。

 『グリク』、彼女は左手に逆手に持った刀状の高周波ブレードを構えており、臨戦態勢にあった。

 

 グレイの手の中にあるデータチップは、グレイがネイトになる前の記憶が保存されているものであり、ダイバーが秘密裏に手にしていたものであった。

 

「私達が来る前に、どんな話をしてたのか知らないけど・・・そこをどいてちょうだい」

 

「それはできません。誰であろうと、選択の自由と機会を奪うことはできません。それに、これは兄さんからの頼みでもあります」

 

 アンジェから退くよう言われても、フォートレスは聞き入れずに防御体勢を維持していた。

 

「グレイ・・・」

 

 グリクはグレイの方を見るが、グレイは手元のデータチップを見つめていた。

 

 

 

 アンジェ達が来る前、フォートレスとアクアビットマンはイアソの箱の使用について聞いた後、グレイのネイトになる前の記憶について話していた。

 

「これは、あなたがネイトになる前の記憶が保存されているデータチップです。これを使えば、あなたは過去の記憶を取り戻せるでしょう・・・使うかどうかは、あなた次第です」

 

「こんなものを渡して、どういうつもり?」

 

 グレイの問いに、フォートレスは微笑んだ。

 

「記憶はその人のものであり、本人以外に消す権利はありません。それに、兄さん自身が過去の記憶を無くしていたので、届けてくれと頼まれました」

 

「・・・あなた達は、一体どの立場にいるのかしら?」

 

 フォートレスは、暖かな笑顔を浮かべて言った。

 

「私達は、ただ自由に飛んでいるだけですし、バットエンドが嫌いなだけです」

 

 

 

 そして現在、グレイはデータチップを頭部の挿入口に入れようとしていた。

 しかしその手をグリクが掴んだ。

 グリクの目には不安が浮かんでいたが、グレイはその手にもう片方の手を添えた。

 

「グリク、もし過去の記憶を取り戻してパラデウスに敵対したら、その時は迷わず斬りなさい」

 

「・・・嫌だ。グレイを、斬りたくない」

 

 小さな声で訴えるグリクに、グレイは微笑んだ。

 

「無事だったら、後で紅茶でも飲みましょ」

 

 そう言って、グレイはデータチップを挿した。

 

 

 

 

 

 グレイがメンタル空間内に入って数秒後、研究所の外で爆発が起き、この場に何者かが壁を破壊して侵入してきた。

 

 すぐさまAK-12がアンジェの前に立ち、アンジェを下がらせた。

 アンジェはパラデウスの部隊かと思ったが、グリクが侵入者に対して臨戦態勢である事から、そうでないと悟った。

 

 現れた侵入者は、多数のポーンと1機のルークだった。

 ルークは施設を破壊しながら進んでおり、ポーンは施設内の人間と人形を見つけ次第射殺している。

 

 そしてすぐにフォートレス達がいる場所まで到達した。

 

 壁を破壊して現れたルークに、フォートレスは両腕のMGを連射しながら注意を引く。

 アンジェが下がると同時にAK-15とRPK-16が射撃を開始する。

 

 しかしルークの流線型の装甲により、ただでさえ硬いのに弾丸が受け流されてしまう。

 更に、装甲の薄い関節は分厚い装甲で覆うことで保護されている。

 

 AK-12はアンジェが下がるまで援護し、その後は後続のポーンを攻撃していく。

 AN-94は最初からポーンを攻撃している。

 

 アクアビットマンはテーブルを蹴り倒し、グレイを機材の裏に隠した。

 グリクはそれを確認すると、ルークへと向かっていった。

 

「正面に行かないように、とにかくバリアを削ってください!」

 

 フォートレスはそう言いつつ、ルークの上部向けて砲撃する。

 すると、ルークのバリアが削れると共に天井が崩落し、更にルークのバリアが削れた。

 

 ルークはレーザーを拡散させるが、AK-12とAN-94は間一髪で回避する。

 着弾したレーザーは壁と床に大量の穴を穿ち、アンジェは当たったらどうなってたかと冷や汗をかいた。

 

 グリクは高周波ブレードでポーンを斬り払いつつ、ルークに接近する。

 フォートレスはグリクを援護するため、MGでルークの機銃に向けて連射し、機銃を破壊した。

 

 そして、コジマキャノンとアクシスのチャージを終えたアクアビットマンが、ルークを狙おうとしたその瞬間・・・

 

 

 

 回り込んでいたポーンがアンジェに接近していた。

 

「なっ・・・!」

 

 だがそのポーンの攻撃がアンジェに届くことは無く、ポーンの両腕は白く太い尻尾のブレードにより斬り払われ、次の瞬間にはポーンは首を斬り落とされていた。

 

 

 見れば、武装を展開したグレイが立っていた──

 

 




 読んでくださり、ありがとうございます!

 毎度遅くなってすいません・・・

 今回でマハリアンが生存し、グレイに過去の記憶が渡りましたが、どうだったでしょうか?
 高評価や感想、お待ちしています!
 ではまた来年も、よろしくお願いします!

●グレイ
 長い銀髪で白衣を着ている。
 最上級ネイトの1人であり、表向きはドイツ最高峰の外科医の顔を持っている。

 主な武装は腕と尻尾のブレードである。

 基本的に冷酷かつ目的のためには手段を選ばない。
 しかし、共に行動しているグリクやパラデウスのためになる者や未来ある若者には、優しく柔軟な対応をしている。

●グリク
 銀の長いポニーテールの髪に露出が多く機械部分をほぼ剥き出しにした服を着ている。
 最上級ではないがネイトである。
 
 主な武装は、左手に逆手に持った刀状の高周波ブレードと右腕の鉤爪である。

 純真かつ義理堅い性格で、常にグレイと共に行動している。
 本来はあまり良くない出来であったとされるが、予想以上の戦果を叩き出したため、実質的に最上級ネイトの扱いを受けている。
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