前世の俺がすでに転生特典決めてました 作:ダイヤモンドリリー
ミスによって生まれてしまっていた矛盾を、あたかも伏線だったかのように回収していくぅ!
「よかったなーレスト治って」
「まだ少しダルいけどね...ってことで近くで大きな声で話さないでくれる?」
「ごめん」
とりあえずレストの体調はほぼ完全なくらいに回復したらしい。よかったよかった。
「んじゃ、俺はここで失礼するよ。なんかあったら...なんとかしてくれ」
「無茶振りやめて...」
「冗談だ冗談。多分ニアが近くにいると思うから、困ったことがあったらニアに言うと良い」
ニアだけに近くにいるってかはっはっは。と、日本語の通じる俺にしかわからない言葉遊びで内心笑いながらレストの部屋を出る。
「……よし、久しぶりにギルド行こーっと」
久しぶりにサーマルでもイジリに行ってやるか。目ぼしい依頼があったらついでにやろ。
「しばらく行ってないし、もしかしたら巨大化魔物が現れてたりするかもな...」
正直、シレンの穴のボスってギミックは面白いけど強さはそこまでだし、こう言うとあれだけど、ちょっと刺激が足りないと思っていたところだ。巨大化魔物のことなんて想定されてないから当然シレンの穴には出てこないし。
「ああでも、それならあったらキープした方がいいのかもな。みんなに練習させないといけないだろうし」
町から遠い場所にいて、それなりに危険度が低めの奴がいたら後回しにしてみんなで倒しに行くことにしよう。
「よし決まりっと...ん?」
ギルドへと向かっていたその時、人混みの中で見覚えのある人物の姿が見えた気がした。
「あれは...ワンナか?」
懐かしい顔だな。というか、カイスまで来て何をしてるんだろう。純粋な興味で近づいてみる。
「おーっすワンナ。久しぶり」
「おぉ、まさかこんなところで会うなんてな」
「まさかってのはこっちのセリフだろ。なんだってカイスに?」
「近頃流行ってるらしいものを買おうと思ってな。そう...君が持ってるそれと同じものをね」
「ああ、魔力銃のことか」
「どこで売ってるか知っているかい?」
「どこで売ってるかは知らないなぁ...製作者本人からもらったから」
「そうか...じゃあそれちょうだいよ」
「……盗ってから言うのやめてくれません?」
持っていた魔力銃を一丁、略奪で盗まれてしまった。
「それしたところで十分したら勝手に返却されるんだから無意味だろ...」
「だな。ちょっとした冗談さ。すぐ返す」
いつのまにか、ワンナの手には二丁の魔力銃が握られていた。俺のもう一丁はホルスターに入っている。なら、あの一丁はどこから...?
「おいおい、もう一丁どっから盗んできたんだ?」
と、言ってみるものの...おれは速度探知のおかげで気づいていた。ワンナの持つ魔力銃に入っているマガジン、そこに描かれている魔法陣が丸々一緒なのだ。いや、それどころか銃そのもののカスタムも完全に一緒である。この銃は俺がカスタムしたもの。他の誰かが、同じものを持っているわけがない。
「おい...お前まさか...」
「いやー盗んでしまって悪かったね。こっちは返すよ」
目の前にいるそいつはそう言うと、略奪を解除する。盗まれた魔力銃が宙を飛び、俺の手元に戻ってくる。
完全に複製されたもう一丁は、まだこいつの手の中だ。
「それじゃあ、用は済んだからここらで失礼させてもらうよ」
そう言い残すと、敵は突然走り出し、逃げていく。
「待て!この...フロートォ!!」
ワンナは姿を模倣したフロートだった。逃げるフロートに追いつくため、加速を最大にして後を追う。
奴の目的はなんだ?魔力銃を盗む?たったそれだけ?フロートはつい数日前にも俺のすぐ近くに現れていたらしい。こんな頻繁に姿を現すなんて普通じゃない。何か大きな目的があって行動しているんだろうが、いかんせんそこが読めない。それとも突発的な行動?ただの嫌がらせ?ダメだ情報が少なすぎて何一つわからない。
けれど、一つだけ分かったことがある。俺がワンナに略奪を教えてもらった時、『前に今代最強の魔法使いが訪ねてきて、試させてくれと言われてやらせたが使えなかった』とワンナは言った。俺はその魔法使いをニアだと判断した。今代最強の魔法使いという肩書きは、ニアを指すものだからだ。
しかし、俺が自分の持つ力をパーティーのみんなに明かした時、当然略奪のことも話したわけだが、ニアは略奪について何も知らないようなそぶりを見せていた。やけに理解が早かったところはあったが、あらかじめ知っていて自分には使えないことを把握していたならば、あの場で使ってみようとはしないはず。
この二つの出来事が示す事実は一つ。ワンナに接触して略奪を試させてくれと言ったのはニアの姿を模倣したフロートであり、その時にワンナの姿と略奪を模倣していたということだ。
だからここにワンナの姿をしたフロートがいる。略奪でまず俺の魔力銃を奪い、それを自身の模倣能力で複製したのだ。
「ってか、追いつけねぇ...!」
秒速六十メートルを超える速度で走っているというのに、何故か追いつけない。道ゆく人を避けながらというのもあるが、それはフロートも同じ。だからそこの差はないはず。それなのにここまで追いつけないのは...
「……アクセルの固有能力かぁ?クッソ面倒な...!」
フロートは魔族の力も模倣できると既にわかっている。ムカデの巣穴でアクセルの複製体を作り出していたからな。
「おちょくられてんなぁオイ...」
アクセルの固有能力を模倣しているのなら、もっと速い速度で走れるはず。わざと同じくらいの速度で、付かず離れずの距離を保って走っているのはどう考えても挑発だ。
そして、そんなことをするのだから本気で逃げようとしているのではないのだろう。ゼッテー追いついてなぶり殺してやるぞフロート。
「走ってるだけじゃ追いつけねぇか...なら上から!」
二丁の魔力銃を手に持ち、ワイヤーモードに切り替える。
「止まりやがれ!魔族!」
コンクリート調の建物の外壁にワイヤーを撃ち込み、立体軌道を開始する。走ってるだけでは人が邪魔でいくらやっても追いつけない。ならば、人のいない空を移動するまで。ワイヤーを引き寄せる時に発生する加速も使い、少しずつフロートに近づいていく。
「なんか面白そうなことしてんな神の使い!」
「お前が盗んだ奴だぜそして止まれつってんだろ!」
片方の魔力銃だけモードを切り替え、フロートに向けて秒間五十発で魔力弾を射出し攻撃する。
「当たると...魔力回復しなくなるんだっけか?というか速えな避けれねぇ」
当たったところで、どうせ聖域の中なんだからそもそも魔力回復しねーだろと心の中で思いながら、俺は魔力弾をこの先フロートが通るであろう道に向けて撃ち込む。
「何を...⁉︎」
こっちを見て、嘘だろと言いたげな顔をするフロート。それも当然だ。道を歩いている一般人に当たるギリギリのところに魔力弾を撃ち込んだからだ。適当に撃っているようでちゃんと狙っているから、人に当たることは絶対にないけれど、普通の人なら取らない選択だろう。
6972ページ 黒のみ 洗脳操作
「魔族がそっち行くぞ!邪魔だから関与せず道を開けろォ!」
大声で叫び、全員の意識を掌握とまではいかないまでも、声の聞こえた人の深層心理に働きかけ、道を開かせる。
「おいおいマジかよお前...本当に勇者の仲間か?」
「やれることならなんだってやるさ!テメェを殺すためならなァ!」
邪魔な人はいなくなった。地面に戻り、走りで追跡を再開する。
「くっ、チクチクと面倒な...!」
両方の魔力銃で大量の魔力弾を放ち、フロートにチクチクと攻撃していく。ダメージは期待できないけど、イラつかせることはできる。俺のことを馬鹿にするような逃げ方をされたのだから、その仕返しだ。フロートは自分も挑発するくせに、挑発され返されたら激昂するようなタイプだからな。人間風情が!とか言い出す奴だから、そこら辺は扱いやすい。
そして、さっき空を移動していた時に、フロートが町の外に出るために南の門へと向かっていることは確認済みだ。町を出るまで魔力弾で嫌がらせをして、怒ったところを倒すことにしよう。町の中だと戦いづらいしな。
「クソこいつ...外で待つ。来たらすぐ殺してやる」
そうフロートが言うと、音速まで加速して走り去っていった。ありゃ相当怒っているな。さっさと追いついて殺そう。
フロートがどこまで走ったのかは大体わかる。撃ち込んだ俺の魔力がわずかながら反応して、位置を教えてくれているのだ。フロートが消えた場所から大体一分ほど走ってついた町の外に、奴はいた。
「追いついたぜフロート...おおっと、急に襲いかかってくるたァ怒り心頭か?」
到着と同時に襲い掛かられた。完全にアクセルの姿になって、格闘戦を仕掛けられる。
「さっきお前俺を殺すとか言ってたが、それはしないんじゃなかったかァ?他の魔族らが黙ってないはずだぜ?」
放たれる拳や蹴りをうまく対処しながら会話を続ける。結構普通に殺しにきてるけど、俺は殺さないって話になってるんじゃなかったのか?
「何お前が魔族語ってんだ...俺がお前を殺したところで何も変わらない。お前の役を俺がやるだけだ」
「なるほど、そりゃ確かにそうだな」
その話を、他の魔族にされてりゃ俺はもう死んでいただろうな。死んでないってことはその話を共有していないということ。つまりは独断。こいつにさえ気をつけていれば、殺されることはないな。
「そういやよォ...俺が寝てる間にうちの仲間の姿して襲ってきたんだってなァ。今回の件と言い、何が目的だ?」
「あ゛?寝てる間?オイそりゃなんの話だ?」
アクセ...いや、フロートの攻撃の手が止まる。本当に不思議といった感じで硬直しているが、何か変なことを言ったか?俺。
「……なるほど、魔法使いの仕業だなぁ...?まぁいい、今は関係ないな」
「止まったかと思えば急に攻撃し出すのやめてくれませんかねぇ!」
『雷装』
雷装を使って加速し、フロートの攻撃を捌く...おや?この感じは...いけるな。
「本物よりも雑だなァおい」
フロートの攻撃の隙を突き、腹に拳を叩き込む。
「どうやら、完璧な模倣は出来ねぇみたいだな。アクセルの方が何倍も強いぜ?」
全力疾走を使わずに攻撃を捌けている時点で、模倣が完璧ではないのは明らかだ。どこかしら模倣しきれてないところがあるもしくは、体の制御をしているのがフロートであることによって本来の性能を扱い切れていないといったところか。
「ただの猿真似じゃねぇか!こんなもんに翻弄されてたなんて恥ずかしいぜまったく!」
フロートの首筋に蹴りを叩き込み、一気に蹴り抜く。触れるのは一瞬だけ。俺の力をコピーされるわけにはいかないからだ。
「猿真似だぁ?...その舐めた口二度ときけなくしてやる!」
少しふらつきながらフロートが言葉をこぼす。
「っ⁉︎」
周囲の気温が上がり始めている?...カイの熱操作か!さっきもワンナの姿のままアクセルの走りを見せていたし、必ずしもその姿になる必要はないのだろう。もしかしたら、内部だけその人の姿にしてるとかはあるかもだけど。
5293ページ 黒のみ 熱操作
気温を下げようとしてきたなら速度操作だけで事足りたが、上げられた温度を下げるのは速度操作だけではキツい。熱操作と合わせることで、なんとか気温を保たせる。
「なんだそれだけかァ?」
「口を閉じてろ!」
「んんー⁉︎」
暗示か洗脳か、勝手に口が閉じて一切開かなくなる。
「んーんんーんんんーんーー!」
口は開かないが、こんなことに魔力使うの草ァ!とそんな感じのことを叫んでみる。
「どうやって話してんだそれ!」
えっ、伝わってる?口から音を響かせさえすれば、翻訳の石がこの世界の言葉に訳してしまうのかな?
「……まぁいい。殺してから調べるとしよう」
周囲の空気から氷が作られる。ミリフの水分操作だな。温度変化で氷を作ってるわけじゃないから、速度操作でも熱操作でも対処できないな。
飛んでくる氷を探知しながら回避し、それと同時に自分の口と頭に魔力弾を撃ち込んでおく。
「ジャミング成功...っと」
結局どっちに魔法がかかっていたのかよくわからなかったが、魔力弾によって魔法を無理矢理解除させて声を取り戻す。
「そうそう死んでたまるかってんだよ!」
銃をしまい、刀に手を触れる。
『色彩剣装 原色・赤』
刀に赤い光を纏わせ、魔力を流して刀身を長くする準備をしながら鞘に押し込んで...
「ウ゛ッ...!」
心臓が締め付けられ...略奪か...!
「ん?なぜ盗めない...?」
幸運だった。今攻撃に使っているのは速度探知がないと使えない魔法図鑑の魔法ではなく、スキルの雷装と色彩剣装だ。刀への魔力操作も一応途切れずにできている。この魂が引き抜かれそうになる痛みを感じるのは二度目だ。攻撃の手を止めないようにできるくらいには、もう慣れた!
「ゥ...オラァッ!」
周囲の気温が上がっていくのを肌で感じながら、刀を振り抜く。速度操作がないため音速の斬撃とはいかないけれど、この距離なら届かないだろうというフロートの誤った目測と、なぜか盗めない速度操作への疑問が重なったことによりフロート動かないことを選択したため、刃がフロートの腰部分に入る。
アクセルの肉体強化による硬い身体も、防御無視の赤の前では紙も同然。そのまま振り抜き、上下に真っ二つ、一刀両断する。
「ぐっ...!」
パリンッ!と、ガラスが割れるような音がしたと思えばフロートの下半身が消える。そして上半身側から脚が生えてきた。アクセルの姿からワンナの姿へと変化する。
「やっと一つか...あと何回倒しゃいいんだ?」
フロートは戦闘不能になったとしても、あらかじめ模倣してストックしておいた別の体に入れ替えることで戦闘続行することができる。実質、コピーした分だけ残機があると言って良いだろう。その回数分殺さないといけないため、かなり面倒な敵だ。
しかし、殺しても生き返る二人組の魔族とは違い、こいつは殺し続ければなんとかなる。それに加えて、こいつは殺す度に弱くなる。死んだ体の持つ能力や魔法は使えなくなるからだ。殺せば殺すほど使える力は減っていき、ジリ貧になっていく。底までどれくらいあるのかわからないだけで、いつかは終わりにたどり着けるだけ他の魔族より戦いやすい。
「まぁいい。今のでアクセルの力は使えなくなっただろうしな」
略奪はまだ使えるだろうが...おそらくもう使ってこないだろう。フロートは速度操作を盗むつもりで略奪を使ったのだろうが、それでは盗めないことをさっきので知っただろうからな。適性ごとコピーしてるからいくらでも略奪を使えるとはいえ、無駄なことには魔力を使うことはないだろう。
仮に使われたとしても、他の大切なものを盗まれないように速度操作を一番の武器だと考えておけば問題なし。暗示にさえ気をつければ、魔法図鑑を盗まれることはないはずだ。
「面倒だし略奪も殺させてもらう!」
アクセルの力を失ったフロートには、俺の動きに追いつくことなどできない。特に、全力疾走を使った俺にはな。
9934、9935ページ 全力疾走
刀を持ち、すれ違い様に脚や腕を斬り飛ばす。一瞬でダルマ状態だ。
「もう一つ...もらうぞ!」
またしても別の体へと変化したフロートの首に刀を突き刺す。リスキルリスキルゥ!
「知らねぇ顔だな。適当な弱い奴の体でロスを減らしたか」
「みすみす...強い力を失うもんかよ」
アクセルとワンナという激強能力持ちのコピーを殺したのはよかった。けれど、こっから先はフロートが使えないと判断したコピー体で時間稼ぎされそうだ。俺が油断したところで、強い魔法を使って反撃してくるかもしれない。
まぁいい。このまま油断せずに殺し尽くせば問題ない。何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も殺せば終わりなのだ。
「そろそろ!諦めて死んだらどうだ!」
もう全力疾走はいらないだろうと、解除してなお首を斬り飛ばしながら俺は言う。
「諦める?そんなことするわけないだろう」
フロートの姿が変わる。誰に変わろうとも、何も変わらない。刀を振り、首を斬り飛ばすという結果が変わることは決してな...い...⁉︎
ステラだ。ステラに変わった。そうだそういえばステラがコピーされてるってニアが言っていた。
……でも、それがなんだ。試合では普通に仲間でも殺し合いをしている。フロートに仲間の姿をコピーされるなんてこと、想定済みなはずだ。
何も変わらない。ただこの腕を振って、切るだけ。それだけでいい。たったそれだけ...
なのに、なぜ俺の思考は止まらない?行動になかなか移らないんだ?
「また...私を殺そうとするの?」
その、ステラそのものの声を聞いた瞬間、閉ざされていた記憶の扉が開いた。
善意で鍵をかけられた扉が、開いてしまった。
身体が硬直する。刀を振る腕が、刃がステラに当たる直前に止まってしまう。
脳が割れるように痛い。そして、異常なほどの発汗と、吐き気が催される。
「あ、あ゛あアァあッハッ っ、はぁッ、ああぁぁぁっっっ!!!」
刀が手からこぼれ落ち、頭を抱えてうずくまってしまう。
「やはり、お前は仲間を殺せない。特に、こいつの体はな」
近く、それも間近にいるはずなのに、声が遠く聞こえる。
「ア゛ァ゛ッ」
首を掴まれる。ステラに首を掴まれて、締められている。なのに、抵抗できない。
「これでお前の力を模倣して、殺して終わりだ」
意識が遠のいていく。
「い、や...」
「嫌だと言っても無駄だ」
「間に合...った...」
「お前何笑って...⁉︎」
ステラの...いやフロートの首が飛んでいく。首から下が消滅し、俺の首を絞めていた手が消える。呼吸ができるようになる。
「大丈夫?カリヤ」
「は、は...ナイスタイミングだ、ライト...ごほっ、ごほ」
絶体絶命の俺を助けてくれたのは、勇者ライトだ。
「なぜ...勇者がこのタイミングで!」
「あの時使った洗脳操作でな...実は勇者を呼ぶように頼んでたんだ...間に合ってくれて、ほんと助かったぜ」
ただ人を退けるためだけに洗脳操作なんて魔法使わない。魔族が現れたことをライトに伝えることこそが真の目的だった。
「クソ、ギリギリコピーできてねぇのかよ...!」
運がいい。十秒は触れられていたが、能力や体の模倣はされなかったみたいだ。
「もっと早くやっていれば...クソ!」
「逃がさないよ」
「グアッ!」
雷がフロートに直撃する。
「ん...ぐぅ...!」
「逃さないって言ったはずだ」
もう一発雷が落とされる。心肺停止したのか、別の人の体に切り替わる。
「もうお前らに付き合っている時間はない!」
なんとしてでも逃げようとしているフロート。
「逃すかよ...略奪返し...喰らいな」
9931ページ 略奪
「ウ゛ゥ゛ッッ...」
地を這いずりながらフロートを視界に収め、略奪を発動する。そして固有能力を対象に取り、魂ごと思い切り引っ張る。
「最悪逃げられても良い...けど、素顔は晒してもらう...!」
固有能力、模倣の制御をフロートが手放す。少しずつ体が別物に切り替わっていく。
それと同時に、ライトがフロートに切り掛かりに行く。
もしかしたら、このタイミングならばフロートを殺せるかもしれない。真の姿を晒すこのタイミングなら、略奪に使う俺の魔力がもちさえすれば...
「ハッ、こっちも間に合ったみたいだ」
ライトの聖剣が、フロートの首をすり抜ける。
「転移...現象!」
「残念だったな。またお遊びに付き合ってもらうぜ」
そう言い残し、フロートは消えた。どこかに転移したのだろう。
『保険として付き合ってあげたけど、世話かけないでもらいたいものね』
そんな声が響いてきた。声は変えられているようだけど、話し方でわかる。転移の魔族だ。
「どっから聞いてるのかわからねぇが、躾けてやってくれ。あいつ俺を殺そうとしたぞ」
『フロートに殺す意志はなかったはずよ。言っていたでしょう?遊びだと』
……まさか、返答が返ってくるとは思わなかった。
そして、おそらく殺す意志がなかったというのは本当だろう。本当に殺そうとしていたなら、転移の魔族も参戦していたはずだ。それをしなかったということは、全ては遊び、ただの嫌がらせだったわけだ。
「遊びにしては随分悪質だったんだが...?」
『掻き乱すのが仕事だもの。存分に引っかかってくれると、私も嬉しいわね』
……見られている感覚が消えた。転移の魔族も、どこかに行ったんだろう。
「魔族とあんな会話できるなんて...すごいなカリヤは」
「すまんライト。俺落ちるわ...」
「えっ?」
さっきまで首を絞め続けられていたのと、魔族が退散したことで緊張が抜けたのが合わさり、辛うじて保っていた意識がブツっと切断された。
深い海の底に、意識が沈んでいく...
案外フロートの一件の記憶が戻るの早かったっすね...早めにやらないと存在を忘れちゃって回収し忘れちゃうからね、仕方ないね。