魔王待ち構えるは黒狐 作:起床後即就寝
「ハァ、ハァ……ハァ!クッソここ、どこだよ…!」
見渡す限り何もなく、ただひたすらに真っ暗な地面が続く謎の空間を俺は歩く。歩き続ける。
方角も分からなければ、こうして歩き続けてどれほどの時間が経ったのかすら分からない。
「誰か!誰かいないのか!?」
思わず叫び――すぐさま口元を塞いだ。
暗闇に閉じ込められるのは慣れっこ、だがこうも同じ景色がずっと続けば不安にもなる。
それでもこれだけは有り得ない。馬鹿だろ俺は。これまでその誰か達にいいようにされて来たのを忘れたのか?
記憶に残る俺にとっての”誰か達”を思い出し歯軋りする。
「あんな奴らに、誰が…ッ!!!」
燃え上がる怒りが密かに折れかけていた心を強くする。
強固になった心は体にエネルギーを注ぎ込み、俺の足を動かし歩かせる。
……怒りは揺るぎない原動力になるって誰かが言ってたが、まさにその通りだな。
「クソッ、そういえばハジメだ。あいつは、あいつは何処にいる!?」
己に関する余裕が湧くと、自然と周囲に目が行くようになる。
そしてここには俺以外には
―――というか、あれは本当に突然の出来事だった。
天之川の発言に「どうして光輝君の許しがいるの?」と素で聞き返し、それを見たハジメが深く溜め息を吐いた直後、突如幾何学的な純白の円環――俗に言う魔法陣が出現したからだ。
初めは天之川の足元を覆うだけの大きさだったそれは、徐々に輝きを増していくと同時にその大きさを拡大させて行った。
俺は混乱する頭でその様子を観察し、本能が最大レベルで警鐘を鳴らしているのを感じた。
同じようにお馴染みの理由から俺は認めてないが、一応は俺達の担任である畑山先生も何かを感じ取ったのか「皆、教室から出て!」と叫んだが、俺達は教室から出ることが出来なかった。
金縛りにあったかのように魔法陣から眼を逸らせなかったのだ。それも教室にいた全員一人残らず。
なんとか硬直が解けたのは魔法陣が爆発するように一際強く輝く瞬間とほぼ同時であり、その僅かな時間では逃げ出すことなど到底不可能だったのだ。
そして俺はあまりの眩しさに目を瞑り、開けたらこの真っ暗空間に飛ばされていたという訳だ。
それから俺はずっと一人だった。人影はおろか気配すらないこの暗闇の中を、パニックに襲われながら彷徨い続けた。
同じように飛ばされたクラスメートの連中―――いや、ハジメも探せばどこかにいるかもしれない。そんなことを思ったのは何時間前のことだったか。
必死になって駆けずり回るも周りの景色は変わらず、相変わらず人の気配は感じられない。
そんな状態がずっと続き、遂に俺は悟ってしまった。
ここには誰もいないのだと。
ならハジメは何処に行ってしまったのか?……決まっている。あのふざけた魔法陣をけしかけた何処ぞの阿呆の所だろう。
幸いとは言えないが、俺には何故このような場所に飛ばされたのかが分かる。
まぁこれもあくまで予想だが、大方俺はあの魔法陣をけしかけた奴からも拒絶されたということだろう。あの世界の人間達と同じように。
だから俺はこの地獄のような場所に放り込まれた……というのがただの考え過ぎで、実際はただの夢でした〜とかならまだいい。
だが、もしあいつが俺以外の全員と何処かに飛ばされてしまったのなら最悪だ。
もしそうだとすれば、ハジメは周囲からの敵意を常に受け続けることになる。
辛うじて味方してくれるかもしれないのは……俺にだけ優しくない畑山先生と白崎くらいか。
……正直、俺があいつをあのクラスメート共から庇えているとは、天と地がひっくり返ったとしても思わないが……それでも僅かながら力になれていた筈だ。
それに俺が友人としていることはハジメの心の支えになっていた筈なのだ。周りが敵だらけだとすれば特に。
……これに関してはあくまで俺の主観だから実際は違うのかもしれないが、他ならぬ俺自身がそうだったのだ。
「仲間がいるっていう状況は、案外…心に余裕を持たせるからな」
……改めて考えると、俺ってハジメのことをそうやって見てたんだな。ハハッ、そんなのって、あいつの親友失格じゃねえか……
己が卑しい人間だったのだということを理解すると、自然と体から力が抜けて行った。ついでにさっきまで燃え上がっていた怒りの炎も既に鎮火されている。
そのまま呆然と立ち尽くしどれだけの時間が過ぎ去ったのだろうか。
「…」
やがて俺は諦めたように溜め息を吐き、その場に腰を下ろした。相も変わらずの暗闇の中で唯一人。周りから見ればいい絵になるのだろうか?
……いやそんなことないか、俺極一部の人間以外から嫌われてるし。
こういう時よくある物語とかでは自嘲気味に笑ったりするのかもしれないが、そんな笑みを浮かべる気力すら湧かない。
「何もしたくないなんて思うのは……小学校以来か」
そういやあの時は色々未熟だったな。一々両親の顔色伺っては殴られて、何かする度にそれだから何もしたくないとか思ってたっけか。
……こう考えると、俺って本当に嫌われてたんだな。
でも本当に俺が何したってんだよ……何をどうしたら関わったどころか、関わる以前からほぼ全員に嫌われるのか皆目見当もつかないんだが……
……もしや俺って人に嫌われる才能でもあるんじゃないか?いやでもよくよく考えたら犬とか猫とかにも嫌われてたな……となると動物っていう括り全般か?
なんてくだらないことを考えていたまさにその時、突如として俺の背後に禍々しい覇気を発する"何か”が現れたのを感じた。
「っ!?」
慌てて立ち上がり距離を取るも、その間何かは俺を攻撃したりしなかった。その事を不思議に思いつつも、恐る恐ると振り返り……俺はその
「人……?」
銀色の下地に赤のストライプが入ったシャツのような服、その上に羽織った虹色の派手なスーツ、そしてとびきり目を引く赤いシルクハット。
そんなまるで道化師のようにも見える服を着込んだ男は、俺を面白がるような目で見ていた。
「お前…面白いな!」
「な、は…?え……」
そして実際に面白いと言われた。えぇ………
「見たところ…次元どころか、概念も法則も根本的に異なる世界から来た魂ってか?お前よくそんなんで生きてけるよなぁ、逆に感心するぜ」
「は?」
次元?概念?法則?この男は一体何を言っているんだ…?
「しかもこんだけネジネジ曲がってると来たら……周りの目にはどう映ってんだろうなァこれ?こりゃもう残念でしょうがねぇな!さぞ面白かったろうによ!」
「……」
分からない。分からない。分からない。何言っているのか全く理解出来ない。いや、したくない。
「なぁ、お前をここに送ったのはどの神だ?」
「……」
「ん?おーい?」
「……」
「聞いてねぇか。そい」
「いって!?」
ただでさえ周りが暗黒空間だってのに、目の前までもが暗くなり始め――男にデコピンされた。それも結構力強めに。
「んじゃ改めて聞くが、お前どうやってここに来た?どこぞの神が一枚噛んでるか?」
「神……?そいつが俺達をこんな目に会わせたのか?」
神……信じてなかったがまさか実在していたのか?
「ありゃ、その様子だとそっちは関係ないか」
「どういう、ことなんだよ……」
「んん?」
「さっきから、何言ってんだよ……」
俺にはもう分からなかった。ただでさえ分かりたくないと思っているというのに、更に情報を投下しないでくれ……
「ん〜、しょうがねえし簡潔に纏めてやるか。まずここ、お前が住んでた世界とは違うぞ」
「は?」
「お前さっきからそればっかだな。まいっか、そんじゃ次な、お前の魂って俺が見てきた、色んな世界に住んでた皆さんの中でもトップクラスで異端」
「………」
住んでた世界とは違うというのは、さっきまでの状況からまだ理解はできる。だが魂が異端ってどういうことなんだよ……
「世界に拒絶されてんだよ、お前」
「世界に、拒絶…?」
「そっ!なーかなかお目にかかれねぇレア物の魂持ちって訳さ!」
「っ!!」
れあもの、レアモノ、レア物……その言葉を理解した途端、俺の視界が真っ赤に染まった。
怒りのままに男に殴りかかろうとしたが―――
「ほいっと」
「あっグゥ……」
「甘いね〜」
「畜、生……」
――簡単に組み伏せられ、背中に乗られた。
「そうやって怒ってるお前に提案なんだけどさ」
「提…案、だと?誰がお前、なんかの…!!」
「へぇ?――世界を滅ぼせるスーパーアイテムをくれてやるって言っても?」
「……何?」
世界を滅ぼせる?スーパーアイテム?どういうことだ?ハッタリか?いや、でもこの男の目は嘘をついていない。真実を口にする目をしている。
……なら、本当なのか?本当に、あの忌々しい世界を……滅ぼせるというのか?
「くははははははっ!やっぱ食いつくか!」
「……」
「そんな目で見なくなってくれてやるよ。ほらよ」
俺が男を食い入るように見詰めていると、男は笑い玩具のような何かを投げつけて来た。
それは黒をベースとしており、青竹色の装飾が所々に散りばめられている。
だがそんな事はどうでもいいのだ。重要なのは、カッコ良くは思うが、これで世界がどうこうできるとは到底思えなかったという事だ。
「……騙したのか?」
「はァ?んな訳ねーだろ!」
思わずそう聞き返すと、男は少し苛立ちながらそれを否定した。
「確かにそれだけじゃ機能しねぇけど、それには確かに創世の力が備わってる。なにせ、神サマ本人から力を奪ったからなァ!」
「――なるほど」
「お?思ったより驚いてない感じ?」
「というよりは…スケールがデカ過ぎて一周まわって冷静になったって感じだが」
「ほーう?」
創世の力やら神から力を奪っただの俺では想像もできない次元の話だ。そんなの聞かされていたら誰だって冷静にでもなるだろう。
「とりあえず説明だけはしてやるよ。つっても今のお前じゃ理解出来ないだろうし」
そう告げ語られたこの力――”神殺しの黒狐"、仮面ライダークロスギーツという存在は、まさに最凶とも呼ぶべき代物だった。
創世の神から力・知恵・運の要素を奪い生成したこの力は、文字通り神の力を有しており、世界を一瞬で滅ぼすことが可能。
……だが肝心の創世の力といえば……
「今は使えねーな」
「使えない?」
使えないのだと言う。だがそれにもちゃんとした理由があるようで
「言ったろ?力と知恵と運を奪って作ったってよ」
「言ってたな」
「だがな?その時あと一つだけ分離してたんだよ。んで、どうせ搾り滓だろってスルーしたそいつが重要だったって訳」
「……じゃあそれは?」
「心。何でも創世の力を使うには理想を願う心が必要不可欠らしくてな、これにはそれが足りてないのさ」
それを聞き、俺はこう思った。
「ダメじゃん」
と。
「ダメじゃねーよ。世界滅ぼせるのはホントだし」
「本当か……?」
致命的なものが欠けてると聞いてからは、本当にそんなこと出来るのかと怪しむようになっていた。
口調や目を見る限り真実っぽいが、いまいち信じきれないというか……
「そこでお前なのさ」
「?、俺?」
「そう!お前!」
「俺がなんの役に立つって言うんだよ?」
狂気と歓喜が入り交じった笑顔で指さされているが、生憎俺は神様でも何でもないんだが。
「言ったろ?お前は概念からしても法則からしても根本的に異なる世界から来たって」
「確かに言ってたが……」
「普通はな、有り得ねーのさ」
「は?」
思わず思考が停止した。男はそんな俺の様子などお構い無しと言った感じに話を続ける。
「どんな世界だろうと、普通はどっかで概念や法則が似たり重なったりするもんだ。……だというのに欠片も似てないとなったら、分かるだろ?」
「………」
男の発言に俺はまた言葉を失ったが、どこか自然と納得出来た。
確かに俺はずっとあの世界に違和感のようなものを覚えていたし、もしそれがこの男の概念や法則が欠片も似ていないという発言と関係があるのだとしたら……
だから俺は頷こうと――って待て、そうだ。そういえば、これだけは聞いとかないとダメだな。
「……ところで、なんで俺にこんなチカラをくれるんだ?お前になんのメリットがある?」
そう、俺にこの力を渡したところでこの男にメリットがあるとは思えないのだ。
なんのメリットもなしに自分の大事な物を渡す人間なんかどこを探してもいない以上、こいつも何かを企んでいる筈だ……
「あん?理由なんてない…この方が面白いからさァ!」
が、返ってきたのは想像を絶する答えのみ。……一応これまでの会話で薄々分かってたとは言えドン引きだ。
その後に行ったのは、そんなくだらないこと聞くよりもという言葉の下何故か始まった戦闘訓練。
……まぁ、俺自身格闘技術とか皆無だったこともあって真面目に取り組んだ。クロスギーツは二刀流だからって理由で真面目にロマン戦術学ばされるとは思わなかったが……
そして、結局名前を教えてはくれなかった男から、お前すげーなというお墨付きを貰い、
「おっと、そうだ!最後に見せてやるよ、こいつの使い方をな!」
バックルをひったくられ、
「変 身!」
――そして俺は、神殺しの黒狐の姿をその目に焼き付けた。
「ここに閉じ込められてから――あー、何年だっけ?覚えてねーか。ま、なんの娯楽もないもんだから暇だったんだが〜ヒヒッ、これはまだ楽しめそうだなァ!クハハハハハハハ!」
今回登場したメラですが、メラではありますが映画やギーツ本編に登場したメラ本人ではありません。
だから口調が微妙に違うのかと言われるとそれはまた違って……単純に一回しか見てないのでキャラの解像度があまり高くないからです……