前世の俺がすでに転生特典決めてました   作:ダイヤモンドリリー

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8275字。

七十四階層後編です。


影はお前を取り囲む

「魔力が...足りない...」

 

魔物との戦いと飛行移動のせいで、大半の魔力を使い切ってしまった。それなのに、まだ最寄りの町のガルムには辿り着けそうにない。このままだと、ガルムに着くまでに魔力切れを起こしてしまいそうだ。

 

「魔法を使う魔物がいればいいのに...それもいないし...!」

 

魔法を使って来る魔物がいたら、その魔法を魔法拡散で魔力に分解して、最近できるようになった魔力を結晶に圧縮する技術を使って保存できるのに...そんな魔物がいないからそれすらもできない。

 

「そもそも、次元転移のゲートがないのがおかしいのよ...ゲートがあれば町までひとっ飛びなのに...」

 

しかも、ここからマナ探知見てしまったから気づいたことだけど、ガルムが聖域じゃなくなっている。もしあそこにたどり着けたとしても、そこで魔力を回復させることはできないのだ。

 

「魔力が尽きる前に、次元収納からポーションを出す必要があるわね...けど、まず出すべきは武器ね」

 

ここからは、魔物と戦う時はできるだけ魔力の消費を抑えなければいけない。だから、武器を取り出す。ちょっと強化するだけで魔物と戦える、私にも使える武器を。

 

ヒュンッ、魔物はいないけど、取り出した武器を一回試しに振ってみる。

 

「よし、調子はいいわね」

 

カリヤに練習に付き合ってもらったおかげで、これだけはまともに使える。その武器は鞭。私にぴったりの武器だ。

 

この際ハッキリ言おう。私は格闘が苦手。殴ったり蹴ったりはもちろん、武器を振って魔物に当てることも苦手だわ。そもそも、近距離戦が嫌い。相手に近づかれていると、魔法を撃った時に自分自身も危険に晒してしまうから。だから、性格的に近接武器は扱えない。少し前まで、唯一使える武器は魔力銃くらいだった。

 

けれど、鞭は違う。少し離れたところにいる魔物にも攻撃ができるから、安全な距離を保ちながら戦える。もちろん、武器を振るのが苦手なのには変わりないけれど、カリヤがくれたこの鞭は、魔力を流しながら振ることで、思った通りの軌道で攻撃することができる優れもの。これなら私にも使えるし、魔力消費も思いのほか少ない。至れり尽くせりって感じね。

 

「まぁ、魔物に会わないに越したことはないわけだけど...それは流石に無理よねぇ」

 

魔物が近くの木の中から飛び出して来る。魔法で木の中に入っていたみたいね...なんかここらへんで出会う魔物、どいつもこいつも何かに潜って隠れているのよね。何かあるんでしょうけど...ひとまず倒してから考えましょうか。

 

魔力を流した鞭を振って、先端で魔物の頬を叩く。当たった瞬間、先端に刻まれた極小の魔法陣が起動して、命中箇所から棘が肉の内側に向けて伸びる。これにより、心細かった鞭の殺傷能力が上がっている。

 

「トドメ!」

 

痛みで倒れ込んだ魔物から少し離れ、鞭を一番使いこなせる距離を保つ。そしてもう一度鞭を振って、先程打撃を加えた場所に先端を叩き込む。

 

鞭が棘を叩くことによって、棘はさらに奥に食い込む。それに加えて魔法陣が起動したことにより、棘から棘が生み出されて体の内側が貫かれる。

 

「これで倒し...っ!」

 

頬から頭の内側を攻撃したけど、まだ倒しきれてなかったみたいね。そしてギリギリ生き残っていた魔物は鞭に吸い込まれるように消えたため、急いで鞭から手を離して飛び退く。

 

「危ないわねぇ...」

 

鞭の持ち手部分から手刀が伸びてくる。一応障壁を目の前に貼ったけど...もう射程外に逃げれていたみたいで、手刀は障壁にすら届かない。そして蓄積したダメージによってちょうど今死んだようで、鞭から全身がだらんと抜け出る。

 

「こっちの持ってるものにまで潜り込んでくるなんてね...武器を使うのもこれだと怖いわね」

 

魔物が潜り込むのを見逃さないようにしなければ、不意打ちは避けられない。そもそもの対策として、物に近づかないようにしましょうか。地面に潜り込まれていたら対策不能になるから、気休め程度でしょうけど。

 

「そもそも魔法を満足に使えれば、こんなことしなくていいというのに...魔力さえ回復できれば...」

 

なにか魔力を回復できる方法はないのかしら。町が聖域でさえあれば回復できたというのに...ライトはここから東にいるっぽいし、聖域目当てに合流するのもよさそうねこれ。

 

……ああでも、多分もうライトは移動してるわね。全力疾走があるから、結構な速度で移動できるはず。休憩を挟んだとしても、カリヤがいるであろうシレンの穴付近にもうついているかもしれない。

 

こうなると、私にできることはひたすら南下して、シレンの穴でみんなと合流することしかないのかな...

 

「ほんと、ゲートさえあれば移動が楽なのに...ん?」

 

この空間に出口となるゲートがないのは、早々に確認した。けれど、ここから上方向、地上に作ってあるゲートはそのままあるのでは?

 

そしてもし、そのゲートに入ることができれば、聖域のあるどこかの町に移動して、魔力を回復することができるのでは...?

 

「……ダメね。ちゃんとあの場所を徒歩で出ないと元の場所に戻されるんだった」

 

もしシレンの穴の外に次元転移で出れてしまうならば、いつも毎回外に出る時にわざわざ坂を登っていない。次元転移で出られないのは既にわかってること。ちょっと期待しちゃったけど無理...本当に?

 

たしかカリヤは、ジャンプで穴の外に出たあと、着地と同時に戻されたと言っていた。もしゲートを出たあと、飛行で地に足を着けずにいれば魔力を回復しに行けるのでは...?

 

「……流石にリスクがでかいか。訓練強制終了されたら困るし、やめておきましょ」

 

そうなると、どうやって魔力を回復させようという話は振り出しに戻ってしまうわけだけど、結局どうしようかしら...

 

「んー...あれ、これポーションギリギリに飲む必要ない?」

 

ポーションを飲むと、それで得た魔力を使い切るまで魔力の自然回復が止まってしまう。そのデメリットがあるため、普段は魔力が尽きるギリギリに飲むのがセオリーなのだが...そもそも聖素が一切なくて、自然回復なんてしないのだからポーションのデメリットはほぼないも同然なのだ。

 

「ケチらずさっさと飲むのが正解だったのね...」

 

ポーションを次元収納から取り出して、一本飲み干す。ああ、お腹に水分が貯まるこの感じ、ポーションなんて久しぶりに飲むから懐かしさを覚えるわね。

 

「さて、もう一踏ん張り...!」

 

飛行魔法を起動して、空を飛ぶ。物に潜む魔物も、森の木より高いところにいる私を攻撃することはできないはず...

 

「……あれは...人?」

 

空を飛んだことで、視界が開けた。そのおかげで、森を抜けて少し進んだ辺りのところに二人の人影を見つけることができた。

 

この距離だと、まだ誰なのかわからない。けれど、こっちに手を振ってきてるわね。あの感じは...

 

「やっぱり貴女達だったのね、ステラちゃん、クミリア」

 

手を振っていたのは、ステラちゃんとクミリアだった。結構離れた位置にステラちゃんはいたはずだけど、もうここまで来れているのはカリヤのおかげなのかしら。

 

「ニアおねーちゃん見っけ!」

 

「おねっ⁉︎」

 

「おねぇちゃん探したよー」

 

「……ステラちゃんはともかく、貴女は私と同い年でしょう」

 

「せっかくボケたのに、驚かずに淡々と返された...」

 

まったく、やっと再開できたというのに、こんなボケをされるなんてね...

 

「カリヤの入れ知恵かしら」

 

「ニアを回収してっていうのを頼んできたのはカリヤだけど、おねーちゃんってボケはステラちゃんがやりたいって言った」

 

「ステラちゃんが...?」

 

疑いの目でクミリアを見てみるけど、その隣でえへへーと照れ笑いしているステラちゃんの様子からして、本当みたいね。

 

「ところで、私を回収するように言ったカリヤはどこに?」

 

「南東の方で、レストを探しに行ってるよ」

 

「こっちはあとライトを探すだけだね」

 

「……どうしてそんなに合流を急いでいるの?」

 

「そっか、ニアさんは知らないんだっけ」

 

「日没までに、シレンの穴のある場所に全員集合してないとダメらしくてね」

 

そういえば、この場所で何をしなければいけないのか全然考えていなかったわね。なるほど、合流は必須だったわけね...

 

「たしか見つけたら合図を出さないといけないんだよね」

 

「あれ?二人見つけたら合図じゃなかったっけ?」

 

「見つけたらとしかいわれてなくない?」

 

「でも、ライトを見つけてからの方が混乱しにくいと思うよ。別に合図は、カリヤからのが来てからでもいいわけだし」

 

「そっか、そうだね」

 

「……あまり話に追いつけてはいないけれど、これからライトを探すの?」

 

「そうだよ。見つけたら、合図を出してから移動するの」

 

「多分、探さなくていいも思うわ」

 

「どうして?」

 

「ライトには全力疾走がある。そして、聖域展開で魔力も回復できる。今の時間的に、もうシレンの穴にはついてると思うわ」

 

もう陽は天の頂点を通り過ぎて、少しずつ西へと傾きつつある。流石にもうライトはついているはず。

 

「だから合図を出して、シレンの穴まで移動し始めましょ。今から動き始めても、日没までに辿り着けるかは五分五分。正直、カリヤがさっさとレストを見つけて、こっちに来てくれないと危ないくらいなのだから」

 

ステラちゃんに爆発という合図を撃たせてから、私たちは南へと進み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やばいやばいやばいやばい!」

 

流石に!もう!限界!

 

魔物にどこからともなく追われて、逃げて隠れて、また見つかってを何度も何度も何度も繰り返した。もうバテバテだ。普段から機敏に動いて、もっとスタミナをつけておくべきだった...!

 

慌てて逃げ回っていたから、もう方角もわからない。ここに来た始めのころに鳴った爆発の方向がわからない。いつのまにか最初に居た丘のような高台に戻ってきてしまう。

 

そこで方向を確認しても、魔物から逃げているうちにまた方向感覚を失って...と、永遠と同じことを繰り返してしまっている。

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

また、ここまで戻ってきてしまった。一向にあの森から抜け出せない。どうにかして森を乗り越えなければいけないのに...

 

もう限界だ。スタミナは休憩すれば回復するにしても、魔力はもうどうしようもない。森を突破しようとしてついた傷を癒すのにほとんど使い切ってしまった。あまり支障の出ない、細かい傷は後回しにして放置しているのに、だ。

 

多分、あと一回しかチャンスはない。この一回にかけて、魔力を使い切って全身の傷を癒した方がいいかもしれない。けれども、盾で魔力を吸収できる可能性を捨てきれない以上、全て使い切るのも憚られる。どうすべきなんだ...

 

「……何が起こるかわからないし、一応残そう...」

 

魔力は使わない。あと少ししかないけど、貴重な魔力なのだからギリギリまで温存する。

 

「ふぅ...よし、行こう」

 

休憩はもう終わり。立ち上がる。

 

「まずは...」

 

立ち上がった時に小石を拾っておいた。拾ったその小石を、少し先にある木の影にむかって放り投げる。

 

「いない...ね」

 

何度も攻撃されたんだ。もう魔物の習性は把握している。僕をずっと襲って来るあの魔物は、物の影の中に入り込めるんだ。この森の中は影ばっかりだから、安全地帯は一切ない。

 

けど、少なくとも一歩先の影には魔物はいないことは確認できた。あとは、意を決して走り出すだけ。

 

「お願い...何も出てこないで...!」

 

魔物に出会いませんようにと願いながら、一心不乱に走り出す。

 

そうしようと一歩目を踏み出したその時だった。

 

僕の上に影が覆ってきた。

 

「雲...⁉︎」

 

運が悪い。雲の影が覆いかぶさってきた。そして、そう認識した時にはもう足を掴まれてしまっていた。

 

古代兵装(アンティークギア) 限定起動(リミテッドブート) 誘引(アトラクション) 受流(パリィ) 体力略奪(スタミナプランダー) 発動(アクティベーション)

 

急いで左腕の盾を起動して、僕の足を掴む手に押し付ける。受流が発動して魔物は吹っ飛び、影から出たため蒸発するように消えたはいいけど...

 

「魔力そんなに少なかった...⁉︎」

 

魔力切れだ。もう何回かは盾を使えるはずだったのに、どうして一回で...まさか、魔物の能力?魔力を吸収された?

 

「というかヤバい...囲まれた!」

 

僕の周りの影から魔物が大勢出てきた。急いで陽の当たっているところに逃げないと...!

 

「しゃがんで!」

 

突然声が聞こえて、疑問に思う前に頭を抱えてしゃがみ込む。

 

「『雷装』『一閃』!」

 

しゃがんだ瞬間、頭の上を何かが飛んでいった。少し経って魔物の方を見てみると、全員スパッと首が切れていた。

 

「い、今のは...」

 

「やっぱり、ここにいると思った」

 

助けに来てくれたのは、ライトだった...え?ライトって北の方にいるんじゃ...てっきりカリヤが来たのだとばかり思ってしまった。

 

「助けに来たよ、レスト」

 

「ありがとうライト...ところで、カリヤは?」

 

「まだ一回も会ってない。多分、レストを探して南東方向を探しまくってると思う。ここだって確信して真っ先に来た分、僕の方が早く到着したみたいだけどね」

 

ライトはそう言いながら、聖剣を地面に突き刺す。聖域が展開されるけど...

 

「ごめんライト。ちょうどさっき魔力切れしちゃった」

 

「それならこれ飲んでおいて。もしかしたら盾を使わないと行けなくなるかもだから」

 

「何から何までありがとう...」

 

ライトからポーションを渡されたので、飲み干す。お腹に水が溜まる感触と共に、魔力が身体に流れ込む。

 

「じゃあこの森を突破するよ。ちょっと待ってて」

 

ライトはそう言うと、聖剣をブンっと振る。

 

「ここは地上じゃない。環境への配慮をしなくていいのは楽だね」

 

たった一振りで、森を構成していた木全てが切り倒された。いや、粉微塵になったと言った方がいいかもしれない。剣のスキルとか魔法とかに詳しくないから、こんなこともできるんだと驚きでいっぱいだ。

 

「魔物は死んでないね。多分切り株の影に隠れてるから、自分の影と重ならないように気をつけて移動しよう」

 

「う、うん」

 

切り株を残してほぼ更地となった、元森を進む。影に気をつけて、とは言うもののライトが光の魔法で影を潰してくれるおかげでほとんど問題なく進むことができている。

 

「森を抜けるのは簡単だけど...カリヤがこっち見つけてくれないと時間には間に合わないかな」

 

「時間ってなに?」

 

「日没までにシレンの穴のある場所まで行かないと、夜が来てさっきの影に潜り込む魔物が大量に襲いかかって来る」

 

「うわぁ...」

 

どう考えてもヤバい。あんなのにありとあらゆる方向から攻撃されるとか、考えたくもない。

 

「カリヤを呼ぶなら...わかりやすいように雷にしておこうかな」

 

地面に手をつけて、空へと天の怒りを撃つライト。これでカリヤ来るのかな...

 

「どうしてこっち側にライトがいるんだ?」

 

うわ来た。いや、うわって言っちゃダメだね。でも、本当に今ので来るとは...結構もう近くにいたのかな?さっきライトが森を斬り飛ばしたのを遠くから見ていて、既に移動し始めていたとかもありそうだね。

 

「そんなことはどうでもいいでしょ。日没が近い。急いで戻るよ」

 

「了解。次元転移で飛ぶぞ」

 

そう言ってカリヤはゲートを開いた。そこに入ってしばらく歩き、出口のゲートを抜けると、なんか謎の黒い円と石碑があるところに出た。なにここ。

 

「あとはステラたちだな。クミリアはもう見つけてくれたみたいだし、位置を教えてもらったらすぐ回収しに行って来るわ」

 

魔力銃でカリヤは爆発を起こす。何回か鳴り響いていたそれは、やっぱり何かの合図だったんだね。

 

「カリヤ。多分もう確実に間に合うから気にしなくていいかもだけど、一応言っておくよ。日没を過ぎてもこの訓練は続く」

 

「え?でもこれには日没までにって書いてあるぞ?」

 

「それは目安。日没したらすぐに終わるわけじゃない。ただ、影に潜んで襲いかかって来る魔物が大量に襲いかかって来るようになるだけ」

 

「だけ、じゃねーよそれエグいな...十分間に合いそうでよかったなほんと」

 

と、その時北の方から爆発の音が響いてきた。

 

「ガルムらへんか...ちょうどいい場所だな。すぐ戻る」

 

そう言って、カリヤはゲートを通って行ってしまった。

 

「……これ、僕たちも着いて行った方がよかったんじゃ?」

 

「回収するだけだから大丈夫でしょ。カリヤもすぐ戻るって言ってたし」

 

「ステラたちがいるのってガルムなんでしょ?町にも魔物は普通にいるから、ちょっと心配...」

 

町にも魔物がいるの?...聖域じゃないってことなのかな。

 

「でも、今更着いて行くことなんてできないし、信じて待つことしか出来ないかな」

 

「だね、待とうか」

 

ライト、結構喋るようになったなぁ...と思いながら、カリヤたちを待つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、カリヤー!ちょっと助けてー!」

 

「さっきの爆発で魔物来た!」

 

「簡潔な状況説明ありがとよっ!」

 

高速移動しながら、ダガーで的確に魔物の首を刎ね飛ばしていく。が、切り掛かった全ての魔物を倒すことはできず、何体かには避けられてしまう。

 

……なるほど、こいつらが影に潜り込める魔物ってわけね。自分の影に潜られると中々に面倒そうだ。まぁ、今俺たちがいるところは建物の影で埋め尽くされてるからほぼ関係ないけど。

 

ただ、建物の影に入ってしまっているため、奴らは俺らの武器の中にも入ることができてしまう。だからダガーで攻撃しても避けられてしまうのだ。人体にかかってる影には潜れないっぽいから、武器を使うよりも素手で攻撃した方が良さそうだな。

 

「となるとステラとニアは一旦離脱だ!ステラ!ニアを抱えて空に逃げろ!影から離れるんだ!」

 

「う、うん!」

 

ニアを抱えて、ステラが空へと飛んでいく。二人は、影に潜り込む魔物に対して攻撃ができない。ステラの矢はもちろん他の武器と同じように潜られてしまう。ニアの鞭も同様だ。ニアは魔法を使えればちゃんと攻撃できるだろうけど、それをしないところを見るに魔力が少ないか、もう切れてるかしてるんだろう。いずれにせよ、もう戦えない。

 

「クミリア!蹴りじゃなくて殴れ!そのグローブも取るんだ!」

 

蹴りだと靴や服の影に潜られてしまう。クミリアにいつも付けているグローブを外すように指示して、素手で攻撃させる。

 

「殴れば勝てる!」

 

『雷装』

 

雷装を拳に集中させて、速度ではなく威力にバフをかける。そして速度操作の減速で魔物が影に入り込むのを出来る限り抑え、頭部を殴り抜く。

 

周囲にいる魔物もだいぶ少なくなってきた。このまま二人で殴り続けば、一分も経たずに終わるだろう。新手が来ていなければだが。

 

「こいつで...ラスト!」

 

確認できる中で最後の一体をクミリアが殴り飛ばす。これで終わり...だといいんだけど、どうだ?

 

「……新手無し。よし、さっさと移動すんぞ!」

 

9936、9937ページ 次元転移

 

ゲートを作り、空に退避していたステラたちを含めて中に入る。

 

ジュワァ...

 

「……まだ魔物が残ってて、一緒にゲートに入られるかもとは思ってたけどさ」

 

何か音がしたなと思って振り向くと、どうやらステラの影に隠れていた魔物が溶けていた。この次元転移の空間の中に、影はない。空間自体が発光してるみたいなんだよな。だから潜れる影がなくなり、光を浴びて消滅したのだ。

 

「こうなるって知ってたら、戦闘しないで即逃げてたんだけどなぁ...」

 

「そういえば、なぜ魔法で影を潰さなかったの?」

 

「なぜって、どうあがいても完全に影を潰すなんて無理だろ?靴と地面の設置面とか、どっかしらには影はできるわけだし、それなら普通に殴って倒した方が早い」

 

ニアの質問に答えながら、出口のゲートを通り抜ける。

 

「よし、全員合流っと」

 

「カリヤの力を借りてなおこの時間って、かなりギリギリだね。歴代勇者たちはどうやって時間内にたどり着いたんだろ?」

 

「日没には間に合わなかったんだろ。あの影に潜む魔物と戦いながら、なんとかここまで来たんだろうよ」

 

全員で黒い円の中に入る。

 

『六人の集合を確認。訓練終了』

 

「こっから何かと戦わされるとかなくてよかったぜ...」

 

あの広い空間はどこへやら。訓練終了を告げる声が聞こえたと思ったら、いつのまにか最初にいた横穴まで戻ってきた。

 

「……よし、帰るか」

 

次は第七十五階層。二十五階ごとに来る大ボス戦だ。

 

それに備えるため、今日は二階層しか攻略してないけど帰ることにする。しっかりと、英気を養わないとな...




レスト視点短っ...なんか回を重ねるごとにレストが不憫キャラになってる気がするけど、いつの間にこうなったんだ...?

ちなみに前回ライトがシレンの穴にたどり着いた時、カリヤはちょうどガルムまで行って次元転移のゲートを作りに行っていました。
だからカリヤと会わなかったんですよね...ニアが、多分ライトはもうシレンの穴に着いていると言わなかったら、ギリギリのところで日没に間に合わないといったことになっていたので、実はかなりの功労者だったり。
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