前世の俺がすでに転生特典決めてました   作:ダイヤモンドリリー

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8099字。

非戦闘回です。


この村のナンバーワン

「…………ん」

 

……なんか体を揺さぶられてる。

 

「………さん」

 

なんで揺さぶられているんだろう。

 

「……ヤさん」

 

そうだ俺確かステラが起きるのを待ってて...

 

「…リヤさん」

 

寝ちゃったんだった。起きないと。

 

「カリヤさん!」

 

「ひぅっ⁉︎」

 

急に意識が覚醒する。

 

「あははっ、変な声出たねカリヤさん」

 

「す、ステラ⁉︎起きたのか!」

 

どうやら俺はステラが起きるのを待っている間に居眠りしてしまったようだ。そして俺が起きるより前にステラが目を覚まして、俺を揺すって起こそうとしたのだろう。

 

「怪我の具合はどうだ?痛むところはないか?」

 

「ないよー。すぐにでも動けそう!」

 

「それはダメだ。トリさんが明日いっぱいまでは運動禁止だとよ」

 

「えーなんでさ」

 

「傷が開くかもしれないからだってさ。文句があるならトリさんに言え」

 

「そっかぁ...ほんとに動いちゃダメなの?トリさん」

 

「ダメだ」

 

あっ、いたんだ。ってことはさっきの声聞かれてたのか。恥ずかし。

 

「本当にダメー?」

 

「ダメだ...つっても聞かないんだろうな」

 

「聞くわけないじゃーん。私は早く戦いに行きたいの!」

 

「そんなお前に耳寄りな情報だ」

 

「えっ、なになに?」

 

「面白いことだ。笑ったら戦いに行くのはやめろ」

 

「私を笑わせられるかなぁ?」

 

トリさんがステラに耳打ちをする。

 

「へぇ...」

 

…な、なんでステラはニヤニヤしてるのかなー。

 

「き、貴様ァ!言ったな!」

 

「さて、なんのことやら」

 

「すっとぼけても無駄だ!絶対言っただろ!」

 

「カリヤさんそんなこと言ってたんだーww」

 

「ほら絶対言っただろこれ!」

 

二人して笑うな!お前ら...笑うな!本気で心配してたんだぞ!

 

「置いてけ...」

 

「えっ?」

 

「記憶置いてけ!」

 

「ヒェッ」

 

「記憶置いてけ、ねぇ!聞いたな!聞いたでしょ!ねぇ、聞いたでしょステラ!」

 

「ちょっ、カリヤさんそれしまって!ダガーダメ絶対!」

 

ステラが急いで逃げようとする。

 

「落ち着けお前!今のステラを運動させるんじゃねぇ!」

 

「記憶置いてけ!」

 

「置いてくってどうやるのさ!」

 

「忘れてくれッ!忘れろー、忘れろー、忘れろビームッ!!」

 

「カリヤさんがおかしくなってる!」

 

「ステラちょっと忘れたフリでいいから忘れたことにしとけ!」

 

「トリさんさすがに無理じゃ...」

 

「忘れろー!」

 

「ああもういいや!カリヤさん!私忘れた!先読みミスったことなんて忘れた!」

 

「忘れてねぇじゃねぇか!」

 

「下手か!」

 

「忘れたよ忘れた!ホントだよ!」

 

「何を忘れたか言ってみ」

 

「忘れたってなんのこと?」

 

「じゃあよし」

 

「それでいいのかよ」

 

忘れたならいいんだ忘れたなら。掘り返さないならなんでもいい。

 

「私戦わなければ何してもいいの?」

 

「切り替え早いな...激しい運動がダメなだけだ。的相手の弓の練習くらいなら問題ない」

 

「そっか...」

 

「でも今日はもう夜になるぞ。早く帰りな。長居されても困る」

 

診療所なのに入院とかないのか?あぁ、魔法で治るから長く診療所にいること自体がないのか。

 

「送ってくぞステラ」

 

「えっ、いいのに」

 

「送ってくって。途中で何かが起こって倒れられても困るしね」

 

「心配性だなぁ」

 

「心配して何が悪い。それに、一人でやるって言って死にかけたのはどこのどいつだったかな?」

 

「うっ」

 

「ほら行くぞ。トリさん治療ありがとうな。明日になったら報酬を持ってくるから」

 

「ああ、待っておくよ」

 

ステラを連れて診療所を出る。もう辺りは結構暗かった。もうすぐ夜なのだろう。

 

この世界、太陽に値する物はあるが、月のようなものがない。そのため、夜の光源は星明かりと魔力灯しかない。村の外に出れば星明かりしかなくなるため、とても危険なのだ。月って結構大事なんだなと、この二ヶ月で思った。

 

「ステラの家ってこっちでいいんだよな?」

 

「そうだよ。こっちこっち」

 

何気にステラの家に行くのは初めてだ。一応言っておくが、俺は断じて送り狼ではない。ホントだよ。俺嘘つかない。

 

「そういえばカリヤさん私が治ったら説教するとか言ってなかったっけ。あれどうなったの?」

 

「はて、そんなこと言ったかな?」

 

「言ったよー。しらばっくれても無駄だからね」

 

「冗談さ。説教なんてするわけないじゃないか。面倒だし」

 

「そっか...カリヤさんって結構私のこと好き?」

 

「そうかもな」

 

「普通に言うねぇ」

 

「好きってのは未だによくわかってないけどさ。命の恩人だし、村に来てから一番付き合い長いし、話しやすいし、これで好感抱かない方がおかしいと思うんだよね」

 

「そっかぁ。えへへ。そうだよね、人に言われる前に自分から私のそばに居たいって言ったんだもんね!」

 

「おまっ!忘れろつったろ!ってかなんかちょっと脚色入ってるし!忘れろ忘れろ!」

 

「あっ、痛っ!頭グリグリすんのやめて!」

 

ゲンコツで頭をグリグリする。めっちゃ弱くやってはいるけど、そんなに痛いのかな?側から見たら戯れてるように見えるくらい柔らかくやってるけど。

 

「うぅ...ひどいよ」

 

「忘れた?」

 

「忘れた」

 

「ヨシ!」

 

一瞬あのポーズを取ろうとしたが、引かれそうな感じがしたのでやめる。

 

「命の恩人ってとこはもうお互い様だよね」

 

「あっ、確かに。そういえばそうじゃん。感謝しろよー」

 

「じゃあなんでさっきグリグリしてきたのかな」

 

「うっ」

 

「まぁいいや。もうすぐで私の家だからここまででいいよ」

 

「そう?ステラがそう言うなら...いや、やっぱ着いてく。心配だ」

 

「えー、いいって言ってるのにー」

 

「もう真っ暗だし、何が起こるかわからないからさ。最後まで送ってくよ」

 

「そこまで言うなら別にいいけど...」

 

「ステラー!どこだー!」

 

ん?なんだろこの声。ステラを呼ぶ男の声がする。

 

「お兄ちゃんだ...」

 

「ステラーっていたいた。こんな時間まで帰ってこないなんてどうしたんだいったい。心配、したんだぞ」

 

ステラの兄らしき人がこちらにやってくる。見た目は...俺より一、二歳年上ってところか?体格は俺とそこまで変わらない。本当にこいつがこの村で一番なのか?なんか普通の好青年みたいな感じで、強そうな印象ないんだが...

 

「診療所に行ってたから遅れただけ」

 

「怪我でもしたのか?」

 

「したけどもう治った。心配しなくていいよ」

 

なんかステラの返答がそっけない。反抗期か?対抗心抱いているみたいだし、ちょっと強く当たってしまうのだろうか。

 

「そうか...それで、君は何者なんだい?」

 

「仮谷幸希だ。ステラとは...仕事仲間って言えばいいのかな?ちょくちょく一緒に依頼を受けさせてもらいっている」

 

「君がカリヤくんだったのか。ステラから話は聞いているよ。何かすごい力を使えるらしいね」

 

「いえいえそんな...」

 

「お兄ちゃん行こうよ。カリヤさんをこれ以上引き止めちゃ悪いよ」

 

「それもそうだな。カリヤくん、これからもステラと仲良くやってくれると助かるよ」

 

「それは...そうさせてもらいますけど」

 

「ではこれで。帰り、気をつけてくださいね」

 

「お気遣いありがとうございます」

 

ステラとその兄は少し歩いて行き、曲がり角に消えていった。そういえば名前聞きそびれたな。次ステラにあったら聞いてみよう。

 

「…俺も帰るか」

 

今日は波乱な一日だったなと思いつつ、俺は宿に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カリヤさん、今時間ある?」

 

次の日、本屋を出た時にステラにこう言われた。

 

「あるけど...ちょっと宿に本置いてきてからでいい?あとご飯食べたい」

 

「わかったー」

 

俺は一度宿に戻り、本を置いてくる。ちなみに今回であの本屋にある本全てを借りたことになる。

 

「よし行こっか。こっちに来て」

 

ステラと一緒にご飯も食べ終わった後、俺はステラに連れられて村の外に出た。

 

「外に何があるんだ?」

 

「着いてからのお楽しみー♪」

 

なんだろ。戦いに来たんだったら止めないといけないけど...

 

「ここ!」

 

「ここ?何もなくね?」

 

ステラに連れてこられたのは、なんの変哲でもない平原だった。

 

「ちょっと待ってね。準備するから」

 

ステラがちょこちょこと移動して準備を始める。なんもなかったはずの平原に木でできた人形のようなものがどんどん立てられていく。

 

「これでオッケー」

 

「これ...的か?すごいな。隠してあったのか」

 

「そう、ここは秘密の特訓場なんだー」

 

「秘密ねぇ...そんなところに連れてきてくれるなんて嬉しいな」

 

「カリヤさんだけだからねー」

 

「でもわざわざ毎回ここまで来て特訓してるのか?大変じゃね?村の中にないの?」

 

「あるよ。秘密のって言ったでしょ?普通の特訓場もあるんだよ」

 

「そっか。で、どうしてここに来たんだ?何をしてくれるの?」

 

「カリヤさんの特訓だよ。カリヤさんって多分だけどあまり弓使うことないでしょ?近づいて斬った方が早いしね」

 

「そうだけど...どうしてそう思ったんだ?」

 

「だって矢の数が少ないんだもん。昨日から補充してないみたいだし」

 

「そりゃステラが朝一番にここまで連れ出したからだろ。そうじゃなかったら補充してたよ?多分」

 

「なんだ、偶然だったんだ」

 

そう言いながらステラが弓を取り出す。

 

「カリヤさんも弓出してほら。特訓開始だよー」

 

「お願いします師匠!」

 

「師匠...いいね、いい響きだ。もっと言ってよ」

 

「ししょー!し、しょ、おー!」

 

「よーしいっくよー!まずカリヤの弓の腕を見せて。特訓はそこからだ!」

 

「おおいいね。これからも呼び捨てでいいぞ」

 

矢を取り出し、つがえ、弦を引く。そして十数ある的のうち、中くらいの距離にある的を狙って手を離す。

 

「ありゃっ」

 

矢は俺が狙っていた的から数センチ右にそれて地面に刺さる。

 

「ズレちゃったね。なんだろ?狙いは悪くないから...ねぇカリヤ?前に何か別の弓を使ったことある?」

 

どういう質問だろう。それが外れたこととどんな繋がりがあるんだ?

 

「ない...いやある...いや、やっぱないわ」

 

「どっちさ」

 

「部分的にある」

 

「どうなったら部分的にってなるんだろ...?」

 

現実だと使ってないけど、ゲームでは使ってたってだけなんだよな。ゲームって言っても解らないだろうから説明が難しいけど。

 

「それで、使ってたらどうなるんだ?」

 

「いやね?弓は種類によってちょっとずつ違うところがあるからさ。前に使ってた弓の時の癖が残っててズレるのかもしれないっておもったの」

 

「なるほど。でも実際に弓を使ったのは初めてだからなぁ。多分それじゃない」

 

「じゃあ射癖かな。もっかい撃ってるところ見せて」

 

「おう」

 

しゃへき...ってなんだろうと思いつつ、もう一回弓を撃つ。さっき撃った時よりも数センチ左を狙って撃ったが、思った時よりもズレず的から左に逸れる。

 

「あらら。調整ミスったか」

 

「うーん...なんだろ?もう一回見せて?」

 

そう言われてもう一回撃つ。

 

「もう一回」

 

撃つ。

 

「もっかい」

 

撃つ。

 

「アンコール♪」

 

撃つ。

 

「ラスト!」

 

撃つ。

 

「わかんない!」

 

「いやなんでだよ」

 

どうして俺はこんなにも矢を撃つ必要があったんですかね...途中で矢が切れて回収する羽目になったし。

 

「いや、射癖がないってことはわかったんだよ?でもでも、だったらなんでズレるんだろうってのがわかんないの」

 

「そのしゃへき...だっけ?それじゃないとすれば、他に何が原因だと考えられるんだ?」

 

「あとは...弓自身に問題があるかどうかって感じかな。ちょっと借りるね」

 

弓を渡すと、ステラは俺の弓を細部までじっくりと眺めて、一回首を傾げる。

 

「えっ、何かあった?」

 

「んー...ちょっと撃ってみるね」

 

ステラが弓に矢をつがえ、弦を引っ張る。普段ステラが使っている弓よりも大きいせいでちょっと腕がプルプルしているが、なんとか引っ張り切るとそのまま手を離して矢を放つ。矢は弧を描いて飛んでいき、ここから一番遠い的に見事命中する。

 

「当たった...?」

 

「やっぱ変だな。どこもおかしくないや」

 

俺に弓を返しながらステラがそう言う。

 

「弓はどこも壊れてなかったよ。ズレがあるわけでもない」

 

「じゃあなんで俺の弓はズレるんだ?」

 

「実力不足、だね♪」

 

「単純明快な答えだな」

 

あれだけやって結論が実力不足とは...

 

「細かいところの腕がまだ足りないみたいだね。大丈夫大丈夫。射癖もないし、これならすぐに上達するって。筋はいいんだしさ」

 

「じゃあそこからお願いします師匠!押忍!」

 

「お、おす?よくわかんないけどいくよー!」

 

こうしてステラとの弓の特訓が始まった。特訓といっても、やっていることは何度も何度も弓を撃つことだけだ。俺は弓を誰かに教わったことはない。それでも普通に弓を撃てているのは、ゲームで見た動きを正確に真似ているから。つまりは独学、我流なわけで、俺は現実の弓の基礎を知らないのだ。そこをステラに教わりながら、何度も何度も撃つことで微調整を重ねていく。

 

何度も撃つうちに、一回だけだが完璧な矢を射ることができた。それを見たステラは、「スキルを使って今やったことを何回も繰り返して」と俺に言った。

 

言われるがままスキルを使って矢を放つ。最初は意図がわからなかったが、途中でそれに気がついた。

 

スキルを使うと、完璧に同じ動作をすることができる。発動中は自分の意思で体を動かすことができず、見えない糸にでも引っ張られているように動作を遂行していく。身動きはできない。けれど、考えることや感じることはできる。

 

つまり、成功した動きをスキルで何度も繰り返し、その時の自分の体の動きを感じ取って、スキル無しでもその動きを繰り返せるようにする。これがこの特訓の意味だろう。これ、気がついてなかったらなんの意味もないよな。俺はなんかわかったけど、もしステラが他の人に弓を教えることがあれば、そういうことはちゃんと伝えてもらいたい。

 

「もうそろそろわかったかな。スキルを使わないで同じように撃ってみて。スキルの動きよりもできるだけ速くね」

 

「オッケー」

 

「あっ、速くって言っちゃったけどあの力は使ったらダメだからね!」

 

「…わかってるよ」

 

「今の間はなにさ」

 

無視して弓に矢をつがえる。そして、さっきまでやっていたスキルの動きを思い出しながら弦を引き、狙いを定めて矢を放つ。言われた通り、スキルよりも速く矢を撃ったが、きちんと狙った的に命中した。

 

「やりぃ!」

 

「一発でできるなんて...私の教え方が上手かったおかげだね!」

 

「いや違うて、ステラお前スキルの時の動きを覚えろだなんて一言も言ってなかったじゃんそれに自分で気がついた俺の力だろ」

 

あれ?この流れ二ヶ月前くらいにやった気が...

 

「いーや私のおかげだね!」

 

「もうそれでいいよ。天丼良くない」

 

「てんどん...?よくわかんないけど次行くよー」

 

次にやったのは、移動しながら撃つことだった。普通なら魔物は移動している。しかし的は動かないということで、こっちが激しく動いて擬似的に再現しようというのだ。まぁ動きながら撃つってのは結構あることらしいし、その練習も兼ねているのだろう。

 

「あっ、あの力使って一番速い状態でやってね」

 

そういうわけで、能力を使って秒速20メートルで走りながら矢を撃つことになりました。無理だろ。

 

「無理だろ」

 

声にも出ちゃった。

 

「そこをなんとかするんだよ。やるかもしれないでしょ?」

 

「まぁ、そうだけど...」

 

「よしやろう!」

 

「しょうがないなぁ...」

 

弓に矢をつがえてから能力を使い走り出す。

 

「距離測りづらっ⁉︎」

 

秒速20メートルは流石に速すぎる。0.1秒でも2メートル近く的との距離が変わるのだ。撃ちにくいに決まっている。このままじゃ埒が開かないので、走り回りながら、この瞬間に撃つという場所を決めて弦を引く。

 

「……今っ!アカーン!」

 

撃った瞬間にわかった。外れる。

 

「ありゃりゃ。大外れだ」

 

「そりゃそうだろ!これで慣性働かない方がおかしいわ!」

 

最初からこうなるってことは薄々気づいていた。どうやったら当てることができるのか、わかる奴がいたら教えてほしい。

 

「やっぱ無理だってこれ」

 

「いーやできるはずだよ。もう少し考えてやってみてよ」

 

「考えてつってもなぁ。慣性を計算して狙うとかできるわけないし...あぁ、なるほど?」

 

一個だけ思いついたことがあったので、矢をつがえながら走る。

 

「こうすれば...ほれ!」

 

撃つ瞬間、窓に向かって走ることで横向きの慣性を無くす。飛んでいった矢は横にそれることなく的に命中する。というか貫通する。

 

「威力スッゴ!」

 

「でもこれだと魔物に向かって接近することになるじゃんか。それだったら最初から弓使わないでダガー使えば良くね?」

 

「んーそれもそうだね。動けるんだったら普通に剣を振った方が早いか」

 

「でしょ?動きながら撃つのをやるなら能力無しでやったほうがいいと思うんだよね」

 

「そっか」

 

「それで次の修行はなんだ?まだあるんだろ?」

 

「あるけど...ねぇカリヤ、今何時?」

 

「ん?えっと...四時だね」

 

「じゃあ一旦村に戻って役所に行こう。特訓の力を試してみようよ」

 

「おお、いいねいいね。試しに行こう」

 

的や地面に突き刺さっている矢を全て回収し、村に向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…なぁ。ちょっと聞いていいか?」

 

村に戻る途中、俺はステラに話しかけた。

 

「なにー?」

 

「秘密の特訓場を作った理由ってステラの兄が原因か?」

 

「…どうしてそう思うの?」

 

「なんとなく...だけど当たってるでしょ?」

 

「あちゃー、なんとなくで当てられちゃったか...そうだよ。お兄ちゃんに内緒で強くなるために作ったんだ」

 

「やっぱそうか。それでその兄は...ごめん、まず兄の名前教えてくれる?」

 

「トルク」

 

「トルクか。それでトルクはどれだけ強いんだ?あんまり強そうに見えなかったんだけど」

 

「強いよ。私がいくら頑張っても追いつけないくらいに...」

 

「そういうのいいから。そのフィルターを外せ。客観的に見てどう強いんだ」

 

「えーっと...とにかく速くて正確なんだよね。百発百中で、魔物の急所にどんな状況でも当てる。自分が動いていても、魔物が動いていてもね」

 

ステラの言うトルクの強さと、さっきまでやっていた特訓の内容が重なる。

 

「どんな時でも絶対に当てる。それが勇者の仲間となるお兄ちゃんの強み」

 

勇者の仲間。本で読んだことだが、どうやらこの世界では勇者を補佐する四人の仲間を、四つの町や村から一人ずつ出すことになっているらしい。この村カリスからは、村一番の弓の名手を勇者の仲間として送り出すようだ。このままだとトルクで確定らしい。

 

「見えてきたぞ...ステラは勇者の仲間になりたいから兄を越えようとしている、そうだろ?」

 

「そうだよ」

 

やっぱりそうか。

 

「あの特訓場を作ったのは大体三ヶ月くらい前なの」

 

俺がこの世界に来る一ヶ月前か。

 

「結構最近なんだな」

 

「実はね、もともとは私が村で一番だったんだ」

 

「そうだったんだ」

 

「お兄ちゃんはもともとそこまで弓が上手くなかったんだよ。でもね、三ヶ月とちょっとくらい前かな。人が変わったのかってびっくりするくらい急に弓が上手くなったんだよね。才能はあったってことかな」

 

「それで一番を取られたのか。そしてそれを取り返すために特訓場を作ったと」

 

「そうそう。でもね、いくらやってもお兄ちゃんを超えることができなかったの。私が追いつくたびに、引き離される。この三ヶ月頑張ったけど、どうやっても追いつけなかった」

 

「そうか...」

 

…なんて声をかければいいのだろう。同情?励まし?わからない。

 

「…じゃあ諦めるのか?」

 

俺の口から出た言葉は、これだった。

 

「そんなわけないじゃん。何言ってるのさ」

 

「…そっか、安心した」

 

「でもね、悔しいけどお兄ちゃんが一番でもいいんだ。強い方が世界を救う手伝いをする。それでいいじゃん」

 

「それ、諦めてるのと変わんねぇぞ?」

 

「あはは、そうだね」

 

「もうちょっと頑張ろうぜ。俺も一緒に手伝うからさ。弓はステラの方が上手いだろうけど、アイデアくらいは出るよ。基礎を突き詰めた天才に勝ってナンバーワンになるには、オンリーワンになった方が早いと思うしね」

 

「オンリーワン...か」

 

「人に教えると自分の勉強にもなるって言うし、これからも指導お願いな」

 

「オッケー。一緒にがんばろー!」

 

「おー!」

 

俺たちはその後も話しながら村へと戻った。




前半のコメディパートと、後半の微シリアスパートの温度差激しいな。
ここまでなると思ってなかった。
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