前世の俺がすでに転生特典決めてました 作:ダイヤモンドリリー
第七十四階層です。
前後編に分かれます。
第七十四階層
「んー...やっぱり読めないや」
「ダメか...」
これまでも、聖剣に宿っている歴代勇者の記憶が読み取りづらい、ということは何度かあった。いずれも読みづらいとはいえ、少なからず読めてはいたのだが...とうとう一切読めない時が来るとは。
「しゃーない。事前情報無しで挑むぞ。初代勇者は情報無しでも突破できたわけだし、いけるいける」
「そうね。さっさと入りましょ」
そう言ってニアは、俺に目の前にある扉を開けるように指で示す。
「じゃあ開けるぞー...なんもねぇ部屋だな」
何もない部屋に全員で入る。何かの罠がある感じではなさそうだ。どちらかといえば、個別訓練するときの感じに近い。
「なんだろ、擬似転移でもするのかな」
『六人の生命を認識』
『空間拡張、擬似転移を開始します』
「……合ってるみたいだな」
しかも六人ってことは、俺もみんなとは別の場所に飛ばされるわけだ。
「んじゃ、またここで会おうぜ」
グンッ、と空間が広がり、みんなとの距離が離れていく。
そして空間の拡大が終わった。
「……結構時間かかったな。そんでここどこ?」
なんかだだっ広い平原だな。屋外想定なのか...
「なんか見たことある景色だな...ん?あの雲ってまさか...」
黒い雨雲のようなものが、少し先の空に見えた。時々光ってるってことは...と思い近づいてみる。
「……うっわマジかよあの荒野じゃん」
そこは俺が雷装を手に入れた、あの雷が落ち続ける荒野だった。
「ってことはまさか、地上を全部再現してるってことなのか...?」
となると、カリスとかの町もあるのかな?試しに行ってみるか。どうやらちょうど日の出の時間らしいから、位置的に多分こっちかな...
「よし着いた。だいぶ速くなったよなぁ...あそこからここまで一瞬だ」
自分の成長を感じつつ、カリスに入る。
「流石に人はいないのか。でも人工物は普通にある...と」
うわ、民家もちゃんと中まで再現されてるのか...いやまぁ、入ったことないから本当に再現されてるかはわからないけど。
「世界の再現性は凄まじいけど、結局何すりゃいいんだ?これ。何をすればいいのかまるでわからん...」
シレンの穴なのだから、何かしらの訓練のはずなんだが...製作者の意図がわからない。わざわざ空間拡張でこんな世界を作って、俺たちに何をさせたいんだ?
「……合流しろ、とか?」
バラバラに散らばった状態から合流する。仮にそうだとしたら、こんな馬鹿でかい世界を作って、それぞれ別の場所に移動させられたことにも説明がつくんだが...
「まぁどれだけ考えたところで、仮説の域を出ないから意味ないわな...とりあえずシレンの穴あたりに行ってみるか」
人のいないカリスにこのままいても、どうにもならない。とりあえず、シレンの穴に向かうことにした。
俺たちはシレンの穴の中に今いるわけで、その状態でこの世界のシレンの穴に入ったらどうなるんだろうという好奇心と、単純にこの世界の中心に位置する場所だからその後の移動が楽だからってのが理由だ。
「よーし、移動始めるか...ん?」
遥か彼方、北の方角の空に黒い雲があった。あそこにも雷雲があるってことか?でも自然発生したとはとても思えない。
「ってことはニアの仕業か。あそこにいるってわけだな」
雷雲を作り出して、自分の居場所を伝えてくれたわけだ。でもスッゴイ遠いな...魔王城のある山じゃね?あそこ。合流大変そうだな。
「……うわビックリしたぁ...あれはライトか?」
今度は北東の方から爆発のような現象が起きた。多分、ライトが起爆魔法でやったのだろう。
「あっ、ポスってなったな。あれはステラかな?」
少し時間が経ったのち、今度は北西の方で小規模な爆発が起きた。各種属性矢を使って爆発を起こしたのだろう。なんとかして位置を伝えてくれた。
「じゃあ一応俺もやっておこうかな...」
魔力銃を取り出し、スイッチを切り替えて起爆モードにする。
『雷装』
雷装を起動してから銃を天に向け、まずは数秒間引き金を引き続ける。これで混合気体を天に撃ち出し、魔力操作で魔法陣を切り替えてもう一度引き金を引く。
「っし、これでいいだろ」
ある程度の規模の爆発は起こせた。大体の位置はわかってくれただろう。ちゃんと見てくれていればだけど。
「位置がわかってないのはクミリアとレストの二人だけか...あいつらは多分場所伝えるのは無理かな。後で総当たりして探すか」
まぁここに来る前の立ち位置を思い出せば、ある程度の方角はわかるけどな。俺はちょうど南の方にいる。転移前、クミリアは俺の左斜め前くらいにいたから、多分西の方。ムカデの巣があったあの山あたりに居そうだな。レストは右にいたから、多分ここから東の方。そっちの方には行ったことないからわからないから正確な位置まではわからないな。
「んじゃ、行きますか...そういや、流石に次元転移は使えないよな?」
9936、9937ページ 次元転移
「あー...なるほど、入れるけど転移先のゲートがここにはないから転移自体はできないのか」
当然だな、ここには初めて来たわけだし。
「走っていくしかないか...」
軽く準備体操をして息を整えてから走り出す。
「こっからシレンの穴は...大体十五分かかるかどうかって感じか」
もちろん、何も起こらなければという前提ありきの話なんだが、まぁ何も起こらないってことはないだろう。魔物の妨害くらいないと逆に困る。
「というかこれ、制限時間あるのかな...」
俺はすぐにシレンの穴まで辿り着けるけど、みんなはそうはいかない。魔法で飛んだり走ったりと速く動けるとはいえ、時間はかかる。やろうとしてることは、言ってしまえばこの世界の端近くから中心まで行こうとしてるのと同じなのだ。みんなの速度だと、休憩の時間も込みで半日かかってもおかしくはない。
「……もしや日が暮れるまでとか?ありそうだな...」
開始時点が日の出の時刻だったわけだし、何かしらの関係はありそうだ。ちゃんと陽は動いてるし、あれが沈む頃がタイムリミットの可能性は大いにある。
「じゃあ後で探しに行く必要があるなっと魔物か」
進行方向に魔物発見。数はたったの二体。カリスから王都にかけての魔物は弱いのがほとんどだから脅威には到底なり得ない。
「よっと退いてもらうよ!」
ダガーを投げ、先んじて魔物を処理してから通り抜ける。投げたダガーは魔道具で次元収納にポイでまた使えるようになる。回収の手間がなくて楽だ。
「ってかこいつらって倒した方がいいのか?十分無視できるんだよな...」
魔物を避けるのは簡単だ。俺に追いつける魔物などいないのだから、魔物のはるか前方で少し角度を変えて走ればもう追いつけない。
ただ、魔物を一定数倒すとかがこの訓練終了の可能性もあって、完全に無視するのもどうなんだろうと思ってしまう。合流が条件だってのは俺の推測に過ぎない。各地に散らばっている何かを集めるとかもあり得るし、ボスを倒して回るとかもある。
まぁ、ボスを倒すとかは無さそうだが。理由は、次の階層である第七十五階層が大ボスと戦うところだからだ。二連続でボスと戦うとかは流石に無いだろう。どちらかといえば、個々の力を示すように求められている気がする。
「……とそんなことを考えてたら王都に到着っと」
出発からものの三分で王都に到着する。
「うん、特に寄るところは無し。さっさと進もう」
王都の中心へと向かう大通りを突っ走る。一応魔物がいないかを見える範囲で確認しながら走るが...少なくともここら辺にはいないみたいだな。
「よーいしょっと!」
ドンっと地面を蹴って城の堀を飛び越える。そして城壁の上に着地してまたジャンプ。
「本物の城でこんなことしたら首が飛ぶだろうなぁ...」
と呟きながら北側の城壁を蹴って堀を跳び越える。
「っと魔物はっけーん」
着地して少し走った時、脇道に魔物が潜んでいるのが見えた。多分、この道を普通に通ってたら襲いかかってきたんだろうけど、俺が速すぎて素通りできてしまった。
「ってかサラッと流しちゃってたけど、普通に町中に魔物いるんだな...そりゃ聖域じゃないし当然か」
流石に聖域を勇者ないし女神の力無しに作り出すことは無理だったみたいで、ここは王都の中だけど聖域ではない。さっきのカリスも聖域じゃなかった。
というか他の階層と同じように、全ての場所が魔素で埋め尽くされてるんだよな...魔力回復できないから何気にやばかったりする。
「出来るだけ魔力使わないようにしながらアイツらを倒すなら...手札使うしかないわな」
建物の屋根に登り、魔物がいた脇道を上から覗く。数は五体。こっち側に三体で、大通りを挟んだ反対側の脇道に二体いる。
「気づかれないようになるべく同時に当てたいな...えーっと、あそこはこいつでそこのはこれをっと。よし飛んでけ!」
魔道具を介して次元収納にアクセス。あらかじめ収納していた速度の違う魔法を取り出して、射出する。
「全弾命中よし!」
放たれた魔法はどれも魔物の頭部に命中し、吹き飛ばして絶命させた。
「ちゃんと使えそうだなこれ」
あらかじめ魔法を収納して、射出する。魔道具のおかげでいちいち次元収納を発動しなくてもよくなったため実用的になった技だ。以前ニアと戦った時、ニアの魔法を収納して利用したことがあったが、それの改良版とも言える。
この技の良いところは、戦闘中に魔力をほぼ消費せずに攻撃できることだ。しかも、魔法の威力は普通に使った時となんら変わりない。非戦闘時に魔法を撃って収納すれば、その収納した瞬間の状態を保持したまま保存できる。速度や回転とかもそのままだから取り出す時に考慮する必要はあるが、慣れれば簡単だ。
「……王の○宝みたいだなこれ」
収納物を射出して攻撃とかまんまじゃん。無意識のうちに影響受けてたのかな?
「まぁいいや。バンバン手札切って魔力温存しながら進も」
魔力はまだまだあるが、何が起こるかわからない。この技を使って、出来るだけ魔力消費を抑えながら進もう。
とりあえず、残党がいないか確認してから北へと向かう。
「うわ、門開いてないじゃん...開けといてくれよなー」
やっぱどの町も北側は警備が厳重というか、魔物が来るのを恐れて門を閉めてあることが多いんだよな。適宜必要な時にしか開けないようにしてるらしいけど、困ったな...人がいないから開けてくれないし、開ける方法も知らないしで困った。
「跳び越えるしかないか」
カイスだったら無理だったけど、王都の壁なら普通に跳び越えても問題ないはず。流石にこの高さだと速度操作だけじゃ跳び越せないから、跳躍を使わないとだな。
72ページ右下 黒のみ 跳躍
久しぶりに跳躍使ったなと思いながら、地面を蹴って跳ぶ。王都を囲う壁を跳び越え、門から少し離れたところに着地する。
「よし、あと十分頑張ろう!」
シレンの穴までおよそ四十キロ。確実に一番乗りだぜーと思いながら、俺は走り出した。
「みんなバンバンやってるけど、クミさんそういうの無理だからなーどうしよ」
なんか高い山みたいなところに飛ばされて、とりあえずどんな状況なのか辺りを見渡していたら、爆発とか天の怒りとかがいろんなところで起こっていた。
どうやら地上の景色が全部再現されているみたいだ。みんな至る所に飛ばされたようで、多分自分の位置を知らせるために色々やってるんだろうな。
クミさんもしたいところだけど、あんな爆発する魔法とか使えないし無理かな。雷装が使えてたら出来たのかなぁ...
「あっ、でもちょうど真上に雲あるじゃん。これなら...!」
両腕を上に向けて伸ばして、空気の腕を作れば...
「よし!雲を散らせた!これで気づいてくれたかな?」
みんなの爆発とは違って、音が出たりとか分かりやすく光が出たりとかがないから、ちょうど雲を散らした瞬間にこっちを見てないと気づいてもらえないけど...誰かしら一人くらいは気づいたでしょ!
「さて、どこに行こうか。というか、そもそも何をすれば良いのかすらわからないんだよなー」
何か指示があるわけでもなく、急にこんなところに飛ばされてたから何をすればいいのかわからない。何をすればいいの?
「うーん...とりあえず誰かと合流したいな。一番近いのは北かな?」
ここから少し北の方で、小さな爆発が起きてた。あの規模だとステラちゃんかな?南東の方からもここに居るよって合図があったけど、こっちの方が近そうだからステラちゃんの方に行こうかな。
「まずは山を降りないとだね」
ここから移動するなら、まず山を降りる必要がある。この山は初めて来たから土地勘は全くないけど...道なんて通る必要無し!北側を突っ切ろう!
「久しぶりの一人だし、ちゃんと自分で索敵しないとダメだね。最近カリヤに任せっきりだから集中しないと」
まず、さっきまで立っていた高台のようなところから飛び降りる。下は崖だけど、途中で崖の壁面を蹴って落下速度を殺して、少し先の木の枝を掴んで完全に勢いを殺し切る。
「うわ、川だ...」
着地した時に、せせらぎの音が聞こえてきた。近くに川があるんだろう。山を降りる時、川に沿って移動するのってダメなんだよね。滑って転びがちだし、滝にぶち当たって進めないってことになることが多い。けど、それくらいだったらさっき崖を飛び降りたようにして降りることができるから問題はない。
それよりもマズいのは、魔物と鉢合わせすることだ。水場の近くは、水を飲みに来た魔物と出会うことが多い。他にも、水棲の魔物がいたりとかがあるから、視界の確保が難しい山の川には近づかない方がいいのだ。
「いつもだったら気にせず行くけど...魔力回復しないみたいだし、やめとこうかな」
ヒョイと川を飛び越えて、北へと移動する。
「山を降りたら、とりあえず広いところに出ないとね」
ステラちゃんも移動してるわけだから、爆発のあったところに向かうのはダメだ。そしてステラちゃんは空を飛べるんだから、地上からステラちゃんを探すよりも、空から見つけてもらった方が早い。だから広いところに出て、見つけてもらいやすそうな場所で北に移動するのだ。
「あっ、魔物だ...こっち行こ」
気配察知で少し先の木の後ろに魔物がいるのがわかったので、出来るだけ足音を消しながら進行方向を変える。魔物は無視だ。魔力もスタミナももったいないからね。移動に疲れるだろうから、出来るだけ戦うのは避けたい。誰かと合流して二人になったら、戦ってもいいけどね。
そうやって魔物を避けながら山を降りていく。カリヤがいたらこんな山すぐ降りれるんだろうなー。ニアがいたら、次元転移で移動できるね。あっ、それはカリヤもか。
そんなことを考えながら降りること二十分。まだ中腹らへんだろうけど、木がなくて開けた場所に出た。切り株も多いし、木を切り出すところなのかな。
「ふぅ...よし、行こっか」
ほんの少し息を入れてから、また移動を再開する。
と、その時だった。
「また爆発...?」
また空で爆発が起きた。ちょうど開けたところに出てたおかげで見ることができた。
「この方向って...シレンの穴あたりかな?この移動速度、もしかしてカリヤかぁ?」
多分そうだよね。レストは到着しても爆発させられないから違うだろうし、他の四人は全員シレンの穴から遠い場所にいたはずだし。カリヤしかありえないね。
「じゃあステラちゃんと合流したらカリヤの方に行こうかな...いや、もしかしたらステラちゃんも今のを見てるかも。カリヤの方に移動してたら、途中で会えそうだしそっち行こ」
山を降りるのを再開する。少し方向を変え、北北東へと向かって降りていく。
「……魔物っ⁉︎」
突然地面から手が生えてきて、危うく足を掴まれそうになった。寸前まで気配が無くて少し驚いたね。ギリギリ反応できて避けれたけど、これなんの魔物?土...いや泥?いつのまにか全身が土から出てきてる。
「なら打撃は効かないよね!」
魔物から距離を取って、両腕を伸ばす。そして空気の腕を作って、泥の魔物を押しつぶす。
「潰せばオーケー...って、なんか滲み出てるし!」
完全に潰しても死なないのね。それなら一度凍らせるか熱して、泥じゃなくしてから砕けばいいかな。
「……でも魔力使いたくないから逃げる!」
本当にその方法で倒せるかわからないし、逃げた方が早い!追いかけて来るならその時考える!
「一応地面から離れておいて...よっと!」
木に登って、比較的太い枝を選んで飛び移って移動していく。
「追っては...来てないかな?」
移動しながら地面を見てみるけど、魔物はいない。さっきみたいに地面に潜まれてたら嫌だから、一応降りないでこのまま移動しよっかな。
「……あともう少しで麓かなー...あっ、もう木がない」
魔物に警戒しながら降りる...魔物はいないみたいだね。よかった。
「また崖かぁ...下に川あるから行けるか」
崖にぶちあたっちゃったけど、最初に飛んだ崖よりも高低差少ないし、少し先に川もあるから無傷で降りれそうだ。
「よっ...と」
飛び降りて、壁面を蹴って、川に飛び込む。
「ひゃー水冷たっ!飛び込むんじゃなかった...!」
飛び込んだらめっちゃ冷たかった。普通に着地できたんだから、ちょっと後悔...あー寒い!
「服もビッチャビチャだし乾かさないと...ふんっ!」
炎のオーラを纏って、濡れた身体と服を乾かしていく。
「よし!じゃあカリヤのいる方に行こうかな」
「おーーーい!」
移動しようとしたら、遠くから声が聞こえてきた。この声は...ステラちゃん!見つけてくれたんだ!
「スッテラちゃーん!こっちこっちー!」
「さっき川落ちてなかった?大丈夫?」
「大丈夫だよーほらもう乾いてる」
「そっか、よかった」
そう言いながら、ステラちゃんが降りて来る。
「ステラちゃんと合流できてよかったー。探してたんだよね」
「私も探してたの。見つけられてよかった♪」
「えっ、もしかしてあの合図に気づいてくれた?」
「うん!雲がパァーって晴れたから、クミさんがいるのかなーって思ったの!」
「ありがとうね見つけてくれて。じゃあ二人で移動しよっか」
「そうだね。カリヤのいるところに行こー!」
ステラちゃんもシレンの穴の近くにカリヤがいるってことを把握してるみたいだね。二人で同じ方向に向かって歩き出す。
「……そういえばなんだけと、ステラちゃんってクミさんのことクミさんって呼んでたっけ?」
「え?クミさんって私呼んでた?うーん...その時々で呼び方変えてるから、なんて言ったか覚えてないや」
「すごい今更なことだけど、クミさんのことはどう呼んだっていいからねー。呼び捨てでもいいよ」
「じゃあクミさんって呼ぶね」
「いいよー。あっ、そうだ。カリヤに会ったらお兄ちゃんって呼んでみてよ」
「いいけどなんで?」
「前にそう呼ばれた時のカリヤの反応が面白かったから」
「ふふっ、確かにそうだったね。それじゃあクミさんも一緒に言おうよ!」
「えっ、クミさんも?年下にお兄ちゃんって呼ぶのおかしくない?」
「細かいことはいーの。やろうよ」
「……想像してみたけど面白そうだから乗った。やるよ」
と、こんな感じでステラちゃんと楽しく話しながら歩いていくわけだけど...
「ねぇステラちゃん」
「なに?」
「これ歩いたら何時間かかると思う?」
「うーん...陽が沈むまでかかっちゃうんじゃない?」
「だよねー、少し走らないとダメかな...走るけどステラちゃん大丈夫?」
「私は空飛んでいくから大丈夫だよ。でも走るくらいなら、カリヤを呼んだ方が早いかな」
「え、呼べるの?」
カリヤからこっちに呼びかけることはできるかもしれないけど、ステラちゃんはあまり魔法を使えないし、こっちから呼びかけるのって無理じゃない?それができる魔道具でも渡されてるのかな?
「ちょっと強引だけどね。ちょっと待っててねー」
ステラちゃんが凄い高さまで飛んでいく。そしてシレンの穴の方をじっと見て...あっ、弓構えた。構えて...射ったね。
「何したの?」
降りてきたステラちゃんに聞いてみる。
「カリヤのいるところに矢を射ったの」
「……え?届くの?」
「うん。突然突風が吹いたりしたらダメだけど、何もなかったらシレンの穴の近くに落ちると思うよ」
「すご...流石弓矢の村の英雄だね」
何十キロも離れた場所だろうに、そんなところまで矢を飛ばせるだなんて...弓が凄いのもあるんだろうけど、それを制御して、狙って射ることができるステラちゃんはもっと凄いね。
「上手くいってたら、二十分くらいでカリヤ来ると思うから、それまで休憩しよっか」
「そうだね。走り続けて疲れてたし、休憩するか...」
ゴロンと平原に身を投げ出す。ステラちゃんも背中の魔道具と弓を脇に置いてゴロンと転がっていた。
二人で心地のいい風を浴びながら休憩して、カリヤを待つのだった。
何気にクミリア視点って初めてなんですよね。
次回はライト視点もやろうかなと思ってます。
そして今回、ステラちゃんが二、三十キロぐらい離れたところから弓矢を狙って射ったわけなんですが、書くにあたって調べたら、両手で弦を引いた場合の最長距離記録で1.873km、最も遠くの的に命中させた世界記録は283.47mらしいですね。
……魔道具のおかげってことにしておいてください。