前世の俺がすでに転生特典決めてました   作:ダイヤモンドリリー

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10703字。

なんか筆が乗って長くなりました。


天の怒りをその身に

夢を見ていた...気がする。

 

その夢はやけにハッキリとしていて、やがてそれがもとの地球での生活を再現した夢だと気づく。

 

一語一句、一挙手一投足。全て同じ。

 

なぜここまで同じなのか。そもそも、なんで同じだとわかるのか。それはわからない。

 

いや、違う。これは夢じゃない。

 

これは記憶だ。

 

俺の記憶だ。

 

なぜかはわからないが、俺はもとの地球で起こったことを全て覚えていた。

 

けれど、そのことに疑問を持つ時間はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

轟音が鳴り響いた。

 

閉じているはずの瞼を貫通して、とてつもない光が目の奥に突き刺さった。

 

体に、激痛が走った。

 

「ア゛ッッ...!ガア゛ア゛アアアアアッッッ!!!」

 

強烈な痛みによって、夢の中から強制的に叩き起こされる。大声で叫び、痛みに悶える。

 

「な...にが...」

 

何が起こった。わからない。わからない。

 

「まさ...か...」

 

雷が、俺に落ちたとでもいうのか?そんな馬鹿な。ありえない。信じたくない。

 

しかし、そんな俺の考えを遮るようにまた空が光り、俺の数十メートル前に雷が落ちる。

 

聞こえるはずの轟音は聞こえなかった。

 

「耳が...死んでる?鼓膜が破れてる⁉︎」

 

そう言っているはずなのに、俺の耳には届いていなかった。否、届いているが伝わってないだけだ。

 

「まさか本当に雷が...やばいやばいヤバい!」

 

こんなところにいちゃダメだ。逃げなきゃダメだ。また雷が落ちる。いつ俺に落ちるかわからない。雷に直撃して生存した人の話はたまに聞くが、短期間に何度も直撃すれば今度こそ命があるかどうかわからない。

 

「逃げ...なくちゃ!」

 

今もなお痺れている体をなんとか動かし、仰向けの状態からゆっくりと立ち上がると、村の方に向かって足を踏み出す。

 

その瞬間、背後からものすごい衝撃波が飛んでくる。また雷が落ちたのだ。俺は迫り来る雷の恐怖からなんとしてでも逃れようとした。全速力で走った。

 

能力を使い、超高速で走り抜ける。

 

やがて荒野を抜ける。もう雷の心配はない。けれど、俺から雷への恐怖が消えることはなかった。未だに体の痺れが取れない。いつまで経っても、体に流れる電流は消えない。永遠に雷に付き纏われているような感覚に陥り、その恐怖に駆られて、俺は無我夢中で走り続ける。

 

「っっっ!ク、ソ...がぁっ!」

 

全てを振り切るために、ただ闇雲に走る。もうスタミナなんてとっくに切れていてもおかしくないはずなのに、体が限界なんてものを無視して無理矢理にも足を動かそうとする。

 

そうして走り続けるうちに、俺は森を抜け、平野を走り切り、またもう一つ森を抜けて、村へと辿り着くまであと一歩のところまで来た。

 

「いつまで...ついてきやがんだテメェはよォ!」

 

今も俺の体を蝕む電流に向けて、怒気を込めて叫ぶ。

 

「…えっ?」

 

フワッとした浮遊感が訪れた。それは全てからの解放。電流からの解放。しかし、その浮遊感は一瞬だった。

 

「ガッ!グフッ!ゴフッッ!!」

 

魔力を使い切った俺は、なすすべもなく地面に叩きつけられ勢いよく転がっていく。

 

「し...しぬ...」

 

村が見える。東の門が見える。あと少しで村に着く。けれど、スタミナも使い切った俺は指一本動かすことができない。

 

「          」

 

衛兵の人が何かを叫びながらこちらに近づいてくる。けれど、何も聞こえない。鼓膜が破れているんだ。無理もない。

 

そして、全身の痛みで俺が意識を落とすのも、当然のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また同じ夢を見た。

 

さっきよりも長い夢だ。

 

大体一週間くらいの長い夢。

 

一回も途切れることがなく、俺は俺の記憶の夢を一週間見続けて...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めた。

 

「と...トリさんトリさんこっち来て!カリヤ起きた!」

 

ステラの騒ぐ声がした。ちょっとうるさい。思わず耳を塞ごうとしたが、体がうまく動かなくて塞げなかった。

 

…あれ?声が聞こえている?

 

「やっっっと起きたか。まったく、よくも一週間もベッドを占領してくれたな」

 

「それが怪我人にかける言葉かよ...」

 

なんとか体を起こす。

 

「なんだ。元気じゃないか」

 

「元気なのはトリさんのおかげでしょ...つーか一週間か、よく生きてたな俺」

 

雷に撃たれて、スタミナが切れるまで走って地面を転がって。いろいろな傷がついていたはずだ。

 

「運が良かったな。内臓の傷に全身の火傷、擦り傷に土まで擦り込まれて雑菌だらけ。俺だけじゃ治せなかった」

 

「トリさんだけじゃ?この村に他の医者いないんじゃなかったっけ?」

 

「応急処置したはいいけど、そこから先は俺にはできなかった。魔力量も技量も俺には足りない。そんな時、救世主が現れた」

 

「救世主?」

 

「通りすがりの最強魔法使いがちょうどこの村にいたらしくてな。その人に協力してもらったんだ」

 

「また通りすがりかよ」

 

流石にステラが言っていたのと別人だとは思うけど。

 

「傷は全部治っている。今はまだ動けないだろうが、一日寝ていれば明日には動けるようになるだろう。よかったな」

 

そこまでの治癒魔法使えるとかすごいな。蘇生とかもできるんじゃないのか?知らんけど。

 

「なぁ、それ治療費とか大丈夫なのか?最強つってたけどバカ高い額請求されてたりはしないよな?」

 

そこまですごい魔法を使ったんだ。トリさん基準で考えると...一生払えないくらいの額を請求されても文句はいえない。

 

「タダだってさ。逆に感謝までされたよ。いい回復魔法の練習ができたよ、だとよ。最強の考えることはちげぇな」

 

そんな善人がこの世界にいるのか。すげぇな。

 

「あっ、でも俺の治療の分はちゃんと請求するからな」

 

「マジかよお前。その最強魔法使いとやらの爪の垢でも煎じて飲んどけ」

 

「なんで爪の垢を飲まなきゃいけないんだ気持ち悪い」

 

通じないのか...

 

「はぁ...で、いくらだ?」

 

「ああそれなら気にしなくていい。すでに抜き取っておいた」

 

「なに勝手にやってんだ。多く取ってたりしないよな?」

 

「まさか」

 

「ならいいけど...」

 

一応後で確認しておこう。

 

「ほらほらカリヤ。もう今日は寝なよ」

 

「急に何を言うんだよステラ。一週間寝てたんだぞ?寝れるわけないじゃんか」

 

多分心配してくれているんだろうけど...寝れないしな。

 

「寝れなくても寝るの!」

 

「そんなこと言われてもなぁ...」

 

「起きれるのなら起きればいい。そっちの方が俺も楽だ」

 

「じゃあ起きますよ...よっと」

 

なんとかベッドから降りる。まだ何かを支えてながらじゃないと動けないが、しばらくすれば慣れるだろう。

 

「じゃあなトリさん。世話になった」

 

「ちょっ、カリヤ待ってよ!」

 

診療所を出る俺のあとを、ステラがついてくる。

 

「もう少し休んでいきなって!」

 

「大丈夫だよ。もうだいぶ動ける」

 

もう支えなしで動けるようになっていた。ヴェ○ム・スネ○クよりも回復早いな。

 

「なんでそんなに早く動こうとするのさ!」

 

「ステラも同じだったじゃんか。早くリハビリしたいんだよリハビリ」

 

「リハビリっていったって...」

 

「あの特訓場に行くぞ。リハビリもそうだが...新しい力を見せたいんだよ」

 

「新しい力?」

 

「ほら行くぞ」

 

「あっ、ちょっと待ってよ!」

 

すたこらさっさと急いで特訓場に向かう。

 

「新しい力ってなんなのさ!」

 

「天の怒りだよ」

 

「えっ?いやでもそれは勇者にしか使えないんじゃないの?無理でしょ」

 

「まぁ後のお楽しみってことで」

 

特訓場に着く。

 

「的立てるの手伝ってくれ」

 

「…うん」

 

ステラと一緒に的を立てる。

 

「よし準備完了っと。いくぞーステラ。驚くなよ?」

 

「はいはい」

 

あーこの反応、多分信じてないな。雷に打たれて変になったって思われてそう。

 

「『雷装・剣』」

 

持っているダガーに電流が流れ出す。

 

「えっ...えっ⁉︎」

 

「すごいっしょ。見た目だけじゃないんだぜ?」

 

的を斬りつける。木でできていた的は、切断面に電流が流れたことでほんの少し焼け焦げていた。

 

「ほんとだ...」

 

「剣だけじゃないよ。盾も矢もできるんだぜ?」

 

『雷装・盾』

 

盾に電流を流してみせる。ステラはさっきとは打って変わって、キラキラとした目を向けていた。

 

『雷装・矢』

 

今度は矢に電流を流す。そして弓につがえ弦を引き、手を離す。飛んでいった矢は的に命中すると、超高圧の電流が流れて的を焼き焦がす。

 

「す...」

 

「す?」

 

「すっごーい!」

 

ステラが物凄い笑顔を浮かべながら俺の手を握り、ぶんぶんと振る。

 

「すごいよすごい!どこでそんな力を手に入れたのさ!」

 

「東のあの荒野だよ。天の怒りが常に降り注いでるあそこに行って、スキルを手に入れたのさ」

 

「わ、私も行ったらできるようになるかな!」

 

「やめとけやめとけ。俺みたいに直撃食らって死にかけたくなけりゃな」

 

「あっ...そうじゃん。もう、そんなところ行っちゃダメなんだからね!」

 

「さっきめっちゃ行きたがってたやつのセリフとは思えねぇな...そんなにこの力を使いたいのか?」

 

ブンブンと首を縦に振るステラ。

 

「じゃあほれ」

 

『雷装・矢』

 

スキルを発動し、電流が流れた矢を作る。そしてその矢をステラに渡す。

 

「えっ、本当にいいの⁉︎ほんとに?ホントに?」

 

そう言いながらステラは矢を撃っていた。

 

「早いな...いいんだよ。元からそのつもりだったしね」

 

「やった!ありがとカリヤ!やったやった!」

 

めっちゃ喜んでくれている。なんかそこまで喜んでくれているのを見ると嬉しくなってくるな。

 

「喜んでくれてるところに水を差すようで悪いが、ちょっといいか?」

 

「なに?」

 

「ここに来るまでの間に、この電装の矢を使った技を一個考えたんだ。実践するから見ていてくれ」

 

弓を構える。多分できるはずだ。

 

「まずは...『氷装・矢』」

 

氷の矢を適当に飛ばす。地面に刺さった矢は、その周辺の草花を凍らせる。

 

「凍ってるってことは水分があるはずだ。そこに...『電装・矢』だ」

 

電気の矢を、氷の矢が刺さっているところに向けて飛ばす。地面に刺さった矢は、凍った草花に超高圧電流を流す。

 

「氷も水と同じように電気分解できる。魔法の矢は刺さっている間ずっと効果を発揮するから、ずっと氷を生み出し、電流を流し続ける。だから、待てば待つだけ充満するはずだ」

 

『火装・矢』

 

「そしてこれが最後のピース。ステラ、衝撃に備えとけ」

 

「えっ?」

 

火の矢を飛ばす。飛んでいった矢は地面に刺さる...ことはなかった。

 

「きゃっ⁉︎」

 

大爆発が起きた。氷を電気分解し続けたことで生じた水素と酸素に、火の矢の火が燃え移ったのだ。

 

「水素爆発。酸素濃度が5%以上、水素濃度が4%以上混ざった気体に点火すると起こる爆発...だったかな。面白いだろ?」

 

氷や水を電気分解し、そこに火を放り込む。ポケ○ンの映画でやっていたことを現実にやって本当にできるかはわからなかったが、試してみてよかった。

 

「おぉ...!」

 

ステラがさっき以上のキラキラした目をこちらに向けてくる。

 

「氷の矢は水弾でも代用できるけど...ステラにはこっちの方が楽だよな。多分威力もこっちの方が出るし」

 

一定量の水しか出せない水弾よりも、ずっと氷を作り出すことのできる氷の矢の方が、作り出せる水素と酸素の量は多い。三発矢を撃たないといけないためちょっと遅いが、一撃の威力があるので十分だろう。あとロマンがある。

 

「連発できればよかったんだけどなぁ...一発撃ったら刺さった矢も吹き飛んちまうしな。しゃあない」

 

もし氷の矢と電気の矢が地面に刺さったままなら、あとは火の矢を撃つだけで爆発を何度も起こすことができたのだが...爆発の威力が大きいことも考えものだ。

 

「どう?ステラもやってみる?」

 

「やるやるー!」

 

ステラが嬉々として弓矢を構えているのを横目に見ながら、俺はダガーを取り出す。

 

『電装・剣』

 

ダガーを振りながら、体の調子を確かめる。やはり、随分と回復が早い。知らず知らずのうちに能力を発動していたのか、それとも普通に回復魔法がすごかったのかはわからないが、好都合だ。

 

「じゃあ...あれも試してみようかな」

 

俺がとあるスキルを発動しようとしたその時。

 

「うおっ、びっくりした」

 

ステラの起こした爆発の衝撃波が飛んでくる。ステラ、なんも言わずに爆発を起こしたな。俺がやった時はちゃんとステラに忠告しておいたってのに。まぁいいけど。

 

「すごいねこれ!速射も混ぜればもっと強くなりそう!」

 

「あっ、速射するなら電気の矢までにしとけよ?火の矢は電気分解がある程度進んでからじゃないと意味ないからな」

 

「そのでんき...分解?ってのはなんなの?」

 

「それは...説明難しいな。水がそれを構成する二つの物質に分解されるって言えばいいのかな。あくまで水の場合だけど」

 

「…水は水でしょ?水が何かに変わるってことあるの?」

 

流石に化学の研究は進んでないか。

 

「わからないならいいよ。ただこうなるよってのだけ覚えておけばいいさ」

 

「うーん...そうだね。いいや別に」

 

俺も詳しいわけじゃないから、そこで引き下がってくれるのはありがたい。間違ったこと教えるわけにもいかないしな。

 

「そういえばさ、私が試し打ちしていた時にカリヤは何をしていたの?」

 

ステラもこちらを見ていたようだ。俺だけがステラを見ていると思っていたら、ステラもこっちを見ていたとか深淵かよ。

 

「体の調子を確認してたんだよ。調子は完璧。だから、もう一つ手に入れていたスキルを試してみようと思ったんだよ」

 

「もう一つのスキル?」

 

「まぁ見てなって」

 

二回ほどその場で飛び跳ねて体を慣らすと、俺は一つのスキルを宣言した。

 

「『雷装』」

 

スキルの宣言とともに、俺の体に超高圧の電流が流れ出す。

 

「えっ、えっちょっ、か、かかかかカリヤ⁉︎」

 

ステラが素っ頓狂な声をあげて驚く。

 

「天の怒りが...大丈夫なの⁉︎」

 

「ん?ああ。大丈夫っぽい。痛みはないな。今のところだけど」

 

体には超高圧の電流が流れているはずだが、まったく痛みはない。スキルとして発動した人工的なものだからだろうか。思えば、火装を使って作り出した炎は全く熱く感じなかったな。延焼したものは普通に熱かったけど。

 

「この状態で動いたらどうなるんだろ...ちょっと走ってみるか」

 

グッと地面を踏み締め、一気に駆け出す。

 

「…速っ!」

 

明らかに速い。まだ能力を発動していないというのに、結構速い。

 

「どれだけ出てんだこれ。えっとなになに...?」

 

能力を発動し、速度探知を使う。

 

「秒速13.888...大体そんなところか。時速換算すると五十キロくらい...人類に出せる限界速度の仮説がそれくらいだっけか」

 

なんで電装を使うと速く動けるのかはわからないが、多分電流で筋肉が刺激されて効率よく動けるようになったとかかな。

 

「もしこれで能力も使ったらどうなるんだ...?やってみるか」

 

能力を全開にし、自らの速度を最大まで加速させて走る。

 

「お、おぉ...速え」

 

さらに速度が上がる。大体秒速30メートルくらいか。電装なしだと秒速20メートルだったから、1.5倍くらいか。結構加速したな。

 

「いいなこれ。加速にも使えるし、直接叩いて電気を流し込むこともできるし、結構便利なスキルだな」

 

そう呟きながらステラの目の前で立ち止まる。

 

「動いてて何か変なところとかないの?」

 

「んー...特にはないかな。魔力消費は火装と氷装よりちょっと多めで、スタミナの減りがなんか早いくらいだな」

 

どうやら魔力とスタミナの両方を使用するスキルのようだ。立ち止まっていても、勝手にスタミナを消費していっている。能力でスタミナの減少速度を減速しているはずだが、それをしてもなお早い。能力も電装も使っていないで走った時よりも減りが早い。

 

「…変だな。こんだけ早くスタミナが削れていくってのに、どうしてあの時村に着くまでスタミナ切れなかったんだ?途中で力尽きたとしてもおかしくないのに...」

 

今のスタミナ最大値で、この減り具合だと三分も保つかわからない。それなのにあの時は魔力が切れるまでは走り切れた。一体なぜだ?あっ、もしかして...

 

「確かめてみよう。スタミナ切れるまで動きまくってみるか」

 

雷装状態での戦いの練習も兼ねて、ひたすら動きまくってスタミナを浪費することにした。

 

「ステラ、的って壊しちゃっても大丈夫か?」

 

「いいよー。壊れたら作り直すだけだから」

 

「おっけ」

 

『雷装・剣』

 

二本のダガーに電気を纏わせ、能力を使い高速で動きながら的を斬っていく。たまに蹴りなども叩き込み、肉弾戦の練習もする。

 

「次はこいつでやってみるか」

 

『雷装・剣』

 

ロングソードに持ち替え、電気を流す。そのまま速さを活かして力一杯振り回す。ただ振り回すだけでいい。この速さと電装があれば、急所を狙うなんてしなくてもただロングソードを振り回すだけで致命的なダメージを叩き込めるだろう。斬るのではなく叩き割る、本来の用途を最大限活かせそうだ。

 

「鞭は雷受けてないけど...流せば使えるか」

 

ロングソードをしまい、鞭を持つ。そして自らに流れている電流を操作して、鞭に一瞬電流を流す。

 

「一瞬だけどこれで使えるはず...よし、『雷装・鞭』」

 

鞭に電流が走る。勢いよく腕を振ると、電流を帯びた鞭は大きくしなって的に命中し、的に高圧電流を流し込む。

 

「よしよしいい感じ...鞭で火装も使えるようにしたいな。今のうちにできるようにしておこ」

 

『火装・剣』

 

ダガーを一本取り出し、燃やす。そしてダガーの火を鞭に近づけて火をつける。

 

「よしできた。っとと、危ない危ない。消さないと燃え尽きちゃう」

 

『水弾』

 

鞭についた火を水弾で消す。

 

「ちょびっと焦げたけど仕方ない。火装は...ちゃんと使えるな」

 

鞭を回収し、スキルを使えることを確認する。

 

「よーしあとは...ってもうそろそろスタミナ切れるな」

 

練習をやめる。

 

「さーてどうなるか...」

 

「どうなるって動けなくなって終わりじゃないの?」

 

「まぁ見てなって。俺の予想が正しければ...」

 

スタミナが切れるまで、あと3、2、1...

 

「ゼロ...おお、やっぱ動ける」

 

スタミナは確かに切れた。肌感覚でわかる。

 

「えっ、本当に切れたの?勘違いじゃなくて?」

 

「本当だ。なのに動けてる」

 

ぴょんぴょんとその場で飛び跳ねる。

 

「雷装を使っていればスタミナが切れていても動けるみたいだ」

 

普通に考えてこれはやばい。スタミナを無視して動けるとなると、戦闘可能時間が格段に伸びる。大きなアドバンテージだ。

 

「ふ、副作用とかはないの...?」

 

「副作用か...あるにはあるな」

 

「えっ?」

 

「めっっっっっっちゃ痛い」

 

全身に走る苦痛に耐えることができず、能力と電装が解除される。電装が解除されたことで、体を支えることが出来なくなりそのまま地面に倒れ込む。

 

「だ、大丈夫カリヤ⁉︎」

 

「ダメ、無理、痛い」

 

直接の原因である電装は解除されたが、それでもまだ痛みは消えない。痺れるような感覚が残る。

 

「多分これ電流で無理矢理体を動かしてるから痛いんだろうな。スタミナがあるうちはサポートにしか使われないけど、スタミナが切れて自力で動けなくなると、電流だけで体を動かそうとしちゃうんだろう。だから痛い」

 

なんとか能力を起動してスタミナの回復速度を加速させ、痛む体に鞭を打ってうつ伏せの状態から体を起こし座り込む。

 

「まだ痛い?」

 

「ちょっとね。でも少しずつ痛みは引いてきてるよ」

 

「そっか...よかった」

 

「まさかここまでの副作用があるなんてなぁ...あの時は痛みなんて感じなかったけど、ただ単にアドレナリンが出て気づかなかっただけかな。それか全身の痛みに紛れてて気づかなかっただけか」

 

「ねぇ、その電装ってのあんまり使わない方がいいんじゃ...」

 

「いいや、使うね。せっかく手に入れた力なんだ。使わないと損だよ」

 

他の誰も持っていない力なんだ。この力があれば勇者の仲間になれる。足を引っ張るなんてことがなくなる...あれ?普通に俺しか持ってないって思っちゃってたけど本当にそうかな。誰か持ってたりしないのか?

 

「ねぇステラ、この電装を使える人って聞いたことある?」

 

「いないよそんなの。天の怒りを使える人は勇者様だけ、それが常識なんだから」

 

「じゃあ天の怒りに撃たれた人は今までに一人もいないのか?」

 

「そんなことはないよ?今までに何人も撃たれてる人はいるよ」

 

「撃たれて生き残った人はいる?」

 

「いるよ。今までに三人くらいいるんだっけな...たしかそうだったと思う」

 

「その人たちが電装を使ったって話はないの?」

 

「ないよ。その人たちは武器とか持ってない状態で撃たれたみたいだから、剣とか盾とか矢の電装が使えないのは当然なんだけど、カリヤみたいな体に纏うやつも使えなかったみたい」

 

「マジ?なんで俺は電装が使えてその人たちは使えないんだ?同じ条件なら同じスキルが使えてもおかしくないのに...」

 

「さぁ?カリヤが神の使いだからじゃない?」

 

「あれ?俺が神の使いだってステラに言ったことあるっけ?」

 

「カリヤが寝てる時にうなじにある印を見たんだ」

 

「あぁ、なるほど」

 

それなら納得だ。

 

「まぁなんで電装が使えるのかは分からずじまいだけど...スタミナ回復っと。帰ろうぜステラ。村に戻る頃には夜になってるだろ」

 

「そうだね。帰ろー」

 

完全回復した俺とステラは、協力して的を片付けていく。

 

「帰ったら何しようかな。本屋にはもう行かなくていいし...そのまま宿に直行かな」

 

「その前にトリさんのところに行こうねー」

 

「えー、行かないとダメ?」

 

「ダメー。雷装でどれだけ体が傷ついちゃったのかわからないんだから」

 

「うーん...まぁそうだな。痛みはもうないけど、一応行くだけ行っとくか。あっ、そうだ忘れてた。お金どうなった...?」

 

確認しようと思っていたのを忘れていた。袋を開けて中身を確認する。

 

「……あれ?」

 

なんか増えてるような...

 

「気のせい...じゃないな。ガチで増えてる。なんで?」

 

「さ、さぁ?なんでだろうなー」

 

「絶対何か知ってるだろステラ...ん?なんだこの紙」

 

袋の底に紙が書いてあった。

 

「えっとなになに...?」

 

書いてあった内容はこうだ。

 

『お金はトレント退治の報酬から出したので十分です。ステラの件の時にすでに本来の量より多くいただいていたので、その余剰分から貰いました。それでも余った分を入れておきました。好きに使ってください』

 

「なんだぁ、これは。スーテーラー?」

 

「な、なに?」

 

「これ、ステラが書いたろ」

 

「な、なんのことかなー?トリさんが書いたんでしょ?」

 

「はいダウト。口笛吹いても無駄だぞー」

 

「な、なぜわかった!」

 

「いや筆跡でわかるだろこんなの。こんな丸文字でトリさんが書いたは無理があるだろ」

 

「バレちゃったか...でもトリさんがやったのは本当だよ?」

 

「そっか...トリさんのところに行く理由が増えたな。夜になる前に行くとしよう」

 

「えっ、でもこの距離じゃ村に着く頃にはもう夜だよ?というか夜になる前に行く理由は無くない?夜でもある程度の時間までは診療所開いてるよ?」

 

「ただ早くトリさんに会いたいだけだよ。おちょくってやりたいだけだ」

 

「わ、悪い顔するねぇ...」

 

「走るか...いや、ステラの歩幅だと俺にはついていけないな。よしステラ、急ぐから背負うぞ」

 

「いや、鞄が邪魔だから背負うのは無理でしょ」

 

「だったら抱えるだけだ。お姫様抱っこだぞー喜べー」

 

「えっ、ちょまっ⁉︎」

 

ステラを持ち上げる。

 

「よし行くぞー。『雷装』」

 

雷装と能力を発動し、全速力で村まで走る。これなら陽が沈む前に余裕で着くだろう。

 

「お、おぉ...はっやーい!」

 

「すごいでしょ。風と一体になったみたいで...気持ちいいだろ?」

 

「うん!風が気持ちいい!」

 

「まぁこれ二回目なんだけどな。覚えてないかもしれないけど」

 

その時ステラは意識が朦朧としていたし、ハッキリと覚えていなくても無理はない。

 

「そういえばなんだけど、触っててもビリビリしないんだね」

 

「ある程度電流は操作できるからな、流さないこともできる。発動中誰とも触っちゃいけないとか欠陥すぎるだろ」

 

「あはは、そうだね」

 

ステラを抱えたまま村まで走る。あと一分もしない内に着くだろう。

 

「あっそうだ。あれ話しておかないと」

 

「なになにー?」

 

「俺、一週間後くらいに村を出ることにしたわ」

 

「…え?」

 

はしゃいでいたステラが硬直する。

 

「それってどういう...」

 

「いやね、なんか聞くところによると勇者選定があと九ヶ月後に迫っているらしくてね?その時に勇者パーティーも組むことになるらしいんだわ。だからそれまでの間に、いろんな町を回って力をつけておきたいんだ」

 

魔法に盾に冒険者の町。王都も回って、持てる最大限の力を持って勇者パーティーに入りたい。そのためには、そろそろこの村を出ないといけないのだ。

 

「…なるほど、残りの一週間は何するの?」

 

「依頼と修行だね。ステラ手伝ってよ」

 

「わかった。ステラ頑張ってカリヤの役に立つ!そしてカリヤを弓の名人にしてから送り出すよ!」

 

「おぉ、嬉しいねぇ...頼もしいよ。ありがとう」

 

そこまで言ってくれるなら期待に応えたい。弓の名人に一週間でなれるかは微妙だけど。

 

「あっ、そろそろ降ろしてくれる?ちょっと恥ずかしくなってきた...」

 

「そうだね、そろそろ村に着くしそうしよっか」

 

無事に夜になる前に村の近くに着いた。ステラを降ろし、ここからは普通に歩いて診療所まで移動する。

 

「ごめんくださーい。トリさんいるー?」

 

診療所に着いたら、ステラが扉を叩いた。今の時間だと俺が呼びかけても出てこないだろうというステラの提案だ。

 

「こんな時間にどうしたんだステラ...げっ」

 

「げっ、てなんだよ」

 

目論見通りトリさんが出てきたが、俺の姿を見た瞬間に扉を閉めようとした。慌てて扉を押さえて阻止する。

 

「今鍵に手を掛けてたな?閉めたら鍵かけようとしてただろオイ」

 

「さて、何のことやら...」

 

お前もそんな誤魔化し方するのかよ。

 

「もう夜になる。診療は終わりだ」

 

「ステラから聞いたけどこの時間ならやってるんだろ?」

 

「うっ、言わなくていいこと言ったなステラ...」

 

「言わなくてもいいこと...か。もう一個あるよな。ほれっ」

 

「なんだこの紙...は⁉︎おいステラなんだこれ!お前バラしたな!」

 

「まさかトリさんがこんなことする人だなんてなぁ...イメージとのギャップがすごいねぇ。あっ、それはあくまでオマケだから。診察お願いしていい?」

 

「はぁ...別にそれはいい。ステラを締めてからやるからちょっと待っとけ」

 

そう言ってトリさんはステラがいた方を向くが、そこにステラはいなかった。

 

「アイツ逃げたな...まぁいい、診察を先にしよう」

 

その後、俺はトリさんの診察を受けてから宿に戻った。

 

ステラがその日どうなったかはわからないが、明日普通に会ったので逃げ切ったのだろう。




電装という新しい力を手に入れたカリヤくん。
これからは主に、能力とこの電装を使って戦っていくことになると思います。
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